異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 執筆してるこちらがキャラに感情移入しすぎて軽く心が潰れそうになってます()

 オリキャラって我が子のように可愛いんですけど、リアルな感情を描こうとすればするほどそのキャラの立場になって考えて、その結果深く感情移入してしまうんですよね。難しいところさんです。


第5R後編 〝約束〟

 病院と児童養護施設への襲撃から、また少し月日が流れた。

 

 かなりニュースで取り上げられていた事もあり、学校内でもしばらくの間はホットな話題として取り扱われていたが、今は随分と鎮火してきている。

 

 自分と関係のないニュースなんて物は、そう長い期間記憶に残る事はない。そんなもんだろう。俺たちの学年は、受験が間近に控えているから尚更だ。

 

 俺としても、長い期間噂されるのはあまり良い気がしない。こっちとしては、良い思い出が皆無に近いからだ。正直、一部を除けば思い出したくもない。

 

 その一部と言うのが、まずは師範代に関する事である。

 

 彼は、俺が警察の事情聴取を終えた頃には、病院から姿を消していた。シレッとやりやがったなと思い、その瞬間は軽く怒りを覚えたが、師範代を担当していたと言う院長先生から手紙を受け取った事で、すぐに俺の怒りは収まった。

 

 手紙には、師範代の身に何が起こってあの病院にいたのかと、今後会う機会は絶対にないという事、その理由が記載されていた。そして最後に、免許皆伝とも。

 

 会う事がない、できない理由についても、かなり丁寧に書かれていた。

 

 師範代と俺とでは、住んでいる世界が異なる。俺はアングラな世界に片足突っ込んだぐらいで済んでいるが、師範代はそうではない。両足どころか、頭頂部からつま先まで浸かっているレベルだ。

 

「貴様は表の世界で生きろ。日の目を見る場所で、存分にその強大な力を振るうと良い。儂は、裏の世界から貴様の成長を見守っていよう」

 

 要約すればこんな感じである。実際はもっと厳しく難解な言葉で書かれていたが。

 

 金輪際会う事はないと師範代から宣言されて、精神的にへこんだのは事実だ。まだまだ話したい事や聞きたかった事が沢山ある。だが、免許皆伝の文字を見た瞬間に全て吹き飛んだ。

 

 師範代は、人の事を褒めるような性格ではない。何か良い点があったとしても、それに関して言及する事は全くなく、また別の問題点を指摘するような性格をしている。俺の記憶の限りだと、褒められた事は1度もない。指摘されなくなったら習得した証拠だと思い込む事で、何とか心を折る事なく努力を続けられた記憶はあるのが……。

 

 とまあ、こんな感じで実にお厳しい御方である師範代なのだが。そんな人に免許皆伝と告げられて、嬉しくない訳がない。

 

 ヒッソリと見守ってくれる事も公言してくれているので、俺は師範代唯一の弟子の名を汚さぬようこれからも精進するのみである。

 

 次に、紅蓮の格闘家から聞かされた勇気あるありふれた学生についてだ。

 

 彼がいなければ、逃げ遅れた子たちが間違いなく殺されていたと聞かされているので、礼を言いたくて素性を調べたのだが。何と、夏祭りの時に不良たちの前へ出て美しい土下座を披露した人であった。

 

 名は南雲ハジメ。自宅は施設からそこまで遠くない場所にあったので、いつか必ず高い菓子折りを手に訪問するつもりである。

 

……ただ、最速でも1ヶ月以上先の話になるだろう。その理由は、優奈の様態の悪化にある。

 

 あの襲撃事件後から、何だかんだでもう12月半ばだが、優奈の体調は悪化の一途を辿っている。紅葉が完全に色を失って落ち葉となった頃には、自力で起き上がる事も困難となっていた。

 

 放課後になったら毎日のように病室に足を運び、優奈と一緒に過ごす日々を送っているからこそ分かる。もう、彼女の命は長くない。

 

 主治医の先生が言うには、いよいよ最期の時が近くなってきたからだとの事だが、あの事件が負担となって、その時を早めてしまったのではと気が気でない。

 

 無論、そんな事はないと主治医の先生は言っているので、ただ俺が気にしすぎているだけなのだが。しかし、それでも俺のせいかもしれないと考えてしまうのは、相変わらずの自己評価の低さである。いや、この場合は逆に自意識過剰と言うべきなのか?

