デカグラマトンです、連邦生徒会対策室長をやってます 作:十文字マトン
「...ここは...そうか」
目覚めた時、目に入った景色は見慣れた部屋ではない...とはいえ、初めて見た場所でもない。ここは私がずっと住んていた、ゲヘナ自治区の家ではなくD.U.にあるメイの家...私の、もう一つの家とも言える。
「...いつもの時間か」ベッドの横に置いてる奇妙な鳥の造形の時計で時間を確認してみたら、朝5時といういつもの時間だった...風紀委員会の時の癖。
あの頃は寝る時間も削って仕事しないと大量の書類を処理出来なかったから、徹夜するのは当たり前で寝れたとしても2-3時間しか寝れなかった。そんな生活が続いていたから休みの日でも自然とこの時間で目覚める体質になった。たまに疲れが限界まで溜まって気絶したかのように眠りに落ちる時もあるが、それでも朝で起きてしまう...まあ、そんなに大した事でもない。朝に早く起きるなら夜も早めに寝たら体に支障はないから...別にそんなに寝なくても平気だが、セナに怒られるので出来る限り睡眠時間を確保してる。
今は風紀委員長ではなくエデン条約機構のゲヘナ代表という一見大層な肩書を持っているが、実はやるべき事はそんなに多くはない。代表クラスの確認が必要な書類でもこっちに回ってくる時にはすでに要件がまとまっていて、軽く目を通せば内容が分かるからかなり簡単に処理できる。シスターフッドの方々の行政能力の高さが伺える...メイがずっと「今は自分がやった方が速いとしても全部一人でやるな、部下の訓練をして?」と言ってる意味を実感できる。メイの協力もあって、今の風紀委員会は前よりは多少改善したけど、こうして比べたら体制の未熟さが分かる...イオリは大丈夫かな? 明日様子を見に行くか。
とにかく、仕事で徹夜をする事がほとんどなくなったから、毎日早めに就寝して朝早く起きる生活になった......例外はメイと一緒に寝る時。初めて彼女の隣で寝た時、何故か昼まで寝過ごした。あれからも何度か一緒に寝る機会があったが、10時より前に起きた試しがない。何となく彼女の隣で寝ると夢を見る気がしたが、起きたら夢に関した記憶は残っていない。
「メイはまだ寝てるかな」スマホのメッセージを確認したらメイからのメッセージはなく、代わりにケイがグループチャットで数枚メイの写真を上げている...グループの名前は【愛しいお姉様の記録(お姉様には内緒)】、基本はケイやティ達が毎日メイの写真を上げている。アングル的には盗撮に見えるけど、本人の同意を得ているらしい...とりあえず保存するわ。
昨日、
「......メイ、まだ寝てる?」試しに空に向かって呟いてみた。一応メイの【正体】について教えられていた。普段私と接しているメイはメイではあるが、その体以外にも意識が存在している...らしい。良く分からないけど、本人が居ないところでも彼女に話掛けると聞こえるらしい。
と、すぐにスマホから新着メッセージの通知音をした、確認したらメイから「寝てるよ、あと10時間」と寝ている...カピバラ? のスタンプが送ってきた...本当に聞こえるのね。ユキノ、私たちの中でもメイとの付き合いが長いFOX小隊のリーダーによると、そのうちもっと直接的に話しかけてくるようになるらしい...どういうことなのかまだ良く分からないけど。
「ちょっと運動でもするか...」目覚めたのに何もしないのは性に合わない、怠けてしまわないように少し体を動かす事にした。
軽く支度をして、運動服に着替えてトレーニングルームに向かった。メイの家はトリニティの貴族たちの家と比べても負けない広さ...トレーニングルームから射撃場、浴場やプールなどを設置してるという一般生徒の家にしてはありえないレベルだが、メイのもう一つの身分──クロスグループ実質の支配者と考えたらそんなにおかしくはない。すでに解散したカイザーグループの管理層はもっと高いビルに住んでいたから。
「おはよう〜ヒナちゃんも起きたの〜? 偉いね〜おじさん尊敬しちゃう」
「たか...ホシノ、おはよう。私より早く起きていたのに何を言ってるの?」
「いやまぁー昔の癖だよ〜」
そして予想通りで、すでに先客がいた。元アビドス生徒会の副会長にして、アビドス対策委員会の委員長──小鳥遊ホシノが運動服でランニングマシンを使っている...最近、よくここで会う。
「...隣、失礼するわ」場所が空いてるから隣じゃなくてもいいけど、話の相手が居た方が退屈にならない...メイと知り合う前の私では絶対出てこない考え。メイと知り合ってから良くも悪くも他の人と一緒にいる時間が長くなったから、一人でいると...ちょっとだけ、本当にちょっとだけ寂しくなる。
「どうぞどうぞー」許諾を得たので、隣のランニングマシンを起動して、何か話題を探し始めた。
小鳥遊ホシノ、一年の時からその戦闘力と攻撃性でゲヘナに警戒対象として扱われていた...にもかかわらず、他の自治区での目撃情報がなく、アビドス高校にも何も動きが見えないからあの事件でキヴォトスを離れたかと思われていた。
...連邦生徒会長が突然莫大な権力を持った新しい組織──対策室を設立するまでは。
