下水道で魔女、レイブンに操られていると思われる男が銃弾を装填した拳銃、トンプソン・コンテンダーの銃口を私、夏油傑に向け、トリガーを引く。
……どっちだ。銃弾が通常の物であれば私の持つ術式、呪霊操術で呪霊の壁を作れば止められる。しかし、構築術式を使わず手動で装填していた事から最初に放たれた弾丸と同じ、魔弾である可能性もある。もし装填した弾丸が魔弾なら手持ちの呪霊で防ぐ事は不可能だ。そうなると、回避せねばならない。私は男の構える拳銃の銃口を注視ししながら考える。私から見て右は壁、左には夜蛾さんがいて、前には倒れている自称仮面ライダー、後ろに空間はあるが拳銃の射線上で選択肢からは外れる。そして、上は天井がありその天井は高いとは言えない。言えないが、全く空間が無いわけではない。他に選択肢も無い、跳ぶか……しかし、敵は構築術式を使いリロード無しに銃撃が可能だ。そうなると、空中に逃げ身動きが取れないところを二発目が飛んでこない保証はない。いや、むしろ相手からすれば絶好の的。一発目が囮で二発目が本命、魔弾と言う可能性は十分ある。守るか、避けるか……それとも、いっそのことこちらから攻撃すべきか……いや、相手の力量が分からない内は色気を出すな。只でさえ相手は音に聞く最悪のテロ集団の一人。勝てると思うな。最悪を想定して動け、避けろ。避け続けるんだ。
魔弾があと何発撃てるのか、通常弾があと何発構築出来るのか。それも分からないまま私は冷や汗を一つかきながら身を縮めた。一発目は呪力で強化した体なら避けられる。しかし二発目、三発目を避けるにはどうすれば……呪霊操術で展開した呪霊を足場に跳び続けるか? しかし、手持ちの呪霊で宙を浮く呪霊は蠅頭や魚型呪霊になる。これらの等級の低い呪霊は足場として不安定なうえ私の体重を支えられるかと言えば疑問が残る。いや、実際に触れた事があるので分かるが、まず無理だ。だが、他に方法は……どうすれば――――銃声が響いた。
「くっ」
男の持っていたトンプソン・コンテンダーが宙を舞い地面にカコンカランと音を立て転がった。
「え?」
私は男から大きく離れた位置からした銃声とマズルフラッシュに驚き、声を発し、その銃声がなった場所を見た。
そこには全身を使い拳銃を構えているリカちゃん人形がいた。
「やらせると思うか」
夜蛾さんはそう言うと、リカちゃん人形が構えている拳銃と同型の拳銃を懐から取り出し男に向け構えた。
「ザコが、邪魔をするか」
男は左手で右手を抑えながら夜蛾さんを睨みながら言った。
「それが私の仕事だ」
そして、夜蛾さんの言葉に続いて更に3度の銃声が響き、男はドサリと音をたて地にふした。
「……殺したんですか」
いくら殺されそうになったからと言って殺し返すのは果たして正しかったのか、そう言う思いで、動かなくなった男を見ながら私は夜蛾さんに聞いた。
「いや、安心しろ。急所は外してある。こいつには聞きたい事が山ほどあるからな」
私の質問に夜蛾さんは答える。私は目的があったとはいえ殺意を持って対峙してきた相手を簡単に殺すと言う判断を下さなかった夜蛾さんに私は少し安堵し夜蛾さんに歩み寄った。
「拳銃は……男たちから回収したんですか?」
私は夜蛾さんが閃光弾で倒した男たちの方を見ながら言った。
「ああ、バレないよう呪骸に回収させていたせいで遅くなった。しかし、お陰で不意がうてた……だが、少し怖い思いをさせてしまったな。すまない」
夜蛾さんは撃った男から目線と銃口を離さず少し頭を下げた。
「いえ、こちらこそ呪霊操術を持っていながら戦力に成れず申し訳ないです」
