異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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星空の下で

【オルクス大迷宮】

 

 明日から挑む場所の名前だ。詳しい内容までは覚えてないが、我々の知るダンジョンと似たような場所だよとハジメから伝えられた。

 

 低階層なら弱い魔物が。そこから下へ行くにつれて、魔物の強さもレベルアップ。故に訓練には使いやすい、らしい。

 

 まあ、何がどうであろうとも、この拳で道を切り開くのみである。

 

 俺たちは、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者たちのための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

 天蓋付きのベッドでしばらく寝ていた事もあり、普通の部屋を随分と久しぶりに見たなと感じつつも、俺は明日に備えて早めに寝る事を決めた。

 

 ちなみにハジメも同室だ。夜行性の彼はまだそこまで眠くなさそうだったが、やはり明日に備えて早めに寝る決意をしたらしい。俺と一緒に就寝の準備を始めている。

 

 歯を磨き、服を着替え、明日の荷物のチェックを行って。やる事もなくなった俺たちは、軽い談笑をした後に互いのベッドに入った。

 

 だが。ウトウトし始めた頃になり、いきなりドアがノックされた事で一気に目が覚めてしまった。

 

 早めに寝るとは言っても、徹夜が当たり前のハジメと、練習を遅くまでするが故に寝るのが遅い俺たちからして早めに寝るであるので、時間帯的にはかなり遅い時間である。

 

「南雲くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 襲撃者かと思って身構えたのだが、それは杞憂に終わった。

 

 困惑から硬直しているハジメに変わり、俺は部屋の扉を開ける。

 

 そして、特に顔を見合わせる事もなく外に出た。

 

 どうやら彼女は、ハジメとの会話をご所望である。俺は邪魔者だろう。

 

「さて、どうするかな」

 

 扉が閉められ、シンとしている廊下内でポツリと独り。

 

 何となく気を紛らわすために、俺は外に出た。

 

「へえ、綺麗な星々だな」

 

 都会の夜空を見慣れていた俺にとって、夜灯の少ない世界の夜空は新鮮味がある。

 

 しばしの間、星空に圧倒されていると、不意に背中側に気配を感じた。

 

 振り返ると、そこには園部が立っていた。

 

「え、真久野?」

「園部か。どうしたんだ、こんな時間に」

「私は、ただ目が覚めちゃったから夜風に当たろうと。真久野は?」

「白崎がハジメに用事があるらしくてな。邪魔になるであろう俺は外に出た」

「え、あの娘が南雲に?」

「大層ハジメの事を気に入ってるみたいだからな。もしかしたら、もしかするかもだぞ」

「あの不真面目で有名な南雲を、よりによって香織がかぁ。いやでも、この世界に来てからの南雲は凄い頑張ってるし、身体も雰囲気も逞しくなってるし。意外とあり得る話、なのかな」

 

 多分、この世界に来るより前からの話だろう事は伏せておく。

 

 クラスメイトの多くは、不真面目な部分を直そうとしないハジメが白崎に構われているのを気に食わない感じで見ていたが、そんな奴ほど白崎には見向きもされないのではないかと勝手に思っていた。

 

 まあ、俺がハジメの人柄をよく知ってるのもあるだろう。趣味を人生の中心に置いていて、その趣味に全力を尽くしている人物。しかし、腹を割って話してみると、非常に優しく心穏やかになる好漢。それが南雲ハジメだ。

 

 何事でも、全力を尽くせるのは良い事だ。それができない人が、ハジメを嫌っているのだろう。醜いな、ホント。

 

「俺は応援するぜ。反論のある輩はこの拳で黙らせる」

「ちょ、物騒すぎない?」

「こんぐらいしないと、ギャーギャー言いそうなバカが何人も思い当たるんでな」

 

 檜山とか檜山とか。それと檜山含む小悪党組。何気に天之河辺りも口出ししてきそうだ。

 

「とまあ、あの2人の事は正直好きにやってくれりゃ良いんだがな。問題はお前だよ、園部」

「え、私?」

「その顔、目が覚めたのではなくて、最初から眠れてなかっただろ」

 

 息を呑んだのが分かった。どうやら当たりらしい。

 

 この異世界へやってきてから、どれだけ不安から寝不足になったクラスメイトを見てきたと思ってるのだ。不安そうな顔と取り繕ってる顔の違いが、すぐ判別できるようになってしまった。

 

「……まァ、話しにくいよな。同室の奴、クラスメイト、異性。基本的にみんながどこかで不安を抱えてるってなりゃ」

 

 俺が同じ状況下だとしたら、独りで抱え込んで潰れる自信がある。

 

「ついこの前まで平穏に暮らしてた。命のやり取りなんてゼロだった。だが、ふと気がつけば明日には死ぬかもしれない。そんな状況だ。現実をしっかり認識せずに眠ってしまった人もいるだろうが、多くは今頃未知の恐怖で眠れない夜を過ごしてると思う」

「真久野も、怖い?」

「ああ、とても怖い。そして不安でいっぱいだ。初めて世界のリングに上がった時よりも、スマブラで決勝戦の配信台に上がった時よりもな」

 

 紛う事なき本心だ。

 

 ルールがしっかり定められた試合と、命が懸かった戦いとではまるで緊張度合いが違う。

 

