異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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正規ルート、ただし爆速

 マグマによって深い紅蓮色に彩られた大迷宮内を切り裂くようにして、俺たちはどんどん足を進めていく。

 

 途中から数えるのが面倒になったので正確な数値は不明だが、現在地は多分きっと50層過ぎぐらいだ。

 

 優花の援護をフルに受けた上で襲い掛かる、バケモノ染みた近距離アタッカーが2枚。マグマから現れる魔物たちの方が気の毒になるぐらい、凄まじいスピードで文字通り轢き潰されていく。

 

 無論、静因石の回収も抜かりない。通りすがるついでに俺が回収した物もあるし、優花がナイフを繰って大量に取り出した物もある。これだけあれば、当面の間はアンカジも大丈夫だろうと思わせるぐらいの量は確保できた。

 

 必要分手に入ったら、後はもう大迷宮を攻略するだけだ。

 

 流石に動き続けていると、いくら気温調節機能があるスウェットを着ていても汗は吹き出てくる。しかも、下へ行けば行くだけ気温は上がっているようで、遂には気温調節機能を貫通して熱気が届くようにまでなった。サンドマンまでもが額に浮かぶ汗を拭うようになったので、相当凄まじい物である事が分かる。

 

 ハジメたちには、可能な限りで良いから暑さを凌げる装備を大量に生産しておけと言うべきだろう。気温調節機能があるスウェットを着てこれなのだ。何もなかったら、一瞬にして脱水症状を引き起こしかねない。

 

 さて、現在俺たちは、毛細管現象の如く細いマグマの筋を這わせた石造りの門を通過して螺旋階段を下っている。反対側には洞窟もあったのだが、ずっと宙に浮いて移動する事になりそうだったので、早々にそっちへ向かう事は諦めた。

 

 途中で襲ってくる、壁の隙間に隠れていたであろうマグマを身に纏ったコウモリを、俺とサンドマンが見つけ次第衝撃波を飛ばして消し飛ばしていく。俺たちの対処が間に合わない場合は、優花が爆裂式が刻まれたナイフを投擲して数匹まとめて粉砕する。ここまでで特に危険はない。

 

 問題は、階段を下り切ってから足を踏み入れた球体空間にて発生した。

 

「あれは……」

「マグマのトカゲ、と言うべきか」

 

 サンドマンの言葉通り。俺たちの目の前には、全長30メートルはありそうな巨体を持つトカゲがいた。無論、マグマを身に纏っている。

 

 空間には向こう岸へ行けるように一本橋があるのだが、トカゲはそこを舐めるようにして通過したり、周囲にあるマグマを尻尾らしき物で叩いて飛沫を橋に落としたりしている。

 

 まずは奴を打倒するべきかと考えるが、すぐに俺は考え直した。

 

「これ、打倒が目的じゃねえな。あのトカゲの攻撃を何とか躱しながら、向こう岸へ行くって試練だろ」

「……根拠は」

「仮に打倒が目的なら、向こう岸は何かしらの形で封鎖される。だが、それが見受けられない。根拠としては十分だと思うが?」

「そうか。 ……どうやって突破する」

 

 俺は黙ってオスカー作の籠手を装着。何度か〝聖絶〟を展開してから、真っ直ぐに向こう岸を指差すと、サンドマンはどうやって突破するのかを理解したらしい。それ以上は口を開かず、前を見た。

 

「優花」

「はいはい」

 

 出現したのは数えるのが億劫になる量のナイフ。それらが俺たちの周りを衛星のようにグルグルと周回する。まるでバリアみたいだ。

 

 俺は優花を背負い、マグマトカゲの動きを注視する。橋から完全に奴が離れる事はないだろうが、それでも突破ができるだけの隙は必ずあるはず。試練なら尚更だ。大迷宮の試練はアホみたいな難易度ではあるが、決して不可能じゃない。

 

 ジッとトカゲを見ていると、やがて俺はトカゲがある程度の規則性を持って動いている事を見抜いた。予想通り、橋から奴の身体が完全に離れる事はゼロだが、比較的手薄になる瞬間と言う物が確かにある。

 

「……行くぞっ!」

 

