異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

70 / 129
 まさか2週間に渡って体調を崩すとは思いませんでした。40℃の高熱→完治したと思ったら副鼻腔炎のコンボ。やっと落ち着いてきたので更新しましたが、2025年になってしまった。

 ゆっくりとした足取りにはなるかと思いますが、何とか絶やさず続けられるよう頑張りますので、今年もまたよろしくお願い致します。


俺はできなかったんだよ、最後の別れ

「……それじゃあ、まずは貴女の家から行きましょうか」

――お願いします

 

 翌日の朝早くから、俺は優花と一緒に外へ出た。俺が保護した魂が、最期に会いたい、会話をしたいと口にした人物に会わせるために。

 

 保護した魂は、合計で15人分ある。俺の目の前で亡くなった人の魂しか保護できてないのだが、正直この数だけでもめちゃくちゃシンドい。

 

 持ち前のど根性が良い仕事をしているお陰で何とかなっているが、あまりこの状況が長続きすると、流石の俺でもぶっ倒れるだろう。

 

 足早に目的地へ向かいながら、俺は短い時間ながらも魂との親交を深めるべく会話をなるべく途切れさせないようにする。

 

「最期に会いたい人が弟、ですっけ。お姉さんから見た弟さん、どんな人なんです?」

――どうしようもなく甘えん坊で、グダグダで。でも、才能に恵まれながらも、影で努力を決して怠らない頑張り屋ですよ。自慢の弟です

「弟さんの事、大好きなんですね」

――唯一の家族ですから

 

 疫病で両親を亡くし、更には自身までも命を落とす。遺される弟さんの事を憂うお姉さんは、胸が張り裂ける思いをしているだろう。

 

 それでも、涙は見せず気丈に振る舞う心の強さに感嘆する。

 

「ここで間違いないですか?」

――ええ、本当にありがとうございます

「……礼には及びませんよ。自分の力不足で、貴女を死なせる事しかできなかったのだから」

 

 一時的に保護したり、魂となった人と生者を会話するための場を作る事はできても、肉体がなければ生き返らせる事はできない。

 

 人間の魂という物は、かなりデリケートで繊細だ。ミレディのように無機物に定着させて生き長らえるには、魂魄魔法の真髄にまで至った者の協力がないと不可能である。もしも未熟な者が、人間の肉体以外に定着させようとすると、魂が拒絶反応を起こして砕け散ってしまう。

 

 俺がやれる事は、まだ少ないのである。

 

 さて、話を戻そう。ノックをすると、戸を壊すのではないかと思う勢いで開け放った弟さんが姿を現した。

 

 俺の顔を見て怪訝そうな表情を浮かべているが、構わず弟さんの手を取り、背中付近から抜け出たお姉さんの魂に目配せする。

 

 弟さんは、俺の視線の先に誰がいるのか気がついたらしい。一瞬だけ目を見開いてから、嬉しそうな顔を浮かべて。すぐに悲痛の面持ちへと変化した。

 

――ごめんね。お姉ちゃん、今までみたいに過ごす事ができなくなってしまったの

 

 ワッと泣き出す弟さん。釣られて、お姉さんも涙を浮かべる。

 

 だが、それでも言葉が止まる事はない。

 

――この人がね。最期に少しだけ、貴方とお話しをする時間を作ってくれたんだ

 

 激しく泣きじゃくり、逝かないでくれと懇願する弟さんに対し、俺は何もする事ができない。何か、気の利いた事でも言えたら良かったのだが。こんな時、何て声をかければ良いのか分からないのだ。

 

――大丈夫。弟を泣き止ませるのは、姉の仕事です

 

 そう言って穏やかに笑うお姉さんは、霊体の身でありながらも気にする事なく弟さんの頭に手を乗せた。

 

 俺が弟さんの手を握っている間は、霊的な存在に触れられている感覚を得る事ができるため、弟さんはビクリと肩を跳ねさせた。半透明の人間が何なのかを理解していたからこそ、こうやって触れられている事実にとても驚いているらしい。

 

 まあ、これは神代魔法の無法さを存分に発揮した結果と言えるだろう。この世を形成する摂理に触れる事ができる、とんでもない力なのだ。神代魔法というやつは。

 

――お姉ちゃんは、確かにもう一緒には過ごせない身体になってしまった。でも、貴方を独りぼっちにするとは言ってないよ

 

 優しく、しかし力強く、そう告げるお姉さんに、弟さんは目から溢れる涙を拭う事も忘れて見つめている。

 

――どんな時も、貴方を見守ってる。普段は見えないし触れないとこにいるけど、それでも絶対に近くで見守るって、約束する。だから、貴方も私の最後のワガママ、聞いてくれるかな?

