異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
拳闘大会が終了した翌日になっても、俺が優勝したという熱は一向に冷めていなかった。
「オーナーすまねえ。厨房の奥の方に隠してくれなかったら、朝食もまともに食う事も無理だったわ」
「おう、別に構わねえよ。俺もかつて、同じ事を経験した身だからな……」
遠い目をするオーナー。朝食の紅鮭モドキを焼きながら、かつての出来事を思い出してげんなりしている。
「あんときはホントに大変だったねぇ」
「あ、リスの亜人さん。名前は……」
「ルクスってお呼び。で、まあ大変だったよ。この人ときたら、全試合を代名詞のベアハッグで勝っちまったもんだからね。是非とも伝説の必殺ベアハッグを受けてみたいって客が殺到したのさ」
「何だそれは……」
強い奴の放つ最強の技を受けてみたいって事らしい。訳分からん。
俺ならあれか。K.O.アッパーを受けてみたいって言われるようなもんだろ。確実に死者が出るぞ。
「帝国の国民性だろうねぇ。強い者こそが正義だし、国民的アイドルだし、そして大スターだからね。仕方のない部分だよ」
「実力主義も極まるとこうなるのか。巡り巡って感心はするが、感動はしねえな……」
「ま、そいつは亜人のアタシたちも同じさ。ずっと帝国内で、あの人のとこで過ごしてるけども、未だに理解できない国民性だよ。ただ、あの人は、帝国民にしてはマトモだと思える感性を持ってるからさ。あんな感じでげんなりする事も多いよ」
やれやれだぜとでも言いたげである。本当に見た目とのギャップが凄いな。ルクス姐さんと呼びたくなる。
ちなみに優花は、クマの亜人ちゃんの方とずっと話をしていた。どうやら料理のレシピを教わっているようだ。
「ペアさん。この料理のレシピは?」
「あ、ごごごめんなさい! 紙に書き忘れてました! す、すぐに書いて来ますねってきゃあ!?」
見事にズッコケた。ふむ、ドジっ子属性か、クマの亜人で。何か面白い。
ほら、クマって強そうなイメージがあるじゃん? それでドジっ子属性でしょ? はわわってするんだろ? ギャップ萌えの典型例じゃん。実に素晴らしい。
「あちゃー、またやってる。ほらペア、焦ったら転ぶって何度言ったら分かるんだい?」
「あ、姐さ~ん……」
とても微笑ましい光景である。が、凝視はしないように務める。あまり他の女を見ていると、おそらく優花が不機嫌になってしまう。
恋愛的な可愛いと、愛玩動物のような可愛らしい何かを見ての可愛いは別物だと考えてはいるのだが。乙女心は複雑である。
まあ、理屈が通らない事の方が多いし。仕方のない部分もあるか。
オーナーの焼いてくれた紅鮭に加え、白米、味噌汁……モドキを胃に収めながら。いつの間にか少し頬を膨らませている優花に癒やされつつ、日本料理っぽい朝食に舌鼓を打つのだった。
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さて、幾分か時間は流れて夕暮れ時。俺は冒険者ギルドで手紙を受け取ろうと中に入ったのだが、何だか空気が異様に重たい。
こちらに殺意を向けてくる訳ではなく、シンプルに誰もがイライラしている。そんなイメージだ。
「嬢さん。手紙は?」
「……はいこれ」
「ありがとう。うん、すぐに連絡するとあるな。これなら大丈夫そうだ。 ……で、この空気は何だ?」
「アタシも詳しくは知らない。又聞きした情報だと、魔人族が帝国領内で確認されたって話だけど」
「へえ、魔人族が」
「でも、一向に姿を捉えられない。いるって事は分かってるのに。だから、こんなにピリピリしてる」
