異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
感想でご指摘してくださったTukuyoさん、ありがとうございます。
室内に響き渡る、魔法と魔法がぶつかり合う轟音をBGMにしながら、俺たちはオスカーが〝錬成〟で作り出した即席ソファーに腰を下ろした。
止めた方が良いのではと最初は考えていた俺だが、フリードがやり場のない負の感情を発散させるには丁度良いかもしれないと思い込む事で、手を出さない事を決めた。断じて、面倒だったからではない。
「さて。君は、彼に言いたい事があったんでしょ?」
「……うん」
一息ついたタイミングで、オスカーが中村に優しく声を掛けた。
近くに寄り、俺の手をニギニギして遊んでいた優花から、何やら不穏な雰囲気が滲み出る。不機嫌とかいうレベルではない。殺意が少しずつ、しかし確実に溢れ出ているのを感じた俺は、すぐに優花の手を握り直す事で「大丈夫だ」と伝える。
「真久野。その、えっと……」
「時間はある。ゆっくり1つずつ、伝えたい事を話せば良い」
いざ話そうとすると、中々言葉が浮かばない様子であったので、慌てるなと声を掛ける。フリードがどの程度耐えられるか不透明だが、まあ大丈夫だろう。オスカーから〝念話〟を受け取ったであろうミレディが、グッと親指を立てていたし。
俺の言葉を受けて、中村は何度か深呼吸をしてから、再度口を開いた。ひとまず落ち着けたようだ。
「……まず、2人にはどうしても謝りたかった。迷惑を掛けたなんてレベルじゃない。心と体を、深く傷つけてしまった。こんな陳腐な言葉で許されるなんて微塵も考えていないけど、それでも言わせて欲しい。本当に、ごめんなさい」
「その通り。許せる訳ないでしょ。アンタが、あんな事を引き起こしたから……」
「優花」
「でも、ケン」
「俺は、最後まで聞きたい」
ムスッとした表情を浮かべる優花の頭を撫でながら、中村に視線を送って続きを促す。
どう考えても人の話を聞く体勢ではないが、どんな時も最優先にしたい人物は優花だ。中村によって機嫌を損ねてしまったのであれば、即座にメンタルケアを行いたい。
これで話す気が失せたのなら、それはそれで構わない。後はゆっくり、フリードとミレディの戦いを観戦するだけである。
が、中村は俺が優花を愛でているのを見ても、特に機嫌を害する事なく首を縦に振り、また口を開いた。何なら、恋人ならそれぐらい当然だろうとでも言いたそうな表情を浮かべている。
「真久野に連れられて、家族や大切な人を失った人たちの家に謝りに行った時。そして、光輝くんに拒絶されて、生きる意味を失った状態で、ここに連れられてから。ずっと、ボクは自分がこれまで何をしてきたのか、何を思っていたのか、改めて見つめ直していた」
「そうかい。それで?」
「……どこまでも浅ましくて、自分勝手で。最も忌み嫌っていたはずの人物と、全く同じ思考を持つ大罪人だって、結論付けた」
「そうだな。極刑に処すだけでは生温い。そう姫さんに思わせるだけの大罪人だ、お前は」
それが自覚できただけでも、良い変化だと言えるだろう。これまでの中村は、都合の悪い部分には一切目を向けず、自分は正しい、間違っていないと主張し続けていたからな。
酷く狂っていた時期を真正面から見ていただけに、大罪人である事を自覚し、受け入れられただけ偉いと思ってしまう。
それだけ、中村に対して少しも期待をしていなかったとも言えるのだが。
「自分が大罪人である事を理解してから、何度も自己嫌悪から死んでしまおうと考えた。犯した罪を償うためにもって。実際、そのために死刑がある。でも、ボクが死んだところで、犯した罪に対する償いには全くならないのでは。そもそも、被害者の遺族が真に望んでいる事は何かを考えるようになったんだ」
「……その答えは、見つかったかの?」
