異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
拳と蹴り技のみで無数の野盗を撃退した事に対して、めちゃくちゃな感謝と、それと同等ぐらいの畏怖を持たれてから更に数日が経過した。
流石にもう1度襲撃を食らう事はなく、その後はのどかな旅路となり、俺たちは無事にフューレンに到着した。
フューレンの東門には6つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。俺たちも、その内の1つの列に並んでいた。順番が来るまでしばらくかかりそうである。
待ち時間はトレーニング。だが、シャドーボクシングだけでは飽きてくるので、今回はちょっと違う事をやろうと決めた。
で、思いついたのがこれ。シアを売らないかと言ったり、商人としては喉から手が出るぐらい手に入れたい勇者袋な指輪を寄越せと言ってきたモットーを追い払い、少しウンザリしていたハジメとの軽いスパーリングである。
軽いスパーリングとは言っても、一般人の行うそれではない。なんせ俺たちはイレギュラー中のイレギュラー。軽めに繰り出される技の数々は、常人の必殺の威力を遥かに超えた破壊力を有している。
片や限界まで鍛え上げられた拳打。片や時間経過でメキメキと練度を増していく、バランスが良くて流麗な蹴り技とパンチのコンビネーション。命中こそギリギリで避けているが、互いの技が交差する度に強烈な風切り音が鳴り響く。
ちなみにこのスパーは、互いの持つ技の確認も兼ねていたりするので、俺としても初見の技が非常に多い。
「シュッ、ハッ、セイッ!」
「! へえ、ワン・ツーの先を行くスリーパンチね。裏拳を2発目に混ぜるのか」
「悪くないでしょ? 左ジャブを引っ込めずに裏拳で追撃。そこから3発目。マックくんには通じなかったけど」
俺も3発目まで打ち切る連携があるからね。動きは初見でも、3発目ぐらいまではある前提で大体動いてるよ。
今回は、ジャブはスリッピングで紙一重で見切って回避。返す刀の裏拳は頭を振って小さくダッキングする事で躱し、3発目のフックはコンパクトなアンチエアナックルでパーリングしている。
「4発目まで行けると回避が難しいだろうな。 ……こんな風にっ!」
「うわっとと!? ふう、あっぶないギリギリだね」
左ジャブ、右フック、左ショートアッパー。そしてそこから止まる事なく、4発目のチョッピングライト。
一息で4発まで打ち切るこの連携は、明らかに頑強そうな相手にのみ使用するコンビネーションだ。全て当たればダウンするし、全てガードしてもこじ開ける事が可能。それに最後のチョッピングライトだけでも、かなり纏まったダメージを与えられる。
大抵のボクサーは、3発までは予測して動く物なのだが。4発も来るとなると、回避の選択肢がかなり少なくなってしまうので、最後の一撃は躱せずモロに受けてしまう事が多いのだ。
なお、ハジメはこんな感じで動いた。ジャブをスウェーで回避。移動先に置かれるフックはすぐさまダッキング。が、追いかけて放たれた顔面へのアッパーはクロスアームブロックで受け流し、4発目のチョッピングライトは受け流した勢いのまま後ろに転がりながら、ギリギリになりつつも躱した。シレッとガノンの後ろ回避してるな。
「ちなみにこの転がりながらの回避でも、バックスウェーでも何でも良いんだけど。仮に後退した場合、次にマックくんが放つのは?」
「最初から足を入れ替えながらのチョッピングライトをしてるから、その勢い使って内回りに回転。そこから変則の右ジョルトで追撃する。こんな感じで」
「……なるほど、確かにこれを回避するのは無理だね。後ろに下がるのは不正解なんだ」
変則ジョルトは、フォン・カイザーがダウンから復帰した直後に打つ全力パンチに似ているかな。ハジメの言う通り、後ろに下がると回避を見てからの変則ジョルトで簡単に狩れる。
対策としては、3発目のアッパーまでギリギリのスリッピングを狙い、4発目で回り込むダッキングをするのがベストだ。
なお、ジャストタイミングでスリッピングを行うのは余裕で死ねるぐらい困難な技能だって事は考えないでおく。
「前に出なければ死ぬ。けど、マックくんのパンチを見てなお前に出るって……」
「ジムの奴らには、怖すぎて無理だと言われたな」
「だろうね。速すぎるし、威力も反則級に高いし」
