異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
幾分か気持ちが落ち着き、どうにか動けるようになったところで俺たちは、ソウさんに会うための変装をしてから家の方へ向かった。
時刻は午前3時頃。草木も眠る丑三つ時って言葉があるが、本当に何もかもが眠ってしまったのかと錯覚するぐらい静かだ。
日本で練習をしてた頃に、この時間に帰路に着く事も少なくはなかったのだが、あの時とは比にならないぐらいにシンとしている。いっそ不気味とまで言いたいぐらいに。
まあ、オスカーのメガネがあればそこまで怖くないんだけどね。これ、魂魄だの霊だのも見えてしまう代物だから、レンズの範囲内に限れば酷く驚かされる事は少なくて済む。加えて、魂魄魔法を手にした事でこの世ならざる物質にも干渉ができるようになったので、仮に襲われても対応可能だ。
今回は何事もなかったが、今後何かあった際に対処できる術があるのは色々と大きいだろう。
ソウさんの住む家に辿り着いた俺は、優花から1度手を離して……中々離れないな?
「後で時間作るから」
「…………んっ」
改めて俺は、家の戸をノックする。
ドタドタという音の後、やや大きな音を立てて開いた扉の奥には、何故か顔に傷を負ったソウさんがいた。
「コースケさんでしたか! どうぞ、中に入っちゃってください!」
「ソウさん、その傷は?」
「後で説明します! それより、今は妹をっ」
どうも顔の傷について聞き出せる感じではない。後で詳しく聞き出す方向に思考をシフトすると、俺はソウさんに案内されて妹さんのところまで連れて行かれた。
妹さんは、相変わらずベッドに腰を掛けて無機質な目で虚空を眺めている。だが、俺と優花が姿を現すと、彼女は目をやや見開いた。どうやら俺たちの事をしっかりと認知できているらしい。
メガネに魔力を流して魂を見ると、数日前よりやや弱々しくなった命の灯火が見えた。優奈の魂も同時に映り込んでおり、弱々しく輝く魂を支えるように寄り添っているが、それも限界が近い様子が分かる。
すぐにでも手を打つべきと判断した俺は、妹さんの顔を真っ直ぐ見たまま口を開いた。
「ソウさん、今から妹さんを助けます」
「本当ですか!」
「ええ。ただ、かなり手荒なやり方になります。それに何をやっているのか、正直理解し難い光景になると思います。それでも、ソウさんは私を信じてくれますか?」
これから行うのは、見た目は拳のラッシュである。無理に止めようとして、巻き込んでしまったり魂から照準がブレてしまったら大変なのだ。
内容を知っていても、理解が追いつかない光景になる。そう予想している。殴って魂を修復とか、何も知らない状態で聞いたら俺はちょっと信用できない。
だから、念入りにソウさんに問うたのだ。本当に意味の分からない光景が目に広がるが、それでも構わないかと。
ソウさんが、少しだけ息を呑んだのが分かる。威圧しているつもりはなかったが、それでも彼は何か圧のような物を感じたらしい。
「……僕は、信じます。どんな光景が広がったとしても、それが妹を救う手立てになるって」
少しの間を置いてから声を発したソウさん。緊張してるのだろう。声音がやや固いのは、仕方のない事か。
このままでは実行に移しにくいので、緊張を緩和できるように何か言葉でも投げ掛けようと思って口を開きかけた俺だが、すぐ重ねるようにして言葉を口にしたソウさんによって、急いで自身の口を閉じる羽目になった。
「コースケさんは、約束してくれましたよね。妹を必ず助けるって」
「約束は、確かにしました。ですが、嘘かもしれないじゃないですか。それこそ、あの祈祷師たちみたいに」
「はは、確かにそうですね。そもそもの話、たった1人の家族を、知り合ってすぐの人に任せる事自体が愚かかもしれません。でもねコースケさん。それでも僕は、あなたを信じたいんです」
「……理由を、お聞きしても」
「簡単な話です。コースケさんたちの状態が、とっても分かりやすいからですよ」
思わずソウさんの方を振り返る。彼は、困ったように笑っていた。
「コースケさん、それにユナさん。どちらも涙を流した跡に少し赤い目。それに僅かな鉄の臭い。妹を助ける手段を得るために、血を浴び涙を流すぐらい頑張ってくれた……と、僕は勝手に判断してます。間違ってたら申し訳ないですけど、大方正解じゃないですか?」
「……ええ、まあ」
「やっぱり。なら、尚更信じないとって僕は思ってます。命賭けてまで家族のために頑張ってくれて人を信じないって、よっぽど心が凍ってないと無理だと思ってますよ」
柔和な笑みをソウさんは浮かべている。
どうやら俺は、彼の性格や器の広さと言う物を見誤っていたらしい。
こんなにも器がデカくて、優しすぎるぐらいに性格が甘い人。他にハジメしか知らないぞ。
彼の気持ちを少しでも緩めてやれたらと思ってたが、逆にこちらが肩の力を程よく抜く事になった。どうやら、まだ俺のメンタル面は回復していないらしい。
激励しようとした結果、逆に励まされるなんてなァ。
