異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
ここ数話はシリアス寄りだったので、今回はなるべく平和でのほほんとした感じに仕上げています。
あの後、しばらくしてから俺はようやく気持ちが落ち着いた。
サンドマンの事をまだ割り切れてはいないが、また会える事を信じ、次に会ったら全力で拳で語り合うと決める事で、どうにか持ち直したのである。
後に残った羞恥心は無理やり抑え込みつつ、宿に戻ってきた俺たちは、その日はすぐにご飯を食べて風呂に入り、意識の続く限り寝転がりながらイチャイチャしていた。無論、健全だ。
珍しく優花に甘える形となったイチャイチャは、何だか新鮮な感じがした。気恥ずかしさよりも、心の奥がポカポカするなと思ったのは恥ずかしすぎて口にしてないが。
夜が明ける頃には、俺もすっかり体も心も回復し、バッチシ動けるようになっていたので、辛い時は優花に適度に甘えるのも大事かもしれない。
さて、今日俺たちは、再び冒険者ギルドの方に足を運んでいた。
宿の受付嬢から「ギルドにリトルマック宛の手紙が届いている」と言われたので、それを受け取りにきたのだ。
冒険者ギルドに入ると、朝っぱらから飲んだくれている男がそこかしこに転がっている。もうすっかり慣れた景色なので、丸々無視しているが、最初の頃は何とも言えない気分になってたっけ。
「ああ、手紙でしょ。はいこれ」
「おっと。ありがとうな」
俺が話しかける前に、ギルドの受付嬢は俺に手紙を投げ渡してきた。
それをパシリと受け取り、テキトーに礼を言って中身を確認する。
送り主には、サウス・クラウドとあった。立場的には行方不明者である事を気にして、わざわざ偽名で送る辺りが面白い。
それにしてもクラウドか。ハジメはどう見ても一般ソルジャーではないが、立ち回りの多様さという部分ではある意味ピッタリと言えるかも。
「なになに……ほう、これから一足先にライセン大迷宮を探しに行くってか」
「あら、そうなの? てっきりもう探してるのかと」
「事情は分からんが、何か一悶着あったのかもしれないな。それで探索が遅れたなら合点がいく」
ともかく、無事そうだし元気もありそうなので良しとする。
「ま、取り敢えず俺たちもライセン大迷宮の探索に出るとしようか」
「そうね。日用品の買い込みはもう十分だし、すぐにでも行きましょう」
「おう。また帝国に足を運ぶ機会もあるだろうから、その時にオーナー辺りには何があったかを話してやる事しよう」
冒険者ギルドを出た俺たちは、人目が少ないところで指輪から二輪を取り出した。
運転席に俺、後ろに優花と安定した順番で座ると、ゆっくり二輪は動き出す。
ハジメ曰く、エンジンの複雑な機構までは再現できず、無音で動くからロマンが足りないとボヤいていた二輪は、環境に配慮した音で発進。十全に気配を遮断しながら、帝都をあっという間に抜けてライセン大渓谷の方へと抜け出した。
目的が大雑把なので、取り敢えず隅から隅まで二輪で駆け抜けながら、目視で探すのみである。
時折魔物の姿は見受けられるが、やはり気配を遮断しているのでこちらには気がつかない。魔力が分解される環境ではあるが、アーティファクトに付与されている魔法なら問題なく作用するようだ。
それでも、一部気配に鋭敏な魔物は違和感を覚えるようで、たまにこちらを向く。そんな時は、優花の飛びナイフが牙を剥く。
「ピギャッ!?」
「……うん、しっかり頭に刺さってるね」
また見事に頭に命中させたようだ。流石は投術師。魔法での操作なくても百発百中らしい。
「優花。ずっとナイフを投げてて疲れないのか?」
「? この環境で、現在進行系で魔力を流し続けてるケンの方が疲れるでしょ。私は大丈夫。投げるだけだし」
「そんなもんなのかね」
「そんなもんよ」
どーでも良い事を言いながら、二輪を走らせて数時間。疲労感を覚えてきたので、俺は岩と岩の影になっていて、簡単には魔物に見つからなさそうなところに止まると、指輪の中へ二輪を放り込んで休憩に入った。
優花は簡易倉庫となっている別の指輪から、ハジメ作の野営テントを取り出す。
こいつは、オルクス大迷宮に滞在してた頃にハジメが制作した、旅における常識を真っ向から笑い飛ばす代物だ。
冷暖房完備。冷凍庫、冷蔵庫、フカフカの布団あり。ハジメお手製の調理器具もあれば、テントから出ず、火も使わないで料理可能。オマケに〝気配遮断〟が付加された〝気断石〟を組み込まれてるので、敵にも見つかりにくい。これだけで強すぎる。
俺と優花が使う野営テントは、実は試作品であり、そこまで多くの機能を盛り込めなかったとハジメは謝っていたが。当然それを否定したのも、今では少し懐かしい記憶だ。
なお、完成品は持ち運べる要塞のような造りになっていた。ユエ曰くだが、白崎と一緒になってノリノリで作っていたらしい。
要塞テントを大量生産したら、魔人族との戦争なんか一瞬で終わりそうだよな……何て考えたのは内緒である。
さて、テント内の布団に座って休憩しつつ。俺は懐からライセン大渓谷の地図を取り出した。日用品の買い込みついでに買った物である。何かの役に立ちそうな気がしたのだ。
俺は地図に、数カ所バツ印を付けていく。
「何してるの?」
「探した場所にバツを付けておこうと思ってな」
「ふーん」
横側からヒョコリと顔を出し、俺の肩に顎を乗せてる優花さん。何だか可愛らしい。
軽く頬を撫でながら受け答えすると、ネコのような動きで手のひらに髪の毛だの頬だのを擦りつける。
俺の中ではすっかり優花イコールネコの方程式が完成しているのだが、ネコの中でも格別甘えん坊ってのが良い。
ツンデレも大好物なんですけどね。
「帝国からライセン大渓谷へのルートはこっちで。現在地はこの地図だとこの辺だな」
「結構進んでるわね」
「まあ、魔力駆動二輪あってこその探索スピードだよな。瞬間的なら生身の方が遥かにスピードは出るが、持続的に速さを求めるってなると、この二輪はニーズに合いすぎてる」
「瞬間的ならバイクより速いケンも大概だと思うんだけど……」
それはリトルマックだから仕方ない。正確には覚えてないが、確かワリオバイクより速かったろ? 音速ネズミの次に速いダッシュスピードは伊達じゃないのだ。
「次はここら辺で休憩だな」
「大渓谷の中腹付近?」
「この辺りに拠点を構えておけば、東西南北どこにでも探しに行けるはずだ」
「ああ、なるほど。ご尤もな意見ね」
次の行く先も決まったので、目的地に印を付けたところで地図を畳み、懐のポケットに放り込む。
そのタイミングで、優花が俺の正面にストンと座った。
「休憩、もう少しするの?」
コテンと首を倒しながら。マジであざとい。狙ってやってるのか?