「うん。正しいかは分からないけど」
決然とした表情に変わった中村が、俺の目を真っ直ぐに見る。
「ボクね。独力で、神代魔法って奴の領域に足を踏み入れていたらしいんだ。魂魄魔法、だったかな。それを極めて、ボクが殺めた人たちの魂を、あの世からこの世へ引っ張ってこようと思う。それで、引っ張った魂は生前の肉体を模した〝器〟に定着させるつもりなんだ」
「やろうとしている事は分かったが、〝器〟とやらは誰が……って、まさか」
「オスカーさんに、お願いしてる」
「……なるほど。それなら行けるな」
確かにオスカーなら、何とでもできるだろう。魂に記憶された肉体情報を元に、人体錬成をすると言ったところだろうか。
現世に留まれなくなった魂を、魂魄魔法を極めたからと言ってあの世から連れ戻せるのかは分からないが、贖罪のため何かに取り組むという観点で言えば、悪くない発想だと俺は感じる。
ただし、あまり時間を長く掛けるのも良くないだろう。本人にそのつもりが一切なくても、贖罪のためと理由付けして、無駄に延命しているだけだと言い出す人が一定数現れるだろうし。
「期限は決めているか」
「まだ、特には……」
「それなら、今日から1年だ。それまでに、成してみろ」
少しだけ目を見開いた中村は、すぐに納得したといった様子で頷いた。
「それにしても、オスカーが中村を手伝うとはな。この短い期間で、何があったんだ?」
「解放者は訳ありの人物が多かったから、昔を色々と思い出してしまってね。見捨てられなくなった。僕以上に、ミレディの方が肩入れしてるけど」
白竜のブレスをゼロサムのフリップのような動きで華麗に回避してから、重力を操って急降下キックを繰り出し、フリードと白竜を同時にダウンさせると、爆発をバックに決めポーズをしたミレディを、オスカーは愛おしそうに見つめている。
……あれ、生きてる? 仮面ライダーみたいにバッチリ決めてるけど、生死の方は大丈夫か?
一瞬だけそう思ってしまったが、すぐにミレディがフリードと白竜を掴んでズルズルとこちらに引き摺ってきた。呼吸は一応止まっていないので、単に気絶しているだけらしい。
重力魔法を駆使した急降下キックの威力が凄まじい事は、ハジメが何度も俺の前で立証してくれていたので、思わず心配してしまった。
迷いなく繰り出していた辺り、もしかしたら急降下キックは彼女の得意技の可能性がある。得意技なら、手加減もできなくはないか。
「ふう〜、良い感じに発散させてから、障害が残らない程度に加減もできたぜ! オーくん褒めて褒めて!」
「お疲れ様ミレディ。今日も絶好調だねぇ」
「むっふふ〜、もっと褒めるが良いぞ!」
唐突に始まった夫婦漫才に、俺はチベットスナギツネ顔を浮かべようとして、すぐに考え直した。
人の事を言える状態じゃねえわ。俺もさっきから、優花の頭をずっと撫で回している。
中村が俺と優花に対し、そこまで反応を示さなかったのは、オスカーとミレディの夫婦漫才を日常的に見ていたからなのかもしれない。
「これでも、普段よりは控え目だよ」
軽く呆れた様子で、そう口にする中村の姿は、子が生まれてからもラブラブなままの夫妻を見る娘とダブって見えた。
何かを堪えるような表情を少しだけ浮かべてから、フッと鼻で笑ったところを見逃さなかった俺は、自重せず疑問を彼女にぶつけた。
「何か、思い出したくない記憶でも脳裏に浮かんだか。例えば、母親絡みの記憶とか」
「真久野はエスパーか何かなのかい? 図星だよ」
「魂と魂の距離が、ごく短い期間とは言えかなり近かったからな。それに……」
「うん。君も、だったね。親に対するアレコレ」
こいつの、母親に対する様々な感情は、俺が過去に抱いていた物と大変よく似ている。
過去、何があったのかを全て知る俺は、イチャつくオルクス夫妻を見て中村がどの情景を思い出したのか、高解像度で想像できる。