「いや、申し訳ないは此方のセリフだ。呪霊操術は術式の中でもかなり特殊で稀有な大器晩成型だ。八雲泉と言う偉大な先人がいるから気負うのも分かるが、傑君はたまたま強力な術式を持ってしまっただけの子供だ……と言う事実は受け止める必要があるかもしれないが、だからと言って必要以上に責任を持とうとしたり、覚悟を持とうとする必要は無いし、まして、大人になろうとする必要も無い。子供が、子供らしく居られる世界を作り、それを守る為に命を懸ける。それは大人だけが持てる特権だ。傑君はまだまだ子供である事を楽しみなさい。そして、子供に戦えない事を嘆かわしてしまった事は間違いなく、大人である私の落ち度だ。だから、もう一度になるが、すまなかった」
「いえ……生意気な事を言って、すいません。あと……助けてくれて、ありがとうございます」
私は一度頭を下げると顔を上げ言った。
「……傑君、君は呪術師に向いてないな」
私の返答を受けてか、夜蛾さんは苦笑いを浮かべながら言った。
「え? そうなんですか?」
「ああ、実直で素直すぎる。呪術師は昔よりもマシになったとは言え、まだまだクズでゲスのバーゲンセールみたいな所だからな。合わないかもしれない」
「えっと、それは……私はもう呪術師に成る心算だったんですけど、じゃあ将来何になればいいんでしょう」
「何になっても良い。子供は……いや人間は無限の可能性を持っている。傑が何になろうとしても、私は応援するぞ」
夜蛾さんが笑みを浮かべながらそう言う、先ほどの苦笑いを浮かべていた顔からは想像が付かないほど柔和な笑みにああこの人は結構感情豊かなんだなと言う感想を私は持った……その時、夜蛾さんが撃った男が立ち上がった。
「そうね。呪術師にならないのは私も賛成だわ」
「チッ、しぶといな」
夜蛾さんはそう言うと再び男に銃口を向けた。
「良いのかしら、これ以上ダメージを与えると、この男……死ぬわよ」
男は息も絶え絶えにそう自分を指さし言い、着ているコートの内側からナイフを取り出すと、右足を僅かに引きずりながら私に向かって歩き出した。
「話の続きになるけど、傑が貴方が呪術師に成らないと言うなら、もう私は貴方の命を狙わないそう言う約束、ゲッシュを……貴方たち風に言うなら縛りを結んでもいいわよ」
「傑、奴の言葉は聞くな……レイブン、貴様が狙わなくとも貴様の仲間は狙うんだろう分かっているぞ」
「あら、バレまして、なら……死になさい」
男は大地を蹴ると猛スピードで私に迫ってきた。先ほどの会話自体が呪力で体を強化するための時間稼ぎだったのだろう。先ほどのゆっくりとした動きが嘘のようだ。
「動くな!! 撃つぞ!!」
「撃ってみろ!! これ以上はこの男が死ぬゾギャア!? ……ク、ソ」
男は、私に迫ってきた速さの何倍もの速さで直角に曲がると下水道のコンクリートの壁にぶつかりクレーターを作るとそのまま倒れ、動かなくなった
「死んで構わん」
「仮面ライダー!?」
「ブラックさん?」
男が直角に曲がった地点には仮面ライダーブラックが肩で息をしながら立っていた。予想するにどうやら男が直角に曲がったのは仮面ライダーが蹴り跳ばしたせいか。
そして、仮面ライダーは自身が倒した男に近づいていった。拘束するためか止めを刺すためか、どちらかだろう。
「待て、仮面ライダー、何をする気だ」
「殺す」
「ダメだ。こいつには聞きたい事が山ほどある」
「聞く事など無い。殺す」
「動くな。これ以上男に近づけば撃つ」
そして、レイブンに操られていると思われる男の処遇で夜蛾さんとブラックさんの意見が対立したのち、夜蛾さんはブラックさんに銃口を向けた……ええ、今度の相手は味方だと思ったブラックさんですか。勘弁して下さい。
少年夏油の口調ってこれでいいのか?