異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 最近、3000~4000文字で話を纏められなくなってきていて、1話につき8000~10000文字程度となっていますが、長すぎるとか読みにくいとなっていないか心配です……。

 やっぱ多少は文字数減らした方が読みやすいんですかね?


守られる覚悟

 ミラーハウスのように、姿が辺り一面に映し出される不思議な空間を、俺たちはテクテク歩いていく。

 

 通路の広さはかなりあるのだが、全ての壁がクリスタルのように透明度の高い氷で出来ており、そこに反射する人影によって実際の人数より多くの人がいるように錯覚してしまう。結果、その広さに反して、どうにも手狭に感じてしまうという不思議な内部構造だった。

 

 また、洞窟内であるにも関わらず、横殴りに吹雪いている点も不思議な要素の1つである。

 

 この雪が厄介で、下手に生身で触れればドライアイスのように、一瞬で凍傷を負ってしまう代物である。

 

 優花がオスカーグローブや〝天絶〟の式が刻まれているナイフを操り、幾重にも障壁を張り巡らせる事で対応しているが、延々と彼女に任せる訳にも行かない。時々俺が籠手を回収して〝聖絶〟の展開を行ったり、優奈が俺を通じて虚空から取り出した札を使って防護壁を生み出したりして、優花1人に負担をかけ過ぎないように進んで行く。

 

「……それにしても、魔人族の死体が多いな」

「フリードが大迷宮攻略を果たした事で、自分も行けると考えたとか? でも、そんな甘くなかったと」

「あの雪原を突破できるぐらいの実力はあるはずだから、ここで死んでしまうのは勿体ないな。神代魔法がなくとも、人間族からすれば十二分に脅威となっただろうに」

 

 結構な数の、綺麗な状態のまま標本のように氷壁の中に埋まっている魔人族の死体を見かけて、思わずそんな言葉が漏れた。

 

 何故、死体が壁に埋まるようにして安置されているのか疑問には感じたが、それ以上に「勿体ない」と考えてしまったのである。

 

 攻略できれば確かに隔絶した力を得られる大迷宮だが、死ねば元も子もない。質では勝っているが、数では負けている魔人族からしたら、1人の損失は人間族側よりも遥かに大きいだろう。

 

「でも、この前あった王都襲撃が失敗した事を受けて、もっと多くの魔人族が大迷宮に挑戦しそうじゃない? 質でも叶わないバケモノが大量に現れたと魔人族側は考えるだろうし」

「あー、確かに言えてる。何なら、国を上げての一大プロジェクトになるかもしれん」

――余計に犠牲者が増えそうだけどね

 

 今すぐ攻略できそうなのは、サンドマンぐらいじゃなかろうか。その彼も、今は優花に負わされた傷を癒やしている可能性が高いが……。

 

 仮に神代魔法を手に入れた魔人族の数が激増したら、人間族側は勝つのが絶望的な状況に陥りそうだが、当面の間は大丈夫そうである。

 

 もっとも、俺はその戦争に、どちらかの陣営について参加する気はないけど。守るべき対象が、戦争によって死ぬ危機にあるのであれば、話は別だが。

 

 氷壁に埋まった遺体をスルーし、たまに壁や地面から突き出る氷柱を回避しながら、歩みを止める事なく進み続ける。今のところ、目立った試練はない。

 

 だが、俺の直感は。もう間もなく、何かがあると告げていた。

 

 四辻となっている通路の中央に辿り着いた瞬間、俺は強大な力を持つ何かが、そう遠くない場所にいる事を気取った。

 

「何かにナイフを破壊された……?」

 

 先を索敵するべく、ナイフを数本飛ばしていた優花も、敵の存在を感じ取ったようだ。

 

「方角は?」

「こっち。ナイフを破壊するスピードが凄まじかったから、かなりの強敵かも」

 

 ほんの僅かだが顔を顰める優花を見て、相当な強敵であると悟った俺は、一気に警戒レベルを引き上げた。

 

 優花のナイフが破壊された方を向き、足を進める。いつでも戦えるように、優奈に取り憑いてもらった上で〝身体強化〟を発動させて。

 

 通路を抜けた俺たちは、ドーム状となっている空間に出た。広さは東京ドームぐらいあるだろうか。かなりの大きさである。

 

