異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 大体2ヶ月ぶりでしょうか。お久しぶりです。

 この作品の筆が思うように進まず、少しだけ期間を空けておりました。

 今回はリハビリ……ですが、普段より文字数多めです。


パパ=魔王=ハジメ

 ドッタンバッタンしていたらやがて疲れ果ててしまい、22時を回る前に2人してグッスリだったのは大きな反省点だ。

 

 反動って凄い。これ、お互いに極力溜め込まない方針で行かないと定期的に大変な事になるだろ。全休を数日纏めて取れないと色々終わる。

 

 朝になって、随分と落ち着きを取り戻した優花に内心ホッとしつつ、今日からいつもの日常に戻る寂しさを覚えながら、俺は彼女を連れてフューレンの観光に乗り出した。

 

 ちなみに今日はハジメもシアを連れてお出かけ中である。要塞造りは昨晩の間に終わらせたようで、少し疲れた顔をしながらも、概要を嬉々としながら話してくれた。まあ、あのボンクラ共が逃げるのは不可能だろうって事だけ理解してからは、ひたすら菩薩スマイルで流してしまったが。

 

 さて、以前訪れた時は、ゆっくりフューレンを回る時間がなくてデートがお流れになってしまった。今回はその埋め合わせみたいな物である。

 

 幸いにも、オススメのデートスポットはメモ帳に書き残してあるし、宿に置いてあるパンフレットも参考になる。いくつかピックアップしていけば、行く場所に困りはしない。

 

 デートの定番スポットである水族館や博物館を主軸に置き、目に付いた露店にフラリと寄りながらノンビリデートを楽しむ。

 

 特別な事はやっていないが、それで良い。足の向くままにフラフラとノンビリするだけでも、彼女と一緒なら素晴らしく幸福な時間となるのだから。

 

「ねえ、次はどこに行く?」

「うーん。ハジメたちとはなるべくバッティングしたくないし……水族館とは逆方向にあるゲームスタジオにでも行ってみるか。何か色々あるみたいだぞ」

「へえ、異世界にもパンチングマシーンってあるんだ。しかも、ふふ……目玉アトラクションって」

 

 ボクサーとしての血が騒いでしまってるのはご愛嬌。いつもの事である。

 

 こんな自分でも、笑って受け入れてくれる優花に感謝せねばなるまい。

 

 人間の限界に挑戦するツワモノ達が繰り広げる大道芸に目を奪われつつ、少し歩けばすぐにゲームスタジオに到着した。日本のゲーセンと同じく、煌びやかな飾り付けをされた建物内に入れば、人々の楽しげな声が耳を撫でてくる。流石は大陸最大の商業都市で、子供も大人も楽しめる、様々なアトラクションが置かれているようだ。

 

 その中で、一際長い行列が出来ているアトラクションが、目玉とされるパンチングマシーンである。

 

 ちなみに筐体の横には、デカデカと〝お前のパンチを見せてやれェ!〟とあった。こんな所にまでドック・ルイスが侵食している事に、俺は笑いを隠せない。

 

「しかしまあ、殴り方は何でもオーケーなパンチングマシーンも珍しいな」

「ホントね。ストレートパンチだけかと思ってたけど……見た感じ、どんなパンチでも筐体は壊れないみたい」

 

 俺達の言葉通り、パンチングマシーンを叩く野郎連中……と、たまに混ざる女性陣は、様々なパンチを繰り出していた。どんなパンチであっても良いから、何とかしてパンチ後に表記される数値を高くしようと頑張っているようだ。それに合わせて、殴られるサンドバッグ部分はどの方向にも倒れてから起き上がれるような造りになっているらしい。

 

 なお、チラリと見たランキングの1位の数値は〝370〟であった。単位は分からないが、仮にキログラムだとしたらとんでもない数値である。

 

