異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
ミノタウロスと激戦を繰り広げた闘技場を後にし、しばらく歩くと、俺たちはまた随分と開けた場所へ出た。
【ライセン大迷宮】の部屋と異なり球体ではなく、自然そのままに歪な形をしているため正確な広さは把握しきれないが、少なくとも直径3キロメートル以上はある。地面はほとんどマグマで満たされており、所々に岩石が飛び出していて僅かな足場を提供していた。周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば、逆に削れているところもある。空中には、やはり無数のマグマの川が交差していて、そのほとんどは下方のマグマの海へと消えていっている。
ぐつぐつと煮え立つ灼熱の海とフレアのごとく噴き上がる火柱。地獄の釜というものがあるのなら、きっとこんな光景に違いない。
その中央にポツリと浮かぶ、マグマドームに覆われた小島は、どう見ても明らかに何かある雰囲気を醸し出している。
「あれが終着駅、か」
サンドマンの言葉に、俺と優花はほぼ同時に頷いた。そう考えて良いだろう。
解放者の住処が、あの小島に存在しているはず。ならば、この空間は最終試練を課す場と考えるべきだ。
最終試練にあまり良い思い出がない俺は、警戒心を最大まで引き上げる。毎回どこかしらに深手を負うんだよな、最後の試練で。
さて、最大限の警戒心を持ったお陰なのか、俺がキッとマグマの一部を見つめた瞬間に、そこからマシンガンのように炎塊が飛来してきた。
生物の限界を大きく超えた反応速度で衝撃波を飛ばし、こちらに届くよりも遥かに手前で叩き落としていくが、何分数が多い。背後からも迫るとなれば、流石に俺1人で全てを対処するのは難しいし、何より集まっていては危険だ。
何も言わずとも散開し、各々で炎塊を防いでいく同行者たちの優秀さに内心舌を巻きながらも、俺は少しずつ前進して中央の小島に近づいていく。目に見えて試練が現れない以上、先に小島を調べてしまった方が良いと判断したからだ。空中に足場を作り出して前進しながら、止む気配のない炎塊への対応も同時に行う。
だが、小島との距離がそれなりに近くなったところで、不意に寒気を感じた俺は、炎塊を叩き落とすのではなく不規則な高速移動での回避を選択した。
その対応は正しかったようで、真っ直ぐ進もうとしていれば確実に到達していたであろう地点を、マグマで身体が構成された蛇が大口を開けて噛み付いてきたのである。
咄嗟に直進ではなく不規則な機動を取った事で、偶然ながらも回避できた事にホッとする……余裕はない。すぐさま眼下のマグマから、巨大な蛇が次々と姿を現しては俺に噛み付いてくる。
無論、その間も炎塊のマシンガンは止まらない。マグマ蛇と並行して回避をするのは、身体能力と反応速度が怪物レベルにまで跳ね上がった俺でも厳しい物がある。が、そこは優花が大量のナイフをこちらに飛ばしてくれた事で解決した。マグマ蛇からの攻撃だけに専念し、俺は目にも止まらないスピードでその場を離脱していく。
ある程度マグマ蛇たちから距離がある足場に着地すると、そこに優花とサンドマンもやって来た。どうやら、俺にマグマ蛇が攻撃をしていた間に炎塊のマシンガンは止まっていたらしい。
「ケン、大丈夫?」
「おう。取り敢えず、このマグマ蛇たちが最後の敵と考えて良さそうだぞ」
「ならば、全滅させるのみか」
俺たちが少し会話をしている間に、マグマ蛇は数をどんどん増やしていき、最終的には20体となった。俺たちを包囲するよう陣取っている辺りが実に嫌らしい。
3人で、背中を預けるようにして構える。
「現状は20体だが、実際に倒さなければいけない数は更に多くなると思うぞ。最後まで気を抜くなよ」
俺の言葉に、2人は魔力の解放を行う事で応えてくれた。うん、大丈夫そうだな。
俺の様態的に長期戦は向かないので、数分で終わらせる心づもりで気合を入れる。
マグマ蛇たちが、腹の底まで響く唸り声を上げながらこちらに襲いかかったのとほぼ同時。俺は一気に地面を踏み抜く。
どこからどう見ても身体はマグマで構成されているが、魔物の心臓部である魔石は必ず存在しているはずだ。そいつを探し出すのに、普段なら多少時間を使っただろうが、今は超強化された肉体がある。何とでもなるはずだ。
一撃がスマッシュストレートクラスにまで強化されたラッシュを繰り出せば、巨大なマグマ蛇であってもひとたまりもない。一瞬で身体を構成していたマグマが吹っ飛ばされ、その中に潜んでいた魔石までも粉砕していくのだから。
一挙3体を瞬殺し、4体目に取り掛かったところで、俺の目の前を凄まじいスピードでナイフが通過した。軽く目で追ってみると、平常運転の3割増しのスピードで高速移動を行いながら、目にも止まらない速度でマグマ蛇を切り刻むナイフ群の姿があった。
