異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 今回はハジメくん視点で行きます。今作では初めてかな?

 マックくんが中村と交戦を始めたぐらいまで時間を遡ってスタートです。エグい描写が多数ある他、万字を超える長文です。ご注意くださいませ。

 割合としては9割近くが戦闘、残りが高濃度のお砂糖です。


僕は諦めが悪いんだよ、彼に似て

 マックくんの邪魔にならないように、見た目が檜山なだけのバケモノと取っ組み合いながらその場を離脱した僕は、適当なところで離れて地面に降り立ち距離を取る。

 

 相変わらずケタケタと汚く笑う檜山の形をした怪物を、ただジトッと見てどうやって打倒するか思考を回す。これから成すのが人殺しだと分かってはいるが、顧みるのも悔やむのも後だ。

 

 マックくんから聞いていた事なので、分かっていたが。本当に見るのを憚られるぐらいに、香織への執着が凄まじい。そして、そんな彼女の心を射止めた僕に対する憎悪も。

 

「ギヒヒ、殺してやらァ!」

 

 何の前触れもなく、片手剣を取り出して襲い掛かってきた檜山。前兆がない攻撃ほど躱しにくい物はない。

 

 スウェーやスリッピングのようなリスクの少ない回避行動を早々に諦めると、片手剣が振るわれる軌跡を読んで同じ方向に回し蹴りを飛ばし、奴の想定していないスピードで剣を振らせて攻撃を外す。

 

 リスクの高い躱し方にはなったが、それ相応のリターンを得られる躱し方だ。反撃のチャンスを逃しはしない。

 

 片手剣の切っ先が地面に突き刺さり、僅かに隙を晒す檜山の顔面にワン・ツーパンチとヤクザキックを一呼吸で叩き込み、再び距離を離した。

 

 ラッシュを仕掛けても良かったが、まだ相手の手札を全く見れていない。不用意に攻撃一辺倒になるのは危険だろう。

 

「効か、ねえなァ。三下の攻撃なんざ!」

 

 なるほど。確かに言葉通り、彼の顔には傷がほとんどない。ワン・ツーは鼻を集中して攻撃したし、蹴りを放った足の裏には無数のスパイクが仕込まれているので、鼻血が多少出るだろうと思っていたが。読みが外れたか。

 

……それか、図抜けて再生能力が高いか、だ。ユエみたいに。

 

「オラァ喰らえ〝螺炎〟!」

「! 無詠唱かっ」

 

 渦を巻く炎が複数現れ、こちらに向かってくる。これまたユエみたいだな。魔力の操作もできるようになったらしい。

 

 放たれた炎の渦たちに、僕は黒傘を手にして突っ込む。その場で躱すのは危険だ。回避先を見られて距離を詰められる。

 

「十式〝聖絶〟!」

 

 ドーム状に障壁を作り出して魔法の被弾を防ぎ、炎の渦を突っ切ったタイミングで解除してそのまま檜山に斬り掛かる。

 

 檜山もまた、片手剣をこちらに振り下ろしてきた。

 

 そこから壮絶な斬り合いに発展する。

 

「オラオラァ!」

「チイッ!」

 

 荒々しく叩きつけるように連撃を繰り出す檜山。それを受け流しながら、反撃の気を虎視眈々と伺う僕という構図になる。

 

 武器が交差する度に火花が散り、時折受けや攻めの隙を突く斬撃によって、互いに薄皮が削られていく。

 

 どこで攻めと守りの立場を逆転させたいところだが、僕は中々反撃に転ずる事ができない。

 

 その理由は、奴の剣技の速さと重さにある。

 

「どうしたどうした、受けるのに必死じゃねえか!」

「速さも重さもあるな。どこでこんな力を手に入れたんだ、君は……!」

 

 黒傘で常に強化されている僕の身体能力に追従する檜山は、明らかに普通ではない。

 

 姿を見せた時から強く警戒してはいたが、どうやら誰かの手によって途轍もない強化を施されたようだ。身に纏う灰銀の魔力光から、マックくんが言っていた神々による強化と考えて良さそうである。

 

 それも、並の強化ではない。精神の均衡が大きく崩れてしまうぐらいに。あるいは、常人なら強化の段階で身体が壊れてしまうぐらいの物だ。

 

 檜山が常に出している、僕への凄まじい憎悪も厄介である。表面上は何も感じないと思っていても、深層心理のどこかで圧迫されている部分があるのは否めない。

 

 言うならば、示現流を扱う薩摩兵子だ。防御を完全に捨て、ひたすら相手を斬る事に注力する様は、どこか似通った物を感じさせる。

 

……リスクのある択を通さないと勝てない、か。

 

「ほらほらほら、削られていく一方だぞ三下ァ!」

 

 調子に乗った檜山の振る片手剣の軌道が、少しだけ単純になった。

 

 僕の胴体を左から右へ真っ二つに寸断する軌道の、シンプルな横薙ぎ。スピードはあるが、変則的な軌道でないため対応もやりやすい!

