異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 もうここまで来たのか……。

 普段よりかなり長いです。


限界の先、極限まで

 パーティーメンバーにユエを加えた事で、俺たちの大迷宮攻略の速度は飛躍的に向上した。

 

 ユエ以外のメンバーが高速移動の手段を覚えている関係上、基本的に彼女をハジメが背中に抱えての攻略であるが、それでも体感1日で10階層以上は下に行けている。

 

 回復魔法があまり得意でない分、強烈な攻撃魔法をいつでも魔力の限りブッパできるユエの功績は大きい。そして同時に、消耗した瞬間に全快させられる白崎の回復魔法も、この攻略において非常に大きな役割を持っていた。

 

 魔物の群れに襲われた時も、ユエの無限魔法ブッパがなければ、かなり手こずっていたと思う。流石に俺のラッシュだけでは対処しきれなかったので、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

 また、攻略時間が長引けば長引くほどに、ハジメや優花の能力も上がってきている。

 

 いっぺんに何本のナイフを扱っているか分からない優花は、そんなオールレンジ攻撃を仕掛けながらも、上達した短筒の技術も併用し、長時間単騎でも大量の魔物を同時に相手取れるまでに強くなっていた。

 

 凄まじい数のナイフがあるからこそ、多数を相手にできる優花。そのナイフが全て、1人に向けられた時の制圧力も当然ながら凄まじい。無数のナイフ群を躱しながら、かなり正確な短筒の射撃も回避しなければならないのだ。弾切れまで粘っても、投術師の恩恵を受けた爆裂する飛び道具のオマケつき。これに怯めば、ナイフ群で滅多打ちにされる。まず、優花を仕留められる距離に入る事が極めて難しい。

 

 ハジメは錬成の精度をかなり上げており、武器の補充要員としてはもちろんの事、最前線のアタッカーとしても頼れる存在だ。

 

 素材さえ揃っていれば複製できる〝複製錬成〟だったり、鉱物と鉱物を接合したり、逆に分離させたり。様々な派生技能を手に入れており、装甲無視という点では本当に頼りがいがある。

 

 錬成パンチの破壊力も増しており、シンプルな打撃力の向上の他、短筒との相性も相まって、下手したら俺より器用に動ける前線アタッカーなのではないだろうか。

 

 折角だし、ハジメのステータスの確認もしておこう。

 

==================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:80

天職:錬成師

筋力:2550

体力:3020

耐性:2330

敏捷:2670

魔力:1800

魔耐:1800

技能:錬成[+精密錬成][+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・格闘術[+集束拳打][+浸透破壊]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

==================================

 

 ご覧の通り、あの一般人ステータスだったハジメがまるで見当たらない。

 

 相当タフネスであるし、技能で更なる強化も可能である。縮地に関しては俺より派生技能が多く、足技もそれなりに扱えるハジメは、かなりの対応力を持っていると言えるだろう。

 

 ステータスや技能数的には俺の方が上な部分は多いが、実戦となると数値はあまりアテにはならない。実際、鍛錬でスパーリングをしてみると、最近のハジメは俺のパンチにカウンターを平然と合わせるようになったし、逆に彼の拳が俺の事を捉える回数も増えてきた。

 

 数値とはあくまで指標。結局は、鍛錬と実戦経験の数が全て。それを体現しているハジメは、真の努力の天才であると称したい。

 

「マックくん、そろそろ行こう」

「ああ。次で100層目。気合い入れて行くぞっ」

 

 こうして互いに拳を突き合わせると、俺たちは100層目に降りて行った。

 

 一般的に、オルクス大迷宮の階層は100であると認知されている。俺たちがあの隠し通路から、一体どの階層に来たのか分からないが。その階層から、次で100層目であると考えると、何かがあると考えた方が良いだろう。

 

 その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の1本1本が直径5メートルはあり、1つ1つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは30メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

 一瞬見惚れつつも、俺たちは警戒心を緩めないまま前へと進む。

 

 少し行くと、目の前が行き止まりになっているのが見えた。

 

