――バンッ!!
「……」
「ヒグッ……」
勢いよく扉が開いて何事かと思えば、編入生の凰鈴音か。
パワードスーツの手入れをして外で軽い運動した後、戻ってから鍵を締め忘れたな。
まぁそれは俺の不注意だったとして、泣いている女の子の相手は人一倍苦手なんだが……どうしたものか。
「あっ……昨日の……」
「生徒は寮に居る時間のはずだが」
「ズビッ……はい、ごめん、なさい……」
「……理由は知らんが温かいタオルでも用意しよう。少し休んでから戻るといい」
夜に生徒を招くというのも問題がありそうだが、泣きじゃくった顔のまま追い返すよりは良いだろう。仮に変な噂が立つのなら、あんな勢いで扉を開けられた時点で関係ないだろうしな。
はぁ……くだらん言い訳を考えるのはやめてさっさとタオルの用意をするか。
「先にこれを渡しておく。氷水で冷やしたガーゼだ。最初はかなり冷たいだろうが、とりあえず温かいタオルができるまで目元を軽く冷やしておけ」
「本、読んでたのに、ごめんなざい……誰もいないと思っで……」
「いつでも読めるものだ。気にしなくていい」
轡木さんからまた新しく看板を書いてもらいはしたが、外から見るとただの倉庫であることには変わりないしな。間違えもするだろう。
読んでいた本も、以前来た時に束さんが置いていったISについての本だ。本当にいつでも読めるものだから何も問題はない。
「慣れてるズビビッんですね」
「俺も昔はよく泣いて目を腫らしていてな。その時に教わった」
「失恋でずか?」
「……すまない。そういうので泣いたことはないんだ」
「すごい……」
「別にすごくは……あぁ、多分勘違いしているな。そういう経験が無いだけだ」
ん、丁度いい温度だな。
後は適当に飲み物でも用意するか……こういう時の女子高生って何飲むんだ? わからん。生徒会長の時と同じく茶でいいか。
「温かいタオルだ。今度は少し目元を温めるといい。後で冷たいのが欲しければまた用意しよう」
「ありがとうございます。あ、気持ちいい……」
「何よりだ。手で抑えるのが面倒なら横になってもいいが、眠らないように頼む」
「……じゃあ、話、聞いてください」
あぁ、そうなるのか……それで眠らないというのなら、まぁいいか。
「構わんが返答は期待しないでくれ」
――
―
「だから、部屋を出るまでは大丈夫だったんだけど、なんか部屋に戻ったら惨めになってきて……」
「それでルームメイトに泣いている所を見られたくなくて走っていたら此処に辿り着いたと」
「はい。一回出ちゃったら涙止まらなくなっちゃて、わーってなったらがーって」
「なるほど」
もうすぐ一時間……。
しかしあれだな、女子の方が感性の成長は早いんだとウイングダイバーの後輩が言っていたが納得した。小学生男子相手に随分とマセた言い回しを……味噌汁的なアレであっているよな?
それに、そうか、この子も織斑一夏のヒロインの一人か。
最近その辺のこともすぐに浮かばなくなってきているな。気にしたところで仕方がないと割り切ってはいたが、俺が思っている以上にこの世界に慣れてきているという事か……。
「あのー」
「あぁ、すまない。少し考え事をしていた。続けてくれて構わない」
「えっとじゃあ、今の話、どうおもいます? やっぱりアタシの言い方じゃ伝わらないかな……」
あー……なんと答えたもんかな。気の利いた返しが浮かばん。
やっと泣き止んで目の腫れも落ち着いた所に余計なことを言ってまた泣かれるのは困る。こういうメンタルケアはレンジャーの狙撃部隊に得意な奴がいたからな。
まさか任せっきりにしていたのが、こんな形で返ってくるとは。
「最初に言ったように返答に期待はしないでくれ……気の利いた言葉は言えん。それでも良いのなら答えよう」
「お願いします!」
渋らずさっさと言うのが正解だったか。そんな輝いた目で見られても……クイーンの巣穴を潰してくれと言われたほうが期待に応えられる自信がある。
だがまぁ、答えると言ってしまったからな。
「あくまで俺の主観になるが、正直に言うと小学生男子にそれが伝わる確率は低いと考える。もっと真っ直ぐに言うか、パイルバンカーでもチラつかせた方がよっぽと釣れるだろう」
「小学生にパイルバンカー!?」
「男なんて離乳食を食い始めた頃にはもうパイルバンカーやらガトリングガンが大好きだ。斬馬刀などの長物なんかも付けた日には、就寝起床を共にするだろうな」
「そ、そうなんだ。酢豚とパイルバンカー……同じ、とは言えないわよね……」
「だから相手の受け取り方に委ねている面もあるから一概にとは言えんが、伝わるか伝わらないかで言えば、難しいだろうと俺は言う。だが高校生にもなれば、思い出し、少し考えた時にもしや?と思ってもおかしくはないとも考える」
「じゃあ一夏はなんで?」