軍も血眼になって捜索しているそうだが、それでも魔人族を捉える事はできてないそうだ。目撃情報こそあるのだが、全く捕まえられない。そんな現状に、イライラした冒険者たちも総出で探しているが、やはり見つからず。余計に空気がピリつく一方である、らしい。
ぶっちゃけ俺たちには関係ない話である。だが、こうもピリピリした空気のギルド内の居心地は正直よろしくない。そそくさと出て、外でしばらくノンビリお散歩デートでもしよう。そう思って、扉を開けて外に出た。その瞬間である。
「っ、何だ!?」
凄まじい爆発音が、昨日まで戦っていたコロセアムの方から聞こえたのだ。
優花もすぐさま反応し、数本のナイフを浮遊させながらコロセアムの方角を睨んでいる。
「……強い魔力反応があっちにあるわ」
「どのくらいの強さだ?」
「かつての爪熊ぐらいかしら。何にせよ、普通の人間相手じゃ絶対に敵わないぐらい、かなり強い魔力反応よ」
このまま放置しておけば、確実に甚大な被害がこの帝都を襲うだろう。
仮にそうなれば。世話になったオーナーたちも巻き込まれてしまう。いくらオーナーが元チャンプとはいえ、爪熊レベルの魔力反応を出す何か相手に戦えるか。答えは、否だ。
「行こう。被害が広がる前に、事態を終息させるんだ!」
「ケンがそうするって言うなら、私はどこまでも一緒に行くわ」
「……この場で普通、そんな殺し文句を言う?」
ステータスの縛りを取っ払う。スウェットは緑色の物に切り替えると、俺は優花とほぼ同時にスタートを切った。
気配操作を行いながらの疾走なので、基本的に道行く人に気がつかれる事はない。局地的に強風が発生するので、随分と驚かせてしまってはいるが。
ちなみに優花は、普通に走っても追いつけないと分かっているのか、無数のナイフを1枚のボードのようにして空中を滑っていた。かなりとんでもない移動方法である。
こんなとんでも移動してるとこを見られたら、帝国民の中ではトップアイドルになれるのだろうか、優花は。
数キロをものの1分もないぐらいの時間で駆け抜けると、俺はコロセアム内への扉を拳で破りながら突入した。思いっきり器物損壊だが、一応緊急時だ。許せ。
強い魔力反応は、コロセアム内にある決闘用の魔物が閉じ込められている檻の方からだ。
籠手を衝撃波を飛ばせる方に切り替えると、俺は優花と頷き合ってから、檻のある部屋に入った。
「誰だっ」
部屋に入った途端、こちらを見るように振り返って。更に火属性魔法を放ってきたのは、赤髪の男だった。
アンチエアナックルで魔法を弾き飛ばし、スウェットを指輪の中へ放り込みながら、赤髪の男を観察する。
浅黒い肌。特徴的な赤髪。尖った耳。かつて王国にいた時に習った、とある種族の特徴を網羅していた。
「魔人族か、お前」
「っ、貴様は何者だ」
「リトルマック。その辺のボクサーだよ。お前も名乗ったらどうだ?」
シレッと偽名を名乗り、男の出方を伺う。
「……目撃者を生かしておく事はできぬ。故に、これから死ぬ貴様に名乗る必要性は感じない」
「失礼な奴だな。魔人族は皆こんな感じか? 超無礼で礼儀もなってない、野蛮な種族なのかよ」
この言葉には流石にムッときたらしい。そりゃそうだ。同族の誰もが野蛮と断じられたのだから。頭にこない方が変である。反応した辺り、まだマトモな感性はあるのかもしれん。
幾分か表情を歪めながら、赤髪の男は口を開いた。
「不遜な物言いだが、同族を貶されるのは我慢ならぬ。名乗ってやろう。我が名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」
神の使徒。奇しくも、勇者一行と同じ呼び名。魔人族側の神の使徒って事なのだろうか。
