異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
どうも頭の中が、澄み渡った湖のように雑念なくスッキリ冴えている。
教会の入口付近に降り立つ頃になると、時の流れがゆっくりに感じるようにまでなった。一体、俺の体に何が起こっているのだ?
……いや、後回しにしよう。兎にも角にも、戦える状態に何とか戻れたのだ。それだけで十分である。優花には、一連の騒動がある程度解決したら、目一杯感謝をしなければ。
「き、来たぞ! 異端者が現れたぞ!」
「この異教徒めらがっ! すぐにでも冥土に送って――」
何か喚いている、おそらく教会側の人間。こちらに向かって敵意を向けている者のほとんどが、騎士甲冑によって身を固めている。軽くメガネを通して見てみれば、全員が何らかの洗脳魔法にかけられている様子が分かった。
確か、神殿騎士だったか。この世界でも、有数の力を持つ者の集まり。メルド団長は、その中でも指折りの実力者だったはず。
あんな猛者がそう多くいるとは思えない。多くがメルド団長や、それに近しい力を持つガハルド皇帝の下位互換と見て問題ないだろう。
「退け」
自分でも驚くぐらいに冷たい声が出た。明らかに敵対者である人間に、出会い頭こんな言葉をぶつけられたら、普通なら激昂するところだが。あまりの冷たい声音に、神殿騎士たちが言葉を詰まらせて後退りしている。
敵意をまるで隠そうとしてないので、衝突は避けられないだろうけどね。まあ、精神的に有利に立ってるだけ良しとしようか。
「……来るなら、覚悟を決めろ」
腕を上げ、拳を握って背中を少し丸めて前傾姿勢。いつものように構えを取る。そんな俺の周囲を、優花の操るナイフがクルクルと衛星のように周回する。
全身に魔力を行き渡らせて、〝身体強化〟を魔力が暴走しないギリギリの倍率で発動させた俺は、この重圧の中でも魔法の詠唱を止めなかった神殿騎士の方を向いた。
「くっ、あ……来るなあああ!」
眩しいぐらいの白色に輝く剣。どう見ても、光属性の強力な魔法を発動しようとしているのが分かるな。
弾くのは簡単だ。オスカーお手製の籠手を使用すれば良いだけ。あれなら反射も、打ち消すのも、防ぐのも余裕だろう。
だが。魔法が発動するまでの数瞬の間だけ考えた俺は、あえて足元に魔力を集めてスタートを切る事にした。
「完全に消えてなくなってしまえ異端者がぁ! 〝天翔閃〟っ――!?」
白光がこちらに到達した瞬間にスリッピング。更にそこから〝縮地〟を利用したダッシュを行い、そのままカウンターの左アッパーを顎に突き刺した。
魔法を行使した騎士の頭部は、盛大に血飛沫を上げながら空中に飛び出して。そして、少しの浮遊の後に地面へ生々しい音を立てながら落ちた。その後もコロコロ転がる生首が、嫌な余韻を残す。
ステータスを縛らず、籠手も変更せず。初めて人体の生身の部分を殴った。結果がこれか。
あれだけ忌避していた人殺しの感触は、想像よりも遥かに生々しくて。そして、呆気なかった。
これまで、試合で何度も相手の骨を砕く経験はしてきたが、それとはまるで違う感覚である。細かく表現するのは難しいけど、とにかくもっと嫌な感じだ。
だけど、慣れなきゃ。完全に頭が人殺しの業を認識していないのもあって、意外と平常心だし。感覚だけでも今のうちに慣れて、これから人殺しの度に足を止めないようにしなくちゃだから。
次の標的に襲いかかる。次はすぐ隣で、恐怖によって言葉になっていない声を出しながら斬りかかってきた男。刃がこちらに到達するよりも早く、スマッシュストレートを叩き込んで腹に風穴を開けた。
次だ、次。
後方から響き渡る銃声をBGMに、俺は淡々と敵がわんさかいる教会内に突撃しては次々と骸を量産していく。
ワン・ツーパンチで胴体が消し飛ぶ。
ジョルトで頭をせんべいみたいに潰して地面のシミにする。
ダイナマイトアッパーカットで体を両断する。ダッシュ攻撃で何人かをまとめて地面に埋める。
スイングパンチで2人の足を刈り取る。バランスが崩れたらすかさずスマッシュストレートで腹に風穴を開けてトドメ。
吐き気を催しているし、涙も流れたままで拭っていない。視界はあまり良好でないので、感知系の技能で無理やり敵の位置を確保しているぐらいだ。それでも身体を動かせるのは、後ろから聞こえる銃声があるからだろう。
独りじゃない。そう思えるだけで、随分と心持ち的には楽だった。
「次」
弱3連で形が崩れた頭部を飛ばし、
「次っ」
レッグブローで浮かせてからワン・ツーで騎士を弾丸にして後続をも打ち倒し、
「……次、だ」
スマッシュボディフックで腹を抉り取る。パンチを受けた騎士は吐瀉物を撒き散らしながら倒れた。
「ッ、次ぃ!」
最風から電撃を纏ったままガゼルパンチで顔面を粉砕。
「オラァ!」
左のスマッシュストレートで心臓を殴って息の根を止めて、