そのナイフたちを操る優花の後ろから迫るマグマ蛇を、最大出力のジョルトで真っ二つにする傍らで、サンドマンが俺と全く同じ方法で敵を滅しているのが見える。百裂打を叩き込み、瞬時に魔石までも破壊する手法を取っているようだ。流石は俺が認めたボクサー。考える事は同じか。
少しの間は、マグマ蛇は魔石を破壊したと思ってもすぐさま新たな個体が姿を見せていたので、一向に数が減っている感じはしなかった。だが、それもほんの僅かな間だけである。1分もすると、新たに姿を現すマグマ蛇が徐々に減ってきた。
「これで40体。多分、残り10体じゃないかしら」
凄まじい殲滅スピードでありながらも、正確に撃退数をカウントしていたであろう優花の言葉を信じて、再度気合を入れ直す。あと一息だ。
ラッシュを止め、単発で魔石を打ち抜く方向にシフトチェンジする。数が多い時は面制圧に長けたラッシュが最適解だが、残りが少ないなら一撃必殺スタイルの方がスタミナ消費が抑えられるだろう。
「1番、5番、2番……心臓!」
マグマ蛇の身体の部位を番号で振り分け、的確に魔石を砕き始めたサンドマンにマイク・タイソンの面影を感じながら、俺はここまでの戦闘で割り出した魔石の位置にホールドスマッシュストレートをぶち込んでいく。
常に変わらぬ数による蹂躙と言う強みを失ったマグマ蛇は、もはや反撃すら叶わずに魔石を砕かれていき、気がつけば片手で数えられるだけの数にまで減っていた。
サンドマンがここに来て、最高のキレとスピードが乗ったアッパーとハンマーパンチを繰り出した事によって、それぞれ1発で魔石を破壊した。残り3体。
優花がナイフを繰ってマグマを吹き飛ばしていき、一瞬だけ生まれた無防備な魔石目掛けて拳銃で狙撃。それを淡々と繰り返した事で、残りは1体。
間髪入れず、ホールドスマッシュストレートを俺がブチかました事で、最後まで残っていたマグマ蛇も息の根を止めた。
そのタイミングで、俺の全身を巡っていた莫大な力の奔流が急速に縮んでいく感覚が襲ってくるが、すぐさま魔力回復薬だけ飲んで前に進む。止まってる暇はない。
中央の島には、最初に見たマグマのドームはなくなっていて、代わりに漆黒の建造物がその姿を見せていた。その傍らには、地面から数センチほど浮遊している円盤がある。おそらく、出口まで運んでくれる足場とやらだろう。
「ケン」
「大丈夫だ」
心配してくれている優花の頭を撫でながらも、漆黒の建造物をグルリと調べる。
一見、扉などない唯の長方体に見えるが、壁の一部に毎度お馴染みの七大迷宮を示す文様が刻まれている場所があった。その前に立つと、スっと音もなく壁がスライドし、中に入れるようになったので、迷う事なく俺たちは足を踏み入れる。
中には複雑にして精緻な魔法陣だけがある。魔法陣は神代魔法を習得する為の物だろう。それ以外は何も置かれていない。まるで身辺整理でもした後みたいだ。
「坊や、これは……」
「足を踏み入れたら、神代魔法が手に入るぞ」
そう言うと、真っ先にサンドマンは魔法陣の中へ足を踏み入れた。俺たちも続いて中に入ると、オルクスの時のように大迷宮内での出来事が勝手に浮かんでは消えた後に、脳に直接神代魔法の知識が刻み込まれていく。
今回手に入れたのは、〝空間魔法〟である。ザックリ言えば空間操作の類であり、ミノタウロスがやっていたようなノータイム空間跳躍なんかもこの魔法があればできるようだ。他にも、空間と空間を繋いでワープポータルみたいな物を生み出したり、空間をズラしてから戻す事で物体の防御力を無視して粉砕したり。かなり多岐に渡って使う事ができそうな魔法である。
魔法陣の輝きが徐々に収まっていくと同時に、カコンと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。
〝人の未来が 自由な意思のもとにあらん事を 切に願う〟
〝ナイズ・グリューエン〟
拳サイズの開いた壁には、サークル状のペンダントが2つ入っている。俺たちとサンドマンとで持って行けとの事だろう。仲間かどうかまで精査できる辺り、本当にとんでもないな。
さて、〝空間魔法〟を手に入れた事によって、俺はよりスマブラのリトルマックに近づく恒例のイベントがある訳だが。今回は、どうやら無敵判定を手に入れたらしい。
正確には、特定の動作を取った際だけほんの僅かな間、空間魔法〝半転移〟――自分の肉体を半ば違う位相の空間にずらすという魔法が発動すると言う物だ。
この魔法は言わば、転移魔法の失敗とも言うべき物なので、普通の人間が使えば一発で肉体がバラバラになる……が、俺の肉体強度は並じゃない。しっかり〝身体強化〟をしていれば、全く問題なく耐えられる。
それにしても、理不尽にも程がある性能だな。ゲームの技をリアルに持ってくるだけで、こうも半笑いになりそうなチート性能になるなんて。
