異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 高評価、お気に入り登録をしてくださった読者の皆様、ありがとうございます。また少しずつ右肩上がりに戻ってきており、嬉しい限りです。

 さて、あまりミュウとマックくんの絡みがなかったので、今回は2人に焦点を当てています。


真の強さ、そして心の強さ

 ギガクッパの襲来から3日程の時間が経過した。

 

 オアシスの汚染以上に未だかつてない脅威が現れたという事もあり、アンカジは結構長い間パニック状態にあったのだが、3日目にしてようやく落ち着いてきたところである。

 

 俺と優花は、基本的に宮殿内でミュウに構い倒していたので、国民の様子を正確には知らないのだが。まあ、ランズィの頬がたった3日で分かりやすく痩けていたとだけ言っておこうか。

 

 まあ、この3日の間で起こったもう1つ大きな出来事が、あまりにも衝撃的すぎて気にならなかったと言うべきだろう。

 

 その衝撃的な出来事と言うのは、グリューエン大火山が何の前触れもなくいきなり大噴火を起こした事である。

 

 ただ噴火をしただけなら良い。驚きはするが、アンカジに何か被害が及ぶ事はないから。

 

 だが、グリューエン大火山にはハジメたちがいるはずなのだ。俺たち程急ぐ必要はないにしても、彼らが持つ力を考えれば既に最深部付近まで辿り着いていてもおかしくない。だからこそ、心配なのである。

 

 噴火した山の近くが危険なのは当たり前だとして。噴火を起こしている最中の山の中にいたら、一体どれだけ危険なのか。考えたくもない。

 

 そう簡単に死ぬ奴らではないが、大自然の強大な力にどの程度抗えるのか、俺にも分からない部分がある。

 

 パパの帰りを待つミュウのためにも、なるべく早く消息が見つかると良いのだが……。

 

 全身筋肉痛で動けなかった俺に代わり、優花がナイフで大火山付近を隈無く探してくれているのだが、現状全く痕跡を掴めていないのも、心に影を落とす原因の1つだ。見つかった物と言えば、噴石によって死んだ魔物ぐらいである。

 

 ああ、それとかなり遠くの方……アンカジから見て西側だったかな。何やら巨大なエネルギーのような物も観測できたらしいが、ハジメの物ではないと優花が結論づけていたので、早々に俺からの関心はゼロになった。

 

「さーて、どうしたもんか……」

 

 ようやく筋肉痛が治まり、問題なく動けるようになった俺は、1人ベッドの縁に腰を下ろして思案する。

 

 このままアンカジに長期間滞在し、ハジメたちの帰りをひたすら待つのも、1つの案だろう。だが、ミュウの精神衛生上よろしくないのは明白だ。

 

 母親から無理やり引き離され、更には父と呼べる程に信用できる人と出会えた矢先に行方不明。居ても立ってもいられないのが普通だろう。

 

 かと言って、グリューエン大火山内を探しに行くのは愚の骨頂だ。手持ちのアーティファクトや魔法をフル活用しても、多分ハジメたちを見つける前に俺たちが死ぬ。

 

 そうなると、取れる選択肢は限られてくる。

 

「ミュウを一足先にエリセンへ送り届けてしまう、か。考えれば考える程、それしかないって思っちまうな」

 

 幸い、俺たちには陸路以外の移動手段がある。長時間ミュウを拘束せず、かつそこまで負担をかける事もなく母親の元へ送り届けられるだろう。 

 

 ハジメたちの消息は心配だが、今は幼子の心が壊れないように尽力すべき。そう考えた俺は、優花とミュウに明日の朝にはアンカジを出発すると伝えた。

 

 優花は特に何も言わず、首を縦に振っただけである。彼女も同意見だったらしい。

 

 だが、ミュウはそうも行かなかった。

 

「パパをお迎えには行かないの……?」

 

 そうだよな。パパを迎えに行きたいって、ミュウなら思うよな。

 

 悲しそうな表情を浮かべるミュウに、軽く罪悪感を覚えつつ。しかし、考えが揺らぐ事だけは何とか抑えると、彼女と目線を合わせてゆっくり言って聞かせる。

 

