異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

69 / 129
 マックくんたちが大迷宮攻略している間に、ハジメくんたちがアンカジでやった事一覧。

①…汚染されたオアシスの代わりとなる貯水池を作る。ユエが担当。ハジメは血液補給係。
②…オアシスを汚染していた魔物を黒傘の突きで粉砕する。ハジメが担当。
③…罹患したアンカジの民全てに応急処置を施す。香織とティオが担当。
④…空き地に作った仮設診療所に、病院に入り切らない患者を収容。ハジメとシアが担当。
⑤…国王と謁見し、マックくんたちが爆速で静因石の回収している事を伝え、信頼を勝ち取る。ハジメとミュウが担当。

 ちなみに国王から信頼を得られた1番の理由はミュウの「信じて欲しいの!」発言です。


1人でも多く

 行きと同じように砂嵐の中をノンストップかつ最高速度で突っ切り、目的地までの最短距離を選んで爆速で飛行した事で、俺たちはグリューエン大火山からものの数分でアンカジに到着した。

 

 ノンビリ着地する時間も勿体ないし、何よりアンカジの民を驚かせてしまうのも防ぎたいので、ある程度のところで俺たちは戦闘機から飛び降りた。空中で戦闘機を回収し、優花をお姫様抱っこして着地。そして流れるように頭を撫でてから、アンカジの入り口まで急ぐ。

 

 到着寸前に、ハジメには〝念話〟で連絡を入れているので、多分スムーズに入国できるだろう。

 

 その予想通り、アンカジの入り口にはハジメが立っており、俺と優花の姿を見つけると大きく手を振ってくれた。流石は仕事ができる部類の人間である。

 

「2人共お疲れ様! 早速だけど、〝静因石〟は大量に集められた?」

「そこはバッチリだ。な、優花」

「おそらく、何回か全国民が罹患しても何とかなるだけの量はあるよ」

「流石! その様子だと、この短時間で大迷宮の攻略もできたっぽいし、ダブルで凄いや!」

 

 これだけ早く帰ってこれたのは、サンドマンの協力があったからだけどな。

 

 まあ、今は知らせる必要がないので愛想笑いだけ返しておく。いつか、ハジメが何らかの形で自然に知るまで、俺がサンドマンについて話す事はないだろう。

 

 ひとまず、静因石を国の医療機関に大急ぎで届けなければならない。会話は早々に切り上げると、ハジメの案内で俺たちはアンカジ内へと入国した。

 

 さて、アンカジ公国は中立商業都市フューレンを超える外壁に囲まれた乳白色の都と表せる外観をしており、外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラストが美しい。また、国をドーム状のバリアのような物で覆っているようで、時折バリアに何かがぶつかったかのように波紋が広がっている様子が観測できる。

 

 このドーム状のバリアがあるお陰で、アンカジ公国は月に何回かある大きな砂嵐に見舞われても、全く影響を受けないそうだ。

 

 光り輝く門を通過すれば、眼前に広がったのはまた美しい都である。太陽の光を反射してキラキラときらめくオアシスが東側にあり、その周辺には多くの木々が生えていて非常に緑豊かだった。オアシスの水は、幾筋もの川となって町中に流れ込み、砂漠のど真ん中だというのに小船があちこちに停泊している。町のいたるところに緑豊かな広場が設置されていて、広大な土地を広々と利用していることがよく分かる。

 

 普段はおそらく、国の外や中を問わず賑やかなのだろう。観光地としても、商業区としても大変人気のある国らしいし。

 

 だが、今この瞬間においては、陰気でジメジメとした重い空気が流れているのは、もう仕方のない事なのだろうと感じさせる。何せ、国を襲っている疫病が厄介にも程がある物なのだ。嵐が過ぎるのをジッと待つように、外へは出ず家に篭りがちになるのも仕方のがない事だし、それによって国内の空気が重たくなるのも、当然の結果と言える。

 

「……嫌な物を思い出すよ。こんな、国が死んでいると思わされる空気を嫌でも感じさせる様子は」

「言わんとしてる事も、気持ちも分かる。だが、世界を襲った疫病と、アンカジを襲っている疫病とでは、色々と状況が違う事も頭に入れておかないとだな」

「うん、分かってる。けど、思い出さずにはいられないんだ。医療現場が逼迫していて、患者を受け入れられる許容量を大幅に超えて。助けを必要としている人が、病院で然るべき治療を受けられず、ただ自宅で苦しみながら自然治癒を待たなければならない。重症患者は、緩やかに死に行く以外にない事が分かっていたとしても、国はどうしようもできない理不尽さと無情さ……」

 

 優しいのだ、ハジメは。苦しむ人を見て、ジッとしていられないぐらいに。

 

「だが、今の俺たちは、苦しむ人を救うために必要な物を持っている」

「……そうだね。1人でも多く助けなきゃ、だ」

 

 ハジメは、指輪から何かの装置を取り出して、俺と優花に手渡してきた。

 

