異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
それと今回はとにかく会話文が多いです。普段とはおそらく逆転してます。
ハジメは表情を全く変えないまま、メルド団長の手当てをしていた白崎の元へ赴いた。
「香織。メルド団長の容態は?」
「何とか持ち直したよ。結構ギリギリだったけどね」
「それは良かった。この人は、まだ死ぬべき人ではないからさ……」
「だね。変なのが後釜に座ったらと思うと背筋が凍りそう……」
ああ、その通りだな。一応、変なの筆頭のイシュタルは俺と優花で抹殺しているのだが、単なる細胞の一部を焼き払ったに過ぎない。残念ながら、イシュタルのような危険思想を持つ人間は、この世界には数えられないぐらいに存在しているのだ。奴を殺したところで、思想を継ぐ者が現れるだろう。
で、だ。仮に危険な思想を持つ輩が後釜に座ったら、クラスメイトにもその思想が移ってしまう可能性がある。それはなるべく避けたい。
なお、ハジメの言葉によって、白髪の美少女が白崎香織である事が確定したのを悟ったクラスメイトは、口々に騒ぎ出した。まあ、かなり雰囲気が変わってるからね。この場に降り立ってから、彼女は一言も発してなかったので、断定まで時間を要したのも納得できる。
言伝に知っていた勇者たちもショックが大きそうな反応をしている。唯一、八重樫はそこに至るまでの苦労を察したのか、泣きそうな顔で白崎に飛びついたが。
「あ、雫ちゃん! ごめん、治療も出来なくって……」
「そんな事どうでも良いわよ。 ……無事で、本当に良かった」
「……うん。いっぱい心配かけてごめんね。でも、何とか元気にやってるよ」
顔をくしゃくしゃにしながら、何度も頷く八重樫。やっと。やっと、心の中に巣食っていた重石が取り除かれたのだろう。
白崎と八重樫の時間を邪魔しないようにその場を離れたハジメは、今度はユエとシアにそれぞれ感謝の言葉を伝える。
「ありがとうねユエ、シアさん。助かったよ」
「んっ」
「いえいえ! お師匠様のためなら例え火の中水の中ですよぉ!」
ここでやっと、ハジメは優しく笑みを浮かべた。それを見て、俺も一安心である。
ハジメのケアは彼女らに任せよう。俺にはまだ、仕事が残ってるんでな。
「おい南雲。お前、何で……」
「無駄に首を突っ込むな、天之河。お前、まさかとは思うがハジメの事を、ただの快楽殺人鬼だと思ってないよな? 無感情に人を殺せるマシーンだと思ってるなら、とても許せんぞ」
「……真久野。まだお前は、南雲に洗脳されてるんだな。可哀想に」
「可哀想なのはお前の思考回路だよ、クソバカが」
ハジメにこのバカが突っかかる前に、俺が先手を打って釘を刺したので、何とか接触は避けられたし、俺にヘイトを向けさせる事が出来た。
まあ、とてもじゃないが看過できん言葉が飛んできたが。
「天之河。お前の中でのハジメが、どれだけ醜いイメージで映し出されているのかは何となく理解したがな。ハジメの親友として、お前の妄想を無視する事は出来ない」
「親友なら、何故に庇うんだ! 親友が人道から外れた事をして、何で窘めるどころか肩を持てる! アイツは、無抵抗の人間を殺したんだぞ!? 殺す必要はなかった! 捕虜にすれば良かったんだ!」
「確かにあの魔人族の女は無抵抗だった。だが、それは自ら死を望んだからだ。そんな事も分からないか? それとも話を聞いてなかったか、耳が腐り落ちたか。或いは、都合の悪い情報だけはシャットアウトする、随分と可哀想な性能をしてるのか?」
べらぼうに口が悪くなる。ここまで暴言を吐く事は、普段なら絶対にない。地雷を踏み抜かれた時を除くが。
こいつには、未だ戦士としての自覚や教養が足りていないらしい。あの女は、戦士としての自覚を持っていたからこそ死を望んだと言うのに。
それに、だ。少し考えたら分かるだろう。
人間族が、魔人族を同じ人だと認めてない時点で。獣畜生と変わらない認識をしている時点で。
「よっぽど教養が足りてねえみたいだな。質問するが、天之河。敵国の女戦士を捕虜とした場合、何が起こるか分かるか?」
「いきなり何を……そんなの、条約に従って丁重に扱うに決まってるだろう」