中村もまた、俺の過去を余す事なく知る人物であるため、あのような言い方をしたのだろう。
「……私、知らなかったんだけど」
「すまん。優奈も交えて、いつか全て話そうと思っていたんだけどな。中村の魂を幽閉していた事で、互いに人生で経験した事全てを知ってしまう、イレギュラーが発生してしまった」
「優奈ちゃんも知らないの?」
「ほんの一部分しか知らない。話した当時は、まだ感情の整理できてなくてな……」
「言わばトップシークレット事項。それを、恵里だけは知ってると。ふーん」
どうも中村が絡むと、優花はモヤモヤする頻度が増えてしまうらしい。
完全に不可抗力であり、想定していなかった事ではあるのだが、それでも悪いのは俺である。話す機会はあっただろうに、「もう少し」と先送りにしていたのだから。
それにしても、あからさまに嫉妬している優花が、どこか可愛らしく感じてしまう業の深さは、改善する気配は一切なさそうである……。
「今度、話してね。全部」
「ああ」
「あと、キスして欲しい」
「え、キス?」
思わず聞いてしまったが、すぐに後悔した。優花さん、ジト目でこちらを見ている。
ジト目な優花も可愛い……じゃなくて。
「お気になさらず。向こうもまだ収まる気配はないし」
「俺も、フリード様を見守らなければならん。いない者だと思え」
慣れた様子で言い放つ中村と、極力目を逸らしてフリードを見ようとするサンドマンの善意が、逆に心に突き刺さる。
1度キスしたら、多分それだけじゃ済まないと言うか。嫉妬スイッチが入ってしまった優花が、周囲を気にする事なく更に求めてくる可能性があると言いますか。ちょっと俺としては、不安な要素が割とたくさんあったりなかったり――。
「ケン……?」
「……うん」
結局した。10回ぐらい、深く。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それじゃあ早速、魔人領で何があったのかを教えてくれるかい?」
「……それは構わないのだが、1つだけ良いか」
目が覚めて、憮然とした様子ながらも「すまない」と謝罪したフリードは、先んじて椅子に座っていた俺たちを見て、虚無の表情を浮かべた。
オスカーが早速話を聞き出そうとしてくれたのだが、上手く行かなかったらしい。
「何故、女がベタベタと引っ付いている状態で、話し合いを始めようとした……?」
「んん〜? 君ぃ、まさかこのスーパー美少女魔法使いミレディちゃんに愛をぶつけられているオーくんに、嫉妬でもしてるのぉ?」
「断じてそれはない。誰が貴様なんぞ好くか。好くとすれば、相当な変わり種だ」
「ひっどーい! いくら自分が非モテの独り身だからって、レディに対してその物言いはあり得ないから! あ、だからモテないのかぁ! 納得納得!」
フリードの顔面に青筋が量産されていく。だが、ミレディにはついさっきフルボッコにされたばかりなので、何とか手を出すのを堪えているようだ。
その代わりと言っちゃあれだが、白竜が威嚇するようにグルルと唸っていた。お前は番犬か。
なお、サンドマンは特に感情を宿す事なく、黙って様子を観察している。ツッコミを入れる必要さないと判断したらしい。
「フリード。こいつはずっとこんな感じだから、あまり深く考えすぎるな。あと、俺と優花に関しては大迷宮を攻略している時も大体こんな感じだから、もう諦めてくれ。日常の一部なんだわ」
「……まさか、サンドマンの報告通りだったのか。誇張表現かと思っていたのだが」
「俺はいつも、ありのまま見た事しかフリード様には報告しませんが」
恥ずかしそうに顔を俺の胸元に押し付け、横からギュッと抱き着いている優花。流石に普段からこんな感じではないのだが、もう説明するのが面倒くさい。
オスカーによって骨抜きにされているミレディを尻目に、俺は話を進める事にした。
