引きずられてきた織斑一夏が目を覚ますまでに……と思って話を聞いてみれば、何でも学園では対抗戦乱入事件を過去にする勢いで新しい噂が流行り始めたらしい。
学園側としては早々に鎮火してきて良かったと考えているだろうが、広まった噂は俺と織斑先生が恋愛関係にあると言うもので、今日一日織斑先生は奇異の目で見られ続けたという。
まぁ、乱入の噂が消えるメリットもあり、それだけなら織斑先生的にも時期を見て否定すればいいと思っていた矢先……その出処が自身の弟という事を耳にして確認しに行ってみれば、「千冬姉ぇに相応しいか見極めねば……」と休み時間の度に神妙な顔つきをしている事を篠ノ之箒達から聞かされたんだとか。
そして何を考えたか俺の所まで引きずってきたと。
「大体の事情は理解したが、そこから俺が訓練をつけるという話に何故繋がる。弟君達はIS操縦者で俺はただの用務員。出来ることは無いと思うが」
「ただの用務員? 更識相手にあそこまでしておいてよく言う。とぼけても遅かれ早かれそこからバレるぞ」
そう仕向けたのは織斑先生では? と返しても意味はないか。だが実際問題、更識楯無の時とは理由が違う。
向こうは不信感や調査の結果であり警戒と確認の意味合いがあるが、今回はそういうわけではないだろうに。いっても姉思いの弟程度でしかないだろう。
「仮にただの用務員という言葉を下げたところで、俺が訓練をつける流れになるとは思えん」
「バカを晒し垂れ流した折檻が三割だ」
「残りの七割は」
「いつでもISが使えるとは限らん。一夏は特にISを使わない対人戦を学んでいて損はない」
なるほど……織斑一夏の事情を考えればそれは納得できるな。
だが一つ織斑先生は勘違いをしている。
「俺は対人専門ではない」
「できんことはないだろう? 対人も訓練も」
「……否定はせん」
気性の荒い隊員を相手にすることもあれば、生き残らせる為に相応の訓練と指導をした事もある。おそらく束さんから俺の話を聞いた結果、それが可能だと判断したんだろう。
そして織斑先生は戦闘経験を積ませたがっている。最低でも自身を守れる程度を望んでいる。適任ではないが経験を積ませる意味合い……そう考えれば、まぁ、些か無理矢理過ぎるが理由も分からんでもない。
ただ何をそんなに急いでいるのか。
「俺に頼んでまで急ぎ経験を積まなければならない理由は……この場では言い辛いか」
「あぁ」
織斑先生が向ける視線の先では、既に起きているにも関わらず狸寝入りをしている織斑一夏と、こちらの様子を伺いながらも狸寝入りに気付かず心配そうにワチャワチャと言い合っている三人。
織斑一夏達には聞かれたくないとなれば亡国機業か、また別の組織が動き始めたのを掴んだか?
なら本人にも伝えれば……いや、そういえば、こちらもこちらで弟思いだったな。不安にさせない為にも、今は言いたくないと考えているのか。
良し悪しはさておき、分からん配慮でもないか。はぁ……人に教えるのは苦手なんだがな。
「前提として俺は対人が苦手だ。武術やらの心得はなく、故に稽古などはつけられん。それに学生の本分もあるだろう? 短期的なモノはできん。優しい訓練も知らん。加えて続けるかどうかは本人に委ねる。それでも良いと言うのであれば、俺に出来ることはしよう」
「それで構わない。ストームから何を得るか、何も得ないかは自己責任でいい」
「だそうだ。織斑一夏君がそれでいいというのであれば、今から始めるがどうする」
「お願いします!!」
目を開けて元気に答えた織斑一夏。そして顔を近づけていたせいか驚き顔で固まっている三人を他所に軽く周囲を見渡せば、今日の晩はお好み焼きにでもしようと用意していたホットプレート用の長方形の蓋。
それを手にとって軽く叩くと。厚みのあるものではないが金属のいい音がする。
「得物なら用意しているぞ」
俺の行動で何をしていたか察した様子の織斑先生は、随分と大きいバッグのチャックを開けて中から色々と取り出して畳の上に並べ始めた。
大小様々な木刀、ヌンチャク、組み立て式の薙刀と槍、同じく組み立て式の銃が数種――小袋の中には、それ用のであろう弾。この触感、非殺傷ゴム弾か。初めて見るタイプだな。
他には……刃引きされている剣に、この形状はパイレーツカトラスだったか? こっちは……分銅鎖? あれはカタールとかいうやつか。刃引きされてるとはいえ実物は初めて見たな。
しかし織斑先生からの提案であり、更識楯無生徒会長の時の流れからして、どうせ先に一戦させられるのだろうと予想はしていたが……これはなんとも。
「なんというか、随分と色々持ってきたな」
蓋を置いて生徒四人と一緒になり細かく見ていくが、加減次第では普通に事故が起きそうなモノが多々あるのは、織斑先生の信頼の証ぐらいに捉えておくべきか?