 

 ほんのり。僅かではあるが、弟さんの瞳に生気が戻った。涙は止まっていないし、鼻水で顔はグチャグチャだが。それでも弟さんは、大きく頷いた。

 

 お姉さんは、一瞬だけ俺の方を見て微笑んだ。まるで、強い弟さんを自慢するかのように。

 

――悲しんでも良い。寂しいと思ってくれても良い。泣いたって構わない。だけど、最後には笑って前を向いて欲しいんだ。そうすれば、いつか絶対に幸せになれる。幸せそうに笑っている貴方を、私は見たい

 

 笑って、そして前を向く。果たして、過去や今の俺がそれをできていると言えるのだろうか。

 

 意図せずではあるが、俺にも刺さる言葉を口にしたお姉さんの身体が、少しずつ薄くなっていく。どうやら、そろそろ時間らしい。

 

 気を取り直し、弟さんに俺は問う。できるか、と。

 

「頑張る、よ。お姉ちゃんが、喜んでくれるなら。安心してくれるなら。幸せになってみせるっ」

「……君は、強いな」

 

 涙と鼻水で顔がグチャグチャだとか、関係ない。悲しみ、そして苦しみながらも。必死に前を向こうとする弟さんの姿は、俺には少し眩しい物だった。

 

 お姉さんは、そんな弟さんを見て優しく頷き、最後に頭を撫でると、俺たちから少し距離を取る。

 

――本当に、ありがとうございます。これで私は、安心してあの世へ行けます

 

 そう言って頭を下げるお姉さんの姿は、刻一刻と薄まっていく。顔を上げた時には、ボンヤリとしか表情が見えなくなっていた。

 

 それでも、俺には彼女が穏やかに笑っている、ように見えた。

 

……泣いても、いるのか。

 

――貴方も、あまり自分を追い詰めすぎず。幸せになってくださいね

「……必ずや」

 

 心の奥を見透かされていたようで、少し気まずい。全く気にしていなさそうな空気をお姉さんが出してくれているのが救いだ。

 

 最後まで聖母のような微笑みを崩さずに、お姉さんの姿はやがて完全に空気に融けてしまった。俺の能力でも追跡できないぐらい、遠い場所へ行ってしまったようである。

 

 少ししてから、俺は弟さんから手を離した。

 

「すまない。俺には、これが精一杯だった」

「……謝らないで。普通は、死んでしまったら会話すら叶わないんだからさ」

 

 お姉さんとそっくりの笑みを浮かべる弟さんを見て、俺はようやく肩の力を抜く。

 

「少しすれば、領主のゼンゲン公が身寄りを亡くした者に対する政策を施行するはずだ。これからの生活に対して、不安がる必要はないからな」

「うん。領主様はすっごく優しい人だから、安心できる」

「そうか。 ……強く、生きろよ」

「お姉ちゃんとの、最後の約束だから。お兄ちゃんみたいに、〝リトルマック〟みたいに強く生きてみせる。お姉ちゃんが心配しないぐらい、強く生きるよ」

「……そうかい」

 

 別に、俺は強く生きてる訳じゃないんだけどな。

 

 人を打ち倒す暴力的な面の強さは持っていても、人間力的に見た強さはそんなにだ。俺より強く生きている人なんて、いくらでもいる。

 

「頑張れ。応援してる」

 

 陳腐な言葉しか返せない自分が嫌になる。その言葉を受けて、力強く笑う弟さんに救われているが。

 

 こんな調子で大丈夫なのか。まだまだ、保護してる魂は沢山ある。

 

 実は涙もろい優花の水分も割と心配だが。無力な自分に抱く嫌悪感が、天元突破しないか不安になってきた。

 

「……いや、俺の心がどうなろうと知った事ではない。それに、できる事を精一杯やれてるなら、それはそれで良いじゃないか」

 

 無力で、こんな事しかできない。言い換えれば、できる事を精一杯やっている。そう考える事で、自尊心を無理やり維持する。こうしている間は、おそらく大丈夫だろう。

 

 優花と黙って手を繋ぎ、俺は次の魂に声を掛ける。行き先はどこか、と。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

 

