異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 以前紹介したソウルブレイクが大活躍の巻。

 普段と比べて文字数がかなり多いです。万を超えるのはマジで久しぶり。

 それと、過去に投稿した話での優奈ちゃんのセリフを少し変えました。敬語からタメ口にして、初登場時のセリフと整合性が取れるようにしています。何か変なところがあったら教えて頂けるとありがたいです。


ソウルブレイク

 技を教え、実際にサンドバッグくんを叩きながら動いてくれたソウさんを見た俺は、彼が必ず攻めも圧倒的な強さを持つようになると確信できた。テリ兄貴は偉大である。

 

 攻めの手段を確立するのと両立して、待ちガイル時のダメージの取り方も強化していく事で、檜山程度ならブチのめせるぐらいには強くなるだろう。

 

 1日目にしてこれである。中村がソウさんに執着する気持ちが、何となくだが分かってしまった。こりゃ欲しくなるわ。

 

 鍛錬をする時間は1日の中でどんなに長くても2時間程度。これでも実力が恐ろしい勢いで上達していくので、ソウさんは光る原石なのかもしれない。

 

 さて、ソウさんが鬼トレーニングをしなくても檜山を無力化できそうと分かったからには、家でノンビリできる時間も必然的に長くなる。

 

 2日目に突入すると、ルウさんと優花が楽しげに笑いながら手芸をしたり、料理をしたりと一緒に過ごす場面を見る事が多くなった。

 

 実に微笑ましい光景なので、俺もソウさんもその様子を笑顔で見守ってる。後方父親面、または兄貴面。

 

「いやあ、何だか夢みたいです」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら、そんな事を口にするソウさん。手元には、ルウさんが作ったクッキーがある。

 

 なお、俺の手元には優花お手製のクッキーである。そこに抜かりはない。

 

「僕がただ1人の家族とは言え、兄相手に何の気兼ねもなく全面的に甘えるのは難しいでしょう。多分、僕の知らない悩みも結構な数あったと思うんです。それこそ、本来なら母親に相談したかった事とか」

「……まあ、難しい問題ですよね」

「ええ、本当に。でも見てください。ルウがあそこまでニコニコしてるの、久しぶりに見た気がします」

 

 しっかりしてるように見えるルウさんだが、彼女はまだ14だと聞く。悩みも多い歳頃だ。

 

 優花と過ごす事で、心が少しでも癒やされているなら。それはそれで良い事だと思う。ルウさんは、魂がボロボロになった事で精神的に不安定であってもおかしくない。それでもあんな太陽のような眩しい笑みを浮かべられているのは、きっと優花のお陰だろう。

 

……それと、優奈の存在もあるだろうな。しっかり者で頼り甲斐のあるお姉ちゃん2人に甘やかされてるなら、あっという間に癒やされていくと思うわ。

 

「コースケさん。あの偽祈祷師を引っ捕らえたら、もうギルドの方に戻ってしまうんですか?」

 

 ボンヤリ優花たちを見ていると、不意にソウさんがそんな事を言ってきた。

 

「長居は、正直できないですね。一刻も早くギルドに異変解決を告げないとですし。それにギルドから正式な通達で、もう怯えなくて大丈夫と言われたら、城下町の皆さんも安心するでしょうから」

「はは、やっぱりコースケさんは優しい」

「その言葉、そっくりそのまま返しますよ」

 

 ソウさん的には、いつまでも一緒に過ごしてくれたらと思ってしまったのだろう。しかし俺の回答を聞いて、自分の想いに蓋をしてまでこちらを上げる発言をする。本当にこの人は、自分を殺してしまうのではないかと危惧したくなるぐらいに優しい。

 

 きっと、ルウさんは寂しがる。だから彼女のために、もう少しだけと口にする事はできただろうに。それでも俺たちを尊重してくれているのだ、彼は。

 

 そんな人柄だから。またこうやって、一緒に穏やかな時間を過ごしたいと思える。

 

「しばらくは仕事で忙しいので、中々時間は取れないでしょう。でも、どこかで休みが取れたら。その時は彼女と一緒に会いに行きますよ」

「え、本当ですか!?」

「もちろん。今度は、ギルド職員の肩書なんて捨てて。ただの人間として、ゆっくり過ごしたいですね」

 

 ギルド職員コースケ・トリウミではなく、真久野ケンとして。何でもない穏やかな時間を。

 

 そのためにも、まずは中村を止めなければ。

 

 それから、ハジメたちと合流して神代魔法集めて。地球に帰る手段の確保と、それを邪魔をするであろう狂った神を殺すのと。うん、当面は休みなしかなこりゃ。

 

……なるべく早く終わらせないとだね。

 