「迎えには行かない。いや、行けない。ハジメたちが向かった場所は、たとえ俺と優花であっても危険が伴う……まあ、分かりやすく言えば、とんでもなく危ないところなんだ。ミュウを連れて行く訳にはいかない」

「じゃあ、パパにはもう会えないの?」

「いや、そんな事は絶対にない。予定より遅くなってしまっているだけで、必ずハジメは帰ってくるさ。ただ、どれだけ長くなるか分からない。だからミュウには、先にエリセンに帰ってママと一緒にパパが帰ってくるのを待っていて欲しいんだ」

「ママと……」

 

 ハジメパパに会いたい気持ちもあるようだが、やはり引き離された母親と再会したい気持ちも同じぐらい強いようだ。

 

 渋々と。本当に渋々といった様子ではあるが、ミュウは首を縦に振ってくれた。

 

 実母と天秤にかけられる程に大きな存在となったハジメに、思わず俺は苦笑いである。本当に良い意味で人誑しだ、彼は。

 

 翌日、引き止めたいであろうランズィたち国の要人と、朝早くにも関わらず見送りに来てくれた人たちの大歓声を受けながら。俺はミュウを膝に乗せて魔力駆動戦闘機に乗り込み、優花の搭乗も確認すると、魔力を流して大空へ飛び立った。

 

 砂塵を物ともせずに響き渡る大歓声。それが聞こえなくなるぐらい、アンカジから離れたところで。俺は膝の上にちょこんと座るミュウの頭を撫でる。

 

「ふえっ、お兄ちゃん?」

 

 目をまん丸にして驚くミュウ。ちょっと可愛い。

 

 何となく、日本にいた頃を思い出す。施設で出会った、俺よりも年下の子たちの事を。

 

 みんな純真無垢で、目をキラキラさせながら、カルガモの子みたいに俺の後ろをついてきたっけ。

 

「いや、すまんなミュウ。君を見ていて、少しだけ昔を思い出してしまって」

「昔、なの?」

「おう。ミュウぐらいの歳の子と、昔はよく遊んでやってたんだ。こんな感じに頭を撫でると、もっと撫でろってせがまれたり、それを見た他の子に自分もって頼まれたり。俺が1人でパンチの練習をしていたら、いつの間にか横で真似されてた事もあったな」

「マックお兄ちゃんのパンチは、すっごく強くてカッコいいってパパが言ってたの。きっと真似をした子も、お兄ちゃんみたいになりたかったと思うの」

「ははっ、そうだと嬉しいねぇ」

 

 ミュウと出会ってから、ずっと忙しかったので、こうしてまともに2人で会話をした事がそういえばなかった。

 

 それでも特に滞りなく会話が弾むのは、ハジメパパがミュウに俺の事を話しておいてくれたからだろう。まさか、こんな形でハジメの存在の大きさを感じるとは。

 

「ミュウも、いつかパパやマックお兄ちゃん、お姉ちゃんたちみたいに強くカッコよくなりたいの! でも、パパたちはまだ早いって言ってくるの……」

「あー、まあハジメたちの気持ちは分からんでもない。けど、そうだよなァ。ミュウが強くなりたいって気持ちも、何となく分かる」

 

 最初のうちはまだ良い。守られているという安心感が、子どもの心を守ってくれるからな。

 

 だが、いつまでも守られてばかりだと、子はその状況が凄まじくストレスに感じるのだ。小さい自分は何もできないと、暗に示されているように感じて、大きな無力感を味わうのである。

 

 施設で育ったからこそ、俺にはよく分かる。実際、俺の周りには常に「強くなりたい!」と口にする子が集まってきた。

 

 施設の職員ではなく、わざわざ俺の方へ来た理由は単純で、俺が来る者を拒まない事を徹底していたからだろう。

 

 強くなって、何を成したいのか。自ずと語ってくれる子が多かったが、別に話してくれなくても俺的には構わなかった。

 

 理由が何であれ、強くなりたいならなれば良い。その手伝いをするのは、全く苦じゃないし。手伝う側である俺にも得られる物があるから。

 