 いや、あれは違う。行き止まりじゃない。

 

「扉、か」

 

 全長10メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「もしかして、反逆者の住処……?」

「反逆者?」

 

 ユエの言葉に引っかかりを覚え、思わず尋ねてしまった。反逆者とは何者なのかを。

 

「反逆者は、神代の頃に世界を滅ぼそうとしたとされている神の眷属。最後に残った中心の7人は敗走し、大迷宮を作って身を隠したとされている」

「へえ。じゃあ、このオルクス大迷宮も……」

「んっ。反逆者の1人が作った物だとされている。その住処の扉が、あそこかもしれない」

 

 なるほど。明らかに何かある扉だから、その反逆者の住処である可能性もあるだろう。

 

 その先には、もしかしたら地上へと繋がる道もあるかもしれない。

 

「何にせよ、ここを攻略しないとだな……!」

 

 籠手をはめ直し、俺は敢えて口にして気合を入れ直した。

 

 ハジメも俺の隣に立ち、力強く微笑みながら頷く。それを見て、また拳を突き合わせた。

 

 そうしながら、俺たちは壁にある柱を全て通り過ぎた。

 

 すると次の瞬間。目の前に、超巨大な魔法陣が出現した。

 

 かつて戦ったベヒモスを召喚した物と似ているが、大きさが桁違いである。魔法陣に刻まれている式も非常に複雑だ。

 

 大ボス以上確定の雰囲気に、一同に緊張が走る。

 

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

 体長30メートル、6つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

 

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら6対の眼光が俺たちを射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が俺たちに叩きつけられた。

 

 だが、かえってその殺気が、俺の正気を取り戻す材料となる。

 

 誰よりも早く構えた事で、俺の動き出しはヒュドラと全く同じタイミングとなった。

 

 動き出したのは、赤い紋様が刻まれた頭である。

 

 ガパリと口を開くと、炎の壁とも形容すべき凄まじい奔流が現れた。

 

 俺も黙って見ちゃいない。真正面から受けて立つ。

 

 初手から全力のスマッシュストレートをブッパし、その衝撃波で炎を押し戻し。更に、その余波で攻撃中だった頭の方も粉砕した。

 

 少し遅れて動き出したのは優花。ナイフに火属性を宿らせ、青色の紋様がある頭を息継ぎも許さぬ連撃で刈り取った。

 

 しかし、白い紋様を持つ頭が「クルゥアン!」と叫び、やられた頭を白い光で包むと、即座に復活してしまった。どうやら回復役らしい。

 

 回復役を潰さねば勝機はゼロ。それをいち早く察知したハジメが、真っ先に跳び上がりながら発砲。白頭を狙い撃ちする。

 

 しかし、今度は黄色の紋様のある頭が割って入り、一瞬で肥大化。何事もなかったかのように、弾丸を受け止めた。続けてユエの氷塊も炸裂するも、やはり無傷であった。

 

 直接白頭を狙いに行くハジメ。それを援護するべく、俺も跳び上がって天を駆けながら、眼前に現れた緑色にの紋様持ちの頭を空中ジョルトで粉砕。その勢いで更に接近しようとする。

 

 だが、何か猛烈な嫌な予感がして。俺は空中を蹴って右側に吹っ飛んだ。

 

 そうする事で眼前に出現したのは、黒色の紋様を持つ頭。奴は攻撃する事なく、鋭い双眼で俺。真っ直ぐ睥睨する。

 

 吸い込まれるようにその目を見た俺の脳裏に、魔物肉を食らった時の痛みが蘇る。更に、あの日の様子も同時に浮かび上がった。

 

 一瞬だが完全に硬直してしまい、らしくもない隙を晒した俺に対し、復活した赤頭が俺に炎を吐く。

 

 回避は間に合わない。咄嗟に俺は、クロスアームブロックの構えを取って筋肉を限界まで収縮させ、受けに徹しようとした。

 

 が、間一髪無数のナイフが刃の腹で俺を押しやり、炎の壁の外に押し出してくれた事で回避に成功する。

 