 まあ、魔法で身体能力を強化できるから、多少数値は上振れするのだろう。一般男性が200超えを達成して大喜びしてる様子を鑑みると、ランキング1位の数値は相当頭がヤベー奴なだけであり、一般ピープルの程度はそこまで日本と変わらなさそうだ。

 

 そんなこんなで俺の出番になった。お金を筐体に入れたらすぐにスタートで、3発殴る権利を与えられるらしい。

 

 グローブは見当たらないので、俺はマイグローブを装着。何回かシャドーボクシングをしてから、いつものように構えを取った。

 

「さて優花。どのパンチを見たい?」

「あ、私が指定して良いの? なら、1発目は……スマッシュストレートで」

 

 流石に本気で殴ったら、マシーンどころかゲームスタジオの壁までも粉砕してしまうので、上手い具合に魔力を操ってステータスを落としていく。取り敢えず、オール300ぐらいのステータスでやってみるか。

 

 スマッシュホールドはなし。大きく前に踏み込み、腰を捻りながら右拳を突き出して、目の前に鎮座するマシーンを相手の顔面に見立てて殴り抜く!

 

「ハッ!」

 

ズドンッ!

 

 鈍い音と共に、殴られたサンドバッグが地面とバウンドしてから元の位置に戻った。結構良い音がしたと思ったが、パンチングマシーンに異常はなさそうである。

 

 数値は……お、380と出た。

 

 1発目から早速ランキング更新である。見ていた人たちがザワザワしているが、まだ2発あるので今は気にしないでおく事にしよう。

 

 優花の方を見ると、次のパンチのリクエストが飛んできた。

 

「左のアッパーで」

「なら雷神拳にしようか」

 

 少しだけ下がってから、風神ステップでやや沈み込んで。そこから、今度は一気に跳ね上がりながら左拳を斜め上に突き出した。

 

 どっかのK.O.アッパーよりかは幾分コンパクトで、類似技にガゼルパンチやカエルパンチもあるので、異世界へ来る前から使い手を見た事があるこのパンチ。俺が打てば、まあ順当に死ぬよなって威力は出る。

 

 その証拠に、雷神拳を受けたサンドバッグがミシミシマと実に嫌な音を立てた。

 

「お、今ので490か。音の感じだと、500ぐらいでマシーンは限界かな」

 

 先程の記録を大きく更新する数値に、観客は大盛り上がりである。同時に相当数の畏怖の視線も感じるが。

 

 気にするのは時間の無駄だし、向こうの世界で慣れてしまったので、総じて俺は無視しているが、優花は少し微妙な表情になっていた。

 

「向こうの世界の頃からこんな感じだったから気にするなって。それより、ラストはどうするよ?」

「……最速のジャブが見たい」

「あいよ」

 

 腕が伸び切らないぐらいの位置に陣取ると、大きく呼吸しながら深く脱力していく。

 

 完全に脱力して視界が仄暗くなった瞬間、俺はヒュイと鋭く息を吸い、目にも止まらない速度でマシーンを打ち抜いた。

 

 ジャブを打ち終わり、腕を引っ込めたと同時に響いた打撃音は今日1で鈍く、そして重たかった。

 

 得点は計測不能。サンドバッグには、拳大の小さい穴が開通している。

 

「すっご……」

「ま、凄まじく地味だけどエグい必殺技だな」

 

 最速発生かつ、最小の動作で最大の破壊力を出す左ジャブだ。見た目は本当に地味だが、右のK.O.アッパーカットと並んでボクシング界をひっくり返すレベルの必殺技である。

 

 ド派手なK.O.アッパーカットや、準必殺ブローのデンプシーロールにガゼルパンチ、ラッシュばかり注目されて脅威度がバレにくいのだが、インファイトを得意とするボクサーからしたら厄介極まりないだろう。

 

 それと、ステータスを縛らなければもっとエグい事も出来る。その気になれば、一瞬にも満たない時間で心臓をブチ抜く事も可能だ。

 

