異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 お砂糖に全振りしています。執筆していて糖尿病になるかと思いました。


余さず召し上がれ

 随分長い時間、砂糖を撒き散らしていたので、その場から動いたのは結局2時間ほど経過してからだった。

 

 現在俺は、顔を真っ赤にして動かなくなった優奈を背負いながら、優花と手を繋いで通路を歩いている。

 

「穴があったら入りたいっ。あぁ〜」

「……後先考えないタイプなのか、優奈って」

「それは否定しないけど、貴方に恋した日からずっと隠していた気持ちを、今日初めて遠慮なく解放したんだよ? 反動でこうもなるって……」

 

 顔は見えないが、おそらくムスッとしつつも滲み出る喜びを隠せていない表情を浮かべているのだろう。その証拠に、優奈は口では「恥ずかしい」とか「顔熱い」とか言いながらも、背中に顔をグリグリ押し付けている。

 

 そんな優奈を、和んだ様子で見守る優花の姿は、完全に親戚のお姉ちゃんの立ち振る舞いであった。

 

 いや、それだけじゃない。何か、ホクホクしていると言うか、ご満悦な感じがあると言うか……。

 

「……もしや優花。優奈の照れてる姿を見て、楽しんでたり?」

「あ、バレた」

「優花お姉ちゃん!?」

「私だけ照れてるとこ見られるのはフェアじゃないし。何より、初めて見る乙女全開な優奈ちゃんの可愛いさは異常だし。これは楽しまなきゃ損だと思うけど」

「全面的にそれは同意」

「〜!! この似た者&おしどり夫婦!」

 

 罵倒じゃなくて普通の褒め言葉なんですけど。

 

 どうやら、照れが天元突破して語彙力が死んでしまったらしい。

 

 そんな優奈を見て、同時に一言。

 

「可愛いなァ(ねぇ)」

「拗ねるよ!?」

 

 拗ねても多分可愛い。そんなバカみたいな事を考えながら、中身はないけど幸せなやり取りをして歩く事10分少々。遂に俺たちは、行き止まりに辿り着いた。

 

 その行き止まりの氷壁には七角形の頂点に各大迷宮の紋章があしらわれた魔法陣が刻まれており、俺たちが近付くと淡く輝き始めた。そして、壁全体が光の膜のようなもので覆われていく。大迷路の出口とよく似た現象だ。

 

 転移ゲートであると確信した俺は、背中から降りた優奈とも手を繋ぐと、3人で同時に光の膜へ飛び込む。

 

 今度は、2人と離れ離れになる感じはなく、光が晴れても優花と優奈は俺の手を握ったままだった。

 

「……なるほど、ありゃ解放者の住処だな。ここが終着駅らしい」

「攻略完了か。今回もあっという間だったけど、精神的に疲れたわね……」

「まあでも、嫌な事ばかりではなかったね。まだ頬熱いけど。熱いけど!」

 

 存分に照れさせられた事を根に持っているのか、やや語気が強い優奈の頭を撫でてフニャフニャにしながら、俺は眼前に広がる純氷で造られた神殿を眺める。

 

 これだけでも非常に芸術的な建造物だが、無数の湧き水によって生まれたであろう湖に浮かぶような形を取って鎮座している事と、神殿へ向かうまでの道が透明度の高い四角形の氷な事が、一層美しさを際立てている気がする。

 

 水が存在している事から、ここは大迷宮内や外のような殺人的な低温ではないらしい。試しにスウェットを抜いでみたが、涼しくは感じても寒いとは感じなかった。

 

 空間を照らす光の色は優しい蒼であり、純氷が反射する光と絶えず聞こえる水滴音も相まって、立っているだけで気分が落ち着く。そんな感じがする。

 

 氷の足場を乗り継いでいき、神殿の近くまで何事もなく辿り着いた俺は、ひとまず解放者〝ヴァンドゥル・シュネー〟の紋章が刻まれている、重厚な両開きの扉を開ける事にした。

 

 扉のすぐ横には、そこそこの大きさの魔法陣があったのだが、神代魔法を与える魔法陣とは違う物だと俺の直感が言っている。おそらくあれは、ショートカット用の魔法陣だ。

 

「わあ、外観と中のギャップが凄い」

 

 そう優奈が零したように、扉の先に神殿らしさは一切見られず、代わりに生活感のある邸宅が広がっていた。

 

 玄関先にあるシャンデリアや全体の壁、机や椅子と言った家具類が全て氷で造られている事以外は、悠々自適な一人暮らしを送れそうなインテリアである。その家具や壁も、氷特有の冷たさは全く感じないので、何か特殊な細工を施しているのだろう。

