異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
自ら狂いながらも正気を保っているのがハジメくん。
それを眺める、自分を一般人と思い込んでる超狂人がマックくん。
迷宮の外へ出るまでの間も、全く気の休まる瞬間がなかった。
まず、ハジメと天之河が激突した段階で意識を取り戻したメルド団長から、凄い勢いで頭を下げられたのだ。
「教育係でありながら、俺は選択を誤り続けた。魔人族と戦争するならば、必ず人を殺す日がやって来る。時期を見て、適当な賊をけしかけるなりして、人殺しを経験させようと思っていたが……情が移ってしまったばかりに、後に後にと回していって。その結果、こんな事になってしまった。本当に、本当に申し訳ない……!」
焦ったのは他のクラスメイトである。だが、それを止める権利がないと分かっているようで、アタフタはしつつも静観をしている。
同時に、また生きているハジメと白崎をこの目で見られて、男泣きに泣いていたのも付け足しておこう。苦笑いしている2人が印象的であった。恋人同士、似た表情になるのかねぇ?
次に起こった面倒事は、下心を隠そうともせずにハジメの嫁候補へ話しかける男子生徒だ。
特にシアに対してアプローチを仕掛けるアホ共が多く、全く相手にされなくてもどこ吹く風。やがてシアのウサミミに無断で触れようとしたバカが現れた。
その瞬間、シアの華麗な左ジャブからショートフックで男子生徒の顔面を叩き潰したので、これまたちょっとした騒ぎになったのである。
「私、お師匠様以外の殿方に興味はありません。2度と近寄らないでください。気持ち悪いです」
マジトーンかつ据わった目で言葉を口にするシアは、俺でもちょっと怖く感じた。それと同時に、ひ弱とされる兎人族でありながら凄まじい心強さであると再評価もしたが。
本職の俺も惚れ惚れするハジメ式ワン・ツーパンチだったと思うわ。ナイスブロー。
なお、呆気なくカウンターを取られて撃沈した男子生徒は、そこから追加でハジメからの魔王スマイルも授与されて無事に気絶した。
魂魄魔法が使える俺には、男子生徒からヒョロヒョロと抜けていくエクトプラズムが見えたが、知らぬ存ぜぬである。
気疲れしながらも何とかオルクス大迷宮の外へ出ると、今度はハジメの愛娘が出現。人目を憚らず「パパぁー! おかえりなのー!」と飛び付く。
ハジメは全く動じる事なく弾丸のように突進するミュウを受け止め、慈愛に満ちた表情を浮かべながら頭をナデナデ。うーん、家族団欒ほのぼの。素晴らしい。
「ミュウ、どうしたの? ティオお姉ちゃんは?」
「お姉ちゃんがもうすぐパパが帰ってくるから迎えに行こうって言ってくれたの! ティオお姉ちゃんは……」
「妾はここじゃよ」
人混みをかき分けてティオが姿を見せる。妙齢の美女の出現に、クラスメイト含む一般人がザワザワするが、ハジメは全く気にしていない。
「ティオさん、こんな人混みで離れちゃダメじゃないですか。ミュウが迷子になったらどうするんです?」
「なに、目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」
「あー、なるほど。ならまずは感謝だね。ありがとティオさん。で、しっかり排してくれた?」
「無論じゃよ。誰の仕込みを受けていると思ってるのじゃ。ふふ、それにしても相変わらず甘々じゃの〜」
その言葉に何とも言えない笑みを見せるハジメ。本当に子離れ出来るのだろうか。
それにしても、ミュウも本当に巻き込まれ体質だな。現在は不用意に海人族である事を隠すべく、公衆の面前ではフードを被っているのだが、そこから覗く顔立ちが非常に可愛らしいので、バカな事を企てる連中が現れるようである。
まあ、魔王様の庇護下にある以上、企みが成就する事はまずないのだがな。
いきなりハジメを「パパ」と呼ぶ幼女が現れたので、クラスメイトの情緒は大変な事になっているが、取り乱す連中が居ないのが救いだろうか。下手に勘違いして、ハジメの人間としての株や社会的評価が下がるようなら、俺は実力行使も辞さない。
「あ、ロア支部長。来てたんだ」
「どうせ騒ぎを起こすと思ってな。あの2人と一緒に来たんだよ」
「ナイスタイミングだしナイス判断。サッサとここを出たかったからさ」
超ファインプレーを決めてくれたロア支部長のお陰で、すぐにでもホルアドから出る事が出来そうだ。
一刻も早くクラスメイトとお別れして、大火山にあるとされる大迷宮攻略と、ミュウの送還に戻りたかったので、これは非常にありがたい。