 クロスアームブロックの体勢を取りながら、俺は爆発的なスタートを切った。ほんの一瞬だけ遅れて、サンドマンも俺の後ろを追従する。

 

 尻尾が橋に叩き付けられた瞬間にスタートを切った事で、マグマトカゲの反応がほんの僅かだが遅れた。質量が伴った叩き付けってのは確かに強力だが、炸裂後に攻撃を行った部位がどうやっても弛緩する欠点もある。異世界ならその常識を覆してくる可能性もあったが、流石に単なる試練を与えるためだけの魔物に、そこまで高度な事をさせる解放者ではなかったようだ。

 

 本来なら、ここを通るだけで大変な苦労をするだろうって事はこの際置いておく。俺たちはこの世界にとってのイレギュラーなんだ。何があってもおかしくないだろ。

 

 さて、反応がほんの僅かに遅れたとは言え。流石は大迷宮の魔物と評するべきだろうか。トカゲは尻尾での攻撃から、すぐさま大量の牙が並んだ龍の口みたいな場所からの火炎放射に切り替えてきた。

 

 だが、そいつは想定内。対応できる。

 

 ただ俺たちの周りを旋回していたナイフたちが、瞬く間に風車のような陣形へ変化。そして凄まじい風切り音を立てながら高速回転する。

 

 火炎放射とナイフたちがぶつかり合う。火炎放射の勢いはかなりの物で、ナイフたちが回転する事で起こす暴風を受けても押し返される事はなかった。しかし、従来の威力と比べれば大幅に劣っているのもまた事実。奴の火炎放射が、ナイフたちを突破する事は叶わない。

 

 火炎放射での突破が無理と悟ったのだろう。マグマトカゲは口を閉じて火炎放射を止めると、今度は巨体に見合わない俊敏な動きでこちらへ突進してきた。

 

 風車のような陣形を解いて散開し、各々自由に行動してトカゲを激しく切り裂くナイフたち。だが、奴の動きは止まらない。構わずこちらに猪突猛進である。

 

 障壁にぶつかるギリギリまで引き寄せると、俺はクロスアームブロックをパッと解いた。途端に発動するバリアバーストが、後を顧みないトカゲの顔面に突き刺さる。それで動きが止まった訳ではないが、確実に怯みはした。

 

「サンドマン!」

「吹っ飛べ!」

 

 サンドマンの殺人アッパーが、一呼吸の内に10発はマグマトカゲの顎に命中した。

 

 更に追い立てるようにして、優花の操るナイフが次々と喉元に突き刺さる。爆裂式が刻まれている物もあるようで、時折凄まじい爆発を起こしながらマグマトカゲを跳ね上げていき、俺たちから少しでも遠ざけようとしてくれているようだ。

 

 再度〝聖絶〟を張ると、俺は〝縮地〟を利用したダッシュへ切り替える。サンドマンもそれに追従できているので、心置きなく加速できそうだな。

 

 一気に橋を半分以上渡り、もうすぐ向こう岸へ辿り着ける……段階で、俺は前に跳びながら身体を反対方向へ向ける。

 

 距離が離れたと思ったマグマトカゲは、既に俺たちの数メートル後ろにまで迫っていた。

 

 どうやってナイフの猛攻から抜け出し、ここまで到達できたのかは分からない。だが、このままでは障壁に奴の身体が激突するって事だけは分かる。

 

「優花、先に行ってくれ」

「ちょ、ケンはどうするの!?」

「アイツをぶっ飛ばす!」

 

 サンドマンの殺人アッパーと優花の追撃ナイフでも、奴はすぐに戻ってきた。上方向はダメだ。なら、横方向に思いっきりぶっ飛ばすまで。

 

 優花を背中から降ろし、サンドマンと共に離脱したのを見てから俺は、籠手を衝撃波が飛ぶタイプへ切り替える。

 

「ガアアッ!」

 

 マグマトカゲが、まずは俺を始末してやろうと巨大な尻尾を叩き付けてきた。

 

 軌道は縦。実に綺麗なラインを描いている。これなら、カウンターは取りやすい!