 

「フンッ!」

 

 黒傘が軽量である事を利用し、一瞬で胴抜きの体勢に入ると、横薙ぎの軌道に合わせて斬り払いを繰り出す。

 

 先程の回し蹴りと似たような迎撃方法だが、蹴り以上に黒傘の斬り払いは遠心力が乗っている。更に、軌道が真横の薙ぎ払いな事もあり、檜山の片手剣は猛烈な勢いで弾き飛ばされていった。

 

「セイッ!」

 

 すぐさま返す刀を繰り出し、咄嗟にガードとして上がった檜山の左腕を斬り落とす。

 

「ハッ!」

 

 やや斜め下から斬り上げて胸元に傷をつける。

 

 本来ならバッサリ背骨を断ち切るつもりだったが、檜山が半足引いたせいで軽く胸元を斬り裂くに留まった。

 

 斬り下ろしをこれから放つ予定だったが、3段目の不発により檜山が距離を詰めに来ている。このまま斬り下ろしても、彼の身体を両断できないだろう。黒傘が斬れる範囲は、切っ先だけである。根本では無理だ。

 

 咄嗟に黒傘を下手に構える。斬り下ろしがダメなら、斬り上げで起死回生を狙ってやるさ。

 

「イイヤッ!」

「何っ!?」

 

 斬るのではなく、黒傘の根本をぶつけて対応できなかった檜山の事を上空へ跳ね飛ばす。

 

 敵によっては上シフトにして、着地狩りをした方が美味しい展開になるんだったかな、マーベラスコンビネーションは。

 

 重力の関係で、檜山の身体はすぐに落ちてくる。モタモタすると追撃が間に合わないので、僕はアッパースイングの勢いでその場で1回転してから、黒傘を大上段に構えた。

 

 ホールドする時間はない。まるで最初から、5回の連続攻撃であったかのような流れで、巨岩をも斬り裂く一撃を繰り出す!

 

「ドリャアア!!!」

 

 前方110°拾う斬岩は、地面に落ちる前の檜山を脳天から真っ二つに斬り裂いただけでは止まらず、そのまま地面に巨大なクレーターを作り出し、局所的に地震を起こすまでに至った。

 

 ビチャビチャと落ちてくる、檜山の臓物。そして真っ二つになった遺体。

 

 辺り一面が血で染まっており、かなり凄惨な光景だ。思わず顔を顰める。

 

 だが、顰めっ面はすぐに引き攣る事になった。

 

「おいおい。まさか、殺したとでも? とんだお笑い者だな、お前はァ!」

「っ、嘘だろ……?!」

 

 僕の目には、身体を真っ二つに斬り裂かれた状態ながら、何事もなかったかのように立ち上がった檜山の姿が映っている。にわかには信じがたい光景だ。

 

 確かに斬った感触はあった。黒傘にも、まだ生々しく血糊が付着している。周囲に散らばっている臓物も、間違いなく檜山の身体から出てきた。

 

 だが、現実はどうだ。真っ二つになった身体の切断面から、新しく肉体が生え出てきた事で2人となった檜山がそこに立っている。

 

「危ねえ危ねえ。命を複数個持ってきて正解だったぜ」

「簡単に死んじまったら面白くねーからな。できるだけ長く、香織を楽しむための物だったが……ま、プラスの方向に作用したから良しとするか」

「……まるでプラナリアだね。もはや人じゃない」

 

 当たり前のように武器を虚空から取り出し、片手剣をそれぞれ持った檜山たち。

 

 努めて冷静に、黒傘を背中に提げて拳を構える。彼は、命を複数個持ってきたと口にしている。なら、その命の〝ストック〟が尽きるまで致命打を与え続ければ良い。

 

 命を取るだけなら斬るのが楽だが、際限なく数が増えていく可能性があるので、原型を保ったまま脳や脊椎を破壊するのが1番だろう。

 