まぁ、実際俺の方に問題はない。それに俺から攻める気はない以上、素手でも構わんのにこの辺りの得物はどれも不要だな。やはり蓋が丁度いい。
「これだけで構わん。織斑一夏君は好きなものを使うといい」
「え、でもにいさ――ストームさんは? そんな蓋で?」
「必要だと思えば何か使わせてもらう。素手でも構わんが、織斑一夏君はアレだろう? 素手相手には躊躇いが出るタイプだろう?」
「まぁ……確かに。でも蓋もあんまり変わらないっていうか」
「挑発が必要か? ならば敢えて言うが、俺はこの程度でいいと判断している。正直これでも過剰だとすら思っている」
「……後悔しないでくださいよ」
分かりやすいな。
感情を表に出すのも、素直なのも、真っ直ぐであることも良いとは思うが……それで実力が出せないというのであれば、まずは切り替えできるように教えるべきか?
「ストームさん! アタシも訓練参加していい?」
改めて蓋を手に取り、既に移動して木刀で素振りを始め気十分な織斑一夏の元へ向かおうすると、もう薙刀を握り答えを聞く気があるのか分からん凰鈴音がキラキラとした目でそんな事を言ってきた。
ふと視線を篠ノ之箒とセシリア・オルコットにも向けてみれば、武器と俺を交互に見ながら何か言いたげな様子。
そしてそんな様子を澄まし顔で寛ぎながら眺めている織斑先生。
あー……そういえば最初にバカ
後で一々止められても時間が掛かるだけなら、まとめた方が手っ取り早いな。
「構わない。他の二人も参加したければ参加しても構わん。だがそうだな……各自の動きをある程度理解できるか?」
少し考える素振りは見せたものの、全員頷いたのであれば問題はないか。
門限まで三時間程度。
「織斑先生、ルールと審判は任せる。時間は……門限ギリギリまでというのもな。開始後二十分で終了としよう」
「いいだろう」
「では始めよう。四人全員で、全力でかかってくるといい」
◇◆
「ルールの確認だ。ストームは私が負傷する攻撃を受けたと判断したらその部位は使うな。織斑達の制約は無い。動けなくなるようであれば私が回収、その時点でリタイアぐらいだ。後は基本時間いっぱいまで行う。勝敗条件が欲しいのであれば、ストームを行動不能にしてみせろ」
織斑千冬の言葉に一対四の構図で向かい合う全員が頷きはしたものの、発する空気は違いを見せていた。
四人全員で――その言葉は四人にとっては煽りと同義であり、何より織斑千冬がそれを認めているという事実に悔しさすら覚えている。
そして告げられたルールは、明らかに不釣り合いなもの。
「正直、織斑先生が認めてらっしゃるとしても納得いきませんわ」
「アンタと意見が合うのは癪だけど同意見ね。ストームさんはいい人だと思うけど、IS無しとはいえ四人同時は少しアタシ達を舐めすぎ」
「だけど油断はできないぞ。千冬姉ぇがその実力を認めてる相手ってのは確かなんだ」
組み立てたライフルの確認をしながら率直に不満を漏らすセシリア・オルコットの横では、木製の薙刀を軽く振り回し感覚を調整している凰鈴音。そして同じく木刀で軽い素振りをしている織斑一夏。
そう三人がそう言い合っている中、篠ノ之箒は悔しさや不満こそあれどソレを口にする事ができずに居た。
現状で一番ISでの戦闘時間が短いからこそなのか、四人の中で一番正確にストーム1の実力を汲み取れてしまい、果たして四人で挑んでも勝てるのか? という不安すら浮かび、木刀を握る手に力が入ってしまう。
「箒? 大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ。だが一夏の言う通り、千冬さんが認めている以上はこっちが舐めて掛かるわけにはいかないと思ってな」