「で、フリード。お前は、一体何を見聞きした?」
「……少し、長くなるぞ」
フリードが語った事は、魔国ガーランドに住む国民が真実を知れば、怒髪天を衝くのではと思わされる内容であった。真実を知れる国民が、どれだけ残っているのかは謎だが。
魔国ガーランドを統治する、いわゆる魔王様。そして、魔人族が信仰する神である〝アルヴヘイト〟は、フリードが崇拝し、何者よりも信頼していた人物だったと言う。
魔王と信仰の対象である神が同一の存在である事に早速疑問を持った俺だが、どうも魔国における最重要機密事項に当たるらしく、フリードもつい最近知った事だそうだ。
そのアルヴヘイトとやらの正体は、エヒトルジュエ……人間族が信仰する〝エヒト〟の眷属である。
ここで俺は、オスカーが遺した記録映像で言っていた事を思い出し、神々とやらが抱える吐き気を催す邪悪を感じ取って目眩がした。
人間族と魔人族の宗教戦争は、神々が起こした物である。そしてその勝敗を、神々はゲームを観戦しているかのように楽しんでいる。盤上で滑稽に踊る数々の駒の動きを、愉悦と嘲笑の入り混じった表情で眺めながら。
この時点で既に、俺の中での神々のクソさ加減が急増しているのだが、フリードの話はここからが本番であった。
アルヴヘイトであるが、ある時を境にして奇妙な変化が起こった。
今まで魔王の間にあった、自身を祀る祭壇を一新し、何か別の物を祀るかのような様子を見せるようになったらしい。
「アンカジ公国で、これまで1度も見聞きした事がない魔物が出現したという報を受けた辺りからだ。アルヴ様、そして魔国ガーランドがおかしくなったのは」
アンカジに出現した未知の魔物と言えば、ギガクッパの事だろう。あの頃、ガーランドではそんな事が起こっていたのか。
アルヴヘイトに奇妙な変化が見られるようになったのとほぼ同時期に、ガーランドでは行方不明者が頻発するようになった。
行方不明者には、1つの共通点があった。それは、アルヴヘイト直々に呼び出しを受けた人物という点である。
「皆、感動に打ち震えていた。我が国では、アルヴ様に話しかけられるだけでも身に余る光栄だと国民は考える。そんな彼ら、彼女らが、アルヴ様から直接居城に招かれるなどという奇跡に、狂喜乱舞しないはずがない。誰もが、一切疑う事なく居城に足を運んだ。だが……」
それ以降、姿を見た者はいなかった。
最初は、アルヴヘイトの元で、極秘任務にでも就いているのだろうと考えていたフリードだが、行方不明となる魔人族が増えるにつれて、何かおかしいのではないかと訝しむようになった。
量より質の魔人族が、その数を大きく減らしてしまえば、折角フリードの台頭によって優勢になった戦況をまたひっくり返されてしまう。そう考えたフリードは、アルヴヘイトが何を行っているのか、独自に調べようとした。
だが、その矢先に下された命令は、ハイリヒ王国への侵攻である。総指揮を任されたフリードは、調査に割ける時間を作る事ができぬまま侵攻し、そして理外の理を繰る異世界チート軍団の手によって失敗。ガーランドへ撤退した。
ガーランドへ軍勢を引き連れて撤退したフリードは、そこで信じられない光景を目の当たりにした。
「行方不明になった者と酷く似ている。だが、明らかに別人で、生きているとは思えない。そんな魔人族で、国は溢れかえっていたのだ」
声を掛けても一切反応せず、いつの間にか建てられた新しい神殿に集まり、淡々と祈りを捧げ続ける、魔人族に似た何か。
日に日にその数は増えていき、2週間もすると、フリードの周囲にいた魔人族の姿はゼロになってしまったと彼は言う。
「明らかな異常事態に、私はウラノスとサンドマンを連れてアルヴ様の居城に立ち入ると、魔王の間へ急いだ。居城内は、魔力耐性の低い人体を腐敗させる瘴気で満たされ、生命反応を少しも感じ取れない、この世の地獄のような場所に変わり果てていた」
