異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
「あのー、そろそろ良いっすか」
完全に2人の世界に入り込んでしまったミレディとオスカーに、俺は気まずい思いをしながらも声をかけた。
「ああ、ごめんね。ミレディ、まだ神代魔法の伝授をしてなかったろ?」
「……忘れちゃってた☆」
ウゼえ。が、どことなく幸せそうなミレディを見ていると、毒気が少しずつ抜かれていく。
ルンルンとした動きで魔法陣まで連れてきたミレディは、全員が魔法陣内に入ったのを確認すると、陣に魔力を流して作動させた。
オルクス大迷宮の時とは異なり、今回はミレディ本人が攻略したのを目の当たりにしているからなのか、大迷宮内での出来事が走馬灯のように流れる事はなく、いきなり神代魔法の刷り込みが開始した。こっちはもう経験した事なので、特に身動ぎも何もないのだが。シアだけは別で、未知の感覚にビクリと反応している。
「こいつは……重力魔法か」
「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね……って言いたいところだけど、白髪くんとウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね! 金髪ちゃんとゆるふわナイフちゃんは適性バッチリだから、鍛錬すればしっかり実戦でも扱えるようになるよ。回復担当の白髪ちゃんも、修練すればそれなりに扱えるようになるんじゃないかな。で、最後に残った君だけどぉ……」
「? 何だ、もったいぶって」
「いやぁ、何か歪な形で適性があるっぽいんだよねぇ」
どうも俺に関しては、拳周辺のみ重力を変える事が可能らしい。ただでさえ重いパンチが、更にエグい一撃と化す可能性が出てきた。
よりバリーブローがそれっぽく……マジでメテオできちゃう勢いで降下可能になったりとか、レッグブローがヒットした際のベクトルを真上に変更できたりとか、拳に引っ張られるようにしてライジングアッパーカットを打てるようになった事で上昇距離が増加したとか。そんなところだろう。
神代魔法を手にする度に、リトマにより酷似していく呪いでもあるのだろうか。
「君みたいな特殊例は置いとくとして、ウサギちゃんは自分の体重の増減ぐらいはできると思うよ。白髪くんは……生成魔法があるんだから、そっちで頑張りなよ」
「体重の増減って、それ誰得ですかぁ……?」
うーん、急降下キックの破壊力の向上には役立つんじゃなかろうか。重さの分、当然ながら威力は上がるんだし。
女性的な観点から見るとするならば、この特典は全く嬉しくないと思うけど。
「後は攻略の証と、珍しい鉱石類もあげちゃうね。おそらく君たちが目的を成そうするなら、絶対にあのクソ野郎共とぶつかるだろうから……」
「ミレディ。そこは素直に、協力は惜しまないって言い切ったらどうだい?」
「ちょちょ、オーくんそこは空気読んで黙っててよ!」
夫婦のやり取りを見せられて、俺は某チベットスナギツネみたいな顔になってる。傍から見たら、俺と優花もあんな感じに見えるのだろうか。
虚無顔になりながらも、珍しい鉱物や攻略の証を指輪の中に収納していく。ちなみに攻略の証は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインの指輪だった。
「ゴホンッ。ひとまず、これでミレディちゃんからの報酬タイムは終わり!」
「じゃあ、次は僕から君たちに。僕の個人的なお願いを聞いてくれたお礼だ」
プイッとそっぽを向いたミレディと入れ替わるように、オスカーが指輪から様々な物を取り出した。
「まず、錬成師の君にこれを」
「黒い傘……ですか?」
「その傘はアーティファクト〝黒傘〟。身体能力強化機能と、ワンワード詠唱で様々な魔法を発動させられる武器だよ。激流、暴風、雷、石化、〝聖絶〟の展開、触れたら弾け跳ぶ衝壁の構築……」
「ちょちょ、少し待ってくださいオスカーさん! 機能多すぎていっぺんに覚えられませんって!」
ハジメくん、嬉しそうに悲鳴を上げてる。同じ錬成師だからか、めっちゃ目もキラキラだ。
ちなみに他にも、極光をブッパできる天灼や回復フィールドの展開なんかも可能らしい。後は渦巻く炎とか、狙撃機能とか、錬成範囲の拡大とか、何ならふっつーに斬撃とかもできちゃう。もう盛りだくさん。お腹いっぱいです。
