異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
2日後の夕方。俺たちはバイクで、帝国の方へ到着した。帝都とも言えるかな?
出発するまでの間に、天之河が「皇帝とやり合えるぐらい強いんだから残ってくれ」と言ってきたが、全力で無視してきた。うるさかったな……。
何が仲間だよ。散々ハジメを排他しようとしたクセに。
優花の方はと言うと、そこまで引き止められはしなかったようだ。友人に一応「留まってくれないか?」と頼まれはしたそうだが、俺と一緒に行きたいと答えて納得させたらしい。
「恋愛に女子は弱いの」と笑ってた優花さん。その手の話に飢えている彼女の友人は、俺とのアレコレを話したら満足しちゃったそうだ。
さり気なく八重樫から白崎に向けての伝言を預かったり、そう多くはないがメルド団長から餞別代わりのお金をもらってたり。それと、ライセン大渓谷から1番近い街が〝ブルックの街〟だと突き止めていたり。俺が天之河の対処をしている間、出発の準備をしてくれた彼女には頭が上がらん。
さて、帝国に到着した俺は、真っ先に〝冒険者ギルド〟なる場所に入った。
ここは、冒険者が依頼を受けて稼ぐのが主な場所であるが、他のギルドへ手紙を出す事も可能である。ライセン大渓谷のどこかにある大迷宮を探す前に、近場の街に行く事は確定しているハジメたちに手紙を書いて出せば、取り敢えず届けられるだろうという寸法である。
帝都のギルドは、かなり乱雑とした場所であった。バーも併設しており、早い時間なのに呑んだくれで溢れている。国民性を大いに表してると言えよう。
優花はツリ目で勝ち気な見た目な事が幸いしてるのか、下卑た目で見る奴はあまり見受けられない。シンプルに強い女として認識されているのだろう。中々に面白い光景だ。
俺は俺で、ただ者ではない判定を受けているらしい。ケンカを吹っ掛ける人はいなかった。
長居は無用なので、サッサとケバい雰囲気の受付嬢に要件を伝えて手紙を渡し、更に帝都で1番良い宿はどの辺にあるのかも聞いた俺たちは、足早にギルドを出た。
ギルドを出て、テキトーに帝都を回ってから(優花曰く散歩デートらしい)宿に到着した俺は、受付の人に名前を告げる。
宿は小綺麗な感じであり、1階にはご飯を食べられるレストランもあった。雑多で乱雑な帝都では、少し異質な場所かもしれない。
「……ええ、確かに予約がありますね。しかも皇帝陛下直々から。もしかして、明日の拳闘大会に出場する、皇帝陛下のお気に入りってのも貴方?」
気怠げに。しかし、しっかり仕事をしている受付のお嬢さんは、俺の顔を興味深げに見てくる。
どうやら、帝都内でも俺の名前は少し広まっているようだ。あの皇帝陛下が、直々に気に入って急遽大会にエントリーした〝神の使徒〟。話題にならない訳がない。
「リングネームは〝リトルマック〟だったかな。何か、皇帝陛下がリングネームを考えていたら、いきなり脳内に雷が落ちたみたいに思い浮かんだって話しを聞いてるよ」
「そりゃまた……」
運命のイタズラだなこれ。無差別級の試合でもリトルマックで登録してたわ。
「1番良い部屋を用意してあるから、自由に使って頂戴。それと温泉は追加オプションだけど、入るなら15分100ルタから予約できる」
「そんじゃ、この時間に30分頼む」
ちなみに〝ルタ〟というのはこの世界の通貨の事だ。日本円と全く同じ数え方ができる。
メルド団長からもらったお金を使い、先払いで会計を済ませると、そのまま部屋へ引っ込もうとしたのだが。
「なあ、アンタ。アンタが皇帝陛下のお気に入りかつ勇者殿よりも強いと噂される〝リトルマック〟か?」
受付嬢との会話を聞いていたであろう大男が、俺に声をかけてきたのだ。
敵意を向けられてない以上、変に無視をする必要もない。
「いかにも。俺がリトルマックだ」