 総じて優秀な技である。欠点は、リーチに乏しい点、脱力から一瞬の切り替えが必要になるので難易度が高い点と、ボディジャブでは打てない点だろうか。低い位置には無力である。

 

 まあ、低く構えてる相手にはK.O.アッパーが待ってるんですけどね。

 

 この世界へ来てからはずっと使用してなかったが、問題なく扱える事が分かり、何なら数段階は上のレベルに到達していると知れて俺は大満足である。縛りなしのステータスで打つ時が楽しみだ。

 

〝もしもしマックくん? ちょっと人身売買してる裏世界の組織の壊滅を手伝って欲しいんだけど……〟

 

 実戦の機会キタコレ。フラグ回収が爆速すぎて笑いそうになるが、必死に堪えて俺はハジメに事情を聞いた。

 

〝何故そんな事に?〟

〝いやぁ、詳しく話すと長いんだけどね。組織を逃げ出した4歳ぐらいの海人族の幼女を保護して、セオリーに従って警察に後を任せるでしょ? そしたら、幼女を預けた警察署が爆破されて、幼女は連れ去られて。ついでにシアさんも手に入れようとしてたから、ちょっと堪忍袋の緒が切れちゃってさぁ〟

 

 これめっちゃキレてるわ。〝念話〟越しでもハジメが魔王スマイルを浮かべているのが分かる。

 

 この様子だと、ハジメは件の幼女を助けに突入を図るだろう。ついでにその工程で血祭りに上げる気満々だ。

 

 なら、俺はそのサポートだな。

 

〝関連組織だったり、アジトの場所は?〟

〝そりゃもうバッチリだよ。香織とユエ、それに新しく仲間になったティオさんって人も総力を挙げて潰し回ってる。でも、もう一押し欲しくってね〟

〝新しい仲間……取り敢えずオーケー、了解だ。血祭りに上げてやる〟

 

 某悪魔たんを意識して〝念話〟を飛ばしながら、俺は優花と頷き合って外へ飛び出した。

 

「香織からアジトの場所を聞いたわ。ここからだと近くに3箇所ぐらいあるみたい」

「よし、順に潰そう。秒で終わらせるぞ」

 

 高速で周囲を旋回するナイフ……ではなく木の棒。不殺の際はこっちを使うらしい。

 

 そう、今回は不殺だ。極悪人達と分かってはいるが、無闇矢鱈に殺してはこちらの精神が壊れる。まあ、人としての尊厳はバッチリ破壊するが。

 

 アジトとされる建物の1つに俺と優花は突入すると、入口付近に立っていた見張り番2人を瞬く間に制圧。後頭部に衝撃を与えて半身不随にした上で気絶させて、階段を一気に駆け下りる。

 

 扉は俺がダッシュ攻撃で粉砕し、そんな俺を追い越すようにして一足先に木の棒群が部屋へ飛び込んでいく。不殺とは言え、優花の〝投術〟には全く迷いが見られない。

 

 俺も少し遅れて部屋へ飛び込み、左ジャブだけで構成員を昏倒させていった。パンチを打ってから離脱までがめっちゃ速いので、昏倒している構成員は何が起こったか認識できてないだろう。目が覚めたら生き地獄が笑顔で待ち構えてるから、奴らにとってはこの昏倒が最後の安眠と化しそうだな。

 

 結局何も喋らせる事なく、1つ目のアジトに居た構成員は全滅した。大人しくオネンネしている。さぞかし幸せな夢を見ている事だろう。

 

 アジト内を探し回り、密売用のヤクだの武器だのがゴロゴロ見つかったので、優花に頼んで焼却処分を敢行。アジトとしての機能を完全に破壊してから、俺達は次のアジトへと足を運んだ。

 

 やる事は全く変わらない。ただ無感情に、アジトを襲撃して構成員を全滅させ、コソコソ作っていたであろう金蔓を跡形もなく消していく。

 

