異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
サソリモドキの初手は、ハジメたちに向かった尻尾の針から噴射された紫色の液体だった。
その位置には、ギリギリ俺も射程圏内として入っている。
「チィッ」
前進する事で、俺は液体を回避する。
ハジメはユエを背負い、白崎の手を引いて後ろに下がった。
そのまま地面に着弾した紫色の液体は、ジュージューと音を立てながら床を溶かしていた。アレには当たらない方が良さそうだ。
次いで、もう1本生えている尻尾の方が一瞬肥大化し、かなりの速さで針が射出される。
それをスリッピングで回避しようとする俺だったが、途中で針が無数に分裂し、散弾のようにして襲ってきたので、すぐさま迎撃に切り替えざるを得なくなった。
スマッシュストレートでは手数が足りない。俺は、なりふり構わずラッシュを繰り出す。
「ドォラララララララ!」
マシンガンのように放たれる拳。その数、1秒で1000発以上。それだけの数の衝撃波が、散弾針を猛烈な勢いで叩き落としていく。
その間に、優花は既に攻撃態勢を整えていた。
俺の真横を、次々とナイフ群が通り抜けていく。更に良く見れば、数発の短筒から発射されて弾も一緒に混ざっていた。
どうやら、発射した弾も投術の制御下に置けるらしい。
自由自在。まるで生き物のように動き回るナイフと弾丸。これは凶悪だ。
明らかに硬そうな甲殻は狙わず、優花は足や腕の付け根を狙う本命弾と、その本命を悟らせないための誘導弾両方を 同時に操っていた。
「ケン!」
「よっしゃあ!」
巨大な鋏でナイフを弾いた直後のサソリモドキに突進する。
一瞬で懐に入り込んだ俺は、サソリモドキが何かする前に左ジャブで頭を捉え、そこから右フックと左ショートアッパーのコンビネーションを速攻で決め、その体を少し後ろに下がらせた。
すぐさま追撃に移行。下がった瞬間に足を斬られ、更に眼球に短筒の弾丸を受けて大きく怯んだサソリモドキに、ハンマーパンチで地面に顔面を叩きつけてから、跳ね上がった顔にスマッシュアッパーカットをブッパなす。
「キシュア!?」
サソリモドキの巨体が、いとも簡単にフワリと浮いた。
丸見えとなった腹部に、先んじて切っ先が突き刺さったナイフ。それを目掛けて、俺はダイナマイトアッパーカットの振りで拳を繰り出す!
破裂するような音と共に、ナイフが半ばまで突き刺さった状態で、サソリモドキの体はまた更に浮き上がった。
流石にこれで倒せるとは思ってないのだが、これで少しの隙は生まれるだろう。
そう願い、俺は高速スウェーで身を引いてサソリモドキから離れると、ハジメたちのところへ向かおうとした。
実に中途半端な表現になったのは、その光景に理由がある。
輝いていたのだ。ユエが。黄金の魔力を身に纏って。
あまりの神々しさに、思わず立ち止まって見惚れてしまった。サソリモドキに刺さってたであろう優花のナイフが、ペチペチと俺の頬を叩いたお陰ですぐ正気に戻れたが。
「……ごちそうさま」
実に艶のある声で、ユエが微笑みながらハジメに礼を言うと、フワリと地面から浮かび上がった。
そして、
「〝蒼天〟」
たった一言。そう発すると共に、ユエが身に纏っている魔力の輝きが一際増した。
ピンと伸ばされた指先に、猛烈な勢いで収束していく強大な力の奔流。それは、あっという間に直径7メートルぐらいの蒼白い炎の球体に姿を変える。
直撃したわけでもないのに余程熱いのか、地面に叩きつけられて倒れていたにも関わらず、バッと起き上がり悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。
だが、当然逃す訳もなく。ユエの指示に忠実に従った炎の球体は、サソリモドキの背中に呆気なく直撃した。
「グゥギィヤァァァアアア!?」
サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。
白崎の攻撃魔法とは違う、明らかな超攻撃的魔法。白崎はヒーラーであり、アタッカーではないので仕方はないのだが、それにしても威力の差がありすぎるのだ。
光が晴れ、サソリモドキの姿が確認できるようになると、ユエの魔法の凄まじさが嫌でも分かる。
無茶苦茶に硬そうだった外郭が、ドロリと融解をしていたのだ。
非現実的な光景に、呆気に取られそうになる。だが、そうはさせじと頭を振って正気に戻り、声を張り上げた。
「ハジメ、トドメ行け!」
「え、あっ、了解!」
戸惑いながらも、ハジメはスタートダッシュを切った。しっかり〝気配遮断〟を発動させて。
ハジメがサソリモドキに到達する直前に、俺はスマッシュストレートの衝撃波を奴の床付近に着弾させ、即席の目眩ましとして機能させる。
その程度で怯むサソリモドキではなく、うっとおしそうに鋏で軽く粉塵を払ってすぐさま視界を確保した……のだが、
「キシャッ!?」
「残念、もう遅いよ!」
その時既に、ハジメはサソリモドキの感知網を掻い潜って背中に到達していた。
バチバチと紅色にスパークしているハジメの拳。容赦なく落とされる、必殺の鉄槌!