「っ、すまん優花! 助かった!」

 

 ストレートの衝撃波を出した反動で地面に離脱し、俺は転がりながら着地を行う。

 

 そこへ、戦闘開始時からずっと優花とユエを回復させたり、光の鎖を放ってヒュドラを妨害していた白崎が俺のところに現れた。

 

「マックくん、大丈夫? あんな硬直するなんて、ここ最近じゃ見なかったけど……」

「ああ。あの黒頭に見られた瞬間、色々と嫌な事を無理やり思い出す事になったんだ。対象を恐慌状態にするデバフ要員だろう」

 

 その言葉を聞いた白崎が、即座に精神安定効果のある回復魔法を使用してくれたらしく、荒んでいた俺の心が多少の落ち着きを見せた。

 

「すまん。助かった」

「ううん。それより、どうやって攻略する?」

 

 少しだけ思案し、そして答える。

 

「この際アタッカーは適当に抑えるだけで良い。デバフ、回復、そして盾役の頭を一気に潰さないとだな」

 

 白崎にもアタッカーに回ってもらい、他の攻撃役を担う頭を抑えてもらう事にした。

 

 その間に、俺とハジメでバフ頭と盾頭を一気に潰す。その後、デバフ頭も殺る。これが1番早く確実だ。

 

 作戦の概要を伝えると、白崎は「分かった!」と言い残してユエたちの方へと走っていった。

 

 未だに盾頭と、緑頭と1人で戦ってるハジメのところへ、俺は一気に踏み込んで救援に入る。

 

 緑頭をスマッシュアッパーカットで一気に粉砕。その隙に、盾頭を殴って押し戻すと、ハジメの隣に立った。もちろん空中だ。

 

「盾役の頭を頼めるか? 白崎たちが攻撃役の頭を引き受けてる間に、俺が白頭と黒頭を潰すから」

「分かった。タイミングを見て破壊するよ」

 

 一瞬の会話の後、すぐさま俺たちは作業に入った。

 

 ハジメが黄頭に取り付いたのを尻目に、俺は白頭と相対する。

 

 他の頭が俺を狙おうと、猛然と口を開けながら迫ってくる。だが、そうはさせじと様々な魔法やナイフが飛来し、上手い具合に釘付けにした。

 

 唯一攻撃を受けていない黒頭は、苛立った様子で俺を睥睨する。同時に白頭も、自己防衛するべく口を開き、光属性と思われる光弾を放った。

 

 脳裏にまた浮かび上がる、あの痛みとあの光景。身体が強張り、動けなくなりそうだ。

 

 だが、止まる訳にはいかない。無理にでも動き続ける。

 

 光弾を回避ではなくパーリングで粉砕しながら、鈍い体を強引に動かしてチャンスを伺う。このデバフの中で、はたしてチャンスを見逃さずに攻められるだろうか。

 

 そんな心配がふとよぎる。

 

 だが、俺の真横を爆速で短筒が通り抜けた事で、そんな心配は一気に吹き飛んだ。

 

 凄まじい爆発を起こし、黒頭が咄嗟に目を閉じた事で俺へのデバフが解けた。

 

 すぐに動き、俺は白頭目がけてスマッシュボディフックをブッパ。一撃で粉砕した。

 

 それとほぼ同時に、ハジメが錬成パンチで盾頭を拘束。そこからワン・ツーパンチで完全に潰した。

 

 一気に回復役と盾役が潰された事で、戦局がこちらに傾く。

 

 黒頭を追加でハジメがサマーソルトキックで蹴り潰したところで、遠距離攻撃組のメインアタッカーの声が響き渡った。

 

「〝驟爆〟!」

 

 水属性の最上級魔法が、一瞬にも満たないぐらい僅かな時間で発動した。

 

 発動させたのはもちろんユエ。指先から小さな水球を飛ばし、残った頭の真ん中付近に留まらせる。

 

