異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
エリセンで大暴れをしてから数日後。俺たちは、大迷宮があるらしい【メルジーネ海底遺跡】の方へ向かう事にした。
その間、ハジメはミュウの母親であるレミアと、更に彼を取り巻く女性たちと、それを見て嫉妬に塗れる海人族との板挟みで随分と大変そうだった。そう言ったやっかみが基本的に存在しない俺とは、清々しいぐらいに真逆である。
まあ、全てハジメ自身の問題だ。俺が干渉できる事はない。
干渉できるような時間的余裕が全くなかったとも言えるが。
ずっと優花と恋人らしくノンビリしてましたよ。結局アンカジでは、あまり2人きりでゆっくり過ごせなかったので。大変可愛らしい姿を何度も何度も拝ませていただきました。砂糖の過剰摂取で早死にするのではないかと勘違いするぐらいには。
大迷宮攻略後は定番となりつつある装備品のアップグレードも済んでいる。〝空間魔法〟を使った装備品の数々は、どれもこれも使い勝手が良い物ばかりだ。
例えば新しく作られた、〝空間魔法〟を付与されている籠手やナイフ。これを使って殴ったり斬ったりすると、一瞬だけ空間が文字通り裂け、そして戻った際に発生する破壊のエネルギーで攻撃するのだが……その威力がちょっと笑えないぐらいに凄まじい。
端的に言ってしまえば、〝魔力操作〟ができる者ならいつでもK.O.アッパーカットに近い一撃を、通常攻撃ついでに繰り出す事が可能になった。もう字面からしてとんでもなく強いのが分かるだろう。
俺が装着して、そのままK.O.アッパーカットを繰り出したらどうなるのか。そして格闘戦に特化しているハジメやシアが籠手を装着したらどうなるかは、何も言わずとも想像できるはずだ。
格闘戦特化の俺たちより、〝空間魔法〟が付与されたナイフを使う事で、遠隔操作で魔法を発動できる術を持つ優花の方が遥かに恐ろしい気もするが。
あとは、便利な倉庫代わりに普段から使っている指輪の簡易版の製作に成功したハジメが、仲間全員にプレゼントしていた。容量は一般的な家庭用倉庫と同じぐらいと言っていたので、普段から使う頻度の高い物を入れておけば何かと役に立つだろう。
なお、形状が指輪という事もあって、ハジメたちの間では一悶着あったのだが、俺は知らぬ存ぜぬである。
「ケンから指輪をいつプレゼントされるのか、今から楽しみにしてる」と優花から言われた時は、流石にドキッとしたが。
……タイミング、しっかり考えないとだ。
閑話休題。過去の話はここまでにしようか。
俺たちは現在、ハジメお手製の潜水艇を使って大迷宮の捜索に乗り出している。本来なら帆船辺りを使用するか、魔法を使っての地道かつハードな捜索になるのだろうが……味方にロマンを愛する錬成師がいれば、この通り通常より遥かに楽に事を進められるのはありがたい。
まあ、武装が超絶モリモリ&潜水艇なのに居住性が高すぎてちょっと引いたけどな。カタパルトから魔力駆動戦闘機を射出できる機能とか、一体何を想定してるのだろうか。俺にはサッパリである。
海底の大迷宮へ行くには、〝満月〟と〝グリューエンの証〟が必要との事だったので、入り口のポイントで夜を待つまでの間を使ってハジメに色々聞いてみたのだが、俺が理解できたのは多分10%ぐらいなのではないだろうか。
一応、彼的にはどうしても外せないポイントらしいのは分かったのが……。
「そりゃマックくん。ロマンは外せないでしょ」
「そんなもんかなァ……」
夕刻になり、2人で甲板に腰を下ろしながらの会話でもこんな調子である。
「実用性を重視するもんだと思ってたんだが」
「使える、使えないが全てじゃないんだ。存在する事の方が僕的には重要なんだよ」
「魔人拳やアイムールみたいなもんか……?」
