異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 今回で投稿した話数が100話になります。

 1つの節目と言う事で、今回から暫くの間はアンケートを提示しようかと思います。お題は「マックくんの恋人候補」です。

 あくまで候補なので、正妻の優花っちを認めさせて恋人関係に至るかはまだ分かりません。また、原作におけるハジメくんの恋人たちは除外しています。


怨嗟と狂気の果て

 優花に〝念話〟を送ってから、ギアをもう一段階引き上げた俺は、同じくギアを上げたハジメと共に掃討戦へと入った。

 

 あれだけ視界を埋め尽くしていた魔人族の軍勢も、今は見る影もない。

 

「黒傘三式〝創流〟」

 

 ハジメが黒傘から発射した激流が、既に消耗しきって戦うのが難しい魔人族の軍勢にトドメを刺していく。荒れ狂う激流に顔面を撃ち抜かれ、溺れて気絶したり頭部の形が変わったり。何とか避けても、足元が水場となる事で動きを阻害する。

 

 そこを逃がすほど、俺も甘くはない。足場が悪くなった地面には足をつけず、〝天歩〟で空中を駆けて距離を潰し、1人ずつ丁寧に脳を揺らして意識を奪っていく。

 

 ハジメも〝纏雷〟を発動させながら突進し、でバチバチと音を立てる黒傘で切り裂きながら〝雷光〟を発動させる事で、切っ先が向いた先にいた魔人族や魔物もまとめて両断していった。雷が迸る剣技は勇者のギガデインや、ルフレのサンダーソードを想起させる。相変わらず、クリエイティブな戦い方をするな、彼は。

 

 足元が水場となっている事で、黒傘が振り下ろされた際に凄まじい電流が発生し、近くの敵を一気に屠っていくハジメに恐れをなし、背中を見せて一目散に逃げようとする魔人族の軍勢。それを容赦なく十字架からの砲撃でブチ抜いていく様子を見て、1度俺は足を止める事にする。

 

 仲間からの〝念話〟が続々と入り、戦況を報告していくが、ユエ以外からは敵の殲滅を告げる物であった。

 

 当のユエからは、不満げに「フリードを逃した」といった旨の〝念話〟が来たので、俺はほんのり苦笑する。ユエは本気で仕留めるつもりだったらしいが、それから命からがら逃げれたフリードの悪運は、いっそ称賛してやっても良いかもしれないと感じる。

 

 優花からは未だに〝念話〟が来ないので、もしかしたらまだ戦闘の最中かもしれない。それも、〝念話〟を飛ばせないぐらいに激しい戦闘の可能性が高そうだ。

 

 彼女の気配を探り、援護に向かってやるべきかと考えた俺だが、すぐに顔を上げて咄嗟に構えた。

 

 ハジメも、残りが随分と少なくなった魔人族の軍勢を滅する手を止めて、俺と同じ場所を睨んでいる。

 

 俺たちの視線の先には、神々しさと毒々しさを同時に感じさせる色合いの〝ゲート〟があった。

 

 この状況で開くゲートは、真っ先に軍勢の増援を疑う。だが、どうも違うらしい。ゲートの奥から感じる気配は2つだけだ。

 

 数は少ないのに、ここまで警戒をしている理由。それは、知っている気配だからである。

 

「まさか……」

 

 俺の当たって欲しくない予想は、残念ながら的中してしまった。

 

 ゲートから姿を現したのは、虚ろな目をしている中村と、生前よりも更に醜悪な表情を浮かべている檜山である。

 

 姿を消したと聞いた時から、こうなると予想はしていた。だが、いざ本当にその面を見てしまうと、沸々と怒りと殺意が湧いてくる。

 

 2人とも生前とは異なり、ノイントやアハトのような真の神の使徒と同じ魔力を身に纏い、灰色の混じった銀色の翼を生やしているので、エヒトに回収されて力を分け与えられ、傀儡人形になったのだろう。

 

