異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
帝国。正式名【ヘルシャー帝国】だったか。
傭兵や冒険者の聖地的な国であり、とことん実力主義である。それと、奴隷商が盛ん。そんな記憶を頼りに、謁見の間に優花と共に立った俺は、目の前にいる帝国の使者を見て、記憶は間違いなかったと確信するに至った。
一応、王様たちがいるので取り繕ってはいる。だが、少しやりにくそう……というか、むず痒そうな顔をしている。多分、普段はかなり砕けた雰囲気で過ごしているのだろう。
形式的な挨拶を終えた帝国の使者と護衛の男たちは、まずは天之河の事をジロジロと見て。怪訝そうな表情を浮かべた次に俺の顔を見ると、僅かに笑みを浮かべた。
「……ほう。勇者殿及び、その御一行はかのベヒモスを討伐したと聞き及んでいるが。随分と若々しいのですなぁ。それに行方不明だった真久野ケン殿。貴方も随分とお若い。だが、流石は召喚してすぐの実戦訓練でベヒモスを単騎討伐しただけはありますな」
「逞しい顔をしてるって事ですかい? それとも、場馴れしてるの方が正しいか……」
「フッ、中々に面白い御仁。神の使徒でなければ、即座に帝国軍の大隊長の座を与えたいぐらい、強者の雰囲気が出ておりますでな」
単騎討伐ではない。そう言いたいが、多分無駄だろう。召喚直後、無能と称されていた南雲ハジメが、実は最大の功労者とか言っても信じなさそうだ。帝国の人なら、興味は持ってくれそうだが。
にしても、帝国の人は忖度なしに話してくる雰囲気がある。俺もやりやすい。
捉え方によっては態度が悪いとも見えるので、天之河に関しては少し不機嫌だが。俺は知らね。
「……あの、俺たちも65層を攻略しましたよ。その証拠でしたら、いくらでも出せます」
あらまあ、聞き分けのないお子様みたい。
そんな俺の態度を面白そうに見やった帝国の使者は、やはり口の端に笑みを浮かべながら答える。
「存じ上げておりますとも。ただ、あまりにも若々しい雰囲気でしたのでな。ほんの僅か。ええ、本当にほんの僅かですが、こちらは疑いの心で見ているのでございますよ」
「何をっ……」
「そこで。ここは1つ、私の護衛1人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」
へえ、中々に面白い提案をするじゃないの。
勝手に感心している俺にも、帝国の使者の視線は飛んできた。
言葉ないが、すぐにその意図を察して頷く。
俺も模擬戦をする事になるようだ。
「決まりですな。では場所の用意をお願いします」
こうして、急遽模擬戦の実施が決定した。
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俺がいつものように準備運動をしてる間に、天之河と帝国の護衛さんとの模擬戦が始まった。見てないけど。
一応見たは見たが、護衛さんが見た目の割にはかなりの闘気を持ってる事以外は興味が失せてしまったのだ。
遠くで天之河が何やら言ってるが、まるっと無視である。
ピンクのスウェットを着込み、ボクシンググローブ型の籠手を装着して軽くシャドーボクシング。これが1番、俺にとっては良い準備運動なのだ。
そうこうしてると、帝国の使者が直々に俺に話しかけてきた。
「真久野殿。少し良いですかな」
「え、はい。なんすか? それと、俺の前では敬語じゃなくて良いっすよ。何かくすぐったいんで」
「おう? なら、お言葉に甘えようか」
あっという間の変わり身。どうやら彼も、敬語にはうんざりしてたらしい。
「率直に聞くがな。お前さん、この世界に召喚されるまでは何してたんだ?」
「ボクシングっすよ。ひたすら拳で殴り合うスポーツ。一応、世界大会に出場してました」
「ほう、拳でか。帝国の拳闘大会に似ているな」
「拳闘大会?」
「帝国の催し物さ。不定期だが、帝国内の腕自慢が上半身のみで。更に言えば拳をメインにして戦う大会だ。一応魔法の使用も認められてるが、拳だの腕だのから魔法出せる奴なんてほんの一握りだから、ほぼほぼ殴り合いオンリーの戦いとも言える。無論、賞金も出るから毎回参加者はかなりのもんだぜ?」
かなり興味をそそられる。帝国には、どうやらボクシングに近いルールで大会を行ってるらしい。
機会があれば、俺も行ってみようかな?