 入口とは対面の位置にある壁には、氷で造られた巨大な玉座がある。そこには、強烈な圧を放つ壮齢の大男が座っていた。

 

 男は、鮮血色のワインを注いだグラスを手に、こちらを睨んでいる。

 

「来たか……忌々しい姿形をした人間」

 

 黒と赤のマント姿の男に、俺は見覚えがあった。見覚えがありすぎて、軽く目眩を覚えたぐらいだ。

 

 いやまあ、直近でクレイジーハンドと戦ったし、マスターハンドやギガクッパとの交戦もあったので、おかしい話ではないのだが。実際にこうして姿を目にすると、脳がまず理解を拒む。

 

 だが、これは現実だ。逃避をしている場合ではない。

 

「ドラキュラ伯爵。何故、お前がここに?」

「ほう、知っているか。貴様は、本来ならば〝あの世界〟とは無縁のはずだが……いや、些末な事か。その姿形をしている以上、貴様がリトルマックである事に変わりはない」

「……それは通称だぞ。本名はケン。真久野ケンだ」

「ケン。その名前も気に食わん。どうあっても、貴様は私を不愉快にする存在らしいな」

 

 クソ理不尽な物言いである。面倒くせぇなこいつ。

 

 しかし、それを咎めるよりも、聞かねばならない事が山程ある。

 

「その物言いから察するに、リトルマックとケンに、随分と苦い思いをしたと見える。さては遅れを取ったか。ベルモンドの一族に復讐する前に」

「……癪に障る物言いを好むか。細やかな点まで似寄って、貴様は」

「口撃も武器の1つと師範代から教わってるんでね」

 

 出された僅かな情報から、奴の正体についての考察を進めていく。

 

 ベルモンドの名を出して反応を示した事から、奴さんは悪魔城シリーズに出演するドラキュラと見て間違いなさそうである。

 

 更に、スマブラ内でしか関わりがないはずのリトルマックやケン……ケン・マスターズを知っている、何なら強く憎んでいると見た。

 

……あまり、この予測が当たって欲しいとは思えない。だが、状況証拠がかなり揃ってしまっている。

 

――先輩、まさかとは思うけど

「そのまさか、だろうな」

 

 既に、異世界に召喚されるという非現実が現実となってる現状で、今更驚くような事ではないかもしれない。それでも、信じられない気持ちの方が勝るのは、仕方のない事なのだろうか。

 

 いや、いつまでも現実逃避をするのは止めだ。意味がない。無駄な時間の浪費である。

 

 ゲームの中でしか存在しないはずのスマブラSP世界が、異世界トータスを侵食している事を、いい加減認めてしまおう。

 

 全てが俺の知るスマブラSPの世界なのかは分からないが、これまでの経験則から見ても、極めて俺の知る世界に近い物である事に違いはない。

 

「元より貴様らの排除を命じられている事が、私にとって何よりの救いだ。すぐにその忌々しい顔を見なくて良くなる」

「おいおい、随分な物言いじゃねえの。もっとお話ししようぜ」

「黙れ。貴様とこれ以上語り交わす言葉はない」

 

 ガチャン。そんな軽い音を鳴らして割れたワイングラスの破片が、地面に四散する。

 

 膨れ上がる殺気と圧力を前に、こちらも即座に戦闘態勢を整える。俺が籠手を衝撃波が飛ばせる物に変えて構えたのと、優花が小さな魔剣を展開してアーティファクトナイフを握ったのは、ほぼ同時であった。

 

 様々な作品でラスボスを務めた男なだけあって、常人ではとても耐えられない強烈な威圧感を放つドラキュラ伯爵。奴さんとの戦闘難易度は、大迷宮の試練と同等以上に感じた。

 

……だからと言って、退くつもりは毛頭ないが。

 

「優花」

「うんっ」

「優奈も」

――援護するよ

 

 無数のナイフが衛星のように俺たちの周囲を旋回し、蒼炎色の星が9つ、背後を守るようにして浮遊する。優花と優奈から、それぞれ1度ずつグータッチを受けて、戦闘準備完了だ。

 

 対するドラキュラ伯爵は、ワイングラスを持っていた方の手を悠然と前に翳した。

 