 どこまでも哀れな奴らである。

 

「ヒヒッ、南雲ぉ……お前を殺して、愛する香織をこの手にしてやらぁ!」

 

 ハジメしか眼中にないようで、俺の事は一切見ていない檜山。完全に魂を破壊しなかったため、ハジメへの憎悪と白崎への妄執だけが残っているようだ。精神崩壊の要因である俺に対し、怨念を向けてきてもおかしくなかったが……それだけ強い、強すぎる想いなのだろう。

 

「……香織を、ね。そこに彼女の意思はない訳だ」

 

 一段と下がったハジメの声のトーン。近くで聞いてる俺は、背中をタラリと冷や汗が流れ落ちたのを感じる。

 

 どうやら、彼の地雷を踏み抜いたらしい。

 

「君の持つそれは、僕の持つ感情とはまるで違う。愛するだなんて綺麗事をほざいているけど、実際は劣情しか持ってないだろ。香織がどれだけ拒絶しても、自分の肉欲さえ満たされれば良いんだろ。違う?」

「うるせえ、愛される価値がないクズは黙ってろ! テメェみたいなクズが、香織に愛される訳がねえんだ! アイツの善意を勘違いして受け取っているだけのテメェに、香織の何が分かる!」

「少なくとも、君より香織の事を深い部分まで知ってると思うけどね。心も、身体も」

 

 この発言に、檜山が一瞬だけ無表情になる。だが、すぐにまた下卑た笑みを浮かべた。

 

「……その全て、俺が取り返してやる。テメェを殺す事でなぁ!」

「やってみろ、負け犬」

 

 紫炎を纏ったハジメが飛び出し、檜山と激しく組み合いながら彼方へ消えていった。俺の邪魔にならないように、距離を取ってくれるようだ。

 

 残されたのは、俺と中村だけである。

 

 虚ろな目をしている中村だが、その奥にある怨嗟の感情は隠せていない。

 

「……返せ」

「何を?」

「返せ。返せ……!」

 

 ジワジワと、中村から魔力が滲み出る。銀色の、しかしヘドロのように濁った気配を持つ魔力を。

 

 仮初の魂を植え付けられたのか、彼女はひたすらに「返せ」としか言ってこない。

 

 何を言わんとしているのかは、多分俺にしか分からないだろう。彼女の魂を奪い取った俺にしか、な。

 

「返せと言われても困るな。吸収した魂をサルベージする方法を、俺は持ち合わせていないんだよ。お生憎様だったな」

「返せぇ……!」

「聞く耳持たず、ね。無い袖は振れないんだが、困った奴だ」

 

 まあ、大嘘だけど。魂魄魔法を駆使すれば、奴に魂を返してやる事も可能だ。教えてやる気はないが。

 

 聞き分けのない幼子のように、返せと連呼する中村が両の拳をキツく握る。すると、地面からズズズと武具を身に纏った骸骨が現れた。

 

 降霊術の応用なのか、それともエヒトが与えた玩具なのか。俺には判断がつかないが、〝敵〟である事に違いはないだろう。

 

 籠手をはめ直し、鉄塊と化した拳を握ると、迎撃に特化したデトロイトスタイルで構える。

 

「……返せッ!!」

 

 中村自身が、いつの間にか取り出した短剣を手に前へ出る。それに付き添うようにして、骸骨たちも各々の武器を構えて突っ込んできた。

 

 フリッカージャブで衝撃波を飛ばし、数体の骸骨の手元から武器を弾き落とす。次いで、身体にも何発かフリッカーを飛ばすと、呆気なく骸骨は地面に崩れ落ちた。

 

……だが、何事もなかったかのようにバラバラになった身体が復活。再度武器を手に襲い掛かってくる。どうやら、カロンやほねクッパのような特性を持っているらしい。

 

 その間も、中村が銀色の魔力光を放つ短剣を振り回してくるので、足を動かして躱していく。

 