「表向きは、な。外面だけでもメッキで輝かせておかないと、他国から非難の的になる。国の運営に影響が出る。だから、表向きは法律を遵守するだろうな。だが、実情はどうよ。これはトータスの世界だけじゃなくて、故郷で教わった歴史が陰惨たる事実があると証明している訳だが。特に、宗教や種族が絡むと一層酷くなるぞ。何せ敵は、自分たちが存在から否定している宗教徒だったり、猿以下と認識して差別している人種。同じ人間とは思っていない。さあ、ここまでヒントを出しても分からないか?」
「ま、真久野」
いつの間にか、結構な数の人が俺たちの周りに集まってきた。その中には、白崎と手を握っているハジメの姿もある。
「メルド団長から何も教わらなかったのか? 今は亡き者のイシュタル教皇から、魔人族についての認識を聞いてはなかったのか? 何も感じなかったのか? どうなんだよ、魔人族と戦争すると決めた勇者。世界を、クラスメイトを救ってみせると息巻いていた勇者さんよ。戦争するならば、人をいつか殺さねばならない事を見落としていたハリボテ勇者! 答えてみろ。さあ、答えてみろよ。殺さなかった場合、何が起こり得るのかを。なあ、黙ってちゃ何も分からねえぞ。それとも何だ、相変わらず都合の悪い言葉は受け付けないってか? 理解を拒んで時が経つのを待つクソガキの真似事か? おい、どうなんだよ答えろよ!」
ジロリと天之河を見やる。奴は、ずっと口をもごもごさせたまま言葉を出さない。
少し様子を見ていたが、このバカはもう言葉を返さないと判断した俺は、急速に興味を失ってハジメのところへ向かった。サッサと戻って、旅に戻ってしまおう。無事に生きているのが分かれば、もう依頼達成だろ。
俺の後ろ姿を、天之河も追っている。当然その眼には、白崎と手を繋いでるハジメの姿も映る。
突如、後方の空気が爆ぜた。
俺の目の前を、天之河が通り過ぎて。そのまま、ハジメに向かっていく。
「南雲ぉぉお――!」
「ごめん香織、少しだけ離れてね」
ハジメは全く焦る事なく、白崎から手を離して天之河を迎え撃った。
多分、ハジメより俺の方が焦ってる。まさか、俺に言い返せないからって、ハジメの方へ行くとは思わなかったのだ。
一応、バカの脳内では俺も守るべきクラスメイトで仲間。そんな俺が、こんな酷い発言をするはずがない。ついでに、幼馴染の香織があの南雲と手を繋いでいるのが許せない。それもこれも、全部南雲が洗脳したから。こんな感じか? 何にせよ、予想は出来ても防げるかクソッタレ!
「お前、お前が悪いんだ! この悪鬼め!」
「……その根拠は?」
「誤魔化すなっ。お前が洗脳したんだろ! 真久野が、俺の仲間があんな物言いする訳がない! 香織だって、お前なんかと手を繋ぐはずがないんだ! 全部、全部南雲が洗脳したからなんだろ、そうだろう!? そうだ、恵里と檜山が姿を消したと思ったら、フューレンのギルドで拘束されていたのだって、全て南雲がっ!」
「さてはバカだね。それか呪いか、病気か」
冷静だ。怖いぐらいに。
ボクサーのように頭を振り、足を動かしながら攻撃をハジメは躱していく。その動きには全く迷いがない。
聖剣の斬撃を最初はパーリングで相殺する事が多かったが、それもすぐに最小限のスリッピングのみに変化した。完全に攻撃を見切った証拠だ。
だが、ハジメはカウンターを返さない。ひたすら躱す、躱す、躱す。
「君さ、本来ならあの人を殺せたでしょ。あれだけの魔力量なら、塵のように排せたよね。でも、殺さなかった。いや、殺すのを拒んだ。何故か? 君が人を殺す覚悟をしてなかったから。人が死ぬ様を見たくなかったから。戦争をすると決めた張本人なのにね。しかし、君が出来なかった事を、よりによって僕がさも容易くやってのけた。その八つ当たりをしてる。それだけだ」
「黙れ犯罪者っ、勝手な事を言うガハッ!?」
「――黙って聞きなよ。僕が、今は喋ってる」
初めて返した反撃は、天之河の腹部を強烈に穿つヤクザキックだった。マトモに受けて顔を落とす天之河に、ハジメは下から覗き込むようにしながら人差し指を立てる。