「強く、なりたいんだな?」

「なりたいの! 強くなって、今度はミュウがパパやママ、お兄ちゃんにお姉ちゃんたちを守りたいの!」

「そうか。なら、俺は応援するし、強くなる手伝いもすると〝約束〟しよう」

「本当に!?」

「ああ。それじゃあ早速だが、〝どうしてハジメは強くなれたのか〟について考えてみようか」

 

 エリセンに到着するまで、まだ少し時間がある。ただ黙って飛行を続けるのも飽きるし、ミュウも我慢できなくなるだろう。ここは時間の有効活用をするべきだ。

 

「パパが強くなれた理由、なの? それはいっぱい努力して、誰にも負けない力を手に入れたからじゃないの?」

「そうだな、ハジメが努力をしたのは間違いない。沢山辛く、そして苦しい思いをしながらも諦めずに頑張ったから、とても強くなった。でもなミュウ。ハジメが強くなれたのには、もう1つ見逃しちゃいけない理由がある」

 

 ハジメが死ぬ気で努力して身につけた〝力〟というのは、心技体のうち〝技〟と〝体〟の部分である。特に〝体〟の側面が強いだろう。

 

 誰よりも努力するのは、当然ながらとても大切な事だ。努力なしに、楽して強くなろうなんてまず無理な話だからな。

 

 だが、今回ミュウに知って欲しいのは、心技体のうち〝心〟の部分である。

 

 〝技〟と〝体〟は、正直身につけるのはそこまで難しくない。我武者羅に鍛錬に励めば良いのだから。しかし、〝心〟を先に身につける土台を作ってしまった方が、圧倒的に効率良く強くなれる。ソースはハジメだ。

 

「ハジメはな。まず最初に、〝自分は弱い〟事実と真正面から向き合って、そして全て受け入れたんだ」

「自分は弱い? でも、パパは」

「〝今は〟強い。とても強い。けど、鍛える前は弱かった。ちょっと信じられないかもしれないけどな」

「……うん」

「話を戻すぞ。〝自分は弱い〟って事実と真正面から向き合って、更には全て余さず受け入れるってのはな、想像以上に辛い事なんだ。自分がどれだけ無力なのか……分かりやすく言えば、嫌いな人にも簡単に負けてしまうぐらい弱っちいのか、改めて認識しなきゃいけない。考えるのが嫌な事を、わざわざ自分から考えるとも言えるな」

 

 ウィークポイントを克服するために、まずは現状の自分がどれだけ弱いのか。それを考えなきゃいけない。

 

 基本的に人間は、自分の弱い部分を見るのを苦痛に思うので、わざわざ考えようとはしないのに、である。

 

 ハジメの場合は〝貧弱で戦えない自分〟だった。ミュウに当てはめるなら、〝強い人には逆立ちしても敵わない自分〟だろうか。

 

 どうやらミュウは、頑張って自分の弱さと向き合ってみたらしいが、すぐに渋い表情を浮かべた。

 

「うう、何だかモヤモヤするの。逃げたくなっちゃうの……」

「だよな。でも、だからと言って自分はダメダメだと思っちゃういけない。それが普通の反応だからな」

「パパは、このモヤモヤから逃げないで頑張ったの?」

「そうだ。モヤモヤして苦しく思っても、ハジメは絶対に逃げなかった。〝弱さ〟から目を逸らさずに受け入れた上で、今の自分には何ができるのか。そして何をしたら短い時間で強く逞しくなれるのかを考えて、全て実行したんだよ」

 

 口で言うだけなら簡単だ。妥協を一切許す事なく実行するとなると、途端に難易度は跳ね上がるが。

 

 ハジメパパの凄さを改めて実感し、目をキラキラさせているミュウに目を細めつつ、俺は話を続ける。

 

「自分は弱いと受け入れる。弱い今の状態でもできる事は何かを探す。それはそれとして、〝弱い自分を殺すぐらいのつもりで〟必死に努力する。この3つができた人は、〝心の強さ〟を手にする事ができる」

「心の……」

「ハジメが最初に手に入れたのは、敵を打ち倒す技術でも力でもなく〝心の強さ〟だ。だから、めちゃくちゃに強くなれた。俺が見てきた人の中で、ハジメの強さは別格だし、誰よりも急成長したと思ってるよ」

 