 休む暇を与える事なく、骸骨たちも俺を攻め立てる。直接俺に向かってくる攻撃はギリギリのスリッピングで回避し、間接攻撃は小さくパーリングして防ぐ事で対応しているが、やる事が多いので少々面倒くさい。近接と中距離からの攻撃。そして、中村自身が超至近距離で撹乱と、理に適った戦い方だ。

 

 マルチタスクを強要する事で、相手の隙を作るのは間違いではない。格上を倒し得る策にもなる。

 

 加えて、俺の中で封印しているはずの中村の魂が、少しでも俺の邪魔をするべく藻掻き始めた。俺の動きが鈍るような事にはなっていないが、胸の奥がザワつくような感覚があって鬱陶しい。

 

 中村の魂を取り込みこそしたが、完全には俺との同化が済んでいなかったようだ。同化が済んでいれば、彼女の自我は完全に消えているはずである。

 

 まあ、あの当時は魂魄魔法を手に入れて日が浅かったのと、その後特に手を加えなかった俺に落ち度がある。抵抗を許した事を甘んじて受け入れると、魂魄魔法を使って俺の魂の外郭を補強して簡単には破られないようにしながら、敵の攻撃をフリッカーで捌いていった。

 

 当たってはいけない中村の攻撃は完璧に外す事を意識し、他の攻撃は多少被弾しても構わない精神に切り替えた事で、防戦一方だった状況が少しずつ変化していく。

 

「切り返しの速度が甘い!」

「あうっ!?」

 

 横薙ぎと横薙ぎの間にある切り返しの瞬間に、一瞬だけだが確かに硬直するのを見抜いた俺が繰り出したスマッシュボディフックが、中村の腹部にめり込む。

 

 すぐに骸骨から剣閃が奔り、頬や肩を薄く切り裂いていくが構わない。多少の傷は、後で再生魔法を使えば綺麗に治る。

 

 後退しようとする中村との距離を詰め、今度は魂魄魔法を纏わせた拳でスマッシュストレートを繰り出した。

 

 必死に躱そうとする中村だが、軽く身じろぎしただけで回避は叶わず、心臓付近に拳の直撃を受けて蹲る。純粋なパンチの衝撃もあるだろうが、仮初の魂が大きく削られた衝撃が大きいようだ。俺の目には、グチャグチャになって維持ができなくなった仮初の魂が見えている。

 

「う、あ……アアッ――!」

 

 だが、すぐに魂の形が元通りになり、立ち上がった中村が一層目を血走らせながら短剣を振り上げた。

 

 唐竹割りをダッキングで外し、斬り上げをスマッシュストレートを打つ際の仰け反りで姿勢避けすると、また同じように仮初の魂へ拳を叩きつける。さっきよりも激しく損傷する魂が目に入ったが、割って入った骸骨たちを吹き飛ばしている間に、また魂が元の状態に戻った。

 

「なるほど、何度も再生するのはお前の魂も同じって事かい」

 

 その言葉への返答のように、中村が翼をはためかせて羽をミサイルのように飛ばしてきた。

 

 真の神の使徒のようにオールレンジ攻撃には使えないようで、羽は直線的に飛ぶだけである。しかし、スピードだけなら中村の方が上だ。羽の軌道を見てから回避するのは困難と判断し、軌道を予め予測してから早めの回避行動を試みる。

 

 時折、俺の回避方向を読んでいるのであろう骸骨が邪魔しに入り、何としてでも中村が放つ羽に当たるように足止めしてくるが、上手く盾にしてやる事でやり過ごしていく。羽が直撃した骸骨は、再生できずに〝分解〟されて消滅していった。

 

 新たに骸骨が補充される様子もない。これが最適解だと判断し、俺は中村の攻撃に骸骨を押し出すようにして次々と数を減らしていく。俺の思惑に気がついた骸骨が離脱しようとしても、フリッカージャブの動きで籠手に仕込まれている鎖紐を射出し、絡め取ってこちらに引き寄せる事で逃さない。