 優しい味がするクッキーを齧りながら、密かに決意するのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 日々はあっという間に流れ、ソウさん強化週間として設けた1週間が経過した。

 

 最後の組手で相手の無力化の成功を確信した俺は、今夜作戦を決行する事を皆に告げた。

 

 まず、中村たちを釣るために人通りがほぼゼロとなる午前1時頃に、ソウさんとルウさんで家の外に出てもらう。ここで彼らに向かってもらうのは、人通りゼロに加えて街灯もほぼない裏路地である。

 

 奴らが釣られるかは運次第なので、こればかりは祈る他ないが、それでも数回試せば確実に釣れると俺は考えている。焦燥感に駆られてる奴らからすれば、人通りと灯りゼロの裏路地と言う仕留めるのにうってつけな場所に入ったソウさんたちに、千載一遇のチャンスだと食いつかない訳がない。

 

 そんな彼らの少し後ろを、全力で気配を消した俺たちが尾行する。心細く感じないように、優花が灯り代わりの炎をソウさんたちの前に配置するオマケ付きだ。

 

 まんまと釣られた中村たちがソウさんとルウさんを襲おうとした瞬間、こちらも〝気配遮断〟を解除。そのまま奇襲を防ぎ、臨戦態勢に入る。

 

 優花にはルウさんの護衛を任せ、俺が中村を。そしてソウさんが檜山を相手取る予定だ。なお、ソウさんには手加減せず全力で叩き潰して良いと告げてある。多分、半死半生より酷い事になるのではないだろうか。ルウさんに手を出された事で、静かに怒り狂ってるみたいだし。

 

……今になって、ソウさんが檜山を勢いで殺してしまわないか不安になってきた。いや、ぶっちゃけると死んでも良い人種だと思ってるけど。

 

 ソウさんに理性がギリギリ残ってる事を祈るとしよう。俺は俺で、中村をキッチリかつなる早で無力化しないとなので、あまりソウさんばかりにに目を向けてられない。

 

 入念に準備を行い、何度もシミュレーションした俺は、先んじて家を出たソウさんたちを優花と追いかける。

 

 ちなみにだが今回は、優奈も奴らの無力化に参加するらしい。中村の魔法が怖いので、俺に現在は取り憑いているのだが。どうもこれが奴に対して、最大リターンを返せる状態だと彼女は言ってる。優奈の考えてる作戦の概要は教えてくれなかったが、ここは期待してみるとしよう。

 

 優花の繰る焔玉がユラユラ揺れながらソウさんたちを引っ張るようにして前へ進むのが、20mぐらい離れていてもハッキリ見える。意外と焔玉の近くは明るく、念の為に渡した暗視ゴーグルが必要なさそうなぐらいだ。前方への視界はある程度確保できそうである。

 

 歩く事10数分。ソウさんたちが、予定していた裏路地に入った。

 

「……! ケンっ」

「分かってる。来やがったな……」

 

 途端に、前方や後方からの気配が増えた。前方100m先には10人ぐらいの気配。後方は50mぐらいのところに気配が4つ。

 

 奴ら、念入りに屍兵を連れてきてるな。12人か。

 

 前方の気配は全て屍兵。後方に中村と檜山が潜んでいる。

 

「少し早いが、配置につくぞ」

「分かった。ルウちゃんは任せて」

 

 少しだけ〝気配遮断〟を緩くして、ソウさんたちと合流。優花にはオスカー作の籠手を渡しておき、俺自身はソウさんの隣に立った。

 

 ド至近距離なら俺がいる事を認識できるようで、ソウさんは目線をこちらに向けた。

 

「本命は後ろに。ですが、前方に多数の障害物があるので、私が最速で片付けます」

 

 軽く頷いたソウさんを見た俺は、頑丈なだけの籠手を装着して構える。少しずつ前方の屍兵たちと距離が詰まっており、接敵まで残り15秒と言ったところだ。

 

 技能を使用しなくても、足音が徐々に聞こえるようになってきた。後方で様子見している中村たちはともかく、前方の屍兵たちはすぐにでも仕掛けるつもりらしい。

 

 好都合だ。秒で終わらせてやる。

 

 屍兵たちとの距離が20m程となり、闇の中でもボンヤリ姿が視認できるようになった瞬間、俺はスタートを切った。

 

 距離を一瞬にして詰めたからか、屍兵は反応ができてない。驚きこそしてないが、そもそもこちらの姿をまず認識ができてないようだ。

 

 思い思いの武器を振り回す前に、勝負を決めてしまおう。

 

 魂魄魔法を拳に纏い、無言で屍兵の持つ仮初の魂をスマッシュストレートで殴る。

 

