異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
謎の回復水が湧き出る鉱石を中心とした拠点で鍛錬し、その成果を外の魔物たちで試す日々が始まった。
この地点に辿り着いた時点で、魔物をブッ飛ばせている俺は変わる事なく拳を振り回している。
隙間時間を見つけては、ひたすらに〝錬成〟の研鑽を続けたハジメは、新たな派生技能〝鉱物鑑定〟に目覚めたり、錬成可能な範囲が広がった事でこの地点の魔物にも錬成パンチで対応できるようになったりと、ここ最近の傾向通り急成長を続けていた。
……骨折するレベルの怪我をしては、回復水で修復を繰り返しているので、白崎が凄く過保護になりつつあるのだが。
優花も負けていない。ただナイフを投擲するだけではなく、まるで某オールレンジ兵器も真っ青な超絶変態機動を身に着けている。まだ手持ちのナイフが少ないため、飛ばせるナイフは2本のみであるが、これで手数が増えたらとんでもない事になるのはお分かりいただけるだろう。
このパーティー唯一の後衛である白崎は、ハジメ以上に回復魔法の鍛錬を24時間常に行っていると言っても過言ではない。
初級回復魔法ならば、複数発動させるとしてもほぼ無詠唱。中級回復魔法でも、1節程度の詠唱で連続発動させられる辺り、本当に凄まじい成長ぶりである。
戦力的に見れば、俺たちは一騎当千なんて物では済まされないぐらいに強くなっている。これは間違いない。
だが。そんな利点を全て打ち消すレベルに、早急に解決しなければならない事態が発生した。
それは、食料問題だ。
水であれば、俺たちが最初に落ちた川があるので、まだ何とかなる。回復薬も、あの水以外にもあまりがあるし、最悪の場合は白崎に頼めば何とかなる。しかし、食料だけはどうにもならない。
俺が食料を口にしなくなってから、もう既に5日。あの謎の水のお陰で死にはしないのだが。強烈な飢餓感は変わらず俺たちを襲ってくる。
特に、俺はみんなへの回復する水を残すべく、可能な限り服用しないでいた。更には、持ち込んだ食料もなるべく最低限で済ませていた。だから、誰よりもキツく辛い飢餓感に苛まれていた。
最近、叩き潰した魔物がどれも美味しそうな食料にしか見えない。そのぐらい、俺の精神状態はかなり危ない状態だ。
「キュウッ!」
「……またお前か」
今、こうしてウサギと対峙している状況下でも。俺の目には、極上のステーキが自らやってきたようにしか見えていない。
「クソがっ。何度ぶっ潰しても現れやがって。我慢させられるこちらの身にもなれってんだよぉ!」
高速で接近。ウサギが反応するよりも早く、俺は懐に入って全力のスマッシュストレートを叩き込む。
衝撃波も込みでとんでもない衝撃を受けたウサギは、頭部を残して爆散した。
その頭も拾い上げ、壁に投げてから再度スマッシュストレートで壁ごと完全に粉砕。飛び散った血が籠手に付着する。
「ハア、ハア……! いくら殺しても、腹は膨れねえどころか飢餓感は増幅するってのに、クソッタレ!」
血だらけの手で顔を覆うようにしながら、前までの俺では考えられないぐらい醜い暴言を吐く。
拠点にいる時は、なるべく口数は減らして喋らないようにしていた。こんな口調で話す俺を、優花には特に見せたくなかったから。
その分、外に出るとこのザマである。
みんなには「単独で良い」と押し通してなかったら、どうなってた事やら。
攻撃的で、かつ暴力的な口調と思考に変貌した自分自身への嫌悪感も凄まじい。二重、三重と精神を病む要素を抱えた状態だ。
「……少しでも気が晴れたら、戻ろう」
それでも倒れなかったのは、諦めの悪さ故か。
しかし、その悪足掻きもそろそろ無理になりそうだ。
ふと、口元に入り込んだ魔物の血が、俺の舌に乗る。
口いっぱいに広がる鉄の味。途轍もない不快感。そして、吐き気が俺を襲う……
「あれ、美味い……?」
いや、違う。不快感も、吐き気もない。むしろ、凄まじく美味……!