 

 無闇に自分を貶める考えをする悪癖は、早いところ直さなければである。優奈が、凄く悲しそうな顔をするので。

 

 閑話休題。俺は現在、例によって例のごとく優奈の病室に足を運んでいる。

 

「よっす、優奈。今日は少し眠そうだな」

「うん……瞼が、重い」

 

 声の覇気もかなり弱々しくなった。日に日に衰弱しており、俺が来てもずっと眠っている事もザラにある。

 

 俺が病室にいる間は、なるべく起きようと頑張ってくれているが、それもあまり長続きはしない。1時間半から2時間もすると、気を失ったかのように眠ってしまう。

 

 そのため、俺も彼女の負担を減らすために、会話の数を減らして一緒にいる時間を楽しむようにしている。話すにしても、俺が読心する事で口数を増やさせない。

 

 ちなみに、頭を撫でてやると穏やかな寝顔を見せてくれるのは相変わらずである。優奈としては、頭を撫でられると眠気が促進されてしまうので、起きている間は少し控えて欲しいと言っていたが。

 

「12月も半ばになって、結構冷え込むようになってきたな。練習場でもストーブ引っ張り出してさ。結構な人数がたむろしてるぜ」

「そうなんだ。先輩は?」

「俺は常に動けば問題なし……なんだけど、本質は暑がりかつ寒がりだから、下手に動けない学校生活の方がシンドい」

「へえ、意外」

「気温の変化にも強そうって思ってる顔してるな。だが、体脂肪を絞ったらこんなもんだぞ。肉体の強靭さとは別モンだ。冬場は熱を閉じ込めておける脂肪がないから、常に動かないと一瞬で冷える。まあ、これを利用して急速冷凍なんかもできるんだけどね。水風呂や氷風呂に入ったら、どんな猛暑日でもあっという間に体の芯まで冷える」

「……便利?」

「いやクソ不便。ちょっとした風邪が、インフルエンザかってぐらい悪化するし。それに燃費も悪いから、気を抜いたらすぐ腹ペコ。燃料ドカ食いするスポーツカーみたいなもんだよ、もう」

「ぶっ……」

 

 優奈が僅かにではあるが、吹き出しそうな顔をした。

 

 大口開けて笑うような事はできない。以前と比べ、表情筋の動きも小さくなっている。だが、俺には読み取れる。問題ない。

 

 病は気から。そして笑う門には福来る。そんな諺を信じている訳ではない……が、その日が来るまでは、できるだけ優奈には笑って過ごして欲しかった。

 

 走馬灯に、悲しい記憶しかなかったら。死んでも死にきれないじゃないか。

 

「……ケン先輩」

「っ、何だ? 何かして欲しいのか?」

 

 と、考え事をしていたら優奈に呼び止められてしまった。

 

 ちょっと焦りながら言葉を返した俺に、優奈はコクリと頷く。

 

「して欲しいと言うか……〝お願い〟、かな」

「お願いか。何でも言ってくれて大丈夫だからな。ささ、遠慮せず」

「ふふっ、泣いちゃいそうなぐらい優しいなぁ……」

 

 今日の優奈は、何か様子が違う。どこまでも透き通っていて、儚い声色と表情だ。笑みを浮かべてはいるが、今にも消えてしまいそうな危うさみたいな物が何となく感じられる。

 

 優奈は、中々お願いを口にしようとしない。言うかどうか悩んでいるようだ。何度か口を開こうとしては、また閉じるを繰り返していた。

 

「そんなに言い出しにくい事なのか?」

「まあ、ね」

「そっか。なら無理強いはしないけど……でも、言うだけなら無料って考え方もある。それと、俺は優奈からのお願いに関しては、決して無碍にしないとだけ言っとくよ」

 

 また、優奈は笑った。触れただけで壊れてしまいそうなガラス細工のように儚く、美しく。

 

 そこからまた10分ぐらい、優奈は目を閉じて考え込んでいたが、不意に俺の手をちょんちょんと触ってきた。

 

 それが何を意味しているのか分からず、取り敢えず優奈の手を取ってみる。すると、いつかの夏祭りの時と同じように、彼女は指を絡めて手を握ってきた。

 

 あの時と比べて、随分と弱い力で握られている。だが、離しはしないという想いの強さは、以前よりも増してるように思えた。全くそうするつもりはないが、俺から手を離せる気がしない。

 

「最後の、〝お願い〟。そして私の夢。聞いて欲しい」

「! ……ああ」

 

 少しだけ身構える。優奈から、何か圧のような物を感じたのが原因だ。

 

「私ね。無差別級で戦って、世界を制覇する貴方をいつか見てみたいんだ」

 

 無差別級。簡単に言えば、体重の上限と下限を取っ払った階級である。だが、実際のところは減量苦を避けたいボクサーが多く集う傾向にあるので、事実上のスーパーヘビー級となっているのが特徴だ。