「静因石を粉末状に砕く装置だよ。病院にもあるんだけど、僕が作った装置の方が効率が良い。病院に待機させている仲間にも渡してるけど、マックくんたちにも渡しておくね」

「既にある物と、新しく作られた物。総動員すれば、手に入った静因石を粉末状にするのはあっという間に終わるだろうな。サンキュー、ハジメ」

 

 さあ、時間との戦いだ。大量にある静因石を適当な量に分けて持つと、俺は優花やハジメとは別れ、急いで近場にある大きめの病院に飛び込む。

 

 病院内の空気は、地獄と言っても差し支えない物であった。慌ただしく動き回る医療従事者の顔に張り付く絶望の表情が、事の重大さを嫌でも感じさせられる。

 

「失礼、静因石を持ってきたんだが、どこに持っていけば良い?」

「えっ、静因石をですか!?」

「入院患者全てに届けられる量はある。すぐにでも作業に取り掛かりたい」

「わ、分かりました。こちらです!」

 

 看護師らしき人物に連れて行かれたのは、病院の関係者が普段は休憩室として利用している部屋だ。

 

 そこに入ると、中には浮かない表情を浮かべているシアとミュウ、そして医者らしき人物が1人いた。

 

「2人共、仕事だぞ」

「マックさん! もしかして、静因石を?」

「ああ。急いで粉末状にするぞ。アンタは医者か? 粉末を患者に持って行けるように準備を頼む」

「りょ、了解しました!」

「ミュウもお手伝いしてやってくれ」

「はいなの!」

 

 シアに静因石を渡してから、俺自身も装置を起動させて静因石を砕き始める。原理は自動のかき氷機と言った様子なので、装置に大きめのボウルをセットしてやれば、あっという間にこんもりとした静因石の粉末の山が目の前に完成した。

 

 溢れないうちにボウルを交換し、また山を作ってもらいながらも、俺は病院内に元からあったらしい装置を手に取る。こちらは手動らしいので、ハジメの装置と比べれば効率はかなり落ちるだろうが、今はとにかく量が必要なのだ。使える物は全て使わなければ。

 

 完成した静因石の粉末は、医者が分量を測ってコップに注がれた水の中へ投入していく。それを掻き混ぜるのはミュウの役目だ。次から次へと渡されるコップを手に取り、必死の表情でカチャカチャと棒で中身を混ぜている。

 

「……よし、これで入院している患者全員に行き渡ります!」

「すぐに運ぼう。ミュウは俺と来てくれ」

 

 ミュウを引き連れ、俺は大量のコップが乗せられたトレーを手に、部屋から出た。

 

 上層階はシアが、下層階は医者が担当するとの事だったので、俺たちは階段を使わず目の前にある病室から処置を行う事にする。

 

 数回扉をノックしてから病室に入れば、そこには複数のベッドに寝かされ、ぐったりとしている患者の姿がある。

 

 白崎か院内の者が何かしら症状を抑える治療をした後のようで、最初にビィズを見つけた時のように苦しんでいる様子はない。ただ、明らかに生気がまるで感じられない表情を浮かべていた。

 

「失礼、俺の声が聞こえているか? ……うん、大丈夫そうだな。じゃ、このコップに入っている水をゆっくりで良いから飲んでくれ。症状を鎮めさせる静因石の粉末が入ってるから」

 

 俺に習い、ミュウも一生懸命コップの中身を説明し、飲ませるところまで達している。分かりやすく説明ができた訳ではないが、幼子が必死になって自分を救おうとしている事が感じられたのだろう。孫を見守る祖父母のような優しい表情を浮かべ、コップに口をつけている。

 

 静因石が持つ魔力の鎮静化効果はすぐに発揮され、コップの中身を飲み干す頃には、起き上がる事にも一苦労していた患者の顔色が、ほんのり良くなっていく様子が見て取れた。

 

「ああ、随分と体が楽になったように感じるよ。本当にありがとう……って、君はまさかリトルマック!?」

「え、うん。よくご存知で」

「なんてこった。まさか、アンカジの危機にわざわざ貴重な静因石を取ってきてくれたのかい?」

「まあね。とても見捨てられない状況だったから、いっぱい取ってきたんだ。まだまだ助けを待つ人がいるから、これ以上のお喋りはまた後でな」

 

 全員がコップを飲み干した事を確認すると、全てのコップを回収してから、また俺はミュウと共にトレーを持って病室を出た。

 

 同じようにコップを手渡し、飲み干させて効力が確認できたらすぐに病室を移動。それを何度も繰り返し、やがて手持ちのコップが全て空になったら、休憩室に戻って水が入っているコップをまたトレーに乗せる。そして、病室へ運ぶ。その繰り返しだ。

 

 多くの患者が救われ、危うかった命を繋いでいるが、処置を施すも肉体が限界を迎えてしまい、目の前で安らかな表情を浮かべて逝った患者もごく少数ながら目にした。それでも、その死を長く悼む暇はない。心の中で冥福をお祈りする事は許されても、立ち止まる事までは許されていないのだから。

