異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
本編時空より2年近く前の本章ですが、時期的にはスマブラSPが発売されて2年ちょっと経った頃のお話です。DLCがボチボチ揃ってきたな〜ってぐらいの時期。
優奈ちゃんが活躍してたのは、本章より更に2年ぐらい前。年齢的には小学5年生ぐらいですね。スマFor末期でベヨクラロゼチコが全盛期。そんな時代にマック単騎でオフ大会を優勝したスーパー美幼女として、界隈ではかなりの有名人。
本編中では既に全てのキャラが揃い、キャラ調整も終了しています。
試合の翌日。中学のつまらない授業を右から左へと聞き流して何とか乗り切った俺は、1度家に戻ってリュックから教科書を放り出し、代わりにゲーム機を入れてから優奈が入院している病院へと向かった。
面会可能な時間は、下校後からだと大体1時間半ぐらいだ。ちなみに本来の面会終了時刻はもっと早く、1時間ぐらいで終わりだ帰れコノヤローと言われるのだが、優奈が病院側に頼み込んで少しだけ延長してもらった背景があったりする。
「前まであんなワガママ言わなかったから、本当にビックリしたよ」と優奈を担当している主治医さんやナースさんたちが口を揃えて言ってた。ちょっと意外と感じている俺だが、おそらく彼女本人しか知らない理由があるのだろう。
電車を何本か乗り継ぎいだ先の駅から徒歩15分。家からだと1時間ぐらいの距離の病院に辿り着いた俺は、顔を見られた瞬間「面会ね」と言われ、ほとんど待たされる事なく部屋へと案内された。ほぼ顔パスである。
と言うのもこの病院、俺も過去に心臓病の手術のために入院していたのである。その時に優奈とは知り合い、病院の関係者さんと関わる機会も多くあったので、今では顔を見られるだけで要件を察せられるぐらいの仲だ。
特に優奈を担当している主治医さん。入院当時は俺の事も担当しており、優奈も交えて色々と他愛のない話をしたのは、今となっては少し懐かしい思い出である。
「おお、マックくんじゃないか!」
「あ、先生。ご無沙汰してます」
と、ボンヤリ主治医さんの事を考えてたら、優奈の病室の前でバッタリ出くわした。
「昨日の試合、優奈ちゃんの付き添いで見に行ったよ! いやあ、本当に凄かった! 倒された時は流石にヒヤヒヤしたけどねぇ」
「あ、先生が付き添いだったんですね。すみませんねぇ、変に心臓が飛び出そうな試合して。もしかして寿命縮めちゃいましたか?」
「ハハ、老い先短い爺さん先生だから、その点は心配しなくて大丈夫さ!」
「いや老い先短いってまだ30代でしたよね? 歳上の先生方にも同じように言ってみてくださいよ。多分ぶん殴られますから」
「心配無用! もう経験済みさ!」
「おおい!?」
実にユーモアのある面白い先生なのだが、このように少し変わった人である。歳上のナースさんにぶっ叩かれてるとこを見た事あるぐらいだ。
人間的に決して悪い部類の御方ではないし、何より非常に腕が立つお医者様なので、病院の関係者から嫌われてはない。信頼も厚く、患者さんからは好意的な声がとても多い、らしい。優奈が言ってた。
「っと、引き留めてごめんね。愛しの優奈姫が待ってるぞ!」
「……? まあ、待たせるのは悪いので行きますね」
意味が分からなくて少し硬直したが、すぐに気を取り直して俺は病室の戸をノックした。
すぐに病室から「どうぞ〜」と声があったので、扉が音を立てないように開けて中へ入ると、ベッドに座っている優奈が出迎えてくれた。
「あ、ケン先輩!」
「よっ。遊びに来たぞ」
ヒラヒラ手を振りながら戸を閉め、手を洗ってから優奈の隣に腰を下ろす。
腕が当たりそうなぐらいの距離まで近寄ってきた優奈を特に気にする事なく、俺はリュックから3DSを取り出した。この距離感が普通なのだ。
ちなみに心臓病を患ってた時は、ほんの少し立って動くだけで息が切れてしまったので、自分のベッドから優奈のベッドへ移動して腰を下ろすともう動けないぐらいだった。しかし離れてると、3DS同士の通信が不安定になる。そう優奈が言って距離をグイグイと詰めてきてたので、今となっては慣れっ子である。