 ツギハギな魂に強度なんて物はまるでない。拳が触れた瞬間、仮初の魂は粉々に砕け散り、屍兵はその場に倒れた。

 

 本来なら感傷に浸りたいが、今はとにかく時間がない。すぐさま次に移る。

 

 機械的に。感情を宿さないように。淡々と立て続けに魂を4つ破壊して半数に削ったところで、やっと屍兵たちは俺の存在に気がついたようだ。だから何って話だけど。

 

 ソウさんたちを前に行かせないためにと、屈強かつ大型の盾と剣を持つ屍兵ばかりだが、装甲無視がデフォで低身長の俺には関係ない。

 

 武器を掻い潜り、魂を殴るだけの簡単なお仕事だ。徹底して隙をなくし、RTA走者のつもりかと己を嘲笑したくなるぐらいに急いだので、10人の屍兵は10秒と経たずに物言わぬ死体へと戻った。

 

 すぐに俺はソウさんたちのところへ戻る。俺が最後の屍兵を仕留めた段階で、向こうでも戦闘が始まったらしく、障壁に刃物をぶつける音が聞こえてくる。

 

「ソウさん、無事ですか」

「は、はいっ。ユナさんが障壁を張ってくれたので何とか」

 

 言葉の通り、優花が俺の籠手を使って障壁を張って屍兵を食い止めていた。ドーム状に展開される〝聖絶〟のお陰で、屍兵を囮に中村たちが裏取りをする事はできないのがありがたい。

 

 わざわざ狭い裏路地を選んだ甲斐があった。横幅が狭ければ、〝聖絶〟を展開してしまえば敵は動きが制限される。先に屍兵を半分以上削っているので、もう後ろを気にする必要がないのも大きい。前だけ見てれば良いのだ。

 

「後退を」

「んっ、任せるわよ」

 

 障壁が消えた瞬間、俺が優花と入れ替わりで前へ出て屍兵の魂を破壊。そして壁を蹴って大きく飛翔し、こちらの様子をずっと伺っていた中村の背後に降り立つ。

 

 もう気配を消す必要はない。技能を完全に解いてやると、中村はビクリと肩を揺らしてからこちらに目を向ける。

 

 檜山もこちらを見ようとしたが、ソウさんが飛ばした風の刃を受けたらしく、チンピラみたいな物言いをしながら彼の方へ向かっていった。

 

「また君か。何度も何度も邪魔しやがって……」

 

 恨んでる、腹立たしいなんて生易しい次元じゃなさそうだ。怨念とか呪詛とかの段階まで来てそうなぐらい、毒々しい声で俺を貫こうとする中村。

 

 一方の俺も、相応に腹が立っている。何の罪もない一般人を殺し、更には死体の尊厳すら踏み躙って傀儡人形とする。到底許せる事ではない。

 

 ソウさんたちの人となりを知ってしまった今は、その怒りは膨れ上がるばかりだ。

 

「もうお前は終わりだ。お前の魔法から奇跡的に生還した彼女の証言と、俺自身の証言。そして兄の証言。3つあれば、お前をブタ箱に叩き込むのは容易さ」

「ハッ、ここで全員殺して人形にしてしまえば意味はないね。外部に漏れなければ良い話」

「勝てるとでも? この前、室内戦では圧倒されたお前が? 頼みの綱である屍兵も使わずに? 随分と笑わせてくれるじゃないの」

「……あまり舐めるなよ。この前は魔法がマトモに使えないぐらい狭い空間だったから不覚を取っただけだ。マグレや奇跡は2度も起きないさ」

 

 あくまで負けは認めないらしい。まあ、認められる訳ないか。

 

 クラスメイトの真久野ケンだと認識してるならともかく、奴は俺の事をその辺のギルド職員としか思ってない。本領を発揮すれば、絶対に勝てると思うのも無理はないだろう。

 

 わざわざ向き合う必要は、本来ならない。背後を取った瞬間、延髄にK.O.アッパーを当てれば抹殺は完了する。それでもこうやって中村に何かさせる時間を与えてやってるのは、よりメンタルをガタガタに揺るがせるため。

 

 魔法を発動するべく詠唱してる中村を、俺はノンビリ待つ。幾らでも撃て。お前がガス欠になるまでな。

 

「どうした。さっさと俺を殺してみろよ」

「ッ、今やってやるさ! ――〝螺炎〟!」

 

 飛来したのは、白崎やユエが時折使ってた炎の渦。彼女よりも遥かにお粗末だが。

 

 詠唱なし、陣なしでポンポン回復魔法をブッパできる白崎や、攻撃魔法のエキスパートであるユエと比べるのは酷な話だけどね。

 