「後ろかっ!」
アンチエアナックルの裏当てで後方から来た敵を殴って浮かせ、背骨にスマッシュアッパーカットを叩き込んで呼吸をできなくする。
近くの敵が感知系の技能に引っかからなくなったので、涙を乱雑に拭って前を見れば、随分と離れた距離に多数の人影こそ見られたが、近距離専門の騎士はどうやら死に絶えてしまったらしかった。
優花も近辺の敵を全滅させたようで、俺の隣まで歩いてきた。彼女もまた、涙を乱雑に拭った後が見られる。
籠手をオスカーお手製の物に切り替えながら、優花に俺は問うた。
「大丈夫そうか」
「ええ。神代魔法を手に入れて、ここを出て。気が抜けるまでは大丈夫よ」
「分かった。なら行こう」
2人して走り出す。先行するのは当然の如く俺だ。
白色の魔法が雨あられと飛来するが、オスカーお手製の籠手でパーリングしてやれば、綺麗に反転して発射先へ向かっていく。ついでに魔力も微量ながら吸収できるので、継戦能力が伸びて一石二鳥である。
パーリングが間に合わない場合に限り、クロスアームブロックの体勢を取る事で〝聖絶〟を展開し、後ろに魔法を通す事を一切許さない。
「い、異教徒めぇ! クソッ、何故あの程度の障壁を抜けないのだ!?」
「や、やめろ。俺のそばに近寄るなァァァ!」
随分と混乱してるようだが、そんな余裕あるのかね。
近距離で魔法を見てから弾き飛ばすと、大きく踏み込んで〝縮地〟で加速。敵さんの懐へ潜り込む。
近接戦闘を専門としてる騎士とは違い、後衛組はこの距離で大した反応はできない。痛覚耐性だってゼロに近いしな。
面制圧に適しているラッシュを衝撃波込みで繰り出し、次々と人の形を残さない亡骸へと変えていく。時折聞こえる銃声は、ラッシュから逃れようと後方に退いた者を撃ち殺しているようだ。目で見えて分かるぐらい、凄まじいスピードで人影が減っている。
無心で腕を動かし、極力表情を動かさないようにする事で、強引にメンタルへのダメージを最小限に。そう心がけていた俺だったが、
「チッ、小癪だな」
不意にラッシュを中断すると、後ろに向かってジョルトを繰り出した。
拳の先。そこにぶつかったのは、ついさっきまで戦闘していた女が繰る大剣の片割れだ。
ジョルトで大剣を叩き割る勢いで弾いた俺は、そのまま重力魔法を駆使して拳から横方向に回転し、そのまま再度ジョルトを繰り出す事で大剣の主の頭頂部をガードする甲冑を粉砕する。が、女の事を仕留めるには至らない。
「くっ、イレギュラー!」
「教会内の神殿騎士を洗脳して俺たちに差し向け、戦闘に夢中になってるところを奇襲。悪くない作戦だが、俺には通じなかったな」
歯軋りをしながら俺の前に降り立つノイント。甲冑が粉砕された事で、自由となった壮麗な銀髪がハタハタと微風によって揺れている。その瞳さえなければ、1枚絵としては完璧な情景だったに違いない。だが、現実は現実。無情である。
「優花。残りの雑兵を頼めるか」
「援護もするわよ。その代わりになるべく早く、きっちり仕留めてね?」
「無論だ」
優花の言葉が言い終わると同時に、数本のナイフが俺の近くにやって来た。流石だな、本当に。
どことなく苛立った表情を浮かべたノイントが、残像を散りばめながらこちらに接近する。それを阻もうとナイフたちが〝天灼〟を撃ち込むが、ノイントはそれらを全て大剣で〝弾いた〟。避けるのではなく。
どうやら、ノイントの動きの癖を見抜いてわざわざナイフを動かしているらしい。相当に奴は苦しそうである。片手間で何て凄まじい事やってるんだ、俺の恋人は。
攻撃を弾けていたのは最初の攻防だけで、すぐに〝天灼〟がノイントの身体を焼き始めた。
チャンス。逃す訳にはいかん。
ノイントの視線がナイフに行った瞬間に、俺は猛烈なスタートダッシュを切る。
神の使徒の反応速度は尋常ではなく、俺が地面を踏み抜いた音でこちらの方に視線を向けてきたが、もう遅い。
苦し紛れながらも、中々に強烈な刺突をダッキングで回避。懐に入った俺へ横薙ぎは無意味だと思ったのか、ノイントは片方の大剣を手から離し、アドリブらしさを全く感じさせない貫手を繰り出す。
狙いは俺の右目。指先に到達するまでの時間は、コンマ数秒にも満たない程に短い。
だが、極端に集中力を上げていたからなのか。ノイントが貫手を繰り出した時点で、俺はもう最小限の動きで回避を行う準備を整えていた。
「くっ!?」
ノイントの指先は、俺の目先1ミリのところを通過した。
超インファイトの距離である。普段のスリッピングカウンターや、派生のコンパクトカウンターですらもやや威力を発揮するには難しい距離感だ。
しかし、こんな状況下であっても、俺の心中に焦りの2文字は全くない。
この状況だからこそ、最大の威力を発揮できるカウンターを、俺は持っているからだ。
この身に滾っている力の全てを、今この瞬間に全力で解放する!