「先輩先輩。昨日の試合、結構ヒヤヒヤだったねぇ」
「おい、早速それ言うのか」
「だって、明らかに1ラウンド目は動きカチコチだったしさ。観客席から見てても分かるぐらいだったから、セコンドの人なんか心臓壊れそうになってたんじゃない?」
「……全く否定できねえわァ」
実に緩い空気で会話が始まったので、俺もまた勝手にゆるっとした口調で言葉を口にする。
年齢上は俺が先輩の立場であるが、敬語でなくても全く気にしていない。てか、2つ上ってだけで天上人みたく扱うのってどうなのよ。俺は嫌だね。扱うのも、扱われるのも。
これが俺と優奈の距離感だ。他の誰にも口を出させやしない。
「でも、ダウンから復帰してからは見違えるぐらい良くなったよね! それこそストックビハインドのマックみたいに!」
「ストックビハインドのリトマっておい。 ……でも、とにかく負けたくなかったからな。初戦だし、何より優奈が見ていたし。必死だった」
「へえ〜、私が見てたから負けたくなかったんだ?」
「まあね」
マジで負けたくない。負ける姿を見せたくない。負けるなら死んだ方がマシ。何でかイマイチ分からないけど。
15年近く生きてきたが、ここまで勝ちにこだわるのは初めてだ。
「にしても、あのダウンからの復帰は優奈の声がトリガーだったな」
優奈と話している内に、あの試合の様子が鮮明に脳内に浮かんでは消えていくのだが。ふとダウンから復帰した時の感覚を思い出したので、思った事をそのまま口にした。
「っ! へ、へえ〜……私の声で? そんな叫んでた記憶はないけど」
「セコンドの声も聞こえてたはずなんだけどね。何でだろう、優奈の声がすっごく鮮明に聞こえて、そしたらいきなり意識がハッキリしてさ。身体にも力が入るようになって、何とか立てたんだよ」
相手からしたら理不尽この上ない。ほぼ会心ってレベルのクリーンヒットによって大ダメージを受けたと思ったら、声援でダメージを回復しつつ復活とかクソゲーにも程がある。
そこからの戦い方も、とてもボクサーらしいとは言えないだろう。スマブラのリトルマックらしいと言えばそこまでだが。
「まあ、その後はゴリ押しだな。アーマー耐えしながら単発交換で有利に立つリトルマックを意識はした」
「ダウン復帰直後の攻防なんか、特にゴリ押しだったように見えたよ。パーリングでスマッシュストレート使ったでしょ? で、そこからワン・ツーの入れ込み。見覚えのある動きすぎて軽く笑いそうになったよ」
「あ、しっかりバレてるなこれ」
「何年リトマ使いを名乗ってると思ってるのさ。フォームを見れば一瞬で分かるよ、私なら」
スマForが発売された直後からリトマ使いだった優奈からすれば、類似した動きを見てピンと来るのも当然の事か。
第2ラウンドなんかは、完全にリトルマックの動きだったしな。何だよ連続のスマッシュボディフックて。Forブラもだが、SPになっても定期的に発生するスマブッパモンスターかってんだ。
「でも、あそこまで綺麗に追い詰められる物なんだなって思った。第2ラウンドは息をするのも忘れるぐらいにケン先輩が圧倒してて、最後のアッパーの瞬間まで痺れるぐらいにカッコ良かったよ?」
「……そうか。そうやって真正面から言われると、少し気恥ずかしいけど。でも、凄く嬉しい」
軽く頬を掻きながら笑みを浮かべると、優奈がジッと俺の顔を見て息を詰まらせた。
いきなりどうした?
「……ケン先輩。その顔、絶対他所ではしないでくださいね」
「? 笑顔の何が駄目なんだ?」
「笑顔って言うか、優しい表情って言うか……うーんと、上手く説明できないけど……微笑みの破壊力が……」
「なんて?」
「っ、何でも! それよりスマブラやりましょ!」
途中からウニャウニャと聞こえない声量で言葉を口にしたので、思わず聞き返してしまったのだが、綺麗に追求を躱されてしまった。
無理に聞き出すのもアレなので、大人しく3DSを開いてスマブラを起動させる。
さて、今日はまずストックをどれぐらい削れるのかな?