「箒から見てもやっぱり強そうか?」
「ハッキリ言って底が見えない。悔しいが、私一人では相手にはならな――ッ!」
四人は突然体が重くなった気がした。
押さえつけられるような圧。その出処は、ホットプレートの蓋を盾の様に構えているストーム1。
「勘違いさせないよう最初に言っておく。君達に重症を負わせない様に最低限の加減はする。だが、侮りはしない。だからと言うわけではないが――君達の全力が見れる事を願っている」
更に増した重圧に、四人は声を失う。
無意識に背筋が伸び、余裕だったはずの思考が塗りつぶされ、冷や汗が肌を撫でていく感覚が嫌に気持ちを焦らせていく中、なんとか息を吸い込みそれぞれが武器を構えた。
「ふぅー……まず俺がいく。セシリアは援護を頼む。箒と鈴は隙をついてくれ」
「わかりましたわ。お任せください!」
「……できればな」
「ちゃんと隙を作りなさいよ!」
自然と四人はひし形を描く様に移動してストーム1と視線を交わす。
たったそれだけで体が強張り、再度息が詰まりそうになる中――織斑千冬の開始の合図が響く。
「始め!!」
「うぉぉぉ!!」
合図と同時に雄叫びを上げ、木刀を握りしめ駆け出した織斑一夏。その脇を抜ける様にセシリア・オルコットは蓋に目掛け一発、膝に向け一発、額に向けて一発の計三発分の引き金を引く。
そして両サイドを挟む様に駆け出した凰鈴音と篠ノ之箒。
「はぁ!?」「ッ!?」
「え? うわっ!」「そんな……」
悪くは無いであろう初手――だが、ソレは流れる様に行われた。
何かしらの隙。どれかの攻撃は当たるだろうと思っていた四人は、何が起きたのか理解するまでに少しの時間を要し、そして、可能なのか? と思いながらも実際にされた事をやっと漠然と理解する。
頭を膝を狙った弾は冷静に半身をずらす事で避けられ、蓋を狙った弾は取手のある面で払う様にして弾き返された。
そして弾き返された弾は横から攻めようとしていた凰鈴音へと迫り、凰鈴音が驚き避けようとしている合間に一足先に辿り着いてしまった篠ノ之箒は手首を掴まれる。
更にそれが隙だと思い、木刀を振り下ろした織斑一夏は、下から振り上げられた蓋に防がれただけに留まらず、予想もしてなかった凄まじい衝撃に手から木刀を離してしまい、次の瞬間には軽々と投げ飛ばされた篠ノ之箒に巻き込まれる形でセシリア・オルコットの元へと戻された。
織斑一夏と篠ノ之箒の二人が飛ばされても尚、自分に向かってきた弾を避け、再度踏み込んで距離を詰め突きを行った凰鈴音だったが、腕が伸び切る瞬間――ストーム1と穂先の間に滑り込んできた蓋に触れたと思えば、腕に耐えきれない衝撃が駆け抜け、逆に石打の部分が自身の鳩尾を穿ち、そのまま滑る様にセシリア・オルコット達の場所へと戻される。
そして――
「次」
――ストーム1から何事も無かったかのように淡々と告げられた一言。同時に感じる圧倒的な存在感に四人は恐怖した。
即興の連携にしては悪くはなかったはず。
数でも勝っている。
相手はホットプレートの蓋とかいうふざけたモノしか持っていない。
自分達も本気じゃない。
などと思っては消え、そんな考えが浮かんでしまう度に悔しさと情けなさが四人を襲う。
「くそっ! うおおぉぉぉぉ!!」
「一夏! くっ――二人とも私達は蓋を封じるぞ!」
「あぁもう! やってやるわよ!」
「次は落としてみせますわ!」
そんな自分に嫌気が差したのか、声を張り上げることで恐怖を振り払い、落ちていた木刀を握り直して一人先行する織斑一夏に残りの三人も慌てて動き出す。
