異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
その後も俺は、順調に秒殺試合を重ねに重ねた事で、難なく翌日の準々決勝へコマを進められた。
キング・ヒッポーとの戦いから追加で3試合やったが、ぶっちゃけ大した相手はいなかったと言うのが本音である。むしろ、K.O.アッパーまで使う事にしたキング・ヒッポーが1番の強敵……までは行かなくても、1番パンチを当てて倒した相手だったと思う。
ステータスを落としたところで、ボクシングの基礎技術を磨いている俺からすると、明らかな力押しばかりの拳闘大会出場者の相手はかなり容易なのだ。
少なくとも、攻撃面は基本的に超速発生の左ジャブ連携と4F発生のワン・ツーパンチだけで。防御面はパーリングとダッキングで今のところは大方何とかなってる。
……やっぱりキング・ヒッポー強かったんじゃね?
だって、スマッシュボディフックの連打を20発も受けて、更にはK.O.アッパーを食らっても死んではないのだから。
スマッシュボディフックの連打を受けた後に、K.O.アッパーを食らいノックアウトしたボクサーは結構いるのだが。あんな数スマッシュボディフックを食らった奴はいない。
その後の試合で、一切K.O.アッパーを使わずに勝てた事からも、キング・ヒッポーの特異性が目立つだろう。原作知識の有無はかなり大きいとは思うけど。
何気に、俺の中で皇帝陛下の評価も上がっている。あれは剣と魔法の使用が可能の模擬戦とはいえ、それなりに俺の手持ちの技を引き出しているし、シールドブレイクのセットアップの時点で、相当な殺意を持っていた事実からも、皇帝陛下がかなり強かったのだという認識を強めている一因となっている。
そんな事を悶々と考えながら、1日目の試合を全て終えて待機所の方へと引っ込み、優花にも手伝ってもらいながらストレッチを行っていると。見知らぬ男が俺に話しかけてきた。
「おい。貴様がリトルマックか?」
「そうだが。って、試合見てなかったんか? 取り敢えず、アンタは誰だよ」
いかにも上から目線な態度を感知し、俺は内心で呆れ果てながらも受け答えする。
その男は、それなりの上背と恵まれた体格をしていた。顔は何だか皇帝と似ている気がする。
「俺は皇太子のバイアス・D・ヘルシャーだ」
「ああ、通りで皇帝陛下と顔が似てると思った」
「父上のお気に入りだか何だか知らねえが、全戦全勝で女を侍らせながら調子に乗ってると耳にしてな。こうしてご尊顔を見にきたんだよ」
「へえ。わざわざご苦労さんなこって」
受け答えも正直面倒なのだが、これで無視すると余計に拗れそうなので頑張って口を動かしている。
そんな俺の様子が気に食わないのか、バイアスは何とも分かりやすく苛立ちを見せている。だが、優花が視界の中に入った途端に、瞳が下卑た色を帯びた。
「おい、結構良い女を連れてるじゃねえか」
「……そいつはどうも。〝俺の〟、大切で自慢できる女性だ」
「ククッ。そうかそうか」
優花と共に立ち上がる。俺は、彼女を庇うようにして。
今は籠手も何も装着していない。丸腰状態。だが、決して退きはしない。
矮小な人間風情よりも、あのオルクス大迷宮の魔物の方がよっぽど恐ろしい存在だ。
「おい皇太子とやら。俺の恋人に目が行ったようだが、渡すつもりは毛頭ないぞ。そんなに気に入ったのなら、俺との戦いで勝って奪い取ってみろ」
「っ! ほ、ほう……? 随分とまた、調子に乗ってるようだなぁ?」
強烈な圧を感じたのか、一瞬だけバイアスは怯んだが、しかし退かない。皇太子としての、そして帝国の男としての意地があるのだろう。
「良いだろう。幸運な事に、明日の準々決勝の相手は貴様だ。そこで俺が勝てば、その女を貴様の目の前で壊れるまで使い潰してやるよ!」
「吐いた唾は呑み込めない。そして男に二言はなし。お前が勝てたらの話だが、良いぞ」
無論、勝たせるつもりはない。久しぶりに怒りで心を染めているので、どれだけ凄惨に敗北させてやるかを俺は考えていた。
そのうちに、とんでもない。しかしとても良い案が浮かんだ。俺はニヤリと口角を上げながら。しかし、目までは決して笑う事なく、バイアスに堂々と宣言する。
「今日のうちに、目いっぱい他の女を愛しておけよ」
「はっ?」
「今夜が最後になるかもしれんからな。優しい俺からの、とってもありがたーい警告メッセージさ」
そう言い残すと、呆気に取られているバイアスの横を、俺は見せつけるように優花と手を繋いで通り抜けるのだった。
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「ねえ、ケン」
宿に戻り、ベッドで追加のストレッチを行っていると。風呂上がりの優花が俺の隣に座った。
「何だ?」
「……ありがと。色々」
その事か。まあ、あの野郎の視線は不快だったに違いない。
「恋人だからな。俺は、優花の」
「……うん」
守ってみせるさ。この手の届く範囲なら。
優奈みたいに。何もかもを伝える前にこの手から零れてしまった。そんな事がないように。