てか、ライセン大渓谷から帝国って近いよね。ハジメたちと合流する前に帝国へ寄り道して、開催してたら飛び入り参加しようか。
チラリと優花を見ると、苦笑いしながら頷いている。何でもお見通しらしい。
「直近で帝国へ行くかもなんすけど、拳闘大会の実施予定はあったり?」
「するな。実にタイミング良く、3日後にスタートだ。今日王国を出発すれば、夜頃には帝国に到着だから……そこからは拳闘大会の準備でこっちは大忙しさ」
「ナイスタイミング。じゃ、俺も出場しますわ」
「おや、神の使徒なら勝手は許されないんじゃないか?」
「また行方不明になりゃ良いですよ。こんなところに長居してたら、頭がおかしくなっちまう」
主に勇者の存罪である。
ちなみにその勇者は、無様にも護衛によって地面に転がされていた。
ステータス的には天之河の方が上なのだろうが、帝国の使者の護衛ともなれば、実戦経験は間違いなく勇者より上だろう。
何度も言うが、ステータスの数値は実戦ではアテにはならない。
「お、勇者殿の模擬戦が終わったみたいだな」
「あれ、護衛さんの姿が変わって……いや厳ついイケオジだなおい」
あらビックリ。護衛さんの姿が、いきなり筋肉モリモリマッチョマンの変態……じゃなくてイケオジに変わったのだ。
「ガ、ガハルド殿!?」
「皇帝陛下!?」
使者の人もビックリしてる。どうやら、あの護衛さんは皇帝陛下だったらしい。
とんだ大物に模擬戦を吹っかけられたようだ、天之河は。ご愁傷さまである。
王様の追求にも反省した様子なく「自分自身で勇者の強さを確認したかった」と述べてる皇帝を見て、俺は半笑いしていた。中々にフットワークが軽く、かつ面白い人だ。
「おーい、そこで笑ってる小僧。お前さんとも模擬戦をやりたいんだが、行けるか?」
「ええ。いつでも」
「そいつは僥倖。ちと物足りなかったからな。お前さんは満足させてくれるか見物だ」
大胆不敵。そんな言葉が似合う笑みを浮かべた皇帝陛下。
俺は優花とグータッチしてから武舞台に上がると、スウェットをかのリトルマックのように脱ぎ捨てた。なお、ヒラヒラと舞い落ちたスウェットは優花がキャッチしている。何か匂いを嗅いでませんかね?
