異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
エリセンの上空を飛び回る、無数の白手袋。途轍もなく見覚えがある。
ハジメからの情報がなければ、マスターハンドをリアルに見た俺は間違いなくフリーズしただろう。そのぐらい、白手袋が何の原理もなくフワフワと飛び回り、更には多彩な攻撃をしている様子は衝撃的であった。
「本当にスマブラのマスターハンドそのものだな……」
距離が近くなるにつれて、あの特徴的な高笑いも聞こえてきた。声を聞いた感じだと、クレイジーハンドの方はいないらしい。
大量のマスターハンドの出現。そして、ついこの前戦ったギガクッパ。この2つから、俺はあまり起きては欲しくない厄介事が舞い込んで来た事を、何となくだが察してしまった。
その姿を目にするまでは信じないでおくが、まあ多分だけど現実逃避にしかならないのだろう。絶対に奴はいるし、対の存在もどこかに潜伏している。
「ただでさえクソみたいな神の面倒事に巻き込まれてるってのに、まだ増えるのか。リアルラック悪すぎだろ、俺たち」
軽くぼやきながら、俺は〝雷光〟の起動スイッチをポチッと押した。
途端に発射された〝雷光〟が、照準器で捉えていたマスターハンドに突き刺さる。
一撃でかなりの深手を負ったようで、エリセンに墜落しそうになっているマスターハンドを追加で3発ぐらい撃ち込んでその場で消滅させると、機首をグイッと斜め下に向けた。次の目標は、指の先からミサイルを発射しようと構えてるハンドたちだ。
狙撃するような形で4発〝雷光〟を叩き込むと、呆気なく1体のマスターハンドが消滅した。どうやら、撃破するには4発ぐらい直撃させれば良いらしい。
優花が繰るナイフたちが一瞬で3体のハンドを切り刻み、爆発させ、凍らせて、熱線を叩き込んで消滅させたのを尻目に、俺は民家を巻き込まないように機体の向きを調節させてから、対物ライフルのスイッチを入れた。
放たれた滅びの光は、射線上にいたマスターハンドを次々と巻き込んでいき、そのまま天を穿くようにしてどこまでも伸びていく。射程距離がどの程度なのか正確には知らないが、少なくとも雲を貫くだけの長さはあるようだ。ヤベえなこの武器。
しかし、今の一射で結構な数のマスターハンドが消滅した。相当数のマスターハンドがまだ生きてはいるが、見るからに数は減っている。
そんな激ヤバ兵器を搭載しているこの戦闘機を脅威に思ったようで、一挙に10体ぐらいのハンドたちがこちらに向かってきた。
真正面から突っ込もうとするお利口な奴はいない。本来なら死角である後方、上方、下方を陣取り、撃墜しようと各個弾幕を張ってくる。
後ろからのミサイル攻撃は、全て優花がナイフか〝雷光〟かで落としているから大丈夫。下方から仕掛けてくる直接攻撃も、翼下に刻まれた〝雷光〟を上手く使ってやる事で対処できる。問題なのは、上方からの攻撃だ。
指先から青色のレーザーを放って檻のように機体を囲い、そのまま徐々に檻を狭めて圧殺しようとしてくるマスターハンドへの対処を高速で思考した俺は、下方からの攻撃が一瞬緩くなった瞬間を狙って機体を180度回転させた。
背面飛行状態になれば、翼下に刻まれた魔法陣が上方のマスターハンドの方を向く。
「〝雷光〟!」
キッチリ4発放たれた雷は、レーザーを照射中で無防備だったマスターハンドに直撃。力なく少しの距離を墜落してから、光の粒子となって消滅した。
背面飛行のまま重力を操り、更に高度を確保すると、俺は無線に向かって叫ぶ。
「後は直接叩くぞ!」
返答はなくとも、優花を信じている俺はすぐさま逆さまの機体から脱出した。そんな俺とほぼ同時のタイミングで、機体から飛び出た優花の姿を確認すると、対物ライフルだけ残して戦闘機を指輪に収納する。
逆さまの状態で落下しながらも2丁の対物ライフルを〝投擲術〟で支配下に置いた優花が、一瞬俺に目線を送ってから対物ライフルを左右にガチャリと構えた。
何をするのか察した俺が、瞬時に〝空力〟を駆使する事で射線上から外れるのと同時に、対物ライフルの砲口が火を噴く。
先程よりは幾分か太さが控え目な、しかし死の極光には変わりない光線が放たれた。