最初に動いたのは凰鈴音。
反応が遅れ、今から動いても先に織斑一夏がストーム1の元へ着くと考えた凰鈴音は、薙刀を蓋へ向けて投擲。
次に意図を察した篠ノ之箒が投擲された薙刀の後ろを追従するように駆け、残るセシリア・オルコットは静かに狙いを澄ます。
「――! 箒!」
「合わせろ一夏!」
「あぁ!!」
織斑一夏が視界の横を抜けていく薙刀に気付くと同時に隣に並んだ篠ノ之箒。一言だけの掛け合いで意思疎通を終えると、投擲された薙刀を蓋で叩き落したストーム1との距離を一気に詰める。
そして薙刀を叩き落した状態で少し下に傾いている蓋に、篠ノ之箒は下段から逆袈裟斬りを振り抜こうとし、ほぼ同時に織斑一夏は姿勢を低くして更に一歩踏み込んだ距離で篠ノ之箒とは逆の位置から逆袈裟斬りを振り抜く。
更にその僅かな隙間を狙い、セシリア・オルコットの弾丸が蓋を握るストーム1の手首へと迫った――だが。
「次だ」
――それでもストーム1には届かない。
面で防いだ攻撃は投擲された薙刀のみ。
篠ノ之箒と織斑一夏の逆袈裟斬りは、一拍遅れて横に滑らせるように割り込んできた蓋の縁に当たりそらされ、セシリア・オルコットの弾丸をその流れで斬り飛ばす様に防ぎ、息を殺し接近して薙刀を拾った上で後ろに回り込んだ凰鈴音の攻撃でさえ見切り、蓋の縁で弾き返す。
加えて弾き返した薙刀の柄を掴み、薙刀を手放していない凰鈴音、そして織斑一夏と篠ノ之箒もろとも巻き込みセシリア・オルコットの元へと吹き飛ばした。
――今度はやったと思った。
――まずは一撃と考えた。
――狙い通りのタイミングで勝機を見た。
――もしもを考えて奇襲を仕掛けた。
四人は次を考えた。だがそもそもがストーム1には届かず、その上で焦りすら無く、ただ淡々と一言のみが返ってくる。
何がダメだったのか……先行した事が悪かったのか、投擲をした事が悪かったのか、逆袈裟斬りではなく斬り上げるべきだったのか、横に振り抜くべきだったのか、蓋を落とそうとするのではなく頭を狙うべきだったのか。
ぐるぐると考えが巡るものの、巡れば巡るほど四人はストーム1と差を押し付けられる。
「……まだ五分も経っていない。今はがむしゃらでも構わん。全員でとは言ったがローテーションで攻めても構わん。この戦いで君達が死ぬ事はない。後先を考える必要はない。全力で、思いつく限りの全てでかかってくるといい」
うつむいたまま顔を上げられない四人へ向けられた言葉に寄り添うような優しさはない。だが同時に呆れや蔑みもなく、不思議と四人の気持ちと思考は落ち着いていく。
そして四人は今一度立ち上がり、しっかりとストーム1を見据えた。
「まだやれるな? 皆!」
「あぁ!」「当然!」「もちろんですわ!」
「まずは一撃!! いくぞ!」
二十分後。
重症こそ無いものの、何度も飛ばされ、転がされ、擦り傷や服が破けながらも様々な方法で思いつく限りで攻めた四人は……息も絶え絶え、疲労困憊。畳の上で並んで横になっていた。
「「「「……」」」」
喋る余力すら無い四人に対し、織斑千冬による終了の声と共に崩れ落ちた四人を畳の上まで運んだストーム1は、傷ひとつ無く息一つ乱れずに散らばったゴム弾などの掃除をしている。
その様子を眺めながら一番最初に口を開いたのは織斑千冬。
「ストーム、この後はどうする」
「特別する事はない。今後ということであればスタミナ作りだ。五キロのランニング、一キロ辺り五分、プラスマイナス三秒以内を日課。土曜日はその後に俺と三十分程度の戦闘訓練をして、日曜日は日課を含め休み。個々の経過を見て色々と調整予定だが……まぁ、先程言ったように強制はしない。やるやらないは個人に任せる」
