はい、こちらストーム1 ~IS編~   作:えるらるら

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半月ちょっと遅れの明けましておめでとうございます投稿です。


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「やはりここのショッピングモールはすごいな。コーティング剤の種類も豊富とは……ん、そろそろ時間か」

 

 もう少し見て回りたい気持ちもあるが、どうせ後で調味料の買い足しをする予定だ。続きはその時でもいいか。

 それにしても、ショッピングモールやアーケード街に足を運ぶと、目的以外にどうしても崩落の前兆や穴が無いか探してしまってやたら時間が掛かってしまうな。

 これも一種の職業病なのだろうか……とりあえず今は待ち合わせの時間が近い。織斑先生から楽しみにしているとも言われているし、遅刻はカッコもつかん。よそ見もそこそこに急ぐとしよう。

 

 しかしアレだ……似合っているかはさておき、意外とスーツも悪くないな。ツナギばかり着ているからか少し窮屈さはあるが新鮮な気分だ。

 それに、こういう時に悩む必要無く着れるのはいい。念のために買っておいた方がいいと教えてくれた轡木さんには感謝だな。

 

「おーい、聞こえてねぇの?」

 

「俺等と遊びに行かね?」

 

「超無視するじゃん。え、もしかして怖がってたりする? 俺達怖くないよー」

 

 待ち合わせ場所が近付くにつれ、随分と賑やかな集団が居るなと思っていたが……まさか絡まれているのが待ち合わせ相手とは。

 だが聞こえる内容から誰を相手にしているかは分かっていないようだな。有名人である事には違いないなずなのに、存外気付かれないものなのか。

 

「! ア゜ッ――スーくん!」

 

 とりあえず声を掛けるかと思い近付けば、それよりも先に気付いたのは待ち合わせ相手である――束さん。

 その装いはいつものメカうさ耳は無く、服もあのヒラヒラしたものとは違い白色を基調としたシンプルなモノで髪型も手が込んでいる。中々に新鮮だ。

 ただあの声、声? 音みたいなのはどこから出したのだろうか。

 

「すまない。待たせた」

 

「全然待ってないよ、いま来たとこー。んふふ、これ一度スーくんに言ってみたかったんだよね! あとあとスーくん、自分……写真いーっスか?」

 

「それは構わんが……」

 

 許可を出すやいなや、ロングスカートの裾から出てきた二個の球体と、バズーカのようなカメラを手に真剣な表情の束さんから凄い勢いの連射音が聞こえ始めた。いや、片方は録画か? 監視カメラと似た感じがしている。

 まぁ、それは別にいい。

 

「「「……」」」「……」

 

 なにせ束さんをナンパしていたであろう三人組からの視線の方が痛い。

 聞こえてきた内容から察するに、束さんは完全無視を決め込んでいた所に俺とのやり取りに発展したのだろう。

 どれほど無視をしていたかは分からんが、一瞥すら無く駆け寄っていく束さんの様子に三人組は唖然としてから気まずそうな表情でこちらを見てきているとなると……早々にこの場から去りたいと判断していいか。

 荒事に持ち込むつもりなら、既に俺にも絡んできそうなものだ。

 

「あー……彼女は少しばかり人見知り、いや、恥ずかしがり……少しばかり変わり者でな。急用があるのなら俺が話を聞こう」

 

「あ、いや、その、連れがいるとは思わずハイ。大丈夫ッス」

 

「そうか。ではむしろ引き止めてしまっているな。後はこちらで面倒を見るから、行ってくれても大丈夫だ。手間を取らせたようですまない」

 

「そんな全然! じゃ、じゃあ自分たちはコレで!」

 

「あぁ。君達が良い人で良かった。ありがとう」

 

 逃げるように去っていく三人組を見送っている間も束さんは真剣な表情のまま色んなアングルから写真を撮っているが……そろそろ止めるか。

 もうすぐ二十時。予約は二十時半、ショッピングモールに来る前に事前に足を運んだ感じからすると、ここからならゆっくり歩いても二十分ぐらいだな。

 

「そろそろ良いか?」

 

「ふいー、バッチリ! ありがと、満足、大満足だよスーくん! あ、そういえばちーちゃんは遅れてくるって」

 