不幸にも射線上にいた複数体のマスターハンドは瞬時に消滅。そのまま優花が何回かクルクルとスピンする事で、薙ぎ払うような形で動いた極光に巻き込まれたマスターハンドが続出する。
「……こんな物かな。あとは、1人で10体ぐらい倒せば行けるわよね?」
「だな。まあ、俺たちなら余裕だろ」
最初に見た時よりも、マスターハンドの数は随分と減った。これなら、マルス理論を実行すれば大方片付くだろう。
グータッチをしてから、俺たちは別々の方向へ飛び出した。優花はおそらく白崎のところへ向かったので、俺はハジメのいる方へ向かう事にする。
エリセン内に降り立つと、一層濃くなったハジメの気配の方へ走る。街はめちゃくちゃになっており、倒壊した建物が次々と俺の目に入るが、今は気にする事なくただ足を動かした。
一刻も早く、エリセンの安全を確保しなければならない。犠牲者に追悼の意を捧げるのは後だ。
「……いた。そこか」
やがて、マスターハンドたちと激闘を繰り広げるハジメの姿が肉眼でも確認できるようになった。
遠目からでも分かる。ハジメは、随分と服がボロボロになってしまっている。動きに翳りは全く見られないが、疲労感までは隠せていない。
そうなってしまった理由は、彼が背中側で庇っている女性にあるのだろう。
距離が近くなるにつれ、俺はハジメが必死に守っている女性の顔立ちに見覚えがある事に気がついた。
「まさか……」
1つの、限りなくそうである確立が高い可能性に辿り着く。同時に、ハジメがあそこまで必死になる理由もまた、察してしまった。
最後の一押しとばかりに〝縮地〟で加速した俺は、ハジメの黒傘と鍔迫り合いのような形で力比べをしようとするマスターハンドにジョルトとガゼルパンチを立て続けに叩き込んで粉砕。そのままの勢いで、右側から迫りつつあったハンドに一呼吸でジャブ、フック、ショートアッパーとスリーパンチまで入れてダウンさせた。
ダウンした個体に、爆破寸前の短筒が投げ込まれたのを確認してから、このクソ短い間に短筒を自爆させるまで撃った事で1体のハンドを片付けたらしいハジメと向き合う。
「よお、久しぶり」
「うん、久しぶりだね。それと助かったよ。ありがとう」
「困った時はお互い様だ。 ……で、そこの女性はもしかしてミュウの母親?」
「大正解。足が動かない状態でね。香織に治療してもらう予定だったんだけど、その前にマスターハンドの大群がエリセンを襲撃してきたんだ」
「間が悪すぎるなおい」
運と間の悪さもここまで来ると笑えてくる物である。
まあ、嘆くのも文句言うのも全て後回しにしようか。遠目ながら、結構なスピードでこちらに向かってくるマスターハンドたちの姿が見えるし。
数は……30ぐらいか。別方向へ向かった大群も、多分優花たちに全滅させられるだろうし、これを片付ければ一段落つくな。
「さて、と。久しぶりの共闘だな」
「オルクスでクラスメイトを助けに行った時以来だよね。本気で戦うって状況に限定するなら、下手したらライセン大迷宮以来かも」
「確かに。野盗をしばき回した時も、あの救援も。バカ勇者をブチのめした時も、お互いに本気出してはないしなァ」
何だかんだでハジメとの共闘は久しぶりだ。どれぐらい彼が成長したのか、楽しみな自分がいる。
既に黒傘を狙撃銃のように構え、超集中状態に入ったハジメを頼もしく思いながら、俺もスマッシュストレートを打てる体勢を取る。
先に動いたのはハジメだ。パシュッという軽い音が聞こえたと思ったら、黒傘の先端から超高速で飛び出した矢のような物がまだ遠くにいるマスターハンドの手首付近に突き刺さり、大爆発を起こしたのが見えた。
遠い日の記憶で、傘を銃に見立てて遊んでいた小学生を脳裏に浮かべながら、俺もスマッシュストレートをブッ放す。衝撃波かつ遠当てな事もあり、1度直撃してもマスターハンドは健在だったが、体勢を崩した事には変わりない。すぐに追い打ちで数発飛ばしてやると、呆気なく消滅していく。
ハジメと俺の遠距離攻撃により、奴らが俺たちの拳が届くぐらいの距離に辿り着いた頃には、その数を20程度にまで減らしていた。
「1人で10体ぐらい倒すぞ」
「ここまで来たら、やるしかない。僕たちならきっとできるってね」
「ははっ、流石だ」
その場でドッシリと構える。ここから先、1体たりとも後ろに通させやしない。