 俺はただ、その場でボディフックを放つ。シャドーボクシングと何も変わりない打ち方だ。

 

 しかし炎の渦は、フックを放った際の風圧でロウソクのように消えてしまった。

 

「……はっ?」

「どうした。もう終わりか」

 

 無言の中村。しかし、顔には分かりやすく表情が出ている。憤怒の表情だ。

 

 乱れ撃ちされた〝火球〟が今度は襲ってきた。白熱化してるので、1発の火力はそれなりに高そうに見える。

 

 が、無意味。全てマシンガンのように放たれる左ジャブの風圧だけで掻き消した。

 

「で?」

 

 そびえ立つ炎の壁が、波のような挙動で俺を呑み込もうとする。

 

 ダイナマイトアッパーカットで壁を切り裂いて難なく無効化した。

 

 言葉すら発さず、ただ目線を向ける。これで終わりかと。大した事ないなと。侮蔑の色を瞳に浮かべながら。ため息も忘れない。

 

「どこまでも馬鹿にしてぇ!」

「馬鹿にされるような魔法を使うお前が悪い」

 

 ヒステリックを起こしたのか、中村は髪の毛を醜く掻きながら次々と魔法を放つ。

 

 炎の矢。軽い連携で全て俺に到達するよりも前に消し去る。

 

 火炎弾の乱射。これまた軽めのラッシュで無効化。

 

 炎の剣。パーリングで勢いをゼロにして、猛ダッシュして中村との距離を詰めた。

 

「期待外れだ女狐」

「ぐっはあ!?」

 

 勢いのまま、加減したスマッシュストレートを叩き込む。当然、魂魄魔法は発動した状態だ。

 

 加減した分、中村の魂は少しだけ削られるに留まった。

 

「か、うぐっ――」

 

 無事だとは言ってないがな。

 

「どうだ、魂を傷つけられる感覚は。苦しいだろう。怖いだろう。気持ち悪いだろう。なあ?」

 

 口を抑えて蹲る中村を、俺は下から見上げる。

 

 恐怖で顔が引き攣った瞬間、顎に優しくアッパーを打ち込んで強制的に顔を上げさせてやった。上を向いて歩かなきゃ。人生でも何でも。

 

「で、もう終わりか女狐。あんな啖呵を切った割には、随分と情けない魔法ばかりだったが」

「う、あっ」

「立てよ。それとも自分で立てないのか? ……仕方ない奴だ、手伝ってやるよ」

 

 胸倉をグイッと掴んで立ち上がらせる。

 

 そこから何度かスマッシュストレートを加減して叩き込み、チビチビと魂を削る。拳が命中する度に中村は絶叫を上げるが、それをする体力もやがて尽きたらしい。

 

 絶妙な力加減のお陰で中村は立ってこそいるが、カタカタと震えて物を発さない置物になってしまった。

 

「ほれ、憎きギルド職員はここにいるぞ。お得意の魂弄りはどうした?」

 

 中村の髪の毛を掴み、やや乱暴に顔を上げて覗き込む。真っ青を通り越して真っ白になった顔に張り付いているのは、恐怖と憎悪が混ざった何とも形容し難い物。

 

 それでも中村は、増幅した恐怖と憎悪は身体を動かす原動力にできるようだ。俺の言葉に肩をビクリと揺らして反応すると、半ば絶叫にも近い声で詠唱を行った。

 

「〝落識ぃ〟!」

 

 目の前に黒色の球体が生まれた。それを見ていると、少し前の記憶が飛びそうになる。

 

……オスカーメガネしてるから、記憶が飛びそうになるだけで問題はないし、身体も普通に動くんだけどね。

 

 中村は当然効いてないなんて事は知らないので、記憶が飛んだ事で硬直したと思い込んで背後に回ると、俺の背中に手を置いた。

 

 すぐさま始まる詠唱。2節、3節と進む毎に中村の手が俺の中へと入っていく感じがある。これは、優奈が俺の中へ入ってくる時と似ている感覚だ。

 

 俺は動かない。優奈の言葉を信じて。

 

「〝壊魄〟!」

 

 どんどん奴の手が、俺の魂へと近くなっていく。

 

「は、はは。あっははは! ボクを馬鹿にするからだ、このクソ野郎! このままお前の魂を壊してやる!」

 

 中村の手が、俺の魂に触れそうになった。その瞬間である。

 

 異様に冷たい風が、まずは吹いた。

 

 それによって中村の動きが止まる。俺の魂は目前で、後は触れるなり握り潰すなりすれば、簡単に壊せるかもしれないのに。

 

――何を、している

 

 他に人はいないはずなのに、誰かの声が脳に直接響いた。

 

 奴にも聞こえているようだ。ビクリと身体を揺らしている。

 

――先輩に、触るな

 

 更にハッキリと、明瞭に声が聞こえた。優奈の声が。

 

 

――愛する人に、触れるな

 

 優奈が立ち上がり、目を見開く姿が何故だか俺にも見える。彼女が瞳に宿しているのは、底知れない狂気。

 

 どんどん優奈の姿は大きくなっていき、やがて中村が矮小な羽虫に見えるぐらいにまで巨大化した。

 

――出てけ。先輩の中から、出てけっ!