「コースケさん。どうか、遠慮なくやっちゃってください。必ず妹が救われると信じてますから」
「……分かりました。私もまた、ソウさんを信じます」
改めて、俺は妹さんと向き合う。もう迷いはなかった。
肩の力を抜き、深呼吸をして集中力を1段上げてから構える。
目にはしっかり妹さんの魂を捉えて。数発の予備パンチを繰り出した後に、俺は本格的にラッシュを開始した。
ここからは少しのズレが命取りとなる。拳が妹さんの魂に当たる度、崩れそうになっている魂魄が修復されていき、更には補強までされていく訳だが、ほんの少しでもラッシュの軌道がズレると心臓付近に命中してしまい、そのまま命の灯火を消しかねない。
キツい点はまだあり、それは神代魔法であるが故の魔力消耗の凄まじさである。
血が滲むぐらいに鍛錬した重力魔法はともかく、手に入れたばかりの魂魄魔法は魔力の消耗が半端ではない。ハジメたち程じゃないにしても、俺の魔力保有量はかなりの物のはずだが、拳を魂へ1回叩きつけるだけでも、ゴリッと大きく魔力が減っている感覚がある。そう長くはラッシュを続けられないだろう。
短い時間のラッシュで、妹さんの魂を修復しなければならないプレッシャーは大きい。中途半端に終えてしまうと、余計に妹さんの魂が不安定になってしまう。ここで決め切らなければ。
魔力枯渇の寸前になって一瞬だけ意識が飛びそうになるが、気合で耐えてラッシュを続ける。ほんの僅かながら気絶までの時間を稼いだ事が功を奏し、魔力枯渇によってすぐさま〝逆境強化〟が発動。更に追い打ちで〝闘神〟も自動発動した。身体能力が爆発的に強化されると同時に、消耗をやや上回るスピードで魔力が回復していく。身体面が強烈に強化された事で、俺の持つ魔力回復の速度も大幅に向上したようだ。
また、このタイミングで優花が回復薬の瓶を器用に魔法で操り、俺の口の中へ直接液体を流し込んでくれた事によって魔力が少し回復した。これで〝闘神〟が発動している限りは、これ以上魔力が減らなくなる。
疲労するのに変わりはなく、脳が疲労によってキャパオーバーすればそこで終わりだ。そうなるまでの時間は、今から1分後ぐらい。
妹さんの魂は、当初と比べると見違えるぐらいにしっかりとした形になっている。輝きはまだ弱々しいが、これならギリギリ間に合うか。
明滅する視界の中だが、だからと言って集中力を切る事はないし、何なら追加で〝集中強化〟も行う。左右交互に魔力を流し、少しでも強く打ち込む事で、妹さんの魂の修復スピードを底上げする。
――あと20秒。
ようやく妹さんの魂が、優奈の支えなしで輝きを増していく様子が見て取れた。もう少しの辛抱だ。
まだ完全に安定しているとまでは言えないので、俺は最後の一押しと言わんばかりにギアを上げる。
――あと10秒。
魂の輝きが増してきた。直視するには少し眩しいぐらいだ。
もう少し。もう少しだ。気張れ。踏ん張れ!
――あと5秒。
安定した魂まで、もう少しで届く。
「……届け」
――3秒。
「届けっ」
――2秒。
「届けっ!」
――1秒。
「届っ――!?」
ガクリ。そんな擬音と共に、腰が落ちる。
想定していたよりも、コンマ数秒だけ〝闘神〟の効果が切れるのが早かった。
倒れそうになるの必死に耐えながら、俺は妹さんの魂を見る。
まるで星のような輝きを放つ妹さんの魂。だが、もう数発は叩きたかった。仮にここで打ち止めにしても、妹さんの意識が戻る可能性は高いが、確実とまでは言えない。
何より、まだ脆い。完全体でない分、ほんの少しの衝撃で魂が壊れてしまいそうなのだ。本来なら数発叩いて、妹さんの魂をガッチリ補強するつもりだったのだが……。
ラッシュを繰り出すだけの体力はもう残っていない。しかし今叩かなければ、折角修復した魂が時間経過でまた崩れてしまう。
少しだけ逡巡した後に、俺は覚悟を決めて気合いストレートの構えを取った。
己の魂を致死量にならない程度を見極めつつ、右拳にゆっくり籠める。魂の補強を、俺の魂を譲渡する事で成し、ついでに想定よりも頑強にする決断を下したのである。
「ハァアアア――!」
右拳が徐々に輝きを纏っていく。やや頼りない青色から始まり、やがて強い紅色へと変化して。更に濃い赫へと変化する寸前に、
「ハッ!」
俺は拳を真っ直ぐ突き出した。気合いストレート、マックス寸前での射出である。
スマブラではシルブレ後の択としてたまーに使うレベルのマックス寸前気合いストレートだが、今回はシンプルに最大までチャージすると死ぬ予感がしたが故の実施である。夢もロマンもない。
文字通り魂を削った事で、流石の俺も膝を折った。今にも気を失いそうだ。
……いや、まだ寝るには早い。場合によっては、もう1度魂を削らないと。
情けなく笑う膝に活を入れ、何とか立ち上がろうとする。
だが、誰かが俺の肩に手を置いたので。顔だけが先行して上がった。
「先輩。もう、大丈夫」
俺の肩に手を置いていたのは、妹さん……の身体を使って喋る優奈。
その優奈も、すぐに妹さんの身体から離れていき、俺の隣に霊体の状態で佇む。