「今朝に本人から連絡があった。明日の準備が少しあるから先に行っていてくれとのことだ」

 

「あ、アハハ~。そ、そういえばスーくん、せっかくのちーちゃんとの食事に私も一緒で良かったの?」

 

「ん? あぁ、織斑先生からの提案でな。頻りに"ついでだ、ついで"と言っていたが、あれは照れ隠しだったのだろうか……ともあれ、俺もいつかは食事に誘おうとは思っていた所だ。今更だが、食事の誘いをしても問題ないか?」

 

「しょーがないなぁ~。スーくんからのお誘いなら断れないなぁ~」

 

「感謝する」

 

 ニヤついていそうな声のトーンと優しい笑みを浮かべている束さんは、ご機嫌な様子で鼻歌交じりに隣を歩いている。

 外へと向かいながら周囲を観察すれば、休日という事もあってか人もそれなり。家族連れや若者達の笑い声も聞こえてくる。

 他にも急いでいるのか走っている者も居れば、ベンチに座ってぼーっとしている者もいる。不機嫌そうに悪態をついている者も居れば、商品を手に取り険しい顔で見比べている者もいる。

 

 まだ慣れはしないが、こういう騒がしさも悪くない。

 

 

 

――

 

 

 

「待たせたな。思っていたより用事が長引いて……先に食事をしていても構わないと伝えていたが、潰れるまで飲めとは言っていなかったはずなんだがな」

 

「今日のために認識阻害装置なるものを作っていて徹夜明けだったらしい。ワインを飲んだら寝てしまった。寝入る前に織斑先生が来たら起こしてくれと言っていたが」

 

「しばらく寝かせておけ。そんな安心したアホ面を眺めないのは勿体ない。何より起きたら騒がしくて敵わん、一本ぐらいゆっくり空けてからでもいいだろう」

 

「判断は任せるが、拗ねられても俺にできることは無いぞ」

 

「ククッ、そうでもないと思うが、ストームに免じて半分ぐらいで勘弁してやるか」

 

 個室に入ってきた織斑先生にメニューを差し出せば、ジャケットとカバンを置いて笑いを堪えながら受け取り束さんの向かいに座り、円卓テーブルの中央にある球体に視線が止まり数秒して俺の方を見てくる。

 まぁ、明らかに浮いているよな。内装としても、物理的にも。

 

「それが認識阻害装置らしい。電子機器関連に束さんは束さんと記録されないと聞いた」

 

「遠回りで調べれば矛盾が発生してもおかしくなさそうな代物だな」

 

「その辺の調整も抜かりなく自信作とのことだ」

 

「既に指摘済みというわけか。食事は?」

 

「まだだ。二人ともこういう店に馴染みが無さすぎてな、織斑先生に任せることにした」

 

「私もそれほど馴染みがあるわけではないが、そういう事なら適当に注文するとしよう」

 

 後は織斑先生に任せて問題ないだろう……にしても俺がこういう店に来る日が来ようとは。

 全体的に落ち着いた雰囲気で個室の防音性も悪くない。織斑先生の時もそうだったが、今入ってきた店員の足音も隣の部屋の会話も聞こえない。強く叩けば聞こえる程度だろうか。

 良し悪しはよく分からんが酒も美味しくはあったし、これから来る料理も楽しみだ。

 

 織斑先生には感謝だな。良い店を知れた。

 後日轡木さんの好みと空いている日を聞いて、後は店側と相談していけば悪いようにはならんだろう。

 

「以上で。シャンパンだけ先に一本お願いします」

 

「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」

 

 注文を受け取った店員が出ていくのを見送り、ワイン瓶を少し持ち上げ織斑先生に見せてみるが、どうやら今は水でいいらしい。

 

「しかし束のやつ……ちゃんとした服も着れたんだな。ストーム的にはどっちが好みだ」

 

「甲乙つけがたい。いつもの服装も様にはなっていたが、今日のような装いも似合っていると思う。現にナンパをされていた」

 

「事件だな。死人は出なかったか?」

 

「物騒な……理解ある若者ですぐに退いてくれた」

 

