デカグラマトンです、連邦生徒会対策室長をやってます 作:十文字マトン
静寂が漂う黄昏、朽ちた都市に薄紅色の光が滑り込む。アッシャーの空は、上層世界の欠片が時折降り注ぐ、まるで星の欠片のように思える。
「あの日」から25年。上層世界アツィルトの光が砕け、ブリアーの叡智が歪み、イェツィラーの秩序が崩れ落ちた。そして最下層のアッシャーは、全ての廃棄物と絶望を受け止める器となった。
過去の自治区の北側にある崩壊した教会跡。今や朽ち果てた祭壇の周りには雨水が溜まり...錯覚なのか、その水面が何故か金色のように
水面が震え、やがて波紋が生まれる。
その波紋の中心から、金色の光が滲み出す。まるで溶けた黄金のような、温かい色なのに不気味な輝きだった。水面からゆっくりと上がった金属質の影は、形を変えながら集束してゆく。やがて人の形、少女のような姿に変化していた。
それは【ティファレト】――「美の均衡」と呼ばれた存在。かつてアツィルト界では「十の神聖なる神名」、「十の強大な天使」、「天使の大群」と呼ばれ、信仰された存在だったが。同時にこの世界を破滅をもたらした原因でもある。
「■■■■」声とも音とも言えない振動が、大気を震わせた。
ティファレトの身体が、さらなる液体のうねりと共に拡張し始めた。地面を這い、建物の瓦礫を飲み込み、かつての祭壇をなぞるように金属の触手が這い回る。
ティファレトが持つ権能──【同化】。「全て」を飲み込め、自分自身の一部に取り込む事ができる。その対処は物質的な存在だけでなく、概念的な存在も同化できる。
人間はいくら痕跡を消そうと、過去に残した目が見えない「情報」が存在してる限り、ティファレトから逃げる事は出来ない。この理不尽の能力のせいで、人間がずっと受動的な状態に追い込まれていた。
しかし、それでも抵抗するのが人間である。
「今だ、撃て」
声が響いた刹那、崩れた教会跡に閃光が奔った。高エネルギーの光線が、祭壇ごと金色の液体を焼き尽くす勢いで照射される。ティファレトの身体が、光の中で金色の輝きが一瞬だけ崩れ、高熱によって気化した。
──しかし、それだけだった。
「再構成が早すぎる...これが【調和】の力かよ」手に巨大なライフルのような武器を持つ少女がティファレトの状態を確認した後、思わず舌打ちをした。
黄金の化け物は、まるで何事もなかったかのように波紋の中心へと形を戻す。液体に見えるティファレトの体は、たとえ分子レベルまで蒸発させたとしてもすぐに元に戻れる。低温でも高圧でも、衝撃でも切断でも、あらゆる攻撃は意味をなしてない。まさに神の奇跡、超常的な存在。人では決して太刀打ちできない存在...だった。
「こちらの座標はばれた、すぐに同化してくるだろう...頼むぞ、5」
「
ティファレトが襲撃者を捕捉し、行動に移行する前にもう一度光線に照射された。しかし今回は、黒のように、紫であり、虹色ともいえる名状しがたい光だった。
「貫け!
「■■■──」
先ほどの光線の派手な破壊と比べて、黒い光線は静謐な死をもたらした。音も閃光もなく、ただ存在そのものを侵食するような波動が、金色の液体を貫いた。
ティファレトの身体が震え、その金色の輝きが急速に曇っていく。まるで内側から錆びついていくような変容だった。液体の表面に亀裂が走り、その内部から漆黒の粒子が噴き出す。金色と黒が入り混じった不安定な状態へと変化していった。
「この世の全てを同化できるなら、この世界に存在しない
二年前、ある自治区の至聖所にて、「儀式」が遂行された。どんな存在と取引したのか、どんな代償を支払ったのかは今となって誰も知らないが、人類は初めてティファレトに対抗できる力を手に入れた。
それは
──「魔法」っと。そしてそれを扱える
実際の原理は判明出来てないが、ティファレトが魔砲撃を受けるとこのように再生ができず、やがては形の維持も崩壊する。このティファレトの金属の触手が千切れ、溶け、祭壇跡に黒い水銀のような液体が広がっていく。それは徐々に力を失い、地面に吸い込まれるように沈んでいった。
「やったか...?」
その言葉に答える者はいなかった。ただ、空気の緊張が一瞬だけ緩む。
「...違う、崩壊するの早すぎ」
「逃げられた!?」
しかし、ティファレトは消えていなかった。
