第二次世界大戦、日本と連合国の戦いが終わったとされる年(とし)から今年で50年、世界はイギリスにより公表された人類にとっての最新にして最古の敵、呪霊との戦いに心血を注いでいた。
そして、大戦時、日本の防空とアメリカ本土への空爆を一手に担い、日本を勝利に導いた呪霊操術の使い手、八雲泉が没しておおよそ10年。世間では2000年問題がどうなるのかと言う話で持ちきりの中、新たなる呪霊操術の使い手が見つかった。
「夏油傑君……だね」
ランドセルを背負い夕焼けに向かって歩いていた私の後ろから、誰かが私の名前を呼んだ。
私は私の名前を呼ぶ私の聞いた事の無いとても低い男性の声に瞬時に不審者にでも声をかけられたのかと思い務めて冷静に、ゆっくりと振り返った。
「はい、そう言う貴方は……夜蛾正道さんですね」
振り返った先にはこの前、国営放送でインタビューに答えていた呪術師の夜蛾正道さんが立っていた。
「ん、知っていたかね」
「はい、テレビで拝見しました。人工呪骸を作っているとか」
有名人に会えた感動に思わず笑顔で答えた。
「ああ、あれを見たか……なら私が君に声をかけた理由も分かるね」
夜蛾さんは照れた様に頭をかくとしゃがみ込み私と視線を合わせると言った。
「はい、呪術師への勧誘ですね」
「その通りだ……と言いたいところだが、その前に、これは見えるかね」
そう、夜蛾さんが言うと、右手の指を2本たてピースの形をとる。そして、立てた2本の指の上に呪力で3と7の数字が作られた。
「2本指の上に3と7が見えます」
私は夜蛾さんの顔を見ながらにっこりと口を歪めながら言った。
「よし、見えているな。そうと分かればついて来てほしい場所がある。今からでも大丈夫そうか」
夜蛾さんは私がテストで合格したからか嬉しそうに笑いながら言った。
「呪術高専、ですか?」
「いや、いずれは入学してほしいが、今は違う……ところで、傑君の術式は呪霊操術と聞いているんだが、間違いないかな」
「はい、教科書に載ってるのを見て図書館でも調べました。間違いないと思います」
「そうか、勉強熱心だな。まあ、ある意味世界でもっとも有名な術式だ。一般の図書館にも情報はあるか……」
「はい、ところで、私はどうなるんでしょう」
「ん? ああ、そうだったな。さっきも言った様に、傑君さえよければ私と一緒に来てほしい」
「どこへ連れていかれるんでしょうか」
「まあ、一番は八雲家だな」
「八雲家……御三家の一つですね。行って何をするんでしょう」
「それは行ってみないと分からないな。まあ、単なる挨拶回りで終わるのか。もっと込み入った話があるのか。向こうの当主次第だ」
「そうですか。分かりました。出向くのはいつになりますか」
「早い方がいいな。実はもう車を待機させている。今からでも大丈夫か」
「早いですね。ですが今からだと親が何と言うか……」
「親御さんからの許可は既に取れている。実はな、傑君に言うのは憚られるが、呪霊操術が使える術師が見つかった事が出回り始めている。様々な組織から暗殺者が送られたと言う噂もある。早くした方がいい」
「それは……親は大丈夫なんですか」
「大丈夫だ。傑君の親御さんも八雲家に向かっているはずだ」
「そうですか。分かりました。すぐに八雲家に向かってください」
「助かる。車はこっちだ」
随分と話が大きくなっている。私はそう感じながら夜蛾さんが向けた指の先に足を向けた。
夜蛾さんがさした指の先には高そうな黒い塗装を施された車が停車していた。
夜蛾さんが助手席のドアガラスをコンコンと叩くと後部座席のドアが開いた。
「乗ってくれ」
私は背負っていたランドセルを抱え言われた通り黒塗りの車に乗り込みゆっくりと沈み込む座席に驚きながら後部座席の右の座席に座りながらヒョコヒョコと移動した後夜蛾さんも私に続いて乗車した。
「助手席に座りたかったならすまない。こうして横に座った方が色々話しやすいんでな」
後部座席のドアが自動で閉まっていくのを私がワクワクした表情で見ている中夜蛾さんは言った。
「それに前に座られるといざと言う時守りにくい。出発してくれ、場所は八雲家だ」
音もなく発進する車に流石高そうな車だと思いながら、私は夜蛾さんに聞いた。
「運転手さんがいるんですか?」
「いや、人じゃない。人口呪骸だ」
「呪骸が運転できるんですか?」
「最新作だからな……さて、八雲家に着くまで時間がある。映画でも見るか」
「え? ……良いんですか?」
「ああ、飲み物もあるぞ。カルピス、オレンジジュース、コーヒー……は私が飲もう。何が良い」
「いや、あの良いってのはそんな時間があるのかって意味で、私に質問とかないんですか?」
「ん? ああ、質問か……それは八雲家で聞けばいいしな……」
「いや……じゃあ、こっちから質問です。八雲家で気を付けることはありますか? 私お偉い人の家を訪ねた事が無いんですが……」
「気を付ける点は無いな。あそこは出来たばかりで歴史も短い。しきたりらしいしきたりも無いし、少しの時間正座が出来ていれば後は黙っていればいい」
「はあ、なんか緩そうですね」
「緩いぞ。表御三家は考えが柔軟で付き合いやすい」
「表? ……まるで裏があるみたいですね」
「ああ、藤原、一条、八雲、これらが御三家と呼ばれているのは知っているな」
「はい、歴史の教科書に載ってました。第二次大戦で活躍した家ですよね」
「そうだ。それが世間で言われる御三家だ。が、これとは違う御三家がある」
「それが……裏御三家?」
「そうだ。東京に居を構える表御三家とは違う京都に居を構える裏御三家と言う者達がいる禪院、加茂、そして五条だ」
「御三家に表や裏があるなんて初めて知りました」
「まあ、一般にはあまり知られていないな。裏御三家は大戦時、政府と距離をとっていたんだ。日本が負けそうになっても知らん顔さ。お陰で、今は肩身が多少狭そうだがな」
「呪術世界にも歴史ありですね」
「逆に下らん歴史ばかりだ。その辺りもおいおい知っていけばいい」
「はい、頑張ります」
「いい返事だ。期待してるぞ。さて、ここから東京に着くまで時間がある。さっきも言ったが、映画でも見て時間をつぶそう。『乱暴ー』の新作で良いか」
「乱暴ーは呪霊が出てこないから、リアリティが無いんですよね……」
「だからいいんじゃないか。フィクションとして楽しめる」
――
―
「日も完全に落ちたな。ここからは高速を下りて八雲家に向かう。もう少しだ。ほら、よだれが出ている。目ヤニも取っておけ」
夜蛾さんの声に私は目を覚ました。
「ああ、ありがとうございます。上映中に寝ちゃったんですね。すみません」
「いや、これから当主との顔合わせがあるんだ。舟をこぐ事が無くなっただけ良い。問題ない」
私は夜蛾さんから受け取ったタオルで顔をふいていると夜蛾さんの作った呪骸が運転する車が高速を下りている最中だった。
初めて見る東京は驚くものばかりだった。高いビル、広い道路、沢山の人、それによって出来上がっている誼譟(けんそう)、夜なのに明るく、これが眠らない街かと感激した。
そして、下道を走りしばらくして、十字路を赤信号で止まっていた時、車の左右前方から一発ずつロケット弾が飛翔してきた。
原作がえらい事になってるので初投稿です。一流の悲劇より三流の喜劇を目指して頑張ります。