詳しくは分からん。まあ、ぶっちゃけどうでも良いので、俺はすぐに思考を切り替えて拳を構える。
檻の中に閉じ込められていた魔物は、明らかに凶暴化して今にも鉄格子を壊してしまいそうなぐらいに暴れている。外からも魔物の咆哮が聞こえるので、奴らが外へ行ってしまう前に仕留めなければ。
「ここじゃ狭い。互いに力は発揮できないだろう。外で戦うぞ」
「……貴様の提案に乗ってやろう」
互いに牽制は止めないまま、俺たちは外に出た。
やはり外は、凶暴化した魔物が今にも帝都へ飛び出してしまいそうな状態である。
その魔物の中でも、一際目立つ魔物……いや、ドラゴンが佇んでいた。
「白竜か……」
「ウラノス、行くぞ」
迷いなくウラノスと呼んで白竜の背に乗った、フリードと名乗った魔人族は、相変わらず剣呑な瞳でこちらを見ている。
全てをこの拳で叩けそうにない。特にあの白竜とフリードのタッグは、かつてのヒュドラ並かそれ以上の強さを持っていそうだ。
「優花。魔物を頼む」
「分かった。それじゃケンは、あのドラゴンをお願いね」
拳を突き合わせると、俺はフリードを真っ直ぐに睨み返す。
「久々にやるか。空中型リトルマックスタイルで!」
「何をゴチャゴチャと。どうせ死ぬのだ。貴様がどんな戦い方をしようと関係ない」
「ハッ、好きなだけほざいてろ。制空権を取れたからって、戦闘は有利には進まないって事を教えてやるよ」
その言葉に表情を消したフリードは、護衛として連れてたであろう灰竜も近くに呼び寄せると。ノータイムであのヒュドラを想起させる極光をブッパしてきた。
灰竜は3匹。白竜は1匹のみ。計4つの極光を、俺は〝縮地〟による爆発的な踏み込みでスタートを切る事で回避。抉れる地面を物ともせず、俺は一気に竜たちの真下へと入り込んだ。
衝撃波を繰り出しながらのハンマーパンチで、片手のハンドスプリングのような形で上体をフワリと宙に浮かばせると、空中でもう1度回転しながら真下に両拳で衝撃波を放って更に浮く。
空中に足場を作って高度を上げるよりも、遥かにスピーディーに高度を上げた俺は、ギョッと見開いた眼を向けた灰竜に対して空中でワン・ツーパンチを打って頭に衝撃波を落とし、早速1匹撃墜した。
ここでようやく〝天歩〟を使用。空中ではあるが、スタッと足場に降り立つと、ヒットマンスタイルで構えを取る。
「小癪なっ」
フリード自身からは色とりどりの魔法が。竜たちからは連射性の高い極光が飛来する。
地上のように走れない以上、回避するならピョンピョンと空中に作り出した足場を飛び移らなければならない。それでは流石にスピードが足りない。
その場で迎撃しようにも、衝撃波の反動で足場から落ちてしまう可能性が否めない。地上なら全く問題ないが、空中の足場は基本的に不安定。パンチを正面に打てば、その勢いでどんどん後ろへ飛んでしまうだろう。
非常に難しい場面。しかし、諦めるつもりはない。こんな状況でも、まだやれる事はたくさんある。
反動が比較的少なく済むジャブを衝撃波込みで打ち、何発か魔法と極光を打ち落としてから。俺は〝集中強化〟で左足を強化すると、強烈な踏み込みでまた高度を取った。
それを追いかけるように魔法と極光が放たれるが、意に介さず足場に着地……する事はなく、今度は右足を強化して側宙のような形で飛翔。俺の顔の横を、火属性や風属性の魔法が通り過ぎる。
左足が重力に従い、地面を向いてきたところで再度足場を作ると、今度はジョルトの踏み込みで前方へ大きく弾け跳んだ。
「バカめ、その体勢で攻撃が避けられるか!」
白竜から極光が放たれる。初撃よりもチャージしていたのか、その勢いは凄まじい。
ギリギリのギリギリまで引きつける。まだ、まだ、まだ。まだだ。まだ……。
「……今っ!」