 

 何を想定しているのか分からない、10メートルぐらいの長さがある鎖紐を射出する機能だったが、ようやく使い道が見えてきた。ハジメが最初からこの使い方を想定していたのかは分からないが。

 

 アドリブの動きであるにも関わらず、今後の新戦術の可能性込みで実に良い働きをしてくれているフリッカー&鎖紐のコンビネーションは、骸骨を壊滅寸前と言える数まで一気に減らす活躍をすると、3分の2を残して折れてしまった。

 

 しかし、十分すぎる働きである。数の暴力でマルチタスクを強要する作戦の瓦解を果たしただけで、戦況が一気にこちらへ傾くのだから。

 

 鎖紐を収納すると、俺は残った骸骨を粉微塵にして再生する速度を可能な限り遅くしてから、中村との距離をまた詰める。

 

「! チイッ」

「〝禁域解放〟!」

 

 が、そのタイミングで胸の奥のザワつきが強くなった。中村の魂が邪魔をしてきているようだ。

 

 俺の動きが僅かに鈍った事を見逃さず、中村の身体が接近戦を挑んでくる。〝限界突破〟を発動させたような魔力光を身に纏っており、先程よりも動きが数段良くなっている。すぐさま対応するが、後手に回った影響で攻めの起点を作る事が上手くできない。

 

 中村の魂にこれ以上邪魔をされるのはウザったい。攻めれない状況があまりにも長引くと、俺はおそらく負ける。中村の身体から魔力が一切減っている感じがないのを考えると、そのうち俺が先にへばるだろう。仮に〝逆境強化〟と〝闘神〟が発動したところで、トドメを完全に刺す事ができなければ意味がないのだ。

 

 ならば、この魂を何とかする方が先だろう。ここで負ける訳にはいかない。

 

 流れるように繋がる剣技を限界まで引き付けては外すを繰り返し、時折短くなった鎖紐を伸ばした状態でフリッカーを繰り出す事で中村の顔を引っ叩きながら、〝瞬光〟を発動させて高速で思考を回していく。

 

「返せ返せ返せ――」

「……そんなに返して欲しいなら、くれてやる」

 

 鎖紐を一旦収納し、近距離でフリッカージャブを超高速で連打。奴の左目付近を集中して殴る事で視界を奪う。フリッカージャブは鞭のように腕、特に手首をしならせて放つので、被弾箇所が腫れやすくなる特徴を活かした戦略だ。

 

 痛みが飛んでる訳ではないようで、何とかして拳から逃れようとするも叶わず、ならば攻撃を行う拳に短剣を叩きつけようとする中村だが、不規則な軌道で放たれる

フリッカージャブに対応できていない。

 

 程よく顔が腫れ上がってきたところで、鎖紐を奪った視界側から伸ばして中村を難なく捕らえる。すぐに〝分解〟の効力が発揮され、少しずつ鎖紐が粒子となって消えていく。だが、一瞬で消え去ってしまうような事態にはならなかった事が、俺に次なる一手を打つ時間を作る。

 

「ブッ飛べ!」

 

 両手で鎖紐を握り、力の限り上空に中村を放り投げた。

 

 その勢いで、〝分解〟によってボロボロになった鎖紐が完全に使い物にならなくなってしまったが、気合いストレートを発動させるための予備動作を行う余裕は生まれたので問題ない。また後で、ハジメに新しく鎖紐を取り付けてもらおう。

 

 魂魄魔法を併用する気合いストレートは、俺の想いをそのまま相手、または自分自身に強制する効力を持つ。

 

 こいつを応用してやれば、暴れている中村の魂を、元の身体へ叩き込む事も可能だ。

 

「〝戻れ〟」

 

 言霊によって発揮したい効果を明確化し、気合いストレートを中村の胸元に叩きつける。

 

