「いい空だ。それに、確かに見晴らしが良い」
凰鈴音との一件から日は経ち、今日はクラス対抗戦当日。
轡木さんから頼まれた仕事というのは、学園の中央辺りにそびえ立つオブジェの内部清掃だった。あの渦を巻いた中に入れるとは思いもしなかったが、内部清掃といっても轡木さんから頼まれた清掃は最上階のみ。
その最上階も最上階で二十分も掛からず清掃は終わり、なんの為にあるか分からん扉から外に出てみれば、轡木さんが言っていたように学園を一望できる程に見晴らしが良い。
「……俺が知らないだけで天文部でもあるのか?」
更にその最上階には、大小様々な望遠鏡や双眼鏡、地球儀なんかも置かれている。
轡木さんからは清掃が終わったら、その望遠鏡などを使っていいと許可が出ているのだが……これは、本当にここから見て良いのか?
どことなく犯罪臭がするのは、気の所為ではないだろう。
「アリーナも良く見えてしまうな」
試しに片手で使える望遠鏡を手に覗いてみれば、クラス対抗戦が行われるアリーナの様子が問題なくしっかりと見える。
もうすぐ開始なのだろう。観客席の前列に生徒達が並んでいる……教師陣は見当たらないな。
確か放送機器などが置いてある管制室があったな。ここからは見えない位置だから確認はできないが、おそらくそっちか。
……あれだな。悪いとは思う。覗き見に抵抗がないわけではない。わけではないが、今回は轡木さんの厚意に甘えさせてもらおう。ん、そうしよう。
「さて、あれが織斑一夏と白式。そして凰鈴音と甲龍か。使用IS名ぐらいしか閲覧できなかったが……思っていたより甲龍はゴツいな。あの両肩付近で浮いている物のせいか?」
飾り……ではなさそうだな。砲口のようなモノが見える。武器か……BT兵器のようなものか?
そして両刃の薙刀。あの両肩の武装の射程、射角は分からんが、中近距離ある程度は対応していると考えていいだろうな。
ブルー・ティアーズの様なロングレンジを含む射撃特化というわけではなさそうだが……凰鈴音の戦闘技術がどれほどか、それを織斑一夏が捌ききれるか見ものだ。
――
―
「ほぉ……薙刀は二刀流にもなるのか。それに、想像していたより弟君はよく動く」
遠くに聞こえた開始の合図であろうブザーの後に行われた数回の攻防と競り合いを見る限り、俺が想像していたよりもいい戦いになっている。
接近戦だけでも凰鈴音の方に分があるかと思ったが、そんな事はなさそうだ――ん? 爆発? それも連続。そんな攻撃は……いや、両肩の武装が少し形状を変えているな。
なるほど、まだ確証があるわけでもないが、あの甲龍の両肩は不可視の攻撃をする武装か。
「対応が早いな」
対する織斑一夏はその不可視の攻撃をちゃんと避けている。掠ったり動きに若干迷いがあるのは、フェイクまでは見切れていないが、直撃は避けられている感じか?
直感だけで回避している様子ではないな。んー……織斑一夏の視線が凰鈴音を見ているとなると、その場に発生する攻撃ではなく何かを撃ち出していると考えるのが妥当か。
そしてあの兵器は凰鈴音に連動して向きを変えているだけで、それ以外の動きがほぼない所を見ると、それなりの射角がある。ただ織斑一夏の動き的に弾速は撃ち出されてから回避出来る程度、弾道は舞い上がった土煙から察するに直線的。
だが見てから回避するにしてもどうやって……。
「……あぁ、ハイパーセンサーの空間の歪みと大気の流れを探る機能を使っているのか」
不可視といえど撃ち出している事に変わりはないのであれば、確かに空気の流れで予測は可能だ。
肉眼で見えないのは脅威だが、ハイパーセンサーの存在がある以上、IS同士となれば対策されていた時を考えて不意打ちか近接戦闘に織り交ぜるのが有効的か。
凰鈴音が理解していないとは思えんが、そうなるとあの戦い方は慢心か油断の現れか。蟻一匹にも足元を掬われる事があると考えたほうがいい……というのは少し酷だな。
それにこのまま行けばジリ貧で織斑一夏が負けるだろう。なまじ勘と反応が良い分、全てに対応しようとしてフェイクに釣られ被弾している部分も大きそうだ。
しかしあれだな、近接戦闘しかできないのかは知らないが、それでも機転と勘の良さ、一ヶ月足らずであそこまで動けるとは……成長が楽しみで織斑先生がさっさと経験を積ませたい気持ちも分からんでもない。
