異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 今回は短めです。迷路を迷路じゃなくする羅針盤と同等以上の性能を持つ優花さんの存在が偉大すぎる。

 後半、優奈ちゃんsideが入ります。


似た者同士

 足を動かし続けると、30分ぐらいしてから俺たちはまた広大な空間に出た。

 

「こいつは……」

「迷路、だね」

「大迷宮の中の大迷宮かぁ」

 

 優奈の言う通り、俺たちの眼下には氷で造られた巨大な迷路が広がっていた。

 

 壁で区切られ上が吹き抜けとなっている、アスレチックパークなどでよく見る迷路そのままだが、その規模は冗談のようだ。見える先だけでも確実に1キロはあり、そこから先は雪煙で見えなくなっているのだが、横幅が確実に10キロメートルはあるので、おそらく奥行もそれくらいある。

 

 常に同じような景色が広がるように工夫がされているようで、普通に攻略すればゴリゴリとメンタルが削られるだろうし、ゴールに辿り着くまで膨大な時間を費やすので余計に疲労が溜まるだろう。

 

 その入り口を守るようにして立つ、氷で形成されたオーガ2体を目にした俺は、すぐさま地面を陥没させるぐらい強烈に踏み抜いて飛び出した。

 

 繰り出したのはジョルトブローだ。数十メートルはあった間合いを1度の跳躍で一気に詰め、急接近する俺に驚いて、慌てて盾を構えたフロストオーガに迷う事なく拳を振り下ろす。

 

 俺に中途半端な盾は通用しない。仮にアザンチウム並の硬度があったとしても、関係ない。

 

「グギャア!?」

 

 盾ごとフロストオーガは真っ二つに両断された。

 

 驚いて一瞬硬直したもう1体の方に、俺はすぐさま急接近する。

 

 何とかして俺を追い払おうと、手にしている盾で突きを繰り出してきたフロストオーガ。それに対し、俺は1歩も退く事なく前へ出た。

 

「俺に後手の突き技は通用しない……!」

 

 極限まで盾を引き付けると、皮一枚を切らせるスリッピングで回避。そのまま拳を振り上げて、ステップインと同時に身体ごと叩き付けるようにしながら、渾身のジョルトブローを繰り出す。

 

 フロストオーガは反応できず、前のめりの体勢でカウンターのジョルトブローを受け、着弾した顔面部を盛大に砕かれて力尽きた。

 

 現実世界のボクシングで見られるジョルトブローはこっちだ。見てくれは当たりそうにないテレフォンパンチだが、仮に命中させる事ができれば凄まじい破壊力を発揮する。

 

 当てられる場面としては、カウンターでのヒットが考えられる。扱いづらい技ではあるし、自ら相手の攻撃に飛び込む勇気が必要となるが、その威力は一撃で戦況をひっくり返すレベルの物となるので、過去にも何度か狙って勝負を決めている。

 

 スマブラのジョルトは……何だアレ。一応、ジョルトブローとして成立してはいるのだが、カウンターと言うより突進技である。ほぼハンドボールのジャンプシュートだ。

 

 威力は折り紙付きだが、ボクサーとしてジョルトの認定を下して良いのか、ちょっと微妙なところである。

 

「流石ケン。一瞬だったね」

「今のってスマブラのジョルトとボクシングのジョルトか。ここまで綺麗に使い分ける事ができるもんなんだねぇ」

 

 追いついた優花と優奈が、それぞれ俺の腕に当然のように抱き着きながら賞賛してくれた。

 

 こちらも普段通り頭を撫でながら、改めて眼前に広がる広大な迷路を見る。

 

 正攻法で攻略しても良い。時間を使えば、そのうちクリアはできるだろう。

 

 だが、最初から迷路を普通に攻略するつもりはない俺は、優花に目配せをした。

 

「腕の見せ所だね」

 

 ナイフ群が凄まじいスピードで四散する。グリューエン大火山でも見た光景だが、相変わらず壮観だ。

 

 少しすると、優花は迷いのない足取りで歩き始めた。

 

「……うん、火山の大迷宮の時より広い迷路だけど、問題なさそう。先んじて鍵を探し出して、封印されている扉を開放しておけば、あとは正解のルートをひたすら進むだけ」

「流石。じゃ、サクッと攻略しちまおう」

 

 迷路が迷路ではなくなってしまったが、まあ問題ないだろう。過去にも同じような方法を実行して、攻略が認められてるし。

 