ササッとその場で依頼達成の手続きを終わらせると、俺はロア支部長に頭を下げてからハジメの所へ戻った。
「すぐにでも出られるぞ。ロア支部長が来てくれてさ。依頼達成の手続きも終わったから、今からすぐにでも旅に戻れるぜ」
「あ、ホントに? じゃあ出発……ああいや、ちょっとだけ待っててくれるかな」
ハジメは抱っこしていたミュウを地面に下ろすと、未だ気絶中の天之河を介抱している八重樫の所に、白崎と共に向かった。
元々、ホルアドで動く事を決めたのはハジメである。最後の最後まで、俺はハジメがしたいようにすれば良いと思っているので、その行為を咎めはしない。
「八重樫さん。僕たち、そろそろ旅に戻るよ」
「あら、そうなの? ゆっくりして行けば良いのに……いやでも、私が止める権利はないわね」
「雫ちゃん。本当なら、雫ちゃんも連れて出発したいんだ。でも、さ。もし雫ちゃんまで居なくなったら、暴走する光輝くんを止められない気もして……だから、ごめんね」
「気にしなくて良いし、謝らなくて良いのよ。香織はやっと、念願叶って南雲くんの隣に立てるようになった訳だし。それに対して、光輝が口を出す権利はないって、目が覚めたらしっかり言い聞かせておくわ。2人は気にせず、自分の道を進んでちょうだい」
ハジメと深い仲になってから、白崎にとっての天之河の存在はただの幼馴染であるから、元々興味はないのだろう。しかし、今回の暴走具合を見て、放っておく選択も難しいと判断したようだ。
苦渋の決断だろう。何とかしてあの暴走機関車から引き離したいだろうに、しかしストッパー役は八重樫にしか務められないのだから。
ハジメもそれを分かっているようで、苦笑とは違う何とも言えない表情を浮かべた後に、指輪から何かを取り出した。
「八重樫さん、これを良かったら」
「え、これって……日本刀?」
「世界で最も硬いとされる鉱石で作った物だよ。厳密には日本刀モドキ。構造を何となく理解はしてるけど、流石に玉鋼なしじゃこれが限界だったんだ。一応、素人が振り回しても岩石ぐらいなら両断できる斬れ味はあるよ」
「一応ってレベルじゃないと思うんだけど……?」
そうは言いつつ、八重樫は何処か嬉しそうだ。まあ、彼女が扱う剣術と、この世界の剣とでは噛み合わがあまり良くなかったので、それが解消される喜びはあるのだろうが。あの笑みは、単に刀を貰って嬉しいだけの物ではない。
俺は片眉を上げた。優花も何か気が付いたようだ。
そうこうしてる内に、ハジメが俺たちの所へ戻ってきた。
「この女性キラーめ」
「え、ちょ、ええ!?」
「ふふ、ハジメくん。雫ちゃんにもハジメくんの良さが伝わったみたいだよ?」
「ちゃんと責任取れよな、お前」
まあ、彼なら大丈夫だろうけど。
賑やかなホルアドから出て、静かな荒野に足を踏み入れた俺たちは、ハジメの繰る四輪に乗り込んだ。
濃い寄り道になってしまったが、支障はないから良いだろう。
旅の再開だ。
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道中の夜、車内にて。
「で、いつ想いに応えるんだ?」
女性陣が眠りにつき、背後には優奈が出現したぐらいの時刻で、俺は難しい顔をしているハジメに問うた。
優奈も背後で、そうだそうだと頷いている。日によって視認できるか変わるだけで、ハジメたちの動向は彼女もしっかり見ているらしい。
「本当にどうしようか、ずっと悩んでるんだ。日本人的感性からすれば、1人に絞って残った人は残念ながら……って。でも、この世界に来てから僕の日本人的感性は、徐々に死につつあるみたいだ」
「つまり?」
「魅力的すぎる全員を娶りたい」
「ほーん」
何ともまあ。確かに彼の言うように、日本人的感性は死滅してるようだ。
だが、それに対して嫌悪感を抱く事はない。
「魅力的すぎて、全員が好きになってしまった以外にも理由があるんだろ? そう思うだけの」
「まあ、ね」
苦笑を浮かべながら、ハジメは理由を口にする。
「怪物に変わっていく僕を、それでも受け入れてくれたのが彼女たちだ。理解者って枠組みを超えた、もっと大切な何か……と、僕は思ってる。それが離れていくのが、どうしても怖いんだよね」
「怪物、か」
「何ともまあ、自分勝手だなと思ってる。愛情が存在しているのも確かだけど、深層心理はこれだ。嫌になるよ、ホント」
誰よりも正気だが、自覚ありで誰よりも狂っているのがハジメだ。聞く人によっては狂気と思わせる凄まじい決断を下しながらも、心の奥底ではどうしようもないジレンマを抱えた自分の感情に悩んでいる。