 

 2階への階段もあったが、一旦無視して1階の最奥にある扉まで歩くと、迷いなく開け放つ。

 

「ビンゴ。見つけたぞ」

 

 そこには、お目当ての巨大な魔法陣があった。

 

 いつものように魔法陣に足を踏み入れると、脳内を精査されてから、神代魔法が直接刻まれていく。

 

「〝変成魔法〟、か」

「優花。使えそうか?」

「……ちょっと難しいかな。〝生成魔法〟と同じで、適性はなさそう。十全に扱えない事を逆手に取って、対象の肉体を崩壊させる用途では使えるかもだけど」

 

 新たに手に入った〝変成魔法〟を、優花はマトモに扱えそうにないと残念そうに答えた。

 

 〝変成魔法〟は、簡単に言えば普通の生き物を魔物に作り替えてしまう魔法である。術者の魔力と対象の生き物の魔力を使って体内に魔石を生成し、それを核として肉体を作り替える事が可能だ。ただし、塩梅を仮にミスれば、対象の肉体は崩壊してしまうので、十全に扱うためにはそれ相応の鍛錬が必須である。

 

 フリードはおそらく、この魔法を使ってあの白竜やサンドマンを従えた、或いは生み出したのだろう。更に言えば、この魔法を使って魔石に干渉し、術者の魔力を交える事で強化を施す事もできる。上手くやれば、際限なく強化をする事も可能なので、極めれば1人で超・魔物軍隊を作る事だって夢ではない。

 

 ハイリヒ王国の大結界を真正面からブチ破った白竜や、それ以上の戦力を単騎で保有するサンドマンは、全てこの〝変成魔法〟あっての存在なのだ。

 

「ケンはどう?」

「んー、そうだな。ギガマック状態に、自由に変身できるようにはなったかな。あと、ギガマックの力を姿の変化なしにある程度顕現できるようにもなった。もっとも、〝変成魔法〟の基本である魔物を従えるとか、新しく生み出すとかは難しそうだが」

 

 神代魔法を手に入れる度、リトルマック化が進む現象は健在であった。

 

 自由にギガマックへ変身できるメリットはかなり大きい。シンプルに手札が増える上に、強化倍率が滅茶苦茶なので変身自体が必殺技のようになるだろう。

 

 7割ぐらいの出力でなら、姿を変えずともギガマックの力を発揮できるようになったのも、中々デカい強化点だ。また、自身をバフできる手段が増えたな。

 

「ちなみに優奈ちゃんは? てか、神代魔法を習得できるの?」

「私? 攻略自体は認められたけど、習得はできてないよ〜」

「それは、普段は霊体だからとか?」

「それもあるけど、元々近い術を使えるからね。だから問題なし! そもそもの話、私の力の由来は、向こうの世界の神様による物だから、これから先攻略が完了しても魔法を手に入れる事はできないんじゃないかなぁ」

 

 彼女によると、その気になれば従魔を生み出したり、人間に動物の特性を与える事もできるとか。

 

 なるほど、確かに〝変成魔法〟に近しい術である。相変わらず底が知れない。逆に何ができないんだろう。

 

「自他問わず死人を生き返らせる事は無理だよ〜」

「シレッと心を読むな。 ……流石に、それは難しいんだな、優奈でも」

「神様でも無理だったから、私程度じゃまず不可能だね。多分だけど、死者蘇生は理外の理の、更に数歩は先に行かないと無理なんじゃないかなぁ」

 

 あわよくばと思ったが、流石に難しそうだった。まあ、仮に優奈を生き返らせたところで、日本に帰った時に色々と厄介な問題が起こってしまうけどな。

 

 まあ、今は単純に戦力の強化ができた事を喜ぶべきだろう。問題の解決は後回しだ。

 

 攻略の証である、垂れる水滴のような形をしたペンダントを手にすると、俺たちは部屋から出た。

 

 この後は、解放者の住処を探索したら、サクッと大迷宮から出て樹海の方に向かう事もできるが……。

 

「ケン」

「ケン先輩っ」

「……1日ぐらいは滞在するか?」

「「うん!」」

 

 何となく予想はできた事である。優奈とのあれこれがなかったとしても、多分こうなった。

 

 さて、寝室はどこだろうか。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ケ、ケン先輩。その、ワガママかもしれないけど……もっと、恋人らしい事をしたいと言ったら怒る? 一応、お姉ちゃんには許可取ったけどねっ」