猫のように丸まりながら腕に密着する優花に合わせて、俺も仰向けに寝転がった。
この体勢もすっかり定番となった。俺としては、優花の柔らかくきめ細かい肌と良い匂いを楽しめるので、結構好きな状態だ。
「ケン」
「おう」
「明日、勝ってね」
「当たり前だ。あの野郎には、ぐうの音も出ないぐらい圧勝してやる」
俺の言葉に応えるように。備え付けのテーブルに置いたグローブ型の籠手が、月明かりによってキラリと光った。そんな気がした。
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翌朝。大会会場付近は、入場を許可される前から大盛り上がりだ。
男も女も。子供も老人も。昨日よりも格段に盛り上がっている事から、今日の試合が楽しみな人がほとんどらしい。
人の波に呑まれるのが面倒だったので、少し早い時間に会場入りしていたのだが。どうやら大正解だったようである。
ピンクのスウェットを着てアップを行う。今日は、昨日よりもステータスの縛りを緩くしてあるので、その動きに慣れるためにも、かなり丁寧な準備運動を心がける。
そんな俺に対して、優花は空飛ぶ2つのナイフを操って新たな動きをするように仕向けてくる。主に回避行動だ。
回避。そして攻撃。また回避。ナイフの動きをパンチに見立てる事で、より実戦に近いシャドーボクシングへと発展していく。
解放者の住処での実戦訓練で、たまに行ってたこのナイフとのシャドーボクシングは、ハジメ曰くこんな風に見えるらしい。
「風神と雷神の戯れ」
そうやって評するぐらい、互いの動きにキレがあるそうだ。
それは、帝国民から見ても変わらないようだった。気がつくと、結構な数の人がこちらを見ている。
「……よし、そろそろ終わるか」
「了解。ホントこれ、互いの鍛錬に丁度良いわね」
全く持ってその通りである。
俺は適度に汗をかけるし、エンドレスモードにすればスタミナも鍛えられる。優花は優花で投術の鍛錬になる。共同訓練だから、飽きも中々来ない。
独りで鍛錬するよりも、2人で鍛錬する方が続く。ダイエット辺りと同じようだ、どうやら。
「さてと。そろそろ行きますかねぇ」
「……ねえ、途中まで手を繋ぎましょ?」
「構わないぜ」
籠手を装着。軽くパンチを何発か出して、調子を確かめる。
うん、今日も絶好調だな。
優花と手を繋いでリングまで向かう。
「おおう。すっげえ歓声だな」
「ね。ケンに大注目してる」
外に出た途端、耳を劈くレベルの大歓声が耳に入った。
先にリングに上がってたらしいバイアスは、かなり苦々しい表情を浮かべている。どうやら、自分の時よりも歓声が大きい事が気に食わない様子だ。
リングに上がる前にスウェットを脱いで優花に渡すと、俺は彼女に両拳を突き出した。
「……んっ。勝ってね!」
「任せとけ」
転がりながらリングに上がると、俺は軽くここでもシャドーボクシングを行った。
昨日よりも大きい歓声。口笛。拍手。かなりやりやすい雰囲気である。
バイアスを見ると、随分と面白い表情を浮かべていた。
ニヤッと笑いながら構える。そのタイミングで、試合開始のゴングが鳴り響いた。
「ぶっ殺してやらぁ!」
そう言いながら突進してくるバイアスのスピードは中々の物だ。
軽くバックステップして僅かにこちらへの到達時間を遅らせると同時に、俺はヒットマンスタイルを取りながら頭を振って出方を伺う。
バイアスが初手に繰り出したのは、風属性魔法を纏ったワン・ツーパンチだった。
左パンチが完全に威力を発揮する前にパーリングで叩き落とし、2発目のストレートはスリッピングで俺の左頬を掠めさせるようにして透かして。回避の間に、俺はもう左拳を繰り出していた。
「ゴッ、ガア!?」
左ジャブで顔面を捉えて動きを止めると、そのまま2発目のストレートをブチかました。バイアスの体が、一瞬にしてロープまで下がっていく。
何度俺が、かなりの発生速度であるハジメのワン・ツーパンチを見たと思ってる。対処法の1つや2つ、しっかりと考えてあるさ。
ワン・ツーパンチに対し、そっくりそのままワン・ツーを返すカウンター技。2発目の発生前に割り込む事で、相手の攻撃をキャンセルしつつ、自分はしっかりとダメージを取る。
通常のカウンターを受ける以上にメンタルダメージが大きく入る。自分が放とうとした技をそのまま、明らかに高性能な一撃となって返されるのだから。
冷静さを失っているバイアス。何を受けたのか分からないらしい。
言語とは呼べない言葉を撒き散らしながら、実に安直な左ジャブを数回放ってきた。
安直とは言っても、発生する速度はそれなりに速い。命中を許せば碌な事にはならないだろう。2発までは頭を振るだけで躱していき、3発目はギリギリのスリッピングで攻撃を透かしていく。俺の頬の横を風属性魔法が通り抜けていくが、それは全く気にしない。
5発目のジャブが飛んできたところで。俺は、バイアスのジャブに発生勝ちするような形で左ジャブをパナした。そしてそのまま流れるように、右フックと左ショートアッパーでテンプルとリバーを正確に打ち抜く。