 すると、天井の氷壁から生まれた大鷲や蝙蝠が、豪雨のように次々と落下してくる。更に、背後から大量の足音と、人の口から発されているだろうが人語とは思えない、身の毛がよだつ悍ましい呻き声が聞こえてきた。

 

 背後は優花と優奈に任せ、天井から降り注ぐ大鷲たちの猛攻を、俺はK.O.ラッシュで片っ端から打ち砕く事で対応していく。

 

 ある程度余裕が出てきたタイミングでチラリと背後を見ると、優花たちは大量の魔人族……の遺体と戦っていた。まるでゾンビである。

 

 ナイフでバラバラにするだけだと再生するようで、優奈の繰る星に焼かれた者は氷が溶けたかのように水となっている事に気がついた2人は、すぐさまナイフに星を宿して攻撃している。取り敢えず問題なさそうだ。

 

「この程度は造作もないか。ならば、この私も交じるとしよう」

 

 むしろ問題となるのは、マントを翻して参戦してきたドラキュラ伯爵だろう。

 

 奴は氷で形成された様々な魔物を使役しながら、こちらに禍々しい色合いの魔弾を無数飛ばしてきた。すぐさま左拳だけオスカーグローブに切り替えると、凄まじいスピードで直進する魔弾を次々と反射していく。

 

 狙いは、ドラキュラ伯爵が使役する氷の魔物たち。反射と同時に地面を踏み抜き、俺自身も弾丸となって襲い掛かった。

 

 真っ先に反応した蝙蝠の群れは、反射された魔弾が直撃して呆気なく砕け散るも、フロストワーウルフと言うべき風貌の魔物たちが俺の前に立ち塞がる。ご主人の元へは行かせないってか。

 

 だが、二足歩行の魔物相手は、俺にとって1番やりやすい。人間に近いからな!

 

「退け!」

 

 ワン・ツーパンチで早速一体を破壊し、すぐに軽くスウェーバックして横から飛び出してきたワーウルフの爪を回避。カウンターで右のショベルフックを叩き込んで頭部を吹き飛ばす。

 

 ほんの僅かだがドラキュラ伯爵への射線が確保できたので、すかさずスマッシュストレートで衝撃波を飛ばし、顔面を吹き飛ばそうと試みる……が、ワープで避けられてしまった。

 

 すぐに奴さんから反撃が来た。こちらの攻撃の終わり際に合わせて放たれたであろう追加の魔弾は、ギリギリまで引き寄せてからクロスアームブロックを行ってジャストガードを発動させ、魔弾の動きを大幅に遅くしてから再度反射。ワーウルフたちは反応できず、魔弾に呑み込まれて消滅していった。

 

 何発かは後方へ飛んでいったが、聞き慣れた〝天灼〟の音が何回かした後すぐに、爆発音が続けて聞こえてきた。爆発はゾンビたちを巻き込んだようで、優花と優奈は特に被害を被っていないようで一安心である。

 

 数歩走ってから、身を投げ出すぐらいの勢いでハンマーパンチを放ち、最後のワーウルフを地面に叩きつけて粉砕すると、ジョルトの踏み込みを使って急速にドラキュラ伯爵に接近する。

 

「チッ」

 

 もう少しで拳が届くという距離まで来た俺を見て、ドラキュラ伯爵は盛大に舌打ちをすると、何の前触れもなく肉体を無数の蝙蝠に変化させた。

 

 この間は無敵判定だったはず。俺は拳を振り抜くのを止め、蝙蝠の群れとすれ違ってから地面に着地すると、すぐさま背後を振り向く。

 

 それとほぼ同時。足元が赤銅色に染まる。本能的に俺は前へ出た。その場に留まったら、間違いなく死ぬ。

 

 さっきまで立っていた場所に、地面から盛大な炎柱が立ち昇る。それを合図として、前方や横方向にも次々と炎柱が現れた。

 

 ゲームなら安全地帯が設けられる攻撃だが、命の取り合いではそんな場所ある訳がない。やや遠目の位置から徐々に俺の近くに炎柱を出現させる事で、前にも後ろにも、横にすらも動けなくしてきている。

 

 炎柱にスマッシュストレートを放ってみても、その勢いが衰える事はまるでないので、強行突破も難しいだろう。〝聖絶〟で突っ込むのも不安がある。

 

「活路があるとすれば……上方向か」

 

