異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
爆発的に転移陣を中心に光が広がったと思うと、俺たちはあっという間に場を移動していた。
ついさっきまでの海底都市は影も形もない。代わりに、4本の巨大な支柱で支えられている神殿のような場所に出た。支柱の間に壁はなく、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。また、周囲を海水で満たされたその神殿からは、海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。
そのうちの1つに、俺たちは立っている。また別の足場には、ハジメたちの姿もあった。どうやら、たった今ここに辿り着いたようだ。
「あれ、マックくんたちじゃん。無事だった?」
「一応な。お前たちも見た感じは問題なさそうだ」
一瞬だけハジメは優奈の事を見たが、特に何も言わないで俺にまた目線を向ける。害はないと判断したらしい。
あと、言及する間もなくユエが胸元に飛び込んできたのもあるだろう。
「おお〜、躊躇いなく行ったね」
「受け止めてくれる事を微塵も疑ってない証拠だよな。まあ、その辺りは優花と優奈どっちも同じだけど」
「ちょ、ケン!?」
「あはっ、確かに言えてる。私もお姉ちゃんも、ケン先輩が受け止め損なうなんて事は絶対にないって心から信じてるよ」
「優奈ちゃんも、何でそう恥ずかしい事を簡単に言えるのかな!?」
優奈が会話に混ざると、優花は完全にツッコミに回ってしまうようだ。俺と優奈は全力でボケ。対するツッコミの人数不足は、中々に深刻だろう。知らんけど。
優花と優奈が絡む様子はレアなので、2人の知らない表情や態度がコロコロ出てくるのを、俺は勝手に楽しんでいたりもする。
とは言え、いつまでも戯れているわけにも行かないので、タイミングを見計らって、俺は中央の魔法陣目指して歩き始めた。
ニコニコと柔らかい笑みを浮かべている優奈と、ムスッとした表情ながらも揺れる猫の尻尾は隠せていない優花がそれぞれ俺の手を握る。息ぴったり。
全員で祭壇にある巨大な魔法陣に足を踏み入れると、いつものように脳内を精査され、記憶を読み取られた。だが、今回はそれに加えて、他者の記憶の共有も強要させられた。要は、ハジメたちが見たり聞いたりした事を俺たちも知ったという事である。あの凄惨な光景を思い出した後に、追い打ちでエグい光景をお出しされてちょっと吐き気がする。ハジメたちもハジメたちで、俺たちが見たり聞いたりした記憶を強制的に閲覧させられて、かなり顔が引き攣っていた。
彼らは、どうやら俺たちと同じように2国間の戦争を体験したようだが、地上戦ではなく海戦だったらしい。数多の戦闘艦を次から次へと乗り継ぎ、無表情を心掛けて狂人を屠っていくハジメたちの姿が俺の脳裏に刻まれた。
その後は、何者かの手によって狂わされたであろう人間族が、和平を結んでいた亜人族や魔人族の長らしき人物を、パーティーの場を使って始末する場面だったり。あとは、怪奇現象と戦う様子も見せられた。
……白崎が、めっちゃ怖がっていたのが印象的であった。こいつ、怪奇現象に弱いのか。
ようやく記憶の確認が終わり、無事に全員攻略者と認められたようである。俺たちの脳内に新たな神代魔法が刻み込まれていった。
「〝再生魔法〟か。これ、失った物を新たに生やすと言うよりは、過去の状態に〝戻す〟の方が正しいな」
「……相変わらず趣味悪いなぁ、解放者。ここでこの力って、大陸の端と端なんだけど」
めっちゃ渋い顔をしているハジメ。気になって理由を尋ねてみると、亜人族が生息する【ハルツィナ樹海】の中にあるとされる大迷宮へ挑むためには、この〝再生魔法〟が必須になるとの事だった。
俺も何とも言えない気分になり、ハジメのように渋い表情を浮かべてしまう。確かに悪趣味だわ。
だが、魔法陣の輝きが収まり、地面から直方体がせり出てくると、俺はそっちに意識を集中した。小さめの祭壇のようだ。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやら、オスカー・オルクスと同じくメッセージを残したらしい。
人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ。
彼女は、まずオスカーと同じく自己紹介をしてから、解放者と神々の真実を述べると、ほんの少しだけ寂しさが混ざっているに微笑みを浮かべた。おっとりとした口調だが、苦楽を共にした仲間の事を想っているのだろう。
「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」
そう言ってメイルは口を閉じ、その姿を消した。そして入れ替わるように現れたのは、コイン型の大迷宮攻略の証である。
更に、もう1つ姿を見せた物があった。
水面の一部が沈んでいき、ゴゴゴッ! と秘密基地から航空機が出現するようなノリで姿を見せたのは、先刻凄まじい激戦を繰り広げた魔装潜闘艇である。
恐る恐る近づいてみるが、特に防衛迎撃をしてくるような事はない。二輪や戦闘機のように魔力を流してやれば、普通に操れるようだ。
