異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
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「ケン」
「追いついたか」
闇に包まれたファイターを全滅させた瞬間に、優花が俺に追いついた。
想定通り、ファイターの動きはスマブラと何も変わっていなかった。手に馴染んだコントローラーで、メインのマックを動かしてる訳ではないので、普段とは勝手はやや異なるのだが、フレーム単位で技を再現、または強化して繰り出せる俺なら問題はない。
ただ、俺がやる分には確かに問題ないのだが、攻撃の発生フレームがスマブラと同様である事から、中途半端な強さの人間が戦った場合は、成す術もなくボコボコにされるだろう。ゲームで考えれば遅めの発生フレームであったとしても、リアルで攻撃を体験する場合は十分に速く感じる物だ。あと、物理慣性を無視した独特な動きも、対処の難易度の高さに拍車をかけている。
俺も普段から何気なくやっているが、空中からの急降下であったり、そこから飛び蹴りを繰り出す様なんかは、実際この目で見ると現実の物とは思えない動きであった。
「オスカーたちは?」
「後からすぐに追いつくって」
「じゃあ元凶を今のうちに殴っとくか。HPバーをできるだけ削っておこう」
こちらを睥睨するダーズに怯む事なく、俺は優花と共に前へ出る。
闇のファイターを簡単に全滅させられた事が、奴はどうも気に食わないらしい。言葉に出している訳ではないが、ある程度距離がある現段階でも、妙に不機嫌な様子が見て取れるぐらいだ。
俺たちとの距離が縮まるにつれて、不機嫌オーラは増幅していく。やがて、ダーズは触手の切っ先をこちらに向けると、無数の赤色の魔弾をガトリングのようにバラ撒いてきた。
癇癪を起こして駄々をこねる幼児が撒き散らす涙のように、予測できない軌道で辺り一帯に落ちる魔弾を、完全なる無策で突破する事は難しいだろう。
見るからにエネルギー系の飛び道具であるにも関わらず、何故か反射と吸収ができない素敵仕様(笑)な点も割とクソである。
幸い、俺の拳や優花の繰るナイフや拳銃による相殺は可能だったので、歩み足を止める事なく魔弾を捌きながら、距離を更に詰めていく。
「アーティファクトナイフは」
「〝天灼〟を撃てるナイフたちと一緒にもう飛ばしてる……よし、行けっ」
魔弾の掃射がピタリと止まる。アーティファクトナイフたちが、ダーズの元へ到達したようだ。
触手の一部を操り、鬱陶しい小バエを払うような動作でナイフ群を打ち落とそうとしているが、それじゃあ永遠に落とせないだろう。
そのナイフ群を操っているのは、現代最強の投術師だぞ。
迎撃に飛ばした触手が、逆に次々と斬り落とされ、そして灼かれていく惨状を見たダーズが、躍起になってナイフを何とか無力化しようとしている間に、距離を詰め切った俺は地面を蹴って〝本体〟の元へ跳び上がった。
ギョロリ。そんな擬音を立てながらこちらを見たダーズは、虚空に球形を無数にバラ撒く。
X字型に切れ込みが入った球形を見た俺は、拳から衝撃波を飛ばしていくつか破壊してから、射線上から逃れるべく〝空力〟で跳び回る。既に球は光り始めているので、猶予はほとんどない。
十字型なら複数個あっても避けるのは容易いのだが、あの形だと咄嗟の射線予測が難しい。相変わらず陰湿で、嫌がらせに特化した技性能をしてやがる。だから、巷ではダー牛なんて不名誉なあだ名で呼ばれるんだぞ。
一応、死角は分かりにくいながらも確かに存在している。今回は球同士が干渉しないように設置されているので、球の真上や真下は比較的安全だ。むしろ、球から離れて回避する方が、逆に回避の難易度が跳ね上がる。
優花は大丈夫なのかと一瞬だけ不安になったが、彼女もまた、俺と同じように死角へ上手く入り込んでいた。流石だ。
無数の極光が放たれるが、1発も掠る事なく終わった。視界からダーズの姿が見えなくなってしまったが、位置は把握している。
「……! 甘いっ!」
だから、視界が戻る前に触手が超速で飛来しても、迎撃できる。
飛来した触手は15本。無駄のないパーリングで全て打ち落とすと、俺は背筋を走った悪寒に従い、すぐさま背後を振り向いた。
俺の目には、既に開き切ったワームホールが映った。最初から出し惜しみなしなのは、ダーズも同じだったか。
