異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 ギャグとシリアスが同居する作品ですが、どうぞごゆるりとお楽しみくださいませ!


不安、だけど

「シュッ! ハッ!」

 

 夜闇の中、中庭で残像を作り出しながら振られる拳2つ。

 

 他でもない俺の拳だ。シャドーボクシングしているのである。

 

 こうでもしないと、落ち着かないのだ。

 

 あの後、飯を食ったりイシュタルに色々と説明をして貰って、場を移動して【ハイリヒ王国】なる所にまで連れて来られる等々あったのだが、どれも全く頭が理解しようとしなかった。

 

 特にイシュタルの話だ。俺たちが何故、こうしていきなり見も知りもしない場所に移転させられたのか。有り体に言えば、どうして異世界へ送られたのか。その理由を話して貰ったが、まあふざけた物である。

 

 細かい話は忘れたので省くが、取り敢えず人類が魔人族によって滅ぼされそうって事は理解した。だが、その後が問題だった。

 

「戦争しろ」である。魔人族を討ち滅ぼしてくれ。そう言いやがった。

 

 あの場において最も不幸だったのは、皆を纏められる大人がほぼ不在だったと言う事だ。

 

 異世界へ送られたのは、あの時教室に居た人間全て。その中で唯一の大人が、お弁当を生徒と食べていた社会科の畑山愛子先生ただ1人だった。

 

 畑山愛子先生は、生徒間ではかなり人気のある先生なのだが、何だか少し頼りない感じが否めない人である。

 

 ただ1人の大人として、最初はイシュタルに食って掛かった先生であったが。元の世界に戻る手段は存在しないと告げられると、すぐに動揺して口が回らなくなってしまった。

 

 当然、その事実を聞かされたクラスメイトもパニック状態に陥る。怒鳴る者、泣く者、ブツブツ呟いてはケタケタ笑う者。収拾がとてもではないが付かない状態だ。

 

 で、そんなクラスメイトを先生よりも上手に纏めた……いや、纏めてしまったのが天之河光輝である。

 

「実に最悪のタイミングで戦争するとか言っちゃったんよなぁ、天之河」

 

 彼は正義感が強く、虐げられる人類を放ってはおけない性格なのは分かっているのだが。あんな軽率に、人類のために戦うと言える精神性を、俺は小一時間問い詰めたい気分だ。

 

 結局、その天之河に乗せられる形で皆が戦争へ参加する事が決まってしまった。

 

 ぶっちゃけ断る選択肢はないも同然だったので、天之河がカリスマ性を発揮して混沌状態のクラスメイトを纏めてくれたのは案外ありがたい事だったりもするのだけど。

 

 いやでも、やっぱ軽率に戦争するって踏み切れる部分だけは理解できん。

 

 平和ボケしている日本人に、果たして戦争ができるのか?

 

「……人を殴るのは慣れてる。けど、それはスポーツと言う枠組みの範疇。生物の命を奪う物ではない」

 

 魔人族。イシュタルはしきりに「人間ではないバケモノだ」と口にしていたが、本当にそうなのだろうか? 何せ文字が文字だ。人とある。

 

 俺たちの世界で言う所の、黒人や白人に当たる者だとしたら。正直、俺は戦えるか分からない。

 

 モヤモヤとした気持ちを振り払うかのように、俺は我武者羅にシャドウボクシングを続ける。

 

 仮想敵として選んだ世界チャンプの攻撃と防御をイメージしながら動いている間だけは、嫌な事を想起せずに済む。

 

 左ジャブ、右フック、左でリバーブロー。返しの攻撃をスリッピングで回避して右のロングアッパーで逆に反撃。防がれる事を想定してすぐに身を引き、ガードをやや上げて様子見。ボディ狙いのアッパーをパーリングで叩き落とす。一瞬の隙に左のショートアッパーでガードをすり抜け、上がった顎に打ち下ろしの右。

 

 熱が入ると、動きのキレも増していく。風切り音が徐々に鋭くなり、実際の試合と似た呼吸になっていく。

 

 当然、周りの事は見えなくなるので。俺は、目の前に人が立っていたのに全く気が付かなかった。

 

「……え。ねえ、真久野!」

「んえっ!?」

 

 こうして大声で呼ばれる事で、やっと俺は目の前に人が居る事を認識した。

 

 我ながら視野が狭すぎる。

 

 俺の名字を呼んだのは、クラスメイトの園部優花であった。

 

 美人系の顔立ちをしていて、やや勝気でツンツンな言動をしている女子生徒。俺の中での認識は、大体そんな感じだ。

 

「ビックリした……園部か。どうしたんだ、急に」

「何だか眠れなかったから、中庭で夜風に当たろうと思ってたの。そしたら真久野が居たからつい」

 

 俺以外にも、眠れなかった人が居たらしい。

 

 少し親近感が湧く。

 

「園部も眠れないのか。なら、俺と一緒だな」

「真久野も?」

「ああ。心の奥がモヤモヤしてどうも眠れないから、取り敢えず身体を動かしてたんだ」

「……ちょっと意外かも」

「おいコラ。意外って何だよ意外って」

「え、いや。凄く失礼だけど、あまり悩みがなさそうな人だなと思ってたから」

「酷えなオイ」

 

 日々めちゃくちゃ悩みながら生きてるんですがそれは。

 