「攻略のご褒美、か」
色んな意味でとんでもねえアーティファクトだが、こいつを貰えるのはありがたい。俺はあくまでこいつを兵器としか扱えないが、ハジメなら解析した上で改良もできるだろうからな。
と、一通り魔装潜闘艇の確認が終わったタイミングで、轟音と共に何の前触れもなく海面が上昇を始めた。どうやら、渡すもんは全て渡したから強制排出という流れらしい。
大慌てで全員が魔装潜闘艇に乗り込み、俺とハジメで手分けして全ての機能を起動させたタイミングで、天井部分が大きく開いて海水の流れ込む量が激増した。そうして生まれた堅穴に流れ込んで、魔装潜闘艇は噴水に押し上げられているかのように上へ上へと進み始める。
途中行き止まりになっていたので、このまま激突するかと身構えた俺だが、幸いにもぶつかる寸前で行き止まりの壁がスライド。勢いを失う事なく、魔装潜闘艇は海中へ放り出された。
魔装潜闘艇の機能に問題は発生せず、そのままのどかな航行を始めたが。俺たちはそうも行かない。端的に言えば、穏やかな気分ではない。
「……ハジメ」
「うん。声の調子や佇まいからレミアさんみたいなタイプかと思ったけど、全然違った。過激で大雑把なのかもしれない……ミレディみたいに」
「解放者の男連中、苦労したのかもしれないな」
特に寡黙とされているナイズ・グリューエンや、日記の様子から生真面目だと察せるラウス・バーンは、気苦労が絶えなかったに違いない。
え、オスカー? 間違いなく苦労はしただろうが、あのミレディを完全に落としてるし。多分、近しい感性は持っているのではないだろうか。ミレディが大迷宮から俺たちを強制排出した時、全く止めようとしなかったしな。何なら、ちょっと楽しそうにしてた気もする。
……ちょっとムカついてきた。今度会ったら、一撃ぐらいは許されるか。
同じような事を考えているのか、黒い笑みを浮かべ始めたハジメと互いに頷き合う。よし決まり。それぞれスマッシュストレートを一撃ずつ行こう。
「ケン先輩が悪巧みしてる時の表情、以前と全く変わらないねぇ」
「……何で覚えてるんだよ。てか、そんな状況あったっけ?」
だが、優奈の声で正気に戻った。
「ほら、八百長試合を仕掛けた人たちの件とかさ」
「ああ、勝った直後のインタビューか。確かに、客観的に見たら相当黒い笑みを浮かべてたと思うが……よく覚えてたな」
「そりゃあ、私にとってケン先輩と過ごした半年と少しの日々は、それまでの人生よりも大切で重たい物だからね。忘れる訳がないよ」
とんでもなく重い発言であるが、あまり気にせず俺は「そうかい」と答えた。多分、彼女と同じ立場だったら、そうやって考えるぐらいに。俺にとっても、大切な存在だったから。
「ええっと、マックくん。そろそろ、その人についての情報を聞いても良いかな?」
「……優奈」
「良いよ。全部過去の出来事だし」
一応確認を取ってみたが、優奈からの返事はノータイムでOKであった。
大迷宮の攻略中で話を聞けなかったユエを筆頭に、ハジメたちも相当に気になっているらしい。白崎なんかは、心配そうに優花を見ている。
「先んじて言っておくと、浮気じゃない。俺たちの関係は、数年前に終わっている」
「死んだからね、心臓病で」
友人以上の関係ではあったが、断じて恋人ではなかった。俺にとって、初恋の人ではあったが。しかし、恋人関係にまで発展したのは、優花が初めてである。
メイルの話を聞いていた段階から、実はずっと俺の手を握っていた優花の手を優しく握り返し、更に頭を軽く撫でてから、また俺は口を開いた。
「彼女は……優奈は、俺の原点に当たる人物だ。ボクサーとしても、ゲーマーとしても、な」
さて、どこからどこまでを話そうか。
優花にも、まだ全てを話したわけではない。彼女との関係を語るには、血と呪いで彩られた忌々しい記憶もある程度は語る必要があるから。
……しかしまあ、良い機会でもある。かつてと同じように心を全力で凍らせた事で、昔の記憶を今なら昨日の事のように掘り起こせそうだし。流石に全てを話すつもりはないが、多少は良いだろう。今日を逃したら、次はいつになるか分からないしな。
「私も、お姉ちゃんもいるからね」
最大の懸念事項も、まあ何とかなるか。
過去に起きた出来事を、記録として読み上げるかのようにして。俺は、取り敢えずの目的地であるエリセンに到着するまでの間、口を動かし続けるのだった。
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朝日が地上を優しく照らし始めるぐらいの時間に、魔装潜闘艇はエリセンに到着した。ハジメたちは、一足先にミュウとレミアのところへ向かったので、今は優花と優奈しか俺の近くにはいない。
そして、優奈の身体は。また、少しずつ透き通り始めていた。
「やっぱり、長続きはしないのか」
「こればかりは仕方ないよ。〝神様〟との〝約束〟だから」
そう言って苦笑する優奈。
彼女の実体化は、様々な条件が重ならなければいけない物らしい。どうやら、死に際に見た天体ショーが大きく影響しているとの話だったが、〝神様〟との〝約束〟の全容までは教えてくれなかった。