 

 軽量級のボクサーもゼロではないのだが、勝ち上がれているかと言うと微妙なところだ。ましてや、フライ級が適性のボクサーなんてほぼ見ない。俺より10kg以上重たいボクサーがほとんどである。

 

 一瞬だけ血迷ったのかと思ってしまうのも無理はないだろう。そのぐらい、軽量級には厳しい階級なのだ。重量級のボクサーと打ち合って負けないだけのタフさと火力を最低限必要とするのだから、並大抵の努力では挑む事すら叶わない。

 

 しかし、彼女は本気で俺に無差別級に挑んで欲しいと言っている。更には、世界を制覇してくれとも。

 

 難しい。とても、難しく厳しいお願いである。まさに夢物語。叶えられるか、確証を持てない物だ。

 

 そしてもう1つ、判断を鈍らせる材料がある。それは、優奈の残りの寿命だ。

 

 無差別級へ挑むには、まずプロテストに合格しなければならないのだが。そのプロテストは、17歳になってからでなければ受ける事はできない。試合に出場できるようになるまで、最低でも1年半はかかる。

 

 それまで、優奈は生きられるか。その答えは、俺も彼女も理解している。

 

「ケン先輩なら、きっと勝ち上がれると信じてる。不屈の闘魂を宿す貴方なら、絶対に」

 

 だが、この言葉を聞いた瞬間。迷いは全て消し飛び、一瞬で腹を括る決意をした。

 

「〝約束〟するよ。必ず、勝ち上がってみせる」

 

 単に〝お願い〟を聞くスタンスではなく。俺は、自身を限界まで追い込む事を承知の上で、自分から逃げ道を完全に塞いだ。

 

 昇華させたのだ。〝お願い〟から〝約束〟へ。

 

 それがたとえ、呪縛と化して俺の首を強く絞め付ける鎖になるとしても。

 

「……ありがとう、ケン先輩っ」

 

 何よりも美しく、俺の心を打つ優奈の笑顔が、瞼の裏から脳の中枢まで盛大に焼き付けられる。どんな芸術作品よりも、彼女の笑顔の方が美しい。そう思うぐらいに焼かれてしまった。

 

 胸の高鳴りは止まらない。嫌ではないが、どことなく切ない息苦しさを感じる。

 

「いつまでも、見ていてくれよ。君の笑顔を絶やさないって〝約束〟する」

「うん……うんっ!」

 

 何故、ここまで自分自身を追い込んででも、彼女の願いを叶えようとするのか。彼女が生きている間に、絶対に叶えられないと分かっているのに。

 

 未だに理解しないまま、俺は更に〝約束〟と言う名の鎖で雁字搦めにしていった。

 

 叶えない限り、永遠に呪われたままとなる夢と〝約束〟。

 

 解呪するのか。それとも、呪い殺される形で寂しく死んでいくのか。

 

 それを知るのは、未来の俺だけである……。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 優奈side

 

「まだ、こんな時間か」

 

 草木も眠る丑三つ時に、私は目を覚ました。どうやら、気がつかない間に寝落ちしていたらしい。当然ながら、ケン先輩は既に帰宅しており、この部屋には私以外存在していない。

 

 最後に覚えてる時刻は、午後21時頃。酷く悪化した体調でありながら、久しぶりにかなり長い時間ケン先輩と話せた。

 

 それだけでも十分に満足である。だが、それ以上の出来事があった。

 

「……言っちゃったなぁ、遂に」

 

 墓まで持って行こうか迷っていた私の夢。それを、遂にケン先輩に明かした。

 

 話を切り出したのは私だが、正直直前まで口にする事を迷っていた。下手したら、彼を一生縛り付ける鎖になってしまうのではないか。そして私という存在に、永遠に囚われ続けてしまうのではないかと危惧したからである。

 

 そんな状態の私の背中を押したのは、ケン先輩の言葉であった。

 

「決して無碍にしない、か。チョロいなぁ、私も」

 

 分かってはいた。多分、ケン先輩は私の〝お願い〟であれば、人道に反さない限りは聞き入れてくれると。だからこそ、口を噤んでいたのに。

 

 だが、実際に明言されてしまったら。それも、私の大好きな笑顔と共に口にされてしまったら。我慢なんて物は、とてもではないができない。無理ゲーである。

 

……いや、言い訳は良くない。単に私の心が弱かった。それだけだ。

 