開いたワームホールから、束にした無数の触手が、俺の真後ろにいつの間にか展開されたもう1つのワームホール目指して、凄まじいスピードで飛び出す。
空を蹴り、背面飛びのような体勢で一撃目を回避する。だが、すぐ頭上にワームホールが姿を現した。
膝を抱え込んで宙返りし、足を地面に向けてから空中に作った足場を蹴って大きく飛び退くのとほぼ同時に、さっきまで俺が浮いていた場所を触手の束が通り過ぎる。そしてまたすぐに、真正面にワームホールが出現した。休む暇を全く与えてくれない。
ただ回避するだけではジリ貧となる。そう判断し、俺は空中に足場を改めて作ると、ドッシリ構えを取った。狙うのは、ジャストガードからのハイリターンなカウンターだ。
こちらに迫る触手の束。その先端が俺の身体に触れる直前まで引き付ける。
「まだ……」
甘い引き付けではダメだ。極限まで待つ。
「もうちょい……」
鋭利に尖った触手の先端が、俺の全身に突き刺さる。まさにその瞬間に、クロスアームブロックの体勢を高速で取る。
すると、触手が透けた身体を通り抜け、俺の周囲に発生した空間の捻れに捕まり、動きが大幅に鈍くなった。
スロー効果が持続する時間はそう長くない。すぐさま籠手に魔力を流し込み、空間魔法を発動させながらスマッシュボディフックを放つ。
「〝震天・集〟!」
神格を得た事で、普段の俺であればリトルマックの動きをする以外での神代魔法の行使自体が不可能なところを、ノータイムで発動する事が可能となっている。
これが、神格化最大の利点だ。適性のない通常の魔法は相変わらず使えないが、神代魔法ならば十全に扱える。完全にコントロールできていないが故の、暴走のリスクは残っているが、そんな短所を帳消しできるだけの長所と言えよう。
さて、空間魔法〝震天〟は、空間を無理やり圧縮してから、一気にそれを解放してやる事で、防御不可の衝撃波を発生させる代物である。単純な破壊力で見れば、手持ちの神代魔法の中でもトップクラスだ。
本来なら無差別の広範囲攻撃となるのだが、俺は拳大に圧縮した空間を、パンチが炸裂した瞬間に、対象の内部のみで衝撃を解放するように操る事で、下にいる優花に被害が及ばないようにしている。言ってしまえば、普段やってる〝浸透破壊〟の応用だ。慣れ親しんだ攻撃方法なので、再現は容易い。
当然、そんな攻撃を受けて、触手の束はただでは済まない。内から外へ爆発的に広がる衝撃波によって、次々と弾け飛んでいく。
破壊の勢いは留まる事を知らず、やがてダーズ本体を守るために展開していた触手をも粉砕してしまった。
触手はすぐにとんでもないスピードで再生を始めるが、本体が数刻の間、丸裸になった事に違いはない。
「ここで潰す!」
かつてのミノタウロスのように空間を跳躍して、俺は一気に本体の元へ移動した。
突然、超々至近距離に現れた俺に驚いたのか、ダーズは赤黒い波動を乱発しながら後退しようとする。触手が再生していない今、攻撃方法はそれしかないようだ。
もっとも、その威力は苦し紛れの攻撃とは思えないぐらいに強烈である。例えるなら、廉価版のOFF波動だろうか。俺は問題ないが、優花の繰るナイフが波動に弾かれて接近できていない。
「破ッ!」
ならばと対抗するように、〝神の威光〟を波動に変換して発射した。
ドウッ! ドウッ! と独特な音を立てて波動同士が何度かぶつかり合い、その度に半径数十メートルの地面が陥没する。威力は全くの互角で、俺の繰り出す波動が、奴の放つ波動を押し切る様子も、逆に押し切られる様子も見られない。
波動を相殺するだけなら、このまま継続すれば良い話なのだが、時間経過でダーズの触手の再生が進んでしまう。再生が完全に終われば、また本体を殴るまで時間を要する事になるだろう。
ダーズの野郎、ゲームの時以上に触手を上手く使う事で、徹底した陰キャ戦法を確立してやがる。触手をある程度潰さないと、本体に攻撃できそうにない。しかし、触手を切り刻み、焼き尽くし、引き千切っても、次の瞬間には再生が始まる。それがとにかく厄介だ。
波動の外から優花が〝天灼〟や〝斬羅〟を撃ち込んでいるが、状況を打破するには至らない。多くが波動によって無効化されている上、無効化されなかった魔法も再生途中の触手が集まる事で即席の盾となり、上手い具合に防がれてしまっている。
さあ、どうする。このままでは、ズルズルと時間を無駄に浪費するだけだが……。
「……は? あれって中村か?」
波動の威力を上げながら思考を巡らせていた俺だが、ダーズ本体の背後に、何の前触れもなく半透明の中村が出現した事で、思わず声を上げてしまった。