エデン条約の提案やSRTの設立などの事から、いまの連邦生徒会長が以前の会長より能動的になったとは知っていたが、そのどれもが連邦生徒会内部の変化ではない。あの自称「伝統を重んじる」トリニティよりも改変を嫌う連邦生徒会が突然新しい、しかも現存する室よりも明らかに大きな権力を持っている室を設立するのは誰も予想できなかった。
当然、各勢力はその突然現れた室長を調べ始めた、ゲヘナも例外ではない。しかし調べるほど謎の存在としか分からなかった、あのマコトでさえ有用な情報を入手できなかった。それどころか連邦生徒会に送り込んだ情報員のみんなが篭絡されたように態度が変わり始めた時は流石に恐怖を感じてた。
まあ、そのあとは知ってる通りメイがゲヘナにファンクラブが出来るほどの人気者になった。ゲヘナの生徒達は良くも悪くも本心を隠すのが苦手だから、他人も本心で接してくれてると考えてる。そのせいで自分に良くする人を簡単に信じてしまう警戒心が欠けてる子が多い...逆に一度でも騙されたら信頼を取り戻すのはかなり難しい、だからトリニティとの相性が悪い。私たち風紀委員会と万魔殿は普通の生徒より警戒心が強いけど...最終的に警戒しても意味がないと分かった。
...突然告白されて、それからも毎日のように告白してくれるとか。心臓に悪いからある意味危ない相手ではあるけど...その結果は今の関係になった。
まだ完全にメイの事を信頼してなかった頃に彼女が他の学校に何をしたのか調べていた途中、トリニティ、ミレニアム、山海経...そして、アビドスという懐かしい名前が目に入った。もっと調べたらあの小鳥遊ホシノはまだアビドスに在学中で、全校生徒が3人しかない状態でも頑張って借金返済しながら学校を守っている事を知った。
梔子ユメ──小鳥遊ホシノの先輩にして元アビドス生徒会長。あの雷帝に直接アビドスの援助を頼もうとした太い神経の持ち主。他の学校にも似た事をしたと聞いたが、どれも門前払いされてた。メイの言葉を使うと「気概だけはいいけど、社会は気概だけでは通らないよ。まずはアポくらい取れよ」との事。そんな彼女が在学中、砂漠で遭難して行方不明となった。あれから誰にも目撃される事がなく、学校方面でも行方不明で学籍を一時的に停止された。キヴォトスでは学籍がかなり重要で、その人の身分証明だけでなく口座など生活にも関わっている...犯罪での学校からの追放以外、本当にキヴォトスの何処にも居ない場合だけその処置は為される。ここまで来るとおそらく死体が確認出来ていないだけで既に死亡していると、誰しもその可能性を思い浮かべていた。
キヴォトスに死がまったくない訳ではないが、どんな原因であろうと「在学中の生徒の死亡」は極めて少ない。だから弱小校のアビドスであっても「在校生の死亡」に関しては各勢力にとってかなり注目度が高い。他の学校はどんな結論を出したのかは知らないが、ゲヘナ側では「砂漠に迷った結果衰弱死した。小鳥遊ホシノがその遺体を発見したが何故か正式に死亡申請を出していない」という結論が出た。
しかし実は梔子ユメはキヴォトス外で迷っただけで生きていて、最近ようやくアビドスに戻った。死亡したという情報は結構信憑性が高いが、現に本人がこうして生きている。DNAの検定もなりすましではなく本人であると証明したから誤報以外でこの事を解釈出来ない...クロノスではクローン説やアンドロイド説などを上げているがそれを信じる人はそんなに居ないだろう。
が、メイから「キヴォトス外に出たのは半分嘘で、ユメさんの肉体は確かに一度は死亡した、でも魂はまだ生きているから最近復活した」と教えられた......一応、どの学校にも幽霊やそれに近い存在が居る噂があるし、実際見たり会話したと主張する人も後を絶えない。だから「魂だけ生きている」のはそこまでおかしくない...が、復活するのは流石にフィクション以外で聞いたことがない。しかもメイによると、万が一私の肉体が死亡しても同じ事ができるらしい......メイの言葉を信じていない訳ではないが、流石にそれを受け入れるのは結構時間が掛かった。今は既に文字通りメイと無限の時間を過ごせる事を喜ぶだけ。
つまりあの時小鳥遊ホシノは間違いなく大切な人の死に直面した、にも関わらずアビドスに残って、学校と後輩を守ってる。やはり強い、メイに特別扱いされるのも頷ける。もし私の目の前で大切な人...メイが死んだらと考えたら...多分私はそのまま後を追うだろう。
「あの」「ヒナちゃんって」話しかけようと思った時、相手も同じタイミングで話しかけてきた。
「「あっ」」
メイちゃんは「完全対等」もしくは「ある程度公平」での対戦はバカ弱い。なお、ズルの手段はいくらでもあるから本当に支障がない。
ドレスヒナイベントの例の「今日は快晴」で、あんな体験をしたヒナはちょっと驚いただけ、百鬼夜行イベントでゲヘナ生徒は「お化け?いや百鬼夜行だから妖怪か」で普通に戦おうとしてる、ユスティナが顕現したときヒナタ達も「幽霊?」だけでとくに取り乱してない。おそらくキヴォトスにでオカルト的な存在はこっちの世界と比べてそんなに珍しい事でもない。
ヒマリとコタマであくまで科学で証明されない物と分かるが、逆に言うとミレニアムの生徒でも幽霊に興味あるくらい「居るかどうかが分からない」だけで「絶対存在しない」と思ってる人がそんなに居ない、多分。