「まあ、また条件が上手く揃う日があれば、今回みたいに実体を持てるからさ。それまでは、霊体で我慢してね?」
「我慢も何も、故人とこうやって話せてる時点で俺としては大満足だけどな」
「ホントよ。 ……久しぶりにゆっくり話せたと思ったら、すぐにこれだから、ちょっと寂しさもあるけど」
「寂しがり屋なのも変わらないね〜、優花お姉ちゃん。でも、昔と違って今はケン先輩がいるでしょ? 存分に甘え倒しちゃいなって」
「そう、ね。良い?」
「言われずともそのつもりだった」
「ふふふ、やっぱりケン先輩はそう言うよね」
俺と優花の事を、誰よりも理解しているからこその発言である。普通なら鼻につく言い方だが、他でもない優奈だからな。全く俺たちは気にしていない。
そうしている間にも、どんどん身体が透き通っていく優奈は、最後に俺が大好きだったとびきりの笑顔を浮かべた。
「じゃ、そろそろ霊体に戻るね。またその日が来るのを楽しみにしてる!」
そう言って、優奈は朝日に照らされながら、その姿を静かに消していった。
これで最後ではない。それは分かっている。だが、寂しさを感じるのは俺も優花と同じだ。
何となく気を紛らわせるために、魔装潜闘艇の甲板に腰を下ろして、水平線から顔を覗かせる太陽によって美しく照らされている海面を見る。
たまに起こる白い波飛沫は、まるでダイヤモンドダストのように輝いていた。
「ねえ、ケン」
「……うん」
「甘えたい」
「どうぞ」
魔装潜闘艇に備え付けられた〝気配遮断〟を起動させてから、俺の肩に頭を置く優花の頬をムニムニする。
最初はされるがままだったが、少しすると自分から頬を俺の手に押し付けてきた優花を愛おしく思いながら髪の毛を手櫛をしてやると、彼女は気持ち良さそうに目を細めている。
優花の口元に浮かぶのは微笑み。多分、俺も無意識に口元が緩んでいるだろう。
「……夢みたいな時間だったわね」
「そうだな」
「ルウちゃんの1件から、何となく優奈ちゃんの霊がケンに取り憑いているとは思ってたけど。まさか、生きている人と同じようにコミュニケーションまで取れるとは思わなかった。甲板での会話も、当たり前のようにやっていたけど。よくよく考えたら、あれ普通じゃないよね」
「もっと、早く伝えてれば良かったな。ごめん」
「ううん。最近は結構忙しかったから、言い出すタイミングはなかったと思うし」
世の中の男子が、喉から手が出るぐらいに欲するだろうと思うぐらい、どこまでも理解のある恋人である。
「私としては、本来なら話せただけでも満足なのに。ケンの話題で盛り上がれたから、本当に楽しかった」
「そうかい。 ……俺の話題で、そんな盛り上がれるのか?」
「そりゃもう、大盛り上がりよ。ケンの好きなところを出すだけでも、多分一晩は語れるんじゃないかってぐらいだったし」
優花が、真正面に移動してきた。
ギュッと抱き着いてから、優花が俺の両頬と唇に軽いキスを落とす。
「これは私の特権だって、お互いに自慢し合うのも中々面白かったわよ」
「実践するんかい」
「私だけの特権だもの」
そう可愛い事を宣う優花に、今度は俺からキスを返した。
少し顔を赤くする優花。まさか、やり返されるとは思ってなかったみたいだな。
「じゃあ、これは俺だけの特権だな」
「……確かにそうだけど、ズルい」
「先に仕掛けたのは優花だぞ」
「だとしても、ズルい。そんなズルい貴方も、大好きなんだけどさ」
また、キスが返される。それに応えるようにして俺からも返すと、また優花からキスされる。その繰り返しだ。
ドロリとした愛欲が胸の奥から湧いて出てくるまで、そう時間はかからなかった。
今回の戦利品は再生魔法と魔装潜闘艇です。特に再生魔法については、既に技量が極限の領域に達している香織さんの強化っぷりが凄まじいですが、マックくんとの相性が異次元レベルに良い神代魔法でもあります。
タフなマックくんがオートリジェネを使うエゲツなさもありますが、それ以上に攻撃目的の再生魔法との相性がヤバいです。例えば相手に触れないと発動しないけど、過去の傷を再生する〝壊刻〟とか。
マックくんの新たな恋人候補
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〝初恋枠〟優奈ちゃん
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〝妹枠〟ルウちゃん
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〝大穴枠〟恵里さん
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ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
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アルテナを始めとする亜人族の皆様方
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〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々