 朝の8時ぐらいに、グズるミュウを何とか説得してランズィさんの元へ預けてから、アンカジ公国の出入り口となる門へみんなと向かっている途中、マックくんと園部さんが宿の近くの一軒家から出てくる場面に出くわした。

 

 2人は、助からなかった患者さんの家族や恋人のところに足を運び、神代魔法を使って保護した死者の魂を連れて行って、最後に話す時間を作ってやっていると聞いている。

 

「マックくん、園部さんも。お疲れ様」

「おう。ハジメたちは今から出発か」

 

 まだ朝でありながら、深い疲労の色を顔に浮かべているマックくんだが、努めていつも通りに振る舞おうとしている。

 

 これから大迷宮へ向かう僕たちに、無用な心配をさせないように気を遣ってくれているようだった。

 

 それは園部さんも同じで、なるべく普段と変わらない様子であろうと努力しているのが分かる。

 

 気がついているのは僕だけだ。何事もない、いつものマックたちだと、みんな思ってるらしい。それぞれ明るい声で「行ってきます」と告げ、先にアンカジを出る門の方へ向かってしまった。

 

 あまり長居はできないが、僕は敢えて気を遣ってくれているマックくんの肩に手を置く。

 

「ありがとう、2人とも。僕たちができない事を、率先してやってくれて」

 

 魂に関連する神代魔法を習得していない僕には、絶対にできない事であるし、仮に習得していたとしても、実行できるか怪しい部分がある。

 

 強靭という言葉では足りないぐらい、凄まじいメンタルの持ち主だからこそ、実行できていると言えよう。それでも、心身ともに負荷が大きい事には違いない。だから、せめて礼だけは言いたかった。

 

「礼には及ばない……って、言いたいところだが。そうだな、礼の代わりと言っちゃアレだが、大迷宮の攻略が終わったらまたアーティファクトの製作を頼んでも良いか? 今回手に入った神代魔法とハジメの錬成があれば、色々面白い物ができそうなんでな」

「そんな事で良いの? マックくんの専用アーティファクトならいくらでも作るよ! ところで何を手に入れたの?」

「そいつは……内緒だ」

 

 思わずズッコケそうになるが、マックくんが楽しそうに笑っている姿を見て、口を噤む事にした。

 

「俺はハジメに、元気をもらってばっかだな」

「それは僕も同じさ。お互い様ってやつだよ」

「そうかい。 ……ありがとな。気をつけろよ」

 

 そう言って、マックくんは園部さんを連れてまた別の家に向かっていった。

 

 遠くから聞こえる仲間の声に応えるように、僕もその場を立ち去る。

 

「……早めに帰って、彼が心置きなく笑ってくれるような物を作らないとね」

 

 密かにそう決意する。僕たちはそこまで急ぎで大迷宮を攻略する必要はないが、早めに終わらせるに越したことはない。

 

 元々ミュウをアンカジに置いていく関係で、早めに終わらせるつもりではあったのだが、更にスピードを上げるつもりで挑んでも良いだろう。

 

「あ、来た来た。お師匠様、早く行きましょう!」

「はいはい。あ、そうだ。出発前に、今回の大迷宮攻略について少しだけ話しておきたいんだけどね」

 

 真っ先に腕へ飛びついてきたシアさんの凶悪な武器に動揺しない事を心がけながら、僕は首を傾げている仲間にニヤリと笑いかけた。

 

「今回、スピード攻略で行くよ。RTA……は通じないか。3タテする勢い……も違うな。とにかく、ミュウやマックくんたちを待たせたくないからね!」

 

 ネタが通じるが故に、ニコニコと微笑ましそうに笑う香織。目をパチクリさせるも、すぐ気合を入れた表情を浮かべたユエ。シアさんは、ちょっと顔を赤らめている。うん、なんで?

 

 ティオさんはハァハァしてた。無視……しすぎると余計に悪化するんだよな。どうしよう。

 

 頼もしい仲間ではあるんだけど、みんな本当にクセが強い。僕も含めて。




 なお、この後ハジメくんたちは迷宮内でフリードと愉快な魔物軍団に遭遇します。

 黒龍を乗り回す魔王vs白龍を乗り回す神の使徒。ファイッ!

 ちなみにハジメくんのニヤリとした笑い方は嫁〜ズの心にぶっ刺さってるとか。

香織「あの笑顔の良さだけで1日は語れるよ?」

ユエ「……香織の倍は語れる」

シア「普段優しいのにズルいですぅ」

ティオ「サドな笑顔ハァハァ」

ミュウ「パパは魔王様なの! カッコいいの!」

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。