固唾を呑んで見守っていると、不意に妹さんの魂が超新星爆発でもしたかのように、強烈に光り輝いた。
目が思いっきり灼かれるが、それも一瞬の事。やや時間を置いて、俺の視界は元に戻る。
妹さんの魂は、太陽のように燦々と輝いていた。
「お、兄……ちゃん」
「ルウ……? お兄ちゃんが分かるのか?」
ずっと黙っていたソウさんが、震える声で妹さんに尋ねる。
薄くしか開いてなかった妹さんの瞼が、徐々に平時の人間と変わらないぐらいにまで見開かれた。
「お兄ちゃん。ソウお兄ちゃん。 ……ただいま」
「ルウっ!」
ソウさんが、妹さんを抱き寄せた。
「この、バッカ野郎! 心配させやがって!」
涙を流しながら。しかし、笑いながらソウさんが腕に力を入れている。もう絶対、己の腕から離れないように。
妹さんも泣いていた。だけど、その涙は決して悲しくて流している物ではないのだろう。
その証拠に。妹さんもまた、幸せそうに笑っていたのだから。
――ケン先輩、お疲れ様
「……ああ」
「おつかれ、ケン」
「うん。2人とも、色々ありがとうな」
家族の感動の再会を邪魔しないように、少しだけ離れたところで3人集合する。
今回、誰かが1人でも欠けていたら。そして現在の能力を1つでも持っていなかったら、妹さんを助ける事は絶対にできなかった。
奇跡に次ぐ奇跡が重なった結果だろう。同じシチュエーションで、全く同じ事を成せるかと言われると、ちょっと自信ない。
「ケン。身体は大丈夫?」
優花に問われて、俺は改めて自分の状態を客観視する。
うん、こいつは酷いな。〝闘神〟を始めとするバフ技能を使用した反動で、節々が悲鳴を上げている。物理的に魂を削ったのもあって、全身の重だるさが尋常ではない。何より、頭痛が酷いわ。
普通の人間なら、10回は死んでるんじゃね?
「あんま大丈夫じゃないなこれ。立てねえし、何なら座れない。口を動かすのがやっと。もうちょいで死ぬところだった」
「むぅ……」
「分かった。分かったからそんな目で見ないでくれ。もうやらないってば」
「……でも、人を助けるためなら命を投げ売ってでも頑張るんでしょ。例えば私のためとか」
「まあ、うん……」
死ぬ気で頑張るだろうという確信はある。恋人だぞ?
「色々と落ち着いたらで良いから、埋め合わせして」
「……何なりと」
何度も何度も心配させたんだ。埋め合わせなら幾らでもする。
不機嫌顔だった優花だが、少しするとほんのり目尻が下がった。そして、ソウたちからは見えない角度で俺の頭を何度か優しく撫でてきた。
「……何だよ」
「よく、頑張りました」
おいおい。俺はガキか?
……優しくそんな事を言われたら。こんな場でなければ、盛大に泣いちゃうよ。
ここで盛大に泣いて、ソウさんと妹さんを心配させたくない。だから俺は、涙を一筋だけ流すに留める。
2人の再会を見て、思わず泣いてしまったんだ程度に思われるように。
マックくんの魔力保有量は現在7000ぐらいです。他のメンツは余裕で10000超えてる。
何気に初めて〝逆境強化〟と〝闘神〟の発動による副次効果が登場しました。肉体の超絶強化が、結果的に魔力をとんでもねえスピードで回復していく事に繋がるってお話。ジッとしてればあっという間に全快するし、常に魔力を使っていても消耗した瞬間に回復していくので、実質魔力が無限になります。なお、魔力消耗による疲労はちゃんとあるので、マックくんでなければ一瞬で気絶してる模様。
今回に関しては神代魔法の消耗を無理やり超回復によって耐えてる&ミリのズレを許さない超集中&その中であのクソ速いラッシュ中に〝集中強化〟を左右交互に切り替えながらバフするなんて事をやってるので、本当にマックくん以外は命を落としかねないレベルの神業を成し遂げてます。
次回はソウさんの顔の傷やルウちゃんの身に起こった事についてです。
マックくんの新たな恋人候補
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〝初恋枠〟優奈ちゃん
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〝妹枠〟ルウちゃん
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〝大穴枠〟恵里さん
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ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
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アルテナを始めとする亜人族の皆様方
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〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々