異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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遊ばれて、また遊ばれる

 ライセン大渓谷の探索を開始してから2日。これと言ってそれらしき物が見当たらず、精神がゴリゴリ削らているが、まだ比較的元気である。

 

 最初に仮拠点の場所として選んだ大渓谷の中腹付近から、やや移動して樹海の方へと抜ける道がある場所に野営テントを設置した俺たちは、今日も大迷宮が見つからず軽く気落ちしながらも、ノンビリと過ごしていた。

 

「うーん。やっぱ情報が大雑把だから、分かってはいたけど中々見つからんな」

「気長に探すしかないわね」

 

 恋人の手料理を味わいながらボヤく俺を、優花は苦笑いしながら慰めてくれている。

 

 これが1人だったら、今頃イライラしながら探索を延々としていただろう。

 

「とは言え、早いところ見つけたいんだがなぁ」

 

 洋風スープを飲み込み、最後まで味わってからそう口にする。

 

 それには彼女も同意見なようで、頷きながら再度苦笑いを浮かべた。

 

 何となくその場でゆっくりするには気まずい感じがして、俺は少しだけ夜風に当たるために外へ出た。

 

 大渓谷から見上げる星空。中々に美しく、思わず足を止めて目を奪われる。

 

「……この世界でも、星々の美しさは変わらないんだな」

 

 思わずそう呟いた。

 

 夜遅くにボクシングの練習が終わる事がほとんどだったので、俺は誰も通らない夜の道路を、ゆっくり歩きながら星空を眺めて帰宅する事が多かった。

 

 そうやって眺めていくうちに、いつの間にか星空を眺める事が趣味となっていた俺は、こうして異世界に来てからも、たまに夜空を見上げてしまう。

 

 あまり野営テントから離れないように意識はしつつ、俺はゆっくり歩きながら星空を瞼の裏まで焼き付ける。

 

 そんな時である。俺の視界の端を、何か光のような物が通り過ぎたのは。

 

「ん?」

 

 流れ星かと思って、光った方向を見上げるが、夜空に変化はない。

 

 気の所為かと思い、首を傾げながらも天体観測に戻ろうとするが。

 

「……また。何なんだ?」

 

 また、光が一瞬だけ。俺の視界の端に現れては消えた。

 

 今度こそと思って、空は見上げず光った方向を振り返るも、そこには何もない。

 

 その後も何度か光が出現し、その度に振り返るのだが。何もないので、回数を重ねる毎に俺は胡乱な眼差しを深めていっている。

 

 遊ばれている感が半端ない。だが、俺は何に遊ばれているんだ?

 

 疑問に思いながら繰り返す事数回。俺はようやく、光の正体をこの目で捉えた。

 

「……人、なのか?」

 

 容姿はハッキリとしない。だが、その光は確かに人の形をしていた。

 

 少しの間、光をボンヤリと眺めていると。人型のそれは、手招きをした。

 

 こっちにいらっしゃい。おいで。そんな風な言葉も、耳からではなく脳裏に響き渡る。

 

「少し、待っててくれるか」

 

 そのまま追従しようとしたが、俺はどうにか踏み止まると、光に背を向けて優花を呼ぶべく野営するの方へと向かった。

 

 光の人が了承したか定かではない。だが、あのまま追いかけたら、何だか戻ってこれない気がして。こんな行動に出た。俺の直感は、おそらく間違ってない。

 

 野営テントの入り口を開け、中でくつろいでいた優花に声をかける。

 

「すまん。ちょっと来てくれるか?」

「良いけど……どうしたの、急に。そんなに顔を青くして、何かあった?」

「すぐ分かる。とにかく一緒に来てくれ」

 

 訝しがりながらも、優花は野営道具一式を指輪に収納して動く準備をしてくれた。

 

 よっぽど様子がおかしく見えたらしい。手早く身支度を終えると、俺の手を握って心配そうにこちらを見上げてくる。

 

 少し心のざわつきが落ち着いた。手は繋いだまま、俺はさっきまで立っていた場所へと足を運んだ。

 

 光の人は、未だそこに佇んでいた。俺たちの周囲をグルリと周って存在を確認すると、また少し離れて手招きをする。

 