「フッ、ストームに怯えたんじゃないか?」

 

「どちらかと言えば束さんの行動に引いていたな」

 

 あー……、と納得した声を漏らし苦笑い気味に俺を見てくる織斑先生が何に納得したのかは分からんが、その脳内で束さんが一体何をしているのか気になってくるな。

 

「時にストーム、昨日の合同訓練の時に思ったんだが、姉を手懐けた手腕にも驚いたというのに妹の方までどうやったんだ? 随分と太刀筋から卑屈さと迷いが抜けていた」

 

「大したことはしていない。話をして、体を動かしただけだ」

 

「つまり、ストームには人誑しの才能もあるということか。納得した」

 

「勘弁してくれ。口が過ぎないかと常に悩む小心者相手にそれは過大評価だ」

 

「意外だな。察しが悪い方でもないだろうに」

 

「察しがいい訳では無い。時間と経験にモノを言わせてやっとだ……だが、やらかしも多くてな。気をつけているつもりでもよく距離感を間違える」

 

 最初の頃は本当に大変だった。

 こちらからすれば食事の癖も知っている友人であっても、相手からすれば初対面。

 俺が知っている時間は相手の中には存在しないというのは、言葉を選ぶのに苦労したものだ。同じ相手に初めましてと言うのに慣れたのは、何回目だったか……。

 

「そういえば、前にも現役高校生との距離感が分からんと言っていたな」

 

「隊員としては経験があるんだが、学生としては無いに等しい。最近では、おしゃれなティーカップでも用意するべきかと悩むぐらいには迷走している」

 

「どんなのを考えているんだ」

 

「動物が描かれているような物が妥当かと考えている」

 

「本当に迷走しているな」

 

 鼻で笑われてしまったな……動物は違うか。やはりここは下手に考えるよりは、百円ショップのガラスのコップ辺りが正解か?

 正直、おしゃれなティーカップを買っても淹れるモノまで常備できる気がせん。間違いなく持て余す。

 ん……シャンパンが来たか。

 

「さて、食事が来る前に手洗いを済ませてくる」

 

「あぁ、飲みながら待っている」

 

 

 

◇◆

 

 

 

 店員と入れ替わりで出ていくストーム1を見送った織斑千冬は、最初の一杯を店員に注いでもらい、受け取ったボトルをテーブルに置く。

 そして気泡が踊るシャンパンを一口飲み、眼の前でうつ伏せになったまま動かない友人へと声をかけた。

 

「束、起きろ」

 

「んぁ……あ、ちーちゃんだぁ」

 

「よだれを拭け」

 

「おっと、おはずかしや~」

 

 織斑千冬に指摘され、取り出したハンカチで口元を拭きながら篠ノ之束は周囲を見渡しストーム1が居ないことに気付く。

 

「あれ? スーくんは?」

 

「お手洗いだ。食事がもうすぐ来るだろうから、先に済ませておくとな」

 

「なるほどなるほど。じゃあ今のうちに~……はい、これ」

 

 突然篠ノ之束が差し出したのは、ラッピングされた長方形の箱。

 それを訝しげな表情で受け取った織斑千冬が警戒しながら中を確認すると、シンプルながらも落ち着いた印象を受ける黒いレディース用のネクタイが入っていた。

 

「これは?」

 

「今日のお礼だよ。誘ってくれた事と、他にも色々とね! でもびっくりしたなぁ~、まさかちーちゃんからお誘いがあるとは束さんもビックリしたよ! 思わず嬉しすぎてちーちゃんの石膏像を作っちゃうぐらいにはね!!」

 

「私が次にシミュレーションをしに行くまでに壊しておけよ。残っていたら私が壊すが……まぁだが、これは受け取っておこう」

 

 壊せと言われぐぬぬと表情を変え、最新のスリーサイズを元にしているのに……などとぼやいている篠ノ之束を見ている織斑千冬は思う。

 連絡を取ろうとしなくなって長い時間が経ち、以前のままであればこうして誘う事もしなかっただろうと。同時にこうして友人と食事ができる状況を嬉しく思い、その変化を齎したストームには感謝がたえんなとも。

 