 なお、俺は左ジャブしか使っていない。やっぱこのジャブ強すぎる。襲撃に対する適性が高すぎて、使用者もビックリの性能だわ。

 

 左を制する者は世界を制するなんて言われるが、まさしくその言葉を体現し得るジャブと言えるだろう。

 

 最初に優花から提示された3つのアジトと、更に追加情報で知った5つのアジトをも壊滅状態へ追い込み、少し一息ついたとこで再びハジメから〝念話〟が入った。

 

〝幼女の所在地が割れたんだけど、バカでかいオークション会場だから制圧を手伝ってくれる? 同行者はユエなんだけど、対人戦闘ってなると過剰威力になりそうだし……〟

〝すぐ向かう〟

 

 確かにユエの魔法で不殺は難しいな。初級魔法をユエが撃つと、平然と上級魔法レベルの破壊力が出るし。

 

 優花にはこのまま周辺にある関連組織を潰すように頼んでから、俺は弾けるようにして全力のダッシュを開始した。無論、縛っていたステータスは元に戻してある。

 

 指定された座標に到達するまで、1分も経たなかった。大体2キロぐらいあった気がするが、やはりこの足は優秀だ。流石はリトルマックのダッシュスピード。

 

 目的地の正面入口……ではなく裏手側に回ると、そこには〝錬成〟で地面に新たな入口を作り出すハジメと、同行するユエの姿があった。

 

「よっ。ユエは久しぶりだな」

「んっ、久しぶり」

「流石マックくん。快速で来たね」

「リトマだからな」

 

 雑談はそこそこに、俺たちはハジメが作った入口から地下へと侵入する。

 

 気配を消しながら素早く移動していき、やがて地下深くへと足を踏み入れると、目の前に無数の牢獄が現れた。その中には、結構な数の子供が蹲っている。その近くの壁に寄りかかって居眠りしているのは、恐らく見張り番だろう。

 

 ハジメとユエは牢獄の方へ足を進めたので、俺は眠っている見張り番に対して今日何回打ったか分からない左ジャブを少々手加減して叩き込んだ。

 

 側頭部に拳が命中した見張り番は、ビクビクと痙攣しながら力なく地面に転がった。目が覚めたら生き地獄だぞ。目一杯楽しめよな。

 

「うっわ、今のって左ジャブだよね? 全く見えなかったんだけど……」

 

 ドン引きしているハジメの方を向くと、どうやら鉄格子を全て分解して外へ繋がる道を〝錬成〟で作り終えた直後のようだった。

 

 ユエには子供たちを外へ出す役目を頼んだようで、既に彼女は行動を開始している。優しい声音で子供たちに声掛けしながら移動しているので、パニックは全く起こらなさそうだ。

 

「概要はまた今度教えるよ。多分だが、ハジメも使えるようになる」

「え、ホントに!? 先の楽しみが増えたな〜」

 

 呑気に笑っている、ように見えるハジメ。しかし目は全く笑っていない。新たなブローを覚える事で、2度と今回のような事を起こすまいと強く決意しているのだろう。

 

 魔王がより魔王になってしまうだろうなこれ。

 

 発生1Fの弱を持つガノンとか嫌すぎるわ。

 

 魔王ハジメが更にバケモノと化す未来に軽く戦慄しながらも、俺は先を急ぐハジメを追い掛ける。

 

 人目が絶対に付かないであろう、さっきよりも更に地下へ足を踏み入れたところで、俺たちはオークション会場らしき場所へ到着した。

 

「僕は天井から行くね」

「陽動は任せろ」

 

 言葉少なく、しかし確実に作戦を伝え合って別れると、俺は気配を完全に消し、追加で緑のスウェットを装着してから堂々と歩いていく。

 

 会場は異様な雰囲気に包まれており、注目を集めるべくやや高い位置にある舞台で喋る男が、水槽に入った〝商品〟の概要を紹介する度に高額の値段を口にする声が聞こえた。

 