「分からん。俺は織斑一夏君をよく知らないからな。そこまで考えつかない場合だってあるだろうし、勘違いだったら恥ずかしいと考えて探りを入れているのかもしれない。まぁ、そこは君の方がよくわかっていそうなものだ。だからリーグマッチの勝敗云々になったのでは?」
返答こそないが、目を泳がしながらお茶を空にして、ついでにと出した煎餅が次々と消えていく様子から考えると……話の中で売り言葉に買い言葉でとは聞いていたが、謙虚の現れでも何でも無く本当にそうだったのか。
「交流の仕方など人それぞれだ。殴り合いでしか分かりあえん奴も居れば、話し合いでしか分かりあえん奴もいる。喧嘩を推奨する訳では無いが、それもまた一つの方法なのだろう。それに説明するのが恥ずかしいというのは分かるが、負ければ本来の意味を伝えられるチャンスでもあると俺は考え――「それは嫌!」――だろうな」
薄々察していたが、凰鈴音はかなりの負けず嫌いだな。
小学生の時から一途で、代表候補生に登り上げる努力と男を追いかけて編入。そのバイタリティとフットワークに加えて利益の為に負けるなんて考えはしないし、絶対に嫌なタイプか。
話では束さんの妹の篠ノ之箒と、先日決闘していたセシリア・オルコットも既に一緒に居る事が多いらしいし……織斑一夏の周りは中々に賑やかな事になっていそうだ。
「であれば勝ってから勝利宣言と共に教えるのも手だ。この際、勝利時の要求は別にして、焦らすだけ焦らして敢えて教えずに将来の老後の楽しみにしておくのもいいだろう。俺はよく分からんが、恋は見る側もやる側も駆け引きを楽しんでこそだと……昔に聞いたことがある」
「勝って勝利宣言……それ! それいい!」
「まぁ、仲直りが先だろうがな」
「う”っ……でも、仲直りも戦いも駆け引きも勝ってなんぼよね!」
仲直りに勝敗があるのかは俺にはあんまり理解できんが、随分と声が明るくなったから良しとしよう。
「さてそろそろ時間だ。これ以上は本当に怒られかねないからな」
「あ、もうこんな時間」
「気晴らしにはなったかね?」
「はい! あ、よかったら一夏のやつボッコボコにする所、用務員さ……あれ? えっと……」
「ちゃんと自己紹介がまだだったな。用務員のストーム1だ。呼び方は用務員さんでも何でも構わない」
「じゃあストームさん! 今日はありがとうございました! 絶対一夏のやつボッコボッコにするから見に来てね!」
「寮まで見送りは必要か?」
「大丈夫ー」
来た時とは大違いで随分と元気に出ていったな。
強引に話を切り上げてみたが、問題はなかったか。
はぁ……反省点は幾らでも上げられるだろうが、今回は話し相手として及第点にはなれたと思っておくとしよう。
「クラス対抗戦は五月中旬ぐらいからだったか」
確かアリーナの予定表に組み合わせも書いてあったな。えーっと、第一試合が一組と二組で週始めか。
この日はまだ仕事は入っていないな。確か轡木さんはまだ仕事をしている時間だな……今のうちに休みが貰えるか聞いてみるか。
「……お忙しい所を失礼します。ストーム1です」
『はいはい、轡木です。一段落して休憩していたので気にしなくていいですよ。この時間にストーム君が連絡してくるのは珍しいですね』
「クラス対抗戦初日、休みを貰っても大丈夫かの確認とお願いをしたくて連絡しました」
『構いませんよ。その日は大きな荷物が来る予定もありませんし、特に急ぎの用事も無いでしょうから。ただその日ということは、クラス対抗戦を見に行く予定ですか?』
「はい、そのつもりですが」
『うーん、そうですか』
反応があまり良くないな。何か問題が……いや、そういえばクラス対抗戦の結果は制限公開対象だと連絡が来ていたな。
えー、確かこの辺に連絡書が……あった。えーっと、外から観客が来れるのは……早くて六月末の学年別タッグトーナメントか。それでも企業視察限定で、一般公開は学園が編集したもののみ。
なるほど。これはアレだな。ただの用務員が見れるやつではないな。
「自分が観戦する事に支障があるようでしたら遠慮なく」
『そうですねぇ。クラス対抗戦は各学年代表と自分達の実力差を確認させ各クラスでの競争心向上、個人での向上意欲促進を図る目的が主で、原則では生徒と教師以外は観戦することはできないのですが……ストーム君は頑張ってくれていますからね。少し不便を強いるでしょうが、観戦できるように手配しましょう』
「いや、自分にそこまでして貰わずとも問題ありません」
『気にしなくていいですよ。観客席での観戦許可は特例になり、面倒な相手も増えるのでできませんが、観客席以外からであれば偶然見えてしまうのは仕方のないことです。ストーム君は教師ではありませんが職員ではありますから、仕事中に偶然見えてしまう事もあるでしょう』
「あるんですか?」
『私はあると思いますよ。ではそういう事なので、申し訳ないですが急遽頼みたいお仕事ができました。また外出する時にでも相談をしてください。その時には必ず都合をつけましょう』