 その水球は、ユエが軽く拳を握った事で、まるで花火のように爆発し、そして周囲へ切れ味抜群の驟雨を降らせた。

 

 避ける事は許されない。そんな隙間がないぐらいの雨粒が、ヒュドラを襲う。

 

 必死に残った頭は、炎の壁だの氷の雨だの光弾を飛ばすだのして何とか防ごうとするが、全て無駄に終わった。

 

 抵抗をあざ笑うかのように、降り注ぐ死の驟雨は、一切の防御行動を粉砕し尽くし、ヒュドラの残った頭が完全に息を止まるまで続く。

 

 断末魔の声を上げ、残った頭は次々と地面に倒れていった。死体へも雨が突き刺さり、地面には血の池ができてしまっている。むごい。

 

 むごいが、掃討するにあたって最適解の魔法であった。

 

 何はともあれ、これで討伐である。らしくない失敗を見せてしまったが、これで一安心できる。

 

 俺とハジメは地面に着地。そのまま、ユエに感謝の言葉を伝えようと――。

 

「ケン、後ろっ!」

 

 反射的に振り返る。

 

 そこには、ヒュドラの亡骸などなく。音なく生えてきていた、新たな銀色の紋様を持つ頭がこちらを睥睨していた。

 

 マズい。

 

「白崎、障壁を張れぇ!」

 

 その言葉とほぼ同時。ヒュドラの口が開き、そこからノータイムで極光が降り注いだ。

 

 障壁の展開は、発射までには間に合わなさそうだった。

 

 すぐに覚悟を決めると、俺は取得している身体強化系の技能を全て最大倍率で発動させ、地面を陥没させるぐらいの踏み込みから、一撃が通常のスマッシュストレート並の破壊力にまで到達したK.O.ラッシュを繰り出した。

 

 先程見たユエの魔法と同じように、衝撃波が隙間なく極光に向かっていく。

 

 1秒何発か分からんぐらいの量である事が幸いして、衝撃波であるにも関わらず、ヒュドラが放った極光は俺の目の前でギリギリ止まってくれた。

 

 だが、ここからが正念場である。

 

 強烈な無酸素運動であるが故、長続きはしないのがこのK.O.ラッシュの弱点だ。歯を食いしばり、目から血が流れるぐらい見開いて、持ち前のど根性で何とか対抗しているが、押し返すには至らない。

 

「〝天絶〟!」

 

 白崎の声で、目の前にシールドが一挙に10枚展開される。が、僅か1秒と保たずに次々と割れていく。僅かに呼吸を行えたので、ほんの少しだけラッシュを行える時間も延びてくれてるので無駄にはなってないが、苦しいには変わりない。

 

 最後のシールドが割られると同時に、極光の出力がここにきて上昇した。冗談にしては笑えない状況だ。

 

 少しずつ下がりながら、僅かでも極光がこちらに到達する時間を遅らせるべく、俺は呼吸を止めてラッシュに専念する。

 

 それでも出力が上がった影響は大きい。それに、限界を遥かに超えた状態でラッシュを継続しているので、時折衝撃波と衝撃波の隙間が生まれてしまう。そうなると、その僅かな隙間から飛ぶ極光が俺の肩を、頬を、足を貫く。だが、痛みで顔を歪める事は許されない。

 

 酸素不足で視界が明滅しており、ラッシュにも綻びが生まれ始めていて、後ろに通してしまう極光の数も増えてきた。

 

 白崎が何度も何度もシールドを貼り直し、少しでも俺に息を入れる時間を作ろうと奮闘している。

 

 ユエも炎の砲とも言えるべき魔法で押し返そうと試みている。それも無理だと悟ると、苦手と本人が口にしていた障壁魔法を試みて、白崎の援護をするべく必死になっていた。

 

 ハジメも錬成で壁を作り、壊されても即座に修復して何とか時間を稼ごうとしてくれていた。

 

 優花も貴重なアーティファクトナイフを躊躇いなく投擲し、適性ではない障壁魔法を何度も何度も付与しては展開してくれているのが、今更になって分かった。

 