「セイヤッ!!」
超々近距離の切札、K.O.カウンターだ。反撃がForリトルマックのK.O.アッパーカットになっている。
渾身の右アッパーカットがノイントの顎に突き刺さり、彼女の身体はその場でクルクルと回る。衝撃を少しも逃がす事なく伝えたので、吹き飛ばずにアニメみたく空中に張り付けられてるみたいになったようだ。
追撃を叩き込むチャンスと見た俺は、無意識に雄叫びを上げながら全力のラッシュを試みる事にした。
一撃が気合いストレート並となったラッシュを、衝撃波も込みで100%の破壊力で受けたノイントの肉体は、ものの数秒で見るも無惨な肉塊へと果てていく。
単位が万なのか、それとも億を超えてしまったのか。俺にはサッパリだが、そろそろ頃合いだろう。
辛うじてだがノイントだと判別できる肉の塊に、俺はトドメとしてもう1度、地面からは跳ばないFor版K.O.アッパーカットを左で繰り出した。
正確に狙ったつもりはなかったが、最後のアッパーカットは形が崩れた顎に再び命中。辛うじて繋がっていた首が、それによって完全に胴体と泣き別れとなった。
後に残ったのは、ボロボロとなったノイントの肉体と、もはや原形が残っていない血濡れた生首のみ。
急速に力が抜け、更には身体が縮むという未知の感覚に軽く頭を悩ませながらも、俺はノイントの亡骸をしっかりと目の裏まで焼き付ける。
これが、俺の力。神の使徒であろうと、肉塊に変えてしまえるまでに強大となった、俺の力である。
これからも、この拳はこうやって肉塊を生み出すだろう。その行為は当然ながら罪であり、いつかはしっかりと裁かれるべき業だ。
それでも。それでも俺は、罪を背負って死ぬまでは生き続ける。
その理由は、もう言うまでもないだろう。
「し、しし使徒様ぁ!? こ、この異端者め!」
遠くから、老人の声が聞こえる。聞き覚えのある老人の声だから、多分イシュタル教皇だろう。
ノイントの亡骸を見て、狂的な声を出しながらこちらに近づいてくるのが気配で分かる。
力が滾るような感じはないが、あの老人ぐらいならスマッシュストレートでも繰り出せば退けられるだろう。そう思い、俺はイシュタル教皇のいる方へ振り向いて。そして、目を思わず見開いた。
「が、あっ……!?」
無数のナイフがイシュタル教皇の膝から下に突き刺さり、凍らせて動けなくしたからだ。
驚いて動けない俺の真横を、綺麗な髪の毛を靡かせて優花が通り抜けていく。手には何の変哲もないナイフを。目には殺意を宿しながら。
一直線に突貫した優花は、手に持っているナイフを斜め45度の角度でイシュタル教皇の胸元に深々と突き立てた。そしてナイフの柄を蹴り飛ばしながらアクロバティックに離脱すると、空中で短筒を抜き、鉛玉を狙い違わず頭部に叩き込んだ。トドメにナイフが〝天灼〟を撃ち込み、死体すら残さない徹底ぶりである。
空中からヘッドショットとか言う神業と、一流アサシンもビックリな手際の良さでイシュタル教皇を殺害した優花に、俺は二重で驚愕した。
「怪我はなさそうね。良かった」
「お、おう。 ……凄いな」
「ケンだって、色んな意味で凄かったわよ? 何あの姿、本当にビックリしたんだから」
え、自分の姿変わってたんですか。いつ?