「へえ、アンタが。拳闘大会に出場する男にしては、少し上背が低い気がしたが……」
「まあ、リングネームの由来になってるからな。その感じだと、拳闘大会の出場者はみんなデカい野郎だけか?」
「アンタぐらいの身長の奴が出てるとこは見た事がない。大男だらけだし、そこに防具を装着するからな。身長が低く、更には体重が軽い奴が出ても話にならない」
「へえ……」
まあ、見た目だけなら俺より威圧感のあるボクサーはいっぱいだからな。無差別級らしい拳闘大会に、こんな見た目の男が出場すると聞いても冗談だと捉えるだろう。普通なら。
皇帝陛下のお気に入り。勇者よりも強い。その噂が、大きな混乱を招いているようだ。
「身長体重の事なら心配無用さ。むしろ、油断してると臓物を口から出すハメになるぞ?」
「っ! ……そうだな。うちの修練所から出るバカ共がアンタと当たるか分からないが、肝に銘じておこう」
どうやらこの男は、俺たちの住んでいた世界で言うところのジム・トレーナーらしい。
俺の言葉がハッタリじゃないと悟ったらしく、幾分か気を引き締めた顔で頷いた。中々の観察眼を持っているようだ。
ヒラヒラと手を振って大男に背を向けると、俺は優花と共に今度こそ部屋に引っ込むのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「そう言えば、優奈ちゃんのどこが好きだったの?」
「唐突すぎませんかねぇ……」
温泉に入り、夜飯も食べて、すっかり寝る準備を終えたところで。優花がそんな事を言い出した。
「ケンの好みがふと気になって」
「優花の中では優奈イコール俺の理想みたいな図式ができてるのか?」
「違うの?」
「否定はしないけど、全てではない」
初恋フィルターもあるので、俺の求める女性像に一部なってるのは正直否定はできない。
だが、100%優奈イコール俺の好みの女性って訳ではないのだ。
「優奈の好きだったところは、後輩ながら芯がめちゃくちゃしっかりしてた部分だな」
「ああ、なるほど。確かに優奈ちゃん、歳下とは思えないぐらい芯がしっかりしてたし、とても強かったよね。絶対に諦めないところなんか特にそう」
「でだ。そんな一面がありながら、犬系の後輩気質な部分が好きだった。俺が病室に行くと、憂い気な顔から一転してスマブラやろうって誘ってくるの。これ、本当にギャップが凄いんだわ」
優花は、対外的にはツンケンした猫みたいな気質をしている。それとは真逆と言えるだろう。
芯の強い〝女性〟としての一面が表に出てる事が多いからこそ。俺に対して、常に笑顔で「スマブラやりましょ!」とか「ボクシング一緒に見ましょうよ!」と言ってくれる時の優奈は、本当に可愛かったのだ。
ギャップ萌えは大正義である。
「犬系の後輩気質、か。それ、多分だけどケンに対してだけじゃない?」
「なぬ……?!」
「見た事ないもん。私のイメージとして、優奈ちゃんは入院する前から達観しすぎてる女の子って感じだったからね。スマブラも淡々とやってたイメージしかないよ。恋バナする時だけ年相応な感じはしたけど」
新事実。俺の知ってる優奈は、優花は知らなかった。
「ケンは、ギャップ萌えする人が好きなんだね」
「まあ、それは多分だけど間違ってないな」
優花もギャップ萌え凄くする人だし。
優奈と気質は真逆だが、しっかりとギャップ萌えしている。対外的にはツンケンなのに、俺の前ではデレ成分が多め。これは心にとても来る。
それをまんま伝えると、優花は顔をボンッと赤くした。
「ね、猫って……」
「猫耳と尻尾も俺の目には見えてるぞ。他の人と話してる時は割りと逆立ってるけど、俺の前だと耳はピコピコしてるし尻尾はブンブンフリフリ揺れてる。そこが好き」
完堕ちした猫ってのが俺の優花像である。これは流石に言わないが。
「……好みのタイプを聞くつもりが、自爆してしまったわ」