初見で引っかからない奴は称賛しても良いだろう。人間の防衛本能がある以上、パンチを前にしても前進を続ける行為は、凄まじい覚悟と勇気が必要になるから。
「やっぱりマックくんとの鍛錬は、色々と得る物が多くて助かるよ。蹴り技はともかく、パンチに関してはマックくんに勝る人はいないし」
「俺としても、ハジメとの鍛錬はお前の独創性の高さを感じられるから楽しいな。それに、ボクシング一辺倒な俺としては、全く別の競技の技は新たな技を生み出すキッカケになりやすい」
誰がリトルマックとガノンドロフの技を混ぜて扱うと予想できたよ。しかも、ちゃんと様になってるし。
……烈鬼脚を再現された時は流石に笑ったが。〝足裏を向けた方向へ落ちる〟重力魔法を付与したブーツをいつの間にか作成して、一時的に地面との等速直線運動を可能にした上でやってるところが面白い。ちなみに流星おじさんも可能との事だ。重力魔法で足裏が引っ張られるので、シルブレができちゃいそうなぐらい威力が出るらしい。
なお、烈鬼脚から着想を得た技として、ジョルト後に左右の拳を上手い具合に重力魔法で操って回転し、着地する事なく裏拳と2発目のジョルトを打つなんてバカ技がある。
「お、そろそろ受付だな。ここらで終わるか」
「だね。身体も動かせて色々とスッキリ。ありがとね、マックくん」
「こちらこそと言っておくよ」
周りを見ると、俺たちを遠巻きに見てヒソヒソと話す奴こそ見受けられるが、触らぬ神に祟りなしと近寄る輩は見られない。意図せずではあるが、良い感じに威嚇にも成功したようだ。
物見遊山の感覚で立ち寄ったフューレンであるが、この視線の多さから、厄介事に巻き込まれる。そんな予感を抱きつつも、その都度この拳で解決する決意を改めて固めるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中立商業都市フューレン。
高さ20メートル、長さ200キロメートルの外壁で囲まれた大陸で最も大きい商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸でも1番と言えるだろう。
そんなフューレンであるが、俺たちはまず依頼の達成を承認してもらうためにギルドへ立ち寄り、そのついでにガイドブックでももらおうかと考えていたのだが、ここで少々面白い職業を紹介された。それが“案内人”という物である。
この案内人は、いわゆる観光の際に個人で雇うガイドさんみたいな人の事を指す。個人業なので、基本的に多くの案内人が日々サービスの向上を意識しているらしく、中々に信用のある職業のようだ。
俺とハジメは、早速ギルドから紹介されたそれぞれの案内人に金を払って雇うと、ギルド内のカフェで軽食を共にしながら、オススメの観光スポットや宿を教えてもらっている。
「へえ、水族館……魚を展示してる場所なんかもあるんすね。それに、プラネタリウムにガラス造りの建造物か」
「大陸でも有数の大きさを誇る商業都市ですから、デートにオススメできる観光スポットはかなり多いと思いますわ。宿の方も、観光区でしたらカップル向けの物も多いですので、特にこだわりがないのであればこちらをオススメしたいのですが……」
「んじゃ観光区の宿にしますか。飯が美味いところで、かつお風呂がある宿が良いですね。優花、何か宿について要望はある?」
「そうね、ケンと要望は大体同じかしら。強いて言うなら、お風呂は貸し切りにできると嬉しいわね」
俺たちを担当している案内人は、アリアと名乗った女性である。優花の要望もあり、デートにオススメできる観光スポットを数多く聞き出しており、ついでにカップル向けの宿の存在まで教えてくれた。
なお、アリアさんは優花が付け足した条件で何かを悟ったようで、澄まし顔で「かしこまりました」と言ってはいるが、ほんのり頬を赤くしている。
嫉妬の念が乗せられた視線も飛んではいるが、思ってるより多くないというのが現状である。多分、ハジメの方に多くの視線が向いてるんだと思うんだわ。
アリアさんが宿のリストアップをしているので、俺はチラリとハジメの方を見て。それよりもう少し後ろ側に座っていた人物……いやあれ人? めっちゃ失礼だけど金髪の豚人間? 何だろあのバケモノ。
とにかく、何とも言えん見た目をしている男がいたので、思わず顔を顰めた。
バケモノを見ただけで顔を顰めた訳ではない。もっと他にも理由はある。一応。