拳を振り抜く。思いっきり。
数フレームもない攻撃の継続時間。それを極光の先端に叩き込み、軌道を変更させたのだ。
再び地面に直撃する極光。対して俺は、ジョルトブローを放った際の衝撃波で加速し、一気にフリードとの距離を詰めた。
「チィッ!」
次から次へと魔法が飛来する。速射性の高い風属性魔法だ。刃物のように鋭い風が、ジョルトを打って莫大な隙を晒している俺の身体を削っていく。
痛い。皮膚が削られる。血が吹き出る。
「……だから、何だ?」
「これだけ被弾しても怯まないのか、貴様は!?」
「あいにく痛みには強いんでね!」
もうフリードは目と鼻の先だ。
魔法を受けた事で不規則に体が動き、それによって逆に体勢を立て直した俺は白竜の背に着地。奴が振り落とそうと動くよりも早くダッシュし、フリードが何かするより前にクリンチからの〝纏雷〟を使用したショートアッパーで打ち上げる。
奴の体が落ちてくる。それよりも早く、俺は小さくジャンプ。空中で4回、着地するまで小刻みにリズム良くジャブを放った。
割り込み技で大変お世話になる、スマブラマックの空中ニュートラル技。苦手空中ジャブだ。
衝撃波を打てる恩恵と、魔法による身体能力強化によるこの技の強化幅も大きい。発生速度の向上と全体隙の減少のお陰で、小ジャンプで打てる回数が増えている。更に、小ジャンで斜め下に弱いメテオ効果のある衝撃波も飛ぶ。
まあ、落ちるよりも速くこっちの拳が到達するので、衝撃波によるメテオ効果の実感はしにくいけどね。
4発目のジャブを叩き込んだところで、俺とフリードは白竜の背に再び降り立った。
降り立つと同時に最速発生の左ジャブ、右テンプルフック、左リバーブローでフリードを白竜の背から叩き落とす。そしてその後を俺も追う。
復帰阻止の時間だ。絶対に白竜の元へは帰らせない。
オープンハンドブローで少し下に追いやりながら、俺は奴の背中側に回る。そして、再びジャブ、ジャブ、ジャブだ。
割り込みなんぞ許さん。背中側への魔法ってのは難しいし、フリードが盾になってるから白竜たちがこちらを狙う事もできない。
時折〝天歩〟を使って跳び上がりながら、右でアッパーを打って奴の身体ごと高度を上げてはジャブの連打。延々と地上に降りず、ひたすらダメージを蓄積させていく。
何発叩き込んだか分からなくなり始めた頃合いで。俺はふと、下の方を見た。もちろんジャブは打ちながら。
「あれは……サンドマンか!?」
異世界に来て、やけに良くなった視力が捉えたのは。優花と相対している、サンドマンの姿だった。
今回、描いててすっごく楽しかった。
※マックくんの技紹介
★苦手空中ジャブ
…コンボへの割り込みと崖上がりに欠かせない。見た目はふざけてるけど1番使う空中技。
バランスを考えてない作者の調整により、空中でも最速発生&小ジャンで4発打てる&メテオ効果のある衝撃波が追加で装備された。もう字面からバカ強い。
狂気の身体能力と技能で全体隙は減少&威力向上により、スマブラ換算で一撃5%は入る。しかも4発全てコンボになる。OP相殺を加味しても20%ぐらい入る。崖下に衝撃波で圧力をかける事もできる。ぶっ壊れ。
最風からのジャブ連打で道連れもできる。全部コンボになるから下手したらカズヤより酷い。崖で掴まれたら死ぬ。しかも上手くやれば踏みつけも確定しそうな雰囲気。お前の復帰力で最風メテオコンボ即死キメて更に帰ってきたらクソキャラだぞ。
異世界ならではの無限ジャンプとの相性が良すぎて、フリードは現在ジャブハメを受けてる。空間魔法でも打てたら逃げられるのにね。
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