いつも通りに構えると、俺は皇帝に問う。
「模擬戦と言えど戦いには違いない。本気で殺りに行く……で、間違ってないですかね」
「ハハハ! 良いねぇ、素晴らしい心構えだぞ小僧!」
互いの殺気が武舞台中央でぶつかり合う。
俺は〝身体強化〟の逆の動きで魔力を操り、ステータスが全て1000前後になるように調節した。フルスペックなら流石にアレだが、これなら本気で殴っても皇帝はギリ死なないはずだ。
純粋なボクシングの技術。そして籠手。それだけが、今回俺が扱える武器である。
攻撃を先に仕掛けたのは、皇帝の方だった。
速度はそこそこながらも、重みのある突進で間合いをあっという間に侵略。逆袈裟に剣が振られる。
対する俺は、足を少し広げて真っ向から迎え撃つ体勢を作った。そして、限界ギリギリまで剣を引きつける。
逆袈裟に振られた剣は、俺に命中する直前に軌道を一気に変えて、真横への薙ぎへと派生した。
横薙ぎをダッキングで回避。それを読んだであろう風属性の礫も最速の右パーリングで破壊。唐竹に落とされる二の矢の剣は半歩下がるスリッピングで躱しながら、俺は即座に前進左アッパーカットで皇帝の胸元を抉る。
「チィ、中々に面白え攻撃するじゃねえか!」
だが、皇帝は全く怯まない。
楽しそうに笑いながら、スリッピングカウンターを受けてもなお剣を鞭のように振る。
常識に囚われない、戦場で叩き上げられた殺人剣。軌道が非常に読みにくく、限界まで見ないと簡単に斬られてしまうだろう。
それでも回避ができてるのは、ひとえに俺の基本ボクシングスタイルのお陰だ。
余計な一撃を食らう余裕はない無差別級で戦ってたからこそ、攻撃を限界まで見て躱す技能を俺は身につけた。それが今、こんな形で活きている。
時折足元へ飛ぶ魔法や足払いはスマブラ的レッグブローで対処。顔を狙う魔法はアンチエアナックル。剣は横薙ぎ以外はなるべくパーリングかスリッピング。そして反撃。
大きな動きをする技こそ打てないが、細かく確実にダメージを入れる事に適している左ジャブやワン・ツーパンチ、そしてショートアッパーが大いに活躍している。
しかし、皇帝も一流の戦闘者だ。パンチこそ被弾してはいるが、ヒットのポイントを咄嗟にズラして中心では受けない事で、受けるダメージを最小限に減らしていた。
不意をつくK.O.アッパー。あるいはK.O.ラッシュ。どちらかを使わなければ、勝ちに繋げられるマトモなダメージは与えられないだろう。
集中力を一段上げる。ずっと魔物相手に戦ってたので、対人戦闘に感覚が慣れてなかったが。そろそろ良いだろう。明確なダメージを与えようではないか。
「フッ――!」
「っ! 仕掛けてきやがったか!」
今度は俺から攻める。
迎撃の斬り上げと突きを軽く頭を動かすだけで躱した。皮は薄く切られたが問題ない。
限界まで発生を速くした左のボディストレートを皇帝の腹の武具に当てると。俺は一瞬の暇も与える事なく、スマッシュボディフックを叩き込んだ。
バキィ!
鈍い音と共に、皇帝の武具が木っ端微塵に粉砕された。ボディストレートを受けた時点で、もう詰みなのを初見で見破れる人はそういない。
武具の破壊により、数刻の隙が生まれた。千載一遇のチャンスだ!
俺はスッと軽く息を吸ってから呼吸を止めると、K.O.ラッシュを繰り出した。
ステータスを落としているとはいえ、元の世界にいた頃でも準必殺ブローとして活躍した技である。放たれる拳の数は、1秒に軽く100を超えているだろう。
辛うじて弱点が多い中心部への被弾だけは剣によって避けている皇帝だが、流石に苦しそうだ。
しかし油断大敵。皇帝の目が死んでない事を確認した俺は、気を引き締め直す。
その行動は、決して無駄ではなかっと分かるには、そう時間はかからなかった。
「吹き散らせ――〝風爆〟」
風の塊が、皇帝の声と同時に目下へと放たれたのだ。
即座にラッシュを止めると、俺は退くのではなく前へ出る。
地面に着弾した風の塊は、一気に爆発して凄まじい衝撃波を生み出した。
「むしろチャンス!」
「なにぃ!?」
その衝撃波を使い、俺は一気に宙へと跳ね上がった。
構えはバリーブロー。ただし、このステータスにしては随分と高高度からの爆撃だ。