だが、今はまだ経験不足だ。逆転の手立てがないならここまでだな。
「――? なんだ?」
変な視線の様なモノを感じて試合から視線を外し見上げれば、アリーナの真上……太陽の光でハッキリとは見れないが何かが居る。
人型……IS? 何故あんな所に。対抗戦の撮影でもしている教師か? っと、束さん専用に電話だ。
「はい、こちらストーム1」
『スー君、ごめん、束さんのミスの尻拭いしてくれないかな』
「時間が無さそうだな。内容は?」
『少し前に取引で試作型の無人機用ISコアを渡したんだけど、そのISの反応が学園にあるの。今こっちから停止命令を送ってはみてるんだけど反応がなくて、これ以上の強制干渉は時間が足りないからその無人機を完全破壊してほしい』
なるほど、おそらくあの上空のがそうか。静観している理由が分からんがここから撃ち落――遅かったな。
「先手を取られた。以後連絡はパワードスーツの方に繋げてくれ」
電話を切りながら即座に装備を整え、落下防止の手すりを超えて落下中にパワードスーツを纏う。
しかし飛び出したはいいが……アリーナまで地味に距離がある。避難状況が分からん以上、壁を破る訳にもいかない……となると中に入るのには最低でも十五秒は掛かるな。
それにしても、二撃目を撃たずにアリーナに降りたのは交戦目的か? 何にせよ急ごう。
『スー君? 聞こえる?』
「無人機と思われるISがアリーナのシールドに穴を開けて中へ突入、おそらく対抗戦をしていた織斑一夏と凰鈴音が無人機と交戦を開始。観戦していた生徒達が出てこない所を見ると避難できていないようだが何故か分かるか?」
『少しだけ待って調べてみる』
「ならその間に無人機の情報を」
『渡した時に見せられた資料では両肩にビーム砲口が一つずつ。長い腕の手首辺りに同系統の低出力ビーム砲口が一つずつで計四つ。それとスラスターの出力をかなり上げようとしてたから、あのままなら稼働時間を犠牲に重武装だけど高速移動主体のISになってると思う』
一瞬見えた特徴と大体合致するな。
「落下速度から見てもおそらくはそのままだろう。アリーナのシールドを貫いていたが、あの兵器は速射可能か?」
『あのスペックでアリーナのシールドを貫通したなら……最低でも五秒ぐらいのチャージは必要だと思う。スー君、生徒達が避難できてないのは、緊急防壁が閉まって出られないみたい。学園側がシステム制御を奪われていて開錠ができない状況だね』
なるほど。であれば、シールドの機能が生きていたらひと手間掛かるが、やはり上から入るか。
それにしてもセキュリティがハリボテなんて事はないはずなんだがな……相手が一枚上手だと思いたいところだ。
「そのロックは束さんの方で解除できそうか?」
『無人機任せていいなら四十秒掛からないかな』
「頼もしいな」
さてアリーナの上に移動はできたが、無人機が突入した穴は塞がっているな。シールドの修復機能はまだ生きているか。
中の様子は……レーダーで見る限り未だに二人は交戦中。まだ生きている様で何よりだ。
だがここから先は流石に……退いてもらうとしよう。
「交戦中の二人をピットまででいい、退かせたい。こちらで呼びかけするのは構わんが、まだバレるのは避けたほうがいいのだろう?」
『うん。いっくん達の事は、緊急防壁開ける事も加えて今からちーちゃんに連絡する』
「ではそちらは任せた。撤退を確認してから交戦を開始するつもりだが、遅くても通信終了から三十秒後には問答無用で乱入する」
『……ごめんね』
「気にするなと言っても無理だろう。後で束さんの気が済むまで謝罪を聞かせてもらうとする。では――通信終了」
◇◆
『速いし硬い! くっ!』
『鈴!』
『大丈夫だから敵に集中しなさい!』
『ぐッ――!』
突如アリーナのシールドを撃ち抜いて乱入してきたのは、深い灰色をした全身装甲のIS。
緊急事態と判断して撤退を考えた織斑一夏と凰鈴音は、観戦していた生徒達がトラブルにより避難ができずに居ると知り、自分達が時間稼ぎもしくは所属不明ISの制圧を行おうとしていたのだが、時間稼ぎこそ出来ているものの思うように攻められていない。
それに加えクラス対抗戦の途中であった事もあり二人のISは万全ではなく、シールドを貫いたという事実がより一層あの攻撃を食らうわけには行かないという焦りを生み、小さな被弾が増え始めていた。
「一夏!」
「一夏さん!」