 

 そのまま中村の事を、両の手でグシャリと潰す映像が見えたところで、俺は目を開いた。どうやらいつの間にか、目を瞑っていたらしい。

 

 中村の手の感じがなくなったので、不思議に思って後ろを振り返る。

 

 哀れな術師は、地面をのたうち回っていた。震えながら頭を抱え、泡を吹き、失禁しながら。

 

 奴の魂を見てやると、消えかけたロウソクのように儚い輝きを放っていた。

 

――カウンター大成功!

 

 ちょい待て怖すぎません?

 

 最大リターンを取れるとは言ってたけど、中村の魂へダイレクトアタックするのは聞いてないし想像してない。ヤバすぎるわ。え、常にこんな事できるの?

 

――ケン先輩のためなら何でも!

 

 ええ、その発言かなり重たい。全く嫌じゃないし、何なら嬉しいまであるけどさ。

 

「まあ良いか。ちょっと消耗は激しいけど、一気に想定ラインまで魂を削るよりはショックが少なく済むだろうし」

 

 優奈のカウンターにより、想像よりも大きく中村の魂へダメージを与えられたので、俺もそれなりに楽してトドメを刺せそうだ。

 

 中村を仰向けにすると、俺は膝立ちの状態で奴の魂へ狙いを定める。

 

 姿勢が変わったところで、パンチは普段と変わりなく放てる。

 

 拳を振り上げると、地面をのたうち回っていた中村と目が合った。

 

 絶望。それ以外、奴の瞳から感じ取れる物はない。

 

「じゃあな」

 

 奴が断末魔の呪詛を吐くよりも早く、俺はスマッシュボディフックを魂へ叩き込んだ。

 

 スマッシュストレートとは違い、魂は壊れる事なく俺の拳に乗って外へ出た。こちらは効力がソウルスティール。こちらの加減次第では、魂を丸々取り出す事も可能である。

 

 分かりやすく人魂の形をしているそれを、俺はそのまま躊躇う事なく〝食う〟。歯は通さず、丸呑みだが。

 

 中村の魂が呑み込まれ、俺の魂との距離が近くなった事で、奴の深層心理が俺にも伝わってくる。

 

 恵まれない幼少時代。小学生になってもそれは変わらない。あの勇者と出会うまでは。

 

 中村が人殺しを犯し、死体の尊厳を踏み躙ってまでやりたかった事が何かようやく分かった俺は、特に心を動かす事もなく奴の狂気を眺める。

 

 地獄から救ってくれた勇者を。天之河を手に入れたい。だから、邪魔する女連中は排除する。そのための下準備として、誰にも負けない屍兵軍団を作り上げて。いつの日か、女狐共を力で屈伏させた後、奴らの前で天之河を食ってやる。

 

「……もう少しだったのに。あの男さえ手に入れば、メルド団長だって配下に置けたのに! 彼が手に入れば、後は時間の問題だった! なのに、お前が! よりによってクラスメイトのお前が邪魔をしたせいでぇ!」

 

 魂と魂が触れ合ってるからなのか、怨嗟の籠った目でこちらを見てくる中村の姿が見える。

 

 確かにソウさんを配下に置けたら。特に今のソウさんを隷属させられたら、メルド団長の命を取る事も可能だったかもしれない。

 

 もはや叶う夢ではないのだが。

 

「中村が何をしたかったとか、叶えたい夢があるとか。ぶっちゃけ俺からすると1つも興味ない」

「なら、何故首を突っ込んだ! お前が邪魔しなければ、こっちは何もかも上手く行ってたんだぞ!」

「お前の素性は何でも良いがな。ギルドのお偉いさんに頼まれちまったんだよ。だから首を突っ込んだ。それだけさ」

 

 あんまりな言い分ではあるが、実際ドット秘書長に頼まれなきゃ、こうやって対峙する事もなかっただろう。

 

 だが、奴からすれば運悪く、俺は依頼を受けてしまった。そもそもの発端を辿れば、ハジメの指名手配云々が大きく関わってる。南雲ハジメと言うイレギュラーのせいで、中村は大きく運命を狂わされたと表現しても過言ではないだろう。