 幸い、〝商品〟に誰もが夢中である。全く警戒してない。

 

 俺は客の真後ろに立つと、〝縮地〟を使用しながら左拳を振り上げた。

 

 連続した鈍い打撃音が響くと同時に、バタバタと客が倒れていった。件の左ジャブによって、意識をブツリと断ち切られた客は、次から次へと痙攣しながら倒れていく。

 

 明らかに違法であるこの場に立つ客もまた、今後何かを起こしかねない芽である。見せしめとして、全ての客を2度と立てず喋れずの身体にしていこうではないか。

 

 少しすると、客がバタバタ倒れる異常事態に武装した構成員らしき者たちが姿を見せ始めた。司会を務めていた男も、怒鳴りながら指示を飛ばしている。

 

 ところで司会さん。真上への警戒を怠って良いのかな?

 

 流星と化した魔王様が降ってくるぞ?

 

エ"ェ"ェ"!"!"

 

 ガナリ声と共に、片足を真下に突き出したハジメが流星のように降ってきた。

 

 司会の男はまるで反応できず、モロにハジメの烈鬼脚を喰らい、着弾点である肩付近をグチャグチャに変形させながら、首だけ出す形で地面に埋まった。

 

 バッチリ気絶しているようで、ピヨピヨしている。うーん、完全にシールドブレイク。この後ドリャア! だの振り向き魔人拳しないだけ温情だな。

 

 見る者によっては仮面ライダーを想起させるような登場をしたハジメは、着地と同時に水槽を叩き割って中に居た幼女を救出。泣きじゃくる幼女を優しく抱きながら、背中に携えた黒傘を手にした。

 

 下手人として姿を現したハジメを構成員が取り囲むが、彼から発される魔王独特の凄まじい威圧感によってそれ以上動けていない。流石の魔王プレッシャーである。

 

「クソガキ、フリートホーフに手を出すとは相当頭が悪いようだな。その商品を置いていくなら、苦しまずに殺してやるぞ?」

 

 それでも恫喝する辺り、それなりにプライドはあるようだ。現在進行系で、客が何者かによって気絶していく異常事態を、一向に解決できない焦りもあるのだろうけど。

 

 ハジメはそんな恫喝を全く気にせず、何かを囁いてから海人族の幼女を地面に降ろした。心配そうに幼女はハジメを見つめているが、彼が「僕を信じて」と口にすると、ギュッと目を閉じて耳を塞ぐ。

 

「さて、と。客はもうほとんど残ってないみたいだし、これで心置きなく動けるね」

 

 蒼炎の勇者のように黒傘を肩に置きながら、ハジメはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 それは、見る者の心をグチャグチャに破壊する超絶素敵な魔王スマイルである。

 

 客を全て地面に転がした俺が、ハジメの後方を陣取っていた構成員の意識を飛ばしたのを皮切りに、〝魔王〟は進撃を開始した。

 

 瞬時に構成員の目の前へ移動すると、ガッチリ片手で顔面をホールド。掌から紫炎を発生させて小爆発を起こして地面にボトリと落とすと、〝天上斬〟を繰り出して左右から襲い掛かった構成員4人を纏めて気絶させた。切り傷は見られないので、あの見た目でありながら斬ってはおらず、シンプルに打撃で意識を刈り取ったようだ。

 

 なお、シレッと崖際の炎獄握から受け身全狩りの上スマをやりやがったので、俺は軽くトラウマを刺激されている。ちなみに受け身を取らなかったら通勤タックルや美脚からの着地狩りで死にかねないが、マック殺しのヤクザキックは何故か当たらない。着地さえ頑張れば生き残れる。下手に受け身取る方が危ないとか訳分からねえな。

 

 遠い目をしている俺に構わず、ハジメは構成員を次々と打ち倒していく。

 