「織斑先生! 織斑くんが!」
「狼狽えるな。直撃はしていない」
その様子を管制室で見ていた篠ノ之箒やセシリア・オルコット、教師である山田真耶が焦りを含んだ声をあげた。
同じく管制室にて様子を見ている織斑千冬も、教師陣の到着には時間が掛かると判断し、苦肉の策として二人に戦闘許可を出しはした……が、口調や表情が語っているほど内心は冷静ではない。現在も頭の中では何か手はないかと思考し続けている。
そんな状況の中、本来マナー設定で鳴るはずのない織斑千冬の電話の着信音が響いた。
「チッ――何のようだ」
織斑千冬は画面を一度確認すると、集まった視線など気にせずに、苛ついた舌打ちと共に心底機嫌の悪そうな声で電話に出る。
「何? ――分かった。今は従ってやるが後で説明しろ。はぁ……山田先生、一夏……織斑と凰に通信を繋いで下さい」
「えっ、は、はい! さっきから繋ぎっぱなしなので、すぐにでも通信できます!」
隠すこともせず大きなため息をついた織斑千冬は、苛立ちこそそのままだが、どこか安堵を含んだ声で場所を開けた山田真耶に一言礼を告げてマイクのスイッチを入れた。
「織斑だ。状況が変わる、二人とも交戦を中止して至急ピットへ撤退しろ」
『千冬姉!? まだ観客席に皆が居る! もしかしてもう他の先生達が!』
「防壁はあと五秒もすれば開いて避難は始まるだろう。他の教師はまだ到着しないが、いいからさっさと撤退しろ」
『だったら俺等で皆の避難が終わるまで時間を稼ぐ!』
『そうよ! それなら私達が「命令だ。至急ピットへ撤退しろ。おそらくだが、ここから先、お前達は邪魔だ」――!! もう一機く――――――は?』
管制室に居てもその振動と爆音が伝わり、パニックになっていた生徒達ですら声を失う。唯一通信越しに聞こえた凰鈴音の理解を拒否したような声は、その場に居た全員の代弁でもあった。
アリーナのシールドの上に降り立った漆黒のソレは両手に巨大なハンマーを一本ずつ握っていた。
一瞬、織斑一夏と凰鈴音の方を見たソレは、片方のハンマーを振り上げシールドを叩いた――瞬間、アリーナのシールドは全ての音をかき消す爆音と共に、その半分以上が消滅した。
『な、な、なんなのよ!』
『わかんねぇけどヤバそうなのは分かる! 下がるぞ鈴!』
やっと思考が戻ってきた織斑一夏と凰鈴音の二人は、吹き抜けてくる熱風と体の内に残る振動への恐怖に留まるという選択肢は生まれず全力でピットへと移動する。
それでも先程まで戦闘していた所属不明のISの動きが気になり、二人がハイパーセンサーを使って様子を伺えば、そのISは両腕を爆煙へと向けビーム弾を乱射していた。
それなら……とビーム弾の後を追って爆煙の様子を見れば、先程の漆黒のソレはビーム弾が弾かれる様な音と共に回転をしながら煙の中から姿を現し、アリーナのシールドを破壊した方とは別のハンマーがビーム弾を打ち返すように振り抜かれると同時にまたあの爆音が響き、爆煙が立ち込める。
『耳がおかしくなりそうだ! 千冬姉ぇ! 一体アレは何なんだよ!』
「織斑先生と呼べ……ヤツに関しては私にも分からん。分かるのは、敵ではないという事だ」
『敵じゃないって、どうしてそれが分かるんだよ!』
弟からの問いに織斑千冬は、少し後ろで映像を見ながら驚き声を失っている篠ノ之箒を一瞥して、眉間に寄ったシワを解しながらハッキリと答えた。
「納得させる為に教える。口外は絶対にするな。聞いたら専用機持ちは避難誘導に移れ。はぁ……アレは……束が寄越した増援だ」
『「「え?」」』『は?』
「……姉さんが? それはどういう」
「これ以上言える事は今はない。織斑、凰、オルコットは呆然としてる生徒共を誘導しろ……もう必要はないかもしれんがな。篠ノ之は残れ、後で束から連絡があるかもしれん。山田先生は向かってきている教師達に出てくる生徒の誘導を頼んで下さい」
「わ、わかりました。連絡します」
「お前達も理解したら行動しろ! 知りたければ後で聞きに来い!」
織斑千冬がパンパン!と大きく二回手を叩けば、既に連絡をし始めていた山田真耶を除いた他の三人はハッとして返事をしながら動き始めていく。
一人残る様に言われた篠ノ之箒は、思い詰めた表情のまま渋々と映像へ視線を戻し、また驚きに目を見開いた。それは教師達に連絡をしていた山田真耶も同じだった。