 

 俺の言い草に絶句する中村の顔は中々に面白いが、いつまでもこのままって訳にも行かない。ソウさんの方へ目を向けると、檜山相手に攻めと守りを上手く切り替えながら渡り合ってるのが見えた。向こうの決着もそろそろだろう。

 

「イレギュラーにイレギュラーが重なった結果、お前の企みは破綻した。それ以上もそれ以下もねえよ」

「ふ、ふざけっ。ボクは!」

「はいはい静かにおばあちゃん。都合の良い夢を見れる時間はもう終わりだ」

 

 まだ何かを喚いているが、一切を無視して俺は自分の魂で中村の魂を覆う。やる事はさっきの優奈と似ているが、俺の場合はこのまま中村の魂を吸収し、実質封印みたいな事すると言う違いがある。

 

 何をされるのか分かったのか、今度は悲鳴と怨嗟の声を上げているが、聞く耳を持たないで圧殺した。

 

 どうにか逃げ出そうとする中村。しかし、弱まった魂魄で俺には敵わない。外側から優奈も俺の魂をガッチリ支えてくれているので、どんなに暴れても無意味だ。

 

 少しの間だけ、俺の魂は内側から揺れていたが、やがてそれも収まった。いつの間にか閉じてた目を開き、軽く深呼吸して問題ない事を確認すると、改めてソウさんの方を向く。

 

「ソウさん、決めちゃってくださーい!」

 

 俺の声に対し、真っ先に反応を示したのは意外にも檜山。凄まじい速さでこちらを振り向いた。

 

 が、ソウさんから目を逸らした瞬間に檜山の顔が〝風刃〟で削られた。ダメだろ待ちと攻め両方が強いキャラ相手してる時に目を逸らしちゃ。普段以上に相手の動きを見ないと絶対勝てないのにさ。そう、ミェンミェンとか。

 

 ソウさんは、もう1枚飛ばした〝風刃〟と一緒に距離を詰めにかかる。択ゲーを仕掛けるようだ。

 

「何回見せんだよ三下ぁ!」

 

 檜山は、まず魔法の迎撃を優先するらしい。前に出ながら風の刃を叩き斬ると、その流れで真っ直ぐに距離を詰めてきたソウさんへ横薙ぎを食らわせようとする。

 

 強烈な横薙ぎを、ソウさんは間一髪しゃがんで回避した。

 

 しかし、戦闘を進める中で檜山もソウさんの動きがある程度は読めるぐらいに考えていたようだ。しゃがむのを完全に読んだ、唐竹割りを横薙ぎから一呼吸で繰り出す動きを見せたのである。

 

 流石にヤバいか。そう感じて助けに入ろうと一瞬思った俺だが、すぐに考え直した。

 

 ソウさんの目が、全く死んでない。

 

 唐竹割りがソウさんの頭部へ命中する寸前。檜山が突然バランスを崩した。

 

 どうやら踏み込むため前に出した軸足を、中足で思いっきり蹴り抜かれたようだ。とんでもねえカウンター仕掛けやがったわ、あの人。

 

 バランスが崩れてガラ空きとなった顎に、中足の後隙をキャンセルしたのかと錯覚するスピードで繰り出されたサマーソルトキックが突き刺さる。

 

 普段ならこれで終わりだろう。しかし、今のソウさんには俺が教えた即死連携がある。ルウさんを刺した犯人を、彼がこの程度で許す訳がない。

 

 素早くサマーソルトキックを終えたソウさんは、同じぐらいの高度で意識を失っている檜山の胸元に、地面に向かって突き出した拳を叩き込む。

 

 空中での正拳突き。その見た目に違わぬベクトルで檜山は地面まで急降下。受け身を取れずに叩きつけられた。

 

 遅れて降りてきたソウさんは、バウンドする檜山に手刀を落としてもう1度バウンドさせると、流れるようにバックスピンキックをブチ当てる。それによって檜山が吹き飛び、やや距離が開くが、全く問題はない。

 

「全てを薙ぎ払いし風の渦 ――〝天龍〟!」

 

 詠唱と共に出現したのは、対象を激しく打ち上げる強烈な竜巻だ。

 

 檜山に抵抗する力は残っていない。ダラリと力が抜けたまま、風の渦に体を打ち上げられて頭を激しく揺らしている。あれ生きてるかな。首の骨折れてたりしない? 

 

 不規則に回転して落ちてくる檜山に、ソウさんがトドメを刺すべく滑るように突進する。魂魄を見る限りは死んでなさそうだが、次の一撃で逝く可能性があるので、俺も一応奴を死なせないための準備をする。

 

覚悟は良いな?(Are you OK?)

