異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 余計な事=やっかみ


余計な事しなきゃ魔王じゃないんよ

「「おお〜」」

「何してんのよ2人して……」

「でも何だか懐かしい感じしない? 数年ぶりに来た気分だよ」

「それは分かるけど。ケンと南雲のシンクロ度合いが何か変でさ」

 

 優花に鋭いツッコミを入れられるぐらいにピッタリのタイミングで、ホルアドに足を踏み入れた瞬間に俺とハジメは声を出した。

 

 ハイリヒ王国の城下町こそつい最近行った俺だが、ホルアドに来たのは数ヶ月ぶりである。

 

 基本的にこっちの方向から遠ざかるような旅をしていたハジメは、俺以上に懐かしい気持ちになっていると思う。

 

 散策する時間はほぼゼロだったし、正直ホルアド自体に良い思い出は少ないが、それでも全てはここから始まったので、他の場所と比べると幾分か特別な感じがする。それこそ優花との約束なんかは、ホルアドで交わした物だしな。

 

 さて、傍から見ればレベルの高い美少女の行進であるため、視線の集まり具合が半端ない。特にハジメの嫁候補と、引っ付かれてるハジメに対しては、放置しても良いのか微妙なラインだ。

 

 幸いな事に、オスカー作のメガネをハジメと白崎は装着しているので、どれだけ視線が集まってもそれだけで終わる点だろう。事情を知らないギルド職員が暴走でも起こしたら、ちょっと面倒なのでこれはありがたい。

 

 なお、実力行使に出る荒くれ者は面倒の括りに入っていない物としている。

 

「やあそこのお嬢さ」

「ア"ッ"?"」

「ひっ、魔王!?」

 

 不用意に近寄った瞬間これだもの。超絶素敵な魔王スマイルは今日も絶好調である。メガネで正体は隠せても、魔王らしさまでは隠せないようだ。

 

 そんなハジメを見てますます惚れている嫁候補はともかく、偶然通りがかった一般人は魔王スマイルで意識が飛んでいる。ちょっと可哀想だった。

 

 ストリートを色んな意味で騒がせながらも、無事冒険者ギルドへ到着。扉を無造作に開こうとしたところで、中の様子が随分と荒れているのが外からも透けて見えたので、念入りに〝威圧〟を仲間以外へ対象を絞って発動させる。なーんか嫌な予感がするんだよね。

 

 ハジメも俺の様子を見て、何かを悟ったようでミュウを白崎に預けると、気持ちのスイッチを入れて魔王モードになった。俺たちは慣れているので何て事ないが、〝威圧〟に加えて〝魔力放射〟も合わさって凄まじい魔王プレッシャーを放っている。

 

 気を取り直してギルド内へ入ると、やはり異様な空気に包まれていた。

 

 ピリピリなんて言葉では生温いと思えるぐらいに、空気が張り詰めていたのだ。誰もがイライラと焦燥感を抱えているように見える。

 

 そんな空気の中、ギルド内へ入ったのは少年2名とそれに追従する美少女たち。傍から見ればふざけた集団とも捉えられるだろう。

 

 真っ先に俺が。そして続いて魔王ハジメが足を踏み入れて正解だった。こちらを凄まじい目で見やる冒険者たちの視線に、ミュウを晒す訳にはいかん。

 

 俺は軽く顔を顰めただけだったが、ミュウのパパとして自覚を持って頑張るハジメくんは、俺以上に強くミュウを守らねばと考えているだろう。

 

 昼間から呑んだくれている奴を含め、何人かの冒険者が立ち上がった。その瞳には、この異様な雰囲気から来るストレスを発散すべく、ふざけたガキをブチのめす意図が丸見えである。こりゃあ、ハジメが黙っちゃいない。

 

「フーッ……」

 

 静かなため息と共に、ハジメから放たれるプレッシャーの強さとそれが及ぶ範囲がジワジワと増していく。

 

