異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
「よーし、そろそろ突入するか……」
見た事のない真っ白な風景が、俺の眼前には広がっていた。
結局、2時間程度はイチャイチャしていた俺たちだったが、何とか出発して目的地である【シュネー雪原】に辿り着いた。ちなみに1時間経った段階で行こうとしたら、優花に上目遣いで「……もっと、ダメ?」と言われてしまったので、一も二もなく延長を決意した。ありゃ反則技である。
さて、【シュネー雪原】であるが、【ライセン大峡谷】によって真っ二つに分けられる大陸南側、その東にある一大雪原だ。年中曇天に覆われており、雪が降らない日が極まれにあるくらいで晴れる事はなく、ずっと雪と氷で覆われた大地が続いている。
東の【ハルツィナ樹海】と南大陸中央に位置する魔人族の国ガーランド魔王国の間に挟まれており、どういう訳かそこに壁でもあるかのようにピタリと雲も氷雪も突然区切れているという不思議な場所だ。お陰で、樹海にも魔国にも氷雪被害は一切ない。
その奥地にあるかなり大きな峡谷の最奥部には、【氷雪洞窟】が存在する。そこに大迷宮があるとミレディから聞いた俺は、先にこちらの大迷宮を攻略して情報をハジメたちに持って帰ろうと考えた。
ハジメには既に俺の考えを共有しており、彼からは「それじゃあ、樹海の大迷宮の情報と交換だね」と言われている。本当に頭が回る親友である。
ちなみに、天之河率いる勇者パーティーは結局同行する事になったらしい。ハジメに中村を預けなくて、本当に良かった。
「行くか」
「うん。 ……ちゅ」
「毎度の事ながら、キスは反則じゃね?」
「ダメだった?」
「いや全く。むしろご褒美」
熱くなった顔を振りながら、オスカー製の防具の上から更に防寒具として着たサーモンピンク色のスウェットのフードを被ると、雪原へ突入するためにチューニングした魔力駆動二輪を発進させる。
二輪の座席下に取り付けられた収納トランクには、クロスした状態で安置してあるオスカー作の籠手。そして、優花の所持品である〝天絶〟の式が刻まれたナイフが数本が入っている。これで、二輪の周囲に幾重の障壁を展開する事で、猛吹雪に直接触れる事を防ごうという魂胆だ。
更に、障壁にピッタリ沿うようにして浮く〝灼熱式〟の小さな魔剣たちが、今回はワイパー代わりになって障壁にへばり付く雪を溶かして前方の視界を確保してくれる。障壁の内側にも〝灼熱式〟や赤熱化したアーティファクトナイフが浮遊しており、こちらはストーブのような役割を担っている。
服装も寒波を乗り切れるように工夫している。俺はサーモンピンク色のスウェットを、優花は緑色のスウェットを防具の上から着込んでおり、ハジメによって取り付けられた特定範囲の気温調節機能を活用する事で、寒冷地でも普段通りに動けるようにしている。
なお、気温調節機能には、水が一瞬で凍り付いてしまうような極寒の地であっても、液体のまま維持してくれる副次的な効果も持っているので、今回の大迷宮攻略の生命線とも言える装備だ。
急拵えの雪用チューニングではあったが、雪原に突入してみてすぐに、問題なく走行できる事が分かったので一安心である。案外、その場の思いつきで何とかなるもんだ。
見渡す限りの銀世界で、進行方向が分からなくなりそうな景色ではあるが、そこの対策もしている。
――先輩、このままハンドルを動かさず直進で!
「はいよ」
――ここで左だよ〜
「ほいさァ」
俺に取り憑いた優奈の指示通りに二輪を動かせば、取り敢えず迷子になる事はない。
特殊な存在だからなのか、視界がホワイトアウトするレベルの猛吹雪の中であっても、問題なく前が見える優奈のナビゲーションに従い、二輪に流す魔力の量を少しずつ上げていく。
時折、視界の悪さを利用するようにして、いきなり目の前に白い体色の魔物が出現する。普通に進めば、奇襲となるようなタイミングだ。
――間もなく、200メートル先、魔物と接敵しま〜す
だが、それすらも見破る優奈が先にアナウンスしてくれる。
車のナビの真似をしているようだが、ちょっと間延びした声で呑気に教えてくれるので、その度に笑いが溢れてしまう。それは優花も同じようで、たまにクスリと笑っているのが分かった。
奴らよりも先に、奇襲を仕掛けようとしている事が分かってしまえば、その優位性は著しく失われる。こちらには、先制攻撃や奇襲が大得意な、最強の〝投術師〟がいるからな。
障壁の外で待機していたナイフたちが見事な隊列を組み、白亜の視界の中でも僅かに分かるぐらい凄惨な血飛沫を上げては何事もなかったかのように戻って来るを繰り返しているので、1度も魔物の奇襲を受けずに進む事ができている。
「魔力消耗は?」
「問題なし。倒した魔物から回収してるのと、そもそも節約しているから」
「流石だ」
そのまま何事もなく進んで行くと、やがて目の前に巨大な谷底が出現した。
一瞬行き止まりかと思ったが、この下にまだ道が続いていると優奈が教えてくれたので、俺たちは二輪から降りて籠手やナイフを回収すると、互いに手を繋いだ状態のまま、躊躇いなく谷底の下へ飛び降りた。
地面まで大体400メートルぐらい。だが、高高度からのフリーフォールを経験済みの俺たちからすれば、大した高さではない。
難なく着地に成功すると、そのまま流れるように歩き始めた。無論、手は繋いだまま。何なら、優花は俺の腕に抱き着くような体勢である。