苦心しながらも、何とか魔王の間へ辿り着いたフリードたち。
そこで彼らは見た。同胞が、ダーズの触手によって締め上げられた状態で、アルヴヘイトの手によって人体から光の球のような物を抜き取られると、苦しみ喚く魔人族に瘴気を飲み込ませてから、ゴミのように地面へ捨てていく光景を。
真っ先に動いたサンドマンが、地面に投げ捨てられた魔人族を介抱している間に、フリードは何をしているのだとアルヴに詰め寄った。
だが、アルヴは事も無げに答えたと言う。
「細胞を採取しただけである。採取を終えた肉塊は、もう必要ない。より凶暴性を高めた上で最前線に送り、そして処分する、と」
そんな事を、当然フリードが受け入れられるはずがない。信じられない気持ちはありながらも、もはや己の知る主ではないと判断し、仲間を解放するべくアルヴに襲い掛かった。
だが、ダーズの触手によって一瞬で捕らえられると、他の者と同じように細胞を採取されてしまったそうだ。
瘴気を飲まされる直前に、白竜とサンドマンの助けによって何とか危機を脱し、その場を逃げる事ができたそうだが……。
「私は、アルヴ様の居城のどこかに幽閉されているであろう同胞を、見殺しにしてしまった。情けない事に、復調するまで数日を要した事もあって、つい先程あった戦闘を察知するまでに時間を食ってしまい、遂に間に合わなかったのだ……」
瞳に宿る、深い後悔の念。
妄執的な部分はあれど、こいつは魔人族の未来のために、命を削って戦ってきた。同胞に対する情の深さは、かなりの物なのだろう。
「これまで私は、己が信ずる神のために戦ってきた。だが、その神は偽りの物であり、私は都合の良い駒として掌の上で転がされていただけに過ぎなかったのだ。これから何を信じれば良いのか。そもそも、私はこれまで何のために命懸けで戦ってきたのか。何もかも、分からなくなった。私の存在意義は、一体何なのだ。弱い私では、何ができると言うのか……」
両手で頭を抱え、激しく懊悩するフリードを、白竜が心配そうに見つめる。サンドマンは両目を閉じて、何かを考え込んでいるようだ。彼もまた、思うところがあるらしい。
存在意義、ね。まあ、気持ちは分からなくもない。酷い裏切りに遭ったのだから、悩むのも仕方のない事ではある。
だが。心の奥底で、引っ掛かりを覚える。
悩む事自体は良い。前へ進む上で、間違いなく必要な過程だろう。俺だって、ついこの前まで延々と悩んでいた訳だし。
しかし、だからこそ思うのだ。
「そこまで悲嘆して、自分がひたすら苦しむように思考して、延々と悩み続ける必要がどこにある……?」
フリードの顔が上がる。まあ、聞き捨てならないだろう。
「貴様ッ、まさか些事だとでも言うつもりか!? 同胞の生死を弄ばれ、何よりも崇拝していた我が主から、神から裏切られた事を、些事だと!?」
「いや、些事とは全く思っちゃいない。最も信頼していた人物から裏切られたショックを、些細な事だと簡単に吐き捨てられるほど、俺の心は死んじゃいねえよ。ただ、気になってな」
「だったら何だ! よもや、時間の無駄だとでも――」
「違う。単に、お前がやりたい事、或いはやりたかった事が何か。それを知りたいだけさ。お前が何のために力を求めたのか、知らんかったし」
「そんなもの、同胞がこれから先の未来、何かに脅かされる事がないようにっ。そして魔国の安寧のため、力を求めたに決まっているだろう! そのためなら、私はこの命だって投げ捨てるつもりで――!」
「なら、そうしろよ。貫き通せよ」
「……はっ?」
「何があっても、今お前が語った〝力を求める理由〟とやらを、貫き通せば良いだろ。死ぬ気で」
俺の言葉を聞いて、呆けた様子でこちらを見るフリード。何を言っているんだとでも口にしたそうな顔をしている。