 

 器用にも落ちてきた檜山の胸倉をドンピシャで掴み、左手でグイッと持ち上げる。そして、落下の衝撃で目を覚ましてモゾモゾ動こうとする檜山に、容赦なく風属性魔法が充填された右拳を突き出す!

 

「――〝砕狼(Buster Wolf)〟!」

 

 ボクシングではまず見られない後ろ足重心の構えから放たれる、強烈な風の弾丸が檜山の胸元を穿った。

 

 弾丸が炸裂した瞬間、ソウさんの足元がボコリと歪み、その後に檜山の身体が吹き飛ばされる。凄まじい威力と速度だったようで、やや遅れて衝撃が来たらしい。

 

 俺の方まで飛んできた檜山を、アンチエアナックルで受け止めて地面に叩き落とし、それ以上吹き飛ぶ事を防いでから魂を覗き込む。

 

「……うん、まだ壊れてない。腹に大穴が開通したかと思ったが、そこも大丈夫だったみたいだな」

 

 全身打撲と脳震盪で動けないだろうが、ひとまず死んでなさそうで安心した。

 

 中村もそうだったが、こいつは死んだだけで罪を全て償えるとは思ってない。死を救済だと思えるぐらいの生き地獄を与える方が、罪の重さ的には合ってる。俺はそう思っている。

 

「邪魔、するな。俺が、香織を手に入れ、る……」

 

 意識が混濁しているのか、うわ言のように白崎を手に入れると繰り返す檜山。

 

 何となくだが、檜山がどうして中村に協力していたのかが見えた。中村の魔法で、死んだ白崎を思い通りに動く人形にしようとしていたのだ。その過程で、邪魔となる俺やハジメを殺して。

 

 そこまで読めたところで、急速に自分の体温が冷えていくのが分かった。

 

 誰かを好きになる事を咎める権利など、俺にはない。そこに関しては好きにすりゃ良いと思う。だが、心を射止められないからと洗脳や薬の類を使うのは、何か違うと思うのだ。

 

 ここまで強烈に嫌悪感を抱くのは、俺自身が徹底した純愛主義者なのが、深く影響してるのかもしれない。

 

 思わず、俺はメガネを取ってまで口を開いた。

 

 こいつの心を、完膚なきまでに折らないと気が済まない。

 

「おい、クソ野郎」

「っ!? おま、えぇ!」

「人の道を外れてまで、白崎が欲しかったようだな。絶対に不可能だってのに、哀れな奴」

 

 俺が真久野ケンだと分かったのか、檜山の表情に憎しみが宿るが、それ以上の事はない。口を動かすのさえやっとな檜山に、何ができる?

 

「どんなに弱くても、才能がなくても。努力に努力を重ねて、その上から更に努力を重ねる。白崎が好きなのは、そんな人だ。魔法だの洗脳だのに頼って、近道をするような人じゃない」

 

 元々の評価が高かったのも、多少はあるかもしれない。だが、あくまでそれは〝気になる〟程度の気持ちだったはずだ。そのままなら、ただの良い人って評価で止まる。

 

 だが、この世界に来てハジメは努力した。文字通り、血の滲む努力を。嫌だったはずだろうに、自分の弱さと真正面から向き合い、そして認めた上で。

 

 檜山は、ハジメとはまるっきり逆だ。白崎に振り向いてもらうための努力を怠った。弱い自分を認めもしなかった。

 

 自分を見つめ直してひたすら努力を続ける人間と、自分を見ようともせず他者を愚弄する人間。どちらに惹かれるかなど、誰が言わなくても答えは出ている。

 

 中村にも言えた事を、ここでハッキリと口にしてやろう。

 

「負け犬だ、お前は」

 

 チャンスはあった。数え切れないぐらい。だが、それらは自分の弱さと向き合わなければ手にできない代物。

 

 こいつらは、自分と向き合う事を放棄した結果戦いに敗れた、生粋の負け犬たちだ。

 

「自分の弱さを認めないから、白崎に見向きもされねえんだよ。ハジメにも模擬戦で負けるんだ。それでも目を逸らし続けた結果がこれ。お前、本当に何のために生まれてきたんだ? 生まれなくても良かったんじゃないか?」

「お前の、せいでぇ」

「この期に及んでまだ人のせいにするのか。お前はとことん救えないな。負け犬未満のカス……いや、カスに失礼だな」

 

 メガネを装着し直し、拳を振り上げる。

 

 まだ檜山は何か言ってたが、一切耳を傾けずにスマッシュストレートを叩き込んだ。

 

 薄汚れた檜山の魂が、拳によって一気に半分程度まで削られて消失した。獣の如き絶叫を上げる檜山に、俺はただ冷めた視線を向ける。

 