俺は、取り憑かれたかのように籠手に付着した血を舐め取る。
久方ぶりの水以外の味。砂利の味が少し混ざった水ではなく、鉄を直接口に含んだような味。
最悪の味のはずなのに。極限状態の俺には、とんでもなく美味しい味に感じた。
付着している血は、そこまで多い量ではない。必死に舐め取っていれば、あっという間になくなる。
「もっと。もっと……!」
故に俺は、悪鬼のような形相で周辺の魔物を狩り尽くして血を啜るべく、足を動かした。
適当にブラついていれば、すぐに魔物とは遭遇できる。
次に見つけたのも、またウサギであった。
「オラァ!」
先手必勝。スマッシュストレートで放った衝撃波の遠当てで、俺はウサギの頭蓋を一撃で粉砕した。
血が滴り、力なく倒れたウサギの身体をガシリと掴み、今度は直接傷口に口をつける。
圧倒的な悪臭が鼻をつき、涙目になる。だが、俺は構わず血を啜り続けた。
凄惨な飢餓感は、血だけでは飽き足らず。無意識のうちに、ウサギの肉に齧りついていた。が、気にしない。
この飢餓感を、ほんの僅かでも。少しでも癒せるなら。取り除けるなら。
無我夢中で、生の魔物肉を食い千切る。突然胃袋に肉が入った事により、キリキリとした痛みで猛抗議してきている。それに、脳の方も「吐き出せ!」と命令しており、時折胃液が喉からせり上がってきそうになっていた。
それでも無理やり飲み込み、ただひたすらにエネルギー源となり得る肉を、血と共に流し込む。
どのぐらいそうしていただろう。腹が少しずつ膨れ始めた頃に。不意に、異変が起こった。
「んあ? ――ガアッ、グアア!?」
身体の内部から、まるで引き裂かれるかのような強烈な激痛が走ったのだ。
その痛みは時間経過と共に強くなっていく。
しかし、俺は回復薬は持っていない。全て、みんなのためにさり気なく拠点に置いてきてしまっていた。
もっとも、回復薬でこの痛みが軽減できるかは、正直怪しいところだが……。
魔物の肉は人間にとって猛毒だ。魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。
この変質した魔力が詠唱も魔法陣も必要としない固有魔法を生み出しているとも考えられているが詳しくは分かっていない。
とにかく、この変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していくのである。
知識として、食べてはいけないと俺は知っていた。しかし、強烈な飢餓感がその知識を脳内の奥に押し込めてしまっていたようだ。
全身に限界まで力を入れる事で、何とか意識を繋ぎ止めている。しかし、それも長続きはしなさそうだ。痛みに合わせて脈動を始めており、ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。これがまた痛く、ハッキリ言って死にそうだとすら思っている。
強烈な痛みの中、少しずつ薄れていく意識。脳裏には、走馬灯のような物が次から次へと流れていく。
幼い頃の思い出。小学生、中学生と巡る。
ボクシングの試合の記憶。無差別級に出場するようになってからの記憶が、一瞬のうちに思い浮かんでは消えていった。
スマブラの大型大会の記憶。いきなりリザルト入りを果たした事で、俺は業界ではそれなりに有名人だったと後から聞かされたっけ。
高校に入ってからの思い出。ハジメとの思い出。そして、優花との思い出。
「やく、そく……」
約束。あの星空の下で交わした、2人だけの約束。
放っておけば、俺は死ぬだろう。そうなったら、約束をお互いに破ってしまうな……。
(何で、こんな目に遭ってるんだっけ)
ぼんやりとした思考の中で、俺はふとそんな事を考える。
(ああ、他人を優先してこうなったのか)
(バカだなァ。結局、自己満足に過ぎないのに)
黒く、暗い思考が脳内を埋め尽くしていく。
真っ白な紙に、黒いインクを零したがごとく。少しずつ、しかし確実に思考が黒色に染まっていった。
(このまま放置していたら、死ぬのか)
(痛いなァ。苦しいなァ。死んだら楽に……死にたくない)
耐える。ひたすら。その時間が長引くにつれて、精神は壊れていく。
それでもギリギリのところで完全には壊れずにいられるのは、あの約束があったからだろう。
(死んだら、破っちまう。約束を)
ギリっと歯を食いしばって立ち上がり、凄惨な痛みで気を失いそうになりながらも、ゆっくりと歩み始めた。
少しでも拠点の近くに。その一心で、鉛のように重たい足を無理やり動かす。
のそのそと。それでも持ち前の諦めの悪さで足を動かして数分。遠目に拠点へ繋がる穴がようやく見えたところで、俺は前のめりに倒れてしまった。
もう、足が動かない。
(ここまで、か)
どうしょうもないぐらい諦めの悪い俺でも、これ以上はピクリとも動けなかったのだ。
(優花に、謝りたいな……)
死が迫る中で、俺は真っ先に優花の顔を脳裏に思い浮かべた。
あの日、星空の下で交わした約束。その光景が、何度も浮かんでは消えていく。
「ゆう、か……」
何となく。特に意味も持たず、俺は彼女の名を呼んだ。
どうして、この局面で彼女の名を口にしたのか。分からない。
だが。その行為は、決して無駄ではなかった。
「け、ケン!?」
偶然なのか、それとも必然か。分からなかったが、拠点から優花が出てきたのである。
