異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
過去編では、マックくんと優奈ちゃんの絡みが多いです。なおマックくんは無自覚の模様。
基本的には試合→試合後の2話で1つの話になるような構成です。
第1R前編 俺のパンチを初めて試合で見せた日
選手控室。ポツリと置かれた椅子に座っている俺以外、この部屋には誰もいない。息遣いだけが虚しく響くのみ。
中学生3年生になってから始めたボクシング。毎日死ぬ気になって鍛えた成果を、今日は試合で存分に発揮しなければならない。
殴り合うのは最大でも3分3ラウンド。プロボクシングと比べると非常に短い時間である。だが、その熱気はプロのそれとそこまで大差はないぐらい、強烈で勢いがある物だ。
俺もまた、強烈な熱気と熱意を持って練習している。ジムの先輩から「熱苦しい」と言われるぐらいには。
ここまで気合いが入ってるのは、何でだろうか。実は、俺自身も分かってない。
数ヶ月前、病院で出会った年下の女子の影響で、ボクシングを始めた事までは分かっている。だが、こんなにも気合いを入れてる理由をふと考えてみた時に、イマイチ分からないのだ。どうしてなのか。
試合前だと言うのに、俺はこうやって変な考え事をしている。集中力を高めなければならないのに。
こんな有り様なのは、試合会場に件の女の子“優奈”が来ているのを知ってしまったからだろうか。人のせいにするのは良くないけど。
「キッカケは間違いなく優奈。それとスマブラのリトマ。だけど、うーん。最初はちょっとやってみるかぐらいの気持ちだったはずなのに、今はこんなにもお熱。分からん……」
そうこうしてる内に、試合が始まる時間になってしまった。
セコンドであるジムのオーナーに連れられて、俺はリングに繋がる通路をポテポテ歩く。
「――い。おいマック!」
「ん、えあ。なんすか」
「……お前、緊張してるな?」
そう言われて、俺は自分の拳を何となく見る。
拳は、僅かに震えていた。
改めて自分の状態を客観視すると、確かに緊張している時の反応をしているのが分かる。拳は震えてるし、心臓も喧しいし、そして息苦しい。
そうか。俺、緊張するんだな。
これまで何となく生きてただけの人間だったから、試合とは無縁だったし。そりゃ、緊張もするか。
「まあ、こればかりは仕方ねえよな。初めての試合ってのは、誰だって緊張するもんだ」
「……そんな感じすか」
「そんな感じだ。ワシだって初めての試合は特に緊張したぜ? もう腹が痛いのなんの。試合が始まってしまえば、闘争心剥き出しだから関係ねえけどよ」
元プロボクサーのオーナーも緊張してたなら、俺が緊張するのもおかしくはないか。
「気休めになるか分からんがな。今回の相手は歴こそ長いが、決して勝てないボクサーではない。お前のパンチは、本当に初心者かと疑いたくなるぐらいに重たいからな。フットワークだって階級相応に軽いから、カウンターなり先出しなりでクリーンヒットさせりゃ勝機はある」
「ボクサー歴3ヶ月の俺でも、勝てるチャンスはあるのか」
「ボクシングはタイミングが命のスポーツだ。どんなに軽いパンチだろうと、タイミング1つ噛み合えば格下が格上をノックアウトできちまう。人間の弱点を克服なんざ、普通にやってればまず不可能だからな」
例えば脳。例えば肝臓。パンチが響けば、倒れないボクサーはいない。そうオーナーは言った。
少し、気持ちが楽になった気がする。緊張が完全に抜けた訳ではないが、ガチガチで動けないよりはマシぐらいにはなったと思う。
眼の前には、1枚の扉。扉を隔てても、歓声が聞こえてくるぐらい試合会場は盛り上がっているようだ。
「マック、覚悟は良いか?」
「……ああ。拳で語ってくるよ」
オーナーの目を真っ直ぐ見ると、彼はニヤリと大胆不敵な笑みを浮かべた。この人の笑顔は、どこか安心感があるな。
「良い心構えだ。お前のパンチを見せてやれ! きっと観客は、度肝を抜かれるだろうぜ!」
オーナーの言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
そのセリフ、完全にアレじゃないか。愛称と合わせて、もしや狙ってるのかい?