「この短剣は、投術師の君にだ。アーティファクト〝小さな魔剣〟と言う。様々な式が組み込まれていて、命中と同時に効果を発揮する」
「え、私に。 ……わあ、爆裂式や氷結式。それにこっちは灼熱式ですよね」
「大正解。君たちは見知らぬアーティファクトによって、装備者の体調を考慮せずとも、常に高い火力を発揮できる手段を持っている。けど、そのアーティファクトでは火力が今ひとつ足りない場面もある。この大迷宮を攻略してる最中、そう感じなかったかい?」
「……はい。誰でも高火力をいつでも放てるのが魅力なアーティファクトですけど、これ以上の強化は難しいです。電磁加速させての破壊力増強にも限界があるので」
「そうだよね。投術師の君も、火力の限界を感じた場面が少なからずあったんじゃない?」
「魔力が使えない場所だと特に。切り刻むにしても、鉄鉱石類はやっぱ難しいです」
「そこで錬成師の君にはこの黒傘。そしてこの小さな魔剣は投術師の君にだ。黒傘は全距離の火力と防御力を飛躍的に向上させられる。小さな魔剣は、操作するナイフに紛れ込ませれば、より簡単に死角から甚大なダメージを与える事が可能になるんだ」
オスカーの制作したアーティファクト類の利便性や機能性が色々とヤバい。
ハジメも優花も、そのアーティファクト持ったら絶対に化けるだろ。
特に黒傘。持ってるだけで身体能力が上がるのもヤバいが、何より戦える距離が広すぎる。拳と蹴りに頼らざるを得ない超近距離戦だろうが、拳銃の射程外だろうが関係ないのだ、この黒傘は。
優花が受け取った小さな魔剣も、彼女が持つ事によって色々と化ける。てか、手に負えなくなる。ガワだけ他のナイフも小さな魔剣に偽装してしまえば、〝どれが必殺の魔剣か〟を分からなくした上で、優花の繰る投擲物や銃撃を回避しなければならない。地獄だ……。
「じゃあ次に、治癒師の君とウサギさん。手持ちの武器を僕に渡してくれるかい?」
「えと、これをですか?」
「わ、私もですね! 分かりましたぁ!」
やや困惑はありながらも、白崎とシアは、自身が扱う武器をそれぞれオスカーに手渡した。
武器を受け取ったオスカーが少し集中すると、たちまち杖が光に包まれる。形状の変化はないが、時間が経過する毎に、徐々に強大なエネルギーを蓄えていく様子が分かる。
数秒程度でその光は収まり、武器は白崎とシアの手元に帰ったのだが。受け取った白崎とシアの目が思いっきり見開かれた事から、絶対何かオスカーが施したのは確定だ。
「凄い……回復魔法の範囲も速度も、これまでの倍になってる……!」
「わわ、何かものすっごい軽くなってませんか!? でも、内容量は変わってないような……」
「どちらも1つ上の段階に〝昇華〟させただけさ。それと、前よりも〝ほんのり〟頑丈にしたよ」
「「これがほんのり……?」」
「アザンチウムとタウル鉱石の複合鉱石だからね。ほんのり頑丈さ」
いやそれ全然ほんのりじゃねえんだわ。流石にアザンチウムでのフルコーティングよりは劣るけど、それでもアホみたいに硬いですわ。
オスカーの基準が色々とバグってるので、俺はかなり置いてけぼりを食らっている。
「さて、次は吸血姫様だよ」
「んっ。私にも、何かあるの?」
「もちろん。君にはこれを贈呈しよう」
そう言って手渡したのは、透き通るぐらいの純度を持つアクアマリン色の宝石……が3個付いたブレスレットだった。
何やら見覚えのある宝石である。そう感じた俺の勘はどうやら正しかったようだ。
「手作りの神結晶を錬成で加工して、外付けの魔力庫にした物だ」
「……んぅ!? 手作りの神結晶!?」
「オリジナルと遜色ない魔力を貯めておけるよ。しかも3つそれぞれにね。ちなみになんだけど、時間を操る術を手に入れられたら、この神結晶の時を進めてみてほしい」
「……まさか、神水が?」
「ふふふ、その通り! 本来なら、数百年かけて魔力を飽和状態にさせないと抽出できないんだけどね。時間を操れるなら、手にできる難易度はグッと下がるんだ」
神水。あの回復する水の事だ。時間を操れるなら、それを自力で生成できる可能性がある、と。
手作りで神話上の鉱石を作ってしまうのも色々ヤバいのだが、それ以上にあの超回復をもたらす水の生成が可能と聞き、俺は心臓が飛び出そうなぐらい驚いている。
「さて。最後に拳士の君だ」
「……何をもらえるんだい?」
メガネクイッ。そして現れたのは、俺としてはかなり見覚えのある道具一式だ。
「君の装備を参考に、僕も少し作ってみたんだ。同じ色だと分からなくなるから、色違いって形を取らせてもらったよ」