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優奈side
面会が可能な時間ギリギリまでスマブラで遊んでたケン先輩は、呆れた顔した看護師さんが「終わりだよ〜」と部屋に入ってきたらすぐに帰ってしまった。
もう少しだけ一緒に過ごしたかった。でも、無理を言って30分面会時間を延長してもらってる私が口を挟む余裕はない。これ以上は流石にワガママの度が過ぎるだろう。
「明日も放課後に来るわ」と言って病室から出てしまったケン先輩を見送って、少して入れ替わるようにやって来るのはどうしようもない寂しさと虚無感。
ケン先輩と会うのは、入院生活中の私にとって唯一と言って良いぐらいの楽しみだ。しかし、同時に彼が去った後の病室の空気が、私は途轍もなく嫌いである。
「はああ……好きになるってこんなにも苦しいのかぁ」
私は、ケン先輩の事が好きだ。スマブラ仲間としてではなく、1人の異性として。
齢13にして、いっちょ前に恋をしているのが私である。まさか、ここまで続く恋心だとは思ってなかったが。
恋したキッカケは、ほんの些細な事だった。同室の頃、まずスマブラ友達として親交を深めていたつもりだった私は、ケン先輩が不意に見せた微笑みに落とされたのである。
スマブラオタクの私に対して忌避感ゼロで話してくれたり、わざわざ私のメインキャラの動かし方を教えてくれと言ってくれたりと、好きになる下地はバッチリ出来上がってたのだが。その下地が意味を無くしそうになるぐらいに、随分と呆気なくコロリと落とされてしまった。
感覚としては、「あ、しゅきぃ……」より「見つけた」の方が正しいのだけど。
結局はケン先輩好き好き人間になってしまったので、落とされた瞬間の感覚なんざぶっちゃけどーでも良いって? 分かってるけど言うなそれを。
ボクサーを目指すと言ってくれた時なんて、嬉しすぎて脆弱な心臓が爆発するかと思ったわ。的確に私を惚れさせるルートだけ選ぶのやめてくれ早死するから(大歓喜)。
昨日の試合だって、カッコ良すぎて目が全く離せなかった。入場の時点で、私のテンションは既に最高潮だったぐらいに。リングネームと二つ名が秀逸すぎるし、何より私が1番好きなキャラクターと同じ物だ。これがその辺のモブだったら憤死するが、不屈の闘魂を胸にリングへ上がるのは他でもないケン先輩である。良いぞもっとやれ。
試合内容も、ダウンこそヒヤリとしたが。その後圧倒的なパフォーマンスにすっかり魅せられて、試合が終わるまで彼がダウンした事を忘れてた。
試合内容の振り返りだけでも、こんなにケン先輩に対して好感情を向けてたって言うのに。あの人ときたら。
「私の声で、か。フ、フフ……」
これで恋愛経験はゼロだと言うのだから驚きだ。
彼の取る挙動1つ1つが、全て私にクリティカルヒットしている。ここまで連続で会心の一撃を引き続けられるケン先輩凄すぎる。
……だからこそ、だ。今も弱々しく鼓動を続けている私の心臓が、どうしようもなく恨めしい。
何度も何度も、呆れ果てられるぐらい考えた。妄想した。この脆弱な心臓が、今よりほんの少しでも強かったらと。
この病院に務める人たちは、誰もが心優しく温かい。まだ若くして重たい心臓病を患った私を、何とかして救おうと頑張ってくれている。
だが、自分の事は自分が1番分かっている物だ。爆弾抱えてる状態なら尚更だろう。
もう年は越せない。力強い緑が紅く染まり、そして色を失って散ってしまえば。私はもう、座る事すらもままならない。
予感ではなく、これは確信だ。
「好きにならなければ、どんなに楽だったかな……」
運命の人だ。そう思った人を、私は恋する資格すらない。
想いは成就するだろう。伝えれば、必ず。その資格さえあれば、とっくのとうに私は告白していたさ。
「ケン先輩……私、貴方が好き。大好きです」
こうやって、虚空に向かって口にする事しか許されてない私だから、これ以上関係が変わる事もないだろう。
せめて、この胸に秘めた想いを定期的に虚空へ発散して、先輩の前でボロが出ないようにしないと。
この後マックくんは練習に行きました。本日も快音鳴りっぱなしのサンドバッグに戦慄するジムの同期と、上機嫌で動き続けるマックくんの差が酷い。
マックくん→クソボケクソ強ボクサー。優奈ちゃんを特別視はしてるが、残念な事に恋心までは自覚してない。
優奈ちゃん→マックくん大好き。超好き。運命の人だとすら思った。でも残された寿命が短いから、マックくんを縛らないためにも気持ちが溢れないようにしてる。だのにマックくん、無自覚にトンデモ爆弾をポンポン落としやがるので色々と大変。よくウニャる。
優奈ちゃんこれでもマックくんより歳下ってマ?