「光の、人?」

 

 どうやら、優花の目にも見えているようだ。どう見ても人間ではないが、明らかに人の形をしている光に驚いている。

 

 結構なスピードで、滑るようにして移動する光。それを俺たちは、少し早歩きで追いかけた。

 

 時間にして数分。あっという間のようで、何故か途轍もなく長い時間を歩いたと感じた俺たちが辿り着いたのは、無数の巨大な岩が倒れている場所だ。いかにも谷底にありそうな場所である。

 

 だが、光は岩と岩の間をスイスイと抜けていく。どうやら、まだ目的地に到着していないらしい。

 

 いくつかの岩と岩の隙間を、俺たちも光に倣って抜けていく。岩が巨大だからか、隙間はそこまで小さくないので、そこまで苦労はしなかった。

 

 そうやって歩いていくと、不意に光の人の動きが止まった。

 

 ずっと光の人だけを見ていたので気がつかなかったが、どうやら行き止まりに辿り着いたようだ。

 

 まあ、ただの行き止まりではなかったのだが。

 

「こいつは……」

「看板、よね?」

 

 優花の言葉通りである。俺たちの眼の前には、岩壁に貼り付けられた看板があったのだ。

 

 こんな谷底。しかも、巨大な岩と岩の奥にどうして看板が。そう思うよりも早く、看板の文字を脳が認識した事で、俺は更なる混乱に陥る。

 

〝見つけた貴方はラッキー! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮、近道できる裏口だよっ♪〟

 

 妙に音符マークやビックリマークが凝っている。それはもう、実に女の子らしく。

 

「……なんじゃこれ」

「何これ、イタズラ?」

 

 だが。イタズラと割り切るには早計だ。

 

 ミレディ・ライセン。オスカーの資料を覗いた時に見つけた、解放者のリーダー。別格の力を持っていた、1人の少女。

 

 ライセン大渓谷なんて物があるので、彼女の名前の方は有名なのだが。ファーストネームの方は全く知られていない。故に、その名が記されているこの場所がライセンの大迷宮である可能性は非常に高かった。

 

 信じ切れない部分はある。主にチャラさ。

 

「ここが、マジでライセン大迷宮なのか?」

 

 思わず俺は、光の人に尋ねた。

 

「……」

「マジ、か」

 

 輪郭のハッキリしない光の人だが。この時ばかりは、確かに頷いた。

 

 どうしてこの、正体不明の光の人がライセン大迷宮の場所を知っているのか。しかも、ショートカットになるかもしれない秘密の入口を知っているのか。分からないのだが。

 

「……何だか、無性に信じたくなるな」

 

 そう。この光の人を、俺はどうも無性に信じたくなっているのだ。

 

 そしてそれは、どうやら優花も同じらしい。

 

「信じたい。信じたいけど、本当に良いのかな……」

 

 迷いはある。だが、全て見なかった事にして、また探索に戻って。真の入口が見つかるまでに、どのぐらいの時間が必要になるだろうか。

 

 メリットと、安易に信じると起こり得るデメリット。2つの板挟みに、どうしたものかと思案していると。不意に、脳に直接声が響いた。

 

――信じて。

 

 知ってる声だった。

 

 優花の耳にも届いたのか、ハッと顔を上げた。

 

 それ以上は何も聞こえず、光の人は空間に溶け込むようにして消えてしまったが。声を聞いた俺と優花は、互いに頷き合うと、決然とした表情で、全く同じタイミングで言葉を口にする。

 

「行くぞ」

「行こう」

 

 光の人が、信頼に値すると感じたのだ。

 

 改めて岩壁の前に立つと、俺は装備をしっかりと装着してから、慎重に看板の周りをペタペタと触って、何かないか確かめる。

 

 そうしていくと、1箇所だけ奥に動きそうな部分を見つけた。

 

 優花がしっかり俺の手を握っている事を確認した俺は、意を決して岩壁を奥に押す。

 

 予想通り、俺が押した箇所だけ奥にガコンッ! と動いた。スイッチのように。

 

 途端に、壁が回転扉のようにグルリと動き。俺と優花は、そのまま奥の方へと追いやられた。

 

