異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
ヒュドラを倒した。それはどうやら事実らしく、数分が経過してもヒュドラの亡骸からは生命反応を感じない。
それから更に少し、時間が経過すると。今の今まですっかり存在を忘れていた扉が、独りでに開いたのである。
新手かと思い、身構える。だが、その奥から何かが出てくる気配はまるでない。
俺はノソノソと立ち上がると、重たい体を何とか動かしながら、みんなと一緒に扉の奥へと足を進めた。
「こいつは……」
そして、驚愕した。
扉の奥に広がっていたのは、想像を遥かに超えるぐらい広く、そして豪華な住処と言える場所だったのだ。
まず、目に入ったのは太陽である。もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と感じたのである。
そのままゆっくりと中を探索すると、出るわ出るわオーバーテクノロジーの塊。
普通に生活をする上で必要なリビング、トイレ、寝室、風呂(温泉である)はもちろんの事。畑や家畜小屋、川なんかまでもが存在していたのだ。
3階建てらしく、久しく見た上階への階段は3度上ったところでなくなっている。
2階には書斎や工房らしき部屋があったが、鍵がかかっていて入れなかったので、すぐさま3階に上がったのだが。その3階は、どうやら部屋が1つしかないようだ。
奥の部屋に繋がっていそうな扉を開けると、そこには直径7、8メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ1つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。
そしてその奥には、ローブを羽織った骸骨が椅子に座っていた。
「……何だろう、この部屋」
ハジメの言葉は、俺が言いたい事をまるっと代弁してくれている。
どんな目的で作られたのか、サッパリ見当がつかない。
だが、調べなければ先へは進めなさそうな雰囲気である。
取り敢えず俺は、魔法陣の中心部の方に立ってみる事にした。俺のする事を汲み取り、ハジメたちも一緒に俺の隣に立つ。
すると、部屋いっぱいに突然眩い輝きが広がった。
咄嗟にクロスアームブロックの体勢で光を防ぐ。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからの事が駆け巡った。
数秒すると、感覚的に光が収まってきた事が分かり、俺はガードを解いて目を開けた。
すると、
「あれは……!?」
目の前に、骸骨と同じローブを着たメガネ男が現れたのだ。
いきなり人間が登場した事に、驚きが隠せない。だが、まるで生気を感じさせない様子に、俺は怪訝に思いながら男を見つめる。
何だか、ホログラムみたいだと勝手に感じた。
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」
話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。
「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないという事を」
そこから始まった話は、衝撃の連続であったが、少々長いので概要だけ説明しよう。
反逆者……ではなく、彼らは解放者と言うらしい。
解放者は、全員が神代から続く神々の直系の子孫である。ユエと似たような者の集まりと考えれば分かりやすいだろう。
そんなある種のバケモノ集団である彼らだが。ある日、解放者のリーダーがとんでもない事を偶然にも知ってしまった。
それは、この世界を支配している神々が、人間に遊戯感覚で戦争を仕掛けさせ、そして互いに滅んでいく様を笑いながら傍観しているという事だ。
「……だが、我々は戦わずして敗北した。神々がどこに潜んでいるかまでは突き止められたのだけど。それを知った神々は人類に対してこんなお告げを出した。解放者とは、世界を滅ぼす事を目的とする危険思想を持つ人間の集まり。反逆者であると」
神に対する狂的な信仰心を持っていたその時代の人類は、その言葉を鵜呑みにしてしまった。
「守るはずだった人類から牙を向けられて、我々解放者は次から次へと討たれていった。確かに解放者は強力な力を持っていたけど、守護対象にその力を振りかざす事はできなかったんだ。結果、人類からの迫害を受けて、最終的に残ったのは中心の7人だけとなった」
生き残った解放者たちは、その後大迷宮を作り出し、そのまま潜伏したそうだ。
己が課した試練を全て乗り越えた勇者に、自身の持つ神代魔法を授けるために。そして、あわよくば神殺しを受け継いでもらうために。
「だが、私は君に神殺しを強要するつもりはない。授けた力を、どのように扱おうとも構わない。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらん事を」
そう告げると、オスカーは軽く微笑んで記録映像を止めようとする仕草をして。ふと立ち止まった。