 蒼色に輝く拳が中村に触れた瞬間、俺の目には、彼女の身体の中を巣食っていた仮初の魂が消えていき、本来の身体の持ち主の魂が元の位置に戻った様子が見えた。

 

 ビクリと身体を大きく震わせてから、驚いたように目を見開く中村。どうやら、正常に効果を発揮したらしい。

 

「ドリャッ!」

「うあ!?」

 

 そしてすぐに距離を詰め直し、最速風神拳を中村の顎に叩き込んだ。

 

 フワッと身体が浮かび上がり、無抵抗のまま空中で1回転して落ちてくる中村。その隙にまた気合いストレートを仕込む。今度は、先程とは異なる想いを込めて。

 

「〝動くな〟」

「っ、これは……!?」

 

 中村の手足が自らの意思を聞く事なく完全に止まり、彼女は大いに困惑している。

 

 それにしても、殴られたダメージがもうある程度は回復している辺り、肉体強度はかつての真の神の使徒を凌駕しているかもしれない。しかし、自由に動けなければ宝の持ち腐れだな。

 

 小技を仕込んで動けなくする必要がないので、堂々と気合いストレートの予備動作を取る。

 

 何とかして動こうと、必死の形相を浮かべる中村だが、魔法の実態を把握できなければ解く事はできない。〝魂〟への理解と知識がある彼女であれば、時間を使えば魔法の効力から逃れる事も可能だろうが、そんな時間を与えてやるつもりは毛頭ない。

 

 確実に効果を発揮するため、強く拳に想いを込めていく。その強さに応えように、拳が纏う光の色が蒼から赫へと変化していった。

 

 本能的にヤバいと悟ったのか、呪詛の言葉を吐きながら逃れようとする中村だが、全て無視して拳に想いを込め切り、真っ直ぐにパンチを繰り出す。

 

「〝お前は俺に逆らえない〟」

 

 中村の魂に気合いストレートが着弾すると、魂の外郭を無数の鎖のような物が雁字搦めにしていく。

 

 外傷は全くなく、痛みもほとんど感じなかったのか、中村は首をひねる。強制させられる想いは1つだけの関係上、〝動くな〟の効力は失われているので、今は自由に身体を動かす事も可能だ。

 

「……何を、した」

「お前がかつて、死者にやった事と同じだよ」

 

 それだけで、彼女には伝わるはずだ。もっとも、俺は中村の事を殺してはいないが。肉体も魂も、何の問題もなく生きている状態である。

 

 それ故に、まだ信じられないようだ。俺は魔法の適性が皆無である事を知っている中村は、鼻で笑って「そんなバカな」と言う。目の奥には、確かな恐怖を滲ませながら。

 

「真久野は、南雲と同じで魔法を録に扱えないはずだろ。どんな手品を使ったのか知らないが、ボクでなければマトモに扱えない、超精密で高度な魂に関する魔法を、お前が十全に使える訳がない」

「自尊心だけは世界で1番かもな、中村。そこだけは羨ましく思う。だが、現実を見ようとしない残念な脳みそに関しては、全く羨ましくない」

 

 現実を見ない、見ようとしない。自分に都合の良い解釈だけを信じようとする。ある意味、勇者(笑)とは似た者同士かもしれないな。

 

 お似合いだと言えば、こいつを悦ばせてしまうので、絶対に口にはしないけど。

 

「おい中村。〝自分の首を絞めろ〟」

「はっ、誰がそんな……!?」

 

 ヒョイと動いた中村の両手が、そのまま彼女の首を全力で絞め始めた。

 

 呼吸できない息苦しさから、顔色を赤から真っ青へと変えていき、遂には膝を折って気絶しそうになったタイミングで、俺は「〝止めろ〟」と命じて解放する。

 

 強く咳き込みながら、何とか酸素を取り込もうと短く呼吸する中村を、俺は無感情で見下ろしながら口を開いた。

 

「この通り、お前の生殺与奪権は俺が握っている。殺すも生かすも、全て俺の意思次第だ」

「悪魔、め……」

「お前がそれを言うのか。我欲のために大勢の人を殺し、その死体を弄んだお前が」

 