 さて、ゴールまでの道程が分かっているなら、ノンビリと歩く必要はない。

 

 俺は魔力駆動二輪を指輪から取り出すと、優花を後ろに、優奈を前に乗せて走り出した。少人数で攻略しているから取れる手法だ。大所帯だと、こうは行かないだろう。

 

 二輪と相対速度を合わせて少し先を飛ぶナイフを追い掛けるだけの、実に楽な作業である。大迷宮の創設者は憤慨しそうだが。

 

 時折、氷の壁から何の前触れもなく筋骨隆々な鬼、ファンタジー的に言えばブルタールモドキの彫像が出現し、当たり前のように意思を持って立ち塞がってくるが、基本的にマトモに相手する事はない。

 

 軽く体勢を低くして、二輪に流す魔力量を増やし、躊躇いなく轢き逃げしていく。完全にワンダーウイングを使用しているような状態なので、進路上の敵は尽く無慈悲に粉砕していくだけだ。

 

 時速80キロ近くで走行していれば、あっという間に10キロ少々先の目的地に到達できる。さっき優花が言っていた、封印されていた扉までの所要時間は、ざっと15分程度であった。歩いたらバカみたいに時間を使っただろうが、高速の移動手段があればこんなもんである。

 

「よし、ここらで一旦休憩を挟むか」

「だねぇ。お姉ちゃん、少し疲れた顔してるし」

「あれ、そんな顔に出てる? 自覚ないんだけど」

「私やケン先輩だったら分かるかなってぐらいの、小さな変化だね!」

「あー、だったら良いや。多分、他の人なら分からないぐらいの変化でしょ」

「俺たちは見逃さないけどな」

「ふにゃ、いきなり撫でないでよ……」

 

 軽く優花の頭を撫でてから、俺は野営に使っているテントを指輪から取り出した。

 

 ハジメの手により、逐一改良されている野営テント内は、いつも通り快適だ。いつの間にか室内で風呂が入れるようになっていたり、外に向けて発射できるマシンガンみたいな物が小窓の近くに設置されていたりと、ガチ方面にもネタ方面にもパワーアップしているのはご愛嬌である。

 

「この野営テント、そこらのアパートの部屋を借りるより快適な生活できるんじゃないかしら……」

「キャンピングカーやタイミーハウスみたいに移動する機能も取り付けているらしいから、移動式住居としても使えるらしい。ロマンと実用性の両立を目指す、ハジメらしい設計だよマジで」

 

 ごく自然に優花を膝枕し、その優花に黙って抱き着いている優奈の頭も一緒に撫でながら、どうでも良い話に花を咲かせる。

 

 やがて、優花は可愛らしく欠伸を何度か繰り返した後、規則正しい寝息を立て始めた。

 

 無理もない。ここに来るまで、ずっと能力の行使をしていたのだ。優花が怪物のような魔力量を保持しているとしても、断続的な能力の使用はジリジリと肉体的にも精神的にも疲弊していく。

 

「……あっという間に寝ちゃったね、優花お姉ちゃん。相当疲れていたみたい」

「もう少し、彼女の負担を減らせたら良いんだがな。使い手の技量もあるが、優花の持つ能力は、文字通り何でもできてしまう。だが、その代償が脳の酷使だ」

「お姉ちゃんの脳は、今も変異を続けている。能力を使う度に、人間から大きく進化した存在に変わっていく。それに対する恐怖心はゼロじゃないはずなのに、一切の躊躇いがないのは……」

「〝約束〟を果たすため、だろうな」

「うん……間違いないね」

 

 優花の髪を優しく梳いてやると、僅かに彼女は笑みを浮かべた。幸せそうな寝顔である。

 

「ケン先輩とそっくりだね」

「そうか?」

「先輩は、〝約束〟のためなら神の領域に足を踏み入れるし。お姉ちゃんは、そんなケン先輩と並び立つために、人間を超えた新しい生物に進化しようとしているし。ホント、どこまでもそっくり。お似合いの夫婦だよ」

「……確かに、言われてみればそっくりだな。でも、それは優奈も同じだろ? 俺たち全員、似た者同士だ」

「ふふ、そうだね。いつまでもケン先輩のパンチを特等席で見守るために。優花お姉ちゃんが幸せになるところを見るために、こんな不安定な存在になってでも現世に留まっている。 ……だから、私たちは惹かれ合ったんだろうねぇ」