落ちるまで構えたままだったが、体が重力に逆らわず落ち始めたのを認識した瞬間に、俺は右拳を真下に叩き落とす。
咄嗟にガードとして剣が頭上を守るように構えられるが、全く意に介さず拳は剣をアッサリとへし折ってしまった。
そして着地とほぼ同時に。俺は体をねじり、地面を抉りながらダイナマイトアッパーカットを〝発動〟させた。優花とグータッチした理由はこれだ。
燃え盛る拳は、武具の壊れて守りが薄くなった部分に直撃する……直前で、ピタリと止められた。
「勝負あり、ですよ」
「……ハッ、どうやらそのようだな」
軽く腕を振って炎を消す。蝋燭の火みたいだな。
皇帝は、先程までの殺気が嘘みたいに、ニヤリと笑って手を差し出してきた。
それに応えてガッシリ握手をすると、皇帝が口を開いた。
「殺気、魔法、武器を全く恐れない精神力。それに付随する破壊力。本当に面白えな、お前」
「そりゃどうも。光栄ですよ、皇帝陛下」
「改めて名前を聞かせろ」
「真久野ケン」
「そうか。ケン。お前、〝神の使徒〟なんざ辞めて帝国に来ないか? それ相応の立場は用意するぞ」
「折角のお誘いだけど、やらなきゃならん事があるんですわ。また別の機会にでも」
高位な立場に興味はない。それよりも、日本に帰る手段を手に入れる方を優先したい。
最初から了承されるとは思ってなかったのか、皇帝はアッサリと引き下がった。
「ま、急ぎはしねえさ。ところで拳闘大会の話はもう聞いたか?」
「3日後のでしたら。ちなみにエントリー予定っすよ」
「マジか、一気に楽しみになったな! なら、俺の方で拳闘大会の登録は済ませてしまおう。大会開始の1日前までに帝国に来てくれるなら、国内で1番良い宿の手配もしてやるが、どうする?」
「それに乗らん手はないっすわ。2日後の夕方ぐらいに帝国へ行きます」
「よっしゃ決まりだな! おいお前、今すぐ手配する準備をしておけよ!」
周囲の人間が全く話についてきてないが、お構いなしである。
皇帝は上機嫌のまま、テキトーに他からの追求をヒョイヒョイ躱して嵐のように王城から去っていった。
「勇者もこれからの成長に期待だな」と言葉を置いていったので、王国側も一応安心したようだ。
勇者本人も取り敢えず機嫌が戻った。単純な奴である。
その間に、俺は武舞台から降りて優花からジャージを受け取り、体が冷えないうちに着込んだ。
「おつかれ。相変わらず強いね」
「身体能力を縛って、明らかに場馴れした戦士相手にこれだから、この感じならよっぽどじゃなければ他の対人戦でも勝てそうだな。確認できて良かった」
「ああ、拳闘大会の事を言ってるの? 今のケンなら優勝も余裕でしょ」
「ま、一応確認はしたかったのさ。オルクスの攻略を終えて、どのくらい生身オンリーで戦えるかを知りたかったんだ」
大迷宮攻略中、ずっと衝撃波に頼ってたからな。肉弾戦の勘を少しだけでも取り戻したかった。
ちなみにダイナマイトアッパーカットは除く。アレだけは許してくれ。優花との連携技だから。
「話は聞いてたから分かると思うが、明日か明後日には帝国に行くぞ。で、手紙を書いてライセン大渓谷に1番近い街へ送ってもらおう。ハジメたちもそこに行くだろうからな」
「帝国で遊んでから行くって?」
「人聞き悪すぎませんかねぇ……」
間違ってないけどね。
長居すると質問攻めされそうで面倒になりそうな予感がした俺は、優花を連れてその場をそそくさと離れた。
天之河が俺の名を読んでた気がしたが、オール無視。幻聴だろうきっと。
騎士団が実務をしている部屋に俺たちは引っ込むと、いきなりの訪問で魂が抜けるぐらい驚いた団長たちに苦笑いしながら、改めてこれまで何をしていたかを話すのだった。
実力主義の帝国人とマックくんは比較的気が合う傾向にあります。別にマックくんが実力至上主義ではないんですけどね。強者はマックくんも好きなんです。奴隷制度に関して納得はしてないけど、世界が違えばその辺の倫理も違うとして一応ある程度は割り切ってるのがマックくん。なお勇者。
また、みんなと別け隔てなく接する騎士団の方々ともマックくんは仲が良いです。頼もしい大人も大好きなマックくん。
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