「確かに長期的だな。それぐらいで音を上げる程度ならそこまでか」
「わざわざ俺がせずとも織斑先生でもよかったとは思うがな」
「そう言うな。肩書と立場が邪魔で、あまり個を特別扱いするわけにもいかんのだ」
「まぁ、たまには様子を見に来ることだな。俺は俺の主観でしか評価ができん」
「では一応聞いておこうか。今回のストームから見た評価を」
粗方の掃除を終え、最後にベコベコになったホットプレートの蓋を、既に先客としてボロボロの鍋蓋が居る"武器箱"と雑に書かれたダンボールに投げ込んだストーム1は、その視線を四人へと向ける。
動く気力が無いとはいえ評価が気になる四人も顔を動かせば、先程までの様な圧は一切ない視線を向けてくるストーム1が数秒の沈黙の後にゆっくりと話し始めた。
「今言うのであれば、全体的にスタミナが足りない。いや……配分が悪いというのが正しいかもしれん。ISの性能がそうさせているのかもしれんが、無意識に高速戦闘になりがちだ。それだけならいいが、自身の範疇を超えた戦闘速度に思考も感覚も追いついていない。加えて戦闘速度を自分で調整して下げられない今の君達は継戦能力が低すぎる……というのが全体的な大体の評価だ」
個別の評価も必要か? とストーム1が聞けば、なんとか起き上がり座り直した四人は、真剣な表情で小さく頷き、その後ろでは満足そうな表情で織斑千冬が見ている。
どこか期待を含んでいる視線に、あー……と声を漏らしつつもストーム1は言葉を続けた。
「まずは織斑一夏君だが、駆け引きがなさすぎる……柔らかく言えば真っ直ぐ過ぎる。目の良さ、発想や機転、色々と評価できるセンスは確かにあるが一撃にすがり過ぎだと感じた。絶対的な一撃に自信を持っているのかもしれんが、それのせいで視野が狭くなるのでは話にならん。全てを必殺の一撃にする気なのであれば、技術的なものはとやかく言えんが足りていないモノが多すぎる」
静かに自分の手を見つめる織斑一夏の様子を見たストーム1は、視線を凰鈴音へを移す。
「次に凰鈴音さん。君は織斑一夏君とは逆だ。無理に駆け引きをしようとしすぎて無駄が多い。自分の中の順序から外れた時の対応が狭すぎる。フェイントを多く含むことが悪いとは言わんが、そのせいで狙いの攻撃すら中途半端になっている時が多々あったように思う。それと無意識かは知らんがフェイントと本命が明確すぎて分かりやすい。当てる気の無い攻撃でも当てるつもりでやるのを今は意識して馴染ませたほうが良いだろう」
「当てる気が無いのに当てる気で……?」
首を傾げながらブツブツと独り言を漏らし始めた凰鈴音を少し眺め、何かあれば聞いてくるだろうと考えたストーム1は、次は……とセシリア・オルコットへ目を向ける。
「セシリア・オルコットさんは、四人の中で一番緩急に弱い。今は共闘の経験が浅い、それと近接戦闘が苦手であろうことは置いておくとしても、射撃ペースが極端に連続して上下する状況になると判断が鈍るのではないか? 先程の戦闘でも誘導する為の射撃にすら戸惑いが見えた。まずは迷ったら焦らずに仕切り直すことを意識するといいだろう」
「あの……失礼ですが貴方は射撃の心得がおありで?」
「それなりだ」
「……わかりました。参考にさせていただきますわ」
それなり発言を聞いて笑いを堪えている織斑千冬はさておき、目を閉じて集中をし始めたセシリア・オルコットから、次は自分かと姿勢を正している篠ノ之箒へと視線を向けたストーム1は悩んだ様子で一向に口を開かない。
ストーム1の様子を不思議に思いながらも静かに待っていると、小さな溜め息を漏らしてから改めて篠ノ之箒を見る。