 炎柱を見た感じ、天井までは到達していない上に、どれも一定の高さまでしか噴き上がっていない。

 

 高さにして、大体30mぐらいか。炎が完全に立ち昇るよりも先に、それ以上の跳躍を行えば理論上何とかなる。普通に連続して跳躍するだけでは厳しそうだが、方法は1つではない。俺ならやれる。

 

 俺のすぐ近くを囲うようにして炎柱が噴き上がる。次は、俺の真下だろう。

 

 むせ返りそうになる強烈な熱気の中で、俺は一段と集中するために〝瞬光〟を使用する。更に〝集中強化〟で右足に魔力を流し、地面を凝視してその時を待つ。

 

 地面がゆっくりと、赤銅色に染まっていくが、まだ待ち続ける。攻撃の回避を終えたと同時に反撃へ移るべく、炎柱が出現するギリギリのギリギリまで、俺は動かない。

 

「まだ……」

 

 地面からも熱を感じる。だが、まだ跳ばない。

 

「もう少し……」

 

 地面の色が、赤銅色から白色に変化した。

 

 そこからコンマ数秒だけ待つ。すると、地面から十字架状の閃光が迸った。

 

「今ッ!」

 

 ずっと観察していたから分かるのだ。この閃光が見えてからコンマ数秒後に、炎柱が出現する事が!

 

 右足を軸として、超高速でスピンしながら俺が跳び上がってから数瞬後、物凄い勢いで立ち昇る炎が追いかけてくる。

 

 繰り出したのはライジングアッパーカット……ではなく、回転数と上昇スピードを更に高めた物だ。初手の右アッパーによって放たれた衝撃波が、高速回転&急速上昇に巻き込まれた事で渦を巻き、竜巻のような形で俺の身体に纏わりついているので、トルネードブローとでも言うべきだろうか。

 

 スマブラForのカスタム技にもあったな、トルネードブロー。優秀な攻撃性能を捨てて、復帰性能をほんの少しだけ上げた技だった。その僅かな差が生死を分けるので、採用するべきか割と悩ましく感じるのが実にリトルマックである。

 

 風を纏う形になったのは全くの偶然である。だが、それが逆に強烈な熱気を無効化し、目標としていた高度まで何の問題もなく上昇できた結果に繋がった。

 

 最後に〝空力〟で空中に足場を作り、それを左足で蹴りながら左拳を振り上げて一気に跳び上がる。すると、俺の視界から炎の壁が消え、涼やかな氷の壁が広がった。

 

 すぐさま〝空力〟を使い、空中に着地して体勢を整える。眼下に広がる超広範囲の炎柱は無視して、こちらの姿を見失っているドラキュラ伯爵の姿を見つけた俺は、〝気配遮断〟を使用しながら足場を蹴り、右拳を〝集中強化〟して、念入りに左拳の籠手を衝撃波が飛ばせる物に変えてから、奴さんの頭上へ移動した。

 

 まだバレていない。さっきの攻撃で俺を仕留めたとでも思っているのか、ドラキュラ伯爵はワープで幻惑しながら、優花たちに炎弾を飛ばしている。

 

 無意識に口角が吊り上がる。いくら何でも甘すぎるぞ、ドラキュラ伯爵。

 

 重力を操り、凄まじいスピードで俺は高度を落としていく。瞬きする間に俺の身体は、ドラキュラ伯爵の頭部に拳が届くぐらいの距離まで接近した。

 

 そこまで来て、やっとドラキュラ伯爵は身に迫る脅威に気がついたらしいが、もう遅い。

 

「オラァ!」

「ぐうっ!?」

 

 首をへし折るつもりでバリーブローを放ち、ドラキュラ伯爵の頭部を大きく揺らしながら、地面を陥没させて着地。その勢いのまま沈み込み、地面に拳を擦り付けて〝火種〟を発火させ、ダイナマイトアッパーカットを繰り出した。

 

 軽く吹っ飛び、空中で1回転して地面に落ちてくるドラキュラ伯爵。すかさず追撃として、拳が燃え盛った状態のままスマッシュアッパーカットを放つ。

 

「く、人間風情がっ!」

 

 先ほどよりも低空でもう1回転したドラキュラ伯爵だが、その状態で赤と青の魔弾を手元に浮かべた。

 