笑顔のまま試合会場への扉を開け放つ。途端に、歓声と熱気が俺の全身を焼いていく。
凄まじい圧だ。しかし、怯みはしない。胸を張り、俺はリングを真っ直ぐに見つめながら足を動かす。
先んじてリングに上がっていた対戦相手は、俺の事を見て嘲るような色の瞳に変化した。歴が短いからと侮っているのか、それとも身長か。
有象無象に違いはないので、対戦相手からの視線も無視。転がりながらリングに上がると、スウェットを脱ぎ捨ててヘッドギアを装着する。
『――続いて青コーナー。体重45kg。身長168cm。拳打外ジム所属。
〝不屈の闘魂〟
リトオォォォオル……マックウウウ!!』
リングアナウンサーが行う名前のコールに合わせてシャドーボクシングをすると、入場した時とは比にならないぐらいの大歓声が上がった。
そんな中で、耳に入った1つの声。
「ケン先輩ファイトでーす!」
確かに俺は、聞き取った。空耳じゃないと信じている。
レフェリーを間に挟み、俺は対戦相手と改めて向かい合う。近くで見ると、向こうの方がタッパはかなり上だ。ちょっと見上げないといけない。同じ中学生なのに、こんな大きいのズルいなァ。
ルールの説明が終わり、1度ニュートラルコーナーへと戻された俺は、軽くステップをしながらゴングを待つ。
「マック、そのままで良いから聞けよ。身長差は気にするな。お前のスタイルを貫け。最初のラウンドはリーチ差から打ち込まれるかもしれんが、そこまで気負う事はないぞ」
背後からオーナーのアドバイスが入る。開始前にこれはありがたい。
「最悪ダウンしても立てれば構わん。勝負は2ラウンド目からだ。とにかくこのラウンドは、手の内を暴いてかつ癖を見抜け!」
合点承知。やってやらァ。
レフェリーがリング中央に立って両腕を上げる。俺はグローブの紐を口で締め直し、グルリと腕を回して構えた。
カンッ!
「ボックス!」
コールと共に前へ出る。相手はヒットマンスタイルらしく、こちらに進んで近寄ろうとはしない。
数秒間、リング中央付近でクルクル周りながら様子見。その均衡を破ったのは対戦相手の方だ。
牽制とスタミナ削りを兼ね備えたフリッカージャブの連打が飛来する。上と下、バランス良く打ち分けて来るので厄介だ。何とか捌けてはいるが、中々近づけるビジョンが見えない。
相手の距離で動けなくなるのはよろしくない状況である。このままフリッカージャブだけで封殺されるのは真っ平御免だ。
タイミングを見計らい、俺は顔へのジャブが来た瞬間に前へ出る。スリッピングが甘くなったので右頬に小さくない衝撃が来るが、構う事はない。突っ込め!