「怒るどころか喜ぶ。それで、君は何が欲しいのかな?」

「え、と。いっぱいハグして欲しいし、キスも沢山したいし、それに……」

「それに、何だい?」

「うう、これ本当にお願いして良いのかな。生きてる人と同じようにできるのかな。この身体になってから、1度もこんな事をするなんて考えては」

「優奈」

「は、はい?」

「何があっても、俺は最後まで付き合うよ。どれだけ時間が掛かっても。多くの面倒な工程を乗り切る必要があったとしても。そう、〝約束〟する」

「……もう。その言葉に私は弱いって事を分かっているくせに。ホント、的確に人の弱点を突くんだから」

 

 優奈が纏う雰囲気が、少しずつ変化していく。

 

 どこか挙動不審で、焦りがあって、緊張していた雰囲気から。蜘蛛の糸のように絡み付き、決して離そうとしない、艷やかで妖しい雰囲気へと。

 

 どんな原理なのだろうか。濡れた黒水晶の中に、俺は確かに小さなハートを見た。

 

「ケン、さん」

「……何だい、優奈」

「その、ね。ご褒美が欲しいの。未来を思って、初恋の人が目の前にいても、今日まで必死に恋情を隠してきた私に。まあ、前菜は我慢できなくて既に食べちゃったけども」

 

 耳元に、火傷しそうなぐらい熱い吐息が掛かった。

 

 脳が痺れそうになるのを必死に耐えながら、俺は口を動かす。

 

「主食と主菜、副菜にデザート。全て、ずっと温かい状態で腐らず残っているよ。余さず、召し上がれ」

「ふふ。それじゃあ遠慮なく……」

 

――いただきます♡

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 寝室を見つけてから、大体20時間ほどが経過した。

 

 優奈は、実体化ができるタイムリミットが来たので、既に姿が見えなくなっている。

 

 それまで〝色々〟していたので、寂しさと「次会うのが楽しみだ」という2つの感情が胸中を満たしている。

 

「ん、んぅ……ケン、頭撫でてぇ……」

「はいよ」

 

 寝ぼけ眼の状態で擦り寄ってきた優花。随分と疲れていたようで、7時間ぐらいはぐっすりと眠っていた。俺と優奈が話していても目を覚まさなかったので、相当深い眠りだったようだ。

 

 だが、少しの間彼女の頭を優しく撫で回していると、優花は全く眠気を感じさせない様子でムクリと起き上がった。

 

「ふふ、毎朝こうして目を覚ましたいな……」

「日本に帰って、色々片付いたらな」

「それは、そのうち同棲してくれるって事? 今からでも期待しちゃおうかな」

「どうぞ期待してくれ。今のうちに宣言しておくが、俺は一生優花を逃がすつもりはないぞ。仮に逃げても、地の果てまで追い掛けて捕まえる」

「っ……!」

 

 そう言うと、優花は目を見開いて驚いた表情を浮かべた。何か、変な事を口にしただろうか。

 

「何か、雰囲気変わったね。神格化した影響、だけではないのかな。今までは、独占欲を分かりやすく表に出す事はなかったけど……」

「あー、それか。まあ、自身の抱える負の感情と向き合った事で、色々考えが変わったんだ。気持ちに蓋をしたり、隠すのは止めて、自分に正直に生きよう。その障害となる物は、迷わずこの拳で退けるってな」

「自分に正直に、か。なるほど、だから優奈ちゃんへの対応が変わったんだ。それに、ふふ……私たちへの独占欲も、自重せず隠さなくなったんだね」

「嫌だったか?」

「まさか、嬉しい限りだよ。 ……でも、外ではなるべく控えてね。本当に恥ずかしいから」

 

 優花自身は割と自重せず外でも愛情表現していた気がするが、愛情表現をされる側になると、どうも気恥ずかしさが勝つらしい。

 

 そういや、優奈も受け手に回った途端、盛大に照れ散らかしていたっけ。

 

「善処はするが、優花と優奈への気持ちの大きさ的に、たまに漏れ出る可能性はあるぞ」

「うっ、そうストレートに宣言されると仕方ないって思えちゃう。でも、絶対に外では照れくさいって思う……けど、全く嫌じゃない自分もいる。困ったな」

 

 目を泳がせながらも、ふにゃりと笑う優花を、俺は抱き締めた。

 

 今はただ、愛おしい君を全身で感じていたい。

 

 1度火がついてしまえば、消えるまで相当の時間を要する。まあ、致し方なし。ハジメたちから呆れた顔をされそうだが、一定の理解は得られるだろう。

 

 俺は、当初の予定だった〝1日〟を延長する決意をするのだった。




 プライベートの時だけ恋人の呼び方が変わる女の子って可愛いですよね。強い愛情と独占欲を感じます。
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