 そうして追いやられた先は、少し先を見通す事も普通なら不可能なぐらいの暗闇で覆われた、かなりの広さを持つ空間である。

 

 だが、起きた事象に驚く時間はなかった。

 

 遠くから聞こえる、無数の風切り音。それが耳に入った瞬間に、俺の体は動き始めていた。

 

 衝撃波を伴う拳のラッシュ。それが繰り出されるとほぼ同時に、俺たちのところへ大量のナイフが飛来した。闇に溶け込んでしまいそうなぐらい漆黒に塗られたナイフなので、視認しにくいったらありゃしない。

 

 それでも壁のように展開された衝撃波が尽くを叩き落としていき、やがて飛来したナイフを全て弾くと、俺は息を深く吐いて安堵する。

 

 部屋もボンヤリと光が灯されて、特殊な技能なしでも辺りの様子が分かるようになった。俺たちが立っているのは10メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟

〝秘密の入口見つけられたのに、早速誰か死んじゃった? もしかしてさっきまで泣いていた? ……ぶふっ〟

 

 挑発には慣れ親しんでいる俺は、軽くイラッと来るだけで済んでいるのだが。優花はそうではなさそうだ。

 

 彼女の怒りが沸騰する前に、頭を撫でて「どうどう」と落ち着かせる。

 

「無差別に怒っても疲れるだけだぞ」

「うっ。それは、そうだけど……」

「不必要な怒りは余計な焦りを招く。イラッと来ても、それに呑まれてはいけない」

 

 そうでなきゃ、体重差のあるボクサーを打ち倒すなんてできない。

 

 スマブラでも、クソみてえなド陰キャ戦法ブチかまされたとしても、イライラせず対処するのが大事だ。

 

……ガン逃げ崖芋陰キャだったりクソルールを仕掛けてくる阿呆はマジで嫌いだけど。マックくんじゃ対処できねえルールもあるんだわ。

 

「……なんか、ケンもイライラしてない?」

「まあ、少し昔の事を思い出してなァ」

 

 薄ら笑いしながら答えると、俺は1歩前に踏み出した。

 

ガコンッ!

 

 そして、床にあったらしい何かのスイッチを踏み抜いた。畜生め。大嫌いだバーカッ!(閣下)

 

 次の瞬間、

 

 シャァアアア!!

 

 そんな刃が滑るような音を響かせながら、天井から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が数えるのも面倒なぐらい無数に飛び出してきた。

 

 それぞれが独立して上下に動いており、一応通れるだけの隙間ができる瞬間はあるものの、その瞬間を見逃さず一気に駆け抜けないと、あっという間にズタボロにされるだろう。

 

 前方が刃で埋め尽くされており、このまま進むのは困難を極める。そう思い、どうしたものかと思案した俺だが、不意に悪寒を感じ、咄嗟に優花を抱えながら全力でバックスウェーを行った。

 

 さっきまで立っていた地面に無数の小さな穴が開き、そこから大量に酸性の液体を塗られているであろう矢が、天井に向かって射出されていった。

 

「あっぶねえ……」

「あ、ありがとケン」

 

 どうやらノンビリ考える時間も与えてくれないらしい。

 

 厄介な場所だと思い、特に意味もなく周囲を見渡しながら拳を握ると、ふと石版が目に入った。

 

〝ちなみに秘密の入口からのルートは確かに近道だけど、優しくて聖人君子なミレディちゃんは、近道だと浮かれてる君たちのために、とっても厳しくて危なくて、かつ考える暇もないぐらいのトラップを用意しました〟

〝より厳しい試練を乗り越えてもらう事で、通常の道で攻略する人たちとの不公平さをなくそうという心遣いです〟

〝どうか死ぬまで楽しんでくださいませっ! フヒヒッ〟

 

 クソ面倒な事をしやがったなオイ。

 

 現在進行系で発射される毒矢をしゃがんで回避しながら石版の文字を読んだ俺は、最終試練で待ち構えている魔物に全ての怒りをぶつける事を決意した。

 

「野郎ォぶっ殺してやるぁあああ!!!」




 怒っちゃいけないとか言いながらこれである。相手がミレディだから仕方ない。

 にしても、マックくんと優花さんが声を聞いた瞬間に信じる人って……。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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