「守るのはもう終わりだ。ここからは、君たちにターンを渡さないよ」

 

 敢えて、守りを捨てて攻めに特化する意思表明をする。彼らへの威嚇と、渋る自身の心に強く言い聞かせるために。

 

 まだ嘲笑い、構えようとしない檜山に〝縮地〟を使って突っ込む。

 

 1人目の顎にガンダッシュK.O.アッパーカットを叩き込んで強烈に吹き飛ばし、慌てて突きを繰り出してきた2人目の持つ片手剣に、〝錬成〟を纏った右拳でパーリング。グニャグニャと刃が曲がって使い物にならなくなった片手剣を奪い取り、柄の部分で側頭部を思いっきりぶん殴った。

 

 あまりの衝撃に、片手剣の柄が粉々となる。檜山も無事ではなく、一瞬だけ白目を剥いた。だが、すぐさま復帰して銀色の魔力を身に纏い、新たに取り出した短剣で突き刺そうとしてくる。

 

 上空にブッ飛ばしたもう1人も、意識を取り戻して片手剣を構えながら降下してきた。

 

 迷わず短剣を持つ個体との距離を詰め、〝錬成〟を左の人差し指と中指に纏わせた状態で目突きを繰り出し、眼球を容赦なく抉り潰してから指を引き抜き、すぐさま垂直にジャンプ。降下中の個体が片手剣を振るより早く両足を掴み、何度か縦回転をしてから地面に向かって投げつける。

 

 受け身を取れずに地面へ叩きつけられた個体は、まだ何とか生きているみたいだ。着地際に頭蓋割を叩き込んだ事で、命のストックをまた1つ消耗させられたようだが、まだまだ元気である。

 

 しかし、目突きによって身体の血液中にある鉄分を変化させられて、頭部から歪な形の刃を無数生やした個体は、当面の間は動けないだろう。魔法の効力を解除しない限り、生き返っては死ぬを繰り返す事になるから。

 

 もう数個は命のストックが削れる事を祈りながら、未だ健在の個体と向き合った。

 

「さっさと死ねぇ、〝禁域解放ぉ〟!」

 

 少しフラついているが、その戦意は衰えるどころか刻一刻と増していく一方だ。

 

 お構いなしに突っ込んできた檜山の動きは、残像を引き連れるほどに凄まじい物になっている。スピードが乗れば、その分威力も比例して高くなっていくため、受けに回るのは危険だろう。

 

 奴が使用したであろう魔法が、〝限界突破〟に近しい物である事を理解した僕は、出し惜しみをする事なく切り札の1つの使用に踏み切る。

 

「〝限界突破〟!」

 

 紅色の魔力が外骨格を形成していき、全ての能力を3倍に跳ね上げる。

 

 時間制限はそこまで長くない。更に言えば、僕はマックくんのように〝ピンチで強化〟なんて技能は持っていない。タイムリミットが訪れたら、その時点でアウトだ。

 

 だから、必死に戦う。負けたら何が起こるか、嫌なぐらい理解しているから。

 

 現在ステータス上は3万を超える状態だが、それよりも僅かに檜山の方が表面上は上のようで、より多くの手傷を僕が負っていく。

 

「このままじゃ届かない、ね……」

 

 ならば、成長を止めない事で追いつき、そのまま置き去りにしてしまえば良いだけの話だ。

 

 身体が削られていく痛みを物ともせず、超高速化した攻防の中でも斬撃の癖を読み取っていく。

 

 1度受けた斬撃は、もう2度と食らわない。あるいは、薄皮を切らせるだけで致命傷のみ避ける。傷を受けたとしても、身体で攻撃のタイミングを覚えてしまえば、同じ攻撃を受ける頻度は極端に減らせるから、長い目で見れば全く問題ない。

 

 少しずつ、しかし確実に。檜山の攻撃が寸でのところで空振る回数が増えていく。そして、反撃を狙える機会も同じく増えていった。その1つ1つを、絶対に逃しはしない。

 

 最初は反撃で繰り出すのは最速の左ジャブのみで、大したダメージを与えられていなかった。〝纏雷〟によって軽く顔に火傷を負ったぐらいである。だが、時間経過で反撃として繰り出す技の数と威力が増し、どんどん檜山側の損害が大きくなっていく。

 

 浅い傷は基本負わせた瞬間に再生しているが、それでも全て同時にとは行かないようだ。再生には、多少のタイムラグがある。

 