ダーズも中村の存在に気がついたようだが、何か様子がおかしい。背後数センチの距離に中村が到達して、やっと気がつけたようである。
対応が遅れたダーズが何かする前に、中村が先手を打つ。
「〝邪纏〟!」
発動したのは、脳への命令を阻害する効果を持つ闇属性魔法〝邪纏〟。黒く明滅する球体がダーズの眼前に出現した。
明らかに闇属性魔法に耐性を持っていそうなダーズであるが、オスカーお手製のアーティファクトで強化された中村が放った一撃は、奴であっても動きに支障が出るほどに強烈な物だったらしい。ほんの僅かにではあるが、ダーズからの波動の勢いが弱まった。
少しずつ威力を高めていった俺と、僅かに威力が弱まったダーズ。変化の幅自体はそこまで大きくないが、それだけで戦況は激変する。拮抗した戦況というのは、そういう物だ。
ゲートをさも当たり前かのようにヌルっと開き、無防備となった中村をオスカーが回収した瞬間に、俺の放つ波動がダーズの波動を完全に押し切った。
仰け反ったダーズに、空間跳躍で接近する。ここまでやって、ようやく作れた攻撃のチャンスはパンチ1発分ぐらいしかない。
……いや、逆に考えろ。確実に一撃は入れられるんだ。ならばその一撃で、ゴッソリHPバーを削ってしまえば良いだけの話だろう。
空中に作った足場を二重、三重と頑丈にする事で、地上と大差ない踏み込みができるようにしてから、大気を震わせるぐらい強く踏み締める。
右拳の先には、先程と同じように〝震天・集〟を作り出した状態で、単発技における最大火力となる大技を迷いなく繰り出す!
「デリャア!!」
空間を引き裂き、突き上げた拳の方向へ凄まじい暴風が発生するほどの勢いで放ったK.O.アッパーカットは、狙い違わずダーズの本体である目玉に直撃した。
「――!?」
瞳孔が大きく膨らんだかと思えば、赤黒い血のような波動を撒き散らしながら墜落していくダーズ。相当に効いたようで、再生しかけていた触手は全て力なく地上へと落ちていき、着地する前に優花のナイフやオスカーの黒傘によって切断されていく。
触手がすぐに再生する気配もないので、よっぽどキツい一撃だったのだろう。
無防備に墜落していくだけのダーズに、このまま追撃を行わない手はないので、俺はバリーブローで急降下しながら追いかける。
だが、俺の拳が届くよりも数瞬だけ早く、ダーズの姿が消えた。
急降下の勢いに逆らわず高度を落とし、一旦地面に着地した俺は、周囲の気配を探り、そして呟いた。
「……チッ、取り逃がしたか」
ダーズの気配は、随分と遠くの方へ逃げてしまった。魔国ガーランド内に奴の気配を感じられるので、一瞬でワープでもしたのだろう。
そのタイミングで、俺の脳裏にハジメの声が響き渡る。
〝マックくん。キーラをひとまず撃退したんだけど、そっちの首尾はどうかな?〟
ほぼ同時に、ハジメたちはキーラを撃退する事ができたようだ。
ハジメにダーズ撃退の旨を〝念話〟で伝えながら、駆け寄ってきた優花たちに、ダーズとは対の存在であるキーラが撃退されたという一報を伝える。
「対の存在とかあったんだ……」
「すまんオスカー。今回俺たちが相手した奴と、対の存在を同時に撃破しないと面倒な事になるって情報も含めて、伝える時間がなかった」
「いや、それは仕方ない事だ。連絡から接敵まで、ほとんど時間なかったしね。それに、速やかに脅威を排除しなければならない状況下では、情報の伝達をする時間すらも惜しい」
「理解があって助かる。1から全て説明すると、かなり時間を食うからな……」
キーラとは。そしてダーズとは。これだけでも、その気になれば軽く15分以上は使ってしまうだろう。大した一刻を争う状況下においては、その時間すら勿体ないというオスカーの意見には、俺も全面的に同意である。
ひとまず、双方撃退に成功した。それで良しとする。互いに最低限の仕事は果たせたと言えるだろう。
〝マックくん。僕たちは、これから樹海の大迷宮に挑むんだけど、君たちはどうする?〟
〝うーん、合流したい気持ちもあるんだけどな。ちょっと、野暮用がたった今できた〟
〝野暮用って?〟
〝フリード絡みの野暮用だ〟
そう〝念話〟で答えると、俺はジッと1点を見つめる。
程なくしてゲートが出現し、そこからフリードと白竜、そしてサンドマンが現れた。
次から次へと舞い込む面倒事に、己の運命とやらを思わず呪いそうになる。俺の悪運度合い、どうなってるんだよマジで。確率操作してるって言うなら、そいつを思いっきりぶん殴ってやりたい。