あ、ハジメたちも気がついた。悪意のビームでも撃ってるのかレベルでぎっとりねっとりな視線である。そしてその視線は、主にユエとシアに向いていた。白崎には向いてないのが不思議……いや、どう見ても天然の白髪を見たら少しだけ遠慮したくなる人もいるかな? ただの差別だとか言ってはいけないのがお約束、にしてはダメだな、うん。
「えっと、アリアさん少し良いですか?」
「は、はい……うわっ、アレって……!?」
「狙われてるのが仲間なんですよ。ちょいと荒れるかもしれんので、念のために」
ピンクのスウェットは着たまま、俺は中の服をオスカー作のチャンピオン防衛仕様に切り替えた。
その間に、豚人間はのっしのっしと重たそうな体を揺らしながらハジメたちの席へ足を運び、ユエとシアをまた舐め回すように見ると、今まで1度も視線を向けてなかったハジメに対し、非常にわざとらしく「いたのか」とリアクションをした上で、実に傲慢な要求を吐き出した。
「お、おい、ガキ。ひゃ、100万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」
「は?」
ハジメの目が据わった。白崎の目も同時に据わる。仲良しですねホント。
ユエの方に伸びた手をしっかりと弾きながら、ハジメは静かに怒りを滲ませる。
「そんなはした金程度で彼女を買おうとでも? 笑止千万。頭の中どうなってるんですか。もしかして腐り落ちて脳なし? それなら腕の良いお医者様を紹介してあげますよ。幸い、僕たちお金には困ってないんでね」
「ハジメくんハジメくん。脳が腐り落ちてるなら、言葉を伝えても無駄じゃない? それに、人の姿を模しただけの豚さんが人語を理解するとは思えないよ」
「ああ、それは確かに。でも、いくら豚でもダメな事はダメって理解できるよ。多分、きっと」
2人とも口が非常に悪うございやす。まあ、仕方のない事だけどね。
てか、ハジメもだけど白崎の暴言のレベル高すぎない? もはやバトウ・ジツの域。普段はニコニコほわほわしてるからこそ、破壊力が凄まじいんですが。もしや、天之河に対してもそんな感じの暴言を心の中で思ってたりして。だとしたら怖すぎだろ。
「ごめんね豚さん。この2人は僕の大切な人たちだから、渡す訳にはいかないんだ。このぐらいは理解して聞き分けてよ、ね?」
ここでハジメくん、超絶素敵な魔王スマイル。技能を発動させた気配はないのに、とんでもない威圧感。
あまりの物言いに、反論しようと口を開いた状態のまま、とんでもない威圧感に押し潰されて豚人間は腰を抜かした。あ、失禁もしてる。きったねぇ。
「場所を変えよう。マックくんたちも」
「おうよ。優花。それにアリアさんも行こう。ここは空気が悪い」
みんなして立ち上がり、出口の方へ向かおうとする。だが、その出口を筋肉の塊みたいな男が塞いだ。腰に長剣を提げており、歴戦の戦士みたいな見た目をしている。
その巨体が目に入ったのか、ブタ男が再びキィキィ声で喚きだした。
「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキ共を殺せ! わ、私を手酷く侮辱したのだ! 嬲り殺せぇ!」
「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」
「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」
「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」
「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」
あー、ホントもう、マジで面倒。
何か言葉を口にしながら、拳を振り上げたレガニドと呼ばれた男。ハジメも応戦しようとしているが、今の彼は相当に気が立っている。ここは、初手は俺が相手しよう。
彼らの間に割り込むと、俺は籠手をクロスさせて〝聖絶〟を発動させ、大した威力ではないパンチを受け止めた。
「……なんだ坊主。邪魔するな」
「そうも行かん。アンタの雇い主がはした金で買おうとした彼女たちは、俺にとっても大切な仲間。そして、アンタがたった今手を上げようとした白髪の2人も、大切な仲間だ。仲間を守ろうとして、何が悪い?」
障壁を解除。すると、さっきまで展開されていた〝聖絶〟が粉微塵に砕け散ると同時に、めちゃくちゃな暴風を発生させてレガニドをぶっ飛ばした。
おいちょっと待てや、バリアバーストまで可能とか知らないんだけど?