 無策に近寄った冒険者たちは、ある一定の距離に到達した瞬間、無様にも腰を抜かして意識を失ってしまった。

 

 どうやら対象は、自身に近寄る人間に限定しているようだ。その証拠に、ハジメから結構近い距離で座っている、立ち上がらなかった冒険者は全くプレッシャーの影響を受けていない。まあ、いきなり立ち上がった冒険者たちがバタバタ倒れた事に対して、かなり動揺はしてはいるが。

 

「全く、冒険者ってのはこんな荒くれ者ばかりなの? いちいち突っかかってきた羽虫を〝処理〟するのも面倒なんだけど」

 

 敢えて〝処理〟を強調して口にしたハジメに、プレッシャーの影響がなかった冒険者もガタガタと震え上がる。

 

「気に入らない、イライラする、妬ましい。それだけで即座に殴る、ストレス発散って思考になる脳みそはとても理解できないよ。そんな短絡的な思考で、これまで冒険者を続けられたのが凄まじい奇跡じゃない? とても冒険者に向いてる性格とは思えないよ。こんな危険な仕事は早く辞めて、喧嘩屋して生計立てる方が現実的だね。どうせ早死するから」

 

 決して怒鳴り散らしている訳ではない。口調も比較的穏やかで、諭すようにすら聞こえる。しかし、その内容はあまりにも鋭く厳しい。至極真っ当なのが色々終わってるが。

 

 魔王としてのプレッシャーと、その中でしっかり存在感を示す〝正論〟によって、もうハジメや俺たちに絡もうと考えるバカは姿を消した。特にハジメに対しては、顔すら見ようとしない徹底ぶり。どれだけ心に深く刺さったのかが伺い知れる。

 

 自覚があるなら、何とかして改善しようとすりゃ良いのにな。民度がある意味で終わってる世界だから、アホばかりなのかもしれんが。

 

 さて、これ以上ハジメに死体蹴りさせると、本格的に死を選ぶ冒険者が現れそうなので、俺はここらでストップをかける事にした。目の前で死なれたら後味が悪いのでね。

 

「そろそろ用事を済ませようぜ」

「……だね。ありがとうマックくん」

 

 ハジメを落ち着かせた事で、今度は俺に視線が集まった。あの魔王をいとも簡単に落ち着かせた!? とでも言いたそうである。解せぬ。

 

 余計な真似をしなければ、魔王なんかではなく優しいハジメくんなのに。そう、余計な真似をしなければ。

 

 扉から真正面に位置する受付カウンターへ俺たちが足を運び始めると、至る場所から人が深く息を吐いたり座り込んだりしてる音が聞こえてきたが、全て無視して受付嬢に用件を伝えた。

 

 ちなみに受付嬢は、普通に可愛らしい感じであった。ハジメの言うテンプレはここにあったらしい。

 

 もっとも、俺たちが起こした騒ぎを見ていた受付嬢の顔は、可哀想なぐらい引き攣っていたが。ごめんねホント。

 

「支部長はいますか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんですけど……本人に直接渡せと言われているんですよ」

 

 丁寧語で、なるべく圧を掛けないように意識をしているらしいハジメによって、すぐに受付嬢は冷静さを取り戻せたようだ。

 

 受付嬢は素晴らしい切り替えでハジメの用件を聞き、手渡されたステータスプレートを確認する。

 

「はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

「ええ。一介の冒険者なら有り得ない物ですけど……ランクを確認してくれたら、何となく信憑性は出るんじゃないですか?」

「え、えっと……ッ!?」

「しーっ。あまり荒波立てないで、ね?」

「ひゃ、ひゃい! すぐにお取次ぎ致します!」

 

 うわ〜、魔王の格好しているとキザっぽい仕草も案外似合うな。

 

 ハジメがやっていると言う事実に対して、どうしても笑いそうになるのが欠点だが。

 