「上手く言葉が選べん。君を責めるつもりはないが、キツく聞こえるかもしれん。それでも聞くか?」
「お願いします」
「そうか……では言うが、今回だけでは篠ノ之箒さんの評価はできん。武器を振るうことを迷うならば戦闘訓練はしないほうがいい」
予想していなかった言葉に目を見開いたのは篠ノ之箒だけではなく、織斑一夏も驚き何か言おうとする。だがそれよりも先にストーム1は言葉を続けた。
「君もいい目を持っている。動きも悪い訳では無い。直線的なモノが多くはあったが、攻め時の見極めは四人の中で一番良かったと言える。総合では君が今は一番だと言える……だが、振り切る前に迷うのであれば無駄だ。生身の人間に振るうことを戸惑っている訳では無いことは分かる。だからといって直前まであった自信が迷いに変わる理由を聞く気もない。しかし、今後も訓練を続けるというのであれば、もう少し気持ちの整理をつけてからの方がいいだろう。今の状態で続けても君の糧にはならん」
「……それは、今のままでは強くなれないということですか?」
「君の言う強さが何かは知らんが、戦闘能力に関してであれば今のままでも強くはなれる」
「え?」
篠ノ之箒に心当たりはあった。それでも……と目をそらした問いかけの答えに、今度は表情だけではなく声まで漏れてしまう。
「驚くことはない。迷っていようが戦えはする。装備が上等なら埋まる差もある。迷ったままで勝つこともできる」
だが……と言葉を続けようとするストーム1は、四人を順に見ているはずなのにどこか遠い所を見ているようで。
見られている本人達は薄々そのことを察することはできるが、何を見ているかの理解はできないまま次の言葉を静かに待つ。
「いつかその迷いに殺される。武器が振れなくなる。仮にそのまま力を与えられ溺れれば、判断すらできぬまま致命的なミスをする。漠然と強くなりたいと願うならそれでもいいが、それすらも迷うようであれば武器は置くといい。隣に並ばずとも戦う術はある」
「…………一夏の隣では戦えないということですか」
「戦える戦えないではなく、今のままでは邪魔になる」
「ッ――! それは、私に専用機があれば「あったとしても変わらん」――そう、ですか」
今度はしっかりと篠ノ之箒をその目に映し、その上で断言したストーム1に他の三人は何も言えずに居た。
セシリア・オルコットと凰鈴音は苦い表情を浮かべ、織斑一夏も心配そうに篠ノ之箒を見て何か言葉をと探しはするものの出てこない。
そんな中でうつむき、膝に乗せた拳を震えるほどに握りしめている篠ノ之箒を見て、ストーム1は専用機という単語が出てきた理由を理解した。
「なるほど。劣等感と焦燥感か」
「なっ!? どう……して……」
「あー……年の功だ。のっぺらぼう相手に比べれば幾分も素直で分かりやすい」
篠ノ之箒の中にある迷いの正体に大凡の見当がついたストーム1は、そこに自ら触れる気もなければ口にするつもりも無かったのだが、静まり返っていた空気の中で小声でありながらも口にしてしまった言葉は本人へと届いた。
見抜かれたことに驚く篠ノ之箒に対し、当たり障りのない言葉で返すものの、今にも泣き出しそうな表情にどうしたものかと頭を悩ませる。
そして悩んだ末にストーム1は一つの提案をすることにした。
「これは四人に向けた提案だ。今後も俺の訓練を受けるというのであれば各自二週に一回、平日の日課終わり、学業に支障がない程度で尚且つ事前に希望していれば個別で見よう。その時の内容を俺から口外する事はない。もちろん強制はしないが……篠ノ之箒さん、最初の選択だ。希望するか?」
「あっ……えっと……」