 切り傷1つだけで良い。ちょっとでも抉れるだけの隙があれば、こいつを仕留められる。檜山がかつてバカにした、〝錬成〟の力で。

 

 未だ動けない個体が受けた攻撃を食らいたくないのか、徐々に檜山の形相が必死な物へと変わってきた。だからなのか、また攻撃が単調になる。

 

「ここっ!」

 

 突きを前に出ながら躱し、そのまま距離を一気にゼロにする。逃れようと仰け反る檜山だが、どうやっても前傾姿勢になる突きを繰り出した状態から、再度後退するのは難しい。

 

 首根っこを掴み、片手で振り回して地面に叩きつけてバウンドさせ、一呼吸すら入れる事なく旋風陣を2連続でヒットさせる事で顔面を愉快な形へ変形させた。更にダメ押しとばかりに踵落としで地面に寝かせてから、

 

「〝錬成ッ〟!」

 

 血塗れとなった顔面部に、〝錬成〟を使用しながらスマッシュストレートを落とす。拳が顔面を貫通し、地面を叩き割るほどの一撃を受け、数度痙攣をしてから檜山は動かなくなった。

 

 それでも再生してくるが、〝錬成〟の効果で生み出された無数の刃が延々と脳だの頭蓋だのを破壊し続ける。〝錬成〟の効力解除に移れるだけの、ほんの僅かな余裕すら与えない。

 

 何個命のストックがあるのか分からないが、これで相当数削れるだろう。まあ、本来なら一撃必殺の技術なんだけど……。

 

「……むっ」

 

 背後に殺気を感じて振り向くと、目と鼻の先に白熱化した火炎弾があった。

 

 左ジャブの拳圧で鎮火させるが、その奥から迫る影が1つ。

 

「なぁぐぅもぉおおおー!!」

「……死に損ないめ。ゾンビか」

 

 頭に刃を生やした状態のまま、最初に体内錬成を受けた個体が突進してきたのだ。

 

 もはや人間ではなく、人の形をしたバケモノと最初に称したが。少しだけ訂正しよう。

 

 この世に生きて良い物ではない、もう。

 

 ここまでの手傷を負いながら、尚も膨れ上がっていく魔力と怨念。確実に黄泉へ叩き落さなければ、どれだけの被害が出るか分からない。

 

 息の根が完全に止まるまで、致命傷を与え続ける他ないだろう。

 

 拳に紫炎を纏い、檜山が攻撃するよりも早く左ジャブと右フックを命中させる。皮膚が焼け爛れ、そして抉り取られた箇所に容赦なく貫手を刺して、

 

「〝錬成〟」

 

 頭部に生える刃の数が激増する。だが、止まらない。白目を剥いたまま、短剣をめちゃくちゃに振り回す。

 

 距離を離さず、短剣が振るわれる軌道にスマッシュボディフックを合わせてへし折り、左手を伸ばして喉輪。指を食い込ませる。そして、また〝錬成〟を行う。

 

「あ、があっ」

 

 喉を刺し貫く無数の剣山。血がしとどに流れ出る。

 

 まだ、魔力が露散する様子はない。攻撃の手を緩めるな。

 

 左手で檜山の背骨を掴みながら、心臓目掛けて右拳で風神拳のようなボディアッパーを繰り出した。無論、〝錬成〟を発動させた状態で。

 

 拳は抵抗なく胸元を貫通。そして数えるのも面倒なぐらい、大量の刃が内から生える。

 

 当然、心臓にも刃が突き立てられる事になり、彼の口から尋常ではない量の血が零れ落ちた。

 

「ご、ろ……じで、や、るぅ!」

「何個命のストックがあるんだ、全く……!」

 

 これだけやっても、止まる様子がまだ見られない。今、この瞬間もゴリゴリと命のストックを削っているとは思うのだが、終わりが全く見えてこない。ゲームでもここまでしぶとい敵は見た事がないぞ。

 

 軽く戦慄するも、攻撃の手はやはり緩めないで手足を動かす。

 

 だが、1つの敵に集中しすぎた。中々動きを止めない目の前の個体を、何とかして物言わぬ骸にしようと、躍起になりすぎたようだ。

 

「死ね南雲ぉ!」

「うっ!?」

 

 いつの間にか、背後まで接近していた個体がいた事に気がつけなかった。

 