 

 泣くのも、遅くなって申し訳ないと謝罪するのも全て後回し。幼子であるが故に、何度も止まってしまいそうになる足、そして折れそうになるミュウの心を叱咤激励する。自分にも言い聞かせるようにしながら、だが。情けない話だな。

 

 魂を死なせない技術はあっても、限界を迎えた肉体を再生させる力までは持ち合わせていない。せめて、家族に最後の挨拶ができるように。許可を得てから、一時的に亡くなった人の魂を保護できるように吸収していく。

 

 吸収する度に内から外に広がろうとするような感覚に襲われるが、その都度自分の魂の強度を高くする事によって無理やり抑えていく。俺まで倒れていられる時間はない。

 

「お兄ちゃん、大丈夫なの? お顔、凄く辛そうなの」

「このぐらい平気さ。なーんも問題ない」

 

 患者、そして幼子の前ではどれだけ辛くても強くあれ。無用な心配をさせてはいけないから。

 

 昔、世話になった主治医の先生に教えてもらった事だ。医療従事者であるからには、担当する患者には必ず安心感を与えなければならない、と。

 

 医療従事者が、働きすぎで倒れるニュースがそれなりの頻度で見られた理由が、今となっては多少だが理解できる。心を極限まで押し殺して、人のために尽くす事の、何ともまあ難しく神経をすり減らす事か。

 

 何度も休憩室と病室とを往復し、全て患者に静因石が入った水を届けられたら、またすぐに俺は違う病院へと向かった。ミュウと、それにシアには随分と心配されたが、まだまだ休むには早すぎる。

 

 精神的にはもちろん、肉体的にも中々にシンドい。大迷宮を攻略してから、まだそこまで時間が経ってないので、消耗した体力や魔力は全く回復していない。

 

 それでも、泣き言を口にはしなかった。誰にも打ち明けず、ひたすら己を押し殺して。国内を駆け回るのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 結局、罹患した全ての国民に静因石の入った水を届けられたのは、すっかり日が暮れてからであった。

 

 国王やビィズと謁見し、彼らができる範囲で最大級の謝辞を受け取っても、俺は僅かに眉を顰めたままだった。それを、優花にはバッチリバレていたらしい。

 

 ハジメが手配してくれた宿に入り、荷物を置いた瞬間に優花が俺の胸元に飛び込んできた。

 

「……無理、してたでしょ」

「まあ、な」

「大迷宮で〝闘神〟をあんな形で使ってたから、本来なら魔力駆動戦闘機を動かすのも大変だったはずなのに。病で命を落とす人を見て、絶対にメンタル的に無事じゃないはずなのに。〝念話〟の1つも寄越さず我慢してたよね。連絡入れなかった私も悪いけどさ」

「俺は心臓病で苦しんだ過去があるし、優奈の事例もあるから、ボロボロになっても1人でも多く助けたいって考えてたんだ。頼らなかったのは……ごめん。自分の事を疎かにし過ぎていたな」

「そうやって反省できるようになったのは、確かな成長だけど。でも、事後報告ばっかになるのは改善して欲しい。辛い時、リアルタイムで頼って欲しいな。頭では理解できていても、ふとした瞬間に、私じゃ貴方の力になれてるのかなって不安になっちゃうよ」

 

 そんな事ない。そう言えば、彼女は信じてくれるだろう。だが、そういう問題じゃない。

 

 誰かのために、助けるために。強迫観念にも近い思いの強さで自分を縛り上げた結果、自己満足のエセ正義に溺れてしまう事態は、何としてでも防がなければである。

 

「善処するって〝約束〟する。俺自身も、このままじゃいつか壊れてしまうと感じたから」

「是非ともそうして。どんなケンでも好きだけど、何事もなく心から笑っている貴方が1番好きだから……」

「そ、そうか」

「……ごめん、言い出した人間が言うのもアレだけど、ものすっっごく恥ずかしいっ!」

「ははっ」

 

 思わず笑ってしまう。恋人の可愛らしい様子に悩殺されながらも、同時に何だか微笑ましい感じもあって。つい笑い声が漏れてしまった。

 

 胸元をポカポカ叩き出した優花の頭を、俺が満足するまで思う存分撫でてから、優しく抱きしめる。

 

 彼女と同じ時間を共有できているだけで、心が癒されていく。また明日からも頑張れそうだ。




 スピリットの要領で、肉体的に亡くなったアンカジの民の魂を、自身の魂と肉体によって保護したマックくん。ハジメくんたちが大迷宮に挑んでいる間、家族や大切な人と最後の会話をさせるために、もう少し頑張ってもらいます。

 自己満足のエセ正義。当てはまる人がハイリヒ王国にいらっしゃいますね。本人は全く自覚してないのがタチ悪いですが。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。