 実際、受付嬢が去ってからハジメは少しだけ気恥ずかしそうにしていた。どこか可愛らしい表情によって、嫁候補の好感度は更に上がっているだろう。

 

 やがて、と言っても5分もないぐらいの時間だが、ギルドの奥から猛烈なダッシュ音が耳に入った。支部長かと一瞬思ったが、こんな必死にダッシュしないだろと考え直す。誰だろうと思っている間に、音の主はカウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

 その人物に見覚えがあった俺は、思わず声を漏らす。

 

「遠藤。お前、遠藤か?」

「! お、お前真久野だな!? 支部長から来てるって話があったから飛んで来たんだが……な、なあ南雲はどこだ!? アイツも来てるんだよな!?」

 

 うわ声デカい。何か、すっごい必死だね?

 

 ハジメの肩を叩いてメガネを外させてから、俺は口を開いた。

 

「俺の隣で立ってる魔王……じゃなくて白髪男子が南雲ハジメだぞ」

「やあ、遠藤くん」

「な、南雲……なのか。何か、変わったな? 見た目が色々と……」

「まあ、色々あってね。ちなみに香織と園部さんもいるよ。行方不明になってたメンバーが全員ここに立ってるね」

「ま、マジか。いや、無事だって話だけは聞いてたけど……良かった、本当に無事だったんだな」

 

 どうやら心から心配してくれていたようで、無事と分かって遠藤の雰囲気が少しだけ和らいだ。

 

 だが、それもすぐに切羽詰まった物に変わる。そういや、何故か遠藤はボロボロだな?

 

「なあ、真久野は元からバケモンみたいに強かったけど……南雲も、冒険者で〝金〟ランクを取れるぐらい強くなったって事か?」

「まあ、そうだね。まだまだマックくんには敵わないけど」

「な、なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 1人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ!」

「「は?」」

 

 いきなりの超展開である。2人して同じタイミングで声を出した。

 

 理解が追いつかない俺たちに代わって、何とも言えない表情の優花が話を引き継いだ。

 

「何があったの? メルド団長率いる騎士団がサポートしてるなら、滅多な事は怒らないでしょ」

「……んだよ」

「え、何? 聞こえなかったんだけど……」

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

「……そう」

 

 メルド団長の死。それを伝えられた事で、俺はやっと混乱の極みから現実へと帰ってこれた。

 

「遠藤、ギルドの奥で何があったか聞かせろ。ここじゃ色んな人に不要な心配をさせてしまう」

 

 すると俺の言葉を後押しするように、しわがれた声が響き渡った。

 

「ああ、是非ともそうしてくれ。お前たちは俺の客らしいから、丁度良いだろう」

 

 声の主は、60歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男だった。その眼からは、長い年月を経て磨かれたであろう深みが見て取れ、全身から覇気が溢れている。

 

 おそらくホルアドのギルド支部長だろう。俺は情緒不安定で今はグッタリしている遠藤の首根っこを掴んで、支部長らしき男の後を追従するのだった。

 

 しっかしまあ、絶対に碌な話ではないよなァ……。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「大迷宮の攻略中、魔人族の襲撃で騎士団は全滅。勇者パーティーは大ピンチ、か……」

 

 詳細を遠藤や、支部長のロア・バワビスから聞いた俺は、微妙な表情を浮かべて軽く唸る。

 

 なるほど、確かに深刻な状況である。人間族にとっては一応の希望の象徴である勇者が大ピンチなのだ。それに、この世界でも有数の実力者とされる騎士団まで全滅している。多分、遠藤はギルドに駆け込んだ際に、公衆の面前で事の次第を話してしまったのだろう。それで、ギルド内は異様な雰囲気だったのだと俺は結論付けた。

 

 ちなみにだが、白崎が抜けた勇者パーティーは回復にかなり苦労しているようだ。クラスメイトにも何人か回復魔法の扱いに長けた者は存在するが、白崎レベルに適性が高い者は居なかったと記憶しているので、仕方ない事だろう。