「分かりました。色々と迷惑を掛けます」
『いえいえ、ストーム君が居るということは色々とこちらにも都合がいいんですよ。これぐらいはお安い御用というやつです。それでは少し業者へ連絡があるのでこの辺で』
「よろしくお願いします。お疲れ様でした」
色々と面倒を掛けてしまったみたいだな。今度、今回の礼も兼ねて食事でも誘ってみるか……だがまずは、なんかいい店を探すのが先だな。織斑先生辺りなら知っていそうだから近い内に聞いおくとしよう。
しかしさっき轡木さんが言っていた、俺が居ると都合がいいというのは、十中八九束さん関連だろうな。この世界にまだまだ疎い所はあるが、流石に束さんがISの権威だというぐらいは理解している。
俺を匿うデメリットもあるだろうに、それ以上に束さんとの繋がりというのは大きいんだろう。
「別に俺から連絡が取れるわけではないんだが――ん?」
急にマナー音がした方を向くと、風呂場の扉から見覚えのない小さなうさ耳が飛び出している。これは……携帯? かなり小さいな。なんとなくうさ耳から束さんを連想してしまうが、勝手に出ていいものか…………ずっと鳴っているな。急用だった場合は、別の連絡手段を使うように伝えたほうがいいか。
「こちらストーム1。どなたかは存じ上げんが、申し訳ない『もすもすひねもすー! やーっと出てくれた! 束さんだよーー!!』――あぁ、元気そうで何よりだ」
やっと出てくれたということは、束さんはこの携帯が俺の所にあると把握していたという事だよな。
「この携帯は束さんの忘れ物か?」
『忘れ物じゃなくてスーくんへのプレゼントだよ~。スーくんが今使ってる携帯に連絡先入れても良かったけど、何かと面倒な相手は居るからね! 安心安全の束さん直通スーくん専用フォンをご用意したのさっ! スーくんしか使えないプロテクトもバッチリの一品!』
「なるほど。つまりコレを使えば通信傍受などを気にせず、周囲さえ気をつければ気兼ねなく連絡できるという認識で問題ないか?」
『うんうんうんうん! その通り! もう。いつでもどこでもうぇるかむだよ!』
「流石だな、いつも気遣い感謝する。大切にさせてもらう」
『えへへ~』
コレを見越していたとしたら、轡木さんも中々曲者だな。まぁそれぐらいでなければIS学園の運営なんて務まらんのかもしれんが。
しかしタイミングが良すぎる……真っ先に浮かぶ可能性としては、もう一人曲者がいるということだが。
「束さん、時に質問だが、この携帯はいつ置いていったんだ?」
『……ついさっき?』
なるほど、全く気付かなかったな。それに都合よく連絡が取れる道具ということは、大方会話の内容を聞かれたか、断片的なもので予想したか。
いや、だからといって即座にコレを用意するのは難しいか。色々とタイミング良く重なった所もあるんだろう。まぁ、思惑通りであれ偶然であれ問題ない。むしろ有り難いものだな。
『スーくん? えっと、もしかして迷惑……だったかな』
「ん? いや、何も迷惑なことはない。束さんには感謝をしているが、返したい恩が溜まっていて悩んでいたぐらいだ。俺に出来ることなど限られている。だからまた束さんは笑うだろうが、これで束さんを守りやすくなったと思っていた所だ」
『んふふ~。この前ストーカーから守ってくれたのでチャラって言ったのに、私はしたいからしてるんだよ? 自己満足、私の我儘でしかないからスーくんが気にする事でもないんだよ』
「であれば俺の気が済まんという我儘だ。もし迷惑であれば遠慮なく言ってくれて構わない」
『もしかしてスーくんって、結構いじわる?』
「自覚はない。だがこういうやり取りを楽しいと感じているのも確かだ……フフッ、存外そういう面もあるのかもしれん」
『ッ~~フュッ! ふぇっと、ちょっとぐらいなら束さんはいいと思います!』
「あ、あぁ。そんな事より珍妙な音がしたが大丈夫か?」
『大丈夫大丈夫! もう、全然! 絶好調だよ!』
確かに声は元気そうだ。無理をしている感じでもなさそうだし、問題ないのならそれでいいんだが……本当に何の音だったんだろうか。
この後、追加で一時間ぐらい二人は電話をしました。
大したことではないんですが、多分ドキッとして変な声が出ないように口元を抑えたら、指の間から変な音が漏れたりしますよね。
ちなみに今回の束さんは偶然です。
~本編には書かないであろう裏設定~
ストーム1は各世界で政治的あれこれに巻き込まれかけた事もあります。
ちょっとお偉方が発言権欲しいからと色々画策して妨害やらを受けたこともあります。
ですがそんな事より巨大生物がハイペースで蹂躙していったので、結果はお察しです。
今回少し駆け足気味な気もしますが、ユルシテ...クダサイ...
誤字報告、感想等々ありがとうございます。