拳を握って砲弾のように突進してきたマスターハンドを、真正面から俺がスマッシュストレートをぶつけて粉砕したのを皮切りに、蹂躙劇がスタートする。
ハジメは左手に紫炎、右手に〝錬成〟の輝きを纏うと、ワン・ツーパンチで危なげなくマスターハンドを奇っ怪なオブジェクトに変化させた上で撃破していく。かなり高速化していて分かりにくかったが、どうやら紫炎を纏った左ジャブで傷を作ってから、〝錬成〟を纏った右拳でフックカットをする事で抉って内部から破壊しているらしい。
今日に至るまで、彼はワン・ツーをずっと使い続けていたのだろう。無駄は極限まで削ぎ落とされており、前隙も後隙もまるで見られない。1体撃破したら、またすぐ別の個体を撃破。倒したらすぐに次の個体。淡々と機械的に、作業のように潰していく。
背後へ回ってミュウの母親を襲おうとしても、彼の反応速度を上回る事はできない。正面を俺に任せ、バックジャンプからのノールック裏拳で迎撃する。
正面を任された俺は、僅かな間だが守りが薄くなったと判断したらしいマスターハンドたちを一挙撃破するべく、左右交互に〝集中強化〟を行いながらラッシュを繰り出した。
途端にアリすら入る隙間のない拳と衝撃波の雨が降り注ぎ、図体のデカいマスターハンドたちを面制圧していく。1発の威力がスマッシュクラスに高いという反則ラッシュを、逃げる間もなくマトモに受けた2体は即座にボロボロと消滅していき、数発だけ受けながらも何とか後退できた個体も見るからに動きが悪くなる。
少し離れようとした奴には、すかさずスマッシュストレートの遠当てだ。ラッシュより衝撃波の有効射程が長いため、多少俺から距離を取るだけでは逃げられない。
スマッシュストレートの衝撃波で消し飛んだ個体が3体。それでも尚、前に出ようとする勇敢なマスターハンドと、それを盾に遠距離攻撃を仕掛けようとするマスターハンドで別れる。まあ、どちらも正しい選択だろうし、連携としても正しい形だろう。
俺とハジメが相手じゃなければの話だが。
手のひらを広げ、ビンタのような動きで突進してきたマスターハンドはハジメがヤクザキックで穿き、その場に力なく崩れ落ちる。念入りに銃撃も食らってるので、もう再起不能だろう。
同じく手のひらを広げ、攻撃後のハジメを狙って上から降ってきた個体は、俺がダイナマイトアッパーカットで空の彼方まで吹っ飛ばした。
左右から挟み撃ちしようと拳を握ったマスターハンドたちは、天上を斬るようにして薙ぎ払われた黒傘をモロに受けて真っ二つに斬り裂かれた。ガノンがスマッシュホールドしてる時、不用意に近寄るなとあれ程言ったのに……あ、こいつらは知らんのか。無知は罪だな。
ミサイルやチャクラムのような光輪を、左拳だけ交換したオスカー製の籠手で反射しながら、一足先に距離を詰めていく。
マスターハンドたちは反射した飛び道具に当たってしまうようの間抜けではなかったが、回避を優先した事で俺への対処が遅れた。スピードがあるキャラを相手にする時は、一手遅れただけでも状況が途端に厳しくなると言うのに。
俺に接近された個体が慌てて迎撃をしようとした頃には、既に俺はスマッシュアッパーカットをブチ込む準備が整っている。
打ち終わった瞬間を狙い、背後からグーパンしてきたマスターハンドもいたが、すぐさまスリッピングで躱してからコンパクトなアッパーで反撃し、一瞬怯んだ隙にラッシュを叩き込んで撃破した。リトルマックが扱うスマッシュの後隙の短さを、舐めてもらっちゃ困る。
「マックくん流石!」
そう口にしながら、背後から飛び出してきたハジメは、俺より更に前に出た事で未だ倒されていないマスターハンドたちにロックオンされた。
だが、ハジメは一切慌てず黒傘を手にする。
反射板と共に放たれた事により、複雑な動きを見せるレーザーを、彼は動揺する事なくクラウドの空Nのような動きで弾き飛ばし、流れるように傘の先から〝天灼〟をぶっ放してそのままマスターハンドを1体焼き払ってしまった。
それを見ても尚、形振り構わずマスターハンドがハジメに殺到する。そう、ハジメの方だけに。
飛行機の形を作って突進してきたハンドを落雷蹴のようなドロップキックで容赦なく踏み潰しながら地上に降り立ち、傘を背中に提げて迎撃態勢を取ろうとするハジメの脅威は痛いぐらい分かるのだが。少し舐め過ぎである。
俺をノーマークとは良い度胸だな?