 罪業の重さで言えば、敢えて生かした状態で傀儡人形とする俺も変わらないだろう。何なら、俺の方が罪は重たいような気もする。

 

 今更罪を重ねたところで、無間地獄行きなのは変わらないと言ってしまえばそこまでだが。

 

「俺からは、これ以上お前に危害を加える事はほとんどない。逃げる事も、抵抗する事も許さないが、それだけだ。だが、お前が殺してきた人の遺族はどうかな? 無抵抗のお前を見て、冷静に対処できるかな?」

 

 目を見開く中村、この先何があるのか、少しは理解できたようだ。

 

 俺は、被害者ではない。だから、彼女を裁く権利はどこにもない。

 

 良きタイミングで、イルワ支部長には拘束していた身柄をハイリヒ王国へ返し、磔刑にでも処してもらおうと考えていたぐらいである。そうすれば、被害者の遺族たちが胸に抱えた怒りや悲しみを、彼女にぶつける機会を作る事ができるからな。

 

「さて。お前の身体は、エヒト神によって随分と強化されているみたいだが。魔力を封じたとしても、一体いつになったら死ねる事ができるのかな。まあ、仮に遺族と被害者全員の怒りが晴れたとしても、お前には永遠に生きて罪と向き合い、そして償い続けてもらうが」

「ふ、ふざけっ――」

「〝喋るな〟」

「ッ――」

「安心しろ。俺が許さないのは、お前の〝死〟だけだ。どれだけ肉体が傷ついても治してやるし、精神が壊れても元に戻してやる。だから……」

 

 今は〝眠れ〟。そう告げると、中村は呆気なく目を閉じて眠り出した。

 

 動かなくなった中村の身体を、いつぞやの時のように指輪の中へ収納する。

 

 目を閉じて、気持ちを落ち着ける。また俺は、人の命を奪うに等しい行為をした。それをキッチリ頭で理解して、罪の意識から逃げないためにも。

 

「……行くか」

 

 遠くでは、まだハジメが檜山と激しい戦闘を繰り広げている。優花からも、まだ〝念話〟が来ていない。

 

 少しだけ考えた俺は、ひとまず優花のところへ向かう事にした。

 

 空中に作った足場を乗り継いでいき、優花の気配がする方へ進んでいく最中。俺は確かに感じた。

 

「ハジメ?」

 

 ハジメの魔力が、類を見ないぐらい爆発的に膨れ上がっていく気配を。

 

 不思議に思いながらも優花の元へ辿り着いた俺は、更に驚愕する事になった。

 

「サンドマン、だと? それに優花……」

 

 血塗れでボロボロとなって膝をつき、肩で息をするサンドマン。そして、それを永久凍土の如く冷え切った眼で見る無傷の優花と、肩で息をしながらも立って構えているソウさんの姿があった。

 

……なんか苦しそうに倒れ伏している勇者(笑)の姿もあったが、そちらは努めて無視である。

 

「っ、ここで坊やの増援、か」

 

 フラリと立ち上がったサンドマン。随分手酷くやられたようで、いつもの元気は全く見られない。

 

 構えを取って警戒心を緩めないまま、俺は状況を理解するべく頭を動かす。

 

「ソウさん。ご無事で?」

「は、はい。ユナさんのお陰で」

「なら良かった。 ……サンドマン、手酷くやられたな」

「フンッ」

 

 鼻を鳴らすサンドマン。だが、無言は肯定と捉えた俺は、優花がどれだけ凄まじい戦いっぷりを見せたのかを理解した。

 

「どうするサンドマン。まだ、やるか」

「……この状況で、坊やと殺り合うのはリスクが高すぎる。大人しく撤退させてもらおう」

「逃がすとでも?」

 

 背筋がゾクリとした。

 

 あまりにも冷徹な優花の声音。そして、見た事ないスピードで容赦なく襲い掛かるナイフたち。

 