「まあ近いけど、それよりカタパルト射出ってロマン溢れる展開じゃない? しかも爆撃機の皮を被った怪物飛行機だよ? うーん、僕ならテンションが際限なく上がっちゃうな〜」
「分かんねぇ……」
日本に住んでいた頃は、技としてはできる〝リトルマックの〟ジョルトブローやバリーブローは、実用性の観点から全く使わない事を徹底していたからだろうか。どうもハジメの語るロマンを理解しきれない自分がいる。
これでガノンメインやベレトメインだったら多少は理解できたのだろうが、残念な事に俺は生粋のマック使いである。ぱっと見はロマン色の強い気合いストレートも、性能を見ると意外と実戦向きだし。
ロマン。実に難しい物である。
「そこまでロマンを重要視するのは、何か理由があるのか?」
ふと浮かんだ疑問をハジメにぶつける。
特に理由はないと言われても、俺はおそらく納得できる。世の中にはそんな考え方もあると、自分の中で理由付けできるからだ。
だが、仮にしっかりとした理由があったら。それはそれで、是非とも聞いてみたい物である。
ハジメは、特に気を悪くする様子は見せずに懐から何かを取り出した。
「理由は〝ここ〟にある」
「……スマホ?」
「充電器を作ったから、いつでも問題なく起動させられるよ。1番欲しているネット回線だけは、相変わらず死んだままだけどね」
「まず充電器を作れてる辺りが、想像と創造の天才であるハジメらしいがな」
ハジメの指紋認証で起動し、軽く操作された状態で手渡されたスマホに目を向ける。
目に飛び込んできたのは文字の羅列だ。どうやらメモ帳アプリを起動しているらしい。
タイトルは、異世界召喚・厳選心得七箇条+α。
「これは、両親と〝異世界に召喚されたらどうするか?〟って議題で盛り上がった時の勢いでまとめた物だよ。異世界に来てから追加した物もあるけどね」
本来ならツッコミを入れるところだろうが、ハジメの両親がどんな人物か知っている俺は特に驚く事なく読み進める。
南雲家は全員が〝趣味の合間に人生〟を座右の銘としている。そして、おふざけにこそ全力を注げるだけの心の広さを持て、なんて信条もあったりするので、このような脳が理解を拒んでもおかしくない物が現れても問題ない。俺は、だが。
「へえ。一見ふざけているが、どれも中々に的を得ているな。それにこの、+αの部分……」
以下+αと律儀に記された段落。その1行目には、こう書かれていた。
〝どんな時でも遊び心を忘れるな!〟
この遊び心とやらが、ハジメの中で何を指し示しているのか。俺なら分かる。
「遊び心、か。確かにそれを感じさせる装備を作ったり、技を習得しているよな」
「今でもたまに、どうしようもなく不安になったり、センチな気分になる事があるんだ。でも、そんな時こそ遊び心を、ロマンを忘れないようにしてる。クリエイター南雲ハジメとしての原点でもあるからね、遊び心は」
「……そうなのか」
「僕が南雲ハジメという人間であるために必要な事とも言えるね。遊び心を忘れてしまったら、僕が僕じゃなくなってしまう。身体と精神性がバケモノみたいになってしまった今だからこそ、決して忘れないように。そして見失わないようにしているんだ」
そう言って笑うハジメに、俺は軽く圧倒される。
やはり、強いな。南雲ハジメって人間は。
「自分の原点を見失わない、か」
地平線の彼方に顔を半分だけ見せている太陽と、その陽光によって生み出された夕焼け色の海を眺めながら、俺の原点を思い返す。
不純な動機から、いつの間にか高尚な物へと変わっていったな。自分でも笑っちまうぐらいに。
「ハジメ。俺のスマホも充電したい。貸してくれるか?」
「もちろん!」
俺の原点もまた、スマホのファイルの中にある。
忘れている訳ではない。だが、たまには改めて思い返す時間を取っても良いだろう。