 

「シュッ!」

 

 対空にはスマッシュアッパーカット。叩き付ける力よりも更に強く拳を振り上げる事で、こちらへのダメージをゼロに抑えて、かつ相手にだけダメージを与える。

 

 しかし、攻撃が弾かれて更にカウンターを取られても奴は怯まない。跳ね上げられた勢いに逆らう事なく身体を回転させて吹っ飛ばされずに着地を行うと、すぐさま真横一文字に尻尾を薙ぎ払う。

 

 怯ませなければ話にならない。もっと高い破壊力を与えなければ。

 

 横薙ぎは置き技に近いだろうか。ならば、相手の置き技に対して一方的に有利を取れるスマッシュボディフックの出番だ。

 

 拳は尻尾の先端に命中。少しだけ膠着状態に入るが、すぐに均衡は崩れて拳を振り抜く事に成功した。次いで、衝撃に耐えられなかった奴の尻尾の先端がボトリと千切れて地面に落ちる。

 

 流石に部位欠損したら痛みを感じるようで、マグマトカゲが大きく怯んだ。その隙を見逃さない。

 

 地面を踏み抜き、〝集中強化〟で威力を底上げしたスマッシュストレートを叩き込んだ。

 

 衝撃波も込みで放ったスマッシュストレートの破壊力は相変わらず凄まじく、着弾から少し遅れてトカゲの身体が猛烈な勢いでぶっ飛んでいった。

 

 俺もその破壊力による反動で後方へ吹き飛んだが、今回ばかりは逆らう必要がないので、そのまま脱力して空中を移動する。

 

 遠目に橋を何度かバウンドした後に着地して、こちらへ全速力で向かうマグマトカゲの姿が見えるが、そこからではどれだけ素早くても間に合わない。クルリとトカゲには背を向けて、ジョルトを繰り出した衝撃波で空中を加速して移動。ダイレクトで向こう岸に足をつけた。

 

 先に向こう岸へ到着していた優花に飛び込まれる形でハグされたのを受け入れながら、極力無視するようにしてトカゲの様子を見ているサンドマンと同じ方向を見る。

 

 やはり試練の内容は向こう岸へ渡る物だったようで、俺が橋から姿を消した途端に、マグマトカゲは規則性のある動きに戻った。こちらへ向かう様子は見られない。

 

「……向こうに、下に伸びる螺旋階段があったぞ」

「分かった。行くぞ」

「お前たち、まさか普段からそんな感じなのか」

「あー、まあ……そうだな。以前大迷宮の攻略をした時も、多分こんな感じだったと思う」

 

 致死性のトラップに襲われ、クッソダルい文言が刻まれた石板によって崩壊しそうだったメンタルを、器用にイチャイチャする事によって防いでいたとも言う。

 

 なお、ハジメに話したらドン引きされた。

 

 サンドマンも、ハジメと似たような表情を浮かべていた。誰でもそんな反応になるのだろうか。

 

「愛が、お前の強さの源か……?」

「多分それは正しい」

「ふむ……」

 

 微妙な表情になったサンドマンだが、しかし何かに納得した様子である。何が分かったんだ今ので。

 

 そうこうしている間に階段を下り切った。正面に再び門があり、そこを抜ける。なお、俺は優花とバッチリ手を繋いだまま。いつも通り。

 

 すると、眼前に広がったのは広大な〝だけ〟の空間である。むっちゃ広いのだが、遮断物はまるで見当たらない。ただの更地にしか見えないのだ。

 

 向こうの壁際には門が見えており、閉じられてはいない。

 

「ボスバトル……じゃ、なさそうだな。生き物の気配が全くない。何だここ」

 

 サンドマンにも分からないらしく、彼も渋面を浮かべながら思考を巡らせている。

 

 一方、優花は少しだけ考え込む仕草を見せたが、すぐに顔を上げて無数のナイフを一気に飛ばした。

 

 何事かと思いつつ、彼女が無駄にナイフを飛ばすはずがないと考え直してその動向を俺は見守る。

 

 数メートルも進んだところで何もない空間にナイフが突き刺さったのを皮切りに、ナイフはそれぞれが意思を持ってるかのように散開。何かを探るようにしながらも、確実に向こうの壁へと近づいていった。

 