「叩け、マック!」
打たれてばかりのサンドバッグになってたまるか。
対戦相手の右拳が打ち下ろしをするべく振り上がるが、それよりも速く俺の左ジャブが相手の顔……をギリギリでガードした左腕に命中した。
ガードにも構わず2発目の右ストレートを打ち、左腕は飛んできた打ち下ろしをブロック。直撃を何とか防ぐ。
だが、俺の右ストレートをガードした左腕がそのまま伸びてジャブへと派生。咄嗟に頭を下げて顎を隠した事で、拳は俺の額に命中した。
鈍い痛みが脳まで伝わる。が、これなら軽傷だろう。身体への影響は見られない。
再度嵐のように飛来するフリッカージャブをガードしつつ、またアウトレンジへと戻された俺は動きながら思考を巡らせる。
俺のワン・ツーパンチをガードした左腕がやや痛むのか、フリッカージャブのスピードが僅かに落ちたように感じる。
暴いた手の内はフリッカージャブと右の打ち下ろし。仮に懐へ入られてもしっかりカウンターは打てる。反撃に移るまでのスピードも遅くない。
現時点でも優秀なアウトレンジタイプのボクサーであると判断できる。歴の長さがしっかり強さに繋がっているようだ。
引き出しがこれだけとは思わない方が良いだろう。フリッカーと打ち下ろしだけでも十分厄介だし、対応できなければこの2つで封殺されかねないが、それを攻略された際に出す奥の手の存在を忘れてはならない。
何度もフリッカーを潜り抜けては離脱する事で、アウトレンジに貼り付けておく事は無理だぞとアピールしながら様子を伺う。時折パーリングを挟む事で、そのパンチは見えてるぞと意識付けるのも忘れずに。
何度目かの攻防で、俺はまたインファイトを仕掛けるべくフリッカーをダッキングで潜り抜けると、離脱せず前へ大きく踏み出した。
迎え撃つように飛来する右の打ち下ろし。ここまでは分かっている。小さくスウェーして回避と同時にスタミナ削り目的の左ジャブを2発叩き込む。変に肩が力んでおり、そこまでダメージを与えられた様子はないが、当てられないよりはマシだ。
何とか引き剥がそうとして、対戦相手は左のアッパーを起点に様々なパンチを繰り出してくるが、一部被弾しつつも致命傷には至らないよう必死にダメージコントロールする事で距離を離させない。
最悪の最悪、意識外からの攻撃や威力の高いアッパー&フックが直撃しなければ耐えられる。
「チッ、離れろよぉ!」
お断りだクソッタレ。
フリッカーの距離にさせない事で、どうにか喰らいつけている。貰っているパンチの数は間違いなく俺の方が多いが、相手もやり難そうだ。
パンチの重さならこちらの方が遥かに上らしく、緊張と変な気持ちの昂ぶりで力んでしまい、上手くインパクトを伝えられないパンチであっても、どうにか相手に少なくないダメージを通せているらしい。状況こそ押され気味だが、ダメージ量的に見ればイーブンである。
その現状が実に気に食わないようで、対戦相手の顔には苛立ちが顕著に出ていた。
拳を受けても怯まず前に出続ける。スマブラのマックだってそうだ。多少の攻撃で怯みはしないだろ。それと同じだ。俺もやれる。やってやる!
苦し紛れにスウェーしながら繰り出されたフリッカージャブを皮1枚で躱して懐へ入る。右の打ち下ろしはこちらに到達するよりも速く殴って攻撃をキャンセル。左のアッパーはガードを破られないように必死ではあるが、腕で何とか受け流す。アッパーをガードすれば、やや腕が上がってしまうので次に来るのはボディへのストレート。
「いっ……てえなクソ!」
「何っ!?」
腹筋を固めながら前に出て、腕が伸び切る前にストレートを受けて威力を落として受け止めた。
自分の腹筋を犠牲にした事で、どうにか相手に隙が生まれた。無理にでもその隙を刈り取る!
手持ちの攻撃技では最速発生となる左ジャブ。まともに顔へ入った。
連撃として繰り出した右ショートフック。クリーンヒットではないが、拳半分ぐらいは頬に命中している。
3発目の左ショートアッパー。リトルマックの弱3段と全く同じ連携の締め技である。アッパーの出が遅い事もあって、ギリギリのところで防がれてしまったが、ガードとして上がった腕を思いっきり殴ってやり少しでも動きが鈍る事を祈りながら拳を振り抜く。