 これだけ全員で抵抗しても、押し返すどころかジワジワと侵略してくるヒュドラの極光は、本当に凄まじい。

 

 俺の方は、もう限界を完全に超えてしまい、視界がブラックアウトしている。それでも腕が動いている感触はあり、半ば無意識でありながらもラッシュを続けているようだ。

 

 そのラッシュを行う腕も、鉛のように重たく感じる。

 

 どれだけ、こうしてラッシュをしていたのか。どれだけ、拳を放ったのか。何もかもが不明瞭。ただ、辛い。それだけ。

 

 苦しい。重たい。全身がダルい。

 

 根性だけで踏ん張っていたが、それも終わりにして。このまま、極光に呑まれて……。

 

(呑まれて、どうなる?)

 

 ふと浮かび上がった言葉に対して、自問自答をする。

 

 何故だか、心の奥に引っかかったのだ。

 

(呑まれたら、死ぬ)

(俺だけじゃなく、後ろのみんなも死ぬ)

(俺が諦めたら、みんな死んでしまう)

 

 極光は、俺の皮膚を確実に溶かしている。もう骨が露出してる箇所もあるだろう。

 

 そんな極光をマトモに受けたら。即死は免れる可能性があるが、どっちにしろ死ぬ運命は避けられない。

 

 ここで俺が諦めれば、死ぬ必要のないみんなが死んでしまうかもしれないのだ。

 

(それは、嫌だ)

 

 嫌だ。

 

(諦めの悪さが、俺の取り柄だろうに)

 

 何度も、それだけで乗り越えてきた。

 

(死する瞬間まで諦めるな)

(絶望的でも、心だけは負けるな)

(限界を迎えても、その先がある)

(極限がくるまで立て、打て、戦え!)

(そう教わっただろう)

 

 確かに教わった。

 

 あの人に、俺は教わった……!

 

(諦めるな)

 

 そうだ、諦めるな。

 

(弱気になるな)

 

 弱気になる時間があるなら、戦え。心だけはどんなに絶望的な状況でも、絶対に負けるな。

 

(帰りたいんだろう)

(日本に帰って、ボクシングするんだろう)

(スマブラもやるんだろう)

(世界大会を制覇するんだろう)

(今諦めたら、全部できなくなるぞ)

 

 諦めるな。

 

 諦めるな。

 

 諦めるな!

 

「塵になるまで、戦え……!」

 

 言葉が口から出た事に、俺自身が1番驚いた。

 

 酸欠で口が回らず、皮膚が溶ける痛みで意識は朦朧としていたはずなのに。

 

 ふと気がつくと、ラッシュを繰り出しても全く疲れていない事が分かった。

 

 さっきまでは、確かに酷い倦怠感を覚えていたのに、どうしようもなく不思議だ。

 

 だが、これ幸いなのは事実。

 

 やけに明瞭となった視界の中、俺はハッキリと極光が細くなっている事に気がついた。

 

 諦めずに障壁を何度も展開してくれていた白崎たちのシールドが、数秒は耐えるようになったのだ。

 

 それから数秒後。極光が完全消え、ほんの僅かな時間だけだが静寂が戻った。

 

 銀色の紋様持ちの頭は、まさか極光が俺の拳で防がれるとは思ったていなかったらしい。随分と人間らしい、驚愕の表情を浮かべている。

 

「優花。ポーション、を」

「っ、分かった」

 

 元から俺は、あの回復する水――ポーション――をほとんど持ってはいない。みんなの分をなるべく温存すべく、試験管型の容器数本を持っているだけだ。

 

 だが、流石にこの傷は放っておいたら死ぬ。

 

 何せ、皮膚が溶けているのだ。このまま放置していたら、そのうち心臓まで逝きそうである。

 

 優花は、ポーチからポーションの入った容器を取り出すと。それを、何故か自分の口に含んだ。

 

 そしてその行為を咎めるよりも早く。己の唇を、俺の唇に重ねてきた。

 

 同時に、俺の口内に水が流れ込んでくる。

 