「マックくんや、フューレン支部のイルワさんから色々聞いてるよ。よっぽど僕が嫌い、いや憎いみたいだね。だから、僕が香織やマックくんたちを洗脳したと言い張って、ギルドの方にも根回しを行った。仮に生きていても、すぐに捕縛されて処刑されるように仕組んだ。でも、残念だったね。僕はこうして生きてる。それどころか、君にとっては大事な大事な幼馴染である香織の心を完全に射止めている。洗脳なんかせずに。心の中では分かってるんでしょ? 僕は〝無能〟だから洗脳する魔法なんて使えないって事が。それを信じる人が出たのは、君が勇者だったから。それだけの話だ。全く、無能はどっちだろうね」
「――黙れ」
「断る。さて、話を戻して人殺しの件だけど。日本に帰るため、ひとまず戦争をして魔人族を滅ぼすと決めた君らと同じで、僕も人殺しをする覚悟を決めた。日本の法が全く通用しないこの世界で、大切な者を守るためならこの手が鮮血で濡れようと構わないと決めたんだ。それが許され難い罪だと分かっていても、日本に帰った時に両親に恐れられようとも。 ……同郷の人間が立ち塞がろうとも、だ。それでも、最後まで戦うとね。それだけ、帰りたいんだよ。日本に」
ハジメの覚悟は、この場で聞いている誰もが慄く程に、凄まじく重たい物であった。
息を呑んだのは、一体誰なのか。1人や2人じゃないのだけは分かる。
理解してない。いや、理解を拒んでいるのは、天之河だけだった。
「黙れと、言っている!」
図星を突かれて、反論できなくなった奴が取った行動は、八つ当たりの継続である。
体力は尽きていたと思うのだが、勇者だから回復力は並じゃないのだろう。少しずつ、しかし確実に動きのキレが良くなっていた。
「そうやって耳触りの良い言葉を並べて、香織を洗脳したんだろ! 真久野たちも唆して、危険な場所に連れて行ったんだ! 全ては、自分が欲しいと思った人物を手中に収めるためにな! 俺は騙されないぞ!」
「なら、君はどうする? 守ると散々嘯いていたクラスメイトを手に掛ける? 僕みたいに」
「んなっ!? な、南雲……お前クラスメイトまで殺したのか!?」
「清水幸利を、僕は殺した。魔人族側に寝返って畑山先生を殺そうとしたのを、偶然止めた結果だけどね。最初は慈悲で更生の機会を与えたけど、彼はダメだったのさ」
「クソ、何故、どうして早まったんだ! クラスメイトだろ! それに仲間だろ! それを、どうしてそんなに早く見捨てて……!」
「彼を含め君たちが仲間か正直怪しいけど、まあ良いや。それと逆に聞くけどね。更生を信じて許したクラスメイトによって、自分にとって命を投げ打ってでも守りたいと思っていた人が、あわや尊厳を散らしたかもしれない場面を見て、それでも信じられる?」
「それはっ……! 俺なら、それでも信じる! 更生を信じるさ、お前と違ってな!」
「いいや、違わない。僅かに言い淀んだね。大切な幼馴染がそんな風に襲われる事を、君は是としないんだろ。怒髪天を衝くだろ。僕はその後、捕縛して民衆の前で裁判を開き、最後のチャンスを与えたけどね。君は、その場で衝動的に殺してしまうんじゃない? 後悔するか、それとも都合良く……あれは人間じゃないとか解釈するのか分からないけど」
天之河の顔が、憤怒一色に染まった。
それを見たハジメが、何やら薬のような物が入った試験管を投げ渡す。
「飲みなよ。魔力と体力が回復するから」
「毒だろ! ふざけるな、何処までも愚弄して……!」
「なら、今の状態で勝てるとでも思ってるの? 1発も攻撃が掠りもしないのに? やるなら全力で来なよ。相手してあげるから」
一層憤怒を滾らせ、更に憎しみを爆発させる天之河だが、全快でなければ勝てない事だけは認めたらしい。
薬を一思いに飲み干すと、奴の身体から神々しい純白の魔力光が溢れ出した。
「止める。止めてみせる! お前の愚行を、絶対に!」
「やってみせろ、ハリボテ勇者」
「ッ――! 行くぞ、〝覇潰〟!」
上層階でも感じ取れた、あの魔力が天之河から爆発的に広がる。
背後から天を衝くように立ち昇る魔力光は、まるで太陽のフレアだ。
だが、その魔力光が急速に小さくなる。
ハジメを中心に紅色の波動が広がった瞬間に、俺ですら本能が警鐘を鳴らすレベルのプレッシャーが放たれたのだ。
悠然と佇むハジメ。息を荒くする天之河。
「どうした。止めるんじゃなかったのか?」
ピクリとも表情を動かす事なく、ハジメは天之河に問う。