 背後から脳天をかち割ろうとして放たれた一撃を、目の前の個体を掴んだ状態のまま半身を引いて回避しようする。

 

 が、間に合わなかった。真っ二つに両断されるような事はなかったが、右目付近をバッサリ斬られてしまったのだ。

 

 いきなり右半分の視界が真っ赤に染まり、大きく狭まった景色に脳が混乱する。

 

 それでも身体は生き残るために動きを止めず、斬りつけてきた個体をヤクザキックで引き離し、もう1体の腹部を拳打で貫通して〝錬成〟。そこまでやって、ようやく手を離した。

 

「……やってくれたね」

 

 地面に崩れ落ちた個体の大腿部を念入りに踏み抜き、容赦なく〝錬成〟して動けないようにしてから、少し離れた距離でこちらを睥睨している檜山に目を向ける。

 

 頭から刃を生やしているのは変わらずだが、何やら様子がおかしい。〝限界突破〟のような技能を使っていた個体より、遥かに高いステータスを保持していると分かるプレッシャーを放っているのだ。

 

「ヒ、ヒヒヒ。数ある命を1つの塊にして、個数の分だけ〝禁域解放〟すりゃあ……」

 

 自分の力に酔い痴れているのか、求めてもいないのに語り始めた檜山。

 

 何が起こったのかを知らせてくれる辺り、随分と親切である。もう、僕に負ける未来が見えないが故の慢心なのかもしれないが。

 

 しかし、なるほど。残りストックがどれぐらいだったかは分からないが、シンプルに〝限界突破〟の重ねがけをしたと考えるべきだな。それなら確かに、爆発的なステータスの向上が見込めるだろう。

 

 精神面の崩壊であったり、肉体への過負荷が気になるところだが、あれだけの再生能力を有しているなら実質ノーリスクか。複数の命を一纏めにする事で、ゾンビ戦法はもう取れないだろうが、殺されるような真似をしなければ問題にはならないし。

 

 オマケに、〝限界突破〟のタイムリミットがこのタイミングで訪れた。途端に身体が鉛のように重たくなる。考え得る状況の中でも、最悪と言って良いかもしれない。

 

「ふっ……」

 

 思わず笑う。

 

 何も、諦めの境地に達したからではない。僕は、世界で1番諦めが悪いお師匠様の弟子だ。0.01%でも勝てる可能性がある限り、僕の心は折れやしない。

 

 思わず笑ってしまったのは、こんな時、マックくんならどうするかを考えたのだが、実に彼らしいと感じる解決法が思い浮かんだからである。

 

「結局はど根性、か」

 

 神水を〝宝物庫〟から直接口の中に転移させて、試験管1本相当の量を飲み干す。すぐに効力が発揮され、全快近くまで魔力は回復した。右目はどうやら〝分解〟されてしまったようで、戻らなかったが。

 

 ひとまず回復した魔力を全身に回す事で、〝限界突破〟のタイムリミットが訪れて極端に鈍くなった身体を、魔力で無理やり動かせる状態にする。ここでギブアップするなんて有り得ない。

 

 倦怠感は変わらずであるし、そこから過負荷によって傷ついている身体を無理に動かすので、一挙動取るだけでも筋繊維が悲鳴を上げる。技能の発動にも、普段の数倍は脳に負荷を強いるので、いつものように戦う事は本来なら難しい。

 

 だが、尽くを〝ど根性〟によって無視する。

 

「さあ、来い」

「ッ!?」

 

 〝威圧〟と〝魔力放射〟を全開で発動させ、檜山からのプレッシャーを押し返していき、そのまま強烈に圧していく。

 

 負けじと檜山がプレッシャーを返そうとしてくるが、僕まで届く事はない。

 

 格下は失神し、同格でも大幅に警戒心を引き上げる事で動きが鈍るとされるこの技術は、格上に対しても有効だ。いや、むしろ格上相手にこそ使うべきかもしれない。

 

「……殺すッ!」

 

 やや焦った表情で、檜山が踏み込んだ。

 

 しかし、そこには既に、密かに後ろ手で持っていた黒傘による遠隔の〝錬成〟で作った片足大の小さな落とし穴。そして、〝宝物庫〟から落とし穴へ転移させた、様々な効果を持つ手榴弾が大量にある。

 

 僕が黒傘を背中に提げ直し、耳を塞いだのと同時。数度の爆発と、至近距離で耳にしたら気絶するレベルのハウリング音が辺り一帯に鳴り響いた。

 