俺の前では本当にツンケンがゼロである。最近、ずっと2人なのでツンツン優花っちを見てないので、最初からこんな感じだったのでは? と思うぐらいだ。
「まあ、そうだな。もう1時間ぐらいはノンビリするつもりでいる」
「そう。なら、その時間は目一杯構って」
「……良いぞ」
ツンデレのガワ被ったデレデレちゃん。それが優花。マージで俺特効だわ。
寝転がり、定位置の右腕にピタリと密着した優花は、女性としての武器を限界まで発揮している。上目、微笑、柔らかいアレコレ。
一応言っておきたいのだが、日本で生活していた頃の俺は、ちょっとボクシングが強いスマブラオタクである。現在も根本の部分は、正直そんなに変わってない。
何が言いたいのかって? 理性が毎度ヤベーんだよ。
俺にこんな忍耐力があるとは思ってなかった。いや、ボクシングとスマブラは別だけどさ。ボクシングは忍耐力云々の次元じゃないからセーフ。スマブラでもしっかり我慢しないとマックくんで勝てないから……ね?
凄い余談だが、対近接キャラを相手取る時に、全力でガン待ちを決め込んだマックくんは強い。技の発生がアホみたいに素早いから、カウンター気味に攻撃を刺すのが中々に強力なのだ。差し返しスマブッパには世話になってます。
ほぼ経験のない女性関連であっても、無類の忍耐力を発揮できると知った時は、変な感心を覚えたものだ。
「……ケンってさ」
「おう」
「その、欲はないの? 自分でこんな行為しておいてアレなんだけど」
「なくはないぞ」
なくはないです。密着の度に悶々してますとも。
「私、そんな魅力ないかな」
「それは違う。優花が魅力的すぎて、俺の理性が何度爆裂しそうになったか分からん」
「じゃあ、何で?」
「まだ早いと思ってるのが理由として強い」
正式に付き合って1ヶ月とどのぐらいだ? 濃い日々を過ごしてるから感覚がかなり麻痺してるが、まだそんなに経ってないと思う。
無論、大人の階段を登る事に憧れはあるし欲もある。だが、急いで駆け足で先へ進んだら、後々大変な気がしてならないのだ。
俺がヘタレなのもあるが、その辺の線引はしっかりしておきたいのである。
「私は、いつでもウェルカムと思ってる」
「それは嬉しいんだけどな。何分経験がないから、めちゃくちゃに慎重になってるんだ」
「経験がないって……ああ、そうか。優奈ちゃん……」
「あれから、恋らしい恋はしなかったからな。本当に経験がなくて、毎回ドギマギしてるんだよ」
恋人はボクシング。愛人はスマブラ。うん、冗談でも悲しすぎるわ。
「ドギマギ、してるんだ」
「え? ……まあ、そりゃね」
「ふーん」
「……何だ、いきなりニヤニヤして」
「ううん。ちょっと嬉しくて」
「嬉しい? 何が」
「オルクスで戦ってた頃までは、私がドギマギさせられる頻度が圧倒的に多かったから。最近はやり返せてるって知れて、自己肯定感が上がる」
微笑んでる優花の破壊力が凄まじくて、俺は思わず目を逸らした。
ホント、惚れたら色々と負けだなって思う。ふとした仕草でこうもドキドキさせられてしまうのだから。
「少し早いが、そろそろ行くか」
誤魔化すようにして体を起こし、俺はそう告げた。
「ふふ、分かった」
誤魔化せてねえわこれ。
いや、バレバレなのは分かってたが。こうも分かりやすくバレてると知らされると、かなり気恥ずかしい。
黙って身支度を済ませると、野営テントを指輪の中に収納してから軽くシャドーボクシングで体を動かす。
鈍ってた体がそれなりに温まり、不意の奇襲でも動けるぐらいにはなったところで、再び俺は優花と共に二輪に乗り込むのだった。
オーナーのとこの奥方殿たちの教えは健在。
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