「今の恋人は優花なんだから、俺が君の好きなところを言うって事ぐらい想定できない? 優奈は確かに初恋の人だけどな。今は優花の彼氏だぞ、俺」
「か、彼氏……ケンが、私の……フヘッ」
「その顔、俺以外には見せるなよ?」
可愛いんだから、ホントに。
ギャップ萌えが好きなのと、そのギャップ萌えしている姿を独占したいって気持ちが根底にあるから、俺は優花や優奈を好きになったのだろう。
撃沈した優花の頭を撫でると、彼女は表情を見せる事なく俺の胸の中に顔を埋めた。
ついでに匂い付けのようにグリグリしてくる。めっちゃ猫だわ。
可愛い優花に癒された事で、明日は良い動きができそうである。
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優花と並んで睡眠を取り、翌朝起きたら俺の腕を抱き枕にして寝ていた彼女を見て心臓が撃ち抜かれた気がした俺は、その後何もなかったように振る舞って拳闘大会の会場へ向かった。無論、起きて早々顔を赤くした優花も一緒だ。
拳闘大会は、帝都の中で最も大きい闘技場で行うと聞いた。普段はかのローマ帝国のように、奴隷と奴隷を戦わせたり、猛獣との戦闘を強要するコロセウムらしいのだが。今日と明日は別で、闘技場の中に特設リングが何個もあるらしい。
ちなみに大会は2日行われる。今日はトーナメント形式の予選で8人を選出。明日になったら準々決勝から始まり、決勝までやるそうだ。
拳闘大会当日は帝都内では休日扱いらしく、多くの人が見物に来ると聞いた俺は、国民総出の運動会みたいだと勝手に思った。
受付を済ませた段階で、名前を聞いた出場者がザワザワしていたが無視。俺は優花と手を繋ぎ、足早に待機所へと入った。
いくつかある待機所の1つに入ったが、既に多くの人が各自準備運動をしている。
俺たちは壁際を陣取り、ピンクのスウェットを着てからゆっくりのんびりと柔軟体操から始めた。
「ケンって体も柔らかいのね。男の人って体がカチカチなイメージだったけど」
「じゃないとK.O.アッパーを打てない。柔軟性がない奴が打って、肉離れして長期離脱した事例がかなり多く報告されていたからな」
「あれ、広く足のスタンスを取ってから一気に沈み込んで、更にそこから跳ね上がるもんね。柔軟性がなかったら一瞬でお陀仏って事か……」
「他にも、ダイナマイトアッパーカットやスマッシュブロー系統も柔軟性がないと死ぬぞ」
側面の筋肉が柔らかくないと、あっという間に肉離れするらしい。
「改めて考えると、ケンって奇跡的なバランスで肉体が構成されてるのね」
「そのお陰で勝ててるのさ」
本当に奇跡的なバランスだと自分でも思う。
一方で、このバランスが崩れてしまうのが怖いとも言える。だから、俺は念入りに身体を作ってるのだ。
十分に体が解れたのを確認した俺は、ストレッチからシャドーボクシングに切り替える。
軽く汗ばむぐらいにあらかじめ動いておくと、俺は試合時でも良い動きができる体を作れる。そんな持論の元、俺は1つずつ技を確認していった。
折角の機会だ。普段は中々使わない技も確認して、試合で使用できるようにしておこうか。
特定場面で使うとめちゃくちゃ強いが、それ以外の場面では弱い。そんな技を、俺はあまりこの世界に来てからは使っていない。
ちなみに該当するのは、ガゼルパンチや相打ち上等のクロスカウンター等だ。
魔力で身体能力を縛り、その状態での動きにも随分と慣れたところで。招集の声がかかった。
「よし、行くか。あ、そうだ! 折角だし優花も来てくれるか?」
「えっと、セコンドだっけ。務まるか分からないけど、それでも良ければ」
「優花が近くで見てくれてるだけで頑張れるさ」
「……もうっ」
そんじゃ、行きましょうかね!
優花っちは可愛い(定期)。
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