アッパーの衝撃でやや離れた距離を潰すため、一気に俺は前へと出る。対戦相手の立ち位置はは相当に下がっていたようで、既にコーナーが近い。このままコーナーを背負わせて、ガードを破るぐらいラッシュを仕掛ければ、何とかダウンを取れる可能性はあるだろう。
やや勝負を急ぎすぎてる感じはあるが、戦いが長引けば歴の長い対戦相手側に有利が傾くと思っている俺は、前へ前へと足を動かし続ける。視線は無論、相手から切らぬまま。
……それが、結果的には良くなかった。
「ぐっ!?」
不意に、本来なら感じるはずがない足元から、鋭い痛みが走ったのだ。
思わず目線を下げると、俺の足の上に対戦相手の足が乗っているのが見えた。
……乗ってるなんて生易しいもんじゃない。これは、明らかに足の甲を踏み抜いている。
一瞬だが、相手から目線を切ったのが良くなかった。完全に意識の外から、左のフリッカージャブと右の打ち下ろしのコンビネーションをモロに食らってしまったのだ。
たった2発。されど軽くない2発。そこから追撃の強烈なロングアッパーも受けてしまい、激しく脳が揺らされた俺は、ロープ際まで蹌踉めいてから倒れ込んでしまった。
「――ッ! ツ――! スリ――!」
遠くから、レフェリーがカウントを数えているのが途切れ途切れに聞こえる。
思っている以上に効いているようで、ロープを掴んだまでは良いが視界がグラグラして気持ち悪い。
立て。立つんだ。早く立て。10カウントは自分が思っているより以上に、あっという間に過ぎてしまう。ここで立てなきゃ終わりだ。
そうやって自分を急かしても、辛うじて片膝立ちまで辿り着けたぐらいで。立つには程遠い。
オーナーも、ジムで一緒に練習している仲間も、喉を枯らさんばかりの大声で俺を鼓舞しようとしてくれている。だが、それでも完全には立てない。何とか両足で地面を踏みしめる事はできたが、生まれたての子鹿のように震えていて、ロープから手を離せないでいる。
無理にでも身体を起こし、ロープを脇で挟みながら相手の方を向こうとしたが、そこで視界が一気にグラリと揺れた。
ここまで、なのか。
フラリと1歩前に出る。今にも膝の力が抜けてしまいそうだ。
このまま眠るように倒れてしまえば、どんなに楽だろうか。
負けたくは、ない。
でも。とても、眠くて仕方が――。
「ケン先輩っ!」
――ないって、言うのは簡単だけど。
寝て、られるか。
こんなところで寝てられるか。
負けたくない。絶対に、負けたくない。勝ちたい。
膝へ思いっきり力を入れてやる。すると、身体が一気に起き上がった。
「ファイティングポーズを!」
レフェリーの声で、急速に意識が覚醒していく。
腕を顔付近までグイッと上げる。レフェリーは俺の目を少しの間見つめていたが、すぐにリング中央に戻ると、両腕を高く上げた。
「ボックス!」
試合続行だ。
まさか立つとは思ってなかったのか、対戦相手の顔は面白いぐらいに歪んでいる。
反則行為で集中を切った上で、クリーンヒットを3発叩き込んだのだから、これは立てないと思うのも無理はないだろう。
だが、俺は立った。
「さっさと寝てろやぁ!」
ダウンを取った勢いで試合を決めるべく、対戦相手がフリッカージャブを連発する。
そのフリッカージャブは、ここまでの短時間でも何度見せられたか分からない。故に、リズムを読む事はできる。身体の動きが鈍かろうと、リズムを読めれば急所への直撃は避けられるのだ。
手負いの俺を仕留められない現状にイライラしてるらしく、フリッカージャブが少しずつ単調になっていく。
ダウンから復帰した直後でも、チャンスを見逃すつもりはない。
顔を狙ったフリッカージャブを左肩で受け流すと、俺は大きく前に踏み込む。すぐさま次のフリッカーが飛来するが、それを俺はスマッシュストレートで拳を殴る事で弾き飛ばした。
それによってバランスを大きく崩したのを確認すると、インファイトの距離まで入り込んで続けざまにワン・ツー。右腕でのガードは間に合わず、対戦相手の顔に直撃した。
咄嗟にヒットするポイントをズラしたらしく、意識を刈り取るまでには至らなかったが、対戦相手の鼻から血が流れ出るのが見えた。このままダウンを取り切るつもりで、また前に出ようとする。
……が、ここでゴングが鳴り響いた。第1ラウンドが終了したようだ。
すぐにニュートラルコーナーに戻り、用意された椅子に俺は腰を下ろす。