何もしなくても勝手に発動している〝集束拳打〟と〝浸透破壊〟の影響で、パンチが命中するだけで骨を直接殴られるような痛みに襲われているらしい。元から醜いバイアスの顔が、更に酷い事になっていた。
特にテンプルとリバーへのパンチは効いているようだ。必死に嘔吐するのを我慢している。
「く、そがぁ!」
それでも倒れないのは、称賛すべき根性なのか。それとも単なる勝利への並々ならぬ執念からなのか。
フラフラとした足取りながも、こちらに向かって形振り構わず魔法を撃ってきた。
ブーイングが起ころうと、リングが壊れそうになろうと関係ない。とにかく俺が這い蹲る姿を見たいのだろう。
しかし、絶好調ではない体で撃つ魔法の数々は、そこまで大したスピードではないのが現実だ。
大きく躱すまでもない。俺は頭を振るか、軽くスウェーするだけで魔法を全て回避する。
魔法は命中しない。このままではジリ貧だと悟ったのか、また殴りにくるバイアス。しかし、近距離での殴り合いは俺の独壇場だ。
バイアスが何かパンチを放とうとする度に、俺は全てカウンターとなる形で次から次へと強烈なパンチを叩き込む。
ハンマーパンチは潜り抜けて、下がった額に目掛けて逆にこちらのハンマーパンチをぶつける。
ショートアッパーはダッキングで簡単に透かし、ガゼルパンチで反撃。ガラ空きの頬に突き刺さり、バイアスの体がグラリと揺れた。
ダウンを許すつもりはない。一瞬だけクリンチで捕まえて倒れないようにすると、今度は顎に最速風神拳のようなショートアッパーをぶち込んだ。
「ドリャッ」
無論、しっかりと〝纏雷〟を使用しながら。
出力調整はあまりできてないが、軽く感電して傷を負うぐらいで済んでるだろう。多分。
大きく上へと跳ね上げられたバイアス。その間、俺は左足を引いて上体をギリギリまで下げて、右拳を地面に半ば付けながら待つ。ひたすら待つ。
空中で1回転し、ダラリと脱力しながら落ちてきたバイアスの大事な大事な〝息子〟に、俺は照準を合わせた。
良きタイミングで。右拳が地面からの摩擦熱を受けて燃え上がる。
「デアッ!」
燃え盛る右拳は、綺麗な炎の弧線を描きながら。バイアスの〝息子〟に根本から突き刺さった。
すっげえ気を遣い、ゴールデンボールには1つにしか当たらないように調整してある。一気に両方潰れたらショック死待ったなしだが、片方だけならギリ生きてられるだろう。まあ、蛇口側も燃え落ちると思うのですぐ処置をしなければやっぱり死ぬが。
ものの見事に〝息子〟とゴールデンボール1つがダイナマイト(物理)したようだ。獣のような声を上げながら、バイアスはのた打ち回っている。
当然、試合は俺の勝ちだ。昨日以上にレフェリーの顔が青ざめていたが。
すぐさまバイアスは待機していた医療班に抱えられ、医務室の方へと運ばれていった。その頃には白目を剥いて泡を吹いていたので、男の象徴をカットしないと生きられないんじゃないかなぁ。
……ファールカップの装備を想定して、2発目のダイナマイトアッパーカットが控えてたのは内緒である。
「ケンっ」
リングから降りると、すぐに優花が俺の腕に抱き着いてきた。
「スカッとしたか?」
「うん。てか、あれでスカッとしなかったら病気を疑って良いと思うよ」
優花さん、実に爽やかな表情である。
軽く頭を撫でてやり、更に笑みを深めた可愛い恋人と共に、俺たちは1度控室へと戻るのだった。
準決勝は、多分すぐだろう。それまでの間、彼女と一緒に英気を養おうではないか。
お前(マックくん)がそれ(最風)を使ったらオシマイよ。
※マックくんの技紹介
★最速風神拳
…あ、ほら出たブッパ〜!
ガー不(掴み技)の右電撃ショートアッパー。150%近くを想定してもあのデビルマンより操作不能時間が長い。地面に落ちてくるまで硬直が続く。こんな技が上投げだけでポンッと出るんだぜ?
人に向けて打つと、クルリと1回転してから落ちてくる。なお、そのままホールドしたダイナマイトアッパーカットが確定する模様。相手は死ぬ。
マックくんの新たな恋人候補
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〝初恋枠〟優奈ちゃん
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〝妹枠〟ルウちゃん
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〝大穴枠〟恵里さん
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ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
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アルテナを始めとする亜人族の皆様方
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〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々