「雪の中のデートって、こんな感じなんかね」
「かもね。北海道や新潟でも、ここまでの猛吹雪はないと思うけど」
「いや、世界で1番の雪国は日本だから、案外有り得るかもしれんぞ」
「え、そうだったんだ。だとしたら、日本って修羅の国すぎない……?」
「違いない」
年間通して、自然災害が身近にあるヤベー国だからな。暑熱、台風、雪害に加えて、地震と大量の火山が同居していても、今日まで問題なく存続している修羅の国、日本。もっと誇っても良いと思う。
と、こんな調子で完全にデート気分の俺たちだが、だからと言って周囲の警戒が疎かになるような事はない。
互いに展開している〝気配感知〟で敵を捉えた瞬間、拳から1点に集束された強烈な衝撃波が飛ぶか、手から小さな魔剣〝爆裂式〟が飛ぶかして、一撃で魔物を仕留めている。
本来なら、この極寒の地で体力も判断力も奪われた状態で、雪の色と同化している魔物の奇襲を退けなければならないので、多少対策したところで生きて帰れる可能性は限りなく低い。そう、本来なら。
大迷宮に挑む資格がない者を、容赦なく切り捨てるための立地なのだろうが、俺たちには関係ない。尽くを粉砕し、前へ進むのみである。
奇襲潰しの先制攻撃を繰り返し続けた事で、フリーフォール後から【氷雪洞窟】の入口と思われる場所に辿り着くまでの間、結局俺たちは魔物の姿を直接目にする事はなかった。
「ここからが本番ってか」
「明らかに雰囲気が重くなったし、間違いなさそう」
「これで怖気づく人は、引き返せって事なんだろうな」
――乗り切れないなら帰れって教えてくれる辺り、意外と親切設計だったり?
二等辺三角形のような形をした入口からは、大迷宮特有の重苦しい空気が流れ出ている。
今更怖気づくような事はないが、どうしても肩に力が入る。辿り着くまでの道程はそう大した事はないが、大迷宮内は気を抜いたら一瞬で死ぬ場所に変わりはない。
「……んじゃ、サクッと攻略するか」
「ふふ、そうね。ケンと優奈ちゃんが一緒なら、どこも怖くないし」
「ったく、可愛い事ばかり言っちゃって」
――優花お姉ちゃんは今日も可愛いな〜
「ちょっ、2人していきなり何!?」
「いや可愛いのは事実だし……なァ?」
――褒められ慣れてないところとか、可愛くてもっともっと褒めたくなっちゃうよね!
「分かる。めっちゃ頭を撫で回したい」
「だからって、ホントに撫で回す人いる!? これ、めっちゃ恥ずかしいんだからね!?」
だがまあ、この調子なら大丈夫だろう。
独りでも十全に戦えるだろうが、優花と優奈がこうして近くにいる事で、何倍何十倍と力は膨れ上がる。装備品という形でハジメやオスカーが一緒に戦ってくれている事も考えれば、これ以上贅沢な環境は多分ない。
油断や慢心は以ての外である。だが、自信までも失うような真似はしない。必ず乗り越えられる。そして攻略できると、自分自身を信じる事にした。
「よーし。気力も十分漲った事だし、行きますか」
――はいはーい
「あ、ちょ、待ってよ2人とも!」
大迷宮の試練で。自分自身の存在意義や、信じていた正義に疑いを持つとは、知らぬまま。
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「報告に上がっていた人間族共が、シュネー雪原に突入したという情報が入りました」
「そうか。下がって良いぞ」
「はっ」
「さて……」
何百年と生き長らえながらも、20代前半の若々しい姿を保っている男は暫し考えた後に、玉座の裏手側にある壁の一角を押し込む。
すると、ユラユラと空間が揺れるようにして現れた扉が、男が触れる事なく勝手に開いた。
扉の奥に広がる、禍々しい暗黒空間。そこに、男は迷わず足を踏み入れる。
男の姿が暗黒空間に消えたと同時に、扉は音もなく虚空へ消え去った。
「この前のハイリヒ王国襲撃の際、クレイジーハンドを全滅させ、魔人族の最高戦力の一角を担うサンドマンを圧倒した人間族の女。そして、最大の脅威であると貴方様が断じたリトルマックが、魔国ガーランドの近場であるシュネー雪原に姿を現したという報告が上がりましたが、どのように対処致しましょうか」
――闇の化身、ダーズ様。
ギョロリ。そんな擬音と共に、暗黒空間に1つ目が浮かび上がる。
1つ目は言葉を口にする事はなく、赤黒い波動を撒き散らしながら、ジッと男を見つめるのみ。だが、男には主君が、何を言わんとしているのか理解できたらしい。
「承知致しました。必ずや、吉報をお持ち帰り致しましょう」
そこには、闇の化身の忠実な下僕としての顔を浮かべた、元神の眷属の姿があった。
「……ククッ、まさか〝エヒト〟も、このような事態になっているとは思いますまい」
実に愉快げに、そして楽しげに新たな主君と話す男の姿を、かつての主君は知る由もない。
狂った運命の歯車は、静かに。しかし確実に動き始めていた。
樹海の大迷宮の試練である〝理想郷〟や〝感情反転〟は、最後の最後に乗り越えて欲しいと思いましたので、本作では樹海より先に氷雪洞窟の攻略に向かってもらう事にしました。
何やら怪しい奴らも出てきましたが、彼らにもそろそろ動いてもらわないとですので、今後は出番が増えていくかと。当然、対となる存在の出番も増えていきます。
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