甲板へ上がる階段の方から、キャイキャイと賑やかな声が聞こえてきた。そろそろ、バスタイムを終えた女性陣がこっちにやって来る。
それとなくハジメから離れ、これから発生するであろう嵐に巻き込まれないように避難した。
――ケン先輩の原点、私も知りたいなぁ
今宵は満月だからなのか、いつの間にか姿がハッキリと視認できるようになった優奈が、そんな事を問うてくる。
「知ってるだろ、君なら」
――先輩の口から聞きたいの
困った。こうなると、意地でも俺が口にするまで聞いてくるな。
反応からして、まず間違いなく知っているだろうに。彼女も中々良い性格をしている。
何も言う事なく俺のすぐ隣に立ち、腕に抱き着いてきた優花も、期待の眼差しをこちらに向けている。とても逃げられそうにない。
軽くため息を吐いてから、俺は諦めて口を開いた。この2人には、どうも対応が甘くなりがちである。
「〝笑顔〟と〝約束〟だ」
そう言いながら、ほんの少しだけ充電できたスマホの電源を入れる。
ややあって、長い間沈黙していたスマホの画面に光が灯った。
操作をして開いたのは、ギャラリーアプリである。ファイルの破損は……うん、良かった。してないみたいだな。
――その写真って
そうだよな。優奈なら、分かって当然だろう。
スマホの画面には、お姫様抱っこされて笑顔を浮かべている優奈と、やや苦笑気味でありながらも幸せそうにしている俺の写真が表示されていた。
「戦う理由ってのは、昔から結構な頻度で変わっていたんだけどな。今の俺を形成するにあたって、原点となるのはやっぱりこれだ」
「優奈ちゃんの笑顔。それと……約束?」
「ああ。盛大に脳を焼かれてしまったよ。もっとその笑顔を見たいと、そして守りたいと思った」
優奈と出会わなければ、間違いなく俺はリトルマックをトレースするなんて暴挙に出る事はなかった。スマブラガチ勢になろうとも考えなかっただろう。
それに〝約束〟がなければ、今こうして生きているかどうかも怪しいな。
いきなり異世界へ飛ばされて、さあ戦えと言われても、今日まで生き残れるとはとても思えない。生きたいと思える出来事が皆無だから。
「ちなみに、優花の笑顔は〝原動力〟だな」
「ふえっ」
「恋人の笑顔を見て、何も感じない訳がないだろ。それに、ちょっと寂しそうな顔をしていたのもお見通しだ」
「……バカ、わざわざ言うな」
悪態を口にしながらも、一向に離れようとしないどころかより強く抱き着く優花。ピョコピョコ動くネコ耳と、ブンブン揺れるネコの尻尾が見える見える。
――私も、今の優花お姉ちゃんみたいな表情を浮かべていたんだね。それでも気がつかない中学生当時のケン先輩、ちょっと鈍感すぎない?
「当時の俺は、愛される価値なんて物は皆無だと思っていたから……」
――うん、分かってた。分かってたけどさ。でも、この写真撮った時はちょっとだけムカッとしたよ。だからこそ、あんな暴挙に出たんだけどね
「……あの時すぐに、キスされたって気がつかなくてごめんな」
――まあ、悪いのは先輩の幼少期から少年期にかけての生活環境にあるからさ。気がつかないのも当然かなって思うし、それに対して怒ったり悲しんだりもしないよ
「優しいな、本当に」
――そのぐらいケン先輩の事を理解してたし、大好きだったから。ああでも、他の人がどうかは、ちょっと分からないけどねぇ
そうだな。君以外の人間だったら、あの場でどんな惨劇を起こしていたか。想像もつかないし、したくない。
と、ここで俺の腕に顔を埋めていた優花が、いつの間にか顔を上げてこちらを見ている事に気がついた。
心做しか、むくれ顔に見える気がするのだが……。
「……私も、同じ立場だったら気にしてないもん」
「えっ」
――なになに、優花お姉ちゃん嫉妬してるの?