 ボクシングで強くなるにはどうして良いのか。スマブラで安定して勝つには何をするべきか。昼頃までは常に考えていた。

 

……異世界に送られた現在は、そんな悩みを抱えるよりも先に考えるべき事柄があるのだけど。

 

「ボクシングとゲームにしか興味がなさそうな阿呆でも、流石にこの状況には不安を覚えるんだよ」

「いやそこまでは言ってなくない?」

「お前が言ってた事は大体こんな感じの意味合いだろ。 ……戦争しろと言われて平常心で過ごせる人の方が少ないと思うけどな。どんなにボクシングで人を殴り慣れていても、殺しになれば別問題だ」

「不安なの、私だけじゃなかったんだ……」

「俺たちは平和ボケしてる日本人だ。そんな奴が、いきなり戦争しろと言われて不安に思わない訳がない」

 

 本当にごく一部だけだろう。明日から頑張ろうと思い、グッスリ熟睡できる人は。

 

 多くの人は、言いようのない不安を感じていると思う。

 

 特に女性陣。戦いと無縁な人が確実に多い女性陣は、今になってとんでもない不安感によって押し潰されそうになっている人が多い事だろう。

 

「まあ、皆で頑張ろうや。独りなら潰れてしまうかもだが、皆で助け合っていけば何とか乗り越えられる。そう信じて俺はこれからを過ごすつもりさ」

 

 そうやって過ごす中で、上手く戦争を回避する方法を見つけられたら良いのだけど。

 

「真久野って、結構希望を捨てないタイプ?」

「希望を捨てないと言うか、シンプルに諦めが悪いだけだな。諦めが悪くないと、ボクシングでは勝ち切れない」

 

 自分より遥かに体重が重い人と戦う時、最後の最後で大事になるのが〝諦めの悪さ〟である。

 

 同階級の中では屈指のハードパンチャーである自分でも、ディフェンスが上手い相手は流石に辛い物がある。そんな時でも、諦めずに食らいつく事で、数少ない隙を突いて何とか逆転で勝ちを拾えた回数は非常に多い。

 

 スマブラも同じだ。どんなに負けていても、自キャラの爆発力と己の技術を信じ、諦め悪く抵抗する事で拾えた勝ちは数知れずである。

 

「体重差50kgとか普通にある階級で戦ってるんだ。必然的に諦めが悪くなるさ」

「え、ちょっと待って何それ!? ボクシングって同じぐらいの体重の人と戦うんじゃないの!?」

「いやあ、絶望的なぐらい強い人と戦ってみたくてさ。その中で、どこまで俺のパンチが通じるか試してる。折角無差別級って物もあるから、そいつに出場してるんだ。日本人で出場してるのは俺だけなんだけどね」

 

 試合の度に海外へ行くので、結構大変なんだよなぁ……。

 

 ボクシングを15歳から始めて、そこから何試合アマチュアでやったかもう覚えてないのだが、取り敢えず負けてない事だけは覚えている。

 

 その後プロテストを16歳になった瞬間に受けて合格し、17歳になった翌日に無差別級に初出場。世界戦での戦績は、今の所3戦3勝3KOだ。プロになってから行った試合数が絶対的に少ないので、舐められがちな点がついこの前までの悩みだった。

 

「お、思ってたより凄い人なのね。真久野って」

「凄いかは知らないが、変人かつ奇人の自覚はある」

 

 普通ない。この体重で無差別級に出ようなんて人は。

 

 それでも俺は出るけどね。自分のパンチがどこまで通用するか試したいし。

 

「……この際、異世界でもどこまでパンチが通用するかを目的に動いてみようかね」

「え、本気?」

「冗談だ。流石に」

 

 本心? 半分ぐらいは本気ですが何か?

 

 この拳で、少しでも救える何かがあるなら。当面は可能な囲で頑張ってみるのもありだと思っただけである。

 

「ま、真久野ってホント変わってるのね……」

「さっき言ったろ、変人奇人の自覚はあるって。だがまあ、そんな変人との会話であっても、話してる間だけは不安をある程度取り除けてるなら嬉しいね」

「……それは、ありがと」

「おう。何だ、園部って勝気でツンツンしてるけど意外と素直な部分もあるのな」

「ちょ、意外って何よ!? 流石に失礼でしょそれは!」

「園部も俺に対して似たような事言っただろうに」

「うぐっ、それを言われると……」

 

 こいつ面白いな。弄り倒したらきっと良い反応をしてくれそうだ。

 

 しかし、たまにはハジメ以外の誰かと話すのも悪くない。こんな特殊な状況下では尚更。

 

 不安な事柄を話すって、本当に大事っぽい。

 

 未だグヌヌとしている園部を見て、俺もまた不安が少し取り除かれている感じがした。




※マックくんの技紹介
★左ジャブ→右ショートフック→左ショートボディアッパー
…スマブラマックくんで言う弱攻撃3段締め。もちろん左ジャブの発生は1Fである。

 超高速発生を活かした先制攻撃と割り込み攻撃として使用される。ちなみに左ジャブは受けた事に気がつかないまま連撃を受ける人が多い。更に2段目のフックはテンプル(こめかみ)打ちで3段目のボディアッパーはリバー(肝臓)打ち。しっかり人体の急所を打ち抜いてくるので回避必須。

 ぶっちゃけ左ジャブ単体で必殺扱いされてもおかしくない性能をしているのは内緒。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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