「急に決めた事だ。もし希望するのであれば明日、夕食を食べた後にでも来るといい。以降は四人とも事前に織斑先生に希望してくれれば時間を作ろう」
「ん? 私にか」
「俺よりは顔を合わせる機会も多いだろう。それに、火消しをする時にも都合がいいと思うが」
「なるほどな。火消しに使えるかは置いておくが、確かにストームよりは顔を合わせる。それに任せきりというのも確かに悪いし、寮長としては居場所を把握しておくべきか」
オロオロとする篠ノ之箒を他所にストーム1と織斑千冬は淡々と話を進めていき、希望者受付に関してが決まると、織斑千冬は大きく手を叩き鳴らして話についていけていない四人の意識を向けさせた。
「確認としてもう一度言う。今後、ストームの個別指導を受けたい奴は事前に私に言え。いいな? 分かったら返事」
「「「「は、はい!!」」」」
「結構。お前達がどこまでやれるか見ものだな。ストームからは何かあるか?」
「そうだな……日課自体やるやらないは自由だが、やるのであれば全力疾走はしないように。先程も言ったように五キロの距離を一キロ辺り五分プラスマイナスは三秒以内が当面の目標だ。タイムがズレていても構わんから記録を取り戦闘訓練の時にでも俺に渡してほしい。後は――いや、以上だ」
「フッ……さて十分休んだな。さっさと帰るぞ。ストームは用事ができたようだ」
織斑千冬に追い立てられながらのそのそと出ていく五人を見送り、急に気配が現れた風呂場の方へと振り返りつつ視線を向ければ、そこには先程まで何も無かったはずなのに今はピョコンとメカうさ耳が飛び出していた。
「今夜はお好み焼きにする予定だ。二人とも食べるか?」
誰だと確認するわけでもなく、いつも通りのストーム1がメカうさ耳に向けて問いかけてみれば、迷う様子も無く篠ノ之束が飛び出してきて元気な一言。
その後から申し訳無さそうにしながらも小さく頷くクロエ。
「食べる―!!」
「是非」
「ではすぐに準備しよう。ホットプレートの準備を頼めるか? 蓋は気にしないでいい」
あいあいさー! と返事をした篠ノ之束とテーブルの上を片付け始めたクロエを横目に冷蔵庫から食材を取り出していると、先程よりは落ち着いた声で篠ノ之束が話しかけてくる。
「スーくん。箒ちゃんのこと、ありがとね」
「礼はいらん。それに妹さんはこれからだ。それでも礼をというのであれば、妹さんが成長できた時にでも褒めてあげるといい」
「……でも箒ちゃん、私のこと嫌ってるし、今更そんなことをしても喜ばないと思うよ? むしろもっと嫌われちゃうかも。そしたらスーくんが束さんを慰めてくれるかな?」
「慰め方を知らん。だが、そうだな……良く頑張ったぐらいは俺でも言えるだろう」
「頭なでなでも追加!」
「……考えておこう」
難しい表情を浮かべているのだろうと背中越しからでも分かる雰囲気のストーム1に、クスクスと笑いながらも小さく、本当に小さく篠ノ之束の口から礼の言葉が溢れた。
そんな様子を見ていたクロエが、どのタイミングで自分も訓練を頼めばいいか悩んでいたことをストーム1が知ったのは、食事を終えた後に篠ノ之束がメカうさ耳をガシャガシャ言わせながらストーム1のパワードスーツと言い合いをしている最中だったという。
今回の装備
装備1左手:なし
装備1右手:ホットプレートの蓋(新品)
装備2左手:なし
装備2右手:なし
補助装備:なし
補助装備:なし
ストーム1からのコメント
「逆反りの盾はやはり癖があるな」
又、武器箱ダンボールの中では盾蓋同盟なるものができたとかできなかったとか。
誤字脱字報告、感想等々ありがとうございます。