「あー、黄色のグローブとタンクトップに白短パン。防衛戦のアレか。へえ、なるほど……」
オスカーは単に色違いのつもりで作ったと思うのだが、こちら的にそのカラーは防衛戦のアレである。
俺の静かな興奮に気がついたのは、おそらく優花だけだ。優奈との会話の中で、マックのあれこれについて聞いてる彼女なら、俺が何を思ったのか悟っていてもおかしくない。
「君が既に持つ装備と役割が重複しないように、色んな機能を盛り込んでみたよ。主に防御面に特化してるね」
「具体的には?」
「服は常に〝金剛〟の効能を発揮している。籠手を交差させれば、〝聖絶〟を展開する事も可能だし、籠手自体には魔法を反射、更に反射した魔法の魔力を一部吸収する機能もあるよ」
スマブラ的に見ると、常時スーパーアーマー&削りにくいシールド展開機能&飛び道具リフレクター&吸収回復。
……めっちゃスマブラのリトマにも欲しい機能だなぁ。飛び道具にはどうしても苦戦しがちだし。リーチ長いキャラを差し返すのも難しいし。
ちなみにサムスは意外と行ける。ぼったくり腕長中華とワニの方が辛い。個人的にワニの後ろ投げは、コマンド入力の必要がない地獄門だと思ってる。
「能動的な攻撃には向かないけど、じっくり待つ展開ならかなり使えると思うよ」
「攻勢に出る時も、俺なら特殊能力抜きに攻め切れるか」
磨き抜かれたボクシングの技術があるからこそ、待ちに特化したリトルマック装備でも戦えると、オスカーは見立てていたようだ。
遠距離攻撃に特化した相手と戦う際、地上ほど得意ではない空中戦をも仕掛ける必要があったので、どうしたら良いかとずっと考えていたのだが。この装備一式は、そんな俺の悩みを一挙解決してしまう代物だった。
ありがたく俺が受け取ったのを確認したオスカーは、優しく微笑んだまま、ミレディの顔を見る。
「よーし、それじゃあお別れタイム! これからミレディちゃんは、オーくんとあんな事やこんな事をするからねっ!」
そう言ってフワリと浮き上がったミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。
何をしてるんだと思った俺だが、次に聞こえた音に頬を引き攣らせた。
ガコン!!
そう、トラップの作動音だ。その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。正面ではなく斜め方向へ鉄砲水の様に吹き出す大量の水は、瞬く間に部屋の中を激流で満たす。同時に、部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた。激流はその穴に向かって一気に流れ込む。
「おおい! めっちゃトイレじゃねえかミレディコラァ!」
「ごめんごめん! でもこうした方が、色々と早いしぃ。それに、もしキワモノが来ても流せちゃうからね☆」
「だからってこうする必要あるのか!?」
「ごめんね。彼女、昔からこんなだから……」
そう言いつつも、ちゃっかりミレディと密着しながら水流を回避しているオスカーさん。
ここまでかなり鎮火していたミレディへのイライラが、ここに来て一気に再燃した。
「テメエ次会ったら1発ぶん殴ってやらあああ!」
ミレディの「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」という呑気な声を耳にしながら、俺たちは激流に呑み込まれていく。
激流に完全に呑まれる直前、咄嗟に俺はオスカー作のリトルマック装備を装着し、優花を抱き寄せて〝聖絶〟を展開。水を飲み込むなんて事態になる事を事前に避ける。
ハジメはハジメで黒傘を使用し、やはり〝聖絶〟を展開して白崎とユエを抱えて……あ、シアだけ仲間外れじゃん。
現在俺たちは、激流で満たされた地下トンネルのような場所を猛スピードで流されているのだが、障壁に包まれている俺たちはともかく、シアはかなり大変そうである。岩壁にぶつからぬよう、息を止めながら必死にコントロールしている様子が見て取れた。
まあ、身体能力を強化してるから、そう簡単に溺れ死ぬ事は……おや、魚と見つめ合ってる。
「あー、思いっきり息を吐いたな……」
「……大丈夫かしら」
「身体能力を強化してるだろうから、溺死までかなり時間はあると思う。多分、きっと大丈夫だ」
そう、多分きっとmaybe。
水中でガッツリ息を吐き出し、更に水を飲み込んでる状況。ハジメに人名救助は頼むとして、俺たちはどうしようか。静観で良いと思う?