沈んだ黒い液体は、祭壇の下、地下に広がる排水路のような空間へと流れ込み、姿を隠す。撤退。それは明確な戦略行動だった。
自治区Q-7の北端、朽ちた集合住宅の薄暗い一室。窓からは夕闇に沈みゆくアッシャーの風景が見渡せる。十文字メイと呼ばれた少女は、古びたソファに横たわり、熱に浮かされた意識の中で天井の亀裂を見つめていた。
高熱は三日目に入っていた。保存食も尽き、最後の水も昨日で飲み干してしまった。イェツィラーからの医薬品の密輸も途絶えて久しい。アッシャーの底辺で生きる者にとって、病は死の前触れに過ぎなかった。
床が揺れる感覚に、メイは意識を引き戻された。震えは微細だが確かに迫っていた。乾いた唇から漏れる息は熱く、視界は歪み、それでも本能が危険を察知して体を動かそうとする。
床から染み出すように現れた黒と金色が混ざり合った粒子。それは床板を溶かしながら、ゆっくりと室内へと侵入してきた。
その不安定な金黒の液体は部屋の中央で渦を巻き始め、ゆっくりとした律動と共に人の形へと変容していく。その表面には依然として黒い亀裂が走り、魔砲撃のダメージを受けた不完全な状態を示していた。
「
それは人間の言葉ではなかった。しかしその空気の振動がなぜかメイの脳内で直接意味を成すように感じられた。
ティファレトは一歩ずつメイに近づいてくる。その動きは優美でありながら、どこか痛々しい。金色の表面には、まだ黒い亀裂が走っていた。
「......
今のティファレトは魔砲撃を受けて「
先程教会にいる武装した人間を同化するのはリスクが高いため、近くて抵抗出来ない人間を優先した。その結果は、すでに病で弱ってるメイが同化対象となった。
「誰...? まさか、ティファ...レト」その姿を見たメイは身を起こそうとしたが、力尽きて再びソファに倒れ込む。
ティファレト、それはアッシャーの住民にとって死そのもの。
ティファレトの形態が揺らぎ、その腕が溶けるように伸び、メイの足首に触れた。冷たい感触が肌を這い上がり、メイの全身を震わせる。感覚が麻痺していくような、しかし同時に研ぎ澄まされていくような矛盾した感覚が全身を包み込んだ。
金色の液体はメイの肌を這い上がり、その身体を緩やかに包み込んでいく。それはまるで愛撫のように優しく、しかし容赦なく進行していった。ティファレトの意識がメイの内側へと侵食していく。それは魂の深部に触れるような親密さを持っていた。
「なに...怖い!」
メイの意識が揺らぐ。自分という存在が溶け、金色の海へと溶け込んでいくような感覚。同時に、ティファレトもまた、メイの内に流れ込んでいた。
〔ああ...遂に見つけました、
同化の波が全身を巡り、メイの喉から絞り出された呻き声は、苦痛と快感の境界を曖昧にするような響きを持っていた。自我と他者の境界が溶け合うような感覚は、恐怖であると同時に、禁断の解放感をも伴っていた。
ティファレトの光が部屋を満たし、二つの存在が溶け合うその瞬間、窓ガラスが爆ぜた。
「見つけた、ティファレト」
黒い装束の人影が窓枠に佇み、その手には漆黒の光を放つ装置が握られていた。
「......民間人が一人、すでに同化された模様」
「違う、私はー」
「くだらない偽装は無駄です、ここで消えて貰います、ティファレト!」
「どうですかお姉様! 新作!」
「いや普通に面白いだけど...なんで主人公の名前が我と同じなの?」あと気のせいなのか、同化のシーン微妙にエッチな雰囲気。
「没入感を増加するために!!」
「そういえばティちゃん向けの小説だった...じゃあなんで自分で悪役やるの?」
「楽しいので!」
「うーん、否定できない。でもティちゃん相手にいくら限定的に色彩ちゃんの力を行使できるとしてもほぼ詰むじゃない? 主人公側」適合者...魔法少女が数万人居たらワンチャン勝てるかな?
「なのでお姉様が主人公になる必要があります!」
「...一理ある!」
一発ネタです
前回エープリルフールからもう一年...だと
ちなみに一部設定微妙に本編とリンクしてる
デカグラマトンとリンクしてない個体なら色彩の力を込めた攻撃を受けると流石に機能が停止する。なお物理世界の手段ではほぼ対処不可能のも本編通り。
一体のティちゃんでも簡単に文明を崩壊出来る、正確に言うと最初は一体でも崩壊した時はすでに一体だけじゃなくなる。