 

 クスリと笑う優奈に釣られて、俺も口角が上がる。

 

 皆、〝約束〟を果たすためなら蛇の道茨の道を迷いなく突き進める異常者だ。

 

 俺は、優奈との〝約束〟を果たすためにこの戦闘スタイルに辿り着いた。そして、人間の範疇を大きく飛び出したバケモノになってでも、優花との〝約束〟を守ろうとしている。

 

 優花も同様だ。人間を超えた何かに進化してでも、〝約束〟を果たそうとしている。そこに至るまでに覚える負の感情を、全て捻じ伏せて。

 

 優奈もまた、人としての身体が滅びても尚、〝約束〟のために現世に留まり続けている。

 

 人によっては一生かかっても理解できない生き様だろう。正気ではない。そして狂っていると断じられても、俺は怒りも否定もしない。

 

 だが、どれだけ狂っているとしても。どれだけ辛く苦しい道程になるとしても。自ら選んだこの道から外れるつもりは、毛頭ない。仮に道から外れたら命を絶つぐらいの気概だろう、皆。

 

 それを成せる理由はただ1つ。深い愛情があるから。それだけだ。

 

……優花という恋人がいながら、優奈を同じぐらい愛している自分自身には、何とも言えない気持ち悪さを感じているが。

 

 ハジメも、こうして悩んでいたのだろうか。

 

「……ケン先輩? 顔色悪いけど、大丈夫?」

「ん、ああ。全く問題ない」

 

 咄嗟にそう口にする。嘘だとバレてるのが分かっていても、まず否定から入ってしまうのは、一向に改善する兆しがない悪癖だ。

 

 この手の発言をすると、余計に彼女を心配させてしまうと言うのに。

 

 一瞬だけ目をスッと細くした優奈。だが、すぐに普段の優しい表情に戻ると、起き上がって俺の真横にちょこんと座る。

 

「せーんぱい。独りで考えすぎてない?」

「……そうかな」

「少なくとも、私にはそう見える。過去、似たような顔をしてた時期があるし」

 

 何となく、優奈がどの出来事を指しているのか分かってしまった俺は、少しだけ気まずさを感じて軽く目を閉じた。

 

 彼女は、俺の心中は全てお見通しなのだろう。昔からそうだが、優奈に対してだけはその場凌ぎの嘘を吐いてもアッサリ見抜かれてしまう。

 

「先輩も、休んで良いよ。と言うか休んで。このままじゃ、攻略するより先にケン先輩の方が倒れちゃう」

「……そうかい。なら、お言葉に甘えるとするかな」

 

 寝ている優花を起こさないように、ゆっくりと彼女の頭を膝から下ろす。

 

 そのまま彼女の横に寝転がると、すぐに優花が抱き着いてきて身動きが取れなくなったが、構う事なく目を閉じて肩の力を抜いていった。

 

「〜〜♪」

 

 優奈の手が俺の頬に触れ、彼女が何語か分からない言葉で歌い始めると、急速に意識が遠くなっていく。

 

 どこの言葉なのか。どんな意味を持っているのか。そんな事を考える間もなく、俺は眠りにつくのだった。

 

 

 次に目が覚めた時には、随分と身体が楽になっていたので、優奈の言うように相当疲れていたのだろう。

 

 優花の顔色もかなり良くなっていた。ほんの1時間ぐらい寝ただけで、劇的な変化である。

 

 2人して優奈に礼を言ってから、俺たちは大迷宮の攻略へ戻るのだった。

 

 目の前に広がる、透明度の高い氷で造られた道を見て、軽くウンザリしたのはここだけの話である。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 優奈side

 

「……これで、良し」

 

 安らかな寝息を立てるケン先輩と優花お姉ちゃんを見て、私は唄うのを止めた。

 

 手元に残っている札を完全に焼き払い、一息つく。これで2人は、1時間程度の睡眠で完全復活するだろう。

 

「ケン先輩……」

 

 深い疲労の色が浮かぶ先輩の顔を、優しく撫でながら彼の名を口にする。

 

 術まで使って眠らせたのは、ケン先輩が深く思い詰めている事と、その理由を悟ったからだ。

 

 人の理の外にある私の存在は、彼の心を確かに救った。だが、同時に深い罪悪感も目覚めさせてしまった。

 