 そんな織斑千冬の脳裏に、ふと先程ストーム1が口にした"距離感"という言葉が出てきた。

 

「束、私とお前の距離感はどれぐらいなんだろうな」

 

「んー? 数字を用意して当てはめるなら、今はそうだなぁ……私からは百、ちーちゃんからは六十五ぐらいじゃない? いきなりどう――あぁ、スーくんがよく気にするもんね。他人との距離感」

 

「さっきもそんな話になってな。確かに大事な事だとは思うが、常に気にすることでもないだろうとも思うんだ」

 

「アレはもうスーくんの癖だと思うよ。何回も同じ人間と"はじめまして"を繰り返したり、中途半端に仲がいい状態の時にスーくんの時間の中にはすごく仲のいい時間があったり……一度だけじゃなくて何度も積み重なると、分からなくなるんじゃないかな。それっぽく一言でまとめるなら、スーくんは強烈な距離感のゲシュタルト崩壊を起こしてる。かな?」

 

「納得はしたが、私には理解できそうにはないな」

 

「私とちーちゃんには他人への興味と優しさが足りないね!」

 

 二人が数秒視線を交わし、くすりと笑いながらグラスに残っていた酒を口にすると同時にストーム1が個室に戻ってくる。

 篠ノ之束に「おはよう」と告げながら、向けられる二人分の視線から楽しそうな雰囲気を感じ取ったストーム1が席に座ると、誰が言うでもなくそれぞれがグラスに酒を注ぎ軽く持ち上げて一言。

 

「「「乾杯」」」

 

 特に会話をすることもなく穏やかな空気でグラスを空にした辺りで、そういえば……とストーム1は、食事が来るまでの時間つぶしに気になっていた事を聞くことにした。

 

「楽しそうにしていたが、一体どんな話をしていたのか聞いても?」

 

「スーくんの苦手なモノについて、ちーちゃんと熱くイチャイチャ語っていました!」

 

「俺の苦手なものか。それは興味深いな、意外と自分では分からんものだ。参考までに何が上がったか教えて欲しい」

 

「コレだなってハッキリしたのは、他人との距離感をはかることぐらいしか出なかったよ。スーくんの弱点を見つけたかったのに、束さんはとても残念です」

 

「なるほど、確かにそれは苦手だ……織斑先生からは?」

 

「束と同じだ。これといって上げられなかったよ」

 

 その返答を聞いて少し悩んだ素振りを見せたストーム1は、自分のグラスにワインを追加しながら昔の事を思い出し、同時に湧き上がってきた小さな好奇心に驚きつつも今回はその好奇心に従ってみるのも悪くない。と二人の顔を見る。

 

「情報提供というにはあまりにもくだらない事な上、弱点や苦手に関することかも言われれば怪しいが……実は先日、織斑先生に少し嘘をついた」

 

「ほぉ」

 

「なになに? ちーちゃん、どんな嘘つかれたの!」

 

「食べられないわけではないが、できることなら二度と食べたくないモノがある」

 

「おぉ、スーくんの好き嫌いかぁ。知っていて損はないね! クーちゃんにも教えてあげたい情報だ」

 

「確かに興味深い。次に食事に誘う時の参考になりそうだな」

 

 二人の反応が良いことに笑いそうになったストーム1だったが、記憶から呼び起こされた爽やかスマイルの学者と、学者が実験と言い切り用意した料理の味を思い出し表情は渋くなり――

 

 

「蟻と蜘蛛……アレは度し難い味がする」

 

「は?」「うわぁ……」

 

 

 ――二人はドン引きした。





もちろん巨大生物の方です。
そして、食事前にそれはちょっと……と二人からお叱りを受けました。


爽やか学者の台詞集。
「ストーム1、巨大生物共のサンプルが欲しいから数体散らして捕獲部隊に交戦させてくれ。お礼はする」
「ありがとうストーム1。これは実験成果だ! 人体に害だけはない!」
「ふむ、ストーム1でもダメならダメだな」

なんて事もありました。



次辺りでラウラとシャルも登場ですかね。たぶん。



誤字脱字報告、感想等々ありがとうございます。
亀更新ですが今年もお付き合いいただければ幸いです。
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