「ああ、そうだ。これは私……いや、僕からの個人的なお願いなんだが。もしこの先、ミレディ・ライセンに出会う事があったら。こう伝えてくれないか」
頭の中に、何かが入ってくる。謎の頭痛に思わず呻いたが、まだオスカーの言葉は終わっていない。
耳だけを傾けて、次の言葉を待つ。
「永遠に等しい時が過ぎたとしても、たとえ魂だけになろうと、必ず君を迎えに行く。今度は、僕が君を見つけると。骸になっているであろう僕についている指輪を見せながら、そう伝えて欲しい。その言葉と共に、とある魔法が起動する仕掛けを指輪に仕込んであるから」
その言葉が終わると同時に、脳内に新たな魔法の使い方が刻まれた感じがした。おそらくこれが、オスカーの使っていた力なのだろう。
「それじゃあ、今度こそ話は終わりだ。永劫の幸福が、君たちに訪れる事を。心から祈っているよ」
オスカーの記録映像は、ここでスッと消えていった。
まだ頭がズキズキと痛むが。俺は魔法陣の外に出て、オスカーであろう骸の前に膝をついて、真正面から見つめた。
神代の頃に戦った者。歴史の座学で、神代は既に何千年も前の話と記憶している。
どれだけの時間、ここで孤独に過ごしたのだろうか。
そして、彼が亡くなってからどれだけの人が。ここに辿り着いたのだろうか。
色んな疑問が浮かんでは消えていく。
だが、これだけは口にしておこう。魂はここにあるか分からないが、それでも。
「俺たちの最終目標は、元の世界に帰る事だ。神殺しを成す必要があるかは分からない。だけど、その道中で。その狂った神を殺す事になったら。その時は、貴方たちの願いを引き継いで、全力で戦う事を誓おう」
この拳に賭けて。
彼の話に、俺は多少なりとも心を動かしてしまった。
実は、解放者の成り立ちとその末路を聞いてる時は、そこまで心が揺れてなかった。俺の願いは元の世界に帰る事。この世界の事は、この世界の人間が変えていけば良い。そう考えていた。
彼が最後に、悲しそうな顔でこちらに〝お願い〟をしてきた事が、心を動かしたのだ。
弱いのだ、このような事象には。
「やれやれ。甘いのは変わってないな」
その甘さを、心地良いと言ってくれた人がいたから。俺は未だに、この甘さを捨てられてないんだけど。
骸から指輪を抜き取り、ローブも外し、更に骸の一部を取り分けると、ハジメたちに目配せした。
「……お墓、作ろうか」
ああ、そうしよう。墓石に何か刻んでも良さそうだ。
先にユエの水属性魔法で骸を洗い流してから、俺たちはみんなで手分けして骸を運ぶ。
ハジメが錬成で椅子の近くにそれっぽい墓を作り出し、骨壷にオスカーの骸を次々と入れて墓石の前に置く。
墓石には、こう刻んだ。
「偉大なる〝守護者〟。そして〝解放者〟オスカー・オルクス。ここに眠る」
お墓が完成し、みんなで一通り手を合わせると、黙って階下へと降りていった。
「ありがとう」
手に指輪と骸の一部を持ち、最後に部屋を出た俺の耳に。そんな言葉が聞こえた気がした。
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オスカーの指輪のお陰で、封印されていた部屋が全て閲覧できるようになり、ハジメが食いつくようにして書物を読み漁っているのを見たのが数時間前。
現在の俺は、絶賛風呂でくつろいでいる最中だ。
ライオンの口からお湯が出るとかいうお約束の元に造られたであろう温泉は、疲労した体にはとても染み渡る温かさを提供してくれている。
脱力して体を投げ出し、天井を見ながらボンヤリとしていた俺は、不意に耳に入った足音を聞いてピクリと反応してしまった。
ハジメ、ではない、当然ながら白崎でもユエでもない。彼らは、俺が1人で風呂に入ると知ってるはずだから。
……そーいや、あの人には伝え忘れてたわ。
「えっ!? ちょ、ケン!?」
「あー、すまん優花。先にお邪魔してる」
優花さんだった。湯けむりでハッキリとは分からないが、しっかりバスタオルで身を隠しながら風呂に入ろうとしていたようだ。
何となく、俺も腰元をタオルで隠していたのだが。どうやら大正解だったようだ。これでタオルを巻いてなかったら色々とヤバかった。
「悪かったな。ハジメたちには風呂に入ると伝えたんだが……丁度その場に優花がいなかったのを忘れてた」
「え、あ、ううん。ボーッとして風呂に入ろうとした私も悪いから。脱衣所で服とかあったのに気がついてたら、流石に後にしようと思ったし……」
「まあ、事故だ事故。不可抗力の。すぐ上がるから、先に体を洗っててくれ。その間に消えるから」
湯船に入って少ししか経過してないが、まあ後で入り直すのも悪くないだろう。
そう思い、湯船から出ようしたのだが。
「えっと……その、折角だしこのまま一緒に入らない? 私、急いで体を洗ってくるから。話したい事もあるの」
「……後じゃダメか?」
「後、でも良いけど。でも、今はケンと一緒に過ごしたい気分だから」
うーん、このクソ可愛い生物め。断われん。
特に手を出す訳ではないし、混浴ぐらいなら大丈夫かな?