「なんて、惨状だ……」
愕然とした様子で、辺り一帯の惨状を見るフリード。心底信じられないようで、何度も目を凝らしては、その度に絶望した表情を浮かべている。
疲れねえのか、それだけ表情筋動かして。そんな無粋な疑問はグッと口にするのを堪えて、フリードの真正面に移動した。
「よお。久しぶりって言うほど前ではないか?」
「っ、貴様……」
忌々しげに俺を見たフリード。呼応するようにして、白竜からも憎しみの感情が溢れ出す。
そんな中、ただ静観するだけのサンドマンが、逆に異質に感じる。
「信じねえとは思うが、敢えて先に言う。手を下したのは俺たちだが、それ以前に手遅れな状態だったぞ。強力な洗脳を施されていた」
ギリッと拳を握ったフリードは、一瞬だけ殺意を滲ませた。だが、それもすぐに露散する。
その反応が、俺としては少し意外に感じた。俺の言葉を聞き入れる事なく、いきなり殺しに来るかと思っていたのだが。
「………貴様らが同胞に洗脳を施し、そして貴様らが用済みとなった同胞を殺したのであれば。どれだけ良かったか。ここまで、複雑怪奇な感情を抱く必要はなかっただろうな」
「俺が洗脳した訳ではないと、信じるのか」
「その言葉を素直に肯定するのは癪に障るがな。だが、私は同胞がどのような扱いを受けて、此度の戦場に送り込まれたのかを、最も信頼し、崇拝していた人物の口から、つい先程聞かされたばかりだ。未だに信じられぬ気持ちはあるが……」
困った。どこかのご都合解釈モンスターより話が通じるぞ。
本来であれば、俺たちに対して憎悪するだけでは収まらぬ程の悪感情を胸に抱いているフリードだが、今回の出来事に俺たちは関係ないと信じられるだけの、衝撃的な何かがあったようだ。
彼が最も信頼し、そして崇拝している人物。この世界の人間族と魔人族の戦争は、確か宗教戦争であったはずだから、フリードが信仰している神か、その神の言葉を代弁する者だろうか。
そんな人物から、随分と衝撃的な話をされたらしい。少なくとも、即座に信じる事ができないぐらいにはインパクトのある話題だったと見える。
「話が長くなりそうだし、一旦ライセン大迷宮の方に行こうか。魔人族の君が構わないのであれば、だけどね」
「ライセン大迷宮だと? 貴様は一体……」
「その話も後でね。ひとまずここを離れよう。今は後退しているけど、時間が経てばまた侵攻してくる可能性がある」
オスカーに促されて、フリードは渋々といった様子だが首を縦に振った。
当然のようにノータイムでゲートを作り出し、一足先にライセン大迷宮へ向かったオスカーを、目を剥いて見ているフリードの表情は中々に面白い物があるが、サンドマンに視線を送ると、すぐに彼はフリードの肩を叩いて正気に戻した。
「フリード様」
「う、うむ、すまないサンドマン。しかし、何者なのだ奴は。あそこまで空間魔法を扱える人間族なんぞ、この世に存在するとは思えん……」
「まあ、世間一般で言うところの人間族ではないな。あれを人間と言うには、ちょっと存在そのものが特殊すぎる。サンドマンに近いような気もするが、もっと別の、言ってしまえば上位の存在だ」
あれは、人体錬成によって生み出された〝器〟に、オスカー・オルクスの魂魄が定着していると称すべき存在である。人とは言えない、とてもじゃないが。
現し世に存在できている事自体が、もう神の御業ではと思ってしまうぐらいだが、そんな凄まじく狂っている事を平然とやっている。それが、解放者オスカー・オルクスだ。
まあ、俺がオスカーの事を語っても、正直面白くない。後で、ミレディや本人に、きっちり語ってもらうとしよう。
……あ、でも堅物のフリードと人を苛つかせる天才ミレディって相性最悪じゃ。
「どこまで無礼でふざけた女め。出会って早々悪いが、ここで死ね!」
「あらら」
「……間に合わなかったか」
ゲートを潜ると、既に臨戦態勢に入っているフリードと白竜の姿があった。
奴らの視線の先には、いつもの人をおちょくる笑顔を浮かべたミレディがいた。ちゃんとやらかしたな。予測可能回避不可避である。
「それじゃ、僕らは雑談でもしてノンビリ待ってようか」
「いや止める姿勢を少しは見せろよ」
サラッとキーラ撃退を果たしたハジメくんたちですが、ハウリアの変の後すぐにキーラと戦ってる上、これから亜人族を運搬してから樹海の大迷宮に挑む鬼スケジュールです。大変そうですね(他人事)。