椅子に座るとオーナーがロープを乗り越えてリングに入ってきて、汗を拭き取りながら俺の肩を軽く叩いて褒め称えてくれた。
「良くやったぞマック。ナイスガッツだ! ほれ、ゆっくり水を飲んで体力を回復させろ」
水をゆっくり、少しずつ染み渡らせるようにして飲む。喉を冷たい液体が通過していく度に、体力のゲージが回復していく。そんな感じがした。
「……オーナー。相手の様子、どう?」
「大した鼻血じゃねえみたいだから、このまま続行だろうな。だが、お前がダウンしたダメージと鼻血とでトントンだろうよ。メンタルダメージだけなら向こうの方が上だと思うぜ」
「そっか。じゃあ、このまま心を折りに行こうかな」
故意に反則行為に踏み切るようなボクサーだし、格下は徹底して見下すみたいだし。メンタルへし折って、再起不能にしてやるぐらいの気概で拳を打ち込んでやる。
ラウンド間のレストは1分。長いようであっという間であり、セコンドアウトのコールが入った。
「気合いは十分みたいだな。パンチは見切ったのか?」
「ある程度。次のラウンドで決めてくるよ」
「おっしゃ、その調子で闘志を燃やしていけ! ぶちかましてこい!」
最後に俺の背中を叩き、オーナーはリングから出ていった。
ゆっくり立ち上がり、自分の状態を客観視する。
ダウンした影響はそこまで残ってない。膝に力は入るし、腕もしっかり上がる。拳もキツく握れるから、パンチを繰り出すのは問題なさそうだ。フットワークはやや重たくなっている感じが否めないが、腰を据えて打ち合う事を前提に作戦を組み立てれば良いだけである。
シャドーボクシングもしてみて戦えるかどうかを改めて確認すると、俺は対戦相手を正眼に捉える。
相手は鼻血こそ止まっているが、ダメージの方は完全に抜けてないように見える。ほんの僅かだが、膝が震えているのが分かった。
判定的にはダウンを奪った相手の方が優勢だろう。しかし、内情はほぼ互角と見て良さそうだ。
2ランド目開始を告げるゴングがカンッ! と鳴り響く。
ゴングとほぼ同時に、俺は重い足を無理やり動かして一気に距離を詰めた。
フリッカーの射程圏内に入った瞬間、ジャブの嵐が襲ってくる。
「怯むなマック! ぶちかませぇ!」
そうだ、怯むな。単発交換に引き摺り込め!
前へ踏み込んで肩でフリッカーを受け止めると同時に、リトルマックと全く同じフォームのスマッシュボディフックをブチ込む。
攻撃されたと同時のカウンターなので、相手も防ぐ事はできない。モロに肝臓付近へ拳が突き刺さった。
肝臓への攻撃。リバーブロー。カウンターヒットの際は受け手側が時が止まったと錯覚するぐらいに、強烈無比なダメージを引き起こす。
動きが止まり、顔が下がった相手に今度は左で同じパンチを繰り出した。今度はボディではなく、相手の右頬を抉るように命中。そのまま蹈鞴を踏んでコーナー側へと後退していく。
相手が後退した分だけ俺も距離を詰め続ける。絶対に逃さない。
なけなしのガードとして上がった相手の右腕に、左でのダブルジャブと右の横スマ下シフトを立て続けに叩き込んで粉砕。シールドブレイクさせると、ワン・ツーパンチでコーナーへと完全に追い込んだ。
もはや無駄な足掻きとも言いたくなるお粗末な左ストレートやアッパーを、俺は肩や肘で強引に耐えながら何度も何度もスマッシュボディフックを叩き込んでいく。
フックを入れる度、相手の肋骨が軋み悲鳴を上げる。もしかしたら折れてしまってるかもしれない。だが、レフェリーに割って入られるか、あるいは相手が倒れるかしない限りは打ち込むつもりの俺が止まる事はない。
フラフラ距離を詰め、クリンチでこの場を脱しようとする相手にリバーブローを打ち込んで動きを止め、ワン・ツーパンチでコーナーへ文字通り叩きつける。
そこまでやっても心は折れてないようだ。どうにかしてコーナーから脱出するべく、対戦相手が繰り出したのは左フック。命中と同時に立ち位置を入れ替える事も可能……と、オーナーから話だけは聞かされている。
当たれば相手にも勝機はあるかもしれない。しかし、スピードが乗ってないフックなど、どうぞカウンターをしてくださいと自らお願いしに来ているような物だ。
スマッシュボディフックよりも更に深く大きく前へ踏み込む事で左フックを回避。右拳を固めに固め、魂を籠めて地から天へと一気に振り上げる!