 数分もすると、1本のナイフが向こうの壁にある門に突き刺さった。そのタイミングで、優花が口を開く。

 

「不可視の迷路だね、これ」

「……マジか」

「正しいルートはもう押さえたから、サッサと攻略しましょ」

 

 やっべぇな解放者と言いたかったのだが、俺の恋人の方がもっとヤバかった。本来なら手探りで進むであろう不可視の迷路を、数分で正解のルートを見つけ出してしまったのだ。

 

 これにはサンドマンも驚いたようで、らしくない表情を浮かべている。こいつ、意外と表情豊かだな。

 

「マック坊や。お前の恋人も、凄まじく強いんだな」

「いや強いのは無論知ってたけど。流石の俺も軽く恐怖を覚えるレベルなんですが。そこまで応用できるもんなのかよ」

「嫌いになった?」

「アホ抜かせ。もっと好きになるに決まってるだろ」

「ふふ、それなら後でご褒美いっぱい欲しいな」

 

 再びサンドマンが虚無顔を浮かべた。すまん、慣れてくれ。

 

 さて、ナイフによって作られた道標を目印に不可視の迷路を数分足らずで走破した俺たちは、そのまま下層の方へと風のように抜けていった。

 

「……坊や、感じ取れてるか」

「……ああ。ここまでハッキリと分かるってのは、相当な奴が待ち構えてると嫌でも認識しないとだな」

 

 下層へ近づくにつれて、どんどん強くなる強者の気配。間違いなく俺は強くなっているのだが、それでも警戒心を最大限にしなけれなならないと思わせる程の気配なのだから、サンドマンの声が固くなるのも当然と言えよう。

 

 ずっと手を繋いでいた優花も、今では短筒を手にして瞳に強い警戒心を浮かべている。

 

 階段を下り切り、マグマで囲まれた円形闘技場のような場所に出た瞬間。俺は〝身体強化〟を迷いなく発動させた。

 

 この空間に流れている異様な威圧感。それを操っているであろう主は、最低でも10メートル以上はあるミノタウロスのような姿形をしていた。全身を当然のようにマグマで包み、しかもアザンチウム製らしきアーティファクトを身に纏っているオマケ付きで。

 

 肌で分かる。こいつの強さは、かつて戦ったヒュドラと同等以上だ。

 

「……ブモッ」

 

 ミノタウロスがこちらに気がついたようで、手にしている大剣のようなアーティファクトを構えた。その構えの、何と堂に入っている事か。

 

 時間がない中で、ここまでの強者と戦うのは正直言って嫌である。しかし、戦って勝利を手にしなければ、神代魔法は手に入らないし静因石をアンカジへ持って行く事もできない。いや、来た道を戻る事も可能だろうけど。ここから地上へ戻るより、攻略する方が遥かに早いだろう。

 

 最速で、強敵から勝利を得なければならない。その難易度の高さは、言わずもがなである。

 

 だが、やらなければ。虎穴はいらずんば虎子を得ずとも言うのだ。多少の傷は致し方ないと割り切り、出し惜しみなしで戦う他ない。

 

「準備は良いな、2人とも」

 

 優花が黙ってナイフを旋回させる。

 

 サンドマンが、爆発的に闘気を高めていく。

 

「……行くぞっ!」

 

 戦いの火蓋は切って落とされた。




 横スマを上→下→微ホールド無シフトで当てると75%ぐらい入ります。汚い択ですが、ジャスガや差し返しを混ぜながらだと案外当たるしワンチャン撃墜も狙えるので、僕はたまに使ってます。何より楽しい。

 あまり二次創作では見ない……いや、自分のリサーチ不足なだけな気もしますが。グリューエン大迷宮の正規ルート攻略ですので、パトリシアお姉さんも当然登場します。あの洞窟を使ったショートカットは、錬成で即席の小舟を出せるハジメくんが同行してなかったら無理って判断です。

 なお、本来クッソ時間を使うであろう不可視の迷路は特効持ちの優花さんがいる模様。ミレディみたいに時間経過で内容が変わらない限り、迷路系は優花さんが数分で解決してくれます。

 さて、ゴリッゴリの近距離戦になりそうな次回。ようやくサンドマンも込みで暴れさせられる……!

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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