 焼かれ、麻痺毒に侵され、平衡感覚を損失して檜山の元へ突っ込む。

 

「が、あっ!」

 

 執念で動いた檜山が繰り出した片手剣が、ズブリと左肩を刺し貫こうとする。

 

「それがどうした!」

 

 が、切っ先は骨の手前で止まった。肩の力を限界まで入れ、更に魔力を操作して切っ先がこれ以上入らないようにしたお陰である。

 

「〝錬成ぇ〟!」

 

 刃を右手で握り、原子を〝一瞬で〟分解。そして、左腕を魔力で動かして檜山の首根っこを掴んで軽く宙に浮かせると、右手で顎を砕くように掌底を真上に繰り出した。

 

 まるで発勁でも受けたかのように、とんでもないスピードで空中へ吹き飛ばされた檜山。それを追って、僕も跳び上がる。

 

 跳び上がる瞬間、脳に数度稲妻が奔ったかのような感覚と共に目覚めた技能を、一切の躊躇いなく発動させる。

 

 この局面で、僕はまた〝壁を越えた〟のだ。

 

「〝覇潰〟!」

 

 ステータスを5倍に跳ね上げるだけでは、まだ檜山のステータスには遠く及ばない。なんせ、向こうは多重にステータスを乗算しているのだ。簡単に届く訳がない。

 

……ならば、こちらも乗算させれば良いだけの話。越えた壁は、何も1つではない。

 

 本来は覚える事がなかった〝格闘術〟の派生技能を、今こそフルに使用するべきタイミングだろう。

 

 ずっと僕は使えず、マックくんの事を羨ましいなと密かに思っていたのだが。もう、そんな事を考える必要はない。

 

 〝覇潰〟の覚醒と同時に使用可能になった、〝身体強化〟と〝逆境強化〟を発動させる。マックくんのように細かく倍率を調整できる訳ではないが、それは後ほどマックくんに教えてもらおう。今は、最大倍率で強化したこの身体で、檜山を黄泉路へ叩き落とすのが先だ。

 

 血反吐を吐きながらも、空中で体勢を何とか整え、翼を使って滞空している檜山と対峙する。

 

「ガアアッ――!」

 

 獣のように絶叫しながら、武器を持たない檜山が拳を振り上げた。

 

 応えるようにして、僕も拳を握る。

 

「死ね死ね死ね死ねェ!」

「南無阿弥陀仏……!」

 

 速く鋭い檜山の拳打を、後出しでパンチを繰り出す事で相殺していく。

 

 ストレートならストレートを。フックなら裏拳。アッパーは頭蓋割。打ち下ろしは風神拳を重ねる。

 

 拳と拳が激突する度、凄まじい衝撃波によって暴風が巻き起こり、周囲の木々や家屋を薙ぎ倒していく。人払いが済んでいて本当に良かった。

 

「お前だぁ! お前えぇさえいなきゃ、香織はぁ、今頃俺のぉ!」

「僕が存在しなくても、香織は君を選びはしない。そんな事も分からないのか? 常に誰かのせいにして、自分は悪くないと盲信して現実から目を逸らす。そんな〝負け犬〟根性丸出しの君が、何かを得られるほど世界は甘くない」

「ッ、お前もそう言うのかあぁ! 俺は、負け犬なんかじゃねえぇ!」

 

 さては、以前マックくんと戦った時に〝負け犬〟と言われたのだろうか。それを知る必要はないし、まず知りたいとも思わないけど。

 

 しかし、ここまで盛大に反応するのはバカのやる事だ。その言葉はNGワードだと、自ら敵に伝えているようなものである。

 

 拳打の応酬をしながら、僕はニヤリと嘲笑う。

 

「弱い犬ほどよく吠えると言うけど、どうやら本当みたいだね。特に負け犬は、格別うるさく惨めに吠えるみたいだ」

「だま、れえぇ!」

「黙らせてみろよ。ああ、でも負け犬じゃ無理か。どう頑張っても、最終的に負けちゃうんだもんね? 可哀想になぁ」

 

 檜山の顔色が赤を通り越して真っ白になる。

 

 同時に繰り出された右ストレートは、今までで1番のスピードと威力、そして笑ってしまうぐらい単純すぎる軌道だった。

 

 軽く空中を蹴り、難なく檜山の頭上を陣取る。

 