「ウオラァ!」
奇しくもそのフォームは、リトルマックのK.O.アッパーカットと酷似していた。
左フックを繰り出した事で、ボディがガラ空きとなっていた対戦相手。既にボディフックを受けまくってボロボロだったところに、全身全霊のボディアッパーが炸裂してしまったのでさあ大変。
リバー付近に拳が突き刺さった瞬間、対戦相手はガクリと膝を折って口を抑えた。
「ス、ストーーップ!」
レフェリーが駆けつけて、対戦相手の身体を片手で支える。すぐさま空いている手を天に掲げ、何度も横に振った。
次いで訪れたのは大歓声……と、それに掻き消されそうになってるゴングの音。
勝った、のか?
実感が湧かず、呆然と立ち尽くしていると、後ろから衝撃が。
振り向くと、満面の笑みを浮かべたオーナーがいた。
俺が何か言う前に、オーナーは俺の身体をヒョイと持ち上げて肩に乗っける。
「うおっ、いきなり何だ!?」
「ガハハ、細かい事は気にするな! それよりも勝者は勝者らしく、堂々と天高く拳を上げとけ!」
「勝者……俺が、勝者」
「そうだ、お前が勝者だ! 帰ったらチョコバー祭りと行こうぜ!」
オーナーに言われて、少しずつ俺の胸の奥から込み上がる物が出てきた。
ジワジワとそれは、俺の胸から広がって。全身に強烈な熱を運んでくる。
勝った。勝ったんだ、俺が。
両拳を天に向け、思いっきり振り上げる。すると、元から大きかった歓声が更に大きくなった。
鼓膜が破れそうだ。しかし、心地良さも感じる。
そんな中で俺は、1人の少女の姿を見つけた。
車椅子に乗って拍手をしている優奈だ。
「……勝ったぞ、優奈ァ!」
気がつけば俺は、叫びながら拳を彼女の方へ向けていた。
彼女もまた、拳をこちらに向けていた……気がする。
左フリッカージャブがホットリング。右の打ち下ろしはドラゴン。アッパーはメガボルト……のイメージ。初陣からリーチ差があって、レフェリーが見えないところで平然と反則行為もしてくる相手と戦うマックくんの運のなさ。なお、最後は担架で退場した模様。
ちなみに本編で「押しに押されて……」とマックくんが述懐してますが、「今と比べて貰ったパンチが明らかに多すぎる」と判断してるだけ。反則行為に対してレイジ状態になったのも彼としてはマイナスポイント。
界隈的には「パンチ力高すぎだろ!」とか「相打ち上等でゴリ押しするの怖すぎぃ!」って感じ。ついでにボクシングの世界に「単発交換」の概念を運んできた。
ジムのオーナーは小太りの黒人で年齢的におっさん。日本語はペラペラ。チョコバー好き。名セコンド。
オーナーが見抜いてた初心者時代のマックくんの強みは、軽量級にしては超絶ハードパンチャーって事ぐらい。フットワークは軽量級相応の軽さってぐらいで、特筆すべき点ではないです。練習の様子から根性があるとは思ってたけど、ここまで狂気的とまでは見抜けなかった。
魔法がないのでボクサーとしてのリトルマック要素だらけ。待機モーションから横アピールなんかもしてる。
アーマー耐え横スマ下シフト→シルブレからワン・ツーでコーナーへ→アーマー横スマ下シフト×4→クリンチをその場回避してリバーブロー→ワン・ツーでコーナーに叩きつける→左フックを姿勢避けして繰り出したK.O.アッパーが肝臓付近に炸裂→尊厳グッバイ!
こっわ。マックくんこっわ! 確実に殺りに行ってる!
次回の過去編は試合後のお話です。