指すらと動かせない状態なので、どんな表情をしているのかは物理的には分からない。だが、雰囲気で悟った。涙目だ、彼女。
何かが口の中に入ってくる。少しして、それがあの謎の回復水だと分かった俺は、抵抗する事なく飲み込んだ。
途端、すぐさま効果が発揮されて俺の肉体が回復していく。
しかし、少しするとまた痛みが全身を駆け巡った。
「グアッ……」
「ウソッ、何で効いてないの!? お願い、ちゃんと回復してよっ!」
魔力を一瞬で回復させ、更には骨折レベルの怪我でもあっという間に治癒する謎の回復水。その効果は、確かに発揮されていたのだが。回復した傍から、またすぐ肉体が引き裂かれるような痛みが走り、そして回復のいたちごっことなっていたのである。
それでも、回復水を飲む前よりは明らかに楽だ。というか、痛みに身体が慣れてきたのもあるだろう。
不慣れな回復魔法をも行使し、涙声で治療をしてくれている優花に。俺は、痛みがある程度消えた瞬間を狙って体を起こし、そして膝立ちの状態で彼女の方を向くと、口を無理やり開いた。
「ごめ、ん。手を……」
握ってくれるか。そう言い切る前に、また強烈な痛みがやってきて。俺は歯をまた強く食いしばる。
不意に、視界が真っ暗になった。意識を失った訳ではないのに。
次いで、鼻に入る甘い匂い。それによって、自分の状況をある程度把握するに至る。
「死なないで。お願い、ケン……」
抱き締められていた。涙を流す優花に。
(温かい)
(痛いけど、それを上回る安心感)
(死ねない)
(ここで死んだら、彼女は)
壊れかけていた心が、ツギハギながらも形となって崩れずに留まった。
黒く染まりかけた心のキャンバス。思考。完全には堕ちきらず、一部を黒染めするだけで済んだ。
彼女にそう言われたら。死なないでと言われたら。そう簡単に死ねないな。
心を持ち直した事。そして、痛みの波も徐々に引いてきた事で、腕を動かせるぐらいには回復した俺は、優花の震える腕に軽く手を添える。
「ケン……?」
「大丈夫、だ。もう大丈夫」
間近にある優花の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「死なないよ。優花が、助けてくれたから」
死にそうになったところを、優花に助けられた。約束通り、だ。
とんでもない疲労感こそあるが、何とか俺は立ち上がる。飢餓感が消えただけで、随分と晴れやかな気分だ。
「……ホントに、大丈夫?」
「ああ。心配かけたな」
手を引いて優花も立たせる。
すると、優花は一目散に俺の胸の中に飛び込んできた。
何も言わず、俺はそれを受け入れる。
「バカ。バカバカッ。せめて、最初から目の届くところで約束を守らせなさいよ! 死ぬ数秒前に助けを求めるぐらいの無茶をするなら、最初から私に……!」
黙って、聞く。
戦闘中、死角に回った敵を排除するのと。既に死にかけている人間から助けを求められるのとでは、色々と訳が違う。そう言いたいのだろう。
まだ混乱が抜けてないのか、少々支離滅裂ながらも、優花は身の丈をぶちまけてくる。
「死んだら、嫌だから。私の知らないところで死んだら、嫌だ」
「うん」
「……勝手に離れたら、嫌だからっ」
「わ、分かった。1人で無茶はしないようにするよ」
何か、限りなく告白に近い事を聞かされている気がする。だが、これを恋愛事で捉えるのは何だか違う気がして、俺はクソ真面目に答えていく。
これ、優花がある程度落ち着きを取り戻したら全力で否定されるとかないよな……?
ほら、勘違いするな! とか言われそうで。
「……それで、何があったらあんな死にかけになるのよ」
「えっと、魔物肉を食ったらこんなに」
「はあ!? ちょ、ケン魔物肉を食べたらダメって習ったよね!?」
「どうしても腹が減って……って、優花は大丈夫なのか? 空腹とかは……」
「ケンがさり気なく残してくれた食料のお陰で、私はしばらく平気だよっ」
「あ、そうか……」
これ、お説教がしばらく続きそうな気がする。
このまま大迷宮内で説教を受けるのも危険なので、俺は何とか優花の腕を引いて拠点の方に戻った。
「……どなた?」
そして、戻った瞬間こんな言葉を口にしてしまった。
拠点内には、白髪の男女がいたのである。
「ちょ、真久野くん僕だよ! ハジメ!」
「私は白崎香織だよっ。いきなりどなた? なんて酷いよ~!」
え?
「え?」
「えっ!?」
ハジメと白崎? え、こんな白髪じゃなかったよね?
「えっとね、魔物肉を食べたらこんなになっちゃったんだ……」
魔物肉、食う。なるほど俺と同じか……いや何してんの!? ハジメたちも限界だったのか!?
「ちょっえ……? 何が、どうなってるのよぉぉお!?」
優花の絶叫が、拠点内に鳴り響くのだった……。
マックの見た目は大きく変わりません。筋肉質な見た目に磨きがかかったぐらいです。一方、ハジメくんと香織さんは白髪にチェンジです。豹変こそしてませんが。
優花っちが仮に一緒じゃなければ、原作以上に凶悪な精神となったマックくんに変貌するところでしたが、結果はご覧の通りです。
痛み耐性がぶっちぎりなマックくんなので、魔物肉を初接種時の痛みにもある程度耐えられてましたが、やっぱり痛いもんは痛いので……。
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