 魔王ツッパリから傘を逆手に持って右フックで顔面を陥没させて1人沈めて、振り向きざまのヤクザキックで金的を穿ってもう1人。更にジョルトの踏み込みで飛翔し、脳天に頭蓋割を落として1人を地面に埋めた。バリーブローだろもう。

 

 明らかに腕が届かない位置からワープのような挙動をして、構成員を〝雷神掌〟した辺りで、増援に駆け付けた構成員が見るからに腰を引いて逃げようとするようになった。

 

「クソッ、貴様何者なんだよ! あんな木端1人にフリートホーフがこんな!?」

「別にアイツ1人じゃねえんだけどな」

「ヒィッ!?」

 

 恐れをなして無駄口叩く時間はないぞ。ここからは、俺もスウェットを脱いで加勢するとしようか。1人とて逃がすつもりはないからな。

 

 襲撃者が増えた事で混乱が生じた構成員を、俺は左ジャブ1本で刈り取っていく。攻撃を認識させる暇も与えやしない。

 

 ハジメもパワープレイで構成員を文字通り沈めていく。華麗な足技はガノンから。重厚な剣術もガノンから。拳打だけは……マックとガノンの合成だ、ありゃ。勝てるならどんな技でも覚える辺り、実に魔王様である。

 

 でも、わざわざ吸い込み判定を重力魔法で軸足の靴に付与して再現した上で、驚異の柔軟性を発揮して〝爆裂蹴〟をもやってのけるのは流石に変な笑いが出た。いや、あれで一気に5人ぐらいの意識を沈めてるから全くバカには出来ないけどな。タイマンじゃアピール技なだけで、乱闘じゃ普通に強いの代表格だろう。ドリャおじの方が強いけど。

 

 一気に構成員の数が減ったのは良い事だと割り切る他ないが、ハジメの妙な芸人魂には時折笑いそうになってしまう。本当に面白い。

 

「ドリャアア!!!」

「おお〜、前方110度で拾って3人潰しやがった……」

 

 最後はハジメのドリャおじ……じゃなくて〝斬岩〟により、構成員は全滅した。結構な頻度で人間が地面に埋まっているが、まあ気にしないでおこう。後始末するギルドの人は腰を抜かしそうだが。

 

 構成員が全滅したらもう用事はないので、海人族の幼女を抱き上げたハジメと共に、俺たちは天井に穴を開けて外へ出た。地上を通り越して宙に身を出し、〝天歩〟で空中に安定して留まったところで、ハジメがツンツンと幼女のほっぺをつつく。

 

「もう大丈夫。目を開けてごらん」

「ふわあ……! お兄ちゃん凄いの、お空を飛んでるの!」

 

 あら微笑ましい光景。近所のオジちゃん枠である俺もニッコリである。

 

「紹介するねマックくん。この子はミュウって言うんだ。ミュウ、この人は僕とシアお姉ちゃんのお師匠様だよ」

「おししょー? お兄ちゃんの?」

「そう、お師匠だ。そして僕の親友でもある」

「どーも、真久野ケン。愛称はマックだ。シアは弟子じゃないが……あれか、大師匠って奴になるかな」

 

 まずハジメを弟子にしたつもりもなかったのだが。師匠って柄でもないし。

 

 しかし、幼子の前で話を引っ掻き回すのもアレだ。流れに乗っておくとしよう。

 

「ミュウ、もうすぐシアお姉ちゃんと会えるよ」

「シアお姉ちゃん! ねえねえ。お姉ちゃんは、お兄ちゃんの何なの?」

「シアさん? うーん、大切な仲間かなぁ」

「嫁候補だろ」

「マックくん!?」

 

 実際そうだろ。今回だってお出かけの名を被ったデートだしな。

 

「そ、そうだミュウ。お兄ちゃんって呼ぶの、変えられたりしないかな? 少しムズムズしてさ」

 

 露骨な話題転換である。今度はしっかり詰めたいとこだ。

 

 ミュウは目を暫くパチクリしていたが、何かに納得したようで、軽く頷いてから再度口を開いた。

 

「………パパ」

「…………え?」

「おっと?」

 

 とんでもなくすっげえ面白い言葉が聞こえた。

 

 パパ。パパと申したか。聞き間違いじゃないよな?