 サンドマンは必死に致命となる攻撃だけを捌きながら、ゲートを作り出して転がり込むように入っていった。

 

 それを見た優花が、サンドマンが転移したであろう方角を見て、更にナイフを飛ばそうとする。

 

 俺は彼女の魔力残量と、ここに至るまでの負担を考えて、すぐさま止めに入った。

 

 ギュッと優花を抱き締め、ゆっくり頭を撫でながら、努めて優しい声音を意識して話しかける。

 

「もう良い。魔力残量的にも、追撃戦は止すんだ。命に関わる」

「………あっ」

 

 ハイライトが全く仕事をしていなかった優花の瞳に、光が戻る。

 

 俺の事を認識できないぐらい、強く集中していたようだ。

 

「お疲れ様。頑張ったな」

「う、ん……」

「っ、ソウさん。彼女を休ませても良いですか?」

「は、はい!」

 

 俺の腕の中で気を失ってしまった優花をお姫様抱っこすると、ソウさんと共に家に入って彼女をリビングのソファに寝かせて。まだ回復していないソウさんに魔力回復薬を分け与え、ルウさんを呼んで外傷の応急手当をさせたところで、ようやく一息ついた。

 

 心配そうにソウさんと優花を見るルウさん。このまま家を出るのが憚られる状況だが……。

 

――先輩

 

 優奈が俺の背後から現れた。

 

――私が皆を見守ってるから、先輩は行って

 

 心配は残る。実体を持たない優奈で、果たして大丈夫なのか。

 

 だが、現状頼れるのは優奈だけである。神様と何か密約を交わしている彼女を、今は信じるしかない。

 

「任せた」

――任された!

「コースケお兄さん、どうかお気をつけて……!」

 

 ルウさんの頭を軽く撫でてから家を出て、俺はハイリヒ王国を見下ろす事ができる時計塔に足を運ぶ。

 

 王国内は、未だ人の悲鳴が飛び交ってはいるが、仲間が尽力してくれているお陰で大きな被害は出ていない。建物の倒壊もそこまで見られないので、犠牲者の数が膨大になるような事態は避けられたようだ。

 

 空中では、あいも変わらずハジメと檜山が激戦を繰り広げている。際限なく増大するハジメの魔力と、それに追従する檜山の魔力がバチバチにぶつかり合っており、下手に手出しをしたらこちらが手傷を負うと感じさせる状況である。

 

 ハジメの勝利を信じ、手出しは無用と心に言い聞かせた俺は、目を皿のようにして王国を見下ろす。何か異常があれば、すぐ飛び出せるように。

 

「……! 〝ゲート〟か!」

 

 言葉と共に、俺は時計塔から飛び出した。

 

 ゲートから姿を現した、傷だらけのフリードと白竜。そして、魔人族の軍勢の元へ。




 フリッカーで鎖紐を伸ばして絡め取り、自分の元へ引き寄せるのは描いてて完全にスト6のエドだなと思ってしまいました。タグ追加しようかな……。

 さて、アンケートの前に現在のマックくんから見た女性陣への感情と、女性陣から見たマックくんへの感情を整理しておきます。

✯マック→優花…最愛の恋人
 優花→マック…最愛の恋人。優奈なら受け入れても良いと思っている

✬マック→優奈…初恋の人。複雑な想いを抱えてる
 優奈→マック…今でも大好き。叶うなら、貴方に添い遂げたい

☆マック→ルウ…妹のような存在として見てる
 ルウ→マック…命の恩人。不屈の闘魂が眩しい憧れのお兄さん

★マック→恵里…男の見る目がない可哀想な奴
 恵里→マック…光輝と自分を引き裂いた怨敵だが、ここまで自分と向き合ってくれた人は初めて

★マック→その他クラスメイト…興味ないね
 その他クラスメイト→マック…光輝派の人間の多数がマック派に鞍替えしている

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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