限りなく低い姿勢で疾走し、ドリルのように回転しているマスターハンドのうち1体が上昇したのを確認してから、俺は大きく足を前に踏み出した。
もう1体はそのまま突進しようとしている。ハジメの方へ一直線だ。上昇した奴の狙いもハジメであり、おそらく着弾するタイミングは同時だろう。
タイミングが分かっていれば、迎撃する事は容易だ。
「ハジメ!」
「うん!」
お互いの動きがシンクロする。
左手を前に添えながら左足を大きく前方に出し、身体を傾けながら拳を固く強く握り締める。
腰を回旋させながら、地面が陥没するぐらい強烈に踏み抜いて跳躍し、左拳を引き付けながら右拳を天に向かって突き上げる!
「「オリャア!!」」
ドォパアン!!!
2つの炸裂音が同時に響き渡り、地面を揺るがす程の衝撃波が辺り一帯を襲う。
幸い建物が崩れるような事は起こらなかったが、かなり強めの風が吹いた事で、ミュウの母親が可愛らしい悲鳴を上げている。ちょっとやりすぎたか。
マスターハンドを消し飛ばしたのを確認してから、腕を振って強張りそうになる腕の力を抜きつつハジメの方を振り向く。彼もまた、俺と同じように腕を軽く振りながら汗を拭っていた。
「これでキッチリ、あの宣言から1人で10体だな?」
「だね。いやぁ、それにしても相変わらず凄いねマックくんは。あんなダッシュからでも問題なくK.O.アッパーカットを打てるなんて」
「K.O.アッパーを打ててるハジメも大概だけどな……っと、マスターハンドは全滅したっぽいし、ミュウを出すか」
指輪に魔力を流し、ミュウを外に出す。
少ししてから飛び出してきたミュウは、そのままハジメパパにジャンピングハグを敢行した。
「パパぁー!」
「ミュウ! そっか、そこに隠れてたんだね」
幼女のジャンピングハグを受けても微動だにしないで受け止め、ごく自然に頭を撫で始める彼のパパ度合いに感心する。もうすっかりパパが板についているな。
そんなハジメパパが、ミュウに何かを囁くと、彼女はパパの元から離れて母親のところへダッシュしていった。
「ママーー!!」
「ッ!? ミュウ!? ミュウ!」
無理やり引き剥がされた、血の繋がった親子の感動の再会だ。俺とハジメは、邪魔にならない少し引いた場所からそれを眺める。
少しだけ、その光景が俺には眩しく目に映った。
「落ち着いたら、白崎たちと合流するか」
「レミアさん……ミュウのお母さんの足をしっかり治さないとだしね」
「そうだな。 ……このまま、ハジメハーレムの一員になったりして」
「いきなり怖い事言わないでくれるかな!?」
魔王、パパ、そして元来の優しくて普通の感性を持つハジメと、コロコロと表情を変えるハジメに俺は軽く笑い出した。
思えば、この数日間はこうやって、何の気兼ねもなしに笑う事がなかったな。ずっと、ハジメたちの動向が心配だったから。
「……無事で良かったよ、ハジメ」
「えっ? まあ、確かに色々あったし苦労もしたけど……」
「お前は、もう少し自分の存在が色んな人の中で大きな存在になってる事を自覚しろ。俺はもちろんだが、優花もミュウもだし、アンカジの人々も心配してたんだぞ」
表向きはハーレム男なので、変なやっかみに巻き込まれやすいハジメであるが、1度腹を割って話してみれば、ただの心優しい男子である事が誰であっても分かる。分からないのは、よっぽど捻くれている人だけだ。
同時に、彼がハーレムを成しても当たり前だと思ってしまう。そのぐらいに優しい。そして、自分自身には厳しい……と言うか、無関心である。
自分の存在なんて。口に出している訳ではないが、ハジメはそう考えている顔をする事が多い。まるで、かつての自分と同じように。
「少し。本当に少しだけで良いから、自分自身の事も大切にしろ」
「? 自分を大切に……?」
「良いから。そうだな、お師匠さんからのありがたいお言葉とでも思っておけ。頭の片隅に置いとくだけでも効果はあるだろうし」
「あ、ちょっとズルいよその言い方。どう言われても後で深く考えてみるつもりだったけど……」
「そうかい。まあ、たまには師匠面させてくれや。他称師匠の名が廃るし」
この調子なら、近いうちに彼も気がつくだろう。
ミュウに「パパ!」と呼ばれ、そっちの方へ向かうハジメの背中を見送りながら、1人誰ともなく呟く。
「どんな時であっても、大切に思い、そして思われてる人はいつでも貴方の幸せを祈っている、か」
その言葉を俺に送ってくれた主は、今は見えない。
しかし、どこかで見守っているだろう。
「優奈……」
煌めく1番星。そしてその近くを通り過ぎていった流れ星だけが、俺の呟きを聞いていた。
逆さまの状態で降下しながらローリングツインバスターライフルとかいう属性モリモリなシチュエーションを描けて満足です。
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