 私という存在は、これで永遠にケン先輩の中で残り続ける呪いと化した。ケン先輩に対する申し訳なさと不甲斐なさ、そして隠し切れない喜びと悦びの感情。決して相容れない感情同士が、胸の奥底でせめぎ合っている。

 

「ケン、先輩……」

 

 それでも、この感情だけは。13年という短い人生の中で、貴方にだけ向けた恋情だけは。何とか明かさないまま終われそうだ。

 

 涙を流しながら、窓の方へ顔を向ける。すると、私の目に無数の流れ星が飛び込んできた。

 

 そう言えば、先生が言っていた。観測条件が良い流星群が近いと。

 

 何でも、皆既月食と流星群の極大日が重なっているそうだ。

 

 それだけでも十分とんでもない、歴史的な天体ショーとなると思うのだが。赤銅色の月が照らす暗い夜空が、涙を落とすようにして降らせる星の数々は、まるで雨のようである。

 

 しかも、雨脚の強さが時間経過で増している。もはや嵐と表現しても過言ではないレベルだ。凄まじい。

 

 流れ星は、神様が天界から地上の人間界を見るための蓋を外した時に流れる、なんてロマンのある言い伝えがある。だから、願い事を言えば神様に届いて叶うのだと。

 

 この手の言い伝えは、基本的に科学的根拠のない迷信である事がほとんどなので、普段は素敵だなとは思いながらも、あまりアテにはしていないのだが。今日ばかりは、信じてみたくなった。

 

 流星の雨を超えて、流星の嵐と評したくなるぐらいの数だ。迷信通りなら、神様は随分長い間、人間界を天界から眺めている事だろう。

 

 叶おうが叶うまいが、願うだけなら無料だ。1度ぐらい、神に祈ってみてもバチは当たらない。

 

最愛の人(ケン先輩)のパンチを、ずっと特等席で見れますように」

 

 夜空を覆う流星の数が、爆発的に増えていく。まるで昼間のような明るさだ。瞼の裏まで、極光が焼き付けられていく。

 

 だが、それも一瞬で収まった。嵐は徐々に小雨へと姿を変えていき、やがて完全に降り止んだ。暗さを取り戻した夜空には、流星が駆け抜けた跡のような物だけが残される。

 

 一体何だったのか。私には分からない。夢でも見ていたのだろうかとすら思う。

 

「……いや、夢でも良いか」

 

 間もなく死ぬ私に、誰かが見せてくれた、最初で最後の嵐のような流星群。きっと、この肉体が滅んであの世へ行く時になっても、忘れやしないだろう。

 

「ふ、ああ……」

 

 欠伸。そして、急激に重たくなる瞼。身体の力が、あっという間に抜けていく。

 

 瞼を閉じた目に映るのは、ついさっき見た赤銅色の月と流星群。そして、その中に立つケン先輩だった。

 

「だいすき。ケン、せん……ぱ……」

 

 流星が発する白亜の光に呑み込まれる寸前。ケン先輩が、笑いながらこちらを見た気がした。




 12月半ばの流星群と言えばふたご座流星群ですね。その約1週間後にはこぐま座流星群があり、年明けには四分儀座流星群があります。冬場は空気が乾燥しているのと、明るい星々が出てくるのもあって、様々な天体ショーを楽しむ事ができる季節です。

 ちなみにふたご座流星群は、あまり流星雨や流星嵐といった現象を起こさない流星群なんですが……まあ、そういう事です。皆既月食まで起こってるし。

 マックくん→優奈ちゃんと〝約束〟を交わした。人としての感情を取り戻しつつあるけど、まだ最後のピースが揃っていない状態。

 優奈ちゃん→本来ならあり得ないふたご座流星嵐を目撃し、マックくんのファン0号としての願い事を口にした。

 ちなみに、ちょっとした裏設定ですが、マックくんと優奈ちゃんは流星群や彗星接近、日食月食といった何らかの天体ショーの前後で何かが起こる人たちです。

・師範代とマックくんが出会った日⇨金環日食の翌日

・優奈ちゃんがスマFor時代にスーパー幼女として有名になった日⇨りゅう座流星群

・マックくんと優奈ちゃんが出会った日⇨部分月食&彗星の接近

・マックくんの初試合⇨ペルセウス座流星群&はくちょう座κ流星群

・決勝戦(頬にキス)⇨うお座流星群&部分日食(海外)

・エキシビションマッチと頭ナデナデ⇨オリオン座流星群&おうし座流星群南群

・病院への襲撃⇨しし座流星群

・〝お願い〟を〝約束〟に⇨皆既月食&ふたご座流星群の流星クラスター現象

 ザッとこんな感じ。まだまだ増えます。
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