異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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これが最善と信じて

 翌日。中村の謝罪行脚が一通り終わった報告を王国にすると、彼女の身柄を俺に一任するという連絡が来た。生かすも殺すも自由との事である。

 

「完全に俺に丸投げじゃん……」

 

 その通達に目を通した俺は、大きくため息を吐いた。

 

 忙しいのは分かる。中村1人に割く時間すら惜しいのも、理解している。

 

 だが、こうもあからさまに「何とかしてくれ」と丸投げされると、文句の1つや2つぐらい口にしたくもなるわ。

 

「……どうするの?」

 

 俺にピッタリ密着した状態で、同じく通達に目を通していた優花が、耳元で尋ねてくる。少しくすぐったい。

 

 一応、ソウさんの家の中なんだが。特に2人が外出してるとかもないのだが。全く自重せずに、優花は俺の恋人として堂々と立ち振る舞っている。

 

 ソウさんとルウさんが、とやかく言う性格ではなくて助かった。てか、ルウさんは近所のオバちゃんみたいに「あら〜」って顔してるし。ソウさんはソウさんで、これが当たり前の光景だという認知をしてくれている。

 

「連れて行くでも良いけど……正直、面倒を見れるとは思えない。今の彼女の精神は、ほんの僅かな衝撃で一気に良くない方向へ転ぶような危うい状態だし」

「誰かに預けるとかは?」

「難しそうかな。ハジメには、まず預けられないし。王国に置いていくのも、良い顔はされないだろうし……」

 

 前者に関しては、昨晩ハジメ同伴の元、畑山先生が神々の真実について話した際、色々あって最終的には天之河が「俺も一緒に行く!」とか言いやがったのが理由である。

 

 建前は帝国へ向かう姫さんの護衛だったが、心の奥底で何を考えているのか分かった俺は、奴の怪我を更に悪化させなかった事を後悔した。

 

 最終的には、ハジメがその場で〝魔王プレッシャー〟を発動させて完全に黙らせたので、天之河やその他の勇者パーティーの面々が同行する話は一旦お流れになったらしいが。それでも、何があるかちょっと分からないので、彼には頼みにくい。八重樫だけ同行するって話から、拗れに拗れて勇者パーティー全員が同行なんて事も有り得る。

 

 なお、ハジメは天之河たちが同行するのは別に構わなかったようだが……。

 

「香織が拳銃をクイックドロウして、ユエが背後に雷龍を顕現させて、シアさ……シアが拳をキツく握り、ティオさんが目を爬虫類の物に変えたところで、ヤバいと感じて彼女たちを全力で止めた。あれ、放置してたら辺り一帯が焼け野原になってたんじゃないかなぁ」

 

 この言動から、天之河を黙らせる目的で〝魔王プレッシャー〟を使ったようが、八重樫たち勇者パーティーは完全にとばっちりでヤベーもん見せられた事実と、嫁候補をキュン死させてると悟った俺は、盛大に虚無ってチベットスナギツネ顔になった。

 

 ホント、天之河は百害あって一利なしを体現してるな。

 

 と、まあ現状ハジメの近くだと確実に天之河の影が付き纏うので。この手の心がブッ壊れた少女のカウンセラーとして適任であるハジメに、丸投げする形で預ける事はできない。

 

 当然ながら、王国に捨て置く選択肢も取れない。現在の立場が刑罰を受けている最中の罪人ってのもある。だがそれ以上に天之河が、中村の事を〝魔人族の内通者である偽物〟と断じた事によって、彼女の立場は犯罪者よりも悪化するという事の方が大きい。まだ噂は広まっていないが、奴の発言力の強さを考えると、時間の問題である。

 

 俺が、中村の事を完全に見捨ててしまえば終わる話なのは分かってる。それが1番楽であり、何も考えなくて良い選択肢だ。厄介事に巻き込まれる心配もない。

 

 だが。俺は、中村の人となりを知ってしまった。ここで簡単に見捨てたら、後悔するのではないかと思うぐらいには。

 

 だから、悩む。どの選択肢を取るのが最善なのか。そしてどの選択肢が最良なのかを。

 

「……ダメ元で、聞いてみようかな」

 

 〝念話〟をとある人物に向けて飛ばす。

 