 仕留めるつもりで放ったのか、打ち終わりの体勢が随分と前傾姿勢で、咄嗟の回避行動すら難しい檜山。頭上に敵がいると奴が気がついた時には、既に僕は落雷蹴を繰り出していた。

 

 一瞬のヒットストップを得た後に、地面へ猛烈なスピードで檜山の身体が叩き落される。踏みつけたなんて生易しい物ではなく、ストンプした箇所を貫通するつもりで放った真下へのドロップキックだ。あまりの威力に、硬く反発が少ないはずの地面に叩きつけられたはずの奴の身体が、トランポリンでも使ったかのように大きく弾んだ。

 

 それでも何とか意識は保ったようで、地面をバウンドした勢いを利用し、翼を大きく動かして更なる浮力を得た檜山が、無数の羽を掻き集めて作った槍を突き出して接近してくる。

 

 リーチは、腕2本分ぐらい。急接近の勢いも考えると、〝空力〟で跳んで回避するのはちょっと危ないかもしれない。

 

 だが、躱し方は1つではない。どれだけトリッキーな回避方法だとしても、攻撃を外せるなら何でも良いのである。

 

「二式〝大嵐〟」

 

 発射口を真下に向けて背中に提げている黒傘に魔力を流し、ワンワード詠唱で強烈な風圧を発生させる。

 

 風圧で攻撃するのが本来の用途だが、下方に向けて放って急激な上昇を行う事も可能だ。バランスを崩しやすかったり、マイナスGによって身体に大きな負荷が掛かる欠点はあるが。

 

 しかし、普通に跳び上がるよりも遥かにスピーディーだし、移動距離もリスク相応に長い。

 

 羽で作られた槍は、次なる技を放つために膝を曲げた僕の数センチ手前で、リーチの限界となった。

 

「クソ、があぁ!」

 

 再度突くべく、槍を一旦引っ込めてからもう一段階高さを上げようとする檜山だが、もう遅い。むしろ、これ以上近寄ってくるのは悪手だ。

 

 右足の裏に〝錬成〟と紫炎を纏い、ブーツの重力を操作しながら思いっきり突き出す。より破壊力を高めるために、〝集中強化〟を施しながら。

 

エ"ェ"ェ"!"!"

 

 烈鬼脚が、中途半端に突き出された槍を弾き飛ばし、檜山の胸元に突き刺さった。

 

 そのままの体勢で、2人で地面へ墜ちていく。まるで流星のように。

 

 僕へ掛かる重力を、一時的に平時の数十倍にしている事もあり、落雷蹴を食らわせた時よりも、遥かに速いスピードで急降下していく。ちょっと瞬きすれば、もう地面は目前だ。

 

 その勢いは地面に到達した程度では止まらず、着地点を強烈に陥没させながら尚も突き進む。結局止まったのは、深さ100メートル近くもあるクレーターを作り出してからであった。

 

「……殺ったかな?」

 

 返り血を浴びた状態で、檜山を見つめる。

 

 腹部から上と下とで泣き別れとなり、それぞれ〝錬成〟を受けて大量の針を生やしている。針は全て地面に深々と突き刺さっているので、そう簡単には抜けない。

 

 魔力も観測できず、何度か顔を殴ってみても無反応。目を確認してみるが、瞳孔は開いている。

 

 念入りに拳銃を取り出し、心臓に数発撃ち込んでから、僕はクレーターから飛び出した。

 

 最後に〝錬成〟を行い、クレーターの出入口を塞いで、ようやく一息つく。

 

「ぐっ、流石にもう動けないか」

 

 この場から少しでも離れようと思っていたのだが、出入口付近で僕は膝をついて動けなくなってしまった。

 

 いつまでも同じ場所に留まるのは危険極まりないのだが、どうしても身体が言う事を聞かない。

 

 それもそのはず、文字通り限界を軽く超えて戦い続けた僕の身体は、ちょっと洒落にならないぐらいボロボロになっていた。

 

「魔物や魔人族が来たら終わりだな。彼が息を吹き返してもゲームオーバー。完全に運ゲー。最後の最後で分の悪い賭けをしなきゃいけないの、面倒ったらありゃしないよ……」

 

 1人ボヤく。それぐらいは許されるだろう。

 

 その時が来たら、サバっと諦めて死んでやる。そう決めて、地面に寝転がった。

 

 激しい戦闘をずっと眺めていたであろう星空が、鮮明に瞼の裏まで焼き付けられていく。

 