 

「え……と。パパって言った? 僕の聞き間違いじゃないよね?」

「パパ」

「………それは、海人族の言葉で〝お兄ちゃん〟とか〝ハジメ〟って意味なんだね?」

「ううん。パパはパパなの」

「うん、ちょっと待とうね」

 

 頭を軽く抱えて考え込んでしまったハジメに代わり、俺はミュウに質問をした。

 

 どうして〝パパ〟なのかと。

 

「ミュウね、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの……だからお兄ちゃんがパパなの」

「いやいや待って待って。僕まだ17だよ!? 成人ですらないんだよ!? パパって柄じゃないでしょどう考えても!」

「ハハ、良いじゃねえかハジメパパ。ミュウもきっと、ハジメの中にパパを見たんだろ。だろ、ミュウ?」

「なの!」

 

 ちなみにトータスは15から成人として扱われるし、酒も飲めるようになる。日本基準で当て嵌めても、この世界じゃ詭弁として扱われるだろう。

 

 俺は全力で笑顔を浮かべて、ハジメの肩を優しく叩いた。

 

「諦めろ。お前はハジメパパだ」

「これは罠だッ!?」

「粉バナナじゃねえって」

 

 さて、白崎たちはどんなおもしれー反応を見せてくれるかな?




 魔王ハジメくん大活躍。重力魔法で足を引っ張って〝落ちる〟空中烈鬼脚は、実はハジメくんの持つ体術の中では最大級の破壊力を持ちます。

 無論出始めのメテオも破壊力抜群ですが、重力魔法を使用する真価は持続部分で発揮されます。位置エネルギーに加え、重力による加速が引き起こす破壊力は凄まじいの一言。頭蓋なんかに直撃したら人体が真っ二つに裂けます。

※マックくんの技解説
★最速かつ最小の動作で最大威力を放つ左ジャブ
…要はめっちゃ速くて隙もなくて威力の高いジャブ。腕を引っ込めた動作をした時に、やっと衝撃を認識する。意識外からの攻撃を自由に繰り出せると言って差し支えない。

 現状のマックくんの性能でスマブラに落とし込むと、正真正銘のぶっ壊れ技になる。

①…最速発生(1F)かつ連射可能
②…全体隙がクッソ短い(2F)のでガード時の不利Fが皆無。ガードさせてマック側が有利な読み合いに
③…地上では確定でピヨるか強制バースト
④…空中ヒット時も追撃可能
⑤…相殺なし判定

 マックの弱にミュウツーのかなしばりとザラキの効果を追加したイメージ。リーチと姿勢避け以外弱点がない。

 ちなみにこれ、異世界へ来る前から取得していた必殺ブローである。技能や装備でインフレしているが、オリ主は元から〝リトルマックのパンチを打てる〟ヤベー奴であり、効果的に実戦で効力を発揮できるようひたすら努力し続けた怪物である事を忘れてはいけない。

 流石に異世界へ来る前は連発が出来なかったのだが、いつでも意識外からのパンチを打てるアドバンテージは凄まじい物がある。

 このジャブを知ってる者程めちゃくちゃに警戒してガードを上げるようになるのだが、そうなればスマッシュボディフックやK.O.アッパーの餌食になる。なお、ジャブが直撃した時点でその他のフィニッシュブローが確定するので、全く無警戒でもダメ。

 K.O.アッパーが全ボクサーが理想とする最強のフィニッシュブローならば、この左ジャブは全ボクサーが理想とする至高のジャブ。人の認識速度を超える牽制打を目指して、今日も無数のボクサーが死ぬ気で努力しては挫折してる。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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