異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
「おい、アイツが……」
「思ってたより小さいな。本当に勇者より強いのかね?」
「あの男を倒したら、連れの女も掻っ攫えそうじゃん。頑張るかぁ」
やっぱ注目度は段違いに高いね。不埒な輩はトーナメントで当たったらぶち転がしておこう。
皇帝陛下による開会宣言を聞きながらも、遠巻きで俺や優花の事を話している出場者がめちゃくちゃ多い。
有象無象に変わりはないので、全部まるっと無視しているけど。
皇帝の開会宣言が終わり、いよいよ試合日程がスタートする。俺は、1番最初にリングに上がる予定となっているので、グローブ型の籠手を装着して精神集中を行う。
誰が仕込んだのかは知らないが、俺の試合時のみは他の試合を行わず、俺が上がっているリングのみが稼働するらしい。本当に誰が仕込んだのかね?
拳闘大会の基本的なルールの説明もしておこう。
3分3ラウンド制で、ラウンド間のレストは3分。防具類は、頭部も含めて装着しても良い。ただし、刃物類を隠すのは禁止。ダウンは2回まで。1ラウンドで3回目のダウンを喫するか、合計5回ダウンをすると試合は強制終了だ。
他には、上半身を使った攻撃なら何でもして良いようだ。頭突きもありだし、投げ技も認められる。ただ、やっぱりメインの攻撃はパンチになるそうだ。それと足元への攻撃は認められてない。ここはボクシングと似ているようで、かなり違う点である。
防具の装着可なだけあり、周囲には鉄甲冑に身を包んだゴツい男だらけだ。たまに逞しい身体をしている女性も見受けられるが。
ある意味、黒タンクトップに緑の短パンスタイルの俺は大変珍しいと言える。超軽装だ。
まあ、攻撃に当たらなければどっちでも変わらない。攻撃手段となる籠手がありゃ十分だ、俺的には。
鉄甲冑も、生身を殴って大変な事になる可能性を著しく下げてくれている。籠手を装着して生身を殴ったらどうなるか分からないので、ワンクッションあるのもありがたい。
『拳闘大会、1回戦をただ今より開始する! 今大会注目を集めてるリトルマックVS101回目の出場となるグラス・ジョーの試合だ! みんな、瞬き厳禁だぞ!』
元気の良いアナウンサーの声に合わせ、俺は転がりながらリングの上に立った。
スウェットを脱ぎ捨てて優花にパス。軽くシャドーボクシングを行うと、大歓声が上がった。
てか、対戦相手の名前よ。絶対に誰かが確率操作してるだろ。
「ボンジュール! やあやあどうも! グラス・ジョーとは私の事だっ! あんなチビ、すぐにノックアウトしてやるよ!」
うん……グラス・ジョーだね。めっちゃ。
身長は俺より明らかに10センチは高いし、それなりに体つきもガッチリしてるし、ヘッドギア……代わりの兜と鉄甲冑を装着してはいるが。この煽り方は完全にグラス・ジョーである。何で異世界でフランス語を知ってるのかは考えないでおこうか。
これ、戦績が実は1勝99敗とかないよね?
そう思いながら構えると、ゴングがカンッ! と鳴り響いた。
敵が誰であろうと、一切の容赦は無用。
「死ぬなよ……!」
ゴングと同時に飛び出すと、俺はワン・ツーパンチでいきなりグラス・ジョーの腹部を捉えた。
「うごぉ!?」
鉄甲冑で守られている? 関係ないね。悪いけど、俺のパンチ装甲無視がデフォルトだ。
一撃でロープ際まで後退させられたグラス・ジョーは、被弾した箇所の鉄がひしゃげている事に気がついたらしい。目に見えて分かるぐらい、体が震えていた。
しかし、彼は腐ってもグラス・ジョー。体を震わせながらも、笑いながら俺の前に立つ。
「ふ、ふふ。効かないな。ほら、かかってこい!」
そう言いながら不敵な笑みを浮かべつつ手招き。挑発も健在とは恐れ入る。
口角が勝手に吊り上がる。気分はまさに、ゲーム内のリトルマック。流石に気分が高揚するぜ!