 神の領域に、人の身でありながら足を踏み入れてしまった怪物であるケン先輩だが、感性はごく普通の日本人のままだ。一夫一妻制を取る日本で生まれ育った彼は、複数人の女性を愛してしまっている現状に懊悩し、苦しんでいる。

 

 優花お姉ちゃんが、異世界で出会った人に感化されて「1人は許す」度量を身に着けた事で、争いに発展するどころか受け入れ態勢になっているのが唯一の救いだろうか。

 

 これが私以外の女だったら、もう少し優花お姉ちゃんも悩んだような気がする。だが、彼女はケン先輩と私の関係をよく知る人物だ。汚い話だが、最初から受け入れてもらえる地盤は整っていたと言える。

 

 私としては、優花お姉ちゃんと添い遂げて欲しい気持ちは強いのだが、もしも彼女が許してくれるのであれば、ずっとケン先輩と一緒に過ごしたい。ケン先輩にとって1番の女ではなくても良いから、兎に角彼の近くに居たい。そう願っている。

 

 あとは、ケン先輩がどうするかだ。優花お姉ちゃんと添い遂げるか、私も受け入れてくれるのか。

 

 どのような結果になっても私は受け入れる。私が、彼にとって苦しみや辛さを与えるだけの存在だと言うのであれば、すぐにでも消滅する事を視野に入れよう。が、先輩の選択が後者である事を願わずにはいられない。

 

「……ケン先輩。私は、どんな結末になったとしても、貴方だけを愛してるからね」

 

 この気持ちだけは、永久に不滅だ。たかが1度や2度死ぬ程度で、ケン先輩への愛情が薄れるような事は決してない。

 

 同時に、優花お姉ちゃんの幸せを願う気持ちも、決して変わる事はないだろう。実の姉のように慕った彼女が、心から幸せだと思って毎日を暮らす。これほど素晴らしい事はない。

 

 私は、貴方たちが幸せになる様子を見守り、必要があれば手を貸す。そんな存在でありたいのだ。

 

 都合が良すぎるのは分かっている。それでも私は、自分にとって都合の良い夢を見る事を望んでいる。

 

 死後、一層強まった愛情を口にしながら、ただ私は2人の頭を撫で続ける。

 

 かつて、ケン先輩が病で苦しむ私が安眠できるように、優しく撫で続けてくれた、あの時のように。

 

「先輩も、お姉ちゃんも。ずっと、ずっと大好き……」

 

 私の声は、誰の耳にも届かず宙に融けていくのだった。




 ちょっと技紹介が長くなってしまいました。設定考えるのって楽しいですよね、ホント。

※マックくんの技紹介
★ジョルトブロー
…スマブラマックくんの横必殺技。強力な空中攻撃&コンボorブッパ撃墜&重大な欠陥を抱えているが復帰技&崖狩りを含む復帰阻止等々、役割が非常に多い。

 ハンドボールのジャンプシュートみたいな助走から、オーバーハンドで殴り抜く。地上限定の発生1F無敵と下半身無敵は健在。射程距離はその場からの単発出しで20mぐらい。地上限定で風神ステップを挟むと30mぐらいまで延びる。ちなみに、スマッシュストレートの遠当てより射程が長い。

 更に本作のマックくんは、地上空中問わず飛び込んでから拳を振り抜くまでスーパーアーマー状態となる。簡単に言えばスマForのガード崩しの特性を持ちながら、射程距離は従来のジョルトと変わらないドリーム仕様。飛び込みから拳を振り抜かずに終える事も可能なので、ジョルトの踏み込みだけ使う事もそれなりに多い。

 威力は異世界に来た当初から高く、ハジメくんの協力があったとは言え屈強な肉体を持つ魔物を両断するレベル。文字通りガードを許さず、命中したら死ぬレイジドライブみたいな技と化している。

 重力魔法を駆使して隙を生じぬ2段構えな打ち方ができたり、バリーブローに派生したりと総じて優秀な技に尽きる。

 なお、同じ腕の振りでカウンターとして使う事も可能で、こちらはリアルでも見られるジョルトブローの形になる。前に出ながらスリッピングするのが、他のカウンターとは異なる点。

マックくんの新たな恋人候補

  • 〝初恋枠〟優奈ちゃん
  • 〝妹枠〟ルウちゃん
  • 〝大穴枠〟恵里さん
  • ハジメくんの嫁候補以外のクラスメイト
  • アルテナを始めとする亜人族の皆様方
  • 〝英雄〟に嫁ぎたい帝国住まいの方々
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