「……綺麗だな」

 

 そう口にした僕は、近くで何かが降り立った音を認識して、そちらを見る。

 

 そして、また口を開いた。

 

「おっ、星空よりも綺麗な人が来たね」

 

 白髪を靡かせて、目に涙を浮かべながら走ってきた僕の恋人を、笑いながら迎え入れる。

 

「ハジメくん、大丈夫!? あわわ、傷がこんなに……それにその右目、まさかっ」

「落ち着いて。すぐ死ぬような状態じゃないからさ」

 

 膝枕をしながら傷の具合を見て、あわやパニックになりそうな香織を、僕は頬を撫でてやる事で落ち着かせた。

 

 魔法は、落ち着いて発動させないと十全な効力を発揮できないからね。

 

「優先するべき傷はまず右目。多分だけど、〝分解〟されて消滅してる。次に左肩。刺された後は魔力で無理に動かしていたけど、今はもう自力で動かせない。最後に、無茶な魔力操作で動かし続けて疲れ果てている全身の治療だよ」

「……分かった。ありがとう、ハジメくん」

「僕の方こそ、君にお礼を言わなきゃ。ナイスタイミングだったよ。発見が遅くなっていたら、もっと衰弱していただろうから」

「マックくんがね。私に、ハジメくんが倒れてるかもしれないから迎えに行けと言ってくれたんだ。だから、こんな早く見つけられたの」

 

 そうだったのか。流石は僕のお師匠様だな。

 

 再生魔法を使用し、少しずつ確実に僕を癒している香織の頬を撫でながら、浮かんできた疑問を口にする。

 

「マックくんは、今どうしてる?」

「フリードと戦ってる。けど、少し前にユエが深傷を負わせたみたいだから、多分平気だと思うよ」

「そっか。なら安心して治療を受けられるね」

 

 フリードが万全の状態でも、彼が負ける姿は想像できない。

 

 マックくんは確実に謙遜するが、彼の強さは僕たちとは一線を画すレベルの代物だ。僕がさっきまで戦っていた檜山も、おそらく軽傷で終わらせてしまうと思う。

 

「ハジメくんは、誰と戦ってたの? 正面の軍勢が壊滅しそうって連絡以降、〝念話〟がなかったけど……」

「檜山くんの姿をした、バケモノだよ」

 

 僕を癒す手は止めない香織だが、目を見開いて驚いている。

 

 しかし、すぐに微笑んで僕の唇にキスを落とした。

 

 彼女の唇が離れるのと同時に、視界が一気に広がる。右側の視界が戻ったようだ。欠損した部位を元通りに戻した再生魔法の凄まじさに舌を巻きつつ、香織の行為に少し頬が熱くなるのを感じる。

 

「んー、急にどうしたの?」

「ハジメくんが私を命懸けで守ってくれた事を認識した瞬間、愛情が漏れ出ちゃった」

 

 そんな可愛い事を口にする香織に、思わず見惚れてしまった。

 

 一層笑みを深くした香織は、片手間に傷を癒しながら僕の頭を優しく撫でる。

 

「大好きだよ。ずっと、ずっと、ね」

 

 あの狂気に触れ続けたからだろうか。君のその言葉が、どんな薬よりも僕の荒んだ心を癒していく。

 

 彼女の優しさに包まれて安心しきったからなのか。僕は、異世界へやって来て初めての涙を一筋だけ流すのだった。




 バカにしていた〝錬成〟によってズタボロにされ、ステータス上は上回ってたはずの相手に大逆転を許すとかいう因果応報な結末となりました。まあ、魔王相手に油断したら……ね。

 それにしても今回一気に強くなったハジメくんですが、ステータスだけで見たらギガ以外のマックくんを超えるか、超えずとも近しい能力を持つようになっています。

 計算式は以下の通り。

{(素のステータス×覇潰×身体強化)×逆境強化}×黒傘による身体強化×集中強化

 黒傘の身体強化は1.5倍です。マックくんはマックくんでオルクス時点よりステータスが向上し、使える技能も増えてるので一概にどちらが上とは言えませんが……。

 ちなみにマックくんがオルクス以降使えるようになった技能は、現時点では〝最後の切りふだ〟と〝限界突破〟ですね。未だ〝限界突破〟は使ってませんが、これは下手に重ねがけすると使用後に肉体と精神が自壊するからです。ど根性にも流石に限度はあります。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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