障壁は衝壁を兼ねる。あの鬼畜眼鏡の中では基本中の基本らしい。
「やってくれたな、坊主。もう手加減しねえぞ!」
腰の長剣を抜き放ち、俺に襲いかかるレガニド。さっきまでの舐め腐った態度は鳴りを潜め、本気で俺を打ち倒そうとする闘志がこれでもかとでも言わんばかりに溢れている。
そう、溢れている。闘志が。そして殺気が。
「ほいっと」
「ぐう!? また障壁かっ」
特に焦る事なく、俺はまた腕をクロスして障壁を展開。レガニドの上段からの斬りつけを受け止めた。
「こんな障壁!」
自前の剣術なのだろう。次々と技を繰り出し、障壁を突破しようとするレガニドであるが、数ある結界魔法の中でも最上級の性能である〝聖絶〟は、これっぽっちも揺るがない。
明らかに障壁を突破するのに適した突き技ですら、硬質的な音を鳴らすだけで傷すら入らないのだから、もう笑えてくる。
「ハジメぇ。武器だけ破壊できる?」
「……お任せあれ」
「んじゃ、解除するぞ〜」
わざわざ予告をしてから、俺は腕のクロスを解いた。
今度はバリアバーストがあると分かっているので、レガニドは苦しそうなうめき声を出しながらも、どうにか踏ん張って凄まじい暴風を耐えきった。不意打ちでなければ、鍛錬した者なら割と普通に耐えられるようだ。
まあ、仮にバリアバーストが耐えられたとしても、その後の追撃まで受け切れるとは思えないけど。
「シャオラァ!」
紅色にスパークした拳が、レガニドの長剣に突き刺さる。
わざわざ武器を狙ってパンチしたハジメを怪訝そうに見るレガニドだが、すぐにその顔が驚愕に染まる。
長剣。まあ、簡単に言えば金属の塊だ。ハジメとはとことん相性が悪い。
錬成によって変形した長剣は、あっという間に鎖状へと変化すると、レガニドの体に巻き付いて身動きを取れなくしてしまった。
「うん、上出来だね」
人体に直接向けなければ、マジで錬成パンチは武器持ちを想定した対人制圧向きの技術と言える。金属部分の多い長剣相手なら、こうやって鎖に変化させて拘束する事も容易だろうし。
離せ拘束を解けと喚くレガニドを放置して、俺はハジメの肩を叩いて豚人間の方を指差す。
「あまり、やり過ぎたらダメだぞ。その力は、無闇に使うと取り返しのつかない事になるって、ハジメ自身が1番分かってるはずだ」
「……うん。ありがとう、マックくん」
豚人間に生理的嫌悪を覚えてこそいるが、俺から手を下す事はない。当事者はハジメたち。こちらが手を出す権利はないのだ。
ハジメは未だに腰を抜かしたままの豚人間のところへ歩み寄る。
「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」
「……ツッコミはなしだよね、これ」
全世界のゆるキャラ好きに謝れと思ったのだろうが、グッと堪えたらしい。
「ねえ、豚さん。これから先、僕たちに直線的にも、間接的にも関わらないでね。 ……じゃないと、出荷してもらう事になるよ。首を撥ねて」
黒傘を取り出し、切っ先を豚人間の首筋にピタリと当てるハジメ。やはり技能を発動させてる様子はないが、それでも無表情無機質な声音の威圧感は凄まじい。
ハジメの脅しが決して嘘ではない。そう思ったのだろう。豚人間は心が折れ、壊れた機械のように何度も縦に首を振った。
「あ、あの〜。こちらで事情聴取のご協力をお願いできますか?」
と、このタイミングでギルドの職員らしき人がこちらに話しかけてきた。
ナイスタイミングでもあり、もう少し早く来いよと思う気持ちもあるが。特に逃げる事はなく、俺はハジメたちを連れて、職員について行く。
え、アリアさん? 礼を言って、追加でお金を払った上でお別れしました。彼女は、このゴタゴタには何の関係もない一般人。巻き込む必要は皆無である。
宿に関しては決めきれなかったが、これは仕方ないだろう。後でゆっくり探すとするか。
重力魔法のお陰で、明らかに動きのおかしい技でも再現ができちゃう理由付けになるからこっちとしても面白いです。
プーム・ミンさん拙作の中では初の無傷攻略。レガニドくんもぶっ飛んだ時の打撲ぐらい。こんなの冒険者からすれば怪我でも何でもないです。人殺しをする決意をまだ固めてないので、全力で正当防衛をさせる事になりました。でもマックくんはそろそろアレかなぁ……。
自分勝手に欲を暴走させて、恩師の命すらも奪う事に忌避感のない奴とか。己が正しいと盲信し、好き勝手に子供たちを戦場へと向かわせている教皇たちとか。
マックくんの新たな恋人候補
-
〝初恋枠〟優奈ちゃん
-
〝妹枠〟ルウちゃん
-
〝大穴枠〟恵里さん
-
ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
-
アルテナを始めとする亜人族の皆様方
-
〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々