「っ、してない」
――またまた〜
「してないってば! 単に、私もそのぐらいケンの事が大好きだから分かる話ってだけだし!」
――ふーん。まあ、どれぐらい好きかって観点なら私とお姉ちゃんは全くの互角だろうねぇ。でも、1番の理解者って立場だけは譲れないかな
「聞き捨てならない発言ね、それ」
俺を挟んで爆弾のキャッチボールを繰り広げる優花と優奈を見て、これを常日頃から捌けているハジメは紛う事なき勇者であるとボンヤリ考える。こうでもしないと、精神が保ちそうにない。
まさかこの場で、爆弾キャッチボールを開始するとは思わなかった。もっとシンミリした時間になるかと思ってたよ、俺。
その後もギャーギャー……いや、2人とも可愛らしい声してるからニャーニャーとしか聞こえないが。とにかく言い合っている2人に挟まれていた俺だが、遠くの方の海面が突如大きく揺れたのを見て、思わず目を細めた。
何か、途轍もなく嫌な予感がする。そう感じて籠手を装着したのと、更に大きく海面が揺れたのはほぼ同時であった。
不規則に揺れる潜水艇から振り落とされないように踏ん張りつつ、俺は海面を注視する。既に仲間も異変に気がついたようで、各々が臨戦態勢を取っていた。流石の対応速度である。
やがて海面から顔を覗かせたのは、水族館で見る事があるクリオネのような生物であった。全長は10メートル近くか……いや、もっとだ。現在進行型で、どんどん巨大化していってる。
魔法を使っているのか、宙に浮くようにして留まっている巨大クリオネは、そこから何の前触れもなくこちらへ急速に接近してきた。
「っ、跳ぶぞ!」
一瞬だけ潜水艇に籠もって戦う事も考えたが、武器が限定される事を恐れた俺はすぐに跳び上がった。それに、水中戦はあまりにも自由が利かなすぎる。嬲り殺しにされるのがオチだ。
ハジメパーティーは竜となったティオの背に乗り、優奈を憑依させた俺と優花は〝空力〟を駆使してどんどん高度を上げていく。
逃がすまいと無数に飛来するクリオネからの触手、そして頭部から機関銃のように放たれたゼリーの飛沫を、ナイフを使う事で俺たちに触れるよりも遥か手前で迎撃し始めた優花だが、すぐに眉を顰めた。
「切っても焼いてもすぐに再生する。しかも、デフォルトで触れると溶かされるみたい」
魔法で迎撃をしているユエと白崎も、全く同じような感想を述べているのが聞こえてきた。
それが本当なら、近距離で迎撃するのはマズいな。拳銃や黒傘があるハジメや、一応リーチの長い大槌があるシアはともかく、拳一辺倒の俺はかなり気をつけなければなるまい。
相性的には最不利レベルの相手となるだろう。しかも、割と詰み対面に近くなりそうだ。
……独りぼっちでここに来ていたら、だけどな。
チーム戦でなら、負ける気はしないね。
ハジメくんの心の支えとなった携帯ネタ、個人的には凄く好きなので、このタイミングで使わせていただきました。
さて、巨大クリオネこと悪食は本来なら大迷宮内で遭遇する魔物ですが……ありふれ零にて、悪食は強い魔力に惹かれてやって来る描写があります。
原作では香織さんが檜山イベント未消化&オリキャラ不在ですが、本作ではハジメくんレベルの魔力を持つ人物である超強化香織さんと魔改造優花っち、そしてやや魔力量は劣るものの、決して少なくないマックくんがいます。しかも潜水艇という狭い場所に集まってる状態で。悪食目線だと、無茶苦茶にデカい魔力の塊なんですよね。
「向こうにご馳走がある! 大迷宮で無限ポップする魔物をチビチビ食べてる場合じゃねえ!」って事です。
マックくんの新たな恋人候補
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〝初恋枠〟優奈ちゃん
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〝妹枠〟ルウちゃん
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〝大穴枠〟恵里さん
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ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
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アルテナを始めとする亜人族の皆様方
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〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々