 

 それと、檜山のアホンダラが姿を消したと思ったら罪人扱いされてる事によって、心が折れた奴が現れたり。中村がこの始末★なせいで、仲が表面上は良かった谷口が痛々しい笑みを浮かべながら頑張っていたり。まあ、とっても大変そうなのは理解できた。

 

「どーするハジメ。正直、俺はあまり乗り気じゃないんだけど」

「なっ、真久野!?」

「いやさ、勇者(笑)ってハジメの事を何故か毛嫌いしてるから、かなり心配なんだよ。何があるか分からん」

 

 無論、口にした事は本音であるが、建前でもある。

 

 俺自身が、あのバカの事がめっちゃ嫌いなんだよ。

 

 死なれたらそれなりに思う部分はあるだろうが、しかし悲しむ事はゼロだと思う。

 

 一方ハジメは、少しの間だけ白崎の表情を伺ってから、ゆっくりと言葉を口にした。

 

「僕も、天之河くんたちを助けるって部分だけで見るなら行きたくない。僕にも大いに問題があったとは言っても、彼らには無視できないイジメの事実がある」

「な、南雲……」

「でもね。天之河くんたちではなくて、八重樫さんを助けに行くって考える方向でなら、ギリギリ妥協できる」

 

 理解に少しだけ時間を要したが、俺はハジメの意図を何となくで汲み取った。

 

 八重樫が死んだら、白崎が悲しむ。泣いてしまう。

 

 白崎と言葉を交わしている様子はなかった。ハジメはただ、白崎の僅かな表情変化だけで感情を読み取ったらしい。

 

「ごめんねマックくん。わざわざ気を遣ってくれていたのに……」

「謝るなって。ハジメがそうしたいと言うなら、俺はそれに付いていくだけさ」

 

 異論はない。八重樫の救援と認識する方向にすれば、確かに行っても良いと思えてくる。

 

 まあ、強くなったハジメと顔合わせしたら、確実に何かを起こすバカの対処をする役割も兼ねているが。

 

「えっと……一緒に大迷宮に行ってくれる、で良いんだな?」

「おう。あ、そうだロア支部長、これは依頼って形で頼めるか?」

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

「大正解。それと、幼子を連れて行く訳にもいかんから、適当な部屋を1室貸して欲しい」

「そのくらい構わねぇよ」

 

 窮地に陥っているクラスメイトたちだが、俺たちは大まかな情報しか把握できてないので、すぐにでも動いて現地で状況を見た方が良いだろう。

 

 ハジメと離れる事を是としないミュウが少し駄々をこねているが、すぐに場を収めてくれると信じて、俺は遠藤に追加の情報を聞き出す事にするのだった。




 次回は懐かしいオルクス大迷宮編。

 香織さんが勇者パーティーから離脱してるので、回復に難儀こそしてますが、勇者の持つご都合主義の運命によって死者はゼロです。中村と檜山は別ですが。

※ハジメくんの技紹介
✦魔王プレッシャー
…ラストストックで怒涛の追い上げをするホカホカ魔王が1番怖い。次点で怖いのはマックくん。カンカーン

 原作ハジメくんの十八番でもある〝威圧〟と〝魔力放射〟を駆使した精神的&物理的プレッシャー。ハジメくんの匙加減と、対象とのステータス差によって効力が変わってくる。

 一般人なら即座に失禁しながら気絶。運が悪いと心臓が止まる。

 戦闘に心得がある者でも、精神的に未熟なら気絶待ったなし。仮に耐えられたとしても、震えてその場から1歩も動けなくなる。中途半端なステータスのクラスメイトなんかはこのライン。

 達人レベルからやっと動けるようになる……が、動きは明らかに鈍る。本気の魔王プレッシャーはノイントクラスが警戒レベルを大幅に引き上げるぐらいの脅威度なので、相当凄まじい圧。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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