 心技体全てを欠ける事なく身につけている人は、案外少ないものである。だからこそ、強さも際立つのだが。

 

 俺が信用する仲間たちは、基本的に心技体全てを揃えていると言って良いだろう。その中でもハジメが群を抜いて〝心〟が強いので、それに比例するように〝技〟と〝体〟も強いといったところだ。

 

「……と、まあかなり難しい話だったと思うけどな。強くなるためには、まず心から鍛えようって事だよ」

「みゅ、分かったの! もっともっと強くなって、モヤモヤにも負けないぐらいになるの!」

「その意気だ」

 

 きっとミュウは強くなるだろう。逞しく大きい父の背中を追いかけていけば、必ずな。

 

「さて、難しい話はここで終わりだ。エリセンまではもう少し時間がかかるし、ハジメについていっぱいお話ししようぜ」

「! パパのお話し!」

 

 その後は、中身のない、しかし心安らぐ会話をミュウと楽しんだ。

 

 遠目で黒煙のような物が立ち上っているエリセンが見えるまでは。

 

 何だか嫌な予感がする。戦闘機に流し込む魔力の量を上げ、エリセンに急行しようとした。その時である。

 

〝マックくん。マックくん、聞こえる?〟

「ハジメっ!?」

「え、パパがどうしたの?」

 

 何の前触れもなく、〝念話〟を通じてハジメの声が俺に届いたので、ビックリして思わず声を出してしまった。

 

 1回深呼吸をして気持ちを落ち着けると、俺は努めて冷静に〝念話〟を使い、ハジメに向かって言葉を投げ返す。

 

〝聞こえてる。無事で何よりだが、こうしていきなり連絡を寄越したって事は、何か厄介事か?〟

〝うん。かなりの厄介事に巻き込まれてるよ……〟

 

 やっぱりか。相変わらずの巻き込まれ体質である。

 

 ツッコミを入れたい気持ちは山々だが、今は我慢しなければ。何か、とんでもなく厄介な事が起こってると、俺の直感が指し示しているのだ。

 

〝そこに行き着くまでの過程の説明は全部後回しにして、何が起こっているかだけ言うね。エリセンを、マスターハンドの大群が襲っている〟

 

 思考が停止する……寸前で、頭を振ってそれを阻止した。

 

 それが本当なら。真実なら。思考停止をしても良い時間は一切ない。急がなくては。

 

 戦闘機へ魔力を更に流し込み、飛行スピードを一気に最高速度である450kmhまで引き上げた。ガクンと戦闘機を揺らしてしまったので、ミュウを驚かせてしまったが、今はそれを気にする余裕はない。

 

『ケン、香織から〝念話〟が来たんだけど……』

 

 優花が無線越しに、白崎から似たような話が来たと伝えてきた。

 

「俺はハジメから来た。状況は理解している。すぐにエリセンを襲う奴らを全滅させるぞ」

『ん、了解。ケンは前方の敵だけに集中してね。周囲の敵は全部私が片付ける』

「任せた。ミュウ、今からかなり騒がしくなる。怖いとは思うが、俺と優花、それにハジメたちで何とかするから、今は俺たちの事を信じてこの指輪の中に入っててくれるか?」

「わ、分かったの! ミュウ、大人しく終わるまで待ってるの!」

 

 かつて、物言わぬ抜け殻と化した中村と檜山の肉体を収納した時の要領でミュウを指輪の中へ避難させると、1つだけ大きく息を吐いてから目を見開いた。

 

 エリセンはミュウの故郷だ。害を成すのであれば、何者であろうと容赦はしない。

 

 それがたとえ、俺がよく知る者だったとしても。

 

 戦闘機を猛追する大量のナイフを尻目に、俺は操縦桿に取り付けられた〝雷光〟の起動スイッチに指を触れさせた。

 

 ミュウを泣かすであろう〝敵〟をいつでも撃てるように。




 心技体。あるいは勇気、知恵、力。強大な力に呑まれないための、必須条件と言えるでしょう。

 さて、原作のミュウは極端に集中力が高いとされていますが、銃撃以外でも集中力を必要とする競技をやっていたバケモノが彼女の近くにはいますね。どんな怪物になるのやら。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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