優花の方を見ると、何とも言えない表情で首を横に振ってた。ハジメに任せようとの事らしい。
「香織もいるし、大丈夫でしょ」
「確かに。んじゃ丸投げしちまうか」
それから少しすると、光が見えたと同時に俺たちは外へと放り出された。
俺と優花はそれぞれ空中で体勢を整えて地面に着地。ハジメたちは、黒傘でフワフワと落下している。そんな事も可能なのか黒傘。
ゆっくり降下をした事で、シアが無抵抗に落下するのが見えたのだろう。ハジメは黒傘を白崎に任せた上で、自身はシアの元へと降下していく。
空中を蹴って加速し、下にあった泉に着水するよりも早くシアの身体を受け止めたハジメは、何度も空中を蹴って減速してから地面へと着地をした。大槌もあるので少し辛そうだが、それでも泣き言1つ口にせず実行する辺りが実にイケメンである。
「シアさん! ったく、折角逞しくなったと褒めようかなと思ってたのに……!」
悪態はつきながら。しかし、必死な様子で救助活動を行うハジメ。後から白崎とユエも合流し、どうにかして飲み込んだであろう水を吐き出させようとしている。
そのうちにハジメが、心肺蘇生法の実施を始めた。胸とかお構いなし。まあ、人命救助において、セクハラもクソもないよね。ツッコミを入れるつもりはゼロである。
まうすとぅまうすも躊躇いなく実施している。無論、白崎たちの表情は良くない。羨ましそうに見ている辺り、キスもまだしてなかったのかもしれない。
「こりゃあものすっごい荒れそうだなァ」
「呑気ね」
「まあ他人事だし。俺じゃないし」
「……あ、水を吐いた」
「おお、意識戻った瞬間これか!?」
シアさん、意識が戻ったかと思えばハジメをガッチリホールド。そのままキスを敢行した。
そのタイミングで、俺はシレッと目を逸らす。後はお好きになさってくだされ。
……それにしても。
「人命救助中にキス。何とは言わないが、色々と思い出すなァ、優花さんよ」
「……何の事か分からないわね」
蘇りし過去の記憶。役得と思ったのはナイショ。
ハジメ≒魔王。トルマク流ボクシングの技術にプラスアルファして、魔王様の技を多く覚えています。おじソルトとか裏拳とか。これからは黒傘もドリャおじに使います。
さて、オスカーが皆に託したアーティファクトですが、どいつもこいつもエグい性能してるのと、オスカー自身がヤベーアーティファクトと化してるので、いくつか補足説明をしたいと思います。
まずはオスカーの肉体について。ミレディ以外の全ての神代魔法の使い手から「ミレディを頼む」と託された〝神代魔法〟と、それを生成魔法によって付与した鉱石、更にオスカー自身が生成した〝限りなく人体に近い鉱石〟を錬成して作り上げた物です。見た目はオスカーまんまですが、朽ちない上に空間転移だの魂魄の操作だのもできちゃいます。ミレディちゃんの肉体も現在はオスカーと同じ構造です。あと少し盛られてる。
次に黒傘。オリジナルの性能では神の使徒を撃退するのは不可能ですが、託された神代魔法によって超強化を施されてます。身体能力のブーストと、ワンワード詠唱で発動する強烈な魔法の数々。そして傘自体の斬れ味も相まって、万能すぎる武器と化してます。これをバケモノスペックのハジメくんが扱うので、もうアレです。凄く凄いです。
神結晶ブレスレットの元ネタは、ウルトラマンゼロが受け取ったブレスレットになります。ハジメくんが原作で制作した神結晶シリーズは、オルクス大迷宮に滞在する時間が短かった関係でまだ不在となっています。その代わり……のガワを被った上位互換です。
オスカー作のリトルマック装備は……本文の説明通りです。防御に特化しているので、砲撃タイプ相手にリスクを取って接近する必要が少し薄れました。クールタイムを狙って突っ込むには変わりないですけどね。
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