「〝錬成ぇ〟!」
融解した外郭に、ハジメの錬成パンチが突き刺さった。
サソリモドキは、何度か体をビクビクと痙攣させて。そして、背中から刃を生やしながらドサリと地面に倒れ伏した。
軽い残心を行ってから、サソリモドキから飛び降りたハジメ。その姿を、ユエは真っ直ぐに見つめている。
とんでもない魔法の行使に、魔力切れが心配だったのだが。そこは白崎が、しっかりと抜かりなく回復を行っていた。全快ではなさそうだが、あの魔法を行使した後にしてはピンピンしている。
「お、思ってたよりアッサリだったね……」
「魔法がヤバかったな。何だよあの破壊力。それを無詠唱陣なしとか反則にも程があるぞ」
引き攣った顔で笑っているハジメ。多分俺も、似たような表情をしているのだろう。
あのサソリモドキは、気配だけなら相当な強敵であると俺は判断していた。現に、拳をあれだけブチかまし、優花のナイフで斬られても、短筒の弾丸が命中しても無事だったのだから。
しかし、それもこれもユエの魔法1発で全てがひっくり返った。
当のユエさんは、ハジメと俺を見て、目をキラキラさせながら得意げな顔をしている。
ハジメに「褒めてやれよ」と言って、俺はサソリモドキの肉を回収するべく亡骸の元へ向かうのだった。
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その後。俺たちは手分けしてサソリモドキとサイクロプスの肉だの素材だのを持ち、拠点の方へと戻ってきた。
どちらも巨体なので、持ち運びはやや苦労するかと思ったのだが、人手が増えた事でかなり楽に運べた。魔力での身体強化で怪力を見せたユエに、軽く変な笑い声が出たのは内緒である。
さて。ユエは現在、ハジメの膝の上にゴロリと寝転がり、ネコみたいに甘えている。ハジメくんは錬成で短筒の量産中だ。
「ねえねえユエちゃん。近くないかな? かな?」
「……別に、そんな事ない。寝たらたまたま膝があっただけ」
「絶対に確信犯じゃん!」
うーん、修羅場。なるべく無視しようとして錬成を続けているハジメだが、その額には冷や汗が浮かんでいる。
まあ、ハジメがユエに少し甘いのと、白崎の想いに対して、気がついていながらも未だに応えてない事が原因なので、俺からフォローできる事はほぼゼロなんだけど。
サイクロプスの魔物肉を食べながら、俺はその光景をボンヤリと眺める。
「香織。ハジメの、何なの?」
「うえっ!? そ、それは……」
「何でもないなら問題ない」
「うう、確かにそうだけどっ」
青春だねぇ。
てか、本当にモテるねハジメ。クラスメイトは見る目がないだけで、性格イケメンかつ最近は肉体美もあるから仕方ないと思うが。
取り敢えず、ユエの台頭を機に白崎もアピールを頑張ってもらいたい。ユエの事も全く嫌いではなく、むしろ可愛らしいと思っているのだが、やはり付き合いの長い白崎との仲を俺的には応援したいのだ。
決して口には出さず、態度にも表さないように細心の注意を払う。あくまで傍観者。結果には絶対に口出ししない。
「……ケンにとって、私は何なの?」
「おい、この流れでそれを聞くのか君は」
流石に優花からの追求は無視できんので、冷や汗を浮かべながら受け答えする。
「相棒、かな。ハジメは親友で」
「ふーん」
「……悪い。今はこれが精一杯だ。大迷宮の攻略中で、うつつを抜かす訳にはいかないんだよ」
ほんのり唇を尖らせた優花だが、弁解の言葉の真意を読み取ったのか、それ以上は何も言わずに俺の腕に軽く抱き着いた。
最近はホント遠慮がない。理性と本能との戦いだ。
「それ、好きだよな」
「程よい弾力があるから、何かクセになるの」
「……へえ、そいつはまた」
あの人と同じ事を。そこまで言いそうになって、俺はすぐに口を閉じた。
今は無関係。考える事も、口にする必要もない。
「……どうしたの?」
「いんや。変わった趣向だと思っただけさ」
いつか、話すべき日がやってくるまで。その日までは、隠し通すつもりだ。
キャットファイトに発展した白崎とユエを眺めつつ、俺は甘えてくる優花の頭をそれとなく撫でながら過ごすのだった。
原作であった「サソリモドキの外郭を錬成したら楽に倒せた」を歪な形ながら実現したのが今回です。
踏み切れない香織さんとストレートなユエさん。更にストレートな優花さん。みんな可愛い。
マックくんの新たな恋人候補
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