前に出てきたグラス・ジョーに対し、俺は一切の躊躇なくジャンピングのアッパーを顎に叩き込んだ。
ベキリ。鈍い音が鳴り響き、グラス・ジョーの体は宙に浮かび上がった。
「あ、ぎい……」
カウントするまでもない。すぐにレフェリーがグラス・ジョーの顔を見て両腕を大きく振った。
カンカンカーン! とゴングが打ち鳴らされ、試合の終了を観客に知らせる。
「しょ、勝者リトルマック!!」
そう言って俺の腕を上げたレフェリーの顔は、少し引き攣っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後も俺は、全ての試合を秒殺K.O.で終わらせた。
一家のお父さんらしく、家族のために出場したは良いが、緊張から震えている様子が印象的だった40代ぐらいのおっさんに対しては、俺のパンチを恐れてガードを固くした瞬間にスマッシュアッパーを叩き込み、ガードごと粉砕して勝利した。
踊るようにステップを踏みつつ、ナルシストなのかやたらと周囲へのアピールが多い若い男には、隙を見て顔面に左右フックを10発は叩き込んだところで回転しながら4隅に激突した後に昏倒。そのまま勝利となった。現在は別室で集中治療しているらしい。
この2試合が終わると、俺を「チビなのに強いのか?」と舐めてくる輩は完全に消えた。むしろ、甲冑を着込んでるのに秒殺していく姿を見て、こいつはヤバいと震えている人が多く感じる。
そんな中でも、俺と優花は全く変わらない。
「はい、水飲んで」
「サンキュ。 ……ふう、生き返るな」
「あんな鬼神みたいな戦いをしてるのに、こうして美味しそうに水を飲んでると、何だかギャップが凄いわね」
「鬼神は言いすぎじゃね?」
単に対戦相手がそんなに強くない、とは口にはしないけど。
他の試合を見ると、かなり泥臭く殴り合ってるのがほとんどだ。俺みたいに、秒殺を連発している出場者は見られない。
ステータスを皇帝と戦った時と同じぐらいに縛っているのだが、もう少し下方修正しても良かったかもしれない。これ以上は面倒なのでやらないけど。
「さーて、次の相手は……あの巨漢だな」
「え、巨漢ってレベルじゃなくない?」
優花の言葉通りである。俺はオブラートに包んだだけだ。
次の対戦相手は、頭に王冠型の兜を乗せ、今にも甲冑がはち切れそうなぐらい太ってる男である。ありゃキング・ヒッポーだろう。
「……あれ、攻撃通るのかな。脂肪で衝撃を全部吸収しそうなんだけど」
「心配無用。策はある」
内臓が腹から出てこないようにしないとな。
まだ心配そうな表情をする優花に、俺は軽く彼女の頭をコツンと叩いてからリングに上がった。
苦労しながらリングに上がってきた巨漢は、俺の事を見下すようにして笑う。明らかなる体重差が、彼の自信を絶対の物にしているようだ。
まあ、どう見ても体重差が倍以上はありそうだもんね。普通は終わってる対面だわ。
そう。これが普通なら。
「ファイッ!」
レフェリーの声と同時にゴングが鳴り、試合が始まった。
巨漢はドッシリと構え、まるで動こうとしない。もしかしたら動くのもキツイのかもしれない。理由は分からないが、あくまで俺を迎え打つ姿勢だ。
動かないなら助かる。こんな巨体で、素早さも兼ね備えていたら面倒極まりないからな。
巨漢からの攻撃がギリギリ届く間合いまで俺は入り、体を揺らしながら手招きをする。不敵な笑みも忘れない。
俺の態度を挑発と受け取ったらしく、巨漢は口を開けながらギロチンのような速度でパンチを落としてきた。
1発目はスウェーで回避し、2発目はダッキングで透かし。そして3発目のパンチが落ちてきたところで、俺はパーリングを行ってから一気に懐へ入り込んだ。
間合いを詰められてもなお、巨漢は余裕そうな顔をしている。俺程度の体重のパンチは効かない。そう思ってるのだろう。
ところで、ガードを割るのに適した技があるんだけど。みんなは知ってるかな?
そう、スマッシュボディフックである。
「フンッ!」
1発目。甲冑の片側が呆気なく粉々に砕け散る。
「ハッ!」
2発目。反対側の甲冑もぶっ壊れた。
「オリャア!」
3発目。ノーガードとなった腹にボディフックが突き刺さる。
「ジェンッ!」
4発目。反対側にも突き刺さり、腹を覆っていた鉄の塊がここで完全に剥がれ落ちた。守る防具は、もうどこにもない。
無心で何発も何発も。俺はスマッシュボディフックを連続で叩き込んでいく。
脂肪のお陰で筋肉質な奴よりは耐えられているが。左右合計で20も超えたところで、巨漢の左右の腹の皮膚が裂けて血が滲み出した。
これ以上は腹が取れる。物理的に。
人殺しにはなりたくないので、俺はそこでボディフックを止めた。
まあ、パンチが終わるとは言ってないが。
「エイヤッ!!」
苦しみに悶え、巨漢が意識しないうちに上がった顎に向かって、俺はK.O.アッパーをぶち込んだ。
凄まじいまでの快音と共に、巨漢の体は数メートル浮かび上がった。
やはりK.O.アッパーの破壊力は伊達ではない。あの巨漢ですらも紙切れのようにブッ飛ばし、そのままリングの外にダイレクトで落ちてしまった。
「あー、生きてるかなアレ」
救急班が巨漢に駆け寄り、回復魔法で治療を施している。1番近くで治療を行っていた人に「生きてる?」と聞いてみると、限りなく死に近いが生きてると返答がきた。
治療が迅速に始まったので、どうにか命は助けられそうとの言葉を聞いて、俺はホッと安心する。
俺の勝利が確定し、レフェリーに腕を上げてもらってからリングの外へ降りた俺は、ここで異変に気がついた。
「……完全にやりすぎたかもしれん」
俺を見る目のほとんどが、バケモノを見る目だったのだ。
もう少し自重した方が良かったかもしれない。
「ケン、お疲れ様。 ……何か、渋い顔してるね」
「変わらず接してくれる優花だけが癒しだよ……」
「え、えっ?」
「次の試合まで膝枕してくれないか?」
「まあ、それは構わないけど」
もう良いや。この際、完全に自重を捨てちまおう。
今回の被害者一覧。
☆グラス・ジョー…顎が粉砕された。
☆フォン・カイザー…ガードした腕ごと顎の骨が折られた。
☆ディスコ・キッド…脳震盪で昏倒中。
☆キング・ヒッポー…内臓損傷かつ顎骨粉砕。
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