それでも動かなかったので、軽く首を横に振りながらハジメが歩を進めた。
距離がどんどん縮まるが、それでも天之河は動かない。呼気を荒くするだけだ……いや、詠唱しているのか。ブツブツとしか聞こえなかったが、徐々に聖剣に光が集っていく。しかし、詠唱を終えて口を閉じても天之河は動かない。魔法を撃てる状態になっても、動かない。
一足一刀より内の間合いになっても、やはり天之河は動かなかった。
だが、拳がもう届く距離になった瞬間に、ハジメから放たれていたプレッシャーがほんのり弱くなった。それによって、天之河が目に憎しみを宿しながら聖剣を振り上げる。
「〝神威〟!」
勇者最大の必殺魔法〝神威〟を、奴はハジメにぶつけようとする。〝限界突破〟より上の倍率が掛かっているように見える状態で放てば、その余波で周囲の人間にも被害が行くかもしれないのに。全く周りを見る事なく、天之河は大上段に構えた聖剣を落雷の如く振り下ろそうとする。
ハジメはそんな天之河を、実に冷ややかな視線で射抜いた。
一瞬にも満たない時間で、ハジメの右拳が紅色のスパークに包まれる。
左足を大きく踏み出し、上体を地面スレスレまで沈めて。腰の回転運動によって発生したエネルギーと、強烈に地面を踏み抜いた際に生まれる上昇エネルギー。そして寸分の狂いのないタイミングで上半身の筋肉を総動員して発生した爆発的な破壊の力を、全て右拳に乗せて。天之河の装着する防具に向けて、天を衝くように振り上げた。
ドパァン!!!
「K.O.アッパーか、あれ……」
とても拳が着弾したとは思えない轟音。次いで、天之河の身体が大きく上方向に弾き飛ばされる。
これまで、真似を試みたボクサーが長期離脱を余儀なくされた報告ばかり聞いていた必殺ブローのK.O.アッパーを、ハジメは見事に再現して見せた。
吹っ飛ばした辺り、破壊力を100%天之河に伝えた訳ではないらしいが、むしろそれで良い。仮に衝撃を逃がさなければ、防具越しだろうと関係なしに死ぬのだから。
ややあって地面に落ちた天之河は、取り敢えず死んでないようだった。気絶はしているし、勇者専用装備である鎧は〝錬成〟の効力もあって酷く損傷していたが。
「いっててて……これ放置してたら明日は筋肉痛だね。マックくんってこれを自在に打てるんでしょ? 凄すぎるよ、相変わらず……」
天之河を容赦なくぶっ飛ばしたとは思えない、非常に優しい声音で軽い言葉を口にするハジメ。
関心と、尊敬と、ほんの僅かな恐れを同時に感じる。これが、南雲ハジメか。
「改めて、早くここを出ようか。ミュウも待たせてるし」
「……だな」
自身が開けた穴を利用して、最短距離で戻るハジメを俺は追いかける。その後ろを、クラスメイトたちが追従しているが、それは無視した。
強くなりたい。かつてそう願ったハジメを鍛えたのは、この俺である。
強くなるキッカケを与えたのは、間違いなく俺だ。
しかし、ここまで強くなれる物なのか。
これでまだ未完成と言うのだから恐ろしい。一体彼は、どこまで強くなるのだろう。
俺も負けてはいられないな。久しぶりに、張り合いのあるライバルが出てきた。
「……ボンヤリしてたら抜かされるな」
「え、何か言った?」
「もっと俺も鍛錬しなきゃと言ったんだよ。遂に必殺技まで覚えられちゃったしな。また新しく、当面は真似できない必殺ブローを作ろうかね」
「うげ、勘弁してよ。ただでさえK.O.アッパーだって覚えるの大変だったんだから。このステータスになっても、翌日は筋肉痛を確信するレベルって難易度ルナティック超えじゃない?」
「普通は覚えられないし、筋肉痛で済まないけどな」
仲間を除き、背後のクラスメイトたちから刺さる視線は、恐れと妬みを感じさせる物であった。
ハジメぐらい、弱い自分を殺す気で努力すりゃ良いのにね。
まさかのメルド団長は勇者(笑)の暴走を止められず。原作の倍は凄まじい言圧を受けてるし、考えるより先に手が出るのもぶっちゃけ仕方ない気もする。
なお、唯一無二の親友が見た事ないぐらいキツイ言葉ながらも自分を庇ってくれた事もあり、ハジメくんの勇者(笑)に対する怒りは原作以上です。
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