「それでも、良いんじゃないか?」
それでも俺は、ハジメに対してこう答えられる。
「内に潜む感情が何であれ、毒にも薬にもなるぐらいに甘く深い愛情を、皆に同じ量だけ注げるのがハジメだ。誰か1人でも不幸になってるなら熟考する所だが、現実は良い意味でそうじゃない。ハジメを含めて、皆が幸せそうに笑えてるように俺には見える。なら、別に良いんじゃないかと俺は思うがな」
結局、幸せかどうかが重要なのだ。
周囲の目とか、法律とか。倫理観、誹謗中傷と、気になる事は多くあるだろう。
しかし、だからどうしたと俺は言いたい。
当事者が、誰も不幸になっていないならそれで良いだろう。それ以上に何を望む。
仮にハジメの愛情を、ただの依存だとか拒絶されないための保険だとか口にする奴が居るなら、この俺が直々にぶん殴ってやる。
そのぐらい、南雲ハジメと言う人間が持つ〝愛情〟は深く、そして甘い。
同時に不器用だから、全員を切り捨てるか等しく愛するかの2択になってしまうんだろうけどね。
「逆に問うがな。お前は、自分を慕ってくれている人たちを突き放したら、どんな大惨事になるか分かってるか?」
「大惨事……」
「納得はするだろうな。ハジメの決めた事だからと言って。それで、影で彼女たちが泣くのをお前は黙って見ていられる性格じゃないだろ」
随分ボカシた表現をしたが、ハジメには無事に伝わったようだ。
異世界で知り合った人に関しては、皆が等しく心に深い闇を抱えているから、ハジメから拒絶されたら生きていけないのではないだろうか。無論、それは白崎も同じであるが。
「覚悟はあるんだろ? 踏み切れないだけで」
「……うん。どんな方向に転ぼうとも、責任果たすつもりだよ」
「なら、突き進め。ハジメがどんな選択をしても、俺は否定しないさ。俺は、全力で応援する」
俺の言葉を聞くと、ハジメは深く何かを考え出した。
邪魔はしたくないので、俺は静かに四輪の外へ出る。
魂だけの存在らしく、扉を使わずに壁をすり抜けた優奈が、星を見ようとした俺の前にフワフワ浮かんだ。
――凄いね、あの人
ああ、本当にな。
――ケン先輩とは別ベクトルでね
俺は偉人じゃない。ハジメみたいに、複数人を同時に、隔たりなく愛情を向けるなんて出来ないさ。
――全く目移りせず、1人だけ愛するのがどれだけ大変か知らないでしょ
なんだ、優奈は違ったのか?
――私はまず、魅力的な男性は先輩しか知れなかったよ
そいつは悪かったな。
じゃあ、他に魅力的な男が現れたらそっちに目が行ったのかい?
――全く。でも、辛かったと思うよ
好きで好きで、好きすぎて堪らなくて。苦しくなっちゃうんだもの。
そう優奈は、魅力的な笑みと共に言葉を返すのだった。
まあ、ヒロインは基本的に変わらない予定ですからね。優花っち以外は。今回は完全にサムライガールのためだけに助けに来たと明言されてますから、彼女のドツボをバッチリ突いてます。完全に白馬の王子様ムーブ。
原作では錯乱する香織さんが既にハジメくんの所に居るので、「子ども作ったの!?」事件から連なる決闘(笑)もカット。人攫いをする賊も魔王に調教されたドラゴンがバッチリ処分済み。
原作でも心に抱えた闇として暴露された、怪物と化した自分を両親が受け入れてくれるか分からない恐怖。そして恐怖を緩和するべく、自分を慕ってくれている人に依存していると言う部分は、本作でも変わらず……むしろ強くなってるかも。
マックくんの新たな恋人候補
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〝初恋枠〟優奈ちゃん
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〝妹枠〟ルウちゃん
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〝大穴枠〟恵里さん
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ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
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アルテナを始めとする亜人族の皆様方
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〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々