地上に降り立った漆黒に向けていた所属不明機の長い腕の片方が千切れ飛んだ事にも驚きはしたが、何よりその断面は配線のみで人らしい部分が見当たらない事に二人は一つの仮説が浮かぶ。
そしてその答え合わせは、すぐに行われた。
漆黒のソレが握っていたハンマーは影もなく、片手にはまるで棘だらけの厳つい何かが握られ、もう片手には何も握られていないが肩付近から砲身が伸びている。
対峙していた所属不明機は、片腕が千切れた事で危険を察知したのか、スラスターで即座に距離を取った――が、その動きに合わせて漆黒が二回のスラスターによる加速で距離を詰め、漆黒の動いた跡を描くかのように厳ついソレから硝煙の様な煙が二回出たと思えば、所属不明機の片足と残っていた片腕が千切れ消し飛んだ。
そこに血の様な液体は噴き出すものの、残る部分や見える部分に人間的要素は一切見当たらない。
「一体何が起きている……」
篠ノ之箒が思わず声を漏らしてしまうのも仕方がない。言葉にこそしないが、山田真耶も同じ感覚を味わっている。
この中で何が起きているか正確に理解できているのは織斑千冬ぐらいだろう。
所属不明機――篠ノ之束から聞かされた情報では無人機のISが下がった瞬間に
更にもう一度瞬時加速もどきを行い、同時に再度射出された刃付き小型ハンマーが片足を削り消し飛ばしたことが見えたのは。
そして無人機が空へと逃げようと体勢を整えた瞬間に、待っていたとばかりに先に連続した瞬時加速もどきで上昇、加えて直角移動を行い、その一連の流れの間で無人機の頭部を吹き飛ばしたことが漆黒の想定通りだという事も理解できたのは織斑千冬ぐらいだろう。
「終わりだな。山田先生、マイクをアリーナ全体放送に切り替えてください。それとアリーナのシールドを一旦オフに」
「わ、わかりました」
突然話しかけられてビクッと体を震わした山田真耶は、まだ戦いは終わっていない、何故アリーナのシールドを……と色々考えながらも言われた通りにマイクの切り替えとシールド機能を停止するための操作をしていく。
ただ視線は何度もアリーナを映し出している画面へと向けられ、なんとなくではあるが山田真耶も終わったと感じた。
何故なら、頭部が吹き飛んだ反動で仰け反った状態から更に残っていた片足も消し飛び、真上を取った漆黒が瞬時加速を加えた落下速度を乗せて、棘の付いた兵器を握る腕を振りかぶりつつ、肩付近の砲身が妖しく輝き始めているから。
何が起こるかは分からない。だが――終わった。
安堵が生まれた山田真耶が操作に集中しようと視線を外すと同時にアリーナでは、仰向けで五体を全て失った無人機の腹部に撃ち出すではなく、振り抜きめり込ませられた刃付き小型ハンマーがそのまま胴を貫通して無人機を縫い付けていた。
そして漆黒のソレは、既に停止して動く様子を見せない無人機に対して容赦なく肩付近の妖しく光る砲身からレーザーを放ち――数秒と掛からずその一切を消し炭にした。
『現時刻を持って脅威の排除を確認した。生徒達はそのまま教師の誘導に従い移動。点検の為にアリーナのシールドは停止、それに伴い第二アリーナは一時利用禁止とする。避難時に忘れ物が合った場合などは、教師に報告してアリーナ内には入らないように。繰り返す――』
そんな織斑千冬による放送が響けば、一瞬だけ武器を切り替えた漆黒のソレは空を見上げ、ブースターで飛び上がったかと思えば、シールドの有無を確認するためか刃付き小型ハンマーを空に向けて一度硝煙を散らすと、そのまま数回の瞬時加速もどきをしてアリーナの外へと消えていった。
ストーム1はなるべく人目につかぬように全力でアリーナから離れて雑木林に入ったあとに、パワードスーツを待機状態に戻して何食わぬ顔で清掃道具を取りに戻りました。
IS学園のあの何か中央ぐらいにある建造物って実際何なんでしょうね。
ただのオブジェクトかもしれませんが、とりあえず此処ではこんな感じでお願いします。
今回の装備
装備1左手:ボルケーン・ハンマーZD
装備1右手:ボルケーン・ハンマーZD
装備2左手:マキシマム ディスラプター
装備2右手:スパインドライバーMA
補助装備:アドブースター5
補助装備:ダッシュセル5
今回ストーム1は、予定ではニ発で割ろうと思っていたので、ボルケン一発でシールドが半壊してちょっと困惑しました。
誤字報告、感想等々ありがとうございます。