浮かんだ疑問をすぐに晴らしたい衝動に駆られそうになるが、ここはグッと我慢。詳しい話は後で聞けば良い。今は一刻を争うのだから。
思考を切り替えると、優花に「後でゆっくり話を聞かせろよ」と告げてから、俺は改めて教会内をじっくり眺める。
数は少ない経験則だが、大迷宮の入口付近は、何か変わった空気が流れている事が多い。真のオルクス大迷宮なら湿っぽい瘴気のような物を感じたし、ライセン大迷宮では冷たい鉄の臭いを僅かに感じた。
それだけを頼りに探すのは気が遠くなるが、それ以外の有力な手がかりが「教会内の大広間にあるらしい」ぐらいしかないので、地道に探索していく他ないだろう。
随分と静かになってしまった教会内を、空気の変化が分かる程度の余裕は持たせつつ、しかし急ぎ足で俺たちは大迷宮の居場所を探っていく。
全力の〝気配遮断〟は行使しているのだが、人っ子1人見当たらない現状に拍子抜けしつつも移動する事おおよそ30分。一際目立つ大きな扉の前に、俺たちは辿り着いた。
念入りに扉の奥の気配を探るが、特に感知できる生き物はゼロ。今は無人らしい。
施錠はされていないようで、軽く扉を押してやると難なく開いた。躊躇う事なく中へ入ると、どこか神聖な空気が胸いっぱいに広がる。部屋の奥の方には、巨大なエヒトの像が安置されていた。更にその後ろには、やはり巨大な壁画がある。どうやらここは、神に祈りを捧げるための部屋のようだ。
壁画に描かれているのは、広大な大地、樹海、山脈、峡谷、大海、雪原。これは多分だが、大迷宮の居場所を指し示している物だろう。ミレディからの情報通りならの話ではあるが。
俺は壁画を暫しの間眺めると、少し考えてから大広間の所定の位置に大迷宮を攻略した証を置く。すると、
ゴゴゴゴゴ……
エヒト像がゆっくりと動き出したのだ。どうやら正解だったらしい。
「すっご……ケン、どうやって見つけたの?」
「あの壁画を大迷宮を暗喩している物だと仮定して、この位置を割り出した。まさか1発で成功するとは思わなかったけどな」
僅かな情報だけで、ここまでかなりのスピードで辿り着けたのは本当に幸運である。想定ではもう少し時間が必要かなと思ってたのだが、良い意味で期待を裏切ってくれた。
動きを止めたエヒト像の下方を見ると、石造りの階段が見える。ここを下って行けば、おそらく大迷宮へ突入できるはずだ。
お互いに1度だけ顔を見合わせて、全く同じタイミングで頷くと。手を繋いだまま、俺たちは階段を下るのだった。
殺すのは一瞬。罪業は死ぬまで。どんなに立派な御題目があっても、罪は罪。
そんな罪を重ねてまでも前に進むのは、その先の明日が欲しいから。優花と共に生きて、いつかは故郷へと帰る。そして夢を叶える。そんな未来。
地上戦だからこその無双劇。間接的な武器ではなく、己の拳が最大の武器であるマックくんは文字数にも優しいです。
※マックくんの技紹介
★最後の切りふだ
…立ち位置としては技能〝格闘術〟の派生技能。長時間〝身体強化〟を使用し続けていると自動でチャージされ、1度だけ任意のタイミングで強烈な身体強化バフを行う。その倍率は驚きの50倍。継続時間は発動から10秒間。また、見た目の変化として身長が伸び、更に筋骨隆々のゴリマッチョに。ギガマックくんやね。
強烈なアッパーで相手を拘束→超ラッシュ→トドメにまた強烈なアッパー。しっかり最後の切りふだしてるし作者的に描写は満足。ヒット数や破壊力は上方修正してるけどね。
完全なる余談ですが、K.O.アッパーが標準装備の本作では〝闘神〟がスマブラにおけるゲージです。セフィロスの片翼やフィットレの腹式呼吸の方が性質は近いかもですが。
今回の被害は以下の通りです。
・教皇含め教会に居た人間が全滅。外に出払っていた関係者はまだ生きてます。
・神の使徒がこれ以上ないぐらいボコボコにされて機能停止。使徒の視界を介して状況を見ていたエヒトは、人殺しの一線を越えたマックくんの恐ろしさにガクブル。可愛いね。
これ勢力図の変化ヤバくない? 描写しといてアレだけど大丈夫かな……?
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