 飲み込まなければ、逆流して息ができなくなる。俺は必死に、口移しで口内に入れられたポーションを喉を鳴らして飲んでいった。

 

 即座にポーションの効果は発揮され、やや遅いながらも傷が塞がり始めた。

 

 なお、まだ優花は口を離さない。絶賛口移し……じゃねえわこれ。キスだわ。

 

 活力は戻ったし、痛みは残っていながらも幾分かマシになった。

 

 いやだが、これはツッコミを入れないとダメだ。

 

「ぶあっ……おま、優花何をするんだ!?」

「……腕、骨が見えそうなぐらい酷い傷だったから」

「容器を口につけるだけで飲めたと思うんだけど?」

「飲み込めない可能性もゼロではないでしょう?」

「いやそうだけど! 絶賛戦闘中だぞ俺たち!」

 

 そのまま優花に詰め寄りそうになる。が、自分の言葉で今ヒュドラと死闘をしている最中だという事を思い出し、軽く頭を振って奴と向き合う。

 

「はあああ。後で話し合いだからな」

 

 言い訳諸々。いっぱい聞かなきゃならんし、俺も色々と話さなきゃならん。

 

 そのためにも、まずはヒュドラを仕留めなければならない。そして、行きて帰らねば。

 

 おそらく、肉体が傷ついた事で自動発動した〝逆境強化〟と。更に、限界を超えて極限にまで至った事で、何らかの強化系の派生技能に目覚めたらしい。

 

 後で知る事となるのだが、この時俺が目覚めた技能の名前は、格闘術の派生技能〝闘神〟である。

 

 詳細は分からなかったが、今現在、景色が非常にゆっくりと見えている事と何か関係があるのだろう。

 

 そう勝手に解釈すると、俺はいつの間にか散開してヒュドラのマシンガンのような光弾攻撃を引き受けてくれているみんなに、矢継ぎ早に指示を飛ばした。

 

「ハジメ、電撃パンチを!」

「了解っ!」

 

 攻撃を見事なスウェーとダッキングで回避していたハジメが、俺の言葉を受けて一気にヒュドラの近くへと潜り込んだ。

 

 当然、ヒュドラはそれに反応し、ハジメに攻撃を集中しようとする。

 

「白崎、ハジメにシールド!」

「う、うん! 〝天絶〟!」

「ユエはヒュドラを挑発してくれ!」

「んっ!」

 

 連続で展開されたシールドがハジメを覆い、ヒュドラが放った光弾の嵐を次々と弾く。

 

 ユエは、上級魔法をヒュドラの顔面部に連発。その攻撃に苛立ったかのように、ヒュドラはユエに双眼を向ける。

 

 だが、その時には既に、ハジメがヒュドラの腹に〝纏雷〟を宿した拳を何度も何度も叩きつけていた。

 

 一気に動きが鈍くなり、吐き出される光弾の数が激減。オリジナルの固有魔法より威力は低くても、直接何度も叩き込めば、このラスボスみたいなヒュドラでも動きを鈍らせる事ができるようだ。

 

 洒落臭い。そんな状況を打破すべく、ヒュドラが口を大きく開いた。あの極光をまた繰り出すつもりらしい。

 

「優花、ナイフは残ってるか?」

「1本残ってるわね」

「んじゃ、俺の拳に合わせて動かしてくれ。1回だけアイツ目がけて本気で殴るから」

 

 極光が放たれるまでの刹那。必殺の一撃を繰り出す準備をしながら、俺は優花にそんな頼み事をした。

 

 彼女からの返答の言葉はない。しかし、俺の右側にフワフワと浮くアーティファクトナイフが、彼女の答えを何よりも雄弁に示していた。

 

「クルゥァアアン!」

 

 極光が、放たれる。

 

 それと同時に、俺は数歩走った後に〝右足〟を大きく踏み出して地面を蹴り、沈み込むような姿勢から一気に〝左拳〟を突き上げた。

 

 身体強化系の技能全てをフル活用しての、〝左拳〟でのK.O.アッパーカットだ。

 