 立地が立地なので、そもそも繋がるか微妙だったのだが、幸いすぐに目的の人物は返事をしてくれた。

 

 軽く挨拶をしてから本題に入り、何度か〝念話〟でやり取りをした俺は、立ち上がって優花に目的地を伝える。

 

「ライセン大迷宮に行くぞ」

 

 すぐに理由を察した優花は、1つ頷いて一足先に家から出ていった。

 

 目を白黒させるソウさんとルウさんに、もう行かなければならない事と、また暇があれば遊びに来る旨を伝えてから、俺も彼女を追って外に出る。

 

 二輪に跨り、優花にバックハグされた状態になった俺は、魔力を流してあっという間に王国から走り去っていく。

 

「しかしまあ、よく思いついたわね。あの2人に預けるなんて案」

「人生経験が豊富な人間は誰かなって考えたら、なんかあの2人の顔が浮かんでな」

 

 実年齢が4桁台であるオスカーとミレディ。この2人なら、良い感じに中村を導いてくれるのではないかと、俺は考えたのだ。

 

 さっきの〝念話〟は、オスカーに向けて飛ばした物である。彼に事情を説明すると、すぐにOKだと言ってくれた。ミレディも「若い子大歓迎!」と〝念話〟を飛ばしてきたので、善は急げとすぐに行動へ移したのである。

 

 ライセン大渓谷に突入し、魔力の消費量が激増しても、一切スピードを緩めない。下手に節約を考えるより、豊富な魔力量でゴリ押しして一気に駆け抜けた方が、魔力消費量や所要時間の観点から都合が良いのだ。

 

 襲い来る魔物は、優花の投げナイフで次々と仕留められていくので、全く邪魔される事なく魔力駆動二輪はライセン大迷宮の秘密の入口まで辿り着いた。

 

 相変わらずイラッとする看板をスルーし、一応攻略の証である指輪を身につけてから、優花と手を繋いで回し扉に手を置く。すると、間髪入れずに内部へ招き入れられた俺たちは、即座に戦闘態勢を取った。

 

 風切り音と共に飛来する、漆黒の矢を前に出ながら必要最低限弾いていく。

 

「まあ、そんな気はした。ミレディだもんな」

 

 1度攻略してようと関係なし。性根の悪いトラップのオンパレードがお出迎えである。しかも配置や内容はしっかり変えている。これに逆に安心感を覚える辺り、俺は変な信頼を彼女に寄せているようだ。

 

 とは言え、攻略当時とは持っている能力や戦闘経験値が違いすぎる。

 

「優花」

「んっ」

 

 直線道なのは分かっている。ならば、走り抜けるのみ。

 

 優花を背負うと、俺は〝身体強化〟を施してから一気にスタートを切るのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「お邪魔するぞ」

「うわ出た脳筋拳士。あの物量の罠を真っ向から弾いて突破するってどんな肉体してるの?」

「うるせ。コンセプト的にも1番の最適解だと分かってるくせに」

「だとしても、酸性濃度を高めた液体塗った矢や麻痺毒撒き散らす回転刃を、防御なしに突進して逆に破壊するって、頭おかしいと思うっちゃうなミレディさん」

「頭おかしいってオメーに言われたくねえよ。やっぱ強化してたんかテメェ。俺じゃなきゃ死んでたぞ」

 

 顔を見て早々、ドン引きした表情でそんな事を言いやがったミレディに、俺も虚無顔で返す。

 

 オスカーは、そんな俺たちを見て苦笑いを浮かべるだけである。いや止めろよ。

 

「ごめんね、ミレディってお茶目だから」

「にゅふふ」

 

 あ、ダメだこいつ。ミレディにベタ惚れすぎて、ストッパーとしての役目を全く期待できねえわ。ミレディもミレディで、心底嬉しそうに笑ってるし。で、それを見たオスカーの笑みも深くなるし。永久機関完成してるじゃん。

 

 虚無顔が深くなる前に、サッサと終わらせてしまおう。別に嫌いじゃないし、何なら尊敬できる人だとは思っているのだが、真正面から相手するとエネルギーをドカ食いするので疲れてしまう。

 

「本題入るぞ。〝念話〟で連絡した通りなんだが、こいつの面倒を少しの間見ていて欲しい」

 