すぐに、激しい怒りが籠もった瞳になったが、フリードが口を開くよりも先に言葉を投げた。
「何で、初志を貫き通せないと自分で勝手に決めつけているんだ? 同胞のため、そして国のために力を求める。良いじゃん。なら、どんな事が起こっても、最後まで貫けば良いだけの話じゃねえの」
「なん、だと」
「自分が弱かったから、裏切られるまで事態を把握できず、大勢の同胞を見殺しにした。守るはずだった同胞と国を、守れなかった。それが分かっているなら、弱い自分を殺すぐらいの気概で、更に強くなる努力をすれば良いだけの話だ。まだ、生きている同胞はいるだろ。それに国だって、時間をかけて再建すりゃ良いだろ」
簡単な事ではない。己を苦しめる様々な感情を1度は受け入れた上で、過去の弱い自分を殺すつもりで何かに取り組む事の難しさは、俺が1番よく知っている。
だが、1つだけ確かな事がある。道はまだ、閉ざされていない。
ダーズの魔の手であったり、対の存在であるキーラから守り抜くためには、今のままではダメだ。想像を絶する努力が必要になるだろう。もうフリードには、茨の道、そして修羅の道しか残っていないかもしれない。
それでも、道は存在している。なら、進む以外の選択肢はないはずだ。心から、守りたいと思うのであれば。
「お前が行く先々で邪魔をしてくる白髪の男だってな。最初は全てのステータスが10で、〝錬成〟以外の魔法は使えず、戦い方も一切知らない。そんな弱者だった」
「バカなっ。奴の強さは、ハッキリ言って異常だ。そんな奴が、ありふれたそこらの人間共と同じだったなどという戯言を、信じられる訳がないだろう!?」
「そうだな、確かに異常だ。だが、彼は成してみせた。弱い自分を受け入れ、そして殺すつもりで必死に努力した事で」
「あり、得ない。何だそれは……」
戦う才覚に一切恵まれなかったハジメが、ただ1つ、誰よりも優れていた物。それは、何度も言うように〝勇気〟である。
〝勇気〟1つで、彼はあらゆる感情や肉体的な苦しみを乗り越えてきた。
魔人族は、人間族より高位であると言って憚らない。なら、この挑発が刺さるはずだ。
「誇り高き魔人族であるという自負があるお前が、矮小な人間族如きが乗り越えられた壁で、立ち止まるなんてバカな話はあるまいよ。悔しさから、心臓が捩じ切れてしまいそうだろ。それとも何だ、バケモノにはなれないと諦めちまうのか? だとしたら……」
腑抜けた意気地なしだな。
フリードから滲み出る怒りの感情の激しさが更に増す。怒りで生まれた炎に焚べられた、挑発と言う名の薪を一瞬で炭にしてしまうぐらいの高火力になっても、収まる気配は見られない。
そうだ、怒れ。怒りの炎を燃やせ。その炎を原動力にして、今は兎に角前へ進め。
「舐めるなよ、人間。その程度の壁とやら、すぐにでも乗り越えてくれる!」
「……そうかい。なら、頑張れ」
つい、お節介を焼いてしまった。情報を聞き出すだけのつもりだったのだが。
ここまで来ると、フリードから情報を聞くためには、必要な過程だったと自分を納得させるしかない。
もう少し、必要な事だけをズバッと聞き出そうとする努力をするべきだろうな。急がば回れなんて諺もあるので、一概には言えないが……。
「素敵、だったよ」
「そいつはどうも。 ……なあ、離れないのか?」
「うん。気分が落ち着くから」
ずっと甘えっぱなしの優花が、唯一の癒やしであった。
しかし、恥ずかしくないのだろうか。あ、その感情も込みで、猫みたいに甘えてると落ち着く? そうでしたか、なら仕方ないね。
マックくんが何も言わなければ、オスカーがフリードをぶん殴るところでした。懊悩する魔人族、見覚えがあるもんね。
サンドマンを登場させた辺りから、フリードと白竜ウラノスの処遇をずっと考えていましたが、取り敢えず今はオリ主とは中立って事でお願いします。