ゲームの技は、ゲームだからこそ成り立つ事がよく分かる事例である。
「これが、神代魔法の力、か……」
サンドマンも無事に習得できたようだ。新たに手に入れた強大な力の知識を、何度も現実かどうか確かめているらしい。
類稀なる戦闘技術を持つサンドマンと、攻撃と防御どちらも優秀な空間魔法の相性は、かなり良い方なのではないだろうか。
空間魔法の習熟度が高くなれば、人間族にとってはこの上ない脅威として警戒されるようになるだろう。少なくとも、元から一騎当千の戦闘力を有しているサンドマンが、空間魔法を駆使すれば勇者(笑)に負ける事はほとんどないと思う。
「ご主人も習得できると良いな、サンドマン」
「ああ。フリード様も、きっとお喜びになる強大な力だ。習得した暁には、必ずや十全に扱えるようになるだろう」
「お前が強くなった事も、きっと喜んでくれるさ。人間族との戦争の際は、勝敗の鍵として扱われるかもしれんぞ」
「……仮にそうであれば、俺は狂喜乱舞するだろうな」
あくまでもご主人様を第一に、か。まあ仕方ない事だよな。
魔法陣以外は何も置かれていないこの住処に、いつまでも滞在する意味はないので、俺たちは習得から数分程度で外に出て、さっきはスルーした円盤状の足場に乗った。
やはりこの足場は出口までのショートカットだったようで、大迷宮の攻略者が全員乗ると、音もなく火口を目指して上昇を始めた。どうやら、入口付近まで連れていってくれるようだ。
「サンドマン」
「何だ、マック坊や」
「外に出たら敵同士に戻るから、今のうちに言っておく。大迷宮攻略に、お前の助力があって本当に助かったよ。ありがとう」
「私からも言わせて。サンドマンが居なければ、もっと時間を使わないと攻略はできなかった。かなり急いでいたから、貴方の存在は精神的にもありがたかったわ」
「……いきなり何を言うかと思えば。俺は、利害が一致したから了承したに過ぎない」
「それでも、だ」
「それでも、よ」
また、こうして肩を並べて戦える機会は……うん、まずないだろうな。奇跡が起こらない限り。
本当に心強い奴だった。背中を預けても、全く心配にならないだけの強さがあった。
「次、俺たちが会うのは戦場だろう。殺し合いの場か、それともルールがある戦いの場か。未来の事は分からないがな」
「……本気の坊やたちと、フリード様が出会わない事を祈っている」
「俺は、またサンドマンとは会いたいけどな。絶対に今以上に強くなっているだろ、お前なら」
サンドマンの眼前に、初めて出会った時の意趣返しのつもりで拳を突き出す。
「だから、その時は拳で語り合おう」
「拳で、語り合う……」
「俺たちの間に言葉は必要ないだろ。その時の想いを。それまでの努力の成果を。全て拳に乗せて、互いにぶつけ合えば伝わる。違うか?」
お互いの立場的に、言葉で分かり合うのは不可能に近い。唯一、俺とサンドマンに残されたコミュニケーションの手段は、拳だけだ。
何か、思うところがあったのかもしれない。サンドマンは、それ以上何も言う事はなく、俺の拳に自身の拳をぶつけてきた。
そこからは静寂だけが場を支配した。もうお互いに会話をする事はなく、足場によって大迷宮の入り口付近までやって来た俺たちは、それぞれ行くべき方向を見て、その場を去った。
ようやく口を開いたのは、戦闘機に乗り込んで安定飛行に入ってからである。
「優花。大迷宮に突入してからどれぐらい時間が経った?」
『5時間ぐらい。本当に類を見ないスピード攻略だったわね』
そうか、そんなに短い時間で攻略したのか、俺たちは。
随分と濃い5時間だったな。
「アンカジまで急ぐぞ」
『ん、了解。全部終わってひと段落したら、〝2人でゆっくり〟したいな』
「……だな。最初から防音性が高い宿に泊まるか」
さあ、ここからが本番と言っても良さそうだな。
救うぞ、アンカジを。
スーパーアーマーなら技能なしに搭載できるかもしれんけど、無敵判定は流石に難しい……って懸念点を解決するための空間魔法です。〝半転移〟は原作シアさんが最終盤で使っていた魔法ですが、マックくんが使えば無敵判定の再現になると思ったので、特定動作の時だけ自動で扱えるようになってもらいました。
これによって、以下の技に無敵が付与されます。
・ライジングアッパーカット→最初のアッパーを叩き込むまでの数瞬だけ
・ジョルト→地面を踏み込んで跳躍した瞬間は全身、そこから地面に着地するまでは下半身
・ダッキング、バックスウェー、空中回避→スマブラフレームで付与
・クロスアームブロック→ジャスガ。発動すると長めに無敵が付与される上、一定距離に入った対象の動きを少しの間スローにする
・最風、雷神拳、魔神拳→攻撃発生まで全身無敵
・最後のきりふだ→発生から攻撃終了まで
どれもこれもチートで草。特にジャスガ。
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