 そう言って、俺は指輪の中から中村の肉体を取り出した。

 

「うわっ、〝宝物庫〟で人を収納するなんて初めて見たかもだよ。やっぱ君って極悪人だったりするぅ?」

「黙らっしゃい。意識ない人間を持ち運ぶのは骨が折れるんだよ」

「そうは言いつつも、ホントは極悪人である事を隠して……ってアバババ頭割れちゃううう!?」

 

 一挙一動ごとに茶々を入れるミレディに、容赦なくアイアンクローを敢行。悲鳴を上げるミレディを無視して、そのままオスカーにパスした。

 

 何を思ったのか、オスカーはミレディをお姫様抱っこで受け止めた。これにより、人前で何するんだと言って顔を赤くしたミレディが、やがて言葉の勢いを失って増幅した羞恥心で無力化されたのを確認すると、俺は話を続ける。

 

 最初は顔を赤くしていたミレディと、そんな彼女を愛おしげに見ていたオスカーだったが、中村の概要を改めて説明すると、すぐに真剣な表情になった。

 

「取り敢えず、樹海か氷雪洞窟の大迷宮を攻略するまでの間は預かってもらいたいんだが……大丈夫そうか?」

「うん、任せて。解放者のリーダーやってた時、色んな子と関わってきたから。オーくんも、大得意だもんね。年下の相手」

「数千年のブランクはあるけど、問題ないよ。何より、1人じゃないからね」

「ちょ、オーくんもう……」

 

 あー、前も思った事だけど。目の前でこうも器用にイチャイチャされると、無性に帰りたくなる。

 

 チベットスナギツネ顔を通り越して、FXで有り金全て溶かしたかのような顔に進化しそうになるのを必死に堪えながら、俺は眠っている中村を起こした。

 

「〝起きろ〟」

「っ、ここ……は?」

「少しの間、お前が生活する場所だ」

 

 虚ろで光が一切宿らない瞳がこちらを向く。何もかも、心底どうでも良い。そんな考えが見え隠れする。

 

 仕方のない事だろう。天之河の言葉は、元から脆かった彼女の精神を木っ端微塵に粉砕するには、十分すぎる破壊力を有していた。惚れていた人に、あんな物言いをされたら誰でも気を病む。

 

「取り敢えず、お前の魂に打ち込んだ言霊の効力は消しておく。もう、必要ないからな」

「……そう」

「だからと言って逃げるなよ? まあ、この2人の目を掻い潜るのは至難の業だが」

「逃げないよ。逃げる意味ないし……」

 

 暗に、生きる意味を失ったのだと言いたいのが分かった。

 

 中村にとって、天之河は生きる理由そのものだった。そんな彼から、あそこまで手酷く拒絶されたとなれば、こうなるのも無理はない。

 

 どう返すか迷っていた俺だが、何か言葉を返すよりも早く口を開いた人物が1人。

 

「はいはーい、短い間だけど同居人になる訳だから、まずはお互いの自己紹介から! 私は永遠の18歳、更に超絶美少女魔法使い、そして解放者のリーダー、ミレディ・ライセンだよ!」

「え、ええ……?」

「ほーらー、私は自己紹介したから次は貴女だよ? 言っとくけどミレディさん、めっちゃしぶといからね! ずっとダンマリしていても、延々と付き纏って質問攻めするからねっ! 今のうちに覚悟しておいて!」

 

 妙に生き生きしているミレディに、めっちゃ押され気味の中村。

 

 面倒を見るからには必ず全力でやってくれるとは思っていたが、ここまでとは。しかし、ちょっと普通ではない様子な気もする。心做しか、ミレディの瞳に郷愁の色が浮かんでいるように見えた。

 

「……多分、ミレディは色々と思い出しているんだよ」

「オスカー。何か知ってるのか?」

「過去にも、似たような光景を見たからね」

 

 ちょっと寂しそうに笑うオスカー。彼もまた、過去を思い返しているようだった。

 

「でも、心配しなくて大丈夫。彼女は必ず上手くやるから。僕も全力でサポートするしね」

「ブレないな、アンタ。ミレディにベタ惚れだから言えるやつじゃねえか……って、それは今更すぎるか」

「その通り」

 