 これ以上削る必要はない。魂が半分程度なくなれば、著しく自我が薄くなる。辛うじて心はあるだろうけど。

 

 心が少しでも残ってる事さえ、俺は許す気がない。右拳に文字通り魂を籠めると、一切の躊躇いなく檜山へ拳打を落とした。

 

 檜山は何度かビクンビクンと震えてから、全身の力が抜けていく。目は空いているが、そこに感情は宿らない。口からもヨダレが垂れたままになった。

 

 魂へダイレクトで言葉を叩き込む事で、その言葉通りの行動を強制させる反則技を使用したので、奴の自我や心は完全に砕け散ったはずだ。心神喪失状態になったと思う。多分だが。

 

 数度頬を本気でビンタしても反応がないので、術が成功したと判断した俺は、檜山を物のように指輪の中へと放り込む。ついでに、ずっと地面に放置されていた中村の魂なき肉体も指輪の中へ入れた。このままギルドの方へ運ぶ予定だ。

 

 全てが終わったので、深くため息を吐いてから顔を上げる。目線の先には、こちらに駆け寄ってくるソウさんたちの姿があった。

 

「コースケさん! 良かった、これで全部終わったんですね……!」

「コースケお兄さん、凄かったです!」

 

 口々に俺を褒めてくる兄妹に苦笑いして応えつつ、優花の方を無意識に見た。

 

 優花は、静かに微笑んだ。全てを包み込むような、優しい笑みを浮かべてくれた。内心の葛藤や苦しみは、多分お見通しだろう。

 

――先輩、大丈夫?

 

 優奈も心配してくれてるようだ。僅かに顔に出ていたかもしれない。

 

 教会の人間とは違って、今回殴ったのはクラスメイト。顔見知りである。知らない人ならまだしも、知ってる顔を今回のように殴って、片や心神喪失。片や魂の実質封印。人間として殺したのとほぼ同義だ。

 

 魂だろうが、生身だろうが殺した事に変わりはない。そしてその感触も、決して良い物ではない。屍兵を元の状態へ戻したのだって、人殺しと大差ない。その事実が、俺の心を確実に蝕んでいる。

 

 だが、最初と比べてそこまで取り乱してない自分も確かに存在した。少しだけ慣れたのかもしれないし、まだ殺した実感が薄いだけかもしれないが。

 

……いつか、何も感じなくなるのだろうか。

 

 そうなったら終わりだろう。この世界ならまだ良いが、日本社会に生きる人間としては完全に終わりだ。

 

 そうはなりたくない。今しがた殺した奴らのようには。

 

「勝者は敗者の怨念を背負って生きる、か……」

 

 誰ともなく呟いた言葉を、ハッキリ認識したのは俺の中に存在している優奈だけだった。




 マックくんが本気でブチギレたらこーなる。ワザと相手が自信のある攻撃を受けて、全力で無効化した上でチビチビと体力なり魂魄なりを削る。何なら心神喪失まで追い込む。何をしても無意味の恐怖で絶望させる系。

 ちなみにハジメくんは何もさせず徹底的に破壊する。魔王だからね仕方ないね。何もさせてくれない恐怖で絶望を与える系。

 ドット秘書長に頼まれなきゃ対峙しなかったとマックくんは言ってますが、原作で言うところの香織殺害イベントが控えてるので結局顔を合わせる事になります。なお、相手は超強化香織なので檜山は返り討ちの模様。

 ソウさんの即死連携は以下の通り。

 中足→キャンセルサマー→空下→手刀→バックスピンキック→ソニックハリケーン→バスターウルフ

 テリ兄貴の即死にガイルの技を味付け程度にちょい足し。中足サマー以外は大体同じです。ソニックハリケーンはゲイザーの代わり。あの技めっちゃ横に長い。え、その後のバスターウルフ? パワァにパワァを重ねるのは常識では?

※マックくんの技紹介
★魂を籠めた気合いストレート
…文字通りの技。魂を籠める事で、自分の想いをダイレクトで相手に届ける。魂魄魔法を悪用した結果とも。

 相手の精神状況や発する言葉によって、毒にも薬にもなる割とヤバい技。魂が削られて発狂してる時に食らった檜山は、マックくんの「心神喪失しろ」の言葉通りになった。アウラ、自害しろを思い浮かべた人は大正解。それもかなり参考にしている。

 気がついた人は鋭いですが、これはエヒトはアルヴと言った神の使用する〝神言〟に近い物です。殴らないと機能しないし、魂同士が触れ合うのでリスクも高いですし、やや利便性も本家には劣りますが、それでも強い。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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