「まあ、別に構わないぞ。外国じゃ温泉での混浴ってのは、プールに入るのと同じような扱いらしいし。一緒に湯船に浸かるぐらいなら問題ないさ」
「え、外国って温泉とプールは同意義の物なの?」
「水着を着て入るぞ。日本みたく全裸で入ったら即刻逮捕だ。最初に入った時は驚いたなァ……」
混浴の許可を出すついでに、過去をふと思い出してそんな事を口にした。
初めての海外での試合後、俺は現地の温泉に足を運んだのだが。その時、日本とはまるで違う温泉のルールに度肝を抜けれたのをこの場で思い出したのだ。
混浴の許可が出て、いそいそと体を洗いながら。優花は興味深そうに、俺の話に耳を傾けている。
「公共施設の温泉イコール風呂に入るっていうのは、ある意味で日本独自の文化っぽいんだよな。外国だと温泉イコールめっちゃ温かいプールって認識らしいぞ」
「ふーん。じゃあ、泳ぐ人も多い?」
「時間帯にもよるが、人が少なければ泳ぐ人もいる。ただ、温かい水の中で泳いだらあっという間に脱水になる可能性が高いから、気をつけないとすぐ救急車だ」
「まあ、サウナで筋トレするみたいな物だもんね、温泉で泳ぐって」
キュッと蛇口を閉める音が聞こえ、シャワーが止められたのが分かった。どうやら洗い終わったらしい。
チャプンと湯船に入り、俺の隣にきた優花。それを見て、思わず一言。
「へえ、ストレートな髪だと印象変わるな」
普段はゆるゆるフンワリな髪の毛をしている優花だが、髪の毛を洗った直後だとストレートな髪型になるようだ。ちょっと新鮮である。
それと何だか懐かしい感じが……。
「水泳の後なんかは逆にボサボサになっちゃうから大変なのよね」
「男にはあまりない悩みだなそりゃ」
「……ケンも、上を脱ぐとそんな感じなんだね。腕は普段から見てるけど、腹筋とか胸筋もこんなにムキムキなんだ」
あー、確かに優花は、俺が上裸でいるのを見るのは初めてだな。そんな感じの感想になるんだ。
基本的にタンクトップを着ているので、日本に住んでた頃も含めて俺の腹筋や胸筋までも見た人はほぼゼロだろう。
「同年代じゃ優花が初めてかもしれん。試合中もタンクトップだからな、俺」
「へえ……ふふっ。ちょっと得した気分」
湯けむりが影響してるのだろうか。何だか、優花の笑みが艶っぽい。
ドキリとして、俺は咄嗟に目を逸らした。
「あー、そんで、何だ? 話したい事って」
露骨な話題逸らし。それに優花は、軽く笑いながら答えた。
「ちょっと、ケンの寝言について聞きたくって」
「寝言?」
「うん。寝てるケンを見てると、高確率で出てくる名前があるの」
え、何だそれは。
まるで浮気調査中の気分である。
「〝ゆうな〟って人。心当たりはある?」
「あー……」
あ、めっちゃあるわ。なかったら殴られるぐらいある。
「心当たりありまくりだな、その名前は」
「だれ?」
「初恋の人」
いつか話すつもりだったので、俺は特に隠しはせずに答えた。
「それと。俺がボクシングとスマブラ両方を始めるキッカケになった人だ」
問い詰める気満々だったであろう優花が硬直した。
この話、多分だがしっかり話すとなると結構長引くと俺は考えている。
「風呂上がったら全部話す。だから、少しだけ我慢してくれるか?」
「……分かった。今のケンの原点ともなり得る人の話は、私もじっくり聞きたいし」
本当に聞き分けの良い人で助かる。
ちなみにこの場で話したら、確実にお互いがのぼせて溺れるだろう。
「その代わり。風呂から上がるまで、ピッタリくっつくからね」
「……お好きになさってください」
やっぱのぼせるかも。
次回、マックくんの原点を語ります。屈指のシリアス回に仕上がっておりますが、楽しみにしてくれると嬉しいです。
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