 空間が歪むほどの勢いで突き上げた左拳は、極光と空中で正面衝突……する事はなかった。

 

「クルゥァア!?」

 

 極光が、突き上がった拳の方向へ弾け飛んだのである。

 

 この極光は、ヒュドラのとっておきなのだろう。その一撃が、こうも簡単に〝拳で〟弾き飛ばされた。その事実に、流石のヒュドラも驚愕と困惑の声を上げていた。

 

……まァ、そんな事する暇は本来ないはずなんだけどね。

 

 K.O.アッパーの打ち終わりで空中にいた俺は、着地する事はなく〝空力〟を発動させると、力の限り踏み抜いて一気に飛翔した。

 

 追従するナイフがスパークしたのを確認して軽く微笑んだ後、俺はヒュドラの顎下付近で再度〝空力〟を発動。空中に生まれた足場に右足から着地し、そして〝左足〟で強烈に踏み抜く。体は限界まで沈み込ませて。

 

 連続発動は初めてだ。全身が砕けそうだし、実際に軋む音も聞こえる。

 

 だが、こいつしか確実にヒュドラを仕留められる技がない。

 

「ウリャア!」

 

 K.O.アッパーカットだ。右拳での。

 

 極限領域にまで集中力が高まっている事で、初めて実行に移せた連携技。異世界という環境と、瀕死からの帰還がなければなし得なかっただろう。

 

 振り上げられた右拳は、空気を捩じ切る勢いでヒュドラの顎に到達。それとほぼ同時にヒュドラの首筋に突き刺さった優花の燃えるナイフの刃目がけて、俺は渾身の一撃をヒュドラに見舞った。

 

ドパンッ!

 

 空気が破裂するような音が鳴り響く。

 

 猛烈な勢いでヒュドラの頭は跳ね上がる……を簡単に通り過ぎ、首がブチブチと生々しい音を立てながら真っ二つに千切れてぶっ飛んだ。

 

 籠手に刺さってしまったアーティファクトナイフを抜き、自由落下に身を任せながら俺は経過を見守る。

 

 巨体ごと綺麗にぶっ飛んだヒュドラは、地面に叩きつけられると。そのまま力なくクタリと、残った体を地面に触れさせた。

 

 念のため感知技能を活用するが、ヒュドラから生命反応はない。

 

 地面に降り立った俺は、そのまま膝をガクリと折る。

 

「ケンっ!」

 

 優花が駆け寄ってくる。それに少し遅れて、ハジメたちも。

 

「はは、勝ったぞ……」

 

 一気に力が入らなくなる体。それでも俺は、そうやって勝利宣言をした。

 

 勝ちだ。俺たちの。




 魔法がなかったらK.O.パンチ連発なんて無理だった。

※マックくんの技紹介
★派生技能〝闘神〟
✪逆境強化が発動したタイミングで自動的に発動。ゾーン状態に突入し、自身に適用されている身体強化系の強化倍率を全て2倍する。
…固有技能〝格闘術〟の派生技能。効果は〝瞬光〟と〝限界突破〟を複合した感じ。ゾーン状態に突入する他、とんでもない上昇倍率を身体にかけてくれる強力な技能。反面、逆境強化をトリガーとするので発動がやや難しい。

 身体強化系の強化倍率を2倍するのがミソで、これがまあ狂ってる。

 〝身体強化〟は魔力と魔耐以外のステータスを2倍する。

 〝逆境強化〟は既に倍率がかかったステータスはそのままに、そこから追加で5倍する。

 〝集中強化〟は部位強化なのであまりアテにはならないが、1つのステータスを3倍にできるイメージ。

 で、〝闘神〟はそれぞれの強化倍率を更に倍にする。つまり〝身体強化〟は4倍に、〝逆境強化〟は10倍に、〝集中強化〟は6倍にする。

 {(素のステータス×身体強化)×逆境強化}×集中強化の式となる。ステータスプレート上には集中強化した場合の最大ステータスまでは記載されない。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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