 久遠の刻を生きるミレディを。惚れた女を、遠い未来で孤独にしないために。ただそれだけの理由で、今日まで生きてきたのが、オスカー・オルクスという男である。

 

 彼が大丈夫と言うなら、信用して良いだろう。

 

「んじゃ、任せるわ。樹海と氷雪洞窟、どちらかの大迷宮の攻略が終わったらまた来る」

「任された。気をつけてね。特に氷雪洞窟は、ヴァンドル・シュネーが作った物だから、心して取り掛かるように」

 

 何か妙に棘のある言い方だったが、気にする事なく俺はミレディに帰る旨を伝えた。

 

 すると、あの時と同じようにいつの間にか現れた紐を引くミレディ。そこは改良しなかったらしい。

 

 本格的にFX顔を晒しながらではあるが、俺は優花と共に激流の中へ飛び込んだ。

 

 オスカー作の籠手で障壁を展開した瞬間、横から抱き着いて素晴らしい感触の何かを当ててきている優花から、何故か頬にキスを落とされて思わずクロスアームブロックの体勢を崩してしまいそうになった以外は、特に何も起こる事なく無事に大迷宮の外へ射出された。

 

 魔力駆動二輪を空中で取り出し、優花をお姫様抱っこした状態で、衝撃を完全に殺し切って着地。流れるように二輪の座席へ搭乗する。

 

 スルリと背中側へ抜けて行った優花は、いつものように腰に手を回し、上体を俺の背に預けてきた。

 

……いや、ちょっと違う。普段より腰に回す手の力が強い。

 

「今日は、甘えたい日か?」

 

 俺の肩の上に乗る優花の顔を、優しく撫でてやる。

 

 あいにく表情を見る事はできないが、雰囲気が更に柔らかくなったのを感じた。

 

「んふふ……」

「ご機嫌だねぇ」

「ここ数日、仕方なかったとは言え寂しかったから。それに、ほんのり嫉妬もしてた。でも、こうして密着していると、寂しい気持ちも嫌な思いも、全部忘れられる」

「……ごめんな、構えなくて」

「ううん、ケンが謝る事じゃない。2人で過ごす日々が当たり前と化していて、私の認識がバグってただけ。このままじゃ、働いたりボクシングの練習をしに行くケンの事を、行かないでって引き止めちゃうから、何とか改善しないと」

 

 困った。優花が尋常じゃないぐらい可愛い。

 

 俺、優花に「行かないで」と言われたら、間違いなくその日の予定を全てぶん投げる自信がある。そして、全力で優花に構い倒すだろう。

 

 優奈と過ごしていた頃、彼女に「もう少しだけ」と言われた事があり、その時も俺は速攻でその日の練習をぶん投げた実例があるので、俺がどんな行動を取るのか想像するのは容易である。

 

「迷惑には思わないから、あまりに気に病まないで欲しいかな。毎日言うようなら流石に改善しなきゃと俺も思うが、君がワガママを言う時って、相当気持ちを溜め込んでいる時だろうし」

「あ、バレてる感じか……」

「交友関係が極端に狭い分、誰よりも人の事を見ている自信はある。恋人なら、それは尚更だ」

 

 優花の顔が見えるように、体の向きを90度変えて座り直す。

 

 そして、改めて優花の頭を撫で回した。

 

 少しの間はされるがままだった優花だが、すぐに俺の手に頭頂部を擦り付けるように体を動かした。猫っぽさと可愛らしさ全開である。

 

 これは、暫く動けそうにない。甘えたい優花と、甘やかしたい俺が揃ったら、意識しなければ日が暮れるまでこのままだろう。

 

 一応、1時間を目処に出発しよう。そう決めて、俺は頭を撫でられる事に夢中になっている優花にサイレントでキスを落とし、驚いて目を開けた彼女にもう1度唇を重ねるのだった。

 

……絶対1時間で出発できないよな、これ。




 恵里さんを過去の自身と重ね合わせ、今度は自分がベルさんのように寄り添おうとするミレディちゃんと、そんな彼女を何があっても支えるつもりのオーちゃんさん。挙式しねーかなこの2人。

 恵里さんは一時的にフェードアウトしますが、次に攻略する大迷宮が終わり次第何かしら動きがあるような展開にします。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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