「死にたくねえんだよ。俺だって」

 

 園部は、黙って俺の顔を見ている。

 

 月明かりが髪の毛や瞳を反射していて、とても幻想的な光景だ。本当に絵になる美人だな、園部。思わず見惚れてしまった。

 

 が、変に長く見ていると園部に色々言われそうなので、俺はなるべく自然に視線を外す。

 

「前も似た事を言ったがな。不安なのはお前だけじゃないんだ。カッコつけたがりな年の男子ですらこんな感じなんだから、もっと不安で仕方ない人もいるだろ」

 

 ここまで言って、俺は口を閉じた。

 

 勢いで色々と口にしてしまったが、言いたい事は1つ。独りじゃないって事である。

 

 ストレートに伝えるには気恥ずかしくて、こんな遠回しで分かりにくい言い方になってしまったが。

 

 

 しかし、言わねば伝わらぬ。重い口を無理に開いた。

 

「あー、だからその、何だろう。死にたくないのは俺も園部と同じだからさ。怖がってる事を共有した者同士で、互いに助け合わないか? 園部が死にそうになってたら、俺は生きてる限りこの拳で助けに行く。その逆も……まァ、行けそうなら頼みたい。俺とは違って、園部は魔法の才能がある。わざわざ近づかないで、遠距離からでも助けてくれたら嬉しいんだが」

 

 言いたい事が上手く纏まらない。

 

 片方が単に助ける、助けられるだけの関係は後になって面倒事に発展しそうなので、お互いがお互いを助けるし助けられるみたいな感じが良いかなと思って言葉にしてみたのだが。

 

 難しいな、日本語。

 

 少しばかり、気まずい沈黙が訪れる。

 

 俺はただ、夜空に浮かぶ月と星を眺める。この沈黙を破る度胸までは、残念ながら持ち合わせていない。

 

「……真久野」

 

 沈黙を破ったのは、園部の方だ。

 

「何だ」

「真久野ってさ。あまり人と関わりを持とうとしないから知らなかったけど、凄く優しいんだね」

「そうかな」

「そうだよ。さっきの提案だって、随分こちらに気を遣ってるでしょ」

「さあ」

「近づくリスクを負わなくても良いから、可能なら遠距離攻撃で助けてくれると嬉しい。けど、真久野は私が死にそうになってたら駆けつけるんでしょ? さっきの言い方だと」

「まあ、そうだな」

「ほら、優しい」

「褒められるような事はしてない。俺は魔法に適性がないから、この足で駆けつけて拳でぶっ飛ばすしか手段がない。それだけさ」

「だとしても、自分側の方が大きいリスクを負う提案をする? 私は正直無理だよ」

 

 何故かクスクス笑ってる園部。そんな笑う事なのだろうか。

 

「無意識?」

「深く考えちゃいない。互いに出来そうな事を提案しただけのつもりだ」

 

 一向に園部が笑い止まない。解せぬ。

 

 無理に接近してリスクを負うより、遠距離攻撃の手段があるならそっちを優先して使うべき。特に死角からの遠距離攻撃は、どんな相手にも有効打に成り得る。そう思っただけなのに。

 

「変だったか」

「ううん、変ではない。けど、何だろう。さっきの真久野の言葉は、こう、心の奥が……」

「奥が?」

「……やっぱ何でもない」

「おい何だそりゃ。気になるだろうが」

「いつか教えるよ。けど、今はまだ言えない」

 

 うーん、何だかモヤモヤする。教えてくれないのか。

 

 だが、無理に聞き出す必要がないのもまた事実。いつか教えてくれるらしいし。

 

 俺は、これ以上の追及を諦める事にした。

 

「ふう。真久野と話して、ちょっと心が軽くなったかな」

「そうかい。そいつは良かった」

「真久野は? 私と話していて、少しは楽になった?」

「楽になったと思う。変に抱え込むより、こうして発散した方が良いみたいだ」

 

 そう言うと、園部がまた笑い声を零した。

 

「ふふ、そっか」

「笑う要素あったか?」

「早速助け、そして助けられの提案を実践できてる気がしたからさ」

「……あー、言われてみれば」

 

 園部は、俺と話していて心が軽くなった。俺も、園部と話している内に気持ちが楽になった。

 

 うん、確かに実践してるな。完全に無意識だけど。

 

「この調子なら、明日からも実践できそうだね」

「だなぁ。良い傾向だ」

「じゃあ、もう約束にしちゃおう。明日から、お互いに助け合うって。その方が記憶に残るよ」

「園部がそうしたいなら、そうするかぁ」

 

 今度は、2人して軽く笑い合った。

 

 了承も何もしてない。ただの提案のつもりだった。

 

 しかし、気がつけば星空の下で交わした約束となっている。

 

 この感じなら、確かにこれから実行される。そんな気がした。




 ちなみにこの後、園部さんのおねだりで手を繋いでマックくんは部屋の前まで送ってから自室に戻りましたとさ。

「何か幸せそうな顔してるな、ハジメ」
「真久野くんこそ」

 チョロイン+精神的に参ってた+深夜テンション+王都郊外戦で戦ってた勇ましいマックくんとのギャップ。落ちたな(確信)

 なお、この後ベッドで我に返った模様。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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