 超近距離のため、普通なら躱せるタイミングではない。流石の俺でも足を使って回避する事に関しては無理だと分かる。

 

 だが、俺は敢えてそこから更なる追撃を仕掛けに行く。

 

「何、すり抜け――!?」

「トウッ!!」

 

 発生1F無敵を舐めるなよ。多少の暴れや非確定の連携を許す俺ではない。

 

 3発目の追撃として放ったライジングアッパーカットで、炎の螺旋を描きながらドラキュラ伯爵の頭部を削り取っていく。

 

 締めの左拳による突き上げは、優奈の繰る星のような蒼炎と共に放たれた。全く想定していない事態だが、多分優奈とグータッチした時に何かを仕込まれていたのだろう。威力の強化に繋がるなら、俺としては何でも良い。

 

 火達磨になって墜落してくるドラキュラ伯爵を眺めながら、俺も地面に着地する。なんか、明らかに普通じゃない炎に包まれているようで、相当苦しそうだ。

 

 首を傾げながら経過を見守る俺の元に駆け寄ってきた優花も、目をまん丸にしてドラキュラを見た……が、すぐに俺の腕に抱き着いてきた。

 

 一時的に氷で形成された魔物が湧くのも収まっているようで、優奈もフワフワとこちらに寄ってくる。そして、当たり前のように背中に乗ってきた。戦闘中だぞ一応。

 

「ケン! 大丈夫だった!?」

「おう、この通り無傷でピンピンしてるよ。優花たちも無事だったみたいだな」

――再生封じの星がかなり機能していたからね。ドラキュラが苦しんでるのも、これが原因だと思う

「んなヤベー代物だったのかアレ……」

 

 ヴァンパイアハンターが扱う聖水的な奴かと思ったら、もっと凄まじい物だった。

 

 そう言えば、無限に再生する檜山を仕留めたのも優奈だったか。ガチもんの神様と、個人的に繋がりがあるらしいし、人智を超えたとんでもない技を繰り出すのもおかしな話ではないが。しかし、だとしてもヤベー性能を持つ技を息をするようにお出しされるのは、流石に心臓に悪い。

 

 心強い事この上ないが、再生封じ以外にも絶対ヤベー技を大量に持ってるだろうし。今のうちから、覚悟しておいた方が良いだろうか。

 

 ガッツリ優奈が密着してきているので、明らかに成長している女性的なそれが背中に当たりまくっていて、ぶっちゃけそれどころじゃないが。優花もそうだが、君たち大迷宮の攻略中であってもお構いなしに引っ付いてくるよな。耐えるの結構大変なんですけど?

 

 好かれるのは嬉しい事だが、優花と優奈に関しては、今でも簡単にドキドキさせられてしまう。

 

 繰り返すが、大迷宮攻略中であっても、である。俺は俺で、生き死にがすぐ真横で控えている状況下でもドキドキできるぐらい、この状況にある意味慣れてしまっているとも言えるが。

 

「グウ、アアア――」

「っ、まだ生きてるな。俺の知るドラキュラ伯爵なら、この後おそらく……」

 

 ドラキュラ伯爵の声の様子が変わった事を受けて、全員が一気に戦闘時の顔つきに戻る。

 

「我、に……ぢがら、ヺォォ!」

 

 禍々しい光が幾重にもスパークしていくと共に、蒼炎が少しずつ消えていく。

 

 その下から現れたのは、先ほどまでの人間らしさは一切見受けられない、緑色の怪物だ。

 

 伝承通りの悪魔の姿とでも言うべきだろうか。筋肉質な肉体、腕と一体化した翼、野生動物的な爪と牙に角、そして尻尾。ウルトラマンシリーズや仮面ライダーシリーズに、今週の怪獣、または怪人として出現しても違和感ないかもしれない。

 

 大きく咆哮するドラキュラ伯爵を前に、俺たちは怖気づく事も恐れる事もなく淡々と構える。

 

「ドラキュラはあの状態になったら、全身に攻撃が通るようになる。全員で一気に体力を削り取っちまおう」

「得意分野だね、私たちの」

――先輩は攻めに集中して良いからね

「……守りは、自分とお姉ちゃんがやるからさ」

「そうね。迎撃はお任せあれ」

 

 半透明から実体化した優奈が、荘厳な雰囲気を身に纏って札を何枚も取り出した。

 

 天体ショーってそんな頻繁に起こるものだったのかと聞きたくなったが、それは後にしよう。世間が取り上げないだけで、細やかな天体ショーは高頻度で起こっているのかもしれない。

 

 周囲を警戒するが、魔物の姿は見られない。緑色の怪物になった事で、理性を吹っ飛ばしたからだろうか。それとも、真の力を解放した事で、使役する魔物はもう必要ないと考えたのか。

 

 どちらにせよ、数で圧殺される心配はしなくて良さそうだ。

 

「グオオ――!!」

 

 ドラキュラの口元が紅色に染まるのとほぼ同時。優奈が札を蒼色の狐火で焼き消しながら、ボソリと呟いた。

 

「迎撃式」

 

 白色の矮星が、ポツポツと目の前に浮かび上がる。大きさは極小で、数はそこまで多くない。だが、凄まじいエネルギーを秘めている事が分かった俺は、軽く頬を引き攣らせた。

 

 どう見ても破壊力抜群な炎弾が無数飛来しても、全く脅威に感じない。それくらい、優奈が生み出した白色矮星からとんでもない力を感じるのだ。

 

「〝星屑〟」

 

 矮星が弾け飛ぶ。辺りに小さな流星を撒き散らしながら。

 

 本能的に、俺はスタートを切った。炎弾を防いで終わりじゃない、あの流星は。

 

 俺の予測通り、小さな流星はたった1つで炎弾を無数掻き消してしまった後、そのままドラキュラ伯爵の方へ飛来していく。迎撃とは名ばかりの超攻撃である。

 

 すぐにドラキュラ伯爵は迎撃するべく、強烈な咆哮によって発生した衝撃波で流星をかき消そうとするが、全く意味を成さなかった。消えるどころか、吹き散らされる様子も見られない。

 

 流星が次から次へと着弾したドラキュラ伯爵は、悲鳴を上げながら後退っていった。ヒットの度に小さな爆発が連続して起こっているので、屈強な肉体を持つ奴さんでもただでは済まない。

 

 更にダメ押しで、優花が放った無数の〝天灼〟と〝爆裂式〟がドラキュラに突き刺さり、ダメージを加速させていく。

 

 爆発によって巻き起こった煙を突き抜けて、拳が届く距離まで接近した俺は、一気に勝負を決めるべくスマッシュボディフックを連発する。当たっているのは足元だが。

 

 5発、6発と拳打を積み重ねていくと、その痛みで我に返ったのか、強引にドラキュラが腕を叩きつけてきた。

 

「チイッ!」

 

 すぐさまスマッシュアッパーカットで腕を弾き飛ばす。続けて放たれた2発目はバックスウェーで回避しようと試みた。

 

 だが、俺が動き出すよりも先に、後方から音もなく飛来した一際大きな流星がドラキュラ伯爵の顔面に命中し、攻撃をキャンセルしてしまった。

 

 その間も、優花のナイフがドラキュラの身体を斬り裂いていく。熱で焼かれたり、氷結させられてる箇所も見受けられるので、小さな魔剣も適宜投げ込んでいるようだ。

 

「ケン先輩、攻撃だけに集中して! 私たちが、先輩に降りかかる火の粉は全て払う!」

「前だけ見ていて大丈夫! 絶対、守ってみせるから!」

 

 何ともまあ頼もしい。なら、その言葉を100%信用するとしよう。

 

 防御の事を完全に頭の中から消し去り、殴りたい箇所だけを見つめる事にする。

 

 高速のウィービングを何度か挟んでから、デンプシーロールへ俺は移行した。防御は考えず、無心で拳を1点に当て続ける。

 

 視界の上方に、紫色の魔弾……追尾弾らしき物が見えたが、お構いなしだ。何が放たれたのかは分かっているが、俺に命中する事はない。そう、信じている。

 

 唸りを上げて俺の周囲を飛び回るナイフたちは、時折〝天灼〟を発射しながら魔弾を迎撃していた。仮に当たれば、毒撃でスリップダメージでも受けていただろうが、啖呵を切った優花のナイフ捌きが被弾を許さない。

 

 そして、攻撃を捌き切ればすぐに優奈が流星を放ち、ドラキュラに大ダメージを与えていく。

 

 堪らず跳び上がって離脱し、俺を踏み潰そうとしてくるが、俺も真上に跳んでバリーブローの構えを取る。逃がしはしない。

 

 ならばと爪で引き裂こうとしてくるが、腕に殺到したナイフたちが爪を振り下ろすよりも早く切断してしまった。そして間髪入れずに連続した発砲音が鳴り響き、ドラキュラの目元を正確に撃ち抜いていく。その頃には、俺はもう拳を振り下ろす準備が完了している。

 

「シュッ!」

 

 強烈なメテオ効果が付与されている一撃を受けて、急降下する俺よりも早く地面に叩きつけられたドラキュラ。そこに容赦なく流星が降り注ぎ、休む暇を一切与えない。

 

 それでも何とかドラキュラは立ち上がったが、もう足元が覚束ない様子であった。

 

 何も考える事なく、俺は左ジャブ、右フックと連携してからK.O.ラッシュを繰り出した。このまま、残存体力を全て削り落とす!

 

「攻撃式……」

「斬り裂け、〝斬羅〟!」

「〝連星弓〟!」

 

 ダメ押しの追撃を受けたドラキュラ伯爵の身体は、ギガクッパと同じく小規模の爆発を起こしながら、少しずつ崩れ落ちていく。

 

 最後に強烈なロングアッパーを叩き込むと、力なく奴さんの身体は地面に倒れ伏した。断末魔の咆哮を上げる余力すら残っていないようで、ドラキュラ伯爵の身体はただ静かに滅んでいく。

 

 亡骸が風に乗り、跡形もなく消え去るまでの間、口を開かず見守った俺は、良きタイミングで背後を振り向いた。

 

 心から愛しいと思える2人の女性が、目に映る。

 

「ケン!」

「ケン先輩〜!」

 

 腕を目一杯広げて、抱き着いてきた2人を受け入れた。

 

「ありがとう、2人とも。お陰様で、傷1つ負う事なく終えられた」

「守るって、〝約束〟したでしょ? ……やっと、私も納得できる形で〝約束〟を果たせたかな」

「そんな気負わなくても、お姉ちゃんはケン先輩の事を守れてると思うけどねぇ。まあでも、気持ちはすっごい分かるな。私も、ケン先輩の事を守れて一安心してるし」

 

 黙って、2人の頭を撫で回す。

 

 どれだけ俺が嘘偽りなく「気にしてない」「大丈夫」と口にしても、当人が抱える心の凝りが完全に消える訳ではない。優花も優奈も、ずっと悩んできたのだろう。

 

 だからこその発言だろうし、この柔らかい表情なのだろう。己が納得できる形で〝約束〟を果たせる安堵感は、相当な物のはずだ。

 

 守り、そして守られる。単純なようで、意外と難しい。

 

 意識しなければ、どちらか一方に偏ってしまう。多いのは、男が女に守られる形に自然となってしまうケースだろうか。

 

 この命の行く末を、完全に2人に預けられるだけの絶大な信頼。そして、それ相応の覚悟がなければ、成し得る事はまず不可能だろう。

 

「……行こう。ここから先も、俺は君たちを守る」

「私は、ケンと優奈ちゃんを」

「ケン先輩と優花お姉ちゃんを」

「「守る」」

 

 皆が小さく笑みを浮かべた。

 

 まだまだ終わりの見えない大迷宮攻略。だが、必ず無事に終える事ができると信じて、また俺たちは前へ進むのだった。




 アッパー系の連打はどこぞの裂波ァ! を参考にしています。

※マックくんの技紹介
★バリーブロー
…スマブラFor時代のカスタム必殺技。採用の価値がある面白い技である。

 元技であるジョルトは次回紹介します。

 ジョルトブローの横移動を縦に全振りしたような見た目。対地で埋め効果、対空でメテオ効果があるのは本作のマックくんでも同じ。本作では割と初期の頃にも使ってる技だが、重力魔法を手に入れてから非常に凶悪な攻撃性能と殺傷力を持つようになった。

 大抵頭をぶん殴るので、命中後は強制的に下がった頭部にアッパーを叩き込む事が多い。人体に向けて使うと頚椎が折れて即死するか、身長が縮んだ状態で地面に埋